海と日傘
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
名作
難易度の高い作品に挑戦し続けている劇団のようだ。今日の公演も頗る難易度の高い作品である。演劇的にドラマツルギーが成立するのは、ひ弱な妻の、死に至る病があるからである。従って何気ない日常の所作が勝負所となる。若手作家でもある夫は、教職にも就いていたが、今はそれも上手くいっていない。夫の収入は殆ど小説の原稿料だけの有り様。従って収入は微々たるものであり、家賃さえ随分滞っている。そのようなつつましい生活の中で病弱な妻が倒れた。余命は3カ月。晩夏に倒れた妻であるが、その儚さは、舞台美術、音響で幕開け早々告知されていたことだ。夏の終わり、ヒグラシの鳴き声、糠味噌臭くないみずや。和室には珍しい全面透き通った硝子張りの戸、そこに巻き揚げてあるすだれの佇まい。
科白が東京の山の手方言で無い所も良い。地方語には詳しくないが、九州弁の男言葉は一見そっけなさそうで優しさや思いやりを感じさせる。体調の優れぬ妻の、お茶目な感性を感じさせる科白も、女性の可愛らしさを見事に表現する。
“あうるすぽっと”の杮落しに上演されたというこの難しい名作を、これだけ魅力ある舞台にしたことに、この劇団の地力を感じる。
傭兵ども!砂漠を走れ! -サバンナ&オアシス-
劇団6番シード
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2012/11/14 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
サバンナ編初日
男性中心のサバンナ編と女性中心のオアシス編がある。Wキャストを考慮すると4パターンになる。全36公演の長丁場だ。今のところ、今週金曜の昼は、ゆったり観ることができるとの話だ。
一応、コメディと銘打ってはいるが、内容的にもしっかりしており、シリアスでやっても充分通用する。無論、外人部隊には、様々な経歴を持つ者達がいる。観たいコーナーでも書いたが、自分も外人部隊の現役メンバーと話す機会があったし、自分自身が応募しようかと考えていた時期もある。色々なタイプの人間が集まれば、悲喜交々なことが起きるのは当然だ。まして場所は戦場である。良いことも悪いことも総てが桁違いなレベルで起きる。紛争地を歩いた経験を持つ者なら誰しもが、初めて経験する異様な迄の緊張感・緊迫感や、銃撃される恐怖、地雷や空襲、砲弾、戦車の地響きなどに生きた心地も無かった経験を持っているだろう。生き抜けば、攻撃してくる兵器の種類や距離なども音でほぼ分かるようにはなるものの、良い気持ちのわけが無い。公演では、こう言った背景の緊張感を出すことに成功していた。きちんと取材をし、取材した戦地体験を内在化することに成功しているのである。戦争を知らないはずの世代が、ここまで緊迫した舞台を創ったことを素直に褒めたい。
また、実戦を経験していないからこそ持ちえた正義感や念が、実際の戦争に対する異議申し立てとして機能し作品を演劇たらしめた。ドラマツルギーがきちんと成立しているだけでなく、現代日本の若者の優しさを顕して貴重である。怖い経験をしたことが無い方にも女性にも緊迫感のある舞台として楽しめよう。
木曜スペシャル「谷口浩探検隊」
タッタタ探検組合
劇場MOMO(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
タッタタ探検組合の凄さ
基本的に喜劇を演じる劇団であるが、通常喜劇の劇団というのは、笑いを取る為に人間性や品性を犠牲にしがちだ。一流の劇団や芸人でもそういうタイプが多いのではないだろうか。然るに、タッタタ探検組合は笑いも取り、同時に人生の機微をも捉えるのである。これは並大抵のことではない。単に、技術のレベルではなく深く鋭く厳しく同時に温かで品性の伴った堂々たる演劇だ。何より、この劇団は、あくまで人間を描くという点でブレがないこと。それを喜劇という枠で演じて、これにもブレがないことで評価できる。骨太のメインストリームに情況という思い通りにはならない運命・宿命を対置し、そこに起こるべくして起こってくる葛藤を個々人に集約して演劇化している点で本質を衝いているのだ。
シナリオの良さは無論のこと、舞台美術、照明、音響、演技などを知的・統一的なコラボレーションに構成する演出は見事だ。それに応えて芸達者な役者たちが、実に丁寧に身体を律し、時に解放したり、箍を外したりしながら、役を演じるというより役に乗っているのである。而も、この喜劇の要諦を守ったまま、人間の普遍的な価値と其処での葛藤を描くことで、物語を単に社会性のある話題にではなく、各々生きる実存として提示しているのである。このような表出法は、決して国家だの社会だのを論ずることではない。寧ろ、観客と共に生きることなのだ。この姿勢が、一種の優しさと温かさを産み、更には劇団としての纏まりと観客との共鳴作用を産んでいるのだ。
砂のカケラを取りに行く
演劇企画ハッピー圏外
TACCS1179(東京都)
2012/11/02 (金) ~ 2012/11/06 (火)公演終了
満足度★★★★
戦争
砂のかけらが何を意味するかについては観客が各々考えるべき問題であろう。また、戦争が経済を要因としているという視点は、少なくともじっくり考えてみる必要があろう。実際、アメリカ経済は戦争を始終継続していないと成立しない。イスラエルも同様と考えて良かろう。極めてアイロニカルな視点であるにしても、戦争が人間にとって必要なものだという考え方を慎重に再検討する価値はあるかも知れない。
『石灯る夜』
劇団TEAM-ODAC
アトリエファンファーレ東池袋(東京都)
2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
歪
歪んだ現代日本の病理を耐える方法として、神社境内にある名も無い石の周りを掘り続ける、訳ありの人々。掘り続けるという行為に大した意味は無いが、その事実を自覚しつつ耐え、生きることにも意味はないのか?
現代日本の歪みを、何ら意味の無い行為によって耐えようとする姿勢に、庶民のいじましい努力が見られる。が、耐えるだけの人生に何の意味があるのかを矢張り問いたい。聞けば、この劇団の若手公演とのことである。その若者たちの未来が、閉ざされ、救いの無い罠に満ちたものであることに、暗澹たる思いである。
私は夢見る機械です
劇団HoneyTomato
シアターシャイン(東京都)
2012/11/06 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
ケッパレ
ロボットを通して見ようとしているのは、あくまで人間である。この視点は、恐らく正しい。人間は、人間にとって汲めども尽きぬテーマだからである。ロードムービーのような手法を用いて描かれた今回の舞台では、主人公のS1が旅先で出会う人型ロボットの様々な特技も紹介されていて楽しめる。更に、劇団の第一回公演で、演技とは演ずることではなく、演ずる対象に憑依されることだと述べているのも矢張り正しかろう。間の取り方などにも見るべき点がある。初心を忘れず、益々、精進して欲しい。
『熱狂』・『あの記憶の記録』3月に完全再演致します!!詳しくは劇団ページをcheck!!
劇団チョコレートケーキ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2012/10/31 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
シオニズム
あの記憶の記録
シオニズム解釈が、現在イスラエルのシオニストたちが主張していることと重なり、歴史的事実総体を表象していないとはいえ、かなりきちんと勉強していることと、芝居としては自然に用いられていたことは確かである。また、シオニストたちが、ホロコーストを政治的に利用していることをある程度描いている点でも評価できる。更に、イツハクや兄の姿勢が、ユダヤ教の戒律に則った生き方に近いものだという点で救いがある。舞台美術、音響、照明なども効果的で演技もしっかりしている。
但し、「建国」以来、イスラエルの基本姿勢は、パレスチナ全域からアラブ人を追放乃至は殺戮することであり、イラン・パペも主張する通り、エスニック・クレンジングを本質とすることは、明らかである。実際、ガザで実験をやり西岸で仕上げを行っているバントゥスタン的政策は、イスラエルの二大国是、ユダヤ国家と民主国家のアポリアを白日のもとに晒している。このことこそが、パレスチナ紛争の最大の障壁なのであり、イスラエルがこの点を正し、アメリカ及び西側世界が、偏見を捨て、国際法上の正義を守り、公正な判断を下さない限り、現在は、パレスチナで起こっている、世界の恥を正すことはできまい。
以上の点を踏まえるならば、この劇団には、是非、アラブの側から捉えたイスラエル問題をも演じて貰いたい。作品例を挙げておこう。“Incendies”などが相応しいと思われる。
クリスマスの悪夢
Wit
サンモールスタジオ(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
ウィット
洗練されたシナリオと巧まざる演技、深い知識に裏打ちされ、照明、音響などの使い方の妙を心得た演出、実に楽しい時を過ごさせてくれる舞台である。
全体構造としては、クリスマス前の巷で神の子の生誕を祝い、浮かれて幸せそうな人間どもを見て、気分を害したサタンに捧げられた六つの死に纏わる話をオムニバス形式で展開するという構造になっているのだが、舞台は、地獄のキャバレー、HASTA LA VISTAである。舞台美術も面白い。中央奥には、多少、斜角を利用した少し歪な十字架、舞台床にも赤く太いテープで描かれた十字架があるのだが、無論、登場する悪魔など地獄の住人に踏みつけられる仕組みである。ところでサタンは、何故、アンチクリストであるのか? もと高位の天使であるにも拘らず? 神が、全能であるなら、何故、彼が罪を犯すように創造したのか? 一体、何の為だ? 神が完璧であるというなら、何故、神は悪を創ったのか? 我々に許される唯一の合理的解釈は、神は自らの善を証明する為に、悪を創造したのだ。即ち、神とは偽善そのものである。
舞台に戻ろう。演じられるのは六つの話。ここで6という数字に注目したい。キリスト教神学で6は特別の意味を持つ。神は六日掛けて世界を創造した。また6の約数は、 1、2、3だがこれらは足しても掛けても6になる。逆に6から総ての約数を引くと零になるのだ。つまり、神は零から世界を創造した、と解釈することが可能である。アンチクリストとしてのサタンも当然、この命数を持つ。因みに映画「オーメン」シリーズでダミアンの誕生日時が6月6日6時とされているのは、古代エジプトの一神教に現れる3倍のサタンを表しているという話を聞いたことがある。コプト教にそのような話があるのか否か、神学者ならぬ自分は充分調べがついていないのだが。何れにせよ、以上のような話を含めて極めてアイロニカルな解釈も成り立つ見事なエンターテインメントである。
否定されたくてする質問
箱庭円舞曲
駅前劇場(東京都)
2012/11/01 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★
居たな
表現する者としての漫画家とそれを商品化する者としての編集者の関係を軸に展開している点が、作品を自然なものにしている。我らが生きる資本主義の世の中で、各々が各々なりに真実を求め、自己を主張し、一所懸命に考える。然し、いざ、これらの過程を抱えた労作を提示する段になると、商品化された彼らの作品は、世間の騒音と旺盛な消費行動に、恰も作品そのものが、騒音源の一つにでもなったかの用な様相を呈し始める。創造の過程にあった制作者間の対話すら置き去りにして孤独を析出してしまうのである。表現する者と、それを商品化する者との異相を対峙させることで、メインストリ―ムを構成し、そこに流れ込むように結婚や男女関係が絡んでくる。いつか自分の周りにも居た人々の物語。
若者
劇団 兄貴の子供
中野スタジオあくとれ(東京都)
2012/11/08 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★
鏡の砕片
作家自身が述べているように、自らが死んでも地球が無くならない証拠は、自ら死にゆく者にとっては何処にもない。ただ、死は他者の者だからである。この単純な事実を認めない限り、作家に限らず、我々の内一人の例外も無く世界に押し潰され粉々になるのは必然である。この作品に筋があるようでもあり、無いようでもあるのは恐らくこの辺りの事情による。ただ、はちゃめちゃな分、砕けて散った鏡の断片が、意味も無く世界の断片を映すように、観客の心に思い出のかけらを想起させたかも知れないとは思う。それも、非常に切ない形で。
お月さまへ ようこそ
演劇集団ホシノハコ
ライブハウスBogaloo(東京都)
2012/11/04 (日) ~ 2012/11/04 (日)公演終了
夜だけが味方
GORE GORE GIRLS
北池袋 新生館シアター(東京都)
2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★
記号
依存症の話である。テーマが依存症であるならば、
もう少しシリアスに扱った方が、演劇的には面白い
ものになったのではあるまいか。依存の対象を
象徴ではなく具体的に余りにもあからさまに扱って
しまったのは、不手際である。同じように、ぬいぐるみを
用いるにしても、依存症の表面をではなく、日常生活の
罅割れに潜む、深く、狭く、果てしない蟻地獄のような物として
扱った方が、その深刻さが伝わったのではないか、と考える。
新譚サロメ (改訂版)
ウンプテンプ・カンパニー
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2012/10/29 (月) ~ 2012/11/04 (日)公演終了
満足度★★★★
中々
ワイルドの「サロメ」が余りに有名な為か、戯曲シナリオというより、
作家性の競争を挑んだ頭でっかちになってしまったようである。
作家として、決して、それが悪いということではないが、ワイルド版「サロメ」が
内包している内容をあたり前の事として受け入れ得る現代ヨーロッパの文化的情況に比して日本のそれは余りに貧弱で殆ど瀕死の状態と言って過言ではない。その分、説明的になった部分を煩いと感じるのだ。演出も、この辺りは、難しい判断を迫られたに違いないのだが、事情が許せば、矢張り演劇の本旨に立ち帰って肝心要の所だけを、象徴を使うなどして、もっと様式的に
作っても良かったのではないだろうか。音楽もサティーの曲を想起させるような生演奏が入るもので、それなりに楽しめたし、役者陣の一所懸命な演技もあるのだから、その辺りを上手く、分解し、余分な所は切り、更に緊密な再構成を図ることで、一段、演劇的に高い場所へ行くことが出来よう。
船虫口説(ふなむしくどき)―オチョロ船・まぼろし画帖―
あくたーず工房
テアトルBONBON(東京都)
2012/10/25 (木) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
トマレギ
ういろっく
しもきた空間リバティ(東京都)
2012/10/26 (金) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!
演劇ソリッドアトラクションLINX’S
上野ストアハウス(東京都)
2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
『往復書簡』
BASEプロデュース
BAR BASE(東京都)
2012/10/23 (火) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★
脚本
二転三転する脚本の面白さで持った。朗読テキストを見ながらで、これだけカムのは、どうしたわけだろう。明かに、練習不足と粗雑都は「言わないまでも、作品への配慮の欠如である。
チェンジ
劇団芝居屋
ザ・ポケット(東京都)
2012/10/23 (火) ~ 2012/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
ぶれない舞台
いつもながら丁寧できめ細かな創りには感心させられた。若い役者も基礎がしっかりしていて、科白を音節単位まできちんと発声しているので聞き取り易い。細かい点まで注意深く演じられている。たとえば、妊婦のおなかが大きくなるに従って、歩く時の様子が違ってくるなどだ。
半透明に透かした場面での演劇と、通常の舞台との同時進行なども、大変有効な演出方法で効果的である。
更に、個々の役者陣では、若手を含めて、身体から滲み出るような、演技に向かって日々精進していることが伝わってきた。流石である。
こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)
ポップンマッシュルームチキン野郎
サンモールスタジオ(東京都)
2012/10/18 (木) ~ 2012/10/29 (月)公演終了
満足度★★★★★
演劇版落語
落ちといい、言葉の崩し方といい、間にあるものの微妙な外し方といい、非常にバランス感覚の優れた、演劇版落語とでも名付けたい作品だ。
間といえば、落語の命であるが、狭間とも読み、アイダとも読む。無論、マとも読むのである。この作品では、これら諸要素が混在し巧みにシャッフルされて、湿りっぽくなりがちな親子関係をドライに知・痴的に舞台化している。
たとえば、言葉とため息の間、言葉とオノマトペの間、言葉と騒音の間、当然、言葉と静寂の間といった具合だ。また、登場するキャラクターも一風変わっている。おかまにおなべ、幽霊に優柔不断、マゾ教師にサド女王等々。異端や異形の者達は、さながら魔の潜むが如きレッテルを張られがちだが、実際に彼らが紡ぎ出すのは、赤裸々な人間味である。
笑いながら、ほろりと涙に噎せながら、爽やかささえ持ち味に加えて軽みを感じさせる秀作である。
龍神伝2012
音楽劇場 夢
浅草木馬亭(東京都)
2012/10/18 (木) ~ 2012/10/20 (土)公演終了
満足度★★★★
科白なし
非常に実験的な舞台である。音楽と歌唱、役者の身体演技で構成された象徴的舞台だ。リードするのは、バイオリン。出演している個々のメンバーの技量が非常に高いので、アンサンブルが非常に難しい。演出はさぞ、苦労したことだろう。この困難をなんとか破綻させずに引っ張ったのが、ぶれないバイオリンの演奏であった。聞けば、本番前に全員が揃って練習し呼吸を合わせることのできる機会が、極めて少なかったということだ。個々のレベルが高い為に一堂に会するチャンスが無かったということであろうが、日本の演劇事情を考慮しても矢張り、惜しい。海外に今回出演したメンバー全員で出掛け、向こうでも練習をするという条件で契約を結んで公演を打てれば、絶賛されるであろう実力者揃いだ。
当然のことながら、観客にも象徴を見、解釈する力は要求される。歌われる歌詞によって多少の説明が与えられるとはいえ、通常の科白は一切ない。験されているのは、観客の想像力である。その意味で、この作品は、演劇そのものと言っていいかも知れない。
龍神が出てくる以上、自然と人間の関わりである。それも、水を中心としたそれだ。水が出てくる以上、干ばつは想像できて当然、また洪水も然りである。3.11、3.12があってこのかた、人々のエコロジーに対する意識は益々高まったことであろう。だが、都会での、消費するだけの生活に慣れきった人々に、自然の脅威がどれだけ実感できるというのだろうか? エコロジーが悪いと言っているのではない。然し、自然が、猛威をふるえば人力など荒海に翻弄される木の葉に等しい、ということを実感で語れる都会人がどれだけいると言うのか。3.12という人災の絶対悪というよりは、3.11のような自然の厳しさをキチンと描いたうえで、人と自然、人と人との人間的関係の本質的在り様とはいかなるものかを問うた秀作である。
観客としての我々は、3.12の主役もまた水の問題であったという本質にゆき当らざるを得ない。島国である我が国に水はいくらでもあった。だが、これを冷却水として用いるという判断が無かったが故に引き起こされた3.12の取り返しようのない人災についても、我らは、更にシビアな目を、事故を起こした東電ばかりでなく、現在の野田政権、それを操るアメリカの世界戦略にも目を向ける必要があろう。
象徴的な舞台であるから解釈は多様であるが、ハンダラは以上のように解釈した。