夢見る乙女じゃいられない
たすいち
インディペンデントシアターOji(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
満足度★★★★
その世界を表す力
単純に才能と生きていくことへの折り合いといった話なら
別に驚きもしないのですが、
主人公の内側の描き方がかなりすごい。
しっかりと、やられました。
ネタバレBOX
とある漫画家、
3度の連載打ち切りにもめげず
再び作品を書き始めるところから物語がはじまります。
青春群像劇かと思いきや・・・。
彼女を対象にした同人誌の世界があって。
就職活動をしながらそのパターンをなぞる
女性がいる・・・。
彼女のマンガの別の世界が動き出している。
そのコミックの世界が凄くビビッドなのです。
さわりの部分で、
漫画家の紡ぎだすイメージに合わせて動き出す
キャラクターの動きにがっつりと取り込まれて・・。
次第に形をなしていく劇中の物語に、
まさにコミックの連載を読んでいくようにはまっていく。
ほんと、この劇中コミックの出来が抜群で。
展開が
それだけでご飯がお代わりできるのではないかと思うほど
おもしろいのです。
しかも、台詞も、コミックの世界ということででなんでもあり。全然臭くないし、殺陣の迫力も、夢や恋と言ったこっぱずかしいことも
コミックの代紋を付けているだけで、あるがままに観る側に伝わってくる。
観る側がコミックの世界に飼いならされてしまっているから
彼らがコミックの作り手側の世界に浸食してきても、
舞台に違和感を感じない・・。
それどころか、コミック側のロジックでないと
見えないような考え方が
現実の色をすっと染めていく。
やがて、同人誌コミックの物語は終息し、
一番外側の現実が明かされ、
さまざまな伏線から
二人の女性の人生の一歩が浮かび上がってきます。
コミックの世界の葛藤がしっかりと伝わっているから、
自分のやりたいことを見つけた
そのひとときの重さが、観る側にしっかりと伝わって。
ちょいとうるっときてしまいました。
満足度の星は、作り手の更なる伸びしろに対応するために、一つ減らしました・・・。でも5つ星に片手のかかった4つ星ということで。
光る河
てがみ座
「劇」小劇場(東京都)
2010/01/06 (水) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
満足度★★★
初日と比べて、
演技が丁寧になっていて、随分観やすくなった感じ。
ネタバレBOX
父性の様々な有り様は感じられたのですが、
もっと母性が描れていれば良かったのかも。
世界の秘密と田中
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2010/01/09 (土) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
ハートフルコメディの完成品!
ラッパ屋の芝居としての質の高さと期待を裏切らない楽しさは安定感がある。これだけ長期にわたってほぼ変わらないメンバーで良質な公演を打ち続けている劇団は少ない。そしてラッパ屋は数少ない大人の楽しめるコメディだ。もちろん若い人にも楽しめるし、家族連れなど最高だ。大人が楽しめるという意味はそこで語られている物語が本物だという意味。
鈴木聡の書く台詞はひとつひとつが重い、心に響く。重い台詞を積み重ねながら喜劇を作りあげる才能は恐ろしいばかり。
役者では主役の田中を演じた福本伸一の人の良さがたまらない。そして三鴨絵里子のあの声、中毒になりそうなくらい素敵だ。個性派揃いというのはよく使われる言葉だが、それぞれがこの劇団ほど粒ぞろいで魅力的な劇団を他には知らない。
笑わせて、泣かせて、感動させて、生きていく勇気を与えてくれる。これこそコメディの王道だ。鈴木聡の芝居に悪人は一人も出てこない。安心して誰にでも奨められる芝居である。そして人生における大事なものをしっかりと教えてくれる劇団でもある。チケット代がとても安く感じられた。
夢見る乙女じゃいられない
たすいち
インディペンデントシアターOji(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
満足度★★★★★
目崎ファンタジーの確かな歩み!
若い作家&演出家の進歩を確認出来ることはとてもうれしい。前作の感想でも書いたが、目崎剛は作家としても演出家としても着実に階段を昇っている。昔の作品で感じた歯切れの悪い部分や未完成の部分がどんどん洗練されていっている。しかも短期間の間にだ。
しかし、前作が去年の11月末、それから2ヶ月もたたずに新作とは、その創作意欲に恐れ入るし、それでこれだけの作品を作るのだから、それだけでも凄い。油がのってきているのではないだろうか。
役者では売れないけど前向きな漫画家工藤優女を元気いっぱい演じた矢鋪あいが素敵だった。夢を食う妖怪獏を演じた紺野タイキと枕返しを演じた石下ゆかも独特の魅力があって引きつけられた。
ネタバレBOX
物語は売れない漫画の作者と、同人誌の漫画家が、いつのまにか漫画の中の登場人物となって、現実と漫画とが交錯しながら、それぞれの夢に向かって戦っていくというお話。これだけ書くとありきたりだが、現実と漫画世界の行き来が実に見事なのだ。
前から思っていたが、この演出家、場面転換の処理がうまい。今回も登場人物が交錯しながらストップモーションや照明で、次から次へとシーンが切り替わっていく。その流れがそれだけで劇的なのだ。
物語全体としては題材が漫画や夢であるために青くさい部分がたくさんある。しかし、私はそれを含めてとても好きだ。目崎ファンタジーの世界で次第に確立されていくのを観るのは楽しい。
三月の5日間
オーストラ・マコンドー
赤坂RED/THEATER(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
表現方法の斬新さに感動!
スタートから舞台上に見事に渋谷の雑踏が表現され、とても斬新な舞台だった。特に映像の使い方が見事で、客席も含めた劇場全体が渋谷となっていた。
驚いたのは自然な会話。あたかも本当に渋谷の街で交わされているような若者の会話が舞台上に展開する。台詞回しや間合いがとても自然で(というより完全に日常会話)、これだけ自然な会話を再現して見せることがどれくらい練習が大変なことかと逆に想像させられた。
舞台上では常時、ほとんどの登場人物(全部で8人)が出ずっぱりである。つまり渋谷の街のあちこちで起こっているであろう出来事を観客が俯瞰して見ているような構造だ。(以下はネタバレで)
ネタバレBOX
てっきり河合龍之介と岡田あがさが中心の芝居だと思ったら、(彼らも重要な役どころだが)安井順平と坂口辰平が最も印象に残った。彼らの会話は絶妙だ。うっとうしいキャラを見事なまでにうっとうしく演じ、そのうっとうしさが芸術の域まで達している。
渋谷という現代を象徴する街をテーマにし、SEXや退廃、混沌、その中で生きていく若者達の日常をしっかりと切り取って、見事に表現して見せた。
何よりも表現方法の新しさ、斬新さに感動。岡田利規作品とはひと味違った舞台を創り上げた演出家としての倉本朋幸の才能をしっかりと感じさせられた。
余談になるが、渋谷で100人に実際にインタビューするなど、劇団員のこの演劇にかける熱い情熱が感じられた。また会場で全員に分厚いパンフが配られ、そこには対談や岡田あがさの小説などもあり、読み応え十分、観客サービスも満点だった。
【無事終演!】LOOKING FOR A RAINBOW【公演写真多数UP!】
劇団宇宙キャンパス
吉祥寺シアター(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/10 (日)公演終了
満足度★★★★
10周年に相応しい素敵な物語!
初日につき、未完成な部分があったり、役者の緊張感が見える部分もあったが、それらを含めて全体がみずみずしくさわやかだ。
吉祥寺シアターの広い舞台を立体的に使った装置が見事。その装置を生かして舞台上を縦横無尽に役者が飛びまわりはねまわる様子は気持ちよかった。
役者ではキムラシゲオが軽快な身のこなしで主役を演じきった。22人という多数の登場人物を舞台上でしっかりとまとめあげていたのは見事。女優陣では大田原りなが演劇部の演劇LOVEの女の子をさわやかに演じて魅力的だった。脇役陣も個性派揃いでそれぞれ面白いが、特に生徒会長関口純子、副会長玉渕正紀ははまり役だった。
ネタバレBOX
映像も照明も素晴らしかったが、音響の音が割れていたり、すかすか聞こえるところがあった。音響設備のせいかもしれないし、私の座席の位置のせいかもしれないがそれだけ残念だった。
今回の公演は劇団の10周年という節目で(しかも主催小林ともゆきは本日33歳の誕生日だそうで)主催の演劇人生を振り返ったような作品だった。各所に青い部分を感じる劇団だが、その青臭いところが胸をきゅんとさせる劇団でもある。そして今まで色々な苦労があったけど、これからも演劇を続けていくという宣言。とても素敵だった。
そしてまた登場人物それぞれがほんとに楽しそうに芝居をしていることも素敵だった。
夢見る乙女じゃいられない
たすいち
インディペンデントシアターOji(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
満足度★★★★
なかなかどうして!
途中までは,なんかストーリーが読めそうだなぁ,役者さんも皆若いしなぁ,なんて思いながら観ていましたが,いやー,最後の展開は見事!感心させられました。本が良いのはもちろんだろうけど,芝居自体もかなりの完成度でしょう。こういう若い劇団が育っているってホント嬉しいなぁ。これからも期待しています。
この部屋で私はアレをして
ガレキの太鼓
都内マンション(最寄駅:月島駅)(東京都)
2010/01/05 (火) ~ 2010/01/13 (水)公演終了
満足度★★★★
リアルすぎて・・・
今年の初観劇。いやー,こんな芝居に出会えてとても満足。照明も音響もない会話劇なんだけど,とってもリアルに感じて,こんな新婚夫婦いるよなー,それを覗いているって,いけない感じがドキドキ感を生んで・・・。椅子の坐心地もそんなに気にはならないほど緊張感と集中の時間でした。
FUTURE
ブラジル
駅前劇場(東京都)
2009/12/16 (水) ~ 2009/12/21 (月)公演終了
満足度★★★★★
観ました!
書くのが遅くなりましたが、観劇してきました。
おもしろい脚本に、絶妙なキャスティングに、すてきな舞台セット。
すごくよかったです。
不躾なQ友
クロムモリブデン
赤坂RED/THEATER(東京都)
2009/12/26 (土) ~ 2010/01/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
観ました!
書くのが遅くなりましたが、観劇してきました。
最後までたたみかけるようなお芝居のリズムに引き込まれて、楽しく見ました。よかったです☆
新春浅草歌舞伎
松竹
浅草公会堂(東京都)
2010/01/02 (土) ~ 2010/01/26 (火)公演終了
満足度★★★★
夜の部(着物の日)
客席、着物で華やか。
「袖萩祭文」
奥州安達原の筋、よく知らなかったので「?」な部分もあったが、見所多く楽しめました。
勘太郎、三味線間違うなよ(笑)
「悪太郎」
楽しい歌舞伎舞踊でした。亀、うまいなぁ。
帝都ロマネスク・再演
彗星マジック
OVAL THEATER & GALLERY (旧・ロクソドンタブラック)(大阪府)
2009/10/30 (金) ~ 2009/11/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
今頃コメントでごめんなさい。
遅れましたがコメントさせてください。
彗星マジック「帝都ロマネスク・再演」で初めて観劇しました、物語の展開が多く、面白いお芝居でした。
始めは、言葉が多いな!!、真剣に聴いて観て、ついていかないとな!!と思いながら、物語が進むにつれて引き込まれていく感じでした。
小演劇が初めての友達と行ったのですが、彼が昨日、“今年はいつ頃あんの? 西出奈々さん やったっけ、観たいな” と!!
はまっちまいやがったぜ!!(笑) 次楽しみです。
三月の5日間
オーストラ・マコンドー
赤坂RED/THEATER(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
満足度★★★
会場全体を使った演出
ずっと「オーケストラ・コマンドー」だと思ってたことは内緒。
渋谷を舞台に、最近の若者の短絡的な思考、言動を出しながら
ふと見せる妙な素直さやこだわりの断片。縮図のように見える。
安井順平と坂口辰平の会話がいいですねー。尾崎は最高!
笑わせておいて、捕虜ゲームのときに見せる空気の変化、
我に返って戸惑う姿は、演技とは思えないリアリティがありました。
次回は秋、楽しみです!
世界の秘密と田中
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2010/01/09 (土) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
満足度★★★★
さすがだなあ
紀伊國屋ホール、いっぱいに集まったお客さん。
積み重ねてきた実績が現れているような気がしました。
内容ももちろん期待を裏切らない良質のコメディ。
場転が違和感なく滑らかで素晴らしかったです。
田中さんのお母さん、ホント大好き。
パーティで歌のリハーサルが収束した以降、
想像でも充分補えるのに、やや引っ張りすぎた感も。
しかし本当に息がぴったりで、ラッパ屋さんの実力を見ました!
はじめての食卓
むーとぴあ
駅前劇場(東京都)
2010/01/08 (金) ~ 2010/01/14 (木)公演終了
満足度★★★★★
おっかー共演!全編,武藤さんの「ほっこりとしたあったかさ」が心地いい!
武藤晃子さん1人のユニット「むーとぴあ」第2弾!
第1弾の西川さんに続き、今回はキャラメルボックス岡田さん、
そして、あの濃~いナイロン100の廣川さん、と、
個性的メンバーが集合、わかぎゑふさんが脚本を描いた
「家族三世代物語」。
武藤さん演じる主人公が、岡田さん演じる夫の家族に
お嫁入り、引っ越してくるところから始まる、
家族の歴史・ホームドラマです。
ある意味、外から見ればありふれた、しかしその家族
にとっては大切な大切な、日常のエピソードが
年を追って積み重ねられていき、小さな笑い、ユーモアに
笑いながらも、大いに泣かされちゃいます。
全編から伝わってくる武藤さんの「ほっこりとしたあったかさ」
が、とっても心地良くて、改めて観てよかったなと思いました。
今から次回作が楽しみ!
この部屋で私はアレをして
ガレキの太鼓
都内マンション(最寄駅:月島駅)(東京都)
2010/01/05 (火) ~ 2010/01/13 (水)公演終了
満足度★★★
仕掛けていく攻撃的姿勢
「ガールズパジャマパーティ編」観劇。チャレンジングな取り組みは買いです。椅子の座り心地もここで言われているほど悪くはなかったです(笑)。雰囲気作りもうまいし、キャラの作り方も観やすいようになっている。構成の仕方、話題の興味の引き具合も上手。
ネタバレBOX
女の子だったら誰でもああいう話を、って言われるちょっと疑問なんですが。観ている間、そういうガールズトークとはなんぞや、みたいな方向に脳みそが働いちゃって、作品云々よりも話題のチョイスとかテンションとか3人の関係とかを考えてしまいました。
恋バナとか性の話、下着の話とか、外野の興味を引く形ではあったかな、と。女に加え、草食系男子やオカマちゃんとかちょっと異質の仲間が混ざったときになされるような会話にも感じられる。自分たちの話というよりは聞かれてることを意識したしゃべりな気がしました。3人の関係が2人は同い年、1人後輩って感じだったので、それだったらあそこまで赤裸々にはならずにちょいと見せびらかしたり牽制したりが入るかな、なんて。
ま、その辺はちょっとした感覚の問題なんで。世代とかもあるでしょうしね。
自然に広がってく女子の持つ空気感はとってもよく伝わりました。
Blue is near water〜水辺に佇む青〜
Story Dance Performance Blue
ウエストエンドスタジオ(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
満足度★★
星が少ないのは
単に自分の観たい方向と合致しなかったっていうだけのことで、完成度とか美しさはかなりのもの。
ダンス公演をやるからにはダンサーじゃなく俳優がダンスをする意味を考えてしまうのです。ダンスができる俳優はそりゃいるし、キャラメルボックス所属となればそりゃ動けるはず。お話部分とダンスの融合ということでしたがどっちつかずになってしまったように思いました。
ネタバレBOX
すべてを美しくまとめすぎてるというか。。。規律正しくきっちり計算されつくされ。もっともっと息を切らせたり倒れたり、醜い生の姿があればいいなと思ってしまいました。
普段大きな舞台を踏んでいるキャラメルボックスの俳優さんたちが、こういう形の自主公演みたいなところで素顔を見せてくれるのは魅力的でした。
見えざるモノの生き残り
イキウメ
紀伊國屋ホール(東京都)
2009/12/02 (水) ~ 2009/12/07 (月)公演終了
満足度★★★★★
Dear,ハピネス
エキセントリックな妄想が濃度を上げながらゆるやかに、現実という静謐なサークルをまわり続けて着実にその形を失っていきながらアウトプットされる世界は、半信半疑であろうとも、受け入れざるを得ない現実として大胆に提示する作風と英語を日本語に直訳したような説明的なセリフを抑揚なく淡々と話す役者陣がその特異な世界観を更に唯一無二なものへと昇華させるイキウメだが、他の方々も言及されている通り、今回は少々勝手が違う。私も正直、戸惑った。なぜなら、立ちはだかる現実問題に追い詰められたひとたちは、そこにある対人関係をごまかさないでしっかり向き合おうとしていたからだ。
とはいえこの芝居を見た直後は、なんだか物足りなさが残った。けれど後々、思い返せばひとはそんなに不幸でない時、幸せについてあまり深刻にならないし、さほど執着しないものだと気づく。そう思うとこの、一見ほのぼのしたようにも思えるドラマには、不満を感じるくらいで丁度いいのかもしれない。
かつて人間として存在したモノたちと、何かが崩壊しかけた者たちが、ささやかな交流の先に、それぞれの世界でちゃんと生きようとする物語。110分。
ネタバレBOX
物語は新入りの座敷童子、ナナフシに先輩座敷童子タイコウチの経験談と、
なぜ彼が座敷童子になったのか。そのあらましによって描かれる。
舞台は上段下段に分けられて、下段にまだ死んでいない人間が、上段に座敷童子が配置され人間界を軽く俯瞰するような形だ。舞台美術は非常にシンプル。イス数脚に机。扉に見立てた木枠がひとつ、あとは、上段に柵が2つだけ。照明は透きとおった群青色で、夜明け前を思わせる。
人々の行き交う足音。都会と思わしき雑踏の中で、舞台に背を向けたひとりの青年に中年の男は声をかけ、一緒についてくるよう指示。そしてこう言う。
「お前は今日からナナフシだ」
青年は自分が誰だかわからない。記憶がないのだ。青年はナナフシという名の座敷童子である自分を”受け入れる”
座敷童子にはお宅を訪問する際、その家に住む者が全員そろっている時でなけれなばらない、「お茶をいっぱいいただけますか?」と言う。人間に触れてはならない、恋をしてはならない、など様々なルールがあり、先輩であるタイコウチの経験談をシュミレートしながらそのHow toを学ぶことに・・・。
タイコウチの担当した梅沢夫妻はどこにでも居る、普通の夫婦。いただきます。とは言うのに、ごちそうさま。とは言わないことや、自分のことを愛してる。と言葉にして言ってくれない夫の態度に妻は不満があり、夫の方は起業したものの軌道に乗らず、苛立っていた。お互い夫婦関係がうまくいっていないことは自覚しているようだが核心にせまる話合いを避け、顔を合わせれば何となくその場を取り繕ってやり過ごしてしまう。
すれちがっている夫妻のもとにある日、顔はオッサンだが子どもみたいな体たらくのタイコウチと名乗る座敷童子(子どもじゃないので正確には”家守”)が訪ねてきた。夫妻は”座敷童子”という存在は知っていたものの、座敷童子は鬱蒼とした森のなかにぽつねんと佇む日本家屋にいるもので、高層ビル群が鎮座するトーキョーシティーにいるものではないという固定観念から最初は少々戸惑っていた。奥さんの方は夫婦関係が冷え切っていたということもあってか好意的だったが、旦那の方はあまり気が乗らない様子だったが「座敷童子は幸福をもたらします。」という一般論をタイコウチが投げかけると、旦那はとても好意的に”受け入れた”
夫妻は自分たちの願いを叶えてもらうことを望んだ。
「あなたは何をしてくれるかしら?」
タイコウチは言う
「わたしには何もできません」
”座敷童子は幸福をもたらずが、願いを叶える能力はない”(←当日パンフレットより抜粋)のだ。
がっくり肩を落とす夫妻だが、座敷童子が家に来てからというものの、どういう訳か事態は好転。妻は夫の仕事を手伝い始め、事業は右肩あがり。夫婦仲も好調だ。やがてタイコウチは任期満了のため家を出た。
座敷童子がいなくなると、それまでの幸せも同様に、いなくなってしまうものなのだろうか・・・。夫の事業が傾きはじめ、夫婦は喧嘩が絶えなくなった。夫は幸せであることに対して消極的な発言が目立ちはじめ、タイコウチからせん別にもらった幸福のシンボル、ふわふわの天使の綿毛のようなケサランパサランもふたりの目にはもう見えなくなっていた。
失ったらまたもう一度一からやりなおせばいい・・・。
夫婦がお互いを受け入れた時にふたりの目には確か見えるケサランパサランは、彼らのこれらを祝福しているかのようだった。
すべての人間関係は他者を肯定するところからはじまるが、何かがうまくいかないとき、何かのせいにしたいと思うことがある。それでは思い通りにいかないのは当然だとわかっていても、良いアイディアも浮かばず、頭を抱える日々が続くと藁をもすがるおもいで何かを頼りたくなる時もある。
座敷童子はそんな人間の弱さに対して何も出来ない。けれど誰かをひたすら見守る無力な存在としてそこにいるのが彼らの精一杯のやさしさで・・・。
誰かに何かをしてもらえないと誰かに何かをすることを躊躇してしまったりもするけれど、そんな気持ちを翻していくことが人間の独善性を立ち直らせていく手段であるし、地にしっかりと足をつけ、前を見据え、こじれた関係を修復し、許し、受け入れ、助け合うことができるのならば、そしてどんなに辛い時でも、隣人をおもいやり、愛を持って接することをを忘れなければ、ひとは孤独という呪縛からほんの少しだけ救われるかもしれない。
物語は後半、ナナフシが断片的に思い出した記憶の断片とナナフシが見たある二人の掛けあいから梅沢夫妻とは異なる幸せについて検証していく。
自分は何者であるのか?その手掛かりになるナナフシが思い出した断片的な記憶とは、自分の名前は竹男で母は竹男を女手ひとつで育てていたが竹男が思春期の頃のある日、男を作って家を出ていった・・・というもので俗っぽく、お涙頂戴系のテレビ番組などで見受けられるような、不憫でよくありがちな話。これが非常に短いダイジェストで簡潔に説明される。(他人の不幸はこれくらい軽いという現れ。とも受け取れる)
そして家を出て行く母親が、困ったらここに連絡を入れるように。と投げやりによこした番号に一本の電話を掛けたことから彼の人生の速度があがる。
電話口で男は今から来るよう指示。母と薄い繋がりのあるその男は便利屋だった。主な仕事は借金の取り立て。堅気な仕事とは言えなかったが、ナナフシはこれを”受け入れる”
矢口という若い男に先導され、持田喜美という若い女性の働くファミレスに行く。彼女の両親は莫大な借金を残して行方をくらましてしまったため、彼女がその借金を引き継いでいるのだそう。彼らの仕事はもちろん滞っている借金の返済をさせること。持田喜美の住む部屋まで押しかけ、借用書をチラつかせる。竹男はおどす役を任された。(仕事初日ということもあり、即戦力になっているとはいえないような仕事ぶりだが、彼なりにベストは尽くしているようだ。)
矢口は持田を説得し、自己破産させようとするが持田は、借金は自力で返していくという。持田は両親が自分に借金を残していったのは、自分に試練を与えるために良かれとしてやったことでそれは生きる糧のようなものだ、と反論。すると矢口はキ ミ ハ オ カ シ イと言い放ち、ナイフを取り出し『俺はキミの幸福の糧を奪う』と脅す。
他者から見れば明らかに「この人はどうしたって不幸だ。」と断言できるような状況下でも、本人が満足感を得られているのであれば、幸せなんだ。と言えるのか?幸福とは満足している状態のことを表わすものなのか?答えが停滞するなか、幸せの価値基準について問うこのドラマは途中で打ち切られることになる。竹男による持田への暴力行為を持田の家に棲みつく座敷童子、日暮の一手がイザコザと竹男の人生共々を終わらせたからだ。
かつて竹男と呼ばれた男の一生はあっけなかった、本当に。当人もそれを認めていて、肉体的な死をポジティブに捉えている。彼は自分が死んだホントウの理由を知らない。単なる心臓発作で死んだと思っている。
日暮はチームリーダーの金倉(別名:ゴッドファーザー)にナナフシにホントウのことを言った方がいいかどうか、判断を仰ぐ。
金倉は別にいいんじゃね?とでもいうような非常にフランクなノリで交わす。
”知らない方がナナフシにとっては幸せだと思うから”なんだろう。
もしも人生が理不尽を受け入れることの連続なのだとしたら、唐突に命を落とすことになったこの運命とも言い難い不憫なアクシデントを納得し、素直に受け入れられるだろうか?あるいは、もともと自分はこういう運命だったのだ。と諦められるだろうか?
座敷童子になれる基準、ちゃんと死ねなかったモノ。とはちゃんと生きられなかったコト。への未練のように思えるのだ。
その罪滅ぼしのためにも座敷童子としてよみがえり、第二の人生とも言える道を”別れの練習”を繰り返しながら、生きる受難を受け入れ、生きる喜びをもたらそうと日夜励んでいる姿は、とても切ない・・・。
すべての行いは愛があるかないか。で決まるという話をどこかで聞いたことがある。この物語には人間に対する根源的な愛と、現世を生きる者へのささやかな想いと営みで溢れていた。信ずるべきはオカルティズムなパワーではなくて、あなたのすぐそばにいるひとたちなんです。
届かないことだってある
パセリス
OFF OFFシアター(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/11 (月)公演終了
1月10日(日)M
劇団初見。面白い試み。ちと雑か。
女魂女力其の壱しじみちゃん
カミナリフラッシュバックス
新宿ゴールデン街劇場(東京都)
2010/01/07 (木) ~ 2010/01/10 (日)公演終了
1月9日(土)M
超満員。AVシーン最高。でもちと長い。