ふじたんの観てきた!クチコミ一覧

181-200件 / 278件中
NEWSエンターテインメント12th★FESTIVAL

NEWSエンターテインメント12th★FESTIVAL

NEWSエンターテインメント

埼玉会館(埼玉県)

2013/05/05 (日) ~ 2013/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★★

『なつきとおばけくぬ ぎ』
彩の国さいたま芸術劇場まで,行って来た。そ こで,NEWS自主公演を観た。第一部は,残念 ながら8番からだった。『なつきとおばけくぬ ぎ』は,とてもおもしろかった。

ヒロインの家には,近くに巨木があった。戦後 一度焼け焦げたこともあって,老木は痛みが激 しい。土地は既に不動産会社に買収された。や がて,老人介護の施設になるらしい。あの見苦 しい木が亡くなるのは,それはそれで時代なの だから良い。でも,街には,お化けのような老 木に愛着を持って,それを残そうとする連中が いた。いずれにせよ,あたしには関係もない。 つまらない人生を,なんとなく生きていく。わ たしは,それでいいんだ。

老木の秘めたパワーで,主人公は,母と祖母の 子ども時代にワープする。母の時代は,テレビ が全盛となり,ドリフターズ『全員集合』と か,タケチャンマンなどがはやっていた。その 世界は楽し気だったが,早く元の世界に戻りた い。あの老木に何か秘密があるようだ。次に ワープしたのは,終戦間近の時代で,どうやら おばあちゃんがそこで生きていた。とても恐ろ しい世界で,兵隊さんがやたらいばっていた。 食べ物だって,ひどい有様だ。毒ガスを作り, アメリカ人を殺すことが「正義」だと教えられ て,なつきは愕然とする。

なんとか過去から,戻ることができたなつきは 世界観が一変してしまった。あの戦時日本とい うのは何とクレージーな場所であったか。なつ きは,社会の教員となって,子供たちに真実を 伝えることにする。

この自主公演のレベルはとても高い。内容がい つもわかりやすい。そして感動的であるが, ユーモアもあってあきることがない。昨年のも のは,海外旅行に出かける一家が,お母さんの 不注意から長女に残酷な後遺症をもたらす。こ れが契機で,留守番をしていた妹も含め家族崩 壊に向かう。しかし,病院にいくと,メーテル リンク『青い鳥』さながらに,病気を抱えうつ うつと生きている子供たちもたくさんいたの だ。

セリフは,99%覚えている。大人の演劇でも, たくさんかむ人がいるが凄く練習していると感 じた。テレビなどで役があれば,いつでも出演 できるように待機要員みたいなこともできるひ とたちなのかもしれない。良い意味でも,悪い 意味でも,基本に忠実なのだろう。

虚像の礎

虚像の礎

TRASHMASTERS

座・高円寺1(東京都)

2014/03/06 (木) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

心の問題に深く拘泥していく作家
座・高円寺1,で『虚像の礎:Foundation of Virtual』をやっていた。上京したついでに演劇を観ることが多い。CoRichのTopになっていた本作品は,事前調査ではとにかく難しそうであった。高円寺座というところも,初めてだった。ここは,外観もホールの中もおしゃれな場所だ。実際舞台ステージの,配置もなんとなく雰囲気があって期待大だ。作品内容がやや高尚なせいか,観客席はさほど埋まっていない。当日券でも,席は確保できた。

始まってからしばらくの印象は,この作品は何かに似ている。おそらく,俳優座で観たサルトルの『汚れた手』ではないか,と思った。勿論,全体は全くちがうものだ。政治的対立がテーマの一つであるということ。さらに,正義とか,真理とかいうものは,時間がたってみると結構意味を失う。だから,当初,ある種の価値観を決めつけると,たいへんな間違いをすることがある,といったような教訓を扱っていると思うからだ。

この作品では,何度か,社会が進み過ぎ,人間はそれについていけないと言う。病気と指摘されたものでも,社会全体の歪みが原因なものについて,われわれはどうすると良いのだろう。ただ,精神を安定させる薬を飲ませるばかりで良いのだろうか。演劇の,演劇たる役割の一つは,心についての優れた洞察がある。音楽や,絵画などの芸術ほど,国家も予算をくれないかもしれないが,効率の悪い演劇活動は大事なものなのだ。

たとえば,心の問題に深く拘泥していく作家は,男女間の痴話喧嘩も表面的には捉えない。確かに,愛し合った男女の間で,男性が女性に暴力を振るうようになっていくと,男性の凶暴さばかり非難されて,二人はもはや引き離すことが唯一の解決となる。しかし,これを,演劇家が観察すると,女性側は,そのような暴力的な環境に自分の場所を依存しているような感じでもあり,その場合,女性は隔離されると,精神的に死んでしまう!

さて,魅力的だったのは,大がかりに作られた二階ステージである。うさんくさい政治家は,この場所で,演劇家に予算をつけることを渋っている。彼は,けちな男で,秘書に不倫疑惑を押し付けていた。そのために,秘書は,してもいない不倫の責めを受けて,妻からヒステリーな攻撃を受ける。冒頭で,男は,不倫をするものだ。まったく罪のない女性を苦しめるだけで,意味もない!というシーンは,実は,前提がガセネタであったのだ。

弱い立場の民族家は,いつもだまされ,うまく丸めこまれた。歴史的にも,もめごとは,連中によって持ち込まれた。だから,反発はある。しかし,どのように抵抗しても,自分たちの立場は劣悪になるばかりだ。いつか,民衆の不満は爆発するだろう。実際,政治家たちが,何も起こりません!と訴える中,遠方で,爆撃の況音が響きわたって幕となる。想像力を鍛える,それは,演劇では可能であろう。真実が見えやすくなるのだと。

わが家~darling! darling!~

わが家~darling! darling!~

虹創旅団

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★

がんばれ!
阿佐ヶ谷で,『わが家』を観た。この劇団は,サロメや,賢治のあと,星に願い,と三作観たことがあった。メンバーは,いつもほとんど同じでやや親しみを覚える。劇場も毎回同じだから迷わない。少し路地に入り混んで,猥雑なビルの地下でやっている。

今回の『わが家』は,クリスマス・キャロルと似ていた。つまり,過去の世界に舞い戻って,ある男が,子ども時代を送り,恋愛し,破れ,別の人と「家族」を作り,最後破たんして死んでいく。そのような視点だ。もっとも,クリスマス・キャロルは非婚だったが。

ちょっと盛り上がったのは,ダンスだった。その昔,私の子どもの頃,ジョン・トラボルタが世界中にはやらせたスタイルがあった。指さきを天に向けて,腰をひねって,かっこつけていたものが印象的だった。過去の世界は,まさにトラボルタの時代だった。

演劇は,ミュージカルとちがって,結構難しい。歌って踊って,なんとなく楽しむのが,多くのミュージカルではあったが,演劇=ストレート・プレイって,基本中の基本だとは思うが,何を言っているか,良くわからないことも多い。

その点,この劇団の内容は,比較的わかり易い。まだ荒削りな部分もあるが,意欲的なテーマばかりだし,いつも感動的だ。歴史は浅く,五公演しかやっていない。二回めから観劇している。なんとなく観て来たが,そのような観劇もあって良いだろう。

TOP STAR・お星さまの恋

TOP STAR・お星さまの恋

虹創旅団

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/12/19 (木) ~ 2013/12/23 (月)公演終了

満足度★★★

星に願い
スラム街には,可愛い黒人のティアラがいた。その可憐で,愛くるしさに悩殺されて,一番星は理性を失っている。ティアラには,病弱な父親がいる。星に願いのメロディーが流れる。父親思いのティアラをクリスマスのディナーに招待して,一夜の夢を満喫させてあげるのだ。食べたことのないごちそうが,次から次に出て来る。ティアラは夢の中で,なんと幸せなことだったのだろう。

しかし,夢から醒めたティアラには,酷い現実が待っていた。そこに,マフィアに追われる少年が逃げ込む。これを縁に,ティアラは少年と恋に落ちた。少年は,ティアラの父親のために,誕生ケーキを届けようとするが,運悪く,彼はマフィアの手に落ちる。狂ったように雨の中,少年を探すティアラは肺炎になってしまう。これはたいへんと,人の好い一番星は,自分の人生を犠牲にして,恋しいティアラの命を救おうとするのだ。

どん底JAPAN1953

どん底JAPAN1953

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2013/12/11 (水) ~ 2013/12/15 (日)公演終了

満足度★★★

池袋シアター・グリーンは,懐かしい場所だ。
池袋シアター・グリーンは,懐かしい場所だ。そこで,夢中になった演劇が,とりあえず多くの観劇を引き起こしたからだ。

ゴーリキの『どん底』は,原作を読んでとても暗い。演劇史の中では,群を抜いて有名なのだが,是非一度は観ておきたいと思いながらチャンスがなかった。

舞台を敗戦後の日本に移していた。その点ではなんとなく入りやすかった。姉には夫がいるがうまくいっていない。愛人がいて,自分の妹を与えて,夫殺害を依頼する。

ゴーリキの作品は,チェーホフの影響を受けていて,確かに「行動」らしきものがない。貧乏長屋で酒をダラダラ飲んでいる。酒をやめたという,元俳優の姿が見えないと思うと,裏の小枝で首を吊っていた。なんだか哀しいお話だった。

会場はほぼ満席。私もかろうじて,当日券を獲得できた。原作に深く共感し,人生の悲哀を感じる。そういう人たちが結構いるということなのだろうか。

幕末純情伝

幕末純情伝

Gフォース

Gフォース アトリエ(東京都)

2013/12/04 (水) ~ 2013/12/11 (水)公演終了

満足度★★★★

良い演劇を観られた。
つか作品は,とても良い演劇の窓口かもしれない。今回は,浅草で『幕末純情伝』を観た。

『蒲田行進曲』の中では,大部屋で一生うだつの上がらぬ底辺役者の苦しみが見えた。次の『飛龍伝』では,中卒自衛官の苦悩がわかった。『二代目はクリスチャン』では,荒んだ家庭に生まれたがゆえに,犯罪に進んだ連中の悲哀が理解された。

では,『幕末純情伝』には,何が感じられただろうか。どちらかというと,勝と,龍馬と,沖田の話であったが,そこには,やはり日野の百姓たちの世界が見えた。主人公の沖田は,なぜか女性だったが,彼女をさて,日野に連れていったらどうか?という話になる。しかし,日野の田舎もそんなに甘くはない。病人は忌み嫌われるだろう。さらに,育ての母親殺しがばれたら,村になんかいられないさ。このあたりの会話は,田舎というものの閉鎖性を良く表現していると思った。

つかの作品には,いつも弱者・底辺で生きるものの生の声が人の心を打つ。私は,そのあたりが凄いと思う。今回も,若手を中心とした役者によって,見事に演じられていたように思われた。良い演劇を観られた。劇場は,雑居ビルの倉庫的な場所で,お世辞にもいい環境ではなかった。役者が舞うと,腰かけにまでびりびりと響いた。

『リズミックタウン』

『リズミックタウン』

Zero Project

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/11/20 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

Zero Projectミュージカル『リズミックタウン』を二度鑑賞しました!
Zero Projectミュージカル『リズミックタウン』を二度鑑賞しました!

ダボは,若い時魅力的な革命家だったが,貧しさゆえに,妻を死なせ子どもを施設に預けてしまった。病気の妻を救おうとして,ドロボーまでしてしまったのに。このことを隠して生きるダボは,犯罪のない街・リズミックタウンでサンタをやっていた。施設に預けた娘リンは,結婚し,離婚したものの気丈にも,女手ひとつでダボの孫にあたるメイを育てている。彼らの生活を,遠くから見守るダボは,一方でいつ過去の事件が暴かれ,刑務所ゆきになるか毎日不安でならない。

リズミックタウンは,二度観た。一度めでは,刑事が30年前の窃盗事件をなぜかようにネチっこくダボに話して聞かせるのかピンとこなかった。そのために,演劇の流れがつまらなく感じた。ところが,ストーリーが完全にわかると,この刑事とダボのシーンが,もの凄く重要であることに気が付く。ダボは,刑事に過去を暴露されると,大切な子どもたちとのクリスマスができなくなるのだから。そのようにして,ダボ役を観察すると,確かに下條アトムの表情はひどく歪んでいたのだ。

ハンスとカーナは,些細なことで,離婚の危機だ。彼らには,明るくやんちゃなテールがいる。妻が思うには,ハンスは,とんでもないマザコンだ。夫が思うには,妻こそが,テールをマザコンにしようとしている。彼らは,結局,テールが二人をさばき,その声に反応し,離婚を思いとどまったようだ。病気から,回復した一人息子を囲んで,ハンスとカーナの歌うクリスマス・ソングは,心打つ。とても良くアンサンブルしている。この家族愛の復活を,妖精たちは祝福し,全員で大きなうねりとなる。会場全体が,美しい歌声に満ちて素晴らしい演出だった。

リンと娘メイは,このストーリーの主役だ。メイは,どこか母リンに冷たい。実際に彼女を育てたのは,自分たちを理由はなんであれ捨てていった父親ではない。しかし,そのことをあまり非難せず,娘メイは,父親の胸に飛び込んでいった。このあたりは,実際そういうものかもしれないが,私は,母リンに深く同情する。

もう一度繰り返すと,最初に,下條アトム演じるダボの苦悩に共感した。次に,多少安易に夫婦ケンカがおさまり過ぎたとはいえ,そこで到達したシーンは,非常に美しくできていた。おそらく,ちいさな子どもたちが,あれほどの数で熱唱しているのが人々の心に響いたからであろう。最後に,姿月あさと・リンの歌唱力が,ミュージカル全体を引き締めていた。メイもがんばっていたが,ちらちらとそこにからむピース役が,結構光っていた。いずれにせよ,思いのほか良作であった。クリスマス・キャロル,素晴らしき哉人生,とかと並ぶ傑作だった。

『1300海里の彼方~えにしの氷川丸~』

『1300海里の彼方~えにしの氷川丸~』

方の会

銀座みゆき館劇場(東京都)

2013/10/10 (木) ~ 2013/10/14 (月)公演終了

満足度★★★★

市川夏江の子役をやった「前田優奈」の熱演が光りましたね。
戦争している場合は,なんでもありの状況にちがいない。定員の四倍が乗船する氷川丸は,まちがっても積載してはいけない物品を持ち込まれそうになる。水晶を運んでくれ!いいじゃないか,わかりゃしない。冗談じゃない,軍事目的に民間船が利用されたら,敵の攻撃目標に必ずなる。氷川丸という船は,最後まで奇跡的に沈没しなかった珍しい例である。この歴史的に有名な船が,なんとか多くの人命を救った。そのような感動的な話だ。

夏江は良い子どもで,兵隊さんのおかげです!を上手に歌う。そのような子どもにも,日本の戦局が悪化して,なんとなく居心地も悪い。だから,捕虜につばを投げても許される。日本人の大人もやっている。そう思っていたが,ひどく叱られた。平和な時代なら,みんなお友達なのよ・・・そういう意見も分からないわけではない。しかし,夏江自身は,帰国途上の船上で,敵に射撃される。油断大敵なのだ。

夏江には妹がいた。彼女が,とても可愛らしい。この子を連れて,横浜まで歩いて歩いて戻るが,彼女の記憶では,ほどなく妹は病気になって死んでしまった。もう,二度と一緒に遊ぶこともできない。市川夏江の子役をやった「前田優奈」の熱演が光りましたね。

氷川丸は,日本郵船が昭和5年に竣工させた中型貨客船。海上人命安全国際条約の基準を先取りし,一流シェフも同乗するという,当時最先端の良船であった。動力は,ディーゼル機関である。昭和5年に,太平洋を横断し処女航海に成功し,シアトル市民から大歓迎を受ける。帰国して,横浜・神戸・門司をまわった。昭和7年には,チャップリンが,昭和12年ジョージ6世戴冠式帰りの秩父宮も乗船した。

昭和16年8月,シアトル航路は閉鎖される。在米日本人を乗せて,帰国する。日本海軍では,病院船として,船体は白色になり,緑の帯,赤十字のマークがついた。似たようなタイプの病院船が相継いで沈没する中,奇跡的に終戦まで航行することになる。

昭和25年から,昭和35年までは,北太平洋を238回も横断,延べ25,000人の乗客を運んだ。その後,山下公園に係留される。船体はブルー,ブラックと塗り替えられた。平成18年氷川丸マリンタワーは,解散する。平成20年から,一般公開されている。

氷川丸の長い歴史の中で,このような場面があったということが理解される。もうみなが忘れ始めているが,決して忘れてはいけない日本史の出来事である。

二代目はクリスチャン

二代目はクリスチャン

★☆北区AKT STAGE

シアターサンモール(東京都)

2013/09/26 (木) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★

シスターが踊るダンスが非常におもしろかった。
つかこうへい:笑いと毒の彼方へ(元徳喜)では,シナリオが特に優れているのが,『二代目はクリスチャン』だ。教会で静かに神に仕えるクリスチャンが,暴力団の二代目を襲名する。日本には,クリスチャンの数は少ない。非日本国籍の在日コリアンの数と同じだ。

神戸は,欧米宣教師が特に布教活動を熱心にした場所である。修道女の今日子は,魅力的でこの演劇の核になる。今日子は,英二が大好きだ。ほかにも,刑事の猪熊も狙っている。組では,神竜ほか子分もメロメロだ。

『蒲田行進曲』では,児童劇団時代から演劇を志す一組のペアに,大部屋のさえない男が絡んで来る。『飛龍伝』では,神林美智子が上流階級の人に思えても実は生まれに影があり,送り込まれた機動隊の男と,子どもを作ってしまう。

今回の『二代目はクリスチャン』は,新宿シアターサンモールで,三組のチームで競演していた。『蒲田行進曲』『飛龍伝』と似ている点は,社会の底辺でもがく人間の姿,激しい情熱がぶつかるところだったと思う。

シスターが踊るダンスが非常におもしろかった。シスターが,やくざの抗争で追われた男をかくまう。シスターは,清純で美しかったので,子分は残らずキリスト教に入信する。しかし,本来やくざは,命をかけてケンカをしているので,ちぐはぐな設定。

それでも,シスターは,猛烈に恋に生きる。そして,最後は,たいへんな立ち回りがある。いつ入れたか,シスターには,龍かなんかの彫り物が見えた。もの凄い啖呵を切る。神戸の街には,台風が来る。しかし,その台風の土嚢に抗争の死骸はなっていく・・・

グスコーブドリの伝記

グスコーブドリの伝記

虹創旅団

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/09/19 (木) ~ 2013/09/23 (月)公演終了

満足度★★★★

確かによく出来ていた。
阿佐ヶ谷で『グスコーブドリの伝記』を観た。この場所では,同じ劇団で『サロメ』をやっていた。今回は,宮沢賢治の世界となった。『セロ弾きのゴーシュ』とは違う雰囲気を感じられるだろうか。全体としては,『ゴーシュ』の方が簡潔ですっきりしていた。とはいえ,『グスコーブドリ』の童話もなかなか渋い。楽しい演劇をまた一つ観ることができた。この日は,賢治の命日でもあったせいか,劇団としては一番多い客の入りだったようだ。確かによく出来ていたと思う。

ブドリとネリの子ども時代に,何度も飢饉は来た。そのために,両親は生きる希望を捨ててしまう。残された妹のネリは,人さらいに会ってしまう。あとで,このネリは,なんとか幸せを獲得し,兄のブドリと再会を果たす。しかし,もう一度たいへんな飢饉が来た。火山局で人工の雨を降らせる技術を研究していたブドリは,未完成の火山爆発を引き起こしそこで村の危機を救う。しかし,逃げ遅れて,ブドリは死んでしまうのだ。

舞台劇「セロ弾きのゴーシュ」

舞台劇「セロ弾きのゴーシュ」

ゴーシュ・アクティング・パーティ G.A.P.

ミュージックスタジオ・フォルテ(東京都)

2013/08/31 (土) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

猫は,なぜか,ドイツの作曲家ロベルト・シューマン(1810-1856)の名
演劇『セロ弾きのゴーシュ』では,猫は,なぜか,ドイツの作曲家ロベルト・シューマン(1810-1856)の名をあげている。宮沢賢治は,この曲が大好きだったのだろうか。宮沢賢治は,セロも実際試みたが,さほど上達はしなかったとのことだ。楽団は,第六交響曲をやろうとしていた。これは,どうも,ベートーヴェン『田園』である。どちらも,たいへん美しい名曲である。ドイツでできた,こういう曲は,今でも世界中で愛されている。

明治期に,ドイツのかくのごとき格調高い交響曲やら,器楽曲をどのようなホールで,演奏し,喝采を浴びたのか,『セロ弾きのゴーシュ』でなんとなくわかる。全神経を集中し,粛々と聴くべき音楽と,楽しみを目的とする娯楽としての音楽がある,と誰もが理解した。しかし,ドイツの人たちが,ある時期そのような厳格な作法を確立し,外国(日本)に音楽を輸出する際,そのマナーまでセットで送り込んだだけで,西欧では特殊だったとのこと。

それは,どういうことかというと,ドイツ人には,歴史的に専制君主国で自由がないという憤懣が満ちていたらしい。そのために,せめて,音楽において,内面的に,現実逃避したい,と音楽家たちは思った。そこでは,なぜか,言葉とか,文学性を離れた,交響曲やら,器楽曲が発達する。声楽を回避する。さらに,オペラそのものも,「貴賓席」重点のホールでやっていて,魅力に欠けた。

エドゥアルト・ハンスリック(1825-1904)という人は,音楽は,音楽でしかない。交響曲で,「英雄」を意味させるのは,良くない。絶対的なものとしての,音楽を追求すべきであると考えた。しかし,起源的にも,音楽は,詩や,ドラマと切っても切れない。声楽が回避されたというが,ベートーヴェンの第九には,合唱があるではないか。音楽に生命力を与えるものまで全て否定するなんてバカ,ということで,ヴァーグナーが,改革に向かう。

で,『セロ弾きのゴーシュ』を書いた宮沢賢治は,非常に面白い童話を,死ぬまで何度も推敲し,登場人物(動物)も入れ替え,現在の作品を残している。童話の楽団は,『セロ弾きのゴーシュ』を頂点に,結束し,さっそうと名門オーケストラへと躍進していくだろう。『インドの虎刈り』というのは,即興曲のようなものなのだろうか。宮沢賢治は,この童話に,どのような意図を秘めて死んでいったのか。しかし,何度見てもおもしろい演劇だった。

参考文献:舞台芸術への招待(放送大学)

舞台劇「セロ弾きのゴーシュ」

舞台劇「セロ弾きのゴーシュ」

ゴーシュ・アクティング・パーティ G.A.P.

ミュージックスタジオ・フォルテ(東京都)

2013/08/31 (土) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

いつも心にカレンちゃん。
素敵なねこでした。

また,作品がムダがなくひきしまっていました。

演劇『セロ弾きのゴーシュ』は,とても調和の取れた演劇です。まず,全員が楽団の役で,トランペットなどを吹くさまを演じます。怖いのは,楽長です,でも,楽団員役の子どもたちは,泣き出したりしません。じっと,その指示を待っています。いざ,ゴーシュを応援しようと決まると,動物のマネをして,ゴーシュを励まそうとするのです。楽団員の物まねの動物なら,ゴーシュは見抜くにちがいないのですが,実際の動物は,とってもリアルなのです。たとえば,何度もドアを破ろうとして,血だらけになるかっこうなど。

狸もほのぼのとして良かったのですが,やっぱり,野鼠がすごい。言葉が,ていねいであり,実感がこもっている。子どもの演技とは思えないくらい,ぐっと来た。そこで,人形劇的に子ねずみがいる。しかし,その分身として,本物の子どもも子ねずみを演じている。たいへん工夫してあって,感動した。自分は,最初の,猫役が,なんとも愛くるしくて瞼に焼き付いてしまった。ゴーシュの後ろに回って,親しげに語る様子もとても面白かった。この演劇『セロ弾きのゴーシュ』は,小時間なのだが,ミスがない,すきがない。

すると,猫は,肩をまるくして,目をすぼめてはいましたが,口の当たりでにやにやわらって云いました。
「先生,そうお怒りになっちゃ,おからだにさわります。それより,シューマンのトロイメライをひいてごらんなさい。きいてあげますから。」
「トロイメライ,ロマンチック,シューマン作曲」
「先生もうたくさんです。後生ですから,やめてください。」
しまいには,猫は,まるで風車のようにぐるぐるぐるぐるゴーシュを回りました。

芸能円遊会

芸能円遊会

柏健康センター

柏健康センター(千葉県)

2013/08/31 (土) ~ 2013/08/31 (土)公演終了

満足度★★★

石橋三姉妹がんばっていました。
楽しい企画でした。お弁当の配布が,少し停滞して,もめていましたが。

イベント 飛龍伝感謝祭など

イベント 飛龍伝感謝祭など

COTA-rs

劇場MOMO(東京都)

2013/08/30 (金) ~ 2013/08/31 (土)公演終了

満足度★★★★

あなたの戯曲で演じるのは難しいわ・・・ほとんど行動がないんだもの。私はかもめ。
あなたの戯曲で演じるのは難しいわ・・・ほとんど行動がないんだもの。私はかもめ。

飛龍伝は,非常におもしろかった。まだ,いろいろな疑問点はあるが,つかこうへいの世界に一歩だけ進めたかもしれない。

今回,劇場MOMO(中野)では,ほんのささやかな感謝祭が行われていた。アフター・トークですら,あまり参加しなかったので,このような企画で本当のところ,何か得られるのだろうか。実際,飛び込んでみたら,観客もまばらだった。しかし,これが,意外とおもしろかった。演劇では,即興劇というのがあるらしいが,それが,どのようなものか,体験していない。今回,劇場MOMOで,行われたものが,本当の即興劇に該当するのかわからない。しかし,その片鱗は理解できた。

つかこうへいの「飛龍伝」には,名場面はいくつかあった。そこで,場面を任意に選ぶことにする。参加者は,自分の台詞を提案する。これは,何でもいいらしい。まちがって,舞台ができにくいようなものでも構わない。早口言葉でもいいだろうし,AKBやら,ホームラン競争の話題でも,いい。あまり長いと敬遠される。直前に,少しだけメンバーに打ち合わせをさせた。あとは,なりゆきで,舞台を作る。舞台そでで,演出家は,お題がすべて完全に消化されたかチェックする。さらに,舞台全体が上手にできたか,となる。

即興で芝居を,役者たちにまかせる。さらに,お題は,観客からに気まぐれなメモ。となると,本当のところ,このような訓練・実験は,つまるところどういう意味があるのか。舞台において,度胸がつき,アドリブも交えて切り抜ける訓練になるかもしれない。ただ,どのような広がりを役者のもたらすものか,少し考えてしまう。しかし,実演されたものを見ると,おもしろいものが多かった。舞台一般にある,風習みたいなものかもしれない。私のお題も,なんとなく収まった。私は,かもめでしめてくれた。すごい,かもめ!


そもそも,どうして,飛龍伝なの。なんのこと,飛龍!って,どこから来てるのかしら・・・それは,投石の逸話から。

闘争博物館の場面
山形第一高校の修学旅行の生徒の会話

でも,“飛龍”があの人に投げてもらいたがっているんです。
全学連とは,機動隊とは,・・・
憲法第九条では,もう戦争しないはず,なのに,「安保」とは,何を意味するのか。

“飛龍”だ。あの石だ。父さん,“飛龍”ですよ。
“飛龍”が父さんに,もう一度投げてもらいたいって泣いているんですよ。
その手から,放たれ,光の尾を曳きながら,うなりをあげて一直線に機動隊の楯を打ち砕いてゆく,“飛龍”の勇姿を。

(中学三年生用童話 飛龍伝から,一部抜粋)

東京周辺には,相模大野と,上石神井に,良質の採石場があった。
上石神井駅では,枕木を支える石は硬い。機動隊の楯に当たっても負けない。
比較的重量が軽く,投げやすいと,女性闘士や,デモ初心者に好まれた。
より硬く,より軽く,より遠くに飛ぶ石を。
“飛龍”には,性別があって,メスだった・・・
それが,新事実なのですか?
もうすぐ,陽が落ちる。それまで,持ち答えるんだ。そうすれば,そうすれば,あの石さえ飛べば。
機動隊の奴らは,この石を“飛龍”って呼んで怯えていたものさ。“飛龍”が舞う。
ジュラルミンに当たると,パーッ,抜け目なく火花を散らす。

(初級革命講座 飛龍伝 小説 つかこうへい,トレンドシェア)

「シュガー2~いくつものツバサ~」

「シュガー2~いくつものツバサ~」

ジョーズカンパニー

相鉄本多劇場(神奈川県)

2013/08/16 (金) ~ 2013/08/26 (月)公演終了

満足度★★★★

いつもながらに,ダンスが圧巻だった。
『シュガー2:いくつものつばさ』

ミュージカルカンパニーであるジョーズカンパニーとは,舞台制作を目的に法人として1995年に設立されたものだ。俳優・演出家の桝川譲治が主宰している。子供が主役のファミリーミュージカル作品を多く制作している。

『シュガー:空色のプールサイド』『フラッパーズ:私たちにできること』は,下北沢の劇「小劇場」・小劇場「楽園」でやっていた。どちらかと言うと,内容よりも,下北沢の本多劇場Gを体験したかったのが,きっかけだった。『シュガー2:いくつものつばさ』は,横浜「相鉄本多劇場」でやっていて,その場所は,駅からさほど遠くはなかった。

水泳部で予選会があり,有望であった選手が直前で水着を紛失してしまい失格になる。選手は,ライバルが勝ち上がったのを見て怒り出す。ライバルが水着を盗んだ犯人に違いない,と言い立てる。真相は,選手の自作自演であった。つまり,水着は盗まれたのでなかった。ライバルのバッグへ押し込み,無実の罪に陥れようとしたのは,選手本人だった。

桝川譲治が,三年ぶりに,俳優として出演していた。彼は,写真家としての設定であった。戦場カメラマンです,と自己紹介しておきながら,戦場は,船の上のせんじょうですとか,戦場でなくて,お風呂の洗浄です,とかぼけていた。しかし,子どもたちに,思いっきり笑って見てください!とか,劇中で演技指導していた。驚いた。

演技も今回は素晴らしかったが,いつもながらに,ダンスが圧巻だった。もともとダンスが上手なメンバーを集めているのだろう。台詞になると,まだ少し慣れていないと思うメンバーもかなりノッテ踊っていた。ダンスの基本ポーズも,ある程度かたちがあって,数年やっていると何でもできるようになるのかもしれない。楽しかった。

ミュージカル「最後の真珠」

ミュージカル「最後の真珠」

ミュージカルスクエア

イマジンミュージカルスタジオ(東京都)

2013/08/23 (金) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

アンデルセンのいわんとすること。
アンデルセンの『最後の真珠』

三鷹にある子どもミュージカル教室のイマジンは,この夏,アンデルセンの『最後の真珠』をやっていた。この作品は,無名で,探してみたものの,やっと全集2の中に発見し,それが,非常に短いものであることに気がついた。

アンデルセンのいわんとすることは,財産やら,健康なんてものがあっても,人間には,もっともっと大事なものがあるんだよ。という,メッセージだろう。それは,意外と,悲しみの感情であり,悲惨な体験,というものだったりする。

アンデルセンは,まさにキリスト教の国の人であり,聖書の世界がその思想のバックにある。聖書では,人は,悲しみに会うと,かえってしあわせなんだという。悲しみに会うと,その時,主に,神様に近くなる。悲しみが深くなるほど,神様に近づくのだ。

人生において,悲しみなど少ない方がいい。悲しみが深くなり,心配ごとが多いと,山本太郎みたいに,十円はげになってしまうかもしれない。だから,悲しみは,あって欲しくないけど,悲しいことがある時,人生って,なんのためにあるのか,と思うもの。

劇中,おもしろかったのは,怒りの妖精たちだ。アンデルセンの原作には,ないが,怒りとの付き合い方で,人は結構しあわせになれる。やたら,怒ればいいってものじゃないさ。怒りの場で,水戸黄門みたいに,がはは!と笑える人はなかなかいないだろうが。

ことばの遊びもおもしろかった。ナイツが,言葉をことごとく聴きまちがって笑いを取っているが,今回は,守護霊の名前をみんなで意図的に何度もいいまちがっていた。笑いというのは,少ししつこくやると,臨界点に達して爆発するものなのだろう。

全体としては,しっとりといい感じで,まとまっていた。昨年は,大木の精霊が非常に美しくて感動したが,スーパー母さんの存在が目立ってうとましくもあった。今回は,途中で出てきたバレリーナがかわいく,そのほかのダンスも素敵だった。

イマジンは,『天使といた時』『オリバー・ツイスト』という懐かしいミュージカルがあり,『満天の星空』なんかにも,一部参戦していたが,基本的に,地味なローカルな発表会的団体だ。でも,取り上げる作品は,文学作品ばかりで,大好きだ。また,最後に定番で,子どもの方がいい!という歌も楽しい。また,いつの日か。

最後の真珠

最後の真珠

ミュージカルスクエア

イマジンミュージカルスタジオ(東京都)

2013/08/23 (金) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

悲しみの真珠,それが,最後の真珠だよ
母親の胸に抱かれる幼子,そして,その子を一生見守る善良なる妖精たちの話。
妖精たちは,それぞれが,一つずつ贈り物を,子どもに与える。さて,今そろっているのは,健康・財産・幸福・愛を持っている妖精たち。あと一人が不在なのだ。
家を守る守護霊,子どもの守護霊が,説明するのは,花輪をちゃんと作りあげたいのに,妖精たちは,一カ所にじっとしていない・・・のだと言う。
おや,母親が亡くなり,父親と残された子どもたちがいる家庭にワープした。そこには,一番大事な,悲しみの妖精がいた。燃えるような熱い涙のしずく,涙は真珠となり,虹色に輝く。これが,悲しみの真珠。この真珠があるがゆえに,ほかの,健康・財産・幸福・愛などの真珠が輝くのだ。

キリスト教思想では,悲しむべきことがある時こそ,主に近づける。その悲しみが深いほど,主に接近できる,と考えるのですね。確かに,一般的にも,悲しい体験はあまりしたくないものですが,そのようなときこそ,人生が深いものになる。また,他の人に優しくなれるような気がします。

参考文献:アンデルセン童話全集II(西村書店)

ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!

ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!

おぼんろ

d-倉庫(東京都)

2013/05/29 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

『ビョードロ:月色の森で抱きよせて』から,暑中見舞いが来ていた。
『ビョードロ:月色の森で抱きよせて』から,暑中見舞いが来ていた。出演者全員の添え書きもあった。そういえば,楽しい公演が目に浮かぶ。彼らは,シアター・コクーンをめざしている。とはいえ,私の見た公演は,日暮里d倉庫だからできたような性格がある。そのために,もう少し広く,おしゃれな場所でどういった演劇をやろうというのか心配になる。だが,彼らのチームワークは素晴らしい。きっと,別の演劇で,さらに飛躍してくれるのではないだろうか。

『ビョードロ:月色の森で抱きよせて』は,とても良い演劇だと思う。言葉をあまりしつこく使わない。ために,美しく,感動的な場面が多い。これは,ある種の現代バレエと似ているかもしれない。言葉で何かを伝えることはあるが,もしかして,最終的には,言葉はいらないかもしれない。心と心が伝われば,それでいいのだ。最近,私は,ずっとそんなことを思っている。あまりに言葉で言い立てるのは,好きではない。

『ビョードロ』は,ごみためのような場所で,始まる。最初は,コントなのか,思い出話なのか,よくわからない。不思議な演劇だ。だから,ぼーと見ていると,観客席の間をこれでもか,と役者が飛びまわる。すごい!これは,何かのショーだ。と,思っていると,どうやら,少しずつ童話が展開しているのに気がつく。で,最後は,全員で,涙ぼろぼろになって,涙ぐんでいる。一体何があったのだろうか。

『ビョードロ』に悩殺された観客は多かったようだ。その魅力は,薄暗い空間に,素朴だが,何か意味がありそうな物語が観客をとらえることにある。ある種の,集団催眠にかかってしまう。でも,それは,それでありかと思う。主人公のジョウキゲンは,今でも,演劇の魂だと思う。演劇は,人びとを誘惑し,細菌兵器にもひとしい。しかし,演劇は,きっと人びとにとって,なくなってしまえば良いものでもないのだろう。

ジゼル

ジゼル

萌木の村

萌木の村特設野外劇場(山梨県)

2013/07/30 (火) ~ 2013/08/10 (土)公演終了

満足度★★★★

『ジゼル』の名手,アンナ・パヴロワ,オリガ・スペシフツェワ,アリシア・マルコワ
『ジゼル』の名手,アンナ・パヴロワ,オリガ・スペシフツェワ,アリシア・マルコワ

鈴木晶『バレリーナの肖像』の中では,『ジゼル』を得意とし,それが当たり役になったバレリーナは,三人いた。アンナ・パヴロワ(1881-1931),オリガ・スペシフツェワ(1895-1991),アリシア・マルコワ(1910-2004)である。彼女たちに共通の特徴は,小顔で,手足が細く長く美しい。

『ジゼル』のような物語性を重視し,演技力も必要とするバレエは,やがて,チャイコフスキーの作品に代表されるクラシック・バレエにその場所を譲る。さらに,ディアギレフとニジンスキーによるバレエ・リュスの革命で,完全に忘れさられるかに思えるが,実は,『ジゼル』は,しぶとく生き残り,世界中で愛され,子どもたちの学ぶ古典となっていく。

芸術の芸術たるゆえんは,絶え間ない創造,であろうから,実験主義・前衛主義は必然なのかもしれない。そのことを,チェーホフは,『かもめ』の中で描いている。新しく追求する姿は,どことなく滑稽でもあり,最初理解されないものにちがいない。とりわけ,バレエというものは,総合芸術をめざして,一番大きく変化した芸術であり,複雑である。

クラシック・バレエが,『ジゼル』などと格段にちがう世界になってしまったのは,チャイコフスキーなどの音楽が,高度で複雑,ハイレベルな域に到達してしまったことが,演技を相対的に幼稚なものに見せてしまったこと。さらに,ニジンスキーなどに象徴的に示されるように,男性のバレエが力強く魅力的だったことは,ロマンチック・バレエをぶち壊してしまったこと。そういったことが,あるかと思われる。

なにゆえにであろうか,『ジゼル』は,今度は簡単に消えなかった。おそらく『ジゼル』は,くりかえし上演され,クラシック・バレエや,バレエ・リュスの革命に刺激されて,洗練されたものに変化していったのだ。

パヴロワが,チュチュで踊った写真には,「Anna Pavlova in Giselle wearing a Romantic Tutu.」と書かれていた。バレリーナが,『ジゼル』を演じた時の写真には,魅力的なものが多いと思う。

ディアギレフとは,何者であろうか。彼は,チェーホフの『桜の園』さながらの世界に生きた没落貴族集団の一員である。また,オスカー・ワイルドと同様に,同性愛者としても有名である。芸術は,その過程はともかく出来が良ければいいので,彼らが,文学者として,バレエ革命家として優れていることは,十分認識しないといけない。

ディアギレフの伝記を読むと,最初から,バレエに重大な関心を持っていた人ではない。過去の絵画を蒐集することが,その目録を作ることが,一番の仕事であった時期がある。その後,絵画的な感覚,ピアノを弾き作曲できるなどマルチな能力がバレエ革命家として,開花する。

パヴロワは,ディアギレフの近くにいたバレリーナではあるが,実験主義・前衛主義を嫌っている。むしろ,過去の『ジゼル』などの素朴な物語に,比較的シンプルな音楽,そして,技術的には,正統的で,超高度・ウルトラの技巧に走らない,そういう世界が好きだった。そこでこそ,自分たち女性,バレリーナの美しさが輝くのだ。

オリガ・スペシフツェワ(1895-1991)は,タマラ・カルサヴィーナと,パヴロワと並んで,20世紀初頭の三大バレリーナといわれる。オリガの美貌に,実の母親も嫉妬した。孤児院に預けられ,後に,マリインスキー劇場の舞踏学校に入る。1919年,オリガは,『ジゼル』を踊る。『ジゼル』は,そもそも,心理葛藤のドラマでもあるので,神経質なオリガにはうってつけの作品だったようだ。『サロメの悲劇』もおそらく適役だったに違いない。95歳まで生きたが,精神病院に長く収容されていた。

アリシア・マルコワ(1910-2004)は,マコーヴァと言う愛称を持つ。ロンドンに生まれ,巷のバレエ教室で頭角を現していく。児童福祉法などの拘束があって,10歳になってやっと舞台に立つ。親子でパブロワを崇拝していたが,やがて,ディアギレフに見出される。ディアギレフは,同性愛者なので,女性に興味はなく,さらに,子ども嫌いだったらしい。しかし,マルコワの才能は認めていた。

1924年,マルコワは,14歳でバレエ・リュスの最年少ダンサーとなった。1929年,ディアギレフは,18歳になったマルコワのバレリーナ昇格を決める。マルコワに,『ジゼル』を踊らせようとする。その夏,ディアギレフは死んでしまった。

マルコワは,驚異的な記憶力の持ち主で,一度で振付を覚えてしまうことができたと言う。マルコワは,手足が,並はずれて長く,顔も小さかった。一番の当たり役になったのは,やはり『ジゼル』であった。現在,ビデオ『ジゼルの肖像』に少し面影が残っている。94歳で亡くなる。

参考文献:バレリーナの肖像(鈴木晶),ディアギレフ:芸術に捧げた生涯(みすず書房)

クロスワールド

クロスワールド

夏色プリズム

北池袋 新生館シアター(東京都)

2013/08/14 (水) ~ 2013/08/18 (日)公演終了

満足度★★★★

北池袋新生館シアターで,『クロスワールド』を観た。
北池袋新生館シアターで,『クロスワールド』を観た。こちらは,メールでぜひご覧ください,との連絡があったもの。いけるかどうかわからず,チケットも確保していなかった。日曜日の15:00がラストチャンスとなった。

これは,非常に良く出来た演劇だった。内容は,近未来社会なのだろうか。実際に早くも動物のクローンなどが出来ているから,さほど遠い社会でもないだろう。設定としては,世界のどこかに,人間の死を管理する役所・部署があるというものだ。そこでは,人間が区分されて,もう少し延命するか,その場で殺害されるか決まる。ところが,クローン人間などは,どうも出生の記録すらない。役所としては,そもそも,そのようなクローン人間の存在そのものがまちがっていると騒ぎ出す。

演劇は,場面を少しずつ逆回転して,戻していく。演劇が終了する頃には,全部の流れがはっきりわかる。そのために,出だしでは,何が起こっているのか,さっぱりわからない。若い役者が多いが,個性的であった。

このページのQRコードです。

拡大