★★★★人生とママをめぐる大人の旅

羽衣といえば、汗みどろの、ちょっと粗削りな(?)パフォーマンスというイメージもあると思うのですが、今作はとても丁寧で、優しい、そう、ちょうど「ママの耳かき」的な愛らしさを持った舞台だったと思います。

作品全体が、あるミュージシャンの男が自らの記憶を題材に作ったコンセプトアルバムを紹介する……という設定になっているのも、単なる取っ付きやすさだけでなく、羽衣が一環して取り組むテーマ「生(性)と死」「記憶(と現在地)」にマッチして効果的でした。

★★★★全人類ひっくるめて愛してくれる、劇薬のような音楽劇

 純で甘酸っぱい初恋から清濁合わせ持つ大人のアバンチュールまで、全人類ひっくるめて何が何でも愛してくれる妙ージカル。幕開けの場面から感動で涙が出てしまいました。劇団おなじみのあからさまな性描写は全体的にいつもより少なめで、私には見やすかったです。お友達も誘いやすいかも。
 
 「観てきた!」を書くために歌詞カードを読みなおすと、原始的で熱くてロマンティックな小空間へと、心身が一瞬のうちに戻りました。FUKAIPRODUCE羽衣を観る度にいつも思うのですが、糸井幸之介さんにはぜひアイドル歌手のための歌を作詞・作曲してもらいたいです。ジャニーズ事務所の若い男の子とか、AKB48の若い女の子とかに、きっとフィットすると思うんですっ!

★★★★★妙ージカルの集大成と言うべき作品

羽衣の公演はいつも歌と音楽が素敵だが、今回は全編が歌と音楽で出来上がっているような作りで、いつも以上にエンタメ的要素の強い素敵な作品に仕上がっていた。

羽衣という劇団は従来、好きな人は大好き、合わない人は合わないという劇団なのだが、(もちろん私は大好き派だ。)今回は全ての人に楽しんでもらえる作品に仕上がってる。その分、コアな羽衣フアンは物足りないと感じてしまうかもしれない。そこら辺のさじ加減、なかなか微妙だ。

私的には近年の羽衣の中でも1番好きである。なんと言っても糸井幸之介の素敵な歌詞がいつもは聞き取りづらいのだが、今回は全てクリアに聞き取れた。劇団の進歩を感じる。歌が上手くなっているし、また踊りがいつも以上に素晴らしかった。

個性的な役者陣の中でクロムモリブデンから客演の幸田尚子が圧倒的な存在感を見せつけた。さすがである。

★★★★★実は(?)詩的な言葉!

 冒頭から心をつかまれた。羽衣は「妙?ジカル」と名乗る演劇界の異端的存在ではあるけれども、これはまぎれもなく「演劇」だと思う。糸井幸之介(作詞・作曲・演出)は非常に優れたリリカルな言葉のセンスを持っているのだな、とあらためて。あけすけな男女のセックスの歌を書きながらも、細かい心情の機微を突いてくるのが素敵だった。
 今作はいつにも増して「生への肯定」に溢れていたように見えたけれども、とはいえやはり死(タナトス)の気配が根底にあってこそと感じる。あっけらかんとして生き、死んでいく人たちの業をやさしく捉えている。生殖によって子孫をつくり生き延びていくしかない人類が、何千年何万年と繰り返してきた行為だと考えると、なるほど、セックスとはつまりは永劫回帰なのだと思ったりもした。
 俳優陣の好プレーが目立ったが、特に素晴らしいと感じたのは日高啓介だ。少年の感受性のまま大人になり、楽観的に、だがたくましくキラキラと生きている自称ミュージシャン(?)を好演。28万円のエレキギターを買ってくれる母(西田夏奈子)や、うらぶれた旅館の女将(伊藤昌子)との絡みも非常に良く、糸井の描くまっすぐで詩的で、それでいて根の深い絶望を抱えているような世界観をよく体現していた。また、旗揚げ時から長年所属していた劇団ハイバイを卒業し、新たな道に踏み出した金子岳憲と、羽衣メンバーの鯉和鮎美とが、中学生に扮して初体験を果たす「ロストチェリー」の場面もしみじみと。笑えて、泣ける(しかも同じ場面で)、実にエンターテインな舞台だった。
 ぜひカップルで観てほしいとオススメしたい作品。ただし微妙な時期のカップルの場合、その恋がその夜のうちに一気に成就するか、あるいは完全に破綻してしまうかのどちらかと思われます。決め手に欠ける人は清水の舞台から飛び降りる気持ちでえいやっとどうぞ。
 ひとつだけ気になるのは、ヘテロ的な異性愛を前提にしすぎているのではないかという感じが、今回はいつも以上に気になってしまったこと。わたし自身が、夫婦別姓で全然いいし、むしろあなたの苗字になりたいとか言われても別に嬉しくないと思っちゃうタイプだからでしょうか。もっと旧来の「男/女」観では割り切れないラディカルな存在が入ってくれば、羽衣の描く世界はもっと広がっていくようにも思うし、今や仮にそうしたものが入ってきたとしても、性の悦びと哀しみにあふれた羽衣の持ち味が消えることはないはず。
 あと完全に蛇足になりますが、高橋義和による「高橋名人の冒険」のシーンが超愛らしかった。なんか、がんばれ、と応援してしまうあの感じはなんだろう……。

★★★★唯一無二の味

人類の愛と情と変わらない歴史そのものをギュウギュウに詰め込んだ妙ージカル。
オープニングの時点からオチは読めてしまっているのですが、懐かしいような、これから出会うような、愛すべき登場人物たちの人生にしみじみします。

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