ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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海と日傘

海と日傘

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2012/11/14 (水) ~ 2012/11/18 (日)公演終了

満足度★★★★

名作

 難易度の高い作品に挑戦し続けている劇団のようだ。今日の公演も頗る難易度の高い作品である。演劇的にドラマツルギーが成立するのは、ひ弱な妻の、死に至る病があるからである。従って何気ない日常の所作が勝負所となる。若手作家でもある夫は、教職にも就いていたが、今はそれも上手くいっていない。夫の収入は殆ど小説の原稿料だけの有り様。従って収入は微々たるものであり、家賃さえ随分滞っている。そのようなつつましい生活の中で病弱な妻が倒れた。余命は3カ月。晩夏に倒れた妻であるが、その儚さは、舞台美術、音響で幕開け早々告知されていたことだ。夏の終わり、ヒグラシの鳴き声、糠味噌臭くないみずや。和室には珍しい全面透き通った硝子張りの戸、そこに巻き揚げてあるすだれの佇まい。
 科白が東京の山の手方言で無い所も良い。地方語には詳しくないが、九州弁の男言葉は一見そっけなさそうで優しさや思いやりを感じさせる。体調の優れぬ妻の、お茶目な感性を感じさせる科白も、女性の可愛らしさを見事に表現する。
 “あうるすぽっと”の杮落しに上演されたというこの難しい名作を、これだけ魅力ある舞台にしたことに、この劇団の地力を感じる。

傭兵ども!砂漠を走れ! -サバンナ&オアシス-

傭兵ども!砂漠を走れ! -サバンナ&オアシス-

劇団6番シード

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2012/11/14 (水) ~ 2012/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

サバンナ編初日
 男性中心のサバンナ編と女性中心のオアシス編がある。Wキャストを考慮すると4パターンになる。全36公演の長丁場だ。今のところ、今週金曜の昼は、ゆったり観ることができるとの話だ。
 一応、コメディと銘打ってはいるが、内容的にもしっかりしており、シリアスでやっても充分通用する。無論、外人部隊には、様々な経歴を持つ者達がいる。観たいコーナーでも書いたが、自分も外人部隊の現役メンバーと話す機会があったし、自分自身が応募しようかと考えていた時期もある。色々なタイプの人間が集まれば、悲喜交々なことが起きるのは当然だ。まして場所は戦場である。良いことも悪いことも総てが桁違いなレベルで起きる。紛争地を歩いた経験を持つ者なら誰しもが、初めて経験する異様な迄の緊張感・緊迫感や、銃撃される恐怖、地雷や空襲、砲弾、戦車の地響きなどに生きた心地も無かった経験を持っているだろう。生き抜けば、攻撃してくる兵器の種類や距離なども音でほぼ分かるようにはなるものの、良い気持ちのわけが無い。公演では、こう言った背景の緊張感を出すことに成功していた。きちんと取材をし、取材した戦地体験を内在化することに成功しているのである。戦争を知らないはずの世代が、ここまで緊迫した舞台を創ったことを素直に褒めたい。
 また、実戦を経験していないからこそ持ちえた正義感や念が、実際の戦争に対する異議申し立てとして機能し作品を演劇たらしめた。ドラマツルギーがきちんと成立しているだけでなく、現代日本の若者の優しさを顕して貴重である。怖い経験をしたことが無い方にも女性にも緊迫感のある舞台として楽しめよう。

木曜スペシャル「谷口浩探検隊」

木曜スペシャル「谷口浩探検隊」

タッタタ探検組合

劇場MOMO(東京都)

2012/11/07 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

タッタタ探検組合の凄さ
 基本的に喜劇を演じる劇団であるが、通常喜劇の劇団というのは、笑いを取る為に人間性や品性を犠牲にしがちだ。一流の劇団や芸人でもそういうタイプが多いのではないだろうか。然るに、タッタタ探検組合は笑いも取り、同時に人生の機微をも捉えるのである。これは並大抵のことではない。単に、技術のレベルではなく深く鋭く厳しく同時に温かで品性の伴った堂々たる演劇だ。何より、この劇団は、あくまで人間を描くという点でブレがないこと。それを喜劇という枠で演じて、これにもブレがないことで評価できる。骨太のメインストリームに情況という思い通りにはならない運命・宿命を対置し、そこに起こるべくして起こってくる葛藤を個々人に集約して演劇化している点で本質を衝いているのだ。
 シナリオの良さは無論のこと、舞台美術、照明、音響、演技などを知的・統一的なコラボレーションに構成する演出は見事だ。それに応えて芸達者な役者たちが、実に丁寧に身体を律し、時に解放したり、箍を外したりしながら、役を演じるというより役に乗っているのである。而も、この喜劇の要諦を守ったまま、人間の普遍的な価値と其処での葛藤を描くことで、物語を単に社会性のある話題にではなく、各々生きる実存として提示しているのである。このような表出法は、決して国家だの社会だのを論ずることではない。寧ろ、観客と共に生きることなのだ。この姿勢が、一種の優しさと温かさを産み、更には劇団としての纏まりと観客との共鳴作用を産んでいるのだ。

砂のカケラを取りに行く

砂のカケラを取りに行く

演劇企画ハッピー圏外

TACCS1179(東京都)

2012/11/02 (金) ~ 2012/11/06 (火)公演終了

満足度★★★★

戦争
 砂のかけらが何を意味するかについては観客が各々考えるべき問題であろう。また、戦争が経済を要因としているという視点は、少なくともじっくり考えてみる必要があろう。実際、アメリカ経済は戦争を始終継続していないと成立しない。イスラエルも同様と考えて良かろう。極めてアイロニカルな視点であるにしても、戦争が人間にとって必要なものだという考え方を慎重に再検討する価値はあるかも知れない。

『石灯る夜』

『石灯る夜』

劇団TEAM-ODAC

アトリエファンファーレ東池袋(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★



 歪んだ現代日本の病理を耐える方法として、神社境内にある名も無い石の周りを掘り続ける、訳ありの人々。掘り続けるという行為に大した意味は無いが、その事実を自覚しつつ耐え、生きることにも意味はないのか?
 現代日本の歪みを、何ら意味の無い行為によって耐えようとする姿勢に、庶民のいじましい努力が見られる。が、耐えるだけの人生に何の意味があるのかを矢張り問いたい。聞けば、この劇団の若手公演とのことである。その若者たちの未来が、閉ざされ、救いの無い罠に満ちたものであることに、暗澹たる思いである。

私は夢見る機械です

私は夢見る機械です

劇団HoneyTomato

シアターシャイン(東京都)

2012/11/06 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

ケッパレ
 ロボットを通して見ようとしているのは、あくまで人間である。この視点は、恐らく正しい。人間は、人間にとって汲めども尽きぬテーマだからである。ロードムービーのような手法を用いて描かれた今回の舞台では、主人公のS1が旅先で出会う人型ロボットの様々な特技も紹介されていて楽しめる。更に、劇団の第一回公演で、演技とは演ずることではなく、演ずる対象に憑依されることだと述べているのも矢張り正しかろう。間の取り方などにも見るべき点がある。初心を忘れず、益々、精進して欲しい。

『熱狂』・『あの記憶の記録』3月に完全再演致します!!詳しくは劇団ページをcheck!!

『熱狂』・『あの記憶の記録』3月に完全再演致します!!詳しくは劇団ページをcheck!!

劇団チョコレートケーキ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2012/10/31 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

シオニズム
あの記憶の記録
 シオニズム解釈が、現在イスラエルのシオニストたちが主張していることと重なり、歴史的事実総体を表象していないとはいえ、かなりきちんと勉強していることと、芝居としては自然に用いられていたことは確かである。また、シオニストたちが、ホロコーストを政治的に利用していることをある程度描いている点でも評価できる。更に、イツハクや兄の姿勢が、ユダヤ教の戒律に則った生き方に近いものだという点で救いがある。舞台美術、音響、照明なども効果的で演技もしっかりしている。
 但し、「建国」以来、イスラエルの基本姿勢は、パレスチナ全域からアラブ人を追放乃至は殺戮することであり、イラン・パペも主張する通り、エスニック・クレンジングを本質とすることは、明らかである。実際、ガザで実験をやり西岸で仕上げを行っているバントゥスタン的政策は、イスラエルの二大国是、ユダヤ国家と民主国家のアポリアを白日のもとに晒している。このことこそが、パレスチナ紛争の最大の障壁なのであり、イスラエルがこの点を正し、アメリカ及び西側世界が、偏見を捨て、国際法上の正義を守り、公正な判断を下さない限り、現在は、パレスチナで起こっている、世界の恥を正すことはできまい。
 以上の点を踏まえるならば、この劇団には、是非、アラブの側から捉えたイスラエル問題をも演じて貰いたい。作品例を挙げておこう。“Incendies”などが相応しいと思われる。


クリスマスの悪夢

クリスマスの悪夢

Wit

サンモールスタジオ(東京都)

2012/11/07 (水) ~ 2012/11/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

ウィット
洗練されたシナリオと巧まざる演技、深い知識に裏打ちされ、照明、音響などの使い方の妙を心得た演出、実に楽しい時を過ごさせてくれる舞台である。
 全体構造としては、クリスマス前の巷で神の子の生誕を祝い、浮かれて幸せそうな人間どもを見て、気分を害したサタンに捧げられた六つの死に纏わる話をオムニバス形式で展開するという構造になっているのだが、舞台は、地獄のキャバレー、HASTA LA VISTAである。舞台美術も面白い。中央奥には、多少、斜角を利用した少し歪な十字架、舞台床にも赤く太いテープで描かれた十字架があるのだが、無論、登場する悪魔など地獄の住人に踏みつけられる仕組みである。ところでサタンは、何故、アンチクリストであるのか? もと高位の天使であるにも拘らず? 神が、全能であるなら、何故、彼が罪を犯すように創造したのか? 一体、何の為だ? 神が完璧であるというなら、何故、神は悪を創ったのか? 我々に許される唯一の合理的解釈は、神は自らの善を証明する為に、悪を創造したのだ。即ち、神とは偽善そのものである。
 舞台に戻ろう。演じられるのは六つの話。ここで6という数字に注目したい。キリスト教神学で6は特別の意味を持つ。神は六日掛けて世界を創造した。また6の約数は、 1、2、3だがこれらは足しても掛けても6になる。逆に6から総ての約数を引くと零になるのだ。つまり、神は零から世界を創造した、と解釈することが可能である。アンチクリストとしてのサタンも当然、この命数を持つ。因みに映画「オーメン」シリーズでダミアンの誕生日時が6月6日6時とされているのは、古代エジプトの一神教に現れる3倍のサタンを表しているという話を聞いたことがある。コプト教にそのような話があるのか否か、神学者ならぬ自分は充分調べがついていないのだが。何れにせよ、以上のような話を含めて極めてアイロニカルな解釈も成り立つ見事なエンターテインメントである。

否定されたくてする質問

否定されたくてする質問

箱庭円舞曲

駅前劇場(東京都)

2012/11/01 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

居たな 
 表現する者としての漫画家とそれを商品化する者としての編集者の関係を軸に展開している点が、作品を自然なものにしている。我らが生きる資本主義の世の中で、各々が各々なりに真実を求め、自己を主張し、一所懸命に考える。然し、いざ、これらの過程を抱えた労作を提示する段になると、商品化された彼らの作品は、世間の騒音と旺盛な消費行動に、恰も作品そのものが、騒音源の一つにでもなったかの用な様相を呈し始める。創造の過程にあった制作者間の対話すら置き去りにして孤独を析出してしまうのである。表現する者と、それを商品化する者との異相を対峙させることで、メインストリ―ムを構成し、そこに流れ込むように結婚や男女関係が絡んでくる。いつか自分の周りにも居た人々の物語。

若者

若者

劇団 兄貴の子供

中野スタジオあくとれ(東京都)

2012/11/08 (木) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★

鏡の砕片
 作家自身が述べているように、自らが死んでも地球が無くならない証拠は、自ら死にゆく者にとっては何処にもない。ただ、死は他者の者だからである。この単純な事実を認めない限り、作家に限らず、我々の内一人の例外も無く世界に押し潰され粉々になるのは必然である。この作品に筋があるようでもあり、無いようでもあるのは恐らくこの辺りの事情による。ただ、はちゃめちゃな分、砕けて散った鏡の断片が、意味も無く世界の断片を映すように、観客の心に思い出のかけらを想起させたかも知れないとは思う。それも、非常に切ない形で。

お月さまへ ようこそ

お月さまへ ようこそ

演劇集団ホシノハコ

ライブハウスBogaloo(東京都)

2012/11/04 (日) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★

基本
 関係を見切るという基本的な作業ができていない。結果、演劇の肝を身体化するという作業が抜け落ちてしまった。

夜だけが味方

夜だけが味方

GORE GORE GIRLS

北池袋 新生館シアター(東京都)

2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

記号
 依存症の話である。テーマが依存症であるならば、
もう少しシリアスに扱った方が、演劇的には面白い
ものになったのではあるまいか。依存の対象を
象徴ではなく具体的に余りにもあからさまに扱って
しまったのは、不手際である。同じように、ぬいぐるみを
用いるにしても、依存症の表面をではなく、日常生活の
罅割れに潜む、深く、狭く、果てしない蟻地獄のような物として
扱った方が、その深刻さが伝わったのではないか、と考える。

 新譚サロメ   (改訂版) 

 新譚サロメ   (改訂版) 

ウンプテンプ・カンパニー

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2012/10/29 (月) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

中々
 ワイルドの「サロメ」が余りに有名な為か、戯曲シナリオというより、
作家性の競争を挑んだ頭でっかちになってしまったようである。
作家として、決して、それが悪いということではないが、ワイルド版「サロメ」が
内包している内容をあたり前の事として受け入れ得る現代ヨーロッパの文化的情況に比して日本のそれは余りに貧弱で殆ど瀕死の状態と言って過言ではない。その分、説明的になった部分を煩いと感じるのだ。演出も、この辺りは、難しい判断を迫られたに違いないのだが、事情が許せば、矢張り演劇の本旨に立ち帰って肝心要の所だけを、象徴を使うなどして、もっと様式的に
作っても良かったのではないだろうか。音楽もサティーの曲を想起させるような生演奏が入るもので、それなりに楽しめたし、役者陣の一所懸命な演技もあるのだから、その辺りを上手く、分解し、余分な所は切り、更に緊密な再構成を図ることで、一段、演劇的に高い場所へ行くことが出来よう。

船虫口説(ふなむしくどき)―オチョロ船・まぼろし画帖―

船虫口説(ふなむしくどき)―オチョロ船・まぼろし画帖―

あくたーず工房

テアトルBONBON(東京都)

2012/10/25 (木) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

オチョロ
正義を標榜する者に差別はないか?

ネタバレBOX

 実際、正義を実現するのは難しい。腐ったものには、利益がついて回るからである。正義や正しさを実践していると自負していた椀屋が、自らの抱える内的差別に気付いていなかったことに気付く所、また、「おちょろが女になる」という科白に込められた恋する遊女が持つ念の純粋性は心を打つ。胡弓の音色は人の声に最も近い音だと聞くがその響きも良かった。効果で使われた音楽は、効果的ではあるが、大河ドラマ風な所に少し食傷気味に感じたのも事実。
トマレギ

トマレギ

ういろっく

しもきた空間リバティ(東京都)

2012/10/26 (金) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

絶望の中の希
絶望的な状況の中で夢を見続けようとする姿勢がよい。

ネタバレBOX

 地球環境の悪化と戦争による惨禍のため、地球上の殆どの動植物は壊滅的打撃を蒙った。生き残った者他阿智は、若く健康で善良な若者を選んで火星に移住する。
 70年後、火星移住70周年記念事業として、火星で育った若者を地球に送り込む計画が立てられるが、火星でも地球人が犯した過ちと同様の過ちが進行していた。
 これらの弊害を避けるために科学者は人間の悪弊を取り除いた新人類を遺伝子操作によって創り上げる。一方、火星の厚生労働省の事務次官は、新人類を使って地球の支配を目論んでいる。
 火星で生まれ、今は年老いて地球に崇敬の念を抱く第二世代の老人たちと新人類は、地球から訪れた外交官の計らいで地球へ向かうことになる。 が。
リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!

リンクス東京 感謝!! 来年も東京で!!

演劇ソリッドアトラクションLINX’S

上野ストアハウス(東京都)

2012/10/24 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

競演
各劇団20分と持ち時間は、やや少ないが、全般的に実りの多い公演であった。

ネタバレBOX

オパンポン創造舎 「王様大脱走」
シナリオ、役者の技量、本質を捉える確かな目、社会階層の差異に因る人格形成を様式化する能力の高さ、哲学的内容を演劇に仕立て上げる腕の確かさ。見事である。
ネタばれ:島国の王が、獄舎に囚われている。罪状は、密入国。強制送還は受け入れ拒否にあって、帰ることすらできなかったのである。然し、王は、民は、自らの子であり、王自ら民を守らねばならぬ、というかたい信念の故に何度も脱走を試み、そのたびに失敗して刑を加算されて、今では刑期も260年に延びている。それでも脱走を諦めない王の獄舎に新たな囚人が送り込まれた。新入りは、当初、先に獄入りしていた者は何者か探りに掛かる。然るにその権威の齎す物腰に圧倒されてしまう。彼は王だと言う。島国の王なのである。で、民を守る為に自分は帰らねばならぬと主張するのだ。だが、王は強制送還すら受け入れ拒否にあっており、彼の主張にも拘わらず帰れる見込みは薄いのだ。それでも、他人を信じようとする王に対して、新入りは、親近感を抱き始める。そして柄にもなくサジェスチョンをしたりするのだ。曰く、何でも他人を信じて喋ってしまっては良くない。弱みを握られ付け込まれるからだ、と諭す。
王は生まれて初めて、世の中の無常・無情に気付き、今度は、多くの国民が他人を信じてしまう者が多い為、ヒトの在り様を知らせる為に、どうしても脱獄しなければならぬと主張する。王は新入りを誘うが、脱獄に失敗し続けている王の情報を看守から得ている新入りは、脱獄成功の確率は非常に低いというより間違いなく失敗すると信じ、親近感を覚えている王にも脱獄を諦めることを勧めるが、王応えて曰く、「パラグライダーが救援に来る」。新入りにも息子がおり、王が脱獄すれば、新入りは自らの刑を、脱獄を権力側に知らせることで軽くなる道を選ぶ、と主張。どちらも自説を曲げずに脱獄の時を迎えるが。
強制送還の受け入れさえ拒否された王は、脱獄後どうなるかも定かでは無い乍ら、脱獄にチャレンジし、新入りは、脱獄だと叫ぶ。警戒のサイレンがけたたましい叫びを挙げる。その緊迫の中で新入りが、鉄格子の向こうを眺めると、悠々と飛ぶパラグライダー、パラグライダーには、王の姿も。

超人予備校
 絶滅動物や危惧種を題材に、その動物に纏わる知識を羅列したような舞台でユニークではあるが、演劇的には如何か。

犬と串 科白を敢えてナンセンスに置き換えた。分からせるものか、との意思さえ感じる劇団。熱狂的なファンがいる可能性を感じる。

テノヒラサイズ シナリオ、役者のレベルで勝負。情況設定の上手さとオリジナルのシナリオの中に仕掛けられたアドリブ部分を実に自由闊達に演じて見せる。実力の確かな手ごたえを役者の技量とシナリオのマッチングに結晶させて見せ秀逸。
 航空機事故で命を落としたクイズ研究会の面々5人は、エースの奮闘で終に最終問題に辿りつく。これまで、破れた者は、皆、地獄へ落ちていった。最後の問いは、人間性に纏わる問いである。五人のうち四人しか天国への門は開かれていない。20分の間に誰を地獄に送るか決めろ、というものであった。
 能力も高く優しいエースが、初め地獄落ちの候補として選ばれてしまう。皆に
見限られた侘しさから、エースは様々な抗議をして抗う。そうこうしているうち、エースの代わりに地獄落ちを選んでも良いという者、が現れる。回答期限の時刻が容赦なく訪れ、最終的に、皆目をつぶって地獄落ちの候補者を指さすことになるが、結果は全員一致であった。神の啓示は正解。
 
劇団ZTON 
 殺陣を中心にした京都の劇団である。上野ストアハウスの狭い舞台上でも、舞台一杯に拡がった殺陣のシーンで互いにぶつかり合うことも無く流麗な剣舞を見せた。無論、ストーリーテリングな要素もある。土方に憧れ、京に上ってきた六番隊隊長の甥が、五稜郭まで随行する中で、京都に入って直ぐの頃のことを中心に描いている。初仕事は、新撰組に長州の間者として入り込んでいた隊士を斬るというものだ。初陣とは言え、彼は、刀の道に掛けては殆ど素人だが、運よく難局を切り抜ける。然し、彼が五稜郭へ辿りつく迄に、彼に関わりのあった叔父を含め、名のみ登場する土方を除く総てが、討ち死に、切腹などで果てている。凄まじい話だが、若く弱い剣士の念が伝わる仕組みになっている。

空想組曲 「深海のカンパネルラ」
 宮澤 賢治の「銀河鉄道の夜」を下敷きにした作品だが、賢治作品の本質を見事に捉え、その哀しみのトーンを舞台化して居ながら、内容的には、現代の物になっている。それも、現実と夢幻の間に焦点を当てているのである。
 舞台では、カンパネルラの死を悼むジョバンニの通説な念が「、精神の危機に陥った少女の1年後の姿に重ねて描かれる。彼女は自らの友人の死をカンパネルラの死に重ね、幻想を繰り返すことで辛うじて、この世に命を繋ぎとめている。それは、「永決の朝」でとしに別れを告げた賢治自身の痛烈な痛みにも通じよう。
 然し彼女もこの幻想への逃避を断ちきらねばならない。兄が、精神科医が、彼女の再生を願って様々な支援を試みるが。最終的には、彼女自身が、この試練に立ち向かわねばならない。彼女は、友の死とその思い出に真正面から向き合うことでこの障害を乗り越えてゆく。



『往復書簡』

『往復書簡』

BASEプロデュース

BAR BASE(東京都)

2012/10/23 (火) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

脚本
 二転三転する脚本の面白さで持った。朗読テキストを見ながらで、これだけカムのは、どうしたわけだろう。明かに、練習不足と粗雑都は「言わないまでも、作品への配慮の欠如である。

チェンジ

チェンジ

劇団芝居屋

ザ・ポケット(東京都)

2012/10/23 (火) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

ぶれない舞台
 いつもながら丁寧できめ細かな創りには感心させられた。若い役者も基礎がしっかりしていて、科白を音節単位まできちんと発声しているので聞き取り易い。細かい点まで注意深く演じられている。たとえば、妊婦のおなかが大きくなるに従って、歩く時の様子が違ってくるなどだ。
 半透明に透かした場面での演劇と、通常の舞台との同時進行なども、大変有効な演出方法で効果的である。
 更に、個々の役者陣では、若手を含めて、身体から滲み出るような、演技に向かって日々精進していることが伝わってきた。流石である。

こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)

こい!ここぞというとき!(2012年サンモールスタジオ最優秀演出賞、受賞)

ポップンマッシュルームチキン野郎

サンモールスタジオ(東京都)

2012/10/18 (木) ~ 2012/10/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

演劇版落語
 落ちといい、言葉の崩し方といい、間にあるものの微妙な外し方といい、非常にバランス感覚の優れた、演劇版落語とでも名付けたい作品だ。
 間といえば、落語の命であるが、狭間とも読み、アイダとも読む。無論、マとも読むのである。この作品では、これら諸要素が混在し巧みにシャッフルされて、湿りっぽくなりがちな親子関係をドライに知・痴的に舞台化している。
 たとえば、言葉とため息の間、言葉とオノマトペの間、言葉と騒音の間、当然、言葉と静寂の間といった具合だ。また、登場するキャラクターも一風変わっている。おかまにおなべ、幽霊に優柔不断、マゾ教師にサド女王等々。異端や異形の者達は、さながら魔の潜むが如きレッテルを張られがちだが、実際に彼らが紡ぎ出すのは、赤裸々な人間味である。
 笑いながら、ほろりと涙に噎せながら、爽やかささえ持ち味に加えて軽みを感じさせる秀作である。

龍神伝2012

龍神伝2012

音楽劇場 夢

浅草木馬亭(東京都)

2012/10/18 (木) ~ 2012/10/20 (土)公演終了

満足度★★★★

科白なし
 非常に実験的な舞台である。音楽と歌唱、役者の身体演技で構成された象徴的舞台だ。リードするのは、バイオリン。出演している個々のメンバーの技量が非常に高いので、アンサンブルが非常に難しい。演出はさぞ、苦労したことだろう。この困難をなんとか破綻させずに引っ張ったのが、ぶれないバイオリンの演奏であった。聞けば、本番前に全員が揃って練習し呼吸を合わせることのできる機会が、極めて少なかったということだ。個々のレベルが高い為に一堂に会するチャンスが無かったということであろうが、日本の演劇事情を考慮しても矢張り、惜しい。海外に今回出演したメンバー全員で出掛け、向こうでも練習をするという条件で契約を結んで公演を打てれば、絶賛されるであろう実力者揃いだ。
 当然のことながら、観客にも象徴を見、解釈する力は要求される。歌われる歌詞によって多少の説明が与えられるとはいえ、通常の科白は一切ない。験されているのは、観客の想像力である。その意味で、この作品は、演劇そのものと言っていいかも知れない。
 龍神が出てくる以上、自然と人間の関わりである。それも、水を中心としたそれだ。水が出てくる以上、干ばつは想像できて当然、また洪水も然りである。3.11、3.12があってこのかた、人々のエコロジーに対する意識は益々高まったことであろう。だが、都会での、消費するだけの生活に慣れきった人々に、自然の脅威がどれだけ実感できるというのだろうか? エコロジーが悪いと言っているのではない。然し、自然が、猛威をふるえば人力など荒海に翻弄される木の葉に等しい、ということを実感で語れる都会人がどれだけいると言うのか。3.12という人災の絶対悪というよりは、3.11のような自然の厳しさをキチンと描いたうえで、人と自然、人と人との人間的関係の本質的在り様とはいかなるものかを問うた秀作である。
 観客としての我々は、3.12の主役もまた水の問題であったという本質にゆき当らざるを得ない。島国である我が国に水はいくらでもあった。だが、これを冷却水として用いるという判断が無かったが故に引き起こされた3.12の取り返しようのない人災についても、我らは、更にシビアな目を、事故を起こした東電ばかりでなく、現在の野田政権、それを操るアメリカの世界戦略にも目を向ける必要があろう。
 象徴的な舞台であるから解釈は多様であるが、ハンダラは以上のように解釈した。

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