満足度★★★★★
再び航海に出るために観劇。
本当に鳥肌もの。
以下、ネタバレBOXにて。
ネタバレBOX
実在した海賊、"ブラックサム"ベラミーこと
サミュエル・ベラミーの短くも数奇な大冒険を描いたファンタジー活劇。
初演観れなくて、その半年後の再演観て打ち震えた。
一人芝居だよね・・・何だろうこれは。
同じ作品を複数人の芝居でやったとしても
同じ感動が得られるのだろうか。
語り手(終盤にある登場人物であることが判明)から
主人公のベラミーを始め、もう何人も入り乱れての演じ分けが凄い。
時には十数人、百人規模のモブの登場人物すら
舞台上に浮かんで出てくるような、感じだった。
作品としてももちろん面白い。
実在する海賊とフィクションの設定を上手く散りばめているし、
ファンタジーであるが故の設定もいいと思う。
2幕が始まって間もなくの閑話休題のシーンがいい。
マラソンでエイドステーションに入ったランナーを見るようで
自分もランナーをやってるときと同じ気持ちになれるところだったし。
本当に過酷だからこのシーンが本編を損なわないところも凄い。
もう少し上演の数を絞っても良かったのではないかなと感じた。
流石にちょっと林さんへの負担が大きすぎるなと思ってしまう。
ベストな状態で観れる以上のことはないだろうし、
一方ではその時間しか観に来れないお客様もいらっしゃるから
容易には言えないけど、ちょっと劇団側ももう少し調整できたら
良かったかなと。
もちろんこれは個人的な思いだけど、
林遊眠さんをこれからももっと観たいので、
お身体だけは大切にされて
今後の活動も、またもう一度くらい本作が
観れることを願っています。
満足度★★★
科学と非科学のあいだ
色んな要素、要素が面白かったです。
ネタバレBOX
まず冒頭で観客に量子論について語りかけ、
説明するのは素直に面白いなと。
気兼ねのない参加で劇の世界に入って行ける。
劇の途中でも何度か出てくる説明台詞がそんなに苦ではないのは、
俳優の力量だったと思えた。
知っているだけでも達者な方々が揃っているので、
何気ないところでも観るポイントがあったなと。
【良かったところ、好感】
・舞台美術がゴテゴテし過ぎてないけど、なんかワクワクする感じ。
・ヒロイン役の池田萌子さんの設定、面白いこと不思議なことに興味を抱くが
恋愛には興味がないという変わり者で掴めそうで掴みきれない存在というその感じがいい。
・横手慎太郎さんの顧問の先生。面白キャラだけどいい味出すなぁと。小劇場界の高橋一生だと再認識。
・屋上の先輩二人、帯金ゆかりさん、山本光さんコンビが良い。
見た目と言動の印象から不良かと思いきや、NASAを目指しているほどの勉強好きで物理学などに精通しているというギャップ。
二人の息のあった台詞の部分のシンクロ率の高さが凄い。
・藤本海咲さん、吉田ちひろさんは双子!?と思うくらい初めパッと見が似ていた印象だったけれど性格が真逆で良いコントラストだなと。
・量子論や物理学を始めとした話の例えがいい。勝負パンツとかラブレターの縦横書きとか。
・科学と非科学という捉え方について考えさせられた。
それらを踏まえていくつか思ったことは、
・藤本紗也香さん、池田萌子さん、藤本海咲さん、吉田ちひろさんの
オカルト研究部の4人での絡みがもっと観たかった。
宇宙人と池田さんを巡る話(藤本紗也香さんと池田萌子さん)と、
吉田さんの正体と横手先生を巡る話(藤本海咲さんと吉田ちひろさん)の二つに分かれるのでこの両方が入り組んできたらもっと面白かったかなと。
・主に前半で場転の際に椅子の出し入れが頻繁に行われるので、
舞台上で移動させるとかの方が良いかなと思った。
・神宮寺先輩と藤田さんのSF研究部との関わり(協力or対立など)を効果的に使ったら、彩りが増すような気がした。
・宇宙人(?)役の石澤希代子さんをもっと冒頭から絡めてくるといいなと。
満足度★★★★★
『ウインドミルバレー 最後の三日間』を観た。
これぞ、という林遊眠さんの一人芝居でした。
ネタバレBOX
一昨年、『マナナン・マクリルの羅針盤』初演を見逃し、
昨年、『マナナン・マクリルの羅針盤』再演で感動して
そしてまた今回。
シアターグリーンを、
架空の大陸世界の北方山脈にある谷、
ウインドミルバレーにしてくれた。
林遊眠さんのことを考えたら、
かなり負担が大きいと思うので、
一人芝居ばかりに期待をかけるのも憚られるところだけど、
彼女の一人芝居は一つの旅でもあり、
旅先での冒険をガイドして魅せてくれるのが良い。
今作は林遊眠さんの愛らしい一面を
上手く演出に入れていたような気がする。
案内役として観客にキャラクター像を
さらっと説明するところなど、
観る側の肩の力が
上手い具合に抜けられるような感じに思えた。
恒例(?)の休憩シーンも面白い。
毎度毎度良い気持ちになって
劇場を後に出来るのが凄いなと。
満足度★★★★
神はいるか?
シーン毎に印象深いところがありました。
ネタバレBOX
ラストの赤い羽根が落ちるシーンはカタルシスを感じられて、
あのまま終わるのもありかな。
学校内での女性同士の世界は、
男性の場合と同じようでいて、
精神的に強いストレスを感じてるものなんだろうなと。
小野寺ずるさんが良かったです。
振り回されそうで踏みとどまるような、
雁字搦めでいて抑圧を跳ね飛ばすような、
鬱屈としたエネルギーを持っている様を感じた。
男性のキャストがもっと絡んでくると、
層が厚くなって空気が濃厚になるかなとか思った。
満足度★★★★
タイトルから
とてもシンプルだけど良い話でした。
ネタバレBOX
OL二人が心霊スポット巡りで見つけた
会社の近くのつぶれた映画館。
主人公の美映は壁にある映画のポスターに既視感を抱く。
そして誰もいないはずのところにいた
映画館の支配人、城島に乗せられ映画を観ることに・・・。
映画がベタなB級映画である以上に、
メイキングになっていていつしかメイキングがメインに。
ここに仕掛けがあってそこから
主人公に関わってくる事実が浮かび上がる。
分かりにくさがなくて良いなと。
映画館の支配人、城島が良い感じだった。
もう少し伏線を張るのを抑えても良かったかと思うが
彼のキャラクター的には不自然に感じなかった。
美映の友人、由佳役の池田萌子さんがとても良かった。
ハキハキして突っ込み役でコメディリリーフだけど、
葛藤も抱えていたことが分かり、
その変化がとてもよく伝わってきた。
最後に美映が救われることで由佳も救われる構図だったのが、
もう少しはっきりさせるともっと良かったかも。
ラストのあの曲は反則(良い意味で)良かったな選曲。
当日パンフレットも凝っていて
旗揚げ公演として素晴らしいと思った。
観た回の空席が残念だなと思うくらい。
満足度★★★
積極的に求める平和
政治シュミレーション劇、と言う感じでしょうか。
ネタバレBOX
今から約20年後、大学の政治研究系サークルに入ってきた50過ぎの新入生を候補者として担ぎあげ、「軍事介入する・しないことによる無辜の市民の犠牲」というジレンマを考える中から生まれた「積極的平和主義」(現在とは異なる)をマニフェストにしていく。
台詞の印象で固いのかなとも思いながらも聴きやすく、観易かった。
前半の選挙に出馬し、当選。他の学生たちも後を追って議員となり、
「積極的平和主義党」を結党し、マニフェストを広めて行こうとする中で、徴兵制の議論に対し、段階的な徴兵制を提案する。
与党が推す「若い世代に経済的恩恵を与える代わりの徴兵」から、
若い時に訓練し、壮年時に有事が起きた時は徴兵」という
世代間の不公平を減らす徴兵制を提案したのだ。
ここでの与党大物議員と「積極的平和主義党」の面々との
やりとりは現実に即したようなスリリングな展開だった。
ただそれまでの間が盛り上がりに欠ける気もあり、
そして壮年になった主人公たちは徴兵されることとなり、
地雷処理をしているところで終わるのが皮肉なラストだが、
その皮肉っぷりがもう少し効いてくる展開だと
尚、胸に迫ってきたかなと思う。
ただ現実世界でも通じるようなテーマで興味深かった。
満足度★★★★
新作短編集を観ました。
昨年、本公演で初めて観た団体。新作短編集を観ました。
ネタバレBOX
『果実』
携帯ショップのバックヤードの休憩室が舞台。従業員の女性たちの本音が徐々にあぶり出され、それぞれが前に働いていたキャバクラの立地や時給で格付けを決めていくちょっとしたクズっぷりが面白い。一番年上で厄介者の大澤さんが本当に嫌なキャラクターだが、だんだんと彼女にも感情移入できるようになっていくのはいいなと思った。
『軋むほど君を抱きしめて』
彼女を抱きしめるタイミングを掴めない彼氏の浮気が発覚するが、自分は複数人を同時に愛するポリアモリーだと告白。もう一人の彼女、茜もポリアモリーで、複数人を同時に愛すること、浮気がなぜいけないことなのかをもっともらしく説いていくが…。話が進むにつれてイニシアチブを取る人物が変化していく様が面白い。茜がキワモノのキャラクターで面白いが、もの凄く冷静でどちら側にも理解を示して波風を立てない性格なので、彼女がもっと掻き乱してしまうのも面白そうかなとは思った。
『美の生産者たち』
とある中小企業に清掃員として派遣された若者たち。学歴もなく収入も低いため、将来に漠然と不安を感じながら、喫煙室でサボっているのを派遣先の社員になじられるが…。清掃員たちの心の叫びというか漏れ出てくる気持ちに身につまされながらも面白かった。喫煙室にやってくる女性社員の百合を天使のように感じて恋するも、度々なじりにやってきた社員の婚約者だとわかり、衝動的に気持ちを奮い立たせ、彼女を取り戻そうと行動を起こす。やっちゃいけないんだけど、彼らが冒頭で諦念を蔓延させた様子からバイタリティ溢れる姿に変わっていったのにはある意味希望を感じた。野地さんがいい。あと清楚な女性社員の百合を演じたQ本かよさんが、『果実』ではギャルっぽい店員を演じていて、ギャップが凄いなと感じた。
満足度★★★★
最悪な大人
面白くて笑った。勢いを感じた。
ネタバレBOX
猫を捨てに行ったときに赤ちゃんを拾った加瀬は
そのままその子を育てる。
フードファイターとして人気が上がり有名になりかけるも
結局変なトラウマ(ご飯を二合以上食べれない)を抱えただけで、
その後、運送業者の雇われ所長におさまる。
ある時、その営業所に近所に越してきたチンピラが怒鳴り込んできて…。
とにかくギャグが多く、チンピラ役の高木さん、
配送員役の古賀さん、木村さん、奥村さんらが絡んでくるとまず面白くなる。
親子のところは不器用で互いに思いを伝えられない
親父と息子のところに共感を覚える部分もあった。
息子役の東さんは引きこもり役が上手く、
真に迫っているように感じられた。
結局あらゆる問題というのは向き合わないことから
起こってしまっているんだな、ということに
改めて気付かされた気がする。
向き合いたくない現実を敢えてスルーすることは
大人がよくやることなのかもしれないし、
その姿が時として最悪と映ることもある。
ただそれでも伝えられるものなら伝えたいという思いを持ちながら
不器用にでも生きて、生き様を晒してることは
時として最悪ではないのかもしれないなと思った。
満足度★★★★
もしかしたら平和な時代に
史実を元にした歴史ファンタジーエンタメ。
ネタバレBOX
ローマ帝国の時代、コロッセオで行われていた剣闘について
皇帝の妹の「血なまぐさいのは飽きた」の鶴の一声で、
剣闘を魅力的で面白い見世物にするべく、試行錯誤をしていく。
まず殺陣のレベルが高いなと思った。
小劇場だとエンタメ系の芝居にある殺陣は
ピンからキリまであるけれど、
これはよく出来ていて見応えがあった。
劇団員の丹羽さんの技術と身体能力の高さもあるだろうが
剣闘がしっかりと見せられるものになっていた。
あうるすぽっとは客席部分が広々とした印象で、
大きい劇場でもあるので、
小劇場の劇団は特に演出は苦心するなと。
やはりどうしても広さを活かしきって
世界観を浸透させるのは難しいか。
終盤、アリアンが隠していた自身の過去を呼び戻し、
敵討ちをしてしまうクライマックスから
ラストの間があっという間過ぎて唐突だったなという印象。
エピローグをするにしてはもの足りないところがあった。
剣闘という文化に疑問を投げかけて面白くしようと試行錯誤する過程は、
現代の文化、とりわけ演劇をどう面白くするかにも通じるように思えた。
劇中における試行錯誤の過程はそのまま芝居を作っているようにも映った。
異なる要素を入れる(アイドル、歌、芝居)、
観客のニーズに応えるべきのか、
観客を引き込む新しい何かを作るのか。
皇帝の妹を遠ざけて以後、コロッセオが増えて
それぞれ客の趣向やニーズによって専門化、分化したのは
芸能・芸術の現状を暗喩しているかのよう。
客の欲求は満たせても異なるニーズ(≒文化)の人たちが
互いに交わる機会がなくなってしまったというのは皮肉だろうか。
平和な時代の娯楽は
現実の変化(戦争が再び近づくこと)によって
その意味を失ってしまうのか。
結局面白さを追求していくとリアルの方が余程面白い。
娯楽はできるだけリアルに近づいていくしかないのか。
本来はリアルを豊かにするものだったのではないか。
そんな問いかけがあったようにも思えた。
満足度★
合いませんでした。
初観劇でしたが、正直合いませんでした。
ネタバレBOX
主人公の中年の男が、
自分の生まれる過去にタイムスリップして
両親の結婚をなかったことにしようとする話。
普通両親を結婚させない時点で自分が消えてしまうことは
ほぼ明白だと思うけれど、逆にそれに本人が気づいていないという
「オチ」のようになっていたと思ったのですが、
それをラストの「オチ」に使わずに、中盤で提示してしまった時点で
主人公の行動の目的や動機が見えなくなったように思えました。
中盤で若かれし主人公の母が唐突にダンスするシーンの
意図が全く不明でした。
著名な映画音楽を多数引用するのは「分かりやすさ」ではありですが、
正直引用する意図とかが浅い印象で、
あえてパロディっぽくするとかもなく、ちょっと食傷気味でした。
あとこれは観客側の話ですが、ちょうど観た回がほぼ満席で
全体としてお客さんの平均年齢が高かった(高齢の方が多かった)。
それは良いとして劇の終盤(→ラストではない)で、
主人公が劇中の一連の出来事を経て
自分の心情を吐露する大事なところで、
台詞を言った後に「よく言った!」という合いの手が入り、
数人が大きめの拍手をしていました。
観劇の態度は、
劇場内の決まり事や秩序を乱さなければ自由だと思うけれど、
何をやっても良いわけでもないし、
正直その場にいてフリーズしてしまいました。
歌舞伎座かなと思ってついていけなくなってしまいました。
俳優は劇団員の女優さんが良い印象に残りました。
満足度★★★★★
これも「演劇」
一筋縄ではいかない「演劇」だった。
ネタバレBOX
初日を観ました。
観た直後にはとにかく凄いものを観たな、という衝撃があり、
次第にじわじわと感想が立ち上ってきた。
他に観た方の感想を見ていて
同じように端々に「演劇」を感じた。
「この世は舞台」とシェイクスピアの台詞を引用するように、
現実世界もやはり「演劇」なのではないか、
という根本的な問いに迫っているが、
決して小難しいことを押し出していることもなく。
2つの時間軸の小学校の卒業式間近の時期で、
一方では、将来に不安を感じながらも懸命に自分を貫こうと奮闘するぼく(百花亜希)を、
もう一方では、自殺未遂をした6年生のヤナミシズカについて
彼女の父親への対応と卒業式への出欠に苦慮する教師の松野(東谷英人)を、
それぞれ中心にして描いている。
松野はおそらく作者である、谷賢一さん自身なのだろう。
公園にいる怪しいおじさんとか
そういえばそんな人いたような気がするなと思わされたり、
ぼくのパートでは郷愁を誘う。
ちんちんのくだりは、個人的には面白いけど賛否があるやも(笑)
女性のお客様で渋い表情の方がいらっしゃった。
この性への目覚めによって一歩大人に近づいていき、
同時にこれまで持っていた何かを失うのだろうとも感じた。
ヤナミシズカを卒業式に出席させるかという教師と保護者のシーンは
圧倒的で濃いシーンだった。
もしかしたらヤナミシズカはあくまで想像だが、
今公演を残念ながら降板してしまった
劇団員の中村梨那さんと符合するようにも思えた。
彼女の出席の対応に苦慮する松野が
やはり谷さんに見えるような気がした。
ラストで「ぼく=少年時代の松野」と教師・松野が対峙するが、
あれは谷さん自身の今と昔というより、
現在の谷さんの中にある強い思い(少年の松野)と
現実を冷静に見据える谷さんの視点(教師の松野)の対峙とも思えてくる。
小劇場というものに敢えてこだわったり、
「小劇場あるある」(開演時間押し等々)に挑んだり、
違うステージに進む前に
小劇場で今出来ることをやろうという
強いエネルギーを感じる舞台だった。
こういう「演劇」だってあるんだよ、と
言われているような気もした。
俳優はこれまでのダルカラ作品に出演した方ばかりで
劇団員含め皆、小劇場に収まりきらないくらいの
もの凄い方々ばかりで圧巻でした。
次にもし活動再開することがあれば、
その時「演劇」はどうなっているのか。
またダルカラにそれを見せてもらいたい。
満足度★★★★★
「死」に向き合って
初演は劇場ではなく、DVDで何度か観ていました。
直接観れて良かった。
ネタバレBOX
初演に比べて群像劇としての様相が強まったということでしたが、
同時に一つの作品としてすっきりまとまっているなという印象も持ちました。
スタジオ空洞もいつも以上に
奥などへ広がりがあるように感じたので、
舞台空間の使い方も素敵でした。
ダンスも初演時と同じ音楽を使ったりしながらも
バージョンアップしてました。
並行した世界、
一平とマリーがいる世界と
一平が語る「毬井」という男の死をめぐる世界。
「死」というものを考え、
そこから
「生」について巡らせる。
普段あまり死と向き合うことは少ないですが、
年月が経つにつれ30代でも友人、知人が亡くなったりしていると、
そういうことを思ったりしてました。
毬井くんのように、たっくんのように
どこからか見つめているのかもしれないですね。
毬井とチサト、毬井と村瀬、一平とマリーの「死」を介して向き合う関係、
武田とみい、チサトと今の恋人との「生」を感じる関係、
それぞれに思いを巡らせながら観ていました。
本当に素晴らしかったです。
初演ではゲキバカの伊藤今人さんが演じた母が
広田さんが演じても尚、キャラクターとしてインパクトは強い(笑)
散々やり散らかして最後の最後で良いこと言ってズルいですね。
観る方も楽しんでましたが。
満足度★★★★
陽気と残酷の王国
二律背反、陽気と残酷が入り混じるサッカー王国、
ブラジルのファヴェーラ(スラム)があった。
ネタバレBOX
実在の事件(カンデラリア教会虐殺事件)を元に、
架空のファヴェーラ(スラム)、
エンジェルフォール・ヒルにあったアマチュアサッカークラブ
「ジョルジ・フッチボール・クルーヴィー」と
それを巡る物語。
とにかく重い。
ズシっときた。
重いけど、こういった重さは良い。
私事になるが、
一昨年に行われたサッカーW杯ブラジル大会に
友人が現地観戦に行っており、その時の話を聞くと
あまりの治安の悪さに宿泊地とスタジアムの往復以外で
外出は禁止されていたという。
「シティ・オブ・ゴッド」という映画もあったように
ブラジルの貧困格差は深刻で
ファヴェーラ(スラム)にはストリートチルドレンが溢れ、
犯罪の温床となっていたため、
当時は地域や社会がストリートチルドレンを
法外に処罰する警察官(通称、死の部隊と呼ばれた)を
多くが指示していたという。
ファヴェーラ(スラム)にいる人々は、
そこを支配するギャングに従うしかなく、
また外へ出ていくのも難しい。
唯一この飼い慣らされた地獄を脱出する術が、
サッカーで出世すること。
劇中でも現実世界でも同じような感覚で
ブラジルの感じたことのない空気が流れていた。
ファヴェーラ(スラム)で相次ぐ警官殺しを追っている
記者マリア(前園あかり)はそのファヴェーラ(スラム)で
10数年前に「ジョルジ・フッチボール・クルーヴィー」という
アマチュアサッカークラブが存在し、
名門バルセロナへ移籍が決まったスーパースター、
アレックス・フェチース(津田修平)が在籍していたことを知る…。
サッカーになればギャングもスラムも関係ない、
そんなブラジルの熱狂が垣間見れたし、
同時に貧富の差に翻弄されていく闇を覗いた。
スラムの少女、カミラ(石塚みづき)とズレージ(木原実優)は
爽やかで素敵だったし、
スラムの女ギャング「マリア」と
新聞記者の「マリア」を演じた前園あかりは
力強さと繊細さを併せ持った魅力が良かった。
死の部隊の警官、
エスケルディーニャを演じた西川康太郎は
陽気さと残酷さの両面を巧みに見せて
見応えがあった。
願わくばもう少しサッカーを絡めて欲しかったが
サッカーに限らないいろんな要素で構成されているので、
これがいい形なのかもしれない。
本当に役者が作り上げた
ブラジルのファヴェーラ(スラム)が素晴らしく、
良い観劇になった。
満足度★★★
違う世界をもっと。
量子コンピュータを巡る研究者の話で量子コンピュータについて興味が沸いてきた。
ネタバレBOX
OPのタイトルロールが凝っていたので、
そんな表現を用いたりして、
舞台上にないコンピュータ世界でのやり取りを
もっと描くことが出来たら良かったかなと。
研究室で人の出入りが激しいのに、
もう少しテンポ良く展開できたらなと思いました。
暗号とかの謎解き要素があるので、
さらにぐっと観る側を引き込めるのではないかと。
先日の劇団鋼鉄村松『仮面マタドール(レプリカ)』に出てた辻明佳さんが
妙に艶っぽくて、嫌われ役なのに
ちょっと憎めないってところが素敵だった。
もっとツンツンして嫌味を出しても良いかも。
アシスタント役の田中希奈さんの声がとても印象的だった。
満足度★★★
『千年のセピラ』→『パイドパイパー』
『パイドパイパー』と『千年のセピラ』、両方観劇しました。
観た順番としては『千年のセピラ』→『パイドパイパー』で
物語の時系列に沿った形で良かったかも。
ネタバレBOX
『千年のセピラ』
『パイドパイパー』の前日譚で
物語の鍵を握るパイドパイパー(林遊眠)誕生の物語。
実際に伝承で残る古代ローマ帝国建国時の話を基に
そこで起きた事件とそれにまつわる悲恋のエピソードを交えて描く。
ローマの少女に姿を変えていた夜の女王を語り手として
小国サビニ王国出身の女性タルペイアが
幼い頃にローマの兵士にさらわれるも美しく成長した10年後に
力を戻しつつあったサビニの新たな王ティトゥスと恋に落ち、
カピトリウムの砦の戦いでサビニ側に加担するも
ティトゥスに裏切られ殺されてしまう。
夜の女王の力によって自らの望みを
不死の力を持つ笛吹き芸人パイドパイパーとして転生し、
長い時間の旅を始めていく。
劇場が『パイドパイパー』本編と同じで
広く作りこまれた舞台美術だったため、
縦横に動き回っていて、見せ方もあるだろうけど、
ちょっと広さに負けてしまっている気がしないでもなかった。
だんだんと劇世界に入って、特に2幕以降は急激に盛り上がって、
ラストに至るカタルシスは良かったという印象。
林遊眠さんの凄さを再度体感しました。
『パイドパイパー』
これまで観たのが林遊眠さんの一人芝居だけだったので、
複数人登場する作品は初めて。
ただそのこれまで観た一人芝居は
ショウダウンの型だったんだなと。
彼女以外に二つの時代(1284年と1945年)に
語り手のポジションを担うものがそれぞれおり、
この時空を越えた壮大な物語が語られる。
中世(1284年)。
不死の存在であるミリアム(真壁愛)を巡って、
ギョーム(三好健太)率いるテンプル騎士団から彼女を奪還するため、
エーフェルシュタイン家最後のトリックスター・パイドパイパー(林遊眠)、
ミリアムを守る騎士となったヒース(飯嶋松之助)と従者のマルヴォ(為房大輔)は
テンプル騎士団と敵対するイスラムのスルタン・アシュラフ(伊藤駿九郎)たちと共闘し
ミリアムの行方を追っていた・・・
現代(1945年)。
歴史の教師イグリッド先生(山口敦司)は生徒たちに
教科書にない物語を話す。そのうちメリア(真壁愛)が来なくなってしまう。
一方で某大国の諜報員アーシェ(根本沙織)たちは
世界を終わらせる力を持つ少女を探して暗躍。
そこにパイドパイパーとヒースが現れて・・・。
主にこの二つの時間軸を行き来しながら
最後は現代で収斂していく。
ヒースが不死になったのがやや掴みにくかったかも。
何となくで理解はできたけれど誰かに説明するとなると難しいかな。
林遊眠さん演じる名無しのパイドパイパーは
冒頭の陽気で飄々とした様子が楽しかったが、
その後、性格が様々に変わり、
キャラが一貫していないように思えたのが少し残念かな。
あと彼女以外にも複数のパイドパイパーたちが登場するが
笛による魔術を使える点は同じ、
名無しの彼女だけは不死というのが「違い」だろうが、
見方によっては混乱しかねないかなとも思った。
ただやっぱりこれも終盤への盛り上がりは流石だし、
壮大なテーマへと至ってもやり切れるパワーは凄かった。
林遊眠さんはじめキャストの皆さんの健闘に拍手を送りたい。
満足度★★★
Bérangerに出会った作家は。
ネタバレにて。
ネタバレBOX
第二次世界大戦の初期に
ルーマニアで起こった反ユダヤ主義民族運動、
それを推し進めた鉄衛団。
その時代背景と若きイヨネスコ、
今も正式に認可される「魔女」などが入り混じる。
イヨネスコが不条理劇で有名となったということだけは
知っていたが、まさにその劇世界が入り混じるような
不思議な空間だった。
70年ほど前の話なのに中世のような。
魔女の力を信じるルーマニアの人々が
ファシズムや鉄衛団の反ユダヤ主義の伝播と
クロスオーバーするような。
少年たちの一人がユダヤ人だったり、
情けない若きイヨネスコの成長、
魔女に対するルーマニアの人々の変化など
色々と面白い要素があるので、
もう少し1本、筋が通った形にまとまると
さらに面白くなったのでは。
女優陣が良かった。
特に高橋紗綾さん、逢川じゅんさん、あべあゆみさん素敵でした!
満足度★★★
超越した所とは?
ネタバレに感想を書きます。
ネタバレBOX
見方が甘いのもありますが、
ここまでの絶賛について
正直私はあまり理解できませんでした。
私が男であるが故に、
男が批判されるのは駄目とかではなく、
例えばそこに共感へ喚起させたり、
または共感をも「超越」した何かがあれば、
めったくそに男をぶっ叩いてくれて構わないし、
楽しくなったんだろうなと。
そこが見落としてしまったところだったのでしょうか。
笑えるポイントは色々あったけれど、
あそこまでの客席の高揚に繋がっていくほど面白いのかな、
と思ってしまいました。
逆にあそこまで屑なダメンズ達すら見限らないところが
「超越」していたところだったのでしょうか。
風俗嬢を演じた梨木さんが素敵でした。
台詞がない場面でもあれだけ楽しくさせてくれると
つい目がいってしまいます。
小沢さんはあの爽やかなイメージを損なわずに
ゲイのオカマを演じられるのはさすがだなと。
満足度★★★★★
おじさんはなぜ走るのか。
笑顔でいられる駄弁芝居。
ネタバレBOX
公園で走るおじさん(根津茂尚)。
彼の走る理由を探ろうとする警察官の末弟(澤唯)。
付き合わされる数学者の妹(石澤美和)。
走る父を快く思わない娘(松本みゆき)。
彼を応援する友人(園田裕樹)。
アイディアだしに公園に来ては
走るおじさんを気にする人々(篠本美帆、志水衿子、堀靖明)。
とにかく緩い世界観が好き。
走るっていうのが(マラソン)だと思ってたら、
よくよく見ていくと短距離(100m)ではないかと。
10秒00が日本記録とかまさに。
よく見たらスプリンター駄弁芝居って書いてあるじゃないか。
ランナーじゃないし。
色んなタイプのボケとツッコミがいて、
かといって観る方は力を抜いて笑っていられるのがいい。
娘が父をボコボコに殴り飛ばすというのも、
光景が描写されないにしても、
なぜか牧歌的に思えてしまう不思議。
主宰の関村さんの前説から、
あひるなんちゃらの世界観は始まっているように思える。
今回(千秋楽の公演)は、本編の最後の台詞を発表するという
革命を起こしていた。
満足度★★★★★
彼はどんな思いで引き金を引いたのか。
ポップンマッシュルームチキン野郎(PMC野郎)初観劇。
以前からコメディフェスティバルでの活躍ぶりを聞いていながら、
今まで観れていなかった。
ネタバレBOX
とても良く出来た戯曲、物語で、エンタメとしても演劇としても、
肩肘張らずに観れながら、色んな楽しみがあって、素晴らしい。
西部劇というのはある程度固定のイメージが定着したジャンルで、
そこが魅力的でもあるし、そこからどう描いていくのかも重要。
PMC野郎は初観劇だったので、
本公演で毎回どういったテイストなのかは分からない。
だが今回、たとえしゃべるサボテンやサソリやナップサックが出てきても
その不条理に違和感はなく世界観へ入っていけた。
それ以外にも普通に笑える部分も多々あったし、飽きない。
腕の立つガンマン、ブルース・レッドフィールド(渡辺徹)は
25年前にギャングに家族を皆殺しにされ、
それ以来、犯人たちを探して復讐の旅を続けている。
唯一の弱点は、ギャング襲撃の際に負った後遺症により、
至近距離で銃声を聞くと記憶が25年前に戻ってしまう
記憶障害を持っていること。
この設定が物語を楽しむ核となっている。
一発で仕留めなくてはいけない。
一つ復讐を終える度に25年間書きためた日記を読み返しては
記憶を取り戻す等々。
ただミステリーの様な謎解きを求められる話ではないので、
西部の復讐劇に思わぬ展開が、といった感じで
そのまま素直に観ていくと楽しいのではないかと。
ブルースにあこがれるサボテンジョー(サイショモンドダスト★)と
サソリのスティーブマック(野口オリジナル)、
彼らをまとめるナップサック(NPO法人)。
同じギャングに家族を殺されたネイティブのヌータウ(加藤慎吾)と
妹のアナ(増田赤カブト)。
ブルースのライバルを称するジャンボ・ジャンゴ(CR岡本物語)と彼の弟分、ジャイロ(古舘佑太郎)、ジャック(高田淳)。
保安官事務所で出会った男装のフランス人、フランソワ(小岩崎小恵)等々。
この一緒に旅を続けるキャラクターたちの魅力も
中心となっているPMC野郎の劇団員の皆さんはじめ素晴らしいし、
主演の渡辺徹さん、萩野崇さんをはじめとする客演陣も好演だった。
この復讐劇が、
真実が判明した際には全く逆の意味を持った復讐となっており、
その悲しみと苦しみが心を揺さぶってくる。
若い頃から、家族を持って汚い仕事からは手を引き
「善人でいたかった」というブルースの想いが、
死に物狂いの旅の果て、最後の引き金とともに、
全ての憎悪の記憶の繋がりをも断ち切る。
その思いに対し応える、ブルースの昨日までの敵であり今日の友。
最期の時を迎えて果たして彼は、
本当に25年もの記憶が消えたままだったのか。
そんな想像の余地を残すようにも思えたところも
演劇として好きだし、本当に面白かった。
良い時間を過ごせて、自分の中では
西部劇で一番好きな話になったと思う。
満足度★★★★★
必要とされている、と思う病とは何か。
やっぱり箱庭円舞曲は好きだし、凄い。
ネタバレBOX
主宰で作/演出の古川さんが
実際に結核に罹患した経験が元とのこと。
結核という病に対するだけでなく、
病院での入院生活、
病院で働くこと、
社会から外れまた戻ること、
必要とする/されること等々
色んなものを内包しながら、
自然と見応えのある作品となっていた。
まず中年患者の永源(清水大将)の態度から
患者が必ずしも弱者ではないという
一般的なイメージの覆してくれるのが良い。
他の場合でも当てはまるが、
医療というサービスを受ける側が
「客である」という姿勢を傘にしたとき、
提供側を破綻に向かわせることもあり、
非常に難しい問題だと思った。
そんな永源もラストで
散々嫌がっていた病院から退院する際、
表の世界へ行くのを「地獄への帰還」と表現する。
病院や医師を散々批判されるが、
それでもある程度守られている皮肉がじわっと伝わる。
彼も含め入院によって
社会の流れから外れたという視点では
戻りたい者、戻りたくない者の事情も
じんわりと浮かび上がってくる。
高校教師の岡(家田三成)は、
結核を生徒に罹患させたことによるトラブルが炎上し、
休職扱いとなっている。
戻る場所ももはや無いも同然で、
それによって彼を病院から出たがらない。
彼の飄々とした様子とは真逆の悲哀が
やるせなく、とても芯に響く。
矢久保(大塚宣幸)は保険をギリギリまで
受け取って楽をしようと病院側を困らせる。
そんな彼も一度表の世界へ戻って再度病院に帰ってきた時に
自分の存在の必要性についての現実を思い知らされる。
看護師側でも
ベテラン師長の八重津(ザンヨウコ)、
中堅で派遣扱いの村川(前田有貴)、
新人正看護師、恵(白勢未生)も
それぞれの立ち位置や仕事や患者への向き合い方で
齟齬や行き違い、トラブルが生まれる。
新人の立場も分かるし、それを教育するベテランの悩みも分かる。
ラストで死なせてしまった患者に対して、
新人の恵が辞めるなどと言い出さなくて良かったと思った。
辛いことから簡単に逃げ出すことは容易だが、
それでも向き合っていこうとする微かな希望が
若い方へ繋がるように感じられた救いだったような気がした。
何故か結核に罹患してしまった更科(石松太一)が、
作家の古川さんにも観客の視点にも近い立ち位置だろう。
彼は他の患者より真面目に入院生活をして、
すんなり治りそうだが、お笑い芸人として
トリオの二人から見限られて戻る場所を失くし、
唯一残ったのが彼女のフリをしていた熱心なファンの二ッ森(松本寛子)。
藁にもすがる思いで彼女に必要とされることを取るのか。
それとも別の茨の道を進むのか。
これは投げかけられた問いのように思えた。
互いが相容れないことによって生まれる、または生まれないものが
伝えるものをしっかり伝えながら、想像力を掻き立てられ良かった。
役者全員が見事に人物を活き活きと生かしていたのもそうだろうし、
戯曲や演出の巧さもあるのだろう。
大塚宣幸さんは破壊力抜群で
下手なお笑い芸人よりもはるかに面白いし、笑わせてもらった。
しかも芝居を破綻させずに上手くその魅力を出されていたな、と。
白勢未生さんは純粋無垢な若者を演じられて、
色々な事象に振り回されながらも
何とか懸命に立ち回る様が良かった。