勧進帳
木ノ下歌舞伎
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★
ネタバレ
ネタバレBOX
木ノ下歌舞伎の『勧進帳』を観劇。
内容は変えずに、セリフは現代口語で、舞台セット、衣装、音楽などは大きく変えている。
武蔵坊弁慶は外人で、体格は大きく、関西弁を喋り、義経は男性の設定だが、女性が演じている。
義経と弁慶と家来達が関所をどのようにして超えて行くか?を弁慶たちと関所を守る冨樫左衛門の二つの視点で描きながら、関所を超える瞬間をクライマックスと思わせながら、難を逃れた後の弁慶と義経の愛の形を最高の形で見せてくれる。
だがそれも主従関係なので、手さえ握れず、側にも寄れず、見つ目合う事すら出来ず、言葉もない中で、二人は微動だにせず、その後ろで家来たちがラップの歌いながら、その歌詞が彼等の心情を表し、深くつき刺さるのである。
もう涙が出ない訳がない。
そしてこれこそが『勧進帳』いや歌舞伎の一番面白い所を一番面白くするのが、木ノ下歌舞伎の得意とするところである。
今作は再演で、既に傑作と言われているが、傑作ながら、一級品に仕上がっているのは間違いなのである。
そしてこれから一週間程、今作の感激が自身から離れずにいるのであろう…….。
お勧め。
33の変奏曲
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2017/09/27 (水) ~ 2017/10/08 (日)公演終了
満足度★★★★
ピアノの生演奏がよかったです。あと、主役の女優さん&ベートーベン役の人もうまかっった。ものすごい盛り上がりはないですがしっかりドラマを見せる感じ。
お客さんの年齢層が高くてびっくりしました。
アブニール夢見が丘
ユーキース・エンタテインメント
新宿スターフィールド(東京都)
2018/02/20 (火) ~ 2018/02/25 (日)公演終了
満足度★★★★
三つの部屋での二人芝居が基本ですが、微妙にそれぞれが絡んでくるところは、オーソドックスではあるけれど好きな構成でした!
なかでも一部屋目でのせめぎ合いが面白かったです!
このBARを教会だと思ってる(千秋楽満員御礼、終幕しました!ご感想お待ちしております)
MU
駅前劇場(東京都)
2018/02/21 (水) ~ 2018/02/26 (月)公演終了
満足度★★★★★
その告解をまのあたりにして、私は言葉もなく立ち尽くしてしまった。
この気持ちを誰に打ち明ければいいのか、分らなくなってしまって。
しばらく訪れていない、あのBARのマスターと、話をしたくなりました。
こんなに面白いお芝居がやってるなんて知らなかった。
演劇のメッカである下北沢でお芝居をみたのは、この日が初めてだった。
石巻から東京にやってきて、思いがけず観劇する時間が出来ました。
黒色綺譚カナリア派/コマイぬの芝原弘さんからおすすめしてもらったお芝居でした。
私はまったく前情報も何も知らず、おすすめだよ、と教えてもらったんです。
フライヤーのエメラルドグリーンと、教会とBARというとりあわせに興味をぐっと惹かれてしまいました。
Pityman「ハミングインウォーター」石巻公演で出会った、藤田りんごさんのお芝居もまた観たいなと思ったのが動機のひとつです。
以下、ネタバレBOXに長文感想あります。
ネタバレBOX
BARでのお話なので、夜公演を観に行くことに決めた。
開場まぎわの駅前劇場へのぼる階段には、お客さんがずらり。
開演してから終演まで、笑い声やすすり泣く声、息をのむ気配が鳴りやまず。
終演後のホワイエでも、高揚した感情のやりとりがおさまらない空気でいっぱいだった。
ほんとうに、思いがけず素敵なお店を教えてもらったような気分。
ひとりで観ていて、胸いっぱいにあふれそうな感情の行き場がなく、ただただそこに立ち尽くしてしまった。
私はあまり酒に強くなく、いつも車で帰るため、ほとんど外で飲まない。
お酒を頼まなくても、カウンターに座らせてくれる地元のBARがあるのだけれど、なんだか、そこに行って、たくさん話がしたくなってしまった。
これから、物語の内容に触れていくのだけれど、なんだか少し気後れしてしまう。
物語に出てくる“告解”――罪の告白、懺悔には、自分の身に染みる内容もふくまれているきがするから。自分の趣味趣向、過去の遍歴まで、感想を詳しく書けば書くほど、あらわになってしまいそうだから。
それでも、ちょっとドキドキするけど、書いていこうと思います。
マスターが持っている、あの、常連客の秘密が書かれた手帳を開いてみるつもりで、読んでくれるとうれしいです。
*
席の位置によって見方がだいぶ変わる仕組みになっているようで、私は最前列の一番上手側に座っていた。
都合がゆるすなら、別な席を選んで、あと最低でも2回は観てみたいなと感じた。
登場人物の機微や伏線のひとつひとつが音符なのだとしたら
それらが絶妙に五線譜に並べられたきれいな曲のような物語だと思った。
疲れた夜にふと寄り添う優しい音色のようでもあり
波紋が波乱をよび嵐のように心をかきみだす激しさもある。
BARのママ・マルが弾いていた、透き通るようなアコースティックギターの音色のせいかもしれない。
はじかれた弦の音の波がしずかに会場に広がっていき、駅前劇場が、BAR「さざなみ」の雰囲気に包まれていく。
*
物語に登場するのは19人。
そのうちの1人は、最後まで舞台に登場しない。
とある三軒茶屋のBARでの、いくつかの夜を描いた、群像会話劇だ。
当日パンフレットをみて、登場人物の多さに、全員をちゃんと覚えられるか不安だったけど、物語が進んでいくうちにそれは杞憂に終わる。
出てくる客の誰もが、一癖も二癖もある性格で、ああこのひと、あのひとに似てるかもしれない、という身近さも感じるほど、親近感がわいてしまうのだ。
なかでも印象につよく残ったのが、物語の中心人物のひとりであるユリカだった。
演じるは福永マリカさん。朝ドラに出てきそう、と言ったら安直すぎるけれど。
透明感のある可憐な容姿で、予想外のことばかりやってのける。
真面目がすぎて、極度の完璧主義。情緒不安定ぎみ。パートナーを心配するあまり、彼を追い詰め、帰宅恐怖症に陥らせてしまう。
そんな、すこし歪んだ美人の妹をもつ姉の三恵子。
古市みみさんが演じている。竹を割ったような性格のハードボイルドな女性。冗談とも本気とも取れるキレのいい言葉をキビキビと飛ばすものだから、真面目なことを言っていても、ついつい可笑しくなってしまう。
妹へ厳しく接するが、それは誰よりも妹のことを想っているからだ。
そんなふたりの姉妹が、ユリカの結婚資金の貸し借りについて、カウンターで口論をしている。
カウンターから離れたテーブル席にいるのが、西川康太郎さん扮する、何でも屋の草ちゃん。
飲食街を動いて回り、トイレの詰まりからランプの修理まで、様々な面倒事を請け負う何でも屋。ひょうひょうとした性格で、愛想もいいのでみんなに好かれている。
好みのタイプだった。路地裏で酔いつぶれたら草ちゃんに介抱してほしいななんて思った。
カウンターのなかにはBARのマスター・新島。成川知也さん。
物静かに客の話をきいている。なんだか、その柔らかい雰囲気に、なんでも話したくなってしまいたくなる。
バーのママでもある妻のミュージシャン活動を応援するために、お店を始めたそうなのだが、彼女に対する一途さが微笑ましい。
妻がバンドメンバーの男と飲みにいくのは我慢できるけど、自分が常連客の女性と飲みに行くのは引きとめてほしい、そんなところがいじらしかった。
こんなマスターなら好きになってしまうだろうな、という女性がマル。まるまどかさん。
ギターを弾く姿が綺麗で、性格もさっぱりしている。
ひととひととの適度な距離感がわかっている雰囲気があり、なんとなくふと頼りたくなる、かっこいい女性だ。
さて、結婚資金についてやかましく口論する姉妹。
これだけなら、よくある痴話喧嘩の類だなと感じる。
ユリカが店をあとにしたあと、BARに気弱そうな若い女性がやってくる。
ユリカの親友である誠子。志賀聖子さん。
誠子が語り出した“告解”が波紋をよび、このBARにおおきな波乱をもたらすことになる。
*
【第1章】妹の救済
このエピソードは、基本的にまじめで仄暗い印象がある。
好きな雰囲気だけど、このトーンで物語が続いてしまうと、みていて辛い気持ちにばかりなりそうだった。
しかし、第2章と第3章に出てくる『帰宅拒否組』や『ガールズバーの女の子たち』は、そんな雰囲気をふわっと軽くしてくれた。
笑えるし楽しげなんだけど、少しの棘や伏線も隠れていて、ハッともさせられる。
*
【第2章】帰宅拒否組
コミカルな展開で、男たちの思い切りのいい振る舞いが面白い。
アルバイトの美嘉をめぐる男たちの悲喜こもごもを描いている。
BARカウンターには、森口美香さん演じる、アルバイトの美嘉。オーダーメイドの帽子屋を営むことを夢見ている。小動物的な愛らしさで、BARに足繁く通う固定ファンもいる。私も、みかちゃんをからかって、慌てちゃうとこ見たいなー、と思いながら眺めていました。
帰宅拒否組ファンそのいち、橋本。橋本恵一郎さん。 「げんしけん」という漫画が私は好きで、その漫画に登場する斑目というキャラに似ていた。お調子者で虚勢を張りがち。リアクションがオーバーすぎて若干うるさい。友達少なそう。でもどこか憎めない。純粋なんだろうなと思う。女性に恐怖心を抱いていて、美嘉にだけは心を開ける。
帰宅拒否組ファンそのに、純。榎本純さん。誰よりも美嘉に前のめりなんだけど、誰よりも美嘉と発展できなさそうな奥手ボーイ。表情や挙動がいちいち面白すぎました。関係ないシーンでもそっちみるとつい笑っちゃいそうになって。応援したくなっちゃう純情男子。
帰宅拒否組ファンそのさん、浜野。浜野隆之さん。紳士的で落ち着いてみえるけれど、年甲斐なく若い子に入れ込んじゃうとこが可愛かった。ライバルに対抗して美嘉と関係をもったと嘘をついちゃうとこ可愛い。バチバチにセックスって言葉がツボに入りすぎてダメでした。
帰宅拒否組ファンそのよん、菅生。菅山望さん。 イケメン眼鏡枠のノリのいいお兄ちゃん。でも、この子はフツーに職場やプライベートでもモテそうだし、美嘉以外にも言い寄ってそうだなあなんて邪推もした。妻帯者だけどみかとキスしちゃう。でも、それ以上先にはいけない小心者なイケメン。
帰宅拒否組が美嘉を振り回してるようでいて、振り回されてるところに、男心の可笑しみを感じた。浮気や不倫、かなわぬ片思いばかりなんだけれど、笑い話としてみれるのがなんだか不思議だった。
バイトを辞めると告げた美嘉が、マスターに秘密を打ち明け始めたとき、もしかして、マスターに恋をしてしまったのかな、なんて一瞬思ったんだけど、予想外の言葉にハッとなった。
彼女は、彼らが向ける好意を、ただただ鏡に反射する光のように返していただけで、彼女から彼らに好意を向けてはいなかったんだろう。自分に自信がなく、彼らの瞳にうつる自分の姿は、都合よく美化された虚像なんじゃないか。そんな不安をずっと抱えていたのかもしれない。
*
【第3章】現実じゃない方
ガールズバーの女の子たちがはなやかで観ていて楽しかった。
でも、着飾っていて明るいだけじゃなく、それぞれが悩みをもっている。
現実と、そこから逃避する姿に、共感をおぼえつつ観ていた。
カウンターには 岡山誠さん演じる、 アルバイトの岡山崎。恰幅のいいドラマー。美嘉とおなじく、バイトを辞めたい、と相談するシーンから始まる。なんでも、新しく出来た彼女との生活を安定させたいため、正社員の職をさがすという。ただ、優柔不断そうで、ちょっと頼りなさげ。からだは大きいけど、気弱そうで、引っ張ってくれる女の子が似合いそう。
みかん。温井美里さん。メイド服を着たパシられ系最年少女子。一見おとなしそうだけど、現実的で芯の強い面もあった。岡ちゃんの彼女。「若くて可愛いから先輩からの風当たりが強かったけど、岡ちゃんの彼女になったから溜飲がさがったんだよ!」「正社員なんて無理に決まってる!」など、可愛い顔で辛辣な言葉を吐くので面白かった。
いちご。真嶋一歌さん。地獄ナースコスプレ。敵に回すとめちゃくちゃ怖いけど、味方だと頼りがいのありすぎる姉御。とにかく登場したときのインパクトと舞台上の存在感がすごい。美人なのに、ふりきれた振る舞いばかりなので思わず吹き出してしまう。いちごねえさんにハグしてほしいなあと羨ましく思った。
もも。加藤なぎささん。のほほんとした癒し系漫画家女子。ゴシック風な魔女のキキをハロウィンのコスプレに選ぶあたりが、漫画描きっぽいなあと思った。ももちゃんの描くクロスワード誌に掲載された4コマ漫画を読みたいと思ったし、たまに新聞や雑誌のクロスワードパズルにはまる自分には劇中のツッコミに対する被ダメージが意外に大きかった。自分のことを美人に描いちゃうとこが可愛い。
ライチ。小島望さん。人妻が白雪姫のコスプレするのはそそるなと思ってみていました。ほかの女の子がわきあいあいとはしゃいでいるシーンで、ひとりぽつんと離れてみていたのが印象的だった。夫の収入が不安定なせいもあるのだろうか、現実に疲れて陰のある表情をしているように思った。ちょっと陰のある人妻が白雪姫のコスプレするのはそそるなと思いました。(2回目)
りんご。藤田りんごさん。なんだかとにかくびっくりした。Pitymanの公演で会った藤田りんごさんは、パートナーとセックスレスの生真面目な姉の役だったから、役の振り幅の違いに驚いた。写真好きで、コスプレにキョンシーを選ぶあたり、めちゃくちゃコアなファンがついてそうだと思った。役作りの裏設定を教えてもらったんだけど、昼間はパティシエをしてる設定らしい。なんだそのギャップある女の子。りんごちゃんのお菓子が好きで昼間のお店に通いつめ、夜はガールズバーで働いてることを知りちょっぴりショックを受けたい。
篤子ママ。久保亜津子さん。ガールズバー「フルーティ」の支配人。篤子様とお呼びしたかったです。人を見る目がものすごくありそうな雰囲気。ただそこに存在するだけで感じるオーラ。どうしてその貫禄で三軒茶屋にガールズバーを開いたのか気になったが、きっと店で働く女の子たちを守るためなんだろうなと思った。ラリパッパ?!って聞き返すのほんと面白い。すっかり成熟した大人の女性かと思いきや、草ちゃんに対する想いでヒステリックに恋い焦がれる姿に、なんだか胸がきゅっとしてしまった。
現実の自分はキツイ、と誰かが言っていた。
誰が言ったのか忘れてしまったのは、皆がハッキリと同意していたからだろうか。
現実「じゃない方」に甘えたり誘惑されたりしながら、かなしくもしたたかに生きている女の子たちが、愛おしいなあ、と思った。
*
ずっと言及してこなかった、舞台に出てこない登場人物。
ユリカのパートナーである、けいくん。
このふたりの関係が、全編を通して紡がれている。
ユリカとけいくんは結婚生活に向けて断捨離を始める。
ときめくもの以外はすべて捨てる、との約束のもと。
ある日ユリカは、元カノの写真が捨てられていないのに気付く。
ときめくもの以外は捨てなきゃいけないのにどうして?
情緒不安定になったユリカは、元カノの写真と、けいくんの大事にしている蝶の標本を、家のトイレに流してしまう。
それでも気の済まないユリカは、探偵を雇い、けいくんの素行調査を依頼する。
結婚資金として貯めていたお金を、すべて依頼料につぎ込んで。
やがてけいくんは、帰宅恐怖症になるほど、心身ともに追い詰められてしまう。
*
BARに秘密を抱えてやってきた誠子は、ユリカの親友だ。
親友のユリカのことも、そのパートナーのけいくんのことも、大事に想っていた。
けいくんとは、同じ合唱サークルに所属していた。
日に日に追い詰められていく、けいくんのことを、ずっとそばで見ていた。
誠子はマスターに告解する。
私は、親友のユリカの彼と、けいくんと関係を持ってしまいました。
誠子は涙をこらえながら、すこしずつすこしずつ語っていた。
彼とのささやかな情事。別れ際の淡い期待。親友にたいする複雑な想い。
彼女の告解がとても清らかだったせいで、罪の匂いを感じられなかった。
その清らかさのせいで、彼女の存在が、とても遠くに感じてしまった。
*
目の前には、草ちゃんとユリカが並んで座っていた。
草ちゃんは、ユリカに依頼されて、けいくんのことを尾行していた。
ユリカが草ちゃんにぽつぽつと想いを語る。
草ちゃんは、気遣うようにユリカに優しくしている。
目の前のふたりの姿ばかり見つめてしまった。
ユリカの白い手のなめらかさから、目が離せなかった。
ユリカは、
生きたまま磔にされた蝶のようだ、と思った。
もがいてももがいても彼に打たれた胸の杭が抜けることはなく。
苦しくてどうしようもなくて、死にたくても死にきれずに、
綺麗な姿のままで、どこにも行けずに絶望してる。
ガールズバーで働き始め、自暴自棄になり、酒と薬に溺れてしまう。
汚物を吐いて店の床に撒き散らす。吐瀉物は見たこともないような色をしている。
草ちゃんは必死に介抱しようとするが、痙攣し朦朧となったユリカの口からは、
けいくん、
と、とても切なげなささやきが漏れる。
吐瀉物を喉につまらせ窒息しかけるユリカ。
姉の三恵子が口移しでそれを吸い出し、
「全部飲んだ。」
と振り向いて告げる姿に、愛情って言葉じゃ括りきれない、力強さを感じた。
*
【第4章】秘密を以って秘密を制す
第1章とおなじく、ユリカと三恵子が並んで座っている。
しかし、座っているのはテーブル席。
『帰宅拒否組』の4人とマスターが、神妙な面持ちでふたりを見つめている。
テーブルのうえには、綺麗な青い蝶の標本が置かれている。
ユリカがかっとなり捨ててしまった、けいくんのコレクションとおなじ標本だ。
帰宅拒否組の4人が手分けして集めてくれたようだった。
マスターと4人が去り、姉妹ふたりきりになるBARの中。
マスターのいないBARのなかで
神父のいない教会のなかのように
ユリカは、しずかに“告解”を始める。
けいくんのことを想いながらも、草ちゃんに甘えてしまったこと。
相手のいる身でも、つい誰かに頼りたくなる夜があること。
けいくんの気持ちも、誠子の気持ちも、少しだけわかったこと。
もうすっかり、けいくんは、家に帰って来てくれないこと。
それでも、会って、謝りたいということ。
集めなおした蝶の標本を返して、謝りたいと。
戻ってくるかな、と、ユリカは三恵子にちいさく訊ねる。
来るよ、と、三恵子はちから強くこたえる。
暗転し、BAR「さざなみ」の扉が閉じる。けいくんは、最後まで姿を見せなかった。
*
私の目の前には、不安げなユリカと、前を見据える三恵子がふたり並んで座っていて、急にあかりが消えてしまったので、ああ、憎い演出だなあ。と思った。
けいくんが結局戻ってきたのか、ふたりはどうなってゆくのか、あとの想像は観客に委ねられたままだ。
私の頭の中では、ユリカと三恵子が、あのエメラルドグリーンの扉が開くのを、まだじいっと待ち続けているのだ。
根底を流れる物語の波は仄暗い印象をうける。
もしも現実にまのあたりにしたら、それこそ溺れてしまいそうになる。
でも、ふしぎと沢山笑えて、優しい気持ちにもなれたのはなぜなんだろう。
このBARでの出来事が、現実じゃない方の世界だからなんだろうか。
1日中東京のまちを歩き回って、くたくただったはずなんだけど、帰る頃には不思議と気力が湧いてきていた。
どうしようもなくかなしい出来事もユーモアに変えて、不器用にもけんめいに生きる彼らの姿に会えたからかもしれない。
また今度、東京の三軒茶屋にやってきたときは、きっとあのBARの扉を探してしまうんだろうな。
憑依だよ!栗山ハルコさん!
ホットポットクッキング
赤坂RED/THEATER(東京都)
2017/01/13 (金) ~ 2017/01/19 (木)公演終了
満足度★★
残念ながら、私個人は面白いと思える作品ではありませんでした。
なんと言いますか…事務所からの「企画ありき」感が凄かった。
色んなところから最善と思われるものや人やネタを寄せ集めて形を成そうとしているものの、
誰も彼もが良さを打ち消しあっている様で悲惨でした。
PMC野郎の吹原さんの脚本は普段通りというかこんな感じの気がして、
それはもう演出を含めてオリジナリティで、独自路線で良いのですが、
それを消化出来ている人が、少なくとも前の方に出ている人の中には見当たりませんでした。
前作「失神タイムスリドル」でも危うく見えていた、でもそれがアイドルらしい初々しさとして見えた
ユニット「ビターチョコレート」と呼ばれる4人の女優さん達も、今作では粗さが目立ちました。
チケットの値段を考えると、ファンは優しいなぁ…という気分でした。
そんな中で福地教光さんがゾクッとする演技をされていたのが凄かったです。
それが唯一の救いと思えるくらい、個人的にはテイストが合いませんでした。
失神タイムスリドル
ホットポットクッキング
新宿村LIVE(東京都)
2016/04/29 (金) ~ 2016/05/02 (月)公演終了
満足度★★★★
計2回観劇。シンプルに笑える作品でした。
タイムスリップしたかつてのアイドルグループの少女達が、
「今」の歳を重ねた現実から、アイドル当時の夢の世界に戻って行き、
当時は気付かなかった色んな事を振り返っていく…
主役のアイドル達4名の出来栄えに関しては、個人的には特筆すべき点はありませんでしたが、
沖野晃司さん、吉田宗洋さん、福地教光さん、宇田川美樹さん辺りのキャラがしっかりと立っていて、
作品を盛り上げていた気がします。
転職生
ウンゲツィーファ
王子スタジオ1(東京都)
2018/02/28 (水) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★
難解というより訳が分からない。役者の発声も悪いし、100分間観ているのがきつかった。残念でした。
ミラクル祭’18
新宿シアター・ミラクル
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2018/02/23 (金) ~ 2018/03/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
Bチームを観ました。
ひとつはわかりやすく、笑えるお話でした。
もうひとつはちょっと現実か夢かわかんないとこがあってそれが難しかったのですが想像の余地がありよかったです。
The Entertainer ~新しき旗~
img
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/05 (月)公演終了
満足度★★★
「観たい!」コメントでも書いたように、最初チラシの写真の妙な切迫感に惹かれたのですが、観終わってみれば、その第一印象ってまんざら的外れでもなかったのだなと。ちゃんと意味がありましたね。
タイムスリップの前、彼女が誰に(何故)追われているのかが、セリフが聞き取りにくかったこともあって、よく分らなかったです。個人的には、「エンターテイナー」という言葉が、(ヒロインの祖父の言葉や、終盤の展開ではともかく)大安売りみたいに登場人物たちからぽんぽん飛び出すのに、少々違和感も…。
勧進帳
木ノ下歌舞伎
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
あいかわらず、つかみがよく、山伏にやつして義経一行が安宅関に至る経緯が面白く説明されて、勧進帳の富樫と弁慶一行の虚虚実実の駆け引きが現代青年版で展開する。ほぼ古典の素材を使いきっている。木下歌舞伎の面白さもよく出ていて、列挙になるが、構成では、四天王と、番卒を二役やることにしたこと。これでこの劇の構造が明らかになった。義経打擲以降は少しテンポがおちるのが残念。さいごの宴会などはもうすこし短くてもいいのではないか。この公演は1時間二十分古典はここ百年、どの公演でも1時間5-7分でやっているが、それは長唄の尺によるものではなくやはりドラマの長さと考えた方がいいのではないか。木下の力があれば、十分この尺に収めることもできたと思う。いつも音楽の使い方は抜群にうまいがこの公演でもラップ調の曲を中盤でうま
く使っていた。特筆は俳優で、弁慶をやった外人俳優のリー5世は関東にいないタイプの外国人で場をさらっていた。また、富樫は柄としては苦しいのに、よく演じている、ただずまいがいいところもこの俳優のいいところだ。KAATの大稽古場。350席が満席の初日だった。次はコクーンの切られ与三だ。これは絶対に成功してほしい。串田と木下。世代を超えて現代劇の現在考えられる最高のコンビだ。期待している。
埋没
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/11 (日)公演終了
満足度★★★
東京公演初日観劇。
座・高円寺の環境なら、中津留さんの2時間半の重厚な物語も、余裕をもって観られました。
回収されないハナシが幾つかあるのが残念。エンディングの大団円的な落としどころは、中津留さんも角が取れたのかな。
異邦人
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
懼れていたことは、朗読劇に終始ないかということ。原作はムルソーの内面を描き切ったものだから、その心象風景を描こうとすると、映像のような編集可能な見せ方ならともかく、空間が固定的にならざるおえない舞台では、ついついセリフに頼らざるおえないだろうと。
確かに、ムルソーの内面の独白シーンは多い、しかし、舞台として、演技として、身体表現として成立していたことを称賛したいと思う。
ムルソーが母親の葬儀に出向き、その後に海岸で殺人を犯す。ここまでの前半は、確かに静かで、役者さんたちの動きも少なく、淡々と進んでいく。それでも会話が散りばめられ、後半に向かって不穏な空気を湛えながら、物語は高揚感を増していく。
これが、後半の予審から法廷にかけて、突然スピード感を増し、役者さんたちの動きが目覚めを迎えたようにキビキビとしだす。そこで行われる検察と弁護士の噛み合わない裁判。証人という第三者にしか描き出されないムルソー。曖昧なままの、ムルソーへの罪状。ムルソーの裁きに、ムルソーの存在自体が喪失されていく不条理。
原作の展開を、見事に舞台化している。
ラストに神父に向かってなされる、神の否定の宣言。
レパートリーだからこそ、練り上げられてきた脚本と、試行錯誤された演出、役者の理解・表現の掘り下げを経た演技、その成果を(まだ発展途上だという期待をもって)観られたことは、まさに幸せだった。
さて、1つだけ、気になったことがあるので、それについて述べさせて欲しい。
「今日、ママンが死んだ」この有名な出だしで始まる、カミュの反抗劇。
この表現は、けだし名訳だと思う。この最初の一文としては、何かが起きている、という不安な推察を読者に抱かせるのだが、訳で敢えて「ママン」というフランス語の表現を残しておくことで、何か微妙なズレを、尋常なさざる(いわゆる「普通」「常識」「通常」とは無縁の)何かが起きるであろうことを、予測させるから。言い換えれば、この訳は、ここからは読者の考える「世界」ではなく、カミュの「世界」が繰り広げられる、という宣誓ともとれる。
舞台は、やはりこの言葉で始まる。
しかし、舞台としてのセリフでこの「ママン」は必要であっただろうか。文章と違い、舞台上では舞台装置があり、実際この舞台では、生活空間がなく、舞台は屋外でもあり屋内でもある。すでに十分に、これから起こる舞台上でのできごとは、尋常ならざる世界なのだということが判る。不思議なもので、文字としては衝撃的なこの一文も、セリフにすると、けっこうやぼったい。ここは「今日、かあさんが死んだ」くらい平板にする勇気が欲しかったような気がする。
ちなみに、前回公演よりも敷かれた砂の量が格段に少なくなったようだが(敷き詰められたものが、今回は部分部分のみ)、こちらの方が、空間を限定しないのでよかったと思う。(法廷でもあり、海岸でもあり、カフェでもあり、アパートでもあり、というように)
PIGHEAD 蠅の王
ワンツーワークス
赤坂RED/THEATER(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
原作のLord of the fliesから翻訳タイトルと状況設定という枠組みは借りているが、内容のテイストは、寧ろサルトルの「蝿」に近いかも知れない。(必見 花5つ☆)
ネタバレBOX
状況設定を借りているといっても絶海の孤島に閉じ込められた子供達を描いている訳では無論ない。原作からインスパイアされたのは、人間集団が隔離状態に置かれていること、その結果争闘が生じ尖鋭化してしまうことである。
描かれる人間集団はサラリーマン。私見によれば、サラリーマンとは、即ち仕事ができるとかできないということより寧ろ人間関係のプロという印象が強い。国鉄民営化辺りから労使関係改悪の縺れ対策として、全国的に用いられた手法が苛めであった。その特徴は端的に言うと、苛めの陰湿化である。結果、親の背中を見て育った子供達が学校で、実に陰湿な苛めを実行することになったのは周知の事実である。
以上のような社会観察から、自分が結論したのは、内実としては、ユマニスムの伝統を持つフランスで無神論的実存主義者であったサルトルが、その慧眼を以て民衆を含めて批判の目を向けている点が、そして蝿の王たるベルゼブブが人間の影の王として君臨する構造を明らかにしていることが、正しくユマニスムという単語の持つ主要な2つの意味、1つは人間主義とでも訳せようが、もう一つの何が人間かを観察する態度によって冷静に描かれている点である。ラストが読めない訳ではない。然しそれが舞台で視覚化されたことが与える衝撃は震撼すべきものであった。実際、背筋を戦慄が走ったのである。
脚本・演出の素晴らしさ、隙の無い演技と効果的な面の使用、音響と照明の頗る効果的な使用、機能的な舞台美術がいやがうえにも醒めた緊迫感で迫ってくる。
今度は背中が腫れている
あひるなんちゃら
駅前劇場(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/05 (月)公演終了
満足度★★★★
前回の初日に、観客の応募の中から選んで付けたタイトルで、芝居をやるという試みが、いかにもあひるらしい。内容も、ある会社の社員の背中が次々に腫れる、という下らない(褒めています)内容で、いつもと同じで、ただただバカバカしいなぁと笑っていればよいという作品だった(繰り返しますけど褒めています)。宮本奈津美の切れ具合がいつもほどではなかったのは少し残念。
荒川さんが来る、来た
ほりぶん
阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)
2018/02/27 (火) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
いやあ、圧倒的な熱量で70分が過ぎていきました。
役者って凄いな、って思わされるパフォーマンスでした。
川上さんの存在感といい、猫背さんやその他の役者さんを観ているだけで
十分楽しめました。
次回も行きます!
疫病神
ピヨピヨレボリューション
北とぴあ つつじホール(東京都)
2018/02/21 (水) ~ 2018/02/25 (日)公演終了
満足度★★★★
今回は深いテーマを掲げての公演でした。
でも、そこはピヨレボだから、楽しく見せていただきました。
ネタバレになるのでこれ以上は書けないけど
うん、それも含めて私なんだよね。
千葉のジョニー
タンバリンステージ
Geki地下Liberty(東京都)
2018/02/28 (水) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★★★★
千葉のご当地感満載の舞台が下北沢で。
だめんずキラーの結婚詐欺師も東京じゃなく千葉っぽい(?)
騙す者、騙される者、追求する者達に対して「よしそこでもうひと押しだ!」「駄目だ!騙されるな」「その追跡ばれるだろっ!」と何故かそれぞれに肩入れしたくなるオール愛されキャラで盛り上がりっぱなし、上手い。
終演後、演出家さんによるダメ出しがセットになっており何気なく笑っていた所にもチェックが入って中々手厳しい。
(ガチ指導7割、パフォーマンス3割な印象)
ヒカリ
フラワースタジオ
フラワースタジオ(東京都)
2018/02/27 (火) ~ 2018/03/11 (日)公演終了
満足度★★★★
自分が初観劇して舞台の世界にハマるきっかけとなった
ACT GAME 第三回戦「未来の話をしよう」
まさかのフルバージョンにここで巡り合えるとは
あの時止まっていた沙希の時計が動き出したその先の世界
知ることができて良かったです。
ネタバレBOX
前回は妹の優季が沙季の未来への扉を開けるまでとしたら、
今回は後輩の工藤が沙希の未来、いや現在を語る役割
投げられた写真=「切り取られた光の痕跡」とシャッター音で
過去と現在、あるいは空想の世界を行き来する演出
谷さんとはまた違った平さんの色が出ていました。
「未来の話をしよう」をご覧になった方に是非とも観てほしい作品です。
センチメンタル・ソファ―
Drama Collection
シアター711(東京都)
2018/02/27 (火) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
満足度★★★
1日ソワレ・A班の回(100分)を拝見。
ネタバレBOX
当日パンフを劇場に置き忘れてしまったので、拙い記憶に頼って感想を述べると…
最初のエピソード。「端役」2人の役者さんのやり取り、「役者」でなくても身につまされる内容。ただ、個人的印象だが、役者さんお三方の脚本に忠実(であろう)な演技にも関わらず、オチがすっきりオチなかったように感じられた。
二番目のエピソード。ありていに言えば、よくある話。既視感ありありのストーリーの中、4人の役者さん、規定演技な役柄を好演。特に、妻の幻影役、俳優の故・伊藤俊人氏に面影の似た会社の同期役のお二人が良かった。
三番目のエピソードは、オリジナリティがあるというか、今回の4つのエピソードの中では群を抜いて良かった。特に、放蕩息子の長男役の方、オイシイ役柄を心から愉しんで演じておられるように見えて、観ている側も微笑ましく思えた。
最後にプロローグと分けて、他のエピソードをはさむ形となった、第四のエピソード。
せっかくサンドイッチ構造にされたんだから、たとえば最初に登場したソファーが売りに出され、第一・第二・第三のエピソードの場所を転々とした後、最初の二人の下に帰って来る、みたいな流れを予測していたのだが、とりたてて他のエピソードと関連性無し。巻頭とラストに分ける必要、あったのかなぁ?と。
お二人の役者さん、拝見しながら、恐らく今回の座組中、最強?の演技者なんだろうと感じられた。それ故に、公演の水先案内人的役割まで担わせるのではなく、担当されたエピソードを通しで演じさせてもらいたかった。
The Entertainer ~新しき旗~
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シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
良かった!!こうして自由にお芝居を観られる幸せを感じました。