ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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ロミオとジュリエット ――Fear No More――

ロミオとジュリエット ――Fear No More――

演劇ユニット King's Men (キングスメン)

座・高円寺2(東京都)

2024/12/24 (火) ~ 2025/01/08 (水)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

 矢張りKing’s Men、他の劇団がやらない演出で魅せてくれた。本日5日まで座・高円寺Ⅱ、1月6日から8日迄はせんがわ劇場で公演。今作の本質をストレートに観客に届けてくれる。観るべし! 母体がユニットなので演者のレベルは様々だが、いつも何らかの新たな解釈や演出の工夫がある。

ネタバレBOX

 今回の公演では、能う限り日本の劇場でエリザベス朝演劇の条件下で演じられた「Fear No More」(日本語翻訳タイトル、ロミオとジュリエット)を演じてくれた。自分は今迄に数回、他の劇団が演じた「ロミオとジュリエット」を拝見してきたが、ロミオとジュリエットが味わわざるを得なかったモンタギュー家VSキャピュレット家の史的・因縁的対立に翻弄される宿命の恋人たちの苦悩、アンヴィヴァレンツに弄ばれるかのような絶望と歓喜の齎す傷口の呻きが我が胸に鋭く深く刺さるのを今回初めて感じた。このように感じた原因は、恐らく16世紀中頃から17世紀初頭迄続いたイギリス演劇史のルネサンスとも称されるエリザベス朝演劇の舞台環境を可能な限り再現したことと関係があると思われる。即ち電気を用いての効果は基本的に用いない。当時は室内ではなく上演は屋外で行われた為客席と板上で明度を等しくする。又1人の役者が何役もこなす等。
 更に凄いと思わされたのが、柳 誠直さん演じるシェイクスピアが一幕、二幕の頭を執筆しつつ発するソネットに擬したプロローグを始め何か所かで同じように英語で紡がれる部分の発音の見事さである。恰もイギリス人舞台俳優が発音しているようなレベルである。即ちそのイントネーションやブレスによって、発された言語がどんな構造かある段階以上に外国語を習得した者には立ちどころに分かるのである。そのような高度に習熟した英語であった。而も文章を書きつけているノートは、当時の版型と同じ版型ではないか? と見える物でこんな細部に迄気を配って用意したとすれば凄い、と唸らせる類のものであった。
 苦言を呈するとすれば、板から捌ける際、若い役者さんたちの中に観客から完全に観えなくなるまで演技を続けずに捌けてしまった人が何人も居たことだ。一旦板に上がったら、その回の公演が終わる迄、背中にも目を付けている位の気持ちで演じて欲しい。観客の座っている位置によって捌ける時も丸見えになることが在ることも、そういうシーンが観客を白けさせてしまうことも覚えておいて欲しい。
 またキャピュレットを演じた 中島 史郎さんは、「るつぼ」の時より大分マシにはなったが、役とどのように格闘した上で板に上がっているのだろうか? との疑念は拭えなかった。今回も台詞をぞんざいに扱っている印象が何か所かにみられたからである。シェイクスピアの凄さは、天才的作家ですら比喩でしか表現できないような人間界の暗渠を総て台詞化してしまうことにあると思っている自分としては、このような大天才の台詞は例え翻訳と雖も疎かにすべきではないと考える。もし、自分の見立てが誤りで中島さんが役作りに最大限の力を注ぎこれがベストだと考えてぞんざいに聞こえる表現を選んだのであればその選択は尊重するが、仮に自分の指摘が当たっているのであれば、次回は更に納得のゆく演技をして頂ければ嬉しい。
リベルテ vol.29

リベルテ vol.29

END es PRODUCE

本所松坂亭(東京都)

2024/12/27 (金) ~ 2024/12/31 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 男女混合の即興を中心としたエンタメの回を鑑賞。MCを担当した役者が中々上手い。出演者の捌き方、ダイアローグを交わす時の気の利いた台詞や対応に頭の良さが感じられる。他の出演者には図抜けた才能は感じなかった。無論力量の差はあるもののどんぐりの背比べという印象。観客層も他愛のないギャグに笑う人が多いと感じた。エンタメとはいえ本所にある小屋である。もう少し粋な作品に仕上げて欲しかった。

ThreeQuarterカウントダウン公演「1…」

ThreeQuarterカウントダウン公演「1…」

四分乃参企画

JOY JOY THEATRE(東京都)

2024/12/27 (金) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ThreeQuarterカウントダウン公演「1…のエイトチーム観劇。つか作品は様々なヴァージョンがあるが、このバージョンは初見。つかの本質を見事に伝えている。追記12.29午前8時半

ネタバレBOX

 言わずと知れたつか こうへいの傑作。而もつかは演劇は各回限りのものというスタンスで長い間通していたのでアテガキも多く脚本に様々なヴァージョンがあり、その多くは残って居ない。今作も『売春捜査官』としては初めて拝見する内容のものであった。それ故新鮮であり、演出も新鮮なら照明や音響、劇中に用いられる様々な歌のセレクトセンスも良い。演出は、つかがその作品で鮮烈な単語や苛烈な単語を敢えて用い、状況を日常から際立たせるつか独自の表現法の齎すインパクトを上手に活かしつつ、実家は可成り裕福であったものの在日とあって差別される側でもあったであろう苦労・苦悩を味わったに違いない彼の優しさが立ち上ってくるような直截で本質を良く捉え、観る者を突く仕上がりになっており、役者陣の演技もグー。解散となるのが名残惜しいスリクオのカウント8公演を拝見。
 ところで今後長野で劇団四分ノ三としてスリクオの魂を受け継いでゆくメンバーも居る。長野迄足を延ばせる方々は、是非追い掛けて残り四分ノ一を加えて欲しい。
隧道

隧道

劇団ZERO-ICH

駅前劇場(東京都)

2024/12/25 (水) ~ 2024/12/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ウチナンチューのアンヴィヴァレンツを内側から描いてグー。追記12月29日15時25分 

ネタバレBOX

 レイアウトがちょっと変わっている。板3方をコの字を180度回転させて客席を設え、開口部に繋がる真ん中に板。この板、コの字の底辺部分で劇場床面に接する部分、平台の当たる部分に分かれ丁度全体が水平になるように作ってある。上演の中心になるのは板部分が殆ど室内として用いられる為板底辺のアテガイのある部分は部屋に上がる為に上がり易いように下足を平台上で脱ぎ室内に入るようになっておりその部分は板の一部が除去されている。またコの字の開口部には両開きの戸のついた木製コンテナのような形の大道具が設えられており押し入れの様な内部に場面、場面で様々な小道具が入れられたり押し入れになったりしつつ利用される。
 物語は、沖縄・今帰仁から上京したウチナンチュー・サトシが芝居で沖縄の現実を芝居を通じて訴え変革する為に生きて行くという夢を仲良しだったアキラという名の少女が演劇と出会い女優になることを目指しサトシと演劇で生きてゆこうと約束したことを契機に、東京へ出て一旦約束した初心を失いかけた状態から、実現する為の精神を回復、明日へのの営為を再開する迄を描く。沖縄に多少は関心のあるヤマトンチューなら日本国土面積の僅か0.6%を占めるに過ぎない沖縄に在日米軍基地の70%以上が未だに集中している事実は知って居て当たり前であるが、只浮かれているだけのヤマトンチューはこの重い現実を変える為にウチナンチューやシマンチューと一緒になって基地問題に関わることはない。これは敗戦直後、裕仁が沖縄を見捨てシベリア抑留を許したという経緯からも考えねばならぬ問題であるのは明白であろう。が同時にヤマトンチュー全体が恥多き地位協定を自らの問題として明確化し改善してゆくべき問題として対処してゆくべきなのである。我がことに非ずとすること自体ナンセンスである。
 今作のクライマックスは19歳の大学生であったアキラが2011年米兵3人によるレイプと暴行によって殺されたことが描かれる事件を中心としたシーンである。ここでウチナンチューの複雑な心理、立場の核心が描かれ、観る者の心を抉る。この作品の肝でありタイトルの「隧道」が関わってくる。というのも問題のある不動産物件に不動産屋をやっている幼馴染がサトシに月60万円を支払い住んで貰って物件をロンダリングして貰うことから今作の肝部分が展開するからである。第Ⅰ段落に書いたコンテナのような大道具が押し入れとして用いられこの押し入れが冥界と繋がっているという設定で、押し入れから冥界への通路が隧道なのである。そしてアキラはこの隧道を通ってサトシと再会した。その時のサトシは東京へ出て何時か当初の誓いを忘れかけ演劇をやり続ける意味も見失いかけ生きている意味すら見失いかけていた。然しサトシはアキラとの再会で誓いを再体験し喪っていた魂を取り戻すことによって再び生きていることの意味と何故演劇をやり続けているのか、その意味を再発見して未来に立ち向かってゆく。今作が実際に舞台化しているのはあらまし此処迄である。
 ところでレイプされても被害を受けた女性は、それが自分の周りに知られ恥となることを恐れ親告しないケースが多いのが実態である。2011年当時の法では親告罪だったので猶更多くのレイプ事件が表沙汰にならず闇に葬られたであろうことは想像に難くない。私事になるがフランスに留学していた時に授業で『自分たちが抱えている問題をクラス全員の前で発表する』という授業があり自分は米兵による日本人女性レイプの実態を報告した。するとクラス内に居た2人の米国人がアヤを付けてきた。「米国人がそんなことをするハズが無い」というのである。すると矢張りクラスメイトであったドイツ人が「ドイツでも同じことがある」として日独VSアメリカで大喧嘩をした。自分は日本の法規では親告罪なので自分が上げた数字は公式のものであり実態は上記で示した如く親告しない被害者が多い為遥かに多いことも説明していたのだが対するアメリカ人は「アメリカ人がそんなことをするハズがない」の一点張り。非論理的でフランス語も我々よりずっと出来が悪い完全なアホであるとつくづく思った経験を持つ。無論、アメリカには以前別の処で書いた通り自分の知り合いで一番賢かった女性も渡り日本には帰ってこない、彼女のような超エリートも居る。だがそのような超エリートが元々のアメリカ人でないことも多いのが実情である。他にも自分の友人の科学者が何人かアメリカに渡り帰化してしまった。当然だろう。超エリートたちに対しアメリカの待遇は桁違いに良い。戻って来る筈がないではないか。こんな風にして日本人で殊に優秀な連中の頭脳流出はとうの昔に始まっていたという側面もあるから、アメリカ人と一口に言っても一様でないのは当然である。がどんな国でもアホと下種は残念乍ら居る。日本で米兵による日本人女性に対するレイプ事件等の犯罪があった場合、最も問題なのが先に挙げた地位協定である。講和条約が結ばれた時、日米行政協定という名で結ばれその後現在の地位協定と名前が変わったもののアメリカが圧倒的に優位な内容は殆ど変更されていない。これは講和条約より実際にアメリカが日本を植民地として利用する為に最初から狙っていた法的手段であり、吉田茂が1人でアメリカ側と交渉、署名し現在に至る迄禍根を残している事実だ。名宰相どころか吉田茂も国賊である。我々ヤマトンチューが沖縄の人々に掛けて来た苦労・苦悩・被害に最も真摯かつ有効に報いる為にはアメリカに対しキチンと日米地位協定の改善実行をさせることが肝心だと信じ、これを最終段落に記しておく。
ミシンとこうもり傘が解剖台の上で偶然に出会ったように美しい

ミシンとこうもり傘が解剖台の上で偶然に出会ったように美しい

Alice Theatre Laboratory

あかいくつ劇場(神奈川県)

2024/12/13 (金) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 香港のグループが公演、一所懸命で好感を持った。広東語上演、字幕付き。字幕も観易かった。華4つ☆

ネタバレBOX

 タイトルは無論ロートレアモンの「マルドロールの歌」に記された有名なフレーズに由来するが、今作は他にジャンコクトーの「詩人の血」や香港作家が書いたシチリア人がショーウィンドウ内に置かれた人形に恋する人形愛を描いた作品をベースにしたもの、我々の生きている時代に実際に見られるカルトの主張を挿入し、人々が長い時代に耐え生き残ってきた人としての倫理を規定するような普遍性を具えた哲学実践を見失い、似て非なる或る意味先鋭的で普遍性をも持つかのような似非論理に惑わされる様をも描いている他    『節約計画』なるイデオロギーによって必要不可欠な脳等を残し必要度が低いと判断された身体部位をオペによって切除し他の機構で代替するようなことが実行されたりもする。この『節約計画』を政治的に解釈したり、カルトも同様に民主化弾圧をしている現実の政治が『共産党』を語っている欺瞞をもパロディー化していると捉えることはできる。(現時点でマルクスが理想とした共産主義を実現した国は世界に1つも存在していない。多くは官僚主義的弊害に陥り、本来一時的過程であるべきプロ独を恰も理想が既に実現されたかの様に振舞っていることは欺瞞以外の何物でもない)
 まあ、以上挙げたような様々な解釈ができる作品であるが、作品のコンセプトはシュールレアリズムであるから別の解釈もできようが、シュールレアリズムを如何様に規定するかもことほど左様に単純ではない。例えばブルトンとヴァレリーの関係についてのみでも研究者によって見解は異なるからである。
トリオ

トリオ

NonoNote.

シアター711(東京都)

2024/12/18 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 仲間内で1人の男の争奪戦! 

ネタバレBOX

 物語は主として女性音曲漫才トリオの楽屋で展開する。この楽屋、かつて長らく小屋でピンを張っていたリーダーが、着替えが間に合わないと板に一番近い場所に作らせた楽屋とあってそれなりの格式と総支配人との様々な関係もアカラサマであるが、問題はトリオのメンバー3人総てが副支配人と関わっていることである。時は1970年代初頭、未だベトナム戦争は終結しておらずディケイドの初めには三島の割腹、72年には日中国交正常化、沖縄闘争をメルクマールとしての左派弱体化、舞台となっている新宿のヒッピー、フーテン、フォークゲリラ、サイケデリック流入と共に流行ったLやG等々、実に面白い時代ではあったが、今作ではそのような即面を持っていた昭和の特に新宿の騒乱状態は殆ど触れられておらず、脚本家は泥臭い時代だったと捉えているのではないか? と感じた。実際に当時宿で遊んでもいた小生などはそのように感じるのだ。まあ、ラリッた奴がアイスピックをカウンターに入って持ち出し他人を刺したりヤクで矢張りラリッている奴が刃傷沙汰を起したりはあったが、誰が店の人間なのか分かっていない客が多く、そいつらもラリッていたりしたので、怪我人の周りだけがワヤワヤしている状況で他は何てことはなかった。唯兎に角アナーキーな時代であった。
 そんな時代にⅠ人の男を取り合う女たちの三つ巴の戦いが描かれる。ソフィスティケートされていないギャグが多用されたり、サービスのつもりなのか、くどいと感じる場面が多かったのは脚本のせいなのか、演出のせいなのか不明だがスマートではない。(まあ、この辺り観客の好みもあるから一概には言えないものの)中盤から後半に掛けてはドンデン返しもあり楽しめた。
イヨネスコ『授業』

イヨネスコ『授業』

楽園王

サブテレニアン(東京都)

2024/12/17 (火) ~ 2024/12/21 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 元々20年前に利賀演出家コンクールで優秀演出家賞を受賞したメンバーでの再演。

ネタバレBOX

 今作、不条理劇の代表的作品の一つとして名高いこともあり実に多くの演出家が独自の解釈で自分なりの捻りを加え随分印象の異なる作品に仕上げて舞台化してきた作品だから舞台を実際に観た人は多かろう。然し利賀演出家コンクールの規定で戯曲自体(今回作は翻訳)を基本的に変更できない、という縛りがある為、今作では教授の狂気を可成りストレートに表現している点が逆に極めて新鮮に映った。然し大きな工夫は無論ある。起承転結を入れ替え転結を前半で演じ、起承を後半で演じるということをして惨劇が永遠に続くことを示唆しているのだ。而も被害を受ける女生徒たちは何れも手錠を長めの鎖で繋いだ手枷をはめられているのである。この辺り何を象徴させているか? を考えさせ、多様な解釈を観客に任せている点が実に上手い。更に教室の壁には3つも掛け時計が掛かっており、それぞれ示す時刻が異なっている。このことの意味を考えるのも面白かろう。教室入口脇には書籍が詰まった書棚が二つ。如何にも全博士課程を修了した教授という実績を物語っている。近在の人々の間で極めて著名な教授であるが、実際に行っていることは殺人でありそれも大量の連続殺人であるのに、訪れる生徒たちが絶えないことも不条理だが、それはおいても登場する人物5人の中で何度も教授に危険だと忠告することで唯一正常な人間であると思わせる家政婦のマリーが、とりわけ危険な数学の授業だと分かり切っているにも関わらず教授の凶器であるナイフをテーブル上に置くのは、目立たぬ様で正常らしき人の持つ性質の悪い狂気を現わしている点で最も怖い。
S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~

S(さりげなく)F(fiction)~知る由もない彼らの人生~

藤一色

中野スタジオあくとれ(東京都)

2024/12/14 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 「藤衛門」を拝見、圧倒的な科白量を1人でこなす。他の登場人物たちは総て何種類かの椅子で代用。18世紀に作られた江戸絡繰りが主人公だが余りに先進的な技術が用いられて居た為、往時全く理解されす、休眠していた。発見されたのは1997年、発見者はタビノちゃんという小学4年生。華4つ☆(追記後送)

その男ホーネット加藤

その男ホーネット加藤

映像劇団テンアンツ

「劇」小劇場(東京都)

2024/12/11 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ベシミル。華5つ☆。
 2部構成の作品だが第1部「燃えよ前説ドラゴン」を拝見。第2部も痛烈に観たくなる出来だ。

ネタバレBOX

 掴みは小ネタやコントのような形式を用いたりもしつつ伏線も同時に張る趣向で、観客の
興味を兎に角板上に惹きつける。この辺り、小劇場演劇に関わる劇団の苦労が分かる作りであることは、本編がストレートプレイの王道をゆく内容であることからも明らかだ。つまりギャップが大きい。その落差の分本編の深刻さ、演劇化された現実のリアル、一般の人々には知る由もない被害者たちの苦しみ・苦悩と、その苦境を救うお伽噺の切実が観客の心を撃ち抜くのだ。脚本、演出、演技もグー。特に加藤役、詩穂役が気に入った。以下少々ネタバレ。
 元役者で才能も情熱もあったが、現在は芝居にのめり込む余り一人娘を連れ他の男の下に走った妻と別れ、それでも芝居からは離れることができないまま前説士として小劇場演劇に関わり続けている男、それがホーネット加藤だ。功夫映画の全盛を築くきっかけを作ったブルース・リーに憧れ独学で彼の功夫(ジークンドー)を学んだ加藤は、偶々オーディションで出会った少女が、実は妻に連れ去られたまま生き別れた実の娘(詩穂)であることを知る。詩穂は腕に包帯を巻いていた。
 原因は、義父である班に12歳でレイプされて以降性的虐待、売りをやらされその上がりを総て収奪され、暴力てねじ伏せられて自殺未遂を何度も図るような地獄に追い込まれていた事である。実母は班を恐れ全く当てにならなかった。加藤は実父であることを隠しつつ、詩穂の傷ついた魂を何としても救うことを決意する。
 当然の事ながら班は徒党を組み配下を従えており、務所内から配下に指令を出しては魔の手を広げている。遂に・・・。後は観てのお愉しみだ。期待は裏切られまい。
星降る教室

星降る教室

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ベシミル。未だ埋まっていない回もあるとのこと。寒くなって来た、ジンワリ温まれる、お勧め作品である。

ネタバレBOX

 板上はホリゾントの幕に樹木が立ち並ぶさまをあしらった。この樹木群はその枝葉が厳冬早朝の陽光に輝くように煌めいている。物語は20年程前にラジオドラマとして書かれた作品がベースになっているが大きな変更は無いリーディング公演だ。尚、ラジオで放送された際にはディレクターが賢治へのオマージュ作品を連続放送するという企画の1編として放送された。童話系の物語なので賢治のみならず「不思議の国のアリス」に出て来る兎のようなキャラも登場する。無論、他にもクラムボンや茸の集団、猫、桜の木、アネモネ、泉等々たくさんの生き物や自然が人間同様に喋ったりオノマトペを用いた表現をしたりと小学校6年生のイマジネイション豊かな子供と同等の交感を交わす亜空間がその不思議な世界だ。
 きっかけは現在教師になっている、主人公の転校生で1年間雫の森小学校で学んだだけのユキコに担任だった青木紺次郎先生から葉書が届いたことだった。20年後の今、卒業式を挙行する招待状であった。彼女は雫の森小学校へ出掛けてゆく。だが思い出は既に忘れてしまっており総てが新たな体験のように瑞々しい出会いの経験として展開してゆく。この設定が素晴らしい。総てが新鮮に観客に伝わるからである。こうして初の体験という感覚で“小学生”ユキコは観客を物語に没入させてゆく。
 作・演出の吉田 小夏さんの才能はこれだけに留まらない。リーディング公演だからこそ、敢えて効果音の多くを口ジャミでこなし、マイクや人工的な機器は使わず、鈴のような原始的楽器のみを併用する。またテキストも完全に暗記せず、丁度音楽家が譜面を見ながら演奏するような具合でリーディングの質を自然な状態で推移させてゆく。このような配慮が実に微妙なバランスの上で成り立っている自然に人間が感応することを可能にしているのだ。同時に転校生故のデペイズマンもユキコを他の子供たちから心理的に孤立させ人間集団内のみの会話・対話と少し周波数の異なる自然界への窓を開けている点にも注目したい。ヒトは余りに人間集団に馴染み過ぎると、自然と感応し得る孤立と孤独な感性を見失う。すると大抵の人は孤独感・孤立感でその身を削り本来持っていた繊細性を喪失してしまう。
 すると自然を荒らしていることに気付かなくなる、後は推して知るべし。今作の持っている温かさは、ユキコの持っているこの繊細性が自然と感応し、例えば厳冬の朝ぼらけ、立木の幹に触れてみると良い、生きているもののほのかな温かさが伝わってくる。そのような暖かさが作品を通して伝わってくる点に今作の温かさが在る。
亡霊の地

亡霊の地

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

中野スタジオあくとれ(東京都)

2024/12/06 (金) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆ 断固ベシミル。当日2000円のリーディング公演。初日はほぼ満席であった。

ネタバレBOX

 紛争地域から生まれた演劇、今回はこのシリーズ16番目の作品群である。作:アンドリー・ボンダレンコ 翻訳:万里紗
 今作は『蝶』『罪と罰』『結婚持参金』と題された3本がオムニバス形式で朗読されるが、共通項はトラウマと解釈することができよう。このトラウマは攻める(責める)側にも攻められる(責められる)側にも表れ方こそ異なるが表れる。
 大切な観点は敗戦後日本は、国家として戦争行為に直接関わってこなかった為か、多くの日本人が実際の紛争・戦争状態のリアルな状況を受け止める為の想像力を欠落させている点にあるように思われる。その結果、自分の日常的な感覚や体験をベースにニュース映像や様々な媒体によって流される映像を見て分かったつもりになることではないだろうか? これらの映像には腐乱し膨張して腐臭を発する遺体の惨憺たる有様も、そのような状況に至る迄に自らの住地が爆撃や種々の砲撃・銃撃、ミサイル攻撃に晒され生きた心地も無く、眠ることも出来ないような状況の中で飲み物、食べ物にも事欠き逃げ惑う他無い恐怖も無い。敵に見付かれば拷問、殺戮、レイプ、虐殺等々の憂き目に遭う可能性に怯えるストレスも無ければ、子供や年取った父母を如何に逃がすか? の懸念や責任も無い。無論己自身が生き残れるか否かも誰にも分かりはしないのだ。
 このような状況で生きていること、尚生き続けようとすることと守らねばならぬ人々を抱えていることが如何に大きな負担を個々人に強いるか? そのように強大な負担にヒトはどのように反応するか? この3編は痛烈な評を伴いつつ一つ一つの裁を下し、問うている。果たしてヒトは? と。
沖縄戦と琉球泡盛

沖縄戦と琉球泡盛

燐光群

吉祥寺シアター(東京都)

2024/11/30 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 小生、長年の不摂生が祟って今年は正月明けからアルコールにドクターストップが掛かっているが、今作が提示する深刻極まる沖縄の状況にも関わらず、泡盛を心底飲みたいと思わせる暗くなり過ぎない作品に仕上がっている。ベシミル!!

ネタバレBOX


 板上は天井から吊り下げられた3本の太い筒のような物体が3本。予算の関係で他の物(泡盛の瓶が立ち並んだ棚やカウンター代わりのテーブル、椅子等は場面に応じて適宜用意される)は、簡易な形態の物を用いている。沖縄の苦境を描くとこのような状況に陥るのかも。なんちって!
 ソ連崩壊以降のデタントで北方に展開していた自衛隊員の多くが対中国戦へとシフト。第1列島線に沿う形で殊に島嶼部である奄美から琉球弧全域に掛けてシフトしたのは気を付けている人々には自明のこと。今作では沖縄のことを描いている関係からであろう、鹿児島県に属する奄美のことには触れていないが興味のある方は調べてみると良い。何れも最大の被害を見込まれる地域の既存の条例等を日本国家というアメリカの属国が無視しアメリカの言うなりに対中国の最前線戦闘地域として機能すべく設定されているのは自明である。自衛隊員は定員割れが続き仮に日本政府が並べる御託通りにある時期戦闘が展開するにしても、中露が組めば核弾頭の数だけでもアメリカを凌駕するし、中国の現在の軍事費を観れば到底日本等の及ぶべき規模ではない。何れが有利か少し頭を冷やして考え直してみるべきである。イケイケで実際に戦闘状態になれば、第Ⅰ列島線状に連なる島嶼地域は再び地獄と化さざるを得まい。こんな愚を避けたい。そのような島民の切なる念(思い)を込めて仕次を繰り返し第2次大戦で失われる迄は200年、300年の古酒(クース)が保存されていた沖縄に再び戦禍が無いよう祈りのような作品である。つまり古酒が生まれる為には平和な世が続くことが前提となる。泡盛が古酒になる迄に親酒(アヒャー)となるものの他により新しい年の酒が理想的には4つ必要だ。最古のアヒャーを1とすると、1の甕から幾らかを飲むなりして減らし2の甕の酒を蒸散などを含めて減った分1の甕に移す。2の甕には3の甕から減った分を移す・・・と継ぎ足し混交して順次より古い古酒としてゆく。この過程で甕が割れるような戦が起こらないことが大事な条件の1つということになる。
 このように沖縄の平和を願う杜氏たちや泡盛を出す飲み屋等の関係者を縦糸に沖縄県東村高江へのヘリパッド建設反対運動に関わって高江に通っていた女性を織機の横糸を通す杼にして物語を自由闊達に編み込んでゆく。
サド侯爵夫人

サド侯爵夫人

プロジェクト榮

銕仙会能楽研修所(東京都)

2024/11/30 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今回の公演では、役者各々の戯曲解釈がより深く身体化された表現に達していたように思う。この感想が自分自身の三島アレルギー弱体化によるのかそれとも自分が感じた通りなのか或いはその何れもが作用して相乗効果を発揮したのかは定かでないので、もう一度ゆっくり戯曲を読み直しつつ講評を追記したいと思っている。もう少しお時間を頂きたい。

「扉」から連想した短編戯曲リーディング/演劇の現場でのハラスメントを考えるフォーラムシアター

「扉」から連想した短編戯曲リーディング/演劇の現場でのハラスメントを考えるフォーラムシアター

日本劇作家協会

座・高円寺2(東京都)

2024/11/30 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 日本劇作家協会が『扉』を題材に公募した短辺戯曲の応募総数、今回は69本。内6本が選ばれ座・高円寺Ⅱでリーディング公演及びブラッシュアップの為の現役劇作家2名によるトークセッションがあった。
 上記公演は昨日のみ、華5つ☆であった。本日(12月1日)は別の演目がある。

ネタバレBOX


 リーディング作品は以下の6作。
今井雅子さん  :『納期』
富田晴紀氏   :『ドラマなんて起こらない箱の中か外』
カタモトキザオ氏:『便所での事件簿』
新宮虎太郎氏  :『贔屓貝』
高山遥さん   :『天国への扉』
中野そてっつさん:『ライスが選べる! サバの夏野菜伽喱ソース洋風小鉢付き定食』
 ブラッシュアップ・セッションに登壇したのは
長田育恵さん及び小野寺邦彦氏、司会は山田裕之氏

 選ばれた作品の質の高さにまずは驚嘆。若い劇作家各々のベースにした様々な作家・作品の影響の残響が観られるものもあるが同時に独自で個性的な作品のテイストをも持つ作品、或いは思い掛けない発想から出発して書かれた作品等何れも個性的で優れた戯曲ばかりで今後の活躍に期待したい。またリーディングに携わった役者陣(5名:井上加奈子さん、鈴木裕樹氏、玉置玲央氏、森下亮氏、矢柴俊博氏)の間の取り方、声の質と活舌の巧み、演出の良さにも唸った。更にブラッシュアップの為に現在活躍中の劇作家からのサジェッションがあったが極めて的確で示唆に富むものであった点にも流石の感を持った。
ウエストサイドのオペラ座の殺人          

ウエストサイドのオペラ座の殺人          

カスタムプロジェクト

調布市せんがわ劇場(東京都)

2024/11/29 (金) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 ジェット団とシャーク団の登場は無論だが、これにオペラ座の怪人が絡む。正答率数パーセントの謎解きに何処まで迫れるか? これが問題だ! 楽しめる。

ロケット・マン

ロケット・マン

劇団鋼鉄村松

劇場MOMO(東京都)

2024/11/28 (木) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 30周年おめでとうございます。こういう作品を劇団初期に初演していたとは。凄い!
今回が3回目の公演、自分は初見で自分の考えていることと重なる部分もあり大変驚くと同時に楽しめました。残席の或る回もあるとか、ベシミル!

ネタバレBOX

 劇団初期に書かれたということは30年近く前に、国家間の紛争や戦争を回避する手法として世界統一政府を樹立して国家VS国家の戦争を失くすことに成功。プロメテウス計画を立ち上げ推進して光速を越えようと実証・実験を繰り返してゆく。この実証・実験に欠かすことのできない証人が、今作の主人公である宇宙飛行士即ちロケット・マンである。今作の凄い処は、これだけ宇宙に関する科学的知識を持ち仮説を含め光速を越える為の論理を構築検証してゆく中で現代物理学で質量を持つ物は光速を越えられないという原理(これは相対性理論で最も有名な公式E=MC²を紐解いてみれば容易に分かる。今更だが一応説明する。因みにEはエネルギー、Mは質量、Cは光速である。要は質量とエネルギーは同質であり条件次第で物質にもなればエネルギーにもなる。光は電磁波の一種の波エネルギー。ところで質量とエネルギーは同質であるが物質が光速に近付けばその形態はエネルギーにより近づくから物質としては存在し得なくなる。これが質量を持つ物は光速を越えられない理由だ)をプロメテウス計画遂行の為に莫大な予算を注ぎ込み世界人口の半分以上は今や食うや食わずの極貧、教育も市民権等ヒトとしての諸権利もあったものではない。この貧民層から偶々エリートコースに掬い取られその内部でそれなりの地位を築いた者たちの中から中央エリートに敵対する勢力も育ってきていた。人類の半分以上を占める下層民が氾濫を起した時彼ら貧民をサポートし反乱の主導権を握り上層部の企てを破壊しようと蜂起した民心の念の深さとプロメテウス計画で探求される宇宙の奥深さのうち、どちらが勝るかについての答えも出して物理学から人間と科学の問題に巧みにすり替え、以て先に説明した物理学的正解ではなく、質量でない概念で光速を越えようとする論理を用いて形式論理として矛盾の無い形でとても観客に分かり易く軟着陸させてみせたシナリオの見事なこと。演出も切れのあり、役者陣の演技も良い。
 浦島太郎が抱えていたであろう果ての無い寂寥にも、より受け入れやすい答えが出せているのではないか。この点も見事である。
『晴耕雨読』

『晴耕雨読』

ウテン結構

六本木ストライプスペース(東京都)

2024/11/26 (火) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今作、既にSpiral Moonが上演しているが、こんなに印象が違うとは!

ネタバレBOX

 音響の使い方(終盤の照明も)が極めてソフィストケイトされており上手い。脚本はSpiral Moonのものと男女の入れ替え等多少書き換えはあるが大きな相違は無い。但し演出、舞台美術は可成り異なり役者も無論異なるので脚本が同質であっても、演出、舞台美術、役者の違いがこんなにも大きな印象の差を生み出すのか! と驚きを禁じ得なかった。既にSpiral Moon版を観た方々も十二分に楽しめよう。
 基本的に出捌けは観客席後方の溜まりから役者陣が客席間の通路を通って入退場するが、演技空間の中央に置かれたテーブルと椅子の下手のベンチ、上手の椅子2脚に一旦演技を終えた役者が座れるようになっている。他下手やや奥に衝立が置かれここが袖としても機能する。また上手側壁の手前には白い布が天井付近から下がっているが、壁を意味して居ると考えられる。この演技空間から見た客席側が部屋の窓という設定である。
 物語は幾つかの挿話をオムニバス形式で紡ぎ展開するが、きりの良い箇所で断絶させ、終盤「竹取物語」のかぐや姫の失踪をモチーフに現実に存在し続ける人間たちとファントーム的傾向を漂わせる或いは本質とするかぐや姫を対置していわば条理と不条理の世界を同時に強調、表現して見せる点が秀逸。尚登場人物たちは履物を履いている者、履いていない者の二通りに別れるが、屋内、屋外でということはあるものの、終始履物を用いる者達は実際に存在し続ける通常の人間を、裸足の者達はファントームを意味していることも見逃すべきではあるまい。
ゴーギャンおやじ2

ゴーギャンおやじ2

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 初日を拝見。華5つ☆ タイゼツベシミル❢!(追記後送)パート1,パート2でトーンが大きく変わる。間に10分の休憩が入るが、この休憩中も板上では名場面集が上演されている。

ネタバレBOX


 アメリカの実質的植民地同然の属国としてしか機能していない情けない祖国の為政者共の体たらくと、とうの昔に畜人と化した上その下で蠢く畜生同然の多数派。これらの小賢しい畜生VS棄民同然の自由人。
 ちば てつやの傑作「あしたのジョー」を、福生にある米軍横田基地の絶え間ない軍機の騒音と基地の街特有の人間精神内面からの浸食を経て生きる為に実存せねばならぬ泡沫の如く遇される人々の待ったなしの生活とその遣る瀬無さ悔しさ屈辱を跳ね返そうとする正当な反発が、国民を守るべき祖国の国家暴力装置である警察に対峙せざるを得ない状況を重ね合わせつつ遺憾なく描いて見せた傑作。断固観るべし!!
お父さんと漫才(東京公演)

お父さんと漫才(東京公演)

Card Case (宮下涼太プロデュース)

高田馬場ラビネスト(東京都)

2024/11/22 (金) ~ 2024/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 楽日、ソワレ公演を拝見。華5つ☆。世話物の持つ柔らかな感性を見事に描き観客を自然に巻き込む手腕が素晴らしい。ベシミル! 
 ネタバレでも内容についての詳述はしていない。何故なら会場に出掛け、実際に舞台を観ないとこの一体感は味わえないからである。

ネタバレBOX

 敢えて「世話物」という言い方を採る。無論、このような言い方は現在の日本では浄瑠璃と歌舞伎で用いられる以外には余りあるまい。だからこそ、こう言いたいのだ! 最早、現代日本社会でこのようなタイプの人情は完全に滅びたと感じざるを得ない日常を経験し続けていることがその理由だ。少なくとも東京の街中、公道、電車車内、公共施設、大型の販売店等で人々の行動を見る限り公共マナーは完全に地に落ちた。洋の東西を問わず、外国人の方がよほどまともである。これに対し現代日本ではディスコミュニケーションが当たり前で、何か起きた時、状況に応じたコミュニケーションができる人は稀になった。誰も自分でことに当たろうとせず、知らんぷりを決め込み誰かが何かを始めるのを待っている。失敗でもすれば冷笑、嗤笑、憫笑、忍び笑いの嵐だ。こんな具合に笑っている連中その者たちが考えていたことは明らかである。自分がしゃしゃり出て失敗したら・・・。である。
 今作の登場人物にそんなキャラは幸いなことに一人も居ない。そのような老若男女が紡ぐ庶民の人情譚である。今作が凄いのは、脚本、演出、キャスティング、演技、舞台美術や照明、裏方さんの対応総てが混然一体となって表現しているもの・ことと、その実現である今公演が実に自然に観客を巻き込み演劇空間を成立させていることだ。
 重複にはなるが、世話物とは庶民つまり我々と同じ町場の人々の話であるから、最も大切なことは観客に自然に感じられることだ。言うは易いが舞台でこれを実現することは極めて難しい。冒頭に上げたような日々が今や都市部の日常となる中、今作に描かれるような人間らしく温かい人情のある、そしてそれが通用する世界へのノスタルジーでは無いことを今後の日本で尚生き続けねばならぬ総ての人間の為に願う。
クリスパ ❤ グランデ

クリスパ ❤ グランデ

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2024/11/20 (水) ~ 2024/11/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 貫禄の第50回本公演。随所に歴史を重ねてきた劇団ならではの表現、表象があり、流石と唸らせる。

ネタバレBOX

 娯楽を標榜しての本公演50回目、流石に貫禄がある。しょっぱなから雰囲気が矢張り凡庸な劇団とは異なるのだ。自分が感じたその理由を少し説明しておくのも良いかも知れない。
板ほぼ中央の浴場手前下足入れの上辺りに照明の加減で十字架に見えるオブジェがある。銭湯が英語のセイントに掛かり、当然のことながら登場人物たちの苦境を救うプレゼントの持参者である聖人の名に掛かるのである。更に何故、この聖人が閉めた銭湯に入れたのか? については直ぐ気付けるだろうが一応記すと、初めて訪れた町で銭湯を探す場合、高層建築の多く無かった時代には、これを探せば良かった。贈り主は、Xmas前日、ここから入って子供たちの眠る枕元にそのプレゼントを届けるのだから。だが、これだけでは終わらない。板上で芝居が始まるとほぼ同時に客席側から讃美歌を歌いながら入場してくる白装束の集団が現れるからである。このような幾層もの表象や暗示、象徴、関連文化迄がオープニングの僅かな時間の中にそれとなく埋め込まれ洋式ウェディングという儀式の文化的背景と日本の伝統や生活とをしゃれっ気たっぷりに融合し止揚しているのである。
物語自体の内容を余り詳しく記すことはしない。誰もが観れば分かるように創られているからである。
 だが終盤、聖書からの引用をキチンとし的確なタイミングで新郎となる者、また新婦となる者各々に理に適い而も柔らかく、言われる側に相応しい内容の説諭をして聞かせる神父の威厳に満ち静かだが揺るぎのない挙措を支えている精神沃土迄感じさせる程、西洋の宗教の最も深く高貴な部分を縦糸にして示し、一方目まぐるしく変わって予想を裏切られ右往左往する大多数の普通の人々の置かれた思うようにならぬ状況とを横糸に表現している今作の脚本、それをキチンと構成し劇化した演出、これら総てを肉化し舞台上に奇蹟を具現したかのような神父役を始め個々の役者陣の演技が程よく噛み合い良い味の作品に仕上がったことは記しておく。

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