満足度★★★★★
ウィット
洗練されたシナリオと巧まざる演技、深い知識に裏打ちされ、照明、音響などの使い方の妙を心得た演出、実に楽しい時を過ごさせてくれる舞台である。
全体構造としては、クリスマス前の巷で神の子の生誕を祝い、浮かれて幸せそうな人間どもを見て、気分を害したサタンに捧げられた六つの死に纏わる話をオムニバス形式で展開するという構造になっているのだが、舞台は、地獄のキャバレー、HASTA LA VISTAである。舞台美術も面白い。中央奥には、多少、斜角を利用した少し歪な十字架、舞台床にも赤く太いテープで描かれた十字架があるのだが、無論、登場する悪魔など地獄の住人に踏みつけられる仕組みである。ところでサタンは、何故、アンチクリストであるのか? もと高位の天使であるにも拘らず? 神が、全能であるなら、何故、彼が罪を犯すように創造したのか? 一体、何の為だ? 神が完璧であるというなら、何故、神は悪を創ったのか? 我々に許される唯一の合理的解釈は、神は自らの善を証明する為に、悪を創造したのだ。即ち、神とは偽善そのものである。
舞台に戻ろう。演じられるのは六つの話。ここで6という数字に注目したい。キリスト教神学で6は特別の意味を持つ。神は六日掛けて世界を創造した。また6の約数は、 1、2、3だがこれらは足しても掛けても6になる。逆に6から総ての約数を引くと零になるのだ。つまり、神は零から世界を創造した、と解釈することが可能である。アンチクリストとしてのサタンも当然、この命数を持つ。因みに映画「オーメン」シリーズでダミアンの誕生日時が6月6日6時とされているのは、古代エジプトの一神教に現れる3倍のサタンを表しているという話を聞いたことがある。コプト教にそのような話があるのか否か、神学者ならぬ自分は充分調べがついていないのだが。何れにせよ、以上のような話を含めて極めてアイロニカルな解釈も成り立つ見事なエンターテインメントである。