ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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劇団鹿殺し Shoulderpads 凱旋公演+abnormals 3作同時上演

劇団鹿殺し Shoulderpads 凱旋公演+abnormals 3作同時上演

劇団鹿殺し

駅前劇場(東京都)

2025/11/30 (日) ~ 2025/12/07 (日)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★

 Japanese Versionを拝見。華4つ☆ 

ネタバレBOX

 エディンバラ凱旋公演3作品の1つ。「銀河鉄道の夜」をベースに紡がれているが、目玉は、オープニングシーン以外、男性は総て2shoulderpadsを衣装として纏い演じることだ。銀河鉄道内部は椅子が客席として用いられるものの、基本的にはフラットである。ホリゾントには天井からガラス玉が吊り下げられ諸星を表している。照明の加減で星の煌めきを幻想的に表し歌や音響効果を伴って詩的雰囲気を醸成する。
 授業風景等も出てくるが教師役が肩から斜めに掛けた電飾が銀河を表すなど小道具の工夫が可愛らしい。
 クライマックスは無論、ジョバンニとカムパネルラが銀河鉄道に乗って旅をする道中にあるが、終盤カムパネルラに助けられたザネリが恰も自分は泳げたんだが云々の言い訳をしている際、クラスメートからカムパネルラが飛び込んで押してくれたから助かった、との突っ込みを入れられるシーンでカムパネルラの父が、川に落ちてから45分が経ちました以下の台詞を淡々と述べる下りは、研究者としての客観的な物言い故に更に深く胸を撃つ。 
 我ら宇宙の塵に過ぎない存在が銀河を翔け、宇宙の広大無辺と交わりながらその儚い命を燃やす姿と我らの暮らす天の川銀河の対比が感じられる点がグー。
あたらしいエクスプロージョン

あたらしいエクスプロージョン

CoRich舞台芸術!プロデュース

新宿シアタートップス(東京都)

2025/11/28 (金) ~ 2025/12/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 バランスよく、飽きさせない。

ネタバレBOX


 戦中、敗戦、敗戦後、GHQ占領期迄を含む時代を日本で初のキスシーンを映画人として撮ることになった、未だ製作者に職人の誇りと拘り、兎に角映画に纏わる何かが好きという純な情熱を懐胎していた人々の時代に翻弄されつつも何とか必死に日々を生き、為したいことを追求した姿を描く。バランスの良い舞台。場転が多いから着替えだけでも大変で12月1日マチネで回数が1番多かった役者さんは19回、2番目の方が18回。という凄まじさ。大きなトチリも無くこなしたのは役者陣の力と褒められて良い。
 脚本も練られたものでメリハリも良く、退屈させない。アメリカの上から目線は随所に描かれているが、相変わらず今も続いていることには留意しておくべきであろう。
三つの透明な和音

三つの透明な和音

劇団回転磁石

スタジオ空洞(東京都)

2025/11/27 (木) ~ 2025/11/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

華4つ☆

ネタバレBOX

 三作品何れにも共通するテーマは女性の孤独である。この孤独に女性達は苦悩している。ではこの孤独を彼女らに齎しているものは何か? それは彼女ら独り、孤りを取り囲む社会である。タイトルにある‟透明“は、彼女らの生きて働く実存を温かく抱擁し柔らかに受け止め同じ生きる者として対等に接したり観られたりされていないことから来る孤立によって、生きていることの意味、実感、喜び、実の或る悩み等々が失われ自らの存在意義が透けてしまって最早、自己確認の根拠すらも持たぬ侘しい孤立である。
 近年ジェンダー論が、盛んに論じられるが何だか自分には根底に女性達が抱えている上記の如き事態が存在し続けているように思われる。
 実際の物語の描き方は、上記の観点から書かれているシナリオには表現されておらず、筆者の如き捉え方をしなければもう一回り外周にある社会性は隠れてしまって観客に届きにくい為、作品が真に訴えたかったことは中々伝わらないと感じる。三話何れの作品でも主人公の女性は社会に貢献しようと一所懸命に生きている。だが彼女が認めて欲しい社会、即ち彼女の人間関係の中で肝心な人々が彼女を第一段落で挙げたような形では彼女を認めてくれない、乃至は認めてくれていた人が亡くなってしまう。三つの作品は各々全く異なった状況下での女性の孤独を扱っているので作品によってややショッキングなラジオニュースなどを音声で背景に流すシーンがあっても良いかも知れない。デリケートな作品故難しい点もあろうが。それが上手く機能すればより多くの観客に作品の趣旨がもっと伝わり易いのではあるまいか?
 短編オムニバスミュージカルとあることから分かるように登場する役者全員、歌が上手い。
首2

首2

きっとろんどん

OFF OFFシアター(東京都)

2025/11/27 (木) ~ 2025/12/07 (日)上演中

予約受付中

実演鑑賞

満足度★★★★★

 流石北海道から態々乗り込んできただけのことはある。華5つ☆ 尺は約110分、出来が良く発想の面白い脚本を可成りスピーディーな展開で魅せる。序盤、板上に用意されたスクリーン上に事件のあらましが表示されるが目の不自由な方々が読み終えられなかった場合に備え、口頭での説明が作品中で述べられる配慮も気が利いて居る。

ネタバレBOX

 今作は実際に起きた事件をベースに脚本が書かれている。2023年7月に札幌すすきので在った猟奇殺人ととれる事件だ。犯人は29歳の女性、被害者は62歳の男性であった。ホテルの1室で男性が殺され首が持ち去られていた。結果犯人は殺人罪等で、両親は死体損壊幇助等で起訴された。
 犯罪は世相をその本質を深い処で明らかにする。今作も狂いに狂った現代日本社会そのものを正確に捉えていると言えよう。初見の劇団であるが若い力に溢れ、メンバーの多様性があり多様性故に困難なことも多かろうが、そのような状況に鍛えられることによって益々豊かに、深く、世界を表現することが出来るようになろう。今後を期待できる劇団と観た。
実際に起こった事件をベースに戯曲を書いた作家としては「曽根崎心中」を始め多くの実際に起きた事件を世話物として表現した近松門左衛門、「東海道四谷怪談」を書いた四代目鶴屋南北等が挙げられよう。近松に関しては実際に起こった事件をベースに書かれた作品が多いことは誰でも知っていようが、四谷怪談はどんな事件に関わっていたのか? 気付かない人が居るかも知れない。赤穂事件である。気になる方は四谷怪談を読み返してみると良い。
 さて、本題に戻ろう。第一段落で記した事件の概要をベースに脚本を書くことにした劇団員たちは、取材を始める。劇団員4人のうちの殆どが東京に出て来ているが、事件現場は皆の故郷・札幌。それで取材の為取り敢えず札幌へ飛ぶ。可成り異様な事件であり犯人の精神鑑定も行われようとの辺りを付け作家は犯人を診察した医師を割り出し探りを入れることから始め、他のメンバーは犯人が同い年であることから犯人の履歴を割り出す等のサポートをするなどをし始める。その内、メンバーの1人が超能力に目覚める。すると次のメンバーにも異なる超能力が獲得されてゆく。こうして各々のメンバーが異なるん能力に目覚めた。而も能力は各々の訓練によってより強化されていった。各々の能力を幾つか上げるとサイコキネシス(作中ではテレキネシスが用いられている)、対象の思考を読み取る力、記憶を消す力等々の力である。メンバーらはこれらの能力を連携して用い犯人とその二親、医師からも情報を得ていた。
 一方、巷ではこの衝撃的事件がもてはやされSNSでの拡散もあって犯罪者と親は晒しものにされるといういつもの苛酷な異常事態が巻き起こっている。劇団員たちはこの事件を脚本化し無事上演することが可能か? との緊迫感が高まる。そんな中、切断された頭部の皮が剥がれ犯人が作ったオブジェに用いられていたシーンも演じられた。インパクトの強烈な作品である。


ティボルトとジュリエット 1曲だけのミュージカル

ティボルトとジュリエット 1曲だけのミュージカル

明治大学シェイクスピアプロジェクト

明治大学駿河台キャンパス・グローバルホール(東京都)

2025/11/22 (土) ~ 2025/11/22 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 言わずと知れた「ロミオとジュリエット」に登場する人物たちの内、ヒロインのジュリエットとロミオに殺されたティボルトが登場し、シェイクスピア原作の骨組みの一部を借りて創作されたシナリオを用いMSPメンバーの父兄らをも招いて他の多くの作品と共に公開される作品の一つ。
 まあ、学生さんたちの姿を実際に観て貰おうとの趣旨なので台詞も現代日本の若者用語が頻出するから最初びっくりしてしまった。ティボルト役の学生さんは極めて良い声の持ち主で歌も上手かったが、ジュリエット役の学生さんは声の質は良いものの音程を外す場面があってやや残念であった。基本的には42時間仮死状態になる薬を飲んだジュリエットの仮死状態の夢現にティボルトが登場してロミオに殺された恨みつらみを述べ復讐して欲しいと頼むことに対し、ジュリエットが案外冷ややかに応じたりする内容のものでそれなりに楽しめた。
 無論、本番上演時は、シェイクスピアの英語原書から学生さんが翻訳し、稽古期間も長く取って台詞を身体化させる作業を経て上演するから興味のある方は時期が来たら応募すると良い。毎年通うファンも多い学生演劇とは思えない程レベルの高い公演である。

お寺でポンポン‼︎

お寺でポンポン‼︎

劇団娯楽天国

ザ・ポケット(東京都)

2025/11/19 (水) ~ 2025/11/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今年拝見した作品中、最高傑作の1つ、観るべし。文句なしの華5つ☆

ネタバレBOX

 先ずは舞台美術が凄い。演者達が全員で舞台美術を作っている。障子を開けたホリゾントに見える山々は無論のこと、上手に見える仏像は木彫で手作り。オープニングでのダンスも上手いし何より全員の息が見事に合って音楽も良く実に楽しい。物語の設定も都会に住む人々が憧れる豊かな自然に恵まれた地方での悠々自適、晴耕雨読の理想的生活と屋敷を退職金と持ち家等を売った金で購入、屋敷の障子を開ければ眼前に聳える山々が、二階に上がれば山々の向こうに海が広がる。村の人々のサポートを受けながら広々とした邸宅で騒音の無い日々を過ごしている男。男には三人の娘があり、長女はライター。ジャーナリスティックな記事も書く。次女はイベント等の特殊効果の専門家と結ばれ、三女は良く気の付く淑やかな女性である。娘たちが登場するのは、母の七回忌が近々あることと、父が足を骨折してそのケアをする為だが、長女はジェンダー関連の取材がメインである。というのも山一つ越えた処に親に虐待されたり、DV被害に遭ったり、様々な形で傷つけられた女性達をケアし駆け込み寺として有名な尼寺が在ったから、この寺の庵主を取材するのが主目的であった。父とは意見の対立が絶えない。
 その他にかつて父が一時家を空け仏門の修行をしていた時に教えを受けた僧侶夫妻が遍路の如き旅の道すがら立ち寄った。この夫妻の旅が長旅であり、舞台となる屋敷に辿り着く迄の行程の長さを象徴する劇場の脇から登場し客席間の通路を上って一旦捌け上手袖を通って屋敷を訪れる演出は見事。ところでこの和尚夫妻、かつて父が師と仰いで仏の道を学んだ縁もあり好意からお泊りになってお寛ぎ下さいと言われたのを契機にいつまで経っても立ち去らない。その訳は自己破産の果ての逃亡行脚であった。而も彼らは評判の駆け込み寺は、大和天法という住職の居る寺の末寺に当たり庵主は兎も角天法は金に汚く、女癖が悪いと言い出し、尼寺では駆け込んだ女性達に接待業をやらせているということを吹き込んだ。更にイタコの口寄せの如く妻に降りてきた予言は七に係る破滅。この予言を巡って様々な解釈が為されるが母の七回忌との関りが疑われ尼寺の庵主にお願いしていた法要はキャンセルしようという流れになった。
 さてそうこうしているうちに次女とその連れ合いが父の面倒を見る為と称して家財道具もろとも引っ越してきて二階の部屋を占拠するわ、時折特殊効果に用いる機材の不具合で大きな音を出すわと様々なメッキが剥げてくる。更にこの屋敷の手洗いの便壺の一部が破損しておりキチンと直しておかなければガスが発生して大変なことになると隣家のいつも父に野菜その他をくれるおばさんが何度も忠告してくれていた。然し、この屋敷を観光スポットの1つにしようと中国人が訪ねてくる。大和天法は市会議員に立候補するとやってくる。尼寺は実際は避難女性達をウェイトレスとしてカフェを経営し資金難を凌いでいたが、大和の地域ファースト戦略に父購入の屋敷も尼寺もインバウンド目当ての地域活性策として公約に取り上げられ、あれよあれよという間に屋敷のオーナーたちの静かだった生活は変容させられてゆく。而も尼寺の庵主を盲目的に尊敬している長女は父の承諾も得ずに勝手に屋敷を尼寺が観光スポットとして機能させ記事を書いてSNSでバズるきっかけを作り遂にTV取材迄入るようになって事務局として使う。大変な騒ぎである。このしっちゃかめっちゃかは、当然笑えるシーンがたくさん出てくるが幾ら芝居だからといっても他人の不幸を嘲笑う気にはなれないという気持ちも湧くから笑い自体が複雑な笑いになって作品の深みとして観客に受け取られこれが作品の深さに繋がっている点も見事だ。ここから先、更に思わぬ人間関係が明らかになり、大ドンデン返しがあるが、それは観てのお愉しみ。文句なしの傑作。脚本の深さ、役者各々が台詞を生きていることの妙。本当に様々な要素が恰もごった煮の如く詰め込まれているが、その一つ一つが独立しつつ全体と調和し、分かり難さや不自然は全く無い。全員が協同して一種のハーモニーを奏でるような自然で無駄のない役作りが出来ている。大団円では、親というものの本当に深い愛の姿を感じた。
AI(アイ)

AI(アイ)

こぬかーめ

studio BLANZ(東京都)

2025/11/22 (土) ~ 2025/11/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 Bチームを拝見。尺は若干長く2時間25分程。然し全く飽きない。オープニング場面こそ、研究所の模様や出演者が、それも所長役が長髪でその髪をポニーテール宜しく後ろで束ねていたり、やや遅れて入って来た研究者たちが何人も白衣を着ていなかったりで聊か調子が狂わされた感を持ったが、各キャラの特徴や好きなことが分かり、可成り早い段階でAI自体がヒトの心を持ったような伏線が敷かれて以降、今作に対する見方が180度変わった。
 現在実際にAIの進歩は日進月歩等というトロイものではなく秒進分歩以上のスピードで開発競争が進捗していると考えるべきであろう。そしていつか進歩したAIがヒトの心のような働きを獲得するかも知れないという想像は、SFファンのみならず多くの方々にも共有されているのではないか? 無論、より慎重に考察するなら現時点でAIが獲得できているのは既存の発表データを網羅・集約したり分析・統合・解釈して表示したり音声で伝えたりすること等で、己の“存在”としての体験を自らの原資として今までに無かったものの見方や想像力を新たに付け加えることは出来ないと考えられる。(追記24日12:55)

ネタバレBOX

 つまり、AIは情報を収集し処理しているということだ。そこに実存としての存在は関わらない。飽くまで電気によって駆動されCPUのような演算装置によって膨大なデータを処理しているに過ぎないから、人間が例えば事業の失敗や失恋、希望の根絶、病による死への恐怖や苦しみ、人間関係の様々な苦悩によって発狂に至る程の悩みに責め苛まれる経験を通して獲得した今迄思いつくことすらなかった精神的地平に気付き新たなものの見方や新たな価値観の発見等をするようなことは、今の処できていないと考え得る。然しこの思考が正しいと自信をもって言い切れる者は多くはあるまい。それほどの大問題を今作は提起しているのである。ひょっとして、と期待していたことが裏切られなかった。尺の長さは以上のような理由で全く問題にならず、最後迄集中して拝見することができた。場転の際暗転して移動式テーブル上に必要な場合はその都度小道具を置いて対応する手際も良い。集中が途切れることもなく、休憩が無いにも関わらず兎に角夢中になって観ることができた。始め学生っぽく思えた演技もアンドロイド、ミコに心の萌芽が芽生えたことが伏線として表現されて以降全く気にならなくなっていたので問題無し。 
 板上は観客席対面に大きなぬいぐるみや地球儀、幾多の小さな人形たち、真ん中にポスト型の貯金箱等が置かれた長方形のテーブル。上手に矢張り大きなぬいぐるみ、人形の他にノート、スマホ、タブレット等々の置かれたテーブルがある。出捌けは主として上手ホリゾントの奥から。ホリゾント裏側が袖。下手は場転で用いるテーブル、小道具類の収納場所として機能するので出捌けは上手が殆ど総てを占める。
 既に記したように今作の素晴らしさは、アンドロイドが心を持つ事態を想定して脚本が書かれていることだと考える。それは単にヒトが他のヒトを恋する場合に対し単に異種との恋というコンセプトで括り切れる事象ではなく、ヒトの心に極めて良く似た而も情報量や情報処理能力に於いては人間を桁違いに上回るAIのような知的産物VSヒトの倫理的問題を含む社会問題として極めて本質的且つ深刻な大問題でもある。本当に優れた作品がこのような事象を具体性を通して描くように今作もアンドロイドがヒトを恋する物語として紡いでいる点がグー。而もこの具体性が今作を単にSF的なお伽噺ではなく、近未来に実際に起こってもおかしくないようなリアリティーを持った物語として着地させている。

山吹

山吹

遊戯空間

六本木ストライプスペース(東京都)

2025/10/18 (土) ~ 2025/11/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ベシミル。本日23日追加公演。(追記24日16:3)

ネタバレBOX

 妖話会の5作目公演、桐生市での公演を終え、東京での公演は六本木ストライプハウスで行われている。この会場は上演空間に会場上からの階段がニュッと突き出ている。この階段と四国修善寺にある画家のアトリエに見立て敷物の敷かれた(絨毯と解しても良かろう)空間が今作の上演に係る空間である。階段下の空間には、楽器奏者、設楽 瞬山さんが座り敷物のある空間が主たる演技空間、階段の対面にナレーターが立ち、ナレーション及び画家の台詞を担当する。敷物とナレーターとの間の床部分には画家の作品群が並べられている。この劇空間の対面階段の更に奥が袖。出捌けはこの袖一カ所である。アトリエと袖に挟まれた空間が庭という想定で池がある。このように設定された長方形の劇空間を挟むように観客席。
 上演作品は泉 鏡花の「山吹」、構成・演出は篠本 賢一さん。彼は人形師も演ずる。縫子役には加藤 翠さん(和服で出演)。巡礼で有名な四国は空海が往時に関ったとされる場所が多く残り現在も実在している物も在る。舞台となる修善寺もこの一つで空海創建の寺と言われる。
 篠本氏の演技は流石に技術の高いもので、人形師の若い頃に侵した罪障が彼の内側から彼を苛み続け荒れ狂う力に心休まる瞬とてない様を、彼の良心と罪の意識との葛藤する様を、鏡花独特の美意識に貫かれた言語表現との鬩ぎ合いに対峙させようと身体化を図っているような演技に結実させている。酒を呑むシーンでは、一気に呷るように呑むが酒量はさほど多くは無い。然し痩せさらばえた身、歳も取っている上に乞食同然の暮らしぶりが伺われるから効くことは確かだろう。而もこのような身体で出会った縫子に頼むのは打ち据えられること、血を流すまでかんぷ無きまで叩きのめされることなのだ。縫子は子爵の妻であったが、舅、子舅らに責められ豊かな実家の財産を奪われる生活に完膚なきまでに叩きのめされ子爵家を出帆したのであった。そして娘の頃初めて恋の焔に焼かれた相手であった画家にここで出会った。娘の頃の心情、己の恋の在り様迄つぶさに語り死を望んでいることさえ告げた。然し画家は、彼女が死ぬことを諫めた。既に通常の生き方では己の罪障に耐えられなくなっていた人形師は、縫子の折檻だけが自らの罪障意識から精神を休ませることを告白した。縫子は漸く自らの生き得る道を見出し死を求めることを止め、池で死に腐りかけていた鯉を肴に人形師と祝言の盃を交わす。
 実質、既に挙げた篠本氏の演技と加藤さんの女性らしいたゆたうようなある種自由を湛えた演技が腐りかけた鯉を共に食べる覚悟と絡み、二人の演技にナレーションと画家の台詞を述べる中村 ひろみさんの声が被さる。演奏の設楽さんが作品の流れに応じた極めてセンスの良い演奏で効果を高める。いつもながら完成度の高い作品だ。

きらめく冬の物語

きらめく冬の物語

演劇ユニットキングスメン

LIVE HOUSE 曼荼羅(東京都)

2025/11/21 (金) ~ 2025/11/22 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆ 断固観るべし。偶々22日17時開演の回は若干空きがあるとか。

ネタバレBOX

 今回はギターとサックスの生演奏(FontanaDue)とのコラボ。シェイクスピアの「冬物語」を高村 絵里さんの上演台本で公演。前回の曼荼羅公演では演奏時のステージが主要な演劇空間として用いられていたが、今回はその手前の前回では客席になっていた部分の中央から曼荼羅入口辺り迄を通路や演劇空間としても用いている。何しろ登場人物は二十人には満たないがその9割近い、それを5人で演じるから役は衣装で基本的に見分けるスタイルだ。役者さん達は大変だが、高村さんの緻密で気の利いた演出で分かり易く、而もシェイクスピアという大天才の何たるか? が極めて良く判る作品に仕上がっている。つまり役者が演ずるという行為はどういうことか? 演劇をどのように上演すればその作品の本質を伝えることができるか? の解であるような公演であった。無論、観客には、シェイクスピアという劇作家の本質も良く判る創りになっており、役者さん達の演技も役を生きるという難度の高いレベルに達している者が中心を占め観やすく分かり易いと同時に質の高い公演になっている。
密夜譚

密夜譚

feblaboプロデュース

RAFT(東京都)

2025/11/19 (水) ~ 2025/11/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆ 濃厚な約70分。

ネタバレBOX

 会場レイアウトはL字を反時計回りに180度回転させた位置が客席、客席と会場壁に囲まれたスペースが劇空間である。椅子4脚が、台形の左端を三角形分切り取った各々の頂点に置いた風。登場人物は4名、何れも女性。(但し1名は未来型アンドロイド)
 物語は宮澤賢治の作品群から採られた銀河鉄道や「雨ニモ負ケズ」が重要な要素として用いられている。実際に描かれているのは4名の乗った銀河鉄道が終着駅に到達する直前、彼女らの乗っていた車両だけが連結から離れ宇宙の直中に放り出されてしまった事故後の約1時間を描く。この1時間の間に脱出し救護されなければ彼女らの乗った車両はブラックホールに吸い込まれてしまう。尺は約70分弱。
 登場人物の説明からしておこう、先ず博士(我々が実際に生きているこの現代でいえばロボット工学の最優秀研究者)レイ(博士の作った最新鋭のアンドロイド型、我らの体験しているAIの更に進化した状態のように自ら独立した思考を持ち、他にも様々な人間にはまねできない機能を具えた者)、アシュナ(火星の皇女、未解明の病原菌に侵され火星では受けられない高度なレベルのオペを受ける為終点の駅即ち星へ向かっているが、貧しい火星の民から漸く資金を調達して貰い命賭けで旅をしている。彼女が死ねば火星は亡びる)、ゴーラ(終着駅の星の住人、終点の星は金持ちの星、その星でも有数の大金持ちの妻で高価な銀河鉄道の運賃は問題にならない、但し金を稼げなければ敗残者の道を辿る他ないこの星でどこかへ行ってしまっても夫が追い求めてくれないという孤独に苛まれて旅をしている。即ち彼女の旅は彷徨、精神の死である)
 さて以上の4人が遭難し僅か60分でブラックホールに呑み込まれそうになる中、彼女らの精神的ショックや混乱で18分は無駄に過ぎてしまった。残りは42分、この間に安全で効果的な助かる道を見つけられなければ死なねばならない。原因は、ゴーラのイケメン車掌への浮気にあった。無駄に過ごした18分間には、この責任問題もあったのである。銀河鉄道は各車両に1つ、緊急脱出用の装置が取り付けられているが、この脱出装置は既に使えない。車掌が既にそれを用いて脱出してしまっていたからである。生きるか死ぬか究極の選択が迫られる中で皇女アシュナは火星の運命を担いどうしてもオペを受け火星に戻らねばならない。博士は火星が滅ぶよりもっと多くの人々を救うことができる、と言う。博士が生き残るならば。ところで最も生き残れる可能性の高いのは、矢張り博士の開発した非常脱出装置であるが試作品で1人用。装置は1つのみしかない。博士は自分の開発したレイに自分に生き残る権利を与えるならば、レイ同様の「アンドロイド」をいくらでも作れると主張するが、既に自我に目覚めたレイはこれを認めない。この事故を引き起こす原因を作ったゴーラの主張は身勝手であっても誰が喜んで死んでゆくことを引き受けるだろうか? 議論している内に1人、また1人と命を落としてゆく。生きるか死ぬか、この究極の問いと自我の持つ必然的問い、私とは何か? 何故生きるのか? この答えは誰もが知りたい究極の問いだ。ブラックホールに引きずり込まれる瞬は刻々と近づく。その時、銀河鉄道の走る音が聞こえてくる。僅か70分弱の尺でこれだけ濃厚な内実の芝居は稀有。役者陣4人の迫真の演技と優れた脚本、演出。この作品をこのメンバーで成立させているfeblaboの池田さんも流石。
MOON 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

MOON 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

KUROGOKU

シアターシャイン(東京都)

2025/11/19 (水) ~ 2025/11/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 素直に観るとタイトルから想像されるような詩的作品という解釈が成り立ちそれはそれで極めて印象的な作品である。先ずはこの自然に導かれる解釈からゆく。

ネタバレBOX


 板上のレイアウトは板中央に2段の階段、2段目を上がった処は踊り場になっている。踊り場には4つ箱馬が点在し、この階段を挟み込むようにハの字型に衝立が置かれている。階段1段目下手に木製の塵箱、その下手に箱馬2つ。上手の階段1段目横にも箱馬1つ。因みに踊り場スペースは基本的に主人公及び妻の暮らすマンションの1室として機能する。
 物語はある事件が起こったことを主人公が説明するシーンから始まるが、内容的には要を得ない。無論、態と焦点をぼかした説明をしている訳だ。この辺りはリアルタイムで理解できる創りだし、流石如月小春の脚本ということができる。無論、このある種の怠さを抱えたシナリオは観客の集中を途切れさせ易い。その辺りの事情は如月自身よく分かっていたのは確実だから可成り多くのブラックユーモアが埋め込まれ香辛料が気付け役を果たすように機能している。
 ところで、この作品の特徴である焦点をぼかす手法即ち曖昧化は物語が終盤に入っても未だ続く。無論、伏線は巧みに織り込まれている。夫の母が居候を始めていたのだがその母が妻の不可解な行動について次のような証言をしていたのだ。愛しい夫を会社に送り出す前、トースターで焼くパンにさえ心情を転移している妻が不可解にも新たな男を“夫”と呼び生活し始め、遂には居候していた母を可燃ゴミとして廃棄した後、元々の夫であった息子に発見され助け出された際に述べた台詞である。妻が“夫”を送り出した後一日中トースターを抱いている時、不思議な穴が開いていた、と証言していたのがそれである。今作は、終盤のラスト2~3分で総ての要素が収斂してゆき、その収斂の様が余りに見事で感激の頂点に達するが、オープニングで語られた台詞の中で語られていたキノコ雲の話と総てが収斂するラストの話はそのまま連続していない。時空の歪が介在してくるからである。これを解決する為には、今作を不条理劇として解釈するのではなくSFとして解釈すべきなのである。そうすれば今作の捻れが解けると思われる。如月小春はこの辺りまで考慮していたのだとすれば? そんなことまで考えさせる作品だ。役者陣の演技は、皆さんしっかりしている、演出も良いし舞台美術の勘所を捉えてグー。お勧めである。それにしてもラストシーンで妻の抱えていたトースターから妻が取り出したモノは衝撃!
喜劇王暗殺

喜劇王暗殺

トツゲキ倶楽部

「劇」小劇場(東京都)

2025/11/19 (水) ~ 2025/11/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 初日を拝見。観るべし!

ネタバレBOX

 板上は下手、上手に丸テーブル各1,テーブルには丸椅子。下手側壁の観客席に近い場所が丁度ベンチとしても機能するような状態になっている。ここが物語の展開する銀座のカフェ ハルである。板中央奥が太い柱に挟まれてカフェへの出入口となっており、出捌けはホリゾント下手・上手の側壁から。因みにハルの直ぐ近くに有名なサロン・ハルが在り時折サロン・ハルを目指した客が間違えてカフェ ハルに流れてくる。
 時は1932年、5月を中心としその約1年前から。因みに1932年は首相であった犬養 毅が海軍青年将校らが起こしたクーデタ、五・一五事件によって暗殺された年。犬養暗殺の要因は、農村部の極端な疲弊にあったということが出来よう。決起した青年将校らの姉や妹が貧しさの為に人買いに買われていた証言なども残っている。チャーリー・チャップリンが来日したのは丁度この時期、5月15日には首相官邸を訪れる予定が組まれていた。今作は偶々このカフェの客の1人であった櫻井の父がチャーリーの秘書・高野と知り合いであったことから様々な情報が櫻井に伝わり櫻井が実際にチャップリンが訪日する1年以上前から訪日に係る話をハルでしていたことが序盤で描かれる。常連客は地元の庶民が主体だ。とはいえ、銀座。モガは当時の流行であったから今作にもその服飾、髪型などに現れている。
 史的には、5.15事件当日、チャーリー一行は、首相官邸を訪問する予定であったが、急遽取り止め相撲を観に行った、とされている。今作は何故、急にそんなことになったのか、その謎が描かれる。実際に起こった歴史的事件を背景にチャップリンに対する人々の憧憬やチャップリンその人のお茶目で優しくスマートな人間性、秘書・高野との信頼関係の深さとサポートの妙。庶民的ファンへのチャーリー自身の共感と的を射た想像力の豊かさ、深さが完結に幾つもの挿話として描かれる。これらのシーンは圧巻。興味深いのは、これらの展開に巫女として人々の問いに解を与える目黒。彼女の解は正鵠を射、時代の不気味な未来を正確に示す。その一方で互いに惹かれ合っているにも関わらず言い出せないカップルを繋ぐチャップリンのアクションの粋が、彼の映画でも使われていた話や、その映画が実は歌舞伎にも翻案されていたのではないか? との視点迄が盛り込まれつつ、先に挙げた謎が見事に解かれる。
『イン・ヒューマン (in human)』

『イン・ヒューマン (in human)』

ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

世田谷区民会館(東京都)

2025/11/12 (水) ~ 2025/11/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

スタンディングオベーション! 華5つ☆、必見!!

ネタバレBOX

 今作は、歌舞伎とフラメンコのコラボ。江戸川 乱歩原作「人でなしの恋」をベースに脚本を人形役で出演なさっている歌舞伎の中村 壱太郎さんが担当。全12パートに分かれたシーンで展開する。
 のっけから台座の上に乗った日本人形の態の和の“静”が板センター奥に、フラメンコの“動”が板の他の部分からやや遠巻きに、だが見事に対峙して幕が開く。この瞬間から惹き込まれるのは歌舞伎の静が単に静かに佇んでいる訳ではない“静”だからであろう。
 歌舞伎のハイライトシーンに誰もが知る見得がある。これは型と取ることができる。その時、型になるほどの必然性がこの瞬間に存在している訳だが、その内実は何だろう。有名な「白波五人男(青砥稿花紅彩画)」の浜松屋見世先の場で盗人の弁天小僧が切る啖呵で見得を切るシーンがある。これは悪(犯罪者)と善(浜松屋)とが意地・力という背景に支えられつつ拮抗した結果一見“静”に見える状態にあるという事態だ。(それを見ている者にはこの内実がハッキリ伝わる)更に端的にこの構造が明らかになるのは、同じ演目の二幕目三場、稲瀬川勢揃いの場。この場面では盗賊五人と捕り手(権力・体制の象徴)が対峙する。
 当然のことながらこのファーストシーンに籠められている意味は他にもある。洋の東西である。東は和で、西はスペインで代表されている訳だ。役者の身体の用い方も全く異なる。歌舞伎役者は人形を演じることで動かぬまま同じ姿勢・ポーズで台座の上に固定されているかの如く、恰も物体そのものであるかのように立つ。片やフラメンコダンサーたちは温暖な地中海性気候と透き通るようなスペインの青空に恵まれフラメンコ発祥の地であると言われシェリー酒の名産地としても知られるヘレス・デ・ラ・フロンテーラの陽気、軽やかさ、茶目っ気、情熱を炸裂させる。これらを極めて知的に対比させ演じて魅せることによって観客を虜にしてしまった。筝、ギター、津軽三味線、バイオリン、ビオラ、チェロ、篠笛、ボーカル、カンテ、附け打ち、パーカッションの生演奏・表現も素晴らしい。総ての演者に共通するのが、芸に賭ける真摯な姿勢である。殊にその鍛錬は、驚嘆すべきレベルのものだ。例えば真上にジャンプし落下時は安愚楽を組んで着地する。こんなことを素人が真似したら尾骶骨骨折等耐え難い痛みを伴う怪我を負うであろうことを難なくやってみせる。流石、役者とその底力に驚嘆した。
雷ノ鳥

雷ノ鳥

劇団カルタ

インディペンデントシアターOji(東京都)

2025/11/07 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 尺は途中休憩10分を挟み約150分。追記後送

ネタバレBOX

 都内では最近、誘拐事件が多発しており警察は独自に対策チームを結成、捜査をしていた。然し首謀者は、実行犯に犯行に最低限必要な情報しか与えず、連絡も足のつかない方法で行い、犯罪基地を海外に置いている場合が多い為、捜査は難航を極めていた。更に悪いことにこの誘拐事件の影の主犯と目される人物は公安から特別な扱いを受け、実質的に警察から守られていたのである。而も表の主犯は、既に組織の罠に嵌められ消されている。
 何故、このような事態に至ったのか? この謎を解く為、娘を誘拐されたカメラマン夫妻は警察から潜入捜査協力を打診され承諾して夫が組織の内部に潜り込むと同時に、夫妻で黒幕と思しい女(チカナ)が滞在するホテルで客室勤務をしながら事件の鍵となる物の行方を追っていた。
冬物語

冬物語

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)

2025/11/07 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 いつも乍ら学生演劇とは思えないレベルの高さ、大学がバックアップしていることもあり、舞台美術の壮麗、衣装の豪華なことは特筆に値する。無論、肝心要の脚本も翻訳を学生が担っているが、翻訳の難しさは単に訳される言語だけではなく、訳された言語(シェイクスピア作品の英語から、相応しい日本語へ)双方への深い知識と素養・理解が必要な点である。これは重要なことだ。どちらか一方が欠ければ決して満足な翻訳にはならないからだ。まして戯曲の翻訳となれば言葉のリズムにも留意せねばならぬ。いくら役者陣が活舌を鍛えていても台詞のリズムが悪ければ覚えにくいし、観客にとっても不快になる。殊更、革新的な効果を狙うのでない限り、リズムを大切にすべきは常道であろう。この点に於いても翻訳がこなれていることは見事である。演者達の役作り、発声、挙措も手際の良い演出の効果もあり見事な出来、無論、歳老いた役柄を演ずるに当たっては、よる年波に相応しい姿・身体能力の衰えと経験に裏打ちされた表情を自然に表現するのは極めて難しいが。通常の学生演劇を凌駕する豪華絢爛とスタンダードな創りは、矢張り特筆すべきであろう。スタッフの対応も合理的で而も親切、感謝する。

ロックスターは死んだ

ロックスターは死んだ

中央大学第二演劇研究会

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2025/11/06 (木) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイトルからイメージしていたより遥かに良い出来であった。

ネタバレBOX

というのも、自分はロックという音楽ジャンルを創造し実際に活躍するスターたちの創造の原動力を基本的には少年・少女時代に抱いていた夢や希望、少年・少女時代に苛めや差別に遭い潰れそうになった辛い過去に対し、思春期以降増してくる自分達の体力や飛躍的な身体的成長を遂げた段階で自分達を虐げてきた人々に対し突っ張るという形を採り、自分達が抱えている精神的苦痛を、壊れてゆく夢の痛みを、自壊せざるを得なかった崩壊の音に託して表現した音楽と考えており、その痛みが未だ社会的経験に乏しい彼ら彼女らをカモる悪徳興行者らによって収奪されてゆく現実との対比に於いて極めて正確に描かれていたからである。若さとは端的に社会的な経験不足を意味し社会経験を積んだ連中がこのような若者をカモることは容易い。今作の太い柱は、この構造をクッキリ描き出した点にある。契約書の持つ社会的・法的意味、事件化する程手広くあくどいプロモーターを登場させ、警察・司法の介在を通して進行する社会的「正義」の意味等がしっかりした骨太の脚本によって実現されている。経年後の元バンドメンバーだった者達の現在をも活写している点も泣かせる、ギター片手に“Daydream Believer”を合唱するシーンは最高だ! 役者陣の演技、演出も良い。舞台美術も内容に応じて過不足なく合理的に機能している。いつもながらスタッフの対応もグー。お勧めの舞台である。
高知パルプ生コン事件

高知パルプ生コン事件

燐光群

「劇」小劇場(東京都)

2025/10/31 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 華4つ☆(追記後送)

ネタバレBOX

 開演前には往時の様子が、ラジオニュース放送時のような形で流されている。板上の美術は至ってシンプル。上演はどちらかというと朗読劇的に感じられた。恐らく、作・演出の坂手氏自身がより演劇的手法で表現するより、実際に企業や自治体、日本国家(政治屋及び体制側官僚)、法と対峙しつつ最後迄戦い抜き、実質的勝訴(実際には罰金刑)を勝ち取った人々の態度、主張、理知的戦い方、優れた想像力、実践時の合理性と正確さ、彼らの主張と矛盾しない環境や人間の本質的権利等々に対する見事さ、連携した人々が最後迄共闘し得た内実等を能う限り忠実に再現したかったからだと解釈した。だが、このケースに見られる”成功例”は僥倖と言ってよかろう。此処迄は至らなかったものの、一所懸命に戦い諸々の事情(原爆症による死・闘病等)によって完遂は出来なかった人々の事情、社会的、職業的差からくる周りの人々の反応の差迄を描き、このような成功例が如何に例外的であり最後迄戦い抜いた人々と彼らに実質的エールを送っていた事件被害者や公害を引き起こした企業の第1組合を中心とするメンバーら実際の事情を識り内心臍を嚙んでいた人々の姿をも事実に近い形で知らせ、現実に成功する為に何が必要であり、どのように戦うのが実際に有効かを示す為にこのような表現形態を選んでいるように思われる。
 実際板上に表現されている舞台美術はオープニング時、移動式テーブルを横一列に並べただけの質素なものである。これが場面に応じて移動、組み換えられ時には高台、津波時の避難塔となったりもする。演劇的な設定はタイムスリップものになっている点で、タイムスリッパー2名は2026年からスリップして来たピーファス被害の父と娘の2名。タイムスリップ着時点は同時期、地点はほぼ同じ場所であったもののやや離れた場所であった為、タイムスリップの影響で記憶喪失を起し中々記憶を取り戻すことのできなかった、父・娘(こちらは比較的早く回復)の邂逅は何か月遅れ、父・娘各々が地場で公害に反対するリーダーグループの世話になったり、公害企業で働くことになったりして公害を出す側と周辺住民、反公害の主張とムーブメントの消長等が対比されつつ展開してゆく。
人のいぬ山

人のいぬ山

発条ロールシアター

中野スタジオあくとれ(東京都)

2025/10/31 (金) ~ 2025/11/03 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 華4つ☆
 分かったようで分からぬタイトルだが、

ネタバレBOX

如何にも、一見脳天気な作品を装うこの劇団らしいタイトルでもあるから、今迄この劇団を観てきた観客には、時代の激変とそれに巻き込まれて右往左往している多くの人々にもこうして自分達の特性を今回の公演でも守っているこの劇団の健全性に心打たれるかもしれない。その一例がのっけから、まあ何故このタイトルなのか? に現れていよう。だが解は観てのお愉しみの1つだ。
 今作を笑って観ることが出来るか否かが、観る者の健全性のバロメータになりそうな作品でもある。
 観終わった瞬間は、ほにゃら! という感覚だが、妙に引っ掛かる。そこからメタ思考が始まり、様々なシーンを思い起こしてはその意味する処を詰めてゆく。そんな観劇体験を愉しめる作品だ。
『眼球綺譚/再生』

『眼球綺譚/再生』

idenshi195

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2025/10/29 (水) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 華4つ☆

ネタバレBOX

 「再生」を拝見、朗読形式なので美術は至ってシンプル。絵空箱の入り口に対しLの字を反時計回りに90度回転させた形で客席を設け対面の壁と客席に囲まれた空間が役者陣の陣地である。L字長辺の下手に箱馬型の照明器具が2つ役者を斜めから照らすように置かれ、丸椅子に座った役者を挟んで上手に骰子型の照明器具が1つ置かれている。演出家が、演者の発語していない時空をも表現の一部と見做して演出しているので、中々張り詰めた空気の中で、演者達の朗読が為され効果的だ。
 物語は怪奇幻想譚といった雰囲気のゴシックロマン風の作品。登場人物は、大学教授兼作家の壮年男性と彼の大学に通う女子大生(22歳)との恋愛譚の形式を採る。2人のなり染めは精神科の待合室。教授はアル中の治療の為、彼女はクロイツフェルト・ヤコブ病治療の為来院していたが、受付で教授の名が呼ばれたのを機に彼女が彼に話し掛けたことがきっかけであった。2人は歳の差にも拘らず愛し合い結婚するに至ったが、彼女の病は間もなく彼女の身体を酷く蝕んでゆく。大学への就職が内定していたにも関わらず、教授は彼女を休ませる為、別荘に2人っ切りで引き籠り治療の為に止めていたアルコールに再び依存、遂には彼女の特性である再生能力に賭ける決断をし実行した。果たしてその結末は? 
 朗読乍ら、その悍ましさと悲惨にゾッとするシーンもあり中々良い出来である。尺は約90分。
かもめ

かもめ

劇団 新人会

上野ストアハウス(東京都)

2025/10/29 (水) ~ 2025/11/03 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 長尺ものの脚本を用いている為、短いヴァージョンに比べチェーホフの作品の持つ奥深さ、繊細性、先進性と往時のロシア社会とのギャップとがより明確に出而も痛切に観客の魂に刺さる。流石に新人会の公演。東京演劇アンサンブルの志賀さんの演出、新人会役者陣の上手さも光る。華5つ☆(追記後送)

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