しんしゃく源氏物語
SPAC・静岡県舞台芸術センター
静岡芸術劇場(静岡県)
2018/01/13 (土) ~ 2018/02/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
SPAC最多上演レパートリー作品だが、私は見るのは今回がはじめてだった。醜女の末摘花が荒れ果てていく家でひたすら光源氏の来訪を待つという話だ。
『源氏物語』のエピソードをそのまま使っているが、劇作品となったこの『しんしゃく』は『ゴドーを待ちながら』のバリエーションになっている。
「もう光源氏はやって来ないかもしれない」という絶望感の中で貧困に喘ぎながらも、退廃することなく矜恃を保ち続け、健気に「待つ」姫を演じた池田真紀子がよかった。彼女の演じた末摘花の高潔さが「待つ」という状況に重層的で形而上的な深さをもたらした。この作品を見た観客は、彼女が到来を待望していた「光源氏」にさまざまなものを投影するだろう。「光源氏」は自分ではどうすることもできない運命の象徴であり、この作品は運命に翻弄されつつ、運命に希望を託し、それにすがって生きていくしかない人間の姿を描いた悲劇だ。現れることのない光源氏は彼女を救い出す「白馬の王子」的な存在から、彼女の生存の本質にかかわる何かに変貌している。
待望の光源氏の再訪を知らされたとき、彼女は一度「会うのは嫌や」と拒んだ。その言葉のあとの数秒間の沈黙が作り出す緊張感がたまらない。あの数秒間に彼女の思い、悔しさが凝縮されている。最後の場面の末摘花の美しさは崇高さを感じさせるものだった。
七人の女優の魅力を楽しむことのできる戯曲と演出だった。末摘花に寄り添う老女、少将を演じた舘野百代の芝居がとりわけ印象的だった。
姫と娘の間で葛藤し、混乱する様をコミカルに丁寧に演じていた。彼女の存在はこの劇の要となっていた。ひたすら待つ状況が続き、停滞するこの物語に心地よいリズムを作り出していた。
河村若菜が演じた叔母が末摘花をいびり倒す場面もリズミカルなのりがあってとても良かった。関西弁のいびりの勢いが、あの場面に絶妙の緊張感をもたらす。表情や仕草、口調の一つ一つにニュアンスがあり、俳優の細かい配慮と工夫が伝わってきた。意地悪演技は堂にいったもので、観客の笑いを取っていたが、単なる意地悪叔母さんではない思いやりのかけらみたいなところもさりげなく表現に入れているところが心憎い。
この作品はSPACの中高生鑑賞事業でも上演された。『源氏物語』が題材と言うことで多くの学校から申込みがあったそうだ。思春期のただなかで、希望と不安を抱えながら何か分からないものを待っている彼らがこの作品にどんな感想を持ち、どんな反応を示すのか知りたい。ある種の迷える子供たちにとっては、ひたすら待ち続ける末摘花の物語は、まさに自分の抱える実存への不安をかたちを与えてくれるような、たまらない体験になるのではないだろうか。
ブラウニング バージョン
雷ストレンジャーズ
シアターサンモール(東京都)
2014/03/05 (水) ~ 2014/03/09 (日)公演終了
満足度★★★★
絶望と向き合う
生きることに伴う絶望、倦怠、諦念が凝縮されたような古典教師夫妻のすがたの痛々しさが心にしみる
戯曲のよさを素直に丁寧に引き出したオーソドックスな演出だった。モロ師岡、紫城るい(美しい!)の演技も素晴らしい。
タイジの記憶
ロリポップチキン
ひつじ座(東京都)
2013/12/21 (土) ~ 2013/12/26 (木)公演終了
満足度★★★★
通俗で青臭いけれど魅力的
サルトルの『出口なし』を、今どきの若者的な感覚のなかで置き換えた脚本はとてもよくできていると思った。また若いけれど演技力のある俳優が揃っていて、芝居としての完成度はこれまで私が見たこの劇団の三本の芝居のなかで最も高い。主役の琴美役の女優は竹垣萌香はとても可愛らしいし、靖子役の塚本皆実はとても達者な俳優だった。70分、エンジン全開で突っ走る芝居だったが、展開にうねりとスピードがあり、単調にはなっていなかった。
空席のある客席がもったいない。
さよなら、ミアちゃん!
ロリポップチキン
プロト・シアター(東京都)
2013/10/02 (水) ~ 2013/10/06 (日)公演終了
満足度★★★★
悲鳴芝居
ひきこもり青年のけんたくんがずっと絶叫しつづけているお芝居。母親からも見捨てられた彼の絶望の深さがしっかりと表現されていたかどうかは疑問。
ミアちゃん役の山本紗羅さんとリツコ/母親役の脇田美帆さんが可愛い。のでずっと二人を目で追っていた。
極度に暑苦しい芝居であった。荒削りでエネルギーに満ちているが、全体のコントロールができずにバランスが悪く、作品としては破綻している。
始発電車は君の街へ
ロリポップチキン
新宿ゴールデン街劇場(東京都)
2013/07/02 (火) ~ 2013/07/04 (木)公演終了
満足度★★★★★
もっと俗悪に、もっと過剰に
ドン・キホーテの店内を連想した。いろいろなアイディアが過剰に、いささか無秩序に詰め込まれている。その過剰さを通して、「愛」「死」「生」という根源的で古典的なテーマに到達しようともがき続けているような舞台だった。
熱くて、切ない。主人公は聾唖の少女。彼女は兄に監禁され、外界に触れることなく、無垢の状態で、成長してきた。兄だけが彼女の世界だった。兄は監禁によって独占的で完全な愛を手にしていた。しかし彼女は外の世界の人間と出会い、彼に恋される。それは兄の同級生だった。彼は彼女の美しさ、何もしらないという無垢さ、そして障碍者であるという欠落ゆえに、彼女に惹かれる。
極端で陳腐な道具立てのなかで、「愛」と「死」の定型的な物語が展開する。問題はこの古典的な枠組みをいかに提示するかである。仮面の使用およびそれを使った場面での様式的な動き、クラシック音楽を効果的につかった選曲のセンスのよさ、激しいダンス、時系列の断片化と組み替え、作者は思いつくあらゆる手段を使ってこの定型的な主題に近づこうとしてもがいているように思えた。しかし過剰な演出手段が作り出す混沌のなかで、この主題は真夏の逃げ水のように、到達できない。そのもどかしさ、切なさがとてもいい。中二病的なせりふが示す登場人物たちの世界のとらえ方の狭さが、ときおりその狭さと陳腐さゆえに、美しい詩情を生み出していた。
俳優たちの演技・演出はみなすばらしい。女優二人はとてもかわいらしかったし。緑の髪の毛の俳優のマリオネットぽい動きが特に印象に残っている。
作・演出家は自分の分身のような役柄を自ら演じ、そのモノローグが作品にメタ構造を作り出していた。当日パンフで「一緒に愛を育んで、長生きして、笑顔で死のうねっ☆」と言ってくれるような彼女が欲しいと作・演出家は書いている。しかし彼に今、切実に必要なのは、ぼんやりと生きているけれど、頼まれたら嫌といえない気の弱さと人のよさを持つ、あまり幸せそうには見えない女性を口説いて彼女にして、その彼女とぐだぐだの少々退廃した恋愛生活を送ることだろう。こうした「愛」と「死」と「生」という陳腐な物語に説得力を与えるには、やはり己というものをもっと思い切って、大胆につきつめ、作品のなかで暴露させる必要があるかもしれない。
つまらない洗練を目指さないで欲しい。ごつごつとしたリアリティのある作品を今後も不器用に作り続けて欲しい。べたべたの使い古された主題や表現の通俗性も突き詰めていけば、新鮮な驚きと気付きを観客に提示できるはずだ。
ここからは山がみえる
青年団リンク・RoMT
アトリエ春風舎(東京都)
2013/04/24 (水) ~ 2013/05/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
ひとり語りの豊かさにひたる
早熟な少年の思春期が、ひとりの役者のことばとうごきによって三時間で語りおろされる。
語りのなかで言及される厖大な固有名詞は、私たちは成長の過程で驚くほど多くの人とモノと接触を持っていたということを気づかせてくれる。
少年の成長の瞬間を鮮やかに描き出した第6場は感動的だった。
三時間の一人語りをスペクタクルとして成立させるための役者の技術、演出上の配慮が素晴らしい。多くの人にあの濃密な語りと演劇の時間を味わって欲しいと思う。
来訪者(作・演出:中津留章仁)
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2013/03/14 (木) ~ 2013/03/20 (水)公演終了
満足度★★★★★
重厚、充実、面白い
アクチュアルな政治的問題を主題とした「仮想歴史」劇。演技のリアリティと演劇的な大嘘が大胆に結合され、ダイナミックな物語のうねりにひきこまれてしまった。面白い。
東京ノート
BeSeTo演劇祭
新国立劇場 特設会場(東京都)
2010/07/02 (金) ~ 2010/07/17 (土)公演終了
満足度★★★★★
静謐で壮麗な交響詩のような
日中韓三カ国版を見た。
劇場構内が美術館に見立てられる。
奥行きが深く、天井が高い、広大な劇場空間を実に効果的に使った演出だった。きっちりと構築されたセリフの重なりが美しいハーモニーを奏でる。
素晴らしい舞台だった。
平田オリザの代表作であり、彼が確立した現代口語演劇のスタイルで書かれた傑作戯曲が、理想的な空間のなかで再現され、その潜在的可能性が引き出されている。平田オリザ/青年団の芝居が好みでない人も一見の価値がある舞台だと私は思う。
リアルな言葉のやりとり、繊細な演出の総体が壮大で奥深い象徴的な世界を描き出している。
白雪姫
BeSeTo演劇祭
こまばアゴラ劇場(東京都)
2010/07/01 (木) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★
滑稽で不気味な
「白雪姫」の筋はほぼ忠実に踏襲されている。意地悪な継母の存在がクローズアップされていて、その激しく変化する表情、奇妙な動きが滑稽で怖い。
白雪姫が匿われたコビトの小屋の美術造形、七人のコビトなどの表現がとてもユニークだ。
小さい子供は怖がるかも。
Wannabe
柿喰う客
アトリエ春風舎(東京都)
2010/06/29 (火) ~ 2010/07/19 (月)公演終了
満足度★★★★
春風舎だけど指定席
整理番号順入場自由席だと思ったら指定席だった。
柿食う客を見るのはこれが初めてだった。楽しかったな、これは。
日中韓の役者のコラボが奇妙、不思議でありならがリアルな場を作り出している。
無防備なアフタートークもとても楽しい。変な質問をして演出家を困らせてみよう。
キミ☆コレ~ワン・サイド・ラバーズ・トリビュート~
シベリア少女鉄道
タイニイアリス(東京都)
2010/01/06 (水) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
S高原から
三条会
ザ・スズナリ(東京都)
2010/01/15 (金) ~ 2010/01/18 (月)公演終了
満足度★★★★
ファルスS高原
ナンセンスです。愉快でした。
いろんながらくたがいっぱいという感じでした。
何が何やらよくわからなかったですけれど(笑)
怖くて面白い。
ハシムラ東郷
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2009/11/20 (金) ~ 2009/11/30 (月)公演終了
満足度★★★
情報の洪水
台詞が担う情報の過剰さについていくことができず、オーバーフローの状態。宇沢さんの著作から読み取ったことをできるだけ芝居に詰め込もうとした結果だと思う。
劇中で提起される問題は非常に興味深いものではあったが、私は脱落してしまった。
「原作」の著者、宇沢さんはまさか自分の研究がこういったかたちで舞台化されるとは想像していなかったに違いない。だいたい誰がこういう研究を、舞台にしようなんて考えるだろうか?! 芝居の過剰さは坂手氏が宇沢著作を誠実に読み込んだ結果だとも言える。自分が心血注いで書き上げた研究著作がこういったかたちで舞台のなかで表現されるなんて、たとえ舞台作品としては成功作とは言えなくても、宇沢さんにとってはとても幸せなことであるように思える。
華々しき一族/お婿さんの学校
ハイリンド
赤坂RED/THEATER(東京都)
2009/11/18 (水) ~ 2009/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★
ポップで軽妙な古典劇
中野茂樹演出で古典作品に新たな息吹が吹き込まれた。
古典作品を現代の日本で上演することのずれを強調し、軽妙な笑いを作り出しつつ、古典作品の持つ普遍的な魅力もしっかりと伝える優れた演出。
巨大なレゴブロックのセットも楽しい。
ハイリンドの役者たちも中野演出をくみとって、誤意訳の奇妙な空気を巧みに表現し、洗練された現代のクラシックを具現していた。
お勧め。
あの人の世界
フェスティバル/トーキョー実行委員会
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2009/11/06 (金) ~ 2009/11/15 (日)公演終了
満足度★
巨匠の妄想
黒澤明が晩年に撮った『夢』みたいなもんだ。
若くして巨匠の風格を持つ松井周の深遠な変態世界。
奔放で自由な表現に驚嘆した。
でも僕は眠かった。ゴキコンのほうが素晴らしいと思う。
『ROMEO & JULIET』
東京デスロック
富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)
2009/10/24 (土) ~ 2009/10/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
斬新、やられました
コリア版を見ました。
このところ多田演出とは相性がよくないなと感じていたのですけれど、この作品はとても好きな作品です。数々のギミックが物語の枠組みと有機的に結びついているように思えました。そして表現のエネルギーの強度が圧巻だった。韓国人役者の絶叫にやられてしまいました。
この『ロミジュリ』には脱帽です。こんな刺激的、攻撃的、遊戯的、挑戦的、破壊的なシェイクスピアを僕は体験したことがない。
面白いです。どきどきします。
スタンディング・オベーションして、「ブラヴォ」と叫びたいくらいだった。いや本当はそうしなければならなかった。
smallworld'send
時間堂
王子スタジオ1(東京都)
2009/10/21 (水) ~ 2009/11/03 (火)公演終了
満足度★★★★★
まったりと穏やかな時間
魅力的な女優さんが多くて、ぼーっと見とれてしまいました。
戯曲のセレクションも秀逸ですが、戯曲との距離感がとてもユニークで面白かったです。劇場外の道路の音とかの環境音までが芝居の効果音として機能しているような雰囲気がありました。
飲食可なので、歌舞伎を見るように、ぼんやりと演劇にひたることができました。
私たち死んだものが目覚めたら
shelf
アトリエ春風舎(東京都)
2009/10/09 (金) ~ 2009/10/18 (日)公演終了
誘眠演劇
ぴーんと緊張感はりつめる舞台空間。
ときおりの大声台詞ではっと目がさめるものの、暗い空間のなかでの動きの少ない芝居から放出する催眠ガスは強烈なものでした。
僕にはあわなかった。
BUG 【美保純が降板⇒代役は西山水木】
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2009/09/18 (金) ~ 2009/09/30 (水)公演終了
満足度★★★★
息苦しくなるような圧迫感
思わず笑ってしまう、しかし笑いつつも顔がひきつってしまいそうな、エキセントリックにエスカレートしていく西山水木と大西孝洋の演技がいい。狂気に勢い、迫力があった。後半部の展開は圧巻だ。
燐光群らしい重量感のある暑苦しい芝居だ。見終わったあとはちょっとぐったり。
コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2009/09/12 (土) ~ 2009/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★
キャストに不満
大河ロマンの醍醐味は味わうことができた。壮大な物語の流れにどっぷりつかった9時間だった。通しではなく3日に分けての観劇。
登場人物はいずれも情熱的で濃厚で個性的な人たちなのだけれど、各役者の人物造型がいまひとつぼやけた感じでものたりなさを感じた。勝村政信のバクーニンは愛嬌があってよかったけれど。
3万円という高額なチケット代金に見合う喜びを得られたかどうかは微妙なところ。濃密な劇時空を楽しむことはできたのだけれど。