雲間犬彦の観たい!クチコミ一覧

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自慢の息子

自慢の息子

サンプル

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2012/04/14 (土) ~ 2012/04/15 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

これもまた虚実皮膜の物語か
 昨年の岸田戯曲賞受賞作の全国ツアー。こういう「凱旋公演」は非常に嬉しい。賞を受賞したんだ、観てみたいなあと思っても、たいていの作品はもう公演は終了しているし、場所も東京だったり大阪だったりだ。
 ××受賞作、と言ったところで、演劇の場合は映画ほどには一般人への訴求力がない。岸田賞がそこそこといったところだろう。果たして地方に招聘してペイするかどうかという問題があるのは分かるが、こういう試みがなければ、演劇と観客の間にある垣根は高くなるばかりだ。
 松井周は平田オリザの青年団出身の劇作家だが、岡田利規や三浦大輔に強い影響を受けたという。どちらも現代口語演劇から「一歩」踏み出した作家たちだ。リアリズムとフィクションとの関係を突き詰めた先にどのような演劇的効果が生まれるかを、それぞれの手法で実験し続けている作家たちだと言ってもよい。松井周の演劇が、更にその先にある「結晶」を見せてくれるのかどうかに期待したい。

クーザ

クーザ

CIRQUE DU SOLEIL

福岡・新ビッグトップ(筥崎宮外苑)(福岡県)

2012/02/09 (木) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

本格的な演劇としてのサーカスを
 何かの「技芸」を題材とした演劇を観る時(たとえば物語の主人公が落語家やダンサーや格闘家だったりする場合だ)、俳優にその技芸を習得させるか、その専門家に演技を学ばせるか、どちらがよいか、知人と話題になったことがあった。
 私は「専門家に俳優をやらせた方がいいのではないか」という意見だったが、それは日本の俳優に技芸の専門家があまりにも少ないからである。海外の場合はそうではない。サーカスのピエロやマジシャンやダンサーは、パフォーマーであると同時にアクターであるのが普通だ。「本物」が観られるのではないかと期待している。

王女メディア

王女メディア

幹の会+リリック

ももちパレス(福岡県)

2012/06/12 (火) ~ 2012/06/20 (水)公演終了

期待度♪♪♪♪

最後の王女
福岡市民劇場に寄せられた平幹二郎さんのコメント。
「愛着を持って三十四年間演じ続けてきた役に別れを告げる“時”が来ました。ずっと私の中に棲み続けてきた『メディア』が、今度は皆さんの心の中に生き続けてくれますよう願っています。福岡市民劇場五○周年おめでとうございます。 平幹二郎」
34年前の初演の『メディア』には、もちろん度肝を抜かれた。辻村ジュサブローデザインの妖麗とでも言うべき斬新な衣装は、これが演劇の極北かもしれないと心胆を寒からしめるものがあった。
あまりにもその時の印象が強烈だったので、後の『メディア』は、平さん以外の作品も含めて、一本も観ていない。
しかし、これが最後である。見逃すわけにはいかないではないか。

ミラクル

ミラクル

WAHAHA本舗

福岡国際会議場 メインホール(福岡県)

2012/05/02 (水) ~ 2012/05/04 (金)公演終了

期待度♪♪♪♪

大きな声じゃ言えないけれど
 多分、今回もみなさんお脱ぎになられます(笑)。
 どこまでかって、そりゃ男性はフルモンティ。女性も多分、シリまでは。久本さんや柴田さんのナマジリ見られるのがそんなに嬉しい のかって言われたらそうでもないんだが、楽しくはあります。
 運がよければ梅ちゃんに水をぶっかけてもらえるかもしれないし、何と言うか、意表を突かれることは確約できます。ギャグ界のシド・ヴィシャスですからね、ワハハは。
 既成の演劇に飽きたらない人はぜひご観劇を。と言っておきながら、脱がなかったらどうしましょ。

ゲキトーク

ゲキトーク

NPO法人FPAP

ぽんプラザホール(福岡県)

2012/03/10 (土) ~ 2012/03/10 (土)公演終了

期待度♪♪♪♪

THREE WISE MEN OF GOTHAM
 出演のお三方には多少失礼な比喩かもしれないが、この三人で鼎談をするとなると、果たして話がどんな方向に行くのやら、見当がつかない。
 新進気鋭の三人、と言えば聞こえはいいが、やってることは演劇の枠組みをいかに破壊し再構築するか、既成概念に囚われない作品を次から次へと発表し続けておられるのである。演劇界のスターと言うよりはむしろ、トリックスター。そう称してもよかろうと思えるほどにその活動の過程はラジカルでアグレッシブだ。
 だから果たしてその鼎談が「仲良く」進行するものなのかどうか、うっかりすると、ジョーカーとペンギンとナゾラーがボウルの船に乗って船出するような結果に終わるんじゃないか、実はそんな支離滅裂な事態に陥ることすら期待したくなるほど、確かにこの三人の顔合わせは刺激的なのです。

熱海殺人事件 NEXT

熱海殺人事件 NEXT

RUP

キャナルシティ劇場(福岡県)

2012/04/18 (水) ~ 2012/04/18 (水)公演終了

期待度♪♪♪♪

つかこうへい ONLY LIVE TWICE
 つかこうへいの代表作である『熱海殺人事件』が、再演されるたびに(時にはその公演期間中もずっと)改作され、新しいバージョンとなって上演されてきたことは周知の事実。自作のリメイクを常に繰り返し、まさしく「演劇は一期一会」であることを実作で証明してきた感がある。
 つか氏の死によって、つか氏自身による新バージョンの誕生は望めなくなった。しかし『熱海殺人事件』は決して死んではいない。昨年「つかこうへい復活祭」と銘打って、東京・紀伊国屋ホールで上演された「NEXT」。タイトルは「続編」だが、「原点に帰る」意味で、オリジナルバージョンの『熱海殺人事件』を、毎年キャストを変えつつ、上演していくと言う。それが今年は福岡にも御目見得、初演に引き続き木村伝兵衛部長刑事を演じるのは、福岡出身の山崎銀之丞、大山金太郎を演じる新キャストは、これも福岡出身の中村蒼だ。今回は、ちょっとした『熱海殺人事件』福岡バージョンである。
 偶然にも、福岡演劇フェスティバル『売春捜査官』と合わせて、この春は二つのつか芝居が競作されることになった。つかこうへいは死んでいない。そう信じる人たちの情熱が舞台を支えてくれるだろう。期待大である。

THE BEE Japanese Version

THE BEE Japanese Version

NODA・MAP

J:COM北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)

2012/06/07 (木) ~ 2012/06/10 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

チケット毟りあい
 「夢の遊眠社」時代に野田秀樹に入れ込んだ人々は、NODA MAPになってからの「実験作」には必ずしも満足していなかったのではなかろうか。どの作品も、キャストこそ豪華になってはいても、どこかしら「上滑り」している印象があったからである。
 しかし、この『THE BEE』は、初演時、辛口の批評家からも頗る評判がよかった。筒井康隆のブラックな原作『毟りあい』が、野田秀樹の狂気と毒と、相性がよかったためかもしれない。
 本来なら、今回のキャスト変更(秋山菜津子→宮沢りえ、浅野和之→池田成志)によって何がどう進化したのかを、比較して観てみたいところだが、残念ながら、初演版は東京で観る予定にしていたものを、チケット完売で涙を飲んだ。今回のバージョンを一つの決定版として鑑賞するしかない。
 今回もチケットは既に完売目前だそうだ。行こうかどうしようかお迷いの方は、早急にご決断を。

かたりたがりのみせたがり

かたりたがりのみせたがり

Love FM

西鉄ホール(福岡県)

2012/04/13 (金) ~ 2012/04/14 (土)公演終了

期待度♪♪♪♪

みせたがるからみたがる
 チラシのどこかに「18歳未満入場お断り」と書いていないかどうか、眼を皿のようにして見てみたが、何にもない。いいのかなあ、うっかり間違って来ちゃういたいけなお子様がいたら大変なんだが。
 「活弁天国」シリーズは、例年、「成人の日」に行われていたのだけれども、今年は発情期のネコがなーなーウルサイ春四月。人間にも発情期をってコンセプトかな。要するに巷のエロ画像やら自作の気の抜けたエロ映画を解説付きで笑っちゃおうというのが「山田広野の活弁天国」シリーズ。リリー・フランキーさんもオススメだ。
 基本的に「脱力系」なので、間違っても「活弁」というタイトルから、大昔のサイレント映画やアカデミー賞の『アーティスト』なんてのを期待してはなりません。フツーの演劇、気取ったアートに飽き足らなくなった人が金をドブに捨てる道楽のつもりで観に行くものです。B級魂、ここにあり。

 赤ペン先生も行きたかったけど、こちらはスケジュールが別の公演と重なった。誰かこういうバカイベントが好きな人が見に行って、感想を書いてくれないものかなあ。演劇を観に行くのがステイタスだと勘違いしてる人には全く無縁な企画だけれども。

暴れん坊 銀河鉄道の夜~前張り2012~

暴れん坊 銀河鉄道の夜~前張り2012~

劇団鹿殺し

西鉄ホール(福岡県)

2012/05/12 (土) ~ 2012/05/13 (日)公演終了

期待度♪♪♪♪

ご存知銀河鉄道の夜捕物帳 ~襖の下張り
 世の中には、タイトルだけで「勝っている」芝居というものがあるが、劇団鹿殺しのこれなどはその部類に入る。だって、『銀河鉄道の夜』に「暴れん坊」が付いてるんだよ? しかもキャストがみんな裸で、「前張り」(←意味が分かんない純真無垢な女の子は、隣のえっちなお兄さんに聞いてみよう)なんだよ? ジョバンニがカンパネルラに「ぼくたち、いつまでも一緒だね」なんて裸同士で会話してご覧なさいな。世の中の腐女子がどれだけ卒倒するものやら。この二人の配役に関しては、ぜひ劇団中でも1、2を争うイケメンを選抜してほしい。
 仮に役者があまりイケてなくても、実際の舞台が相当くだらなかったとしても、それはたいした問題ではない。
 と言うより、観る前から観客は下らないことは覚悟の上だ。これは下らないものが大好きな人間が、下らないものが大好きな人間に送る、徹頭徹尾下らない芝居なのだ。多分、きっと。
 でも、もしもくだらなくなくて、アートだったりA級だったりしたら、逆に看板に偽りありだよね(苦笑)。

立川志らく 独演会

立川志らく 独演会

福岡音楽文化協会

イムズホール(福岡県)

2012/07/13 (金) ~ 2012/07/13 (金)公演終了

期待度♪♪♪♪

志らくVSブラック 立川電撃大作戦
 立川談志の死後、それをネタにしない落語家はいない。
 福岡での落語会でも、小三治、小朝、喬太郎、春蝶、みんな談志をネタにして扱き下ろした(笑)。舞台『江戸の青空』でももちろん花緑がからかった。
 落語家はネタにされ、笑われてこその商売である。生前、毀誉褒貶相半ばしながら、談志師匠がどれだけ愛されていたかを物語っているようではないか。
 書籍でも快楽亭ブラックが『立川談志の正体』を上梓し、今月(2012.6.14)は談之助の『立川流騒動記』が刊行予定だ。談志という巨星を失って、落語界は確かにつまらなくなったと思う。しかしそれは志ん朝が亡くなった時にも、枝雀が逝ってしまった時にも感じたことだ。談志の弟子たちは、師の衣鉢を継ぎ、その壁を越えるべく、精進していくことだろう。

 奇しくも、談志の弟子のうちでも、犬猿の仲と言われる快楽亭ブラックと立川志らくが、ブラック師匠は今月17日に、志らく師匠は来月13日に福岡公演を行う。当然、お二人とも、師匠を肴に舌戦を繰り広げてくれるだろう。談志の「毒」を最も過激な形で伝えるのがブラックなら、「才能だけなら弟子で一番」と誉めてんだか貶してんだか分からない評価を師匠から受けていたのが志らくである。ともに部類の映画好きで映画監督の経験もある二人だが、その趣味嗜好は正反対。二人を聞き比べるのも一興だろう。

柳亭市馬 独演会

柳亭市馬 独演会

福岡音楽文化協会

イムズホール(福岡県)

2012/09/07 (金) ~ 2012/09/07 (金)公演終了

期待度♪♪♪♪

落語ブームの一翼
 堀井憲一郎や広瀬和生ら、辛口の落語批評家の中でも、柳亭市馬の評判は頗る良い。更には落語家仲間からも悪口らしい悪口を聞かない。本人の人徳もあるのだろうが、「歌」という武器があり、またその飄々とした佇まいが、噺に安心感を与えているからだろう。堀井氏曰く、「ダレ場をダレ場として流せるのが市馬」ということになる。
 先日聴いた柳家喬太郎の噺のマクラでも、市馬は愛すべきキャラクターとして紹介されていた。大の相撲好きとして知られる市馬は、両国国技館にも足繁く通っているとか。テレビにもしょっちゅう映っているので、喬太郎は兄弟子の姿を発見すると、頃合いを見計らって携帯に電話をかけるのだそうな。取組の一番いいところであわてふためく市馬師匠の姿が全国放送されるという(笑)。
 21世紀に入り、志ん朝、談志を失い、「名人なき時代」と言われながらも寄席は関東、関西ばかりでなく、地方巡業も満席が続くブームの最中にある。若者の姿を客席に見ることも少なくないが、果たしてどの落語家を観るべきか、迷う人もいるのではないか。市馬はまず観て損はない。間違っても正●・●平、二人会などに大枚をはたかないように(笑)。

DADDY LONG LEGS ダディ・ロング・レッグズ

DADDY LONG LEGS ダディ・ロング・レッグズ

東宝

福岡市民会館(福岡県)

2012/10/03 (水) ~ 2012/10/03 (水)公演終了

期待度♪♪♪♪

三百六十五歩のマーチ
 声を聴いただけで背筋に戦慄が走る経験なんて、滅多にあることじゃない。作画されたキャラと声の演技との一体化があってこそそういう奇跡も起こりうる。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で「幸せはぁ~」と歌いながらEVA仮設5号機を駆る真希波・マリ・イラストリアスの登場を観たときにはその破天荒ぶりに唖然呆然、それはまさしく「鮮烈」の一言に尽きた。
 もちろんそんな奇跡が起きたのはこれが初めてではない。『攻殻機動隊』で15歳の坂本真綾が「ネットは広大だわ」と呟いた瞬間から、彼女の声の虜になったアニメファンは莫大な数に上るに違いないのだ。
 歌手としてのキャリアは20年以上、オリジナルアルバムがオリコンチャートで1位を記録したのは声優としては水樹奈々に次いで二人目の快挙、舞台『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役も実力で勝ち取った。二足、三足のわらじを履いて才能の枯渇することがない実力派、それが坂本真綾なのだ。
 今年は劇場アニメの出演作も『コードギアス』『伏』『ヱヴァ:Q』と続き、「坂本真綾の年」と言っても過言ではない。極めつけがこの『足ながおじさん』だ。『レ・ミゼラブル』のジョン・ケアードと再び組んで、どんな新しいジュディ・アボットを魅せてくれるか、胸が高鳴るばかりなのである。

 8月8日で鈴村健一さんとの結婚一周年。忙がしくてすれ違ってないかがちょっと心配かな(笑)。

すうねるところ

すうねるところ

梅田芸術劇場

そぴあしんぐう (福岡県)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/22 (土)公演終了

期待度♪♪♪♪

少しだけ優しくしてあげる
 薬師丸ひろ子が舞台復帰! と言ってもこれを大ニュースと捉える人はもう40代後半だろう。80年代、彼女の人気がいかに絶大だったか、若い人にはピンと来ないだろうが、「名前で客が呼べる最後の女優」だったんだよ。デビュー作の『野性の証明』以来、『翔んだカップル』『ねらわれた学園』『セーラー服と機関銃』『探偵物語』『メインテーマ』『里見八犬伝』『Wの悲劇』『紳士同盟』『野蛮人のように』など、わずか六、七年でこれだけの映画に主演していずれもヒットさせた女優なんて、彼女の後は誰一人出ていない。宮沢りえも広末涼子も長澤まさみも薬師丸ひろ子は越えられていないのだ。
 何がそんなに彼女を魅力的にしていたか、そんなことは一言で言えることではないが、時代が彼女に微笑んでいたことは事実だ。結婚、離婚後、一時期低迷していたが、脇でも輝く女優として復帰、『オペレッタ狸御殿』『うた魂』『めがね』『バブルへGO!』『三丁目の夕日』シリーズ、『今度は愛妻家』など、円熟した演技を披露しているのは皆さんご承知の通り。でも往年のファンはきっと思ったはずだ。彼女の「主演作品」が観たいと。
 舞台でそれが叶う。場所がそぴあしんぐうって、あんな交通の便が悪いとこでやらんでも、とは思うが、福岡まで来ないよりはマシだ。あそこ、ロビーもまあまあ広いから、サイン会もやってくれないかなあ。

 と、ミーハーな関心はそれとして、演劇としての「売り」はやはり木皿泉の初舞台戯曲ということになるだろう。私はテレビドラマは殆ど観ないが、『野ブタ。をプロデュース』はしっかり観た。原作のキャラクターを男性から女性に変える大胆な脚色には驚かされた。舞台も期待してよいと思う。

シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ

シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ

音楽座ミュージカル

ももちパレス(福岡県)

2012/04/09 (月) ~ 2012/04/15 (日)公演終了

期待度♪♪♪

SFとミュージカル
 市民劇場がSF作品を招聘するのは珍しいが、音楽座だから、ミュージカルだから、という理由であって、特にSFを意識したわけではないのだろう。原作・筒井広志(筒井康隆とは無関係)『アルファ・ケンタウリの客』はもはや古典と言ってよいが、音楽座もよくこの作品に着目したものだ。
 正直なところ、壮大なホラ話でも根底はリアルであるSFと、スタイルそのものがファンタジーであるミュージカルとがうまく「合う」のかどうか、不安はあるのだが、再演を重ねている定評のある舞台であるということで、期待したいと思う。

再/生

再/生

東京デスロック

ぽんプラザホール(福岡県)

2012/02/18 (土) ~ 2012/02/19 (日)公演終了

期待度♪♪♪

多田淳之介の真価を
 多田戯曲を、他劇団が演じたものを観たことがあるが、戯曲の解釈もろくにできていない貧弱な舞台だった。
 もちろんそれは、劇団の俳優と演出家がシロウトだったということであって、多田淳之介に責任があるわけではない。そのつまんない舞台の向こう側に透けて見えていた戯曲そのものは、頗る付きの面白さだった。
 役者と演出をもっとマトモな人に任せればいくらでも面白くなる可能性を秘めていたのだ。

 合同公演にも惹かれるが、まず、自身の劇団がどこまでのクォリティなのか、それを確認したい。

カミサマの恋

カミサマの恋

劇団民藝

ももちパレス(福岡県)

2012/07/24 (火) ~ 2012/07/31 (火)公演終了

期待度♪♪♪

初めての畑澤作品
 「渡辺源四郎商店」の畑澤聖悟が、劇団民藝のために書き下ろした新作。今年は『福岡 みなぎる血潮はらっせらー』と合わせて、2本の畑澤作品が観られることになる。
 と言っても、畑澤作品は『親の顔が見たい』の戯曲をパラ読みした程度なので、私にとっては期待も何も、ほぼまっさらの状態で観劇することになる。
 「カミサマ」を実在とするのか非実在とするのか、あるいはどちらとも確定させないのか、その描き方次第で、作品の評価も変わってくるだろう。

櫻の園 栗原小巻

櫻の園 栗原小巻

ACОRN

キャナルシティ劇場(福岡県)

2015/02/23 (月) ~ 2015/02/28 (土)公演終了

期待度♪♪♪

栗原小巻の再挑戦
 栗原小巻がラネフスカヤ夫人を演じるのは、30年ぶりくらいらしい。
 解説にもある通り、前回はロシア・モスクワ・タガンカ劇場のアナトーリイ・エーフロスを演出家として招聘し、宮澤俊一の翻訳台本、劇団東演の俳優陣によって、1981年4月に三越劇場で上演されている。当時の栗原小巻は36歳。17歳の娘がいる夫人を演じるにはやや若かった気もするが、今回は逆に年を取りすぎていて、多少の不安はある。東山千栄子の晩年の舞台をビデオで見たことがあるが、いささか鈍重で退屈だった。未だに激しさを失わない栗原小巻なら、大丈夫ではないかとは思うが。
 エーフロス演出は、チェーホフ戯曲の悲劇性・喜劇性の両面を鮮やかに描き、好評を博した、と記録にはある。『桜の園』と言えば、これまではどの劇団の公演も、没落する貴族の重苦しい悲しみばかりが強調されていて、名作の誉れはあれども、正直、しょっちゅう観たいと思わせる作品でもなかった(スタニスラフスキーによる本国の初演もそんな感じの舞台だったようだ)。
 ところが近年の研究で、本来、チェーホフは、本作を「喜劇」として書いていたことが判明している。個性的なキャラクターたちの右往左往は、「ドタバタ」として描かれたものだったのだ。そういうわけで、チェーホフの意図に基づいて演出される機会も最近は増えてきている。
 多分、エーフロスの演出も、最新の解釈に基づいたものだったのだろう。『櫻の園』は現在もなお、進化をし続けている戯曲なのである。今回の加来英治演出が、更にどのような解釈を加えて新しい翼を羽ばたかせてくれるか、期待したいと思う。

ミッション

ミッション

イキウメ

西鉄ホール(福岡県)

2012/06/09 (土) ~ 2012/06/10 (日)公演終了

期待度♪♪♪

鬼が出るか蛇が出るか
 昨年、『奇ッ怪 其の弐』と『太陽』で読売演劇大賞を受賞した前川知大の、待望の新作。
 演劇では表現することがなかなか困難なSFに果敢に挑戦し、しかも成功を収めてきた前川氏であるから、また斬新なSFを期待したいところである。しかし、氏のブログを読む限りでは、今回の作品、これまでとはかなり毛色の変わった作品になりそうだ。
 今回の舞台製作に当たって、前川氏は劇作のみに専念し、演出は小川絵梨子氏に任せることにしている。昨・演出を兼ねる劇作家が少なくないのは、他人の演出法を信頼していないからだったりするのだが、その点、前川氏は自分の作品をいかようにでも料理して下さい、という姿勢のようだ。
 もう一つ、『MISSION』は「ワーク・イン・プログレス」の手法で制作されている。簡単に言えば、最初から決定稿となる台本はなく、イキウメの劇作家も俳優も文芸部も角突き合わせてエチュードやディスカッションを繰り返し、さらには途中経過をギャラリーに公開して意見を仰ぎ、よってたかって芝居を作っちまおうという、いささか乱暴な制作方法である。
 ブログを読むと、一応の大筋はできたようで、「家族と叔父さんの物語」になるような気配だ。けれども情報制限しているからだろう、あとの中身はサッパリ分からない。
 この制作手法が、果たして吉と出るか凶と出るか、それを確かめに観に行くつもりだ。

骨唄

骨唄

トム・プロジェクト

ももちパレス(福岡県)

2012/06/22 (金) ~ 2012/06/22 (金)公演終了

期待度♪♪♪

骨唄は観客の耳にも聞こえてくるか
 土俗的なもの、因習とかしきたりとか因縁とか、現代もなお“過去が生き続けている”地方は決して少なくはない。それら過去と現在との摩擦を描くのは、映画よりも演劇の方が向いているのではないかと思っている。
 映画の場合、カメラで捉えられた映像は、極めて客観的であるために、その土地の習俗や祭りなどを、ともすれば“滑稽なもの”としてさらけ出してしまう。舞台なら、どんな珍妙な風習であっても、観客はそれをそこにあるものとして見立ててくれる。初演、再演は未見だが、観客の賞賛の声が高かったのは、舞台で表現された「過去」に、尋常ならざる生々しさが伴っていたからではなかろうか。
 高橋長英は、昨年の宮本亜門演出『金閣寺』では、出番が少ない中、夢想家の父親と実直な僧侶という正反対の役を、抑制の利いた演技で見事に演じ分けていた。富樫真は映画『恋の罪』での狂気の大学教授役(東電OL殺人事件の被害者がモデル)が忘れられない。もっともそのイカレっぷりが失笑を買うほどだからだが。濃い二人の間に挟まれる新妻聖子はいささか可哀想な気もするが、もしも「負けていなければ」、これはなかなかの見物になりそうだ。
 もっとも、予告編を観ると、九州を舞台にしているはずなのに(作者の東憲司も福岡出身)、方言がデタラメなのにはちょっと不安も感じてはいるのだが。『トンマッコルへようこそ』の時の東氏の演出は、正攻法で淀みのないものだったので、今回も水準以下ってことはないと思うのだが。

花咲くチェリー

花咲くチェリー

文学座

ももちパレス(福岡県)

2012/09/11 (火) ~ 2012/09/17 (月)公演終了

期待度♪♪♪

渡辺徹の復帰作となるか
 主演の渡辺徹の急病により、果たして福岡公演が行われるのかどうか、心配になって、福岡市民劇場の事務局に問い合せてみた。
 キャスト変更などの、文学座からの正式なコメントはまだないということである。ただ、市民劇場としては、「文学座と『花咲くチェリー』という作品を応援したい」という主旨なので、現在のところ、公演中止や、他の劇団公演との差し替えなどは考えていないという返答であった。もちろん、渡辺徹の回復を願うのが第一であるが、正式発表はなくとも、文学座のホームページの地方公演の欄を見ると、渡辺徹の名前は既にビリングのトップから外れている。けれども出演する予定ではあるようだ。たとえ主役ではなくても、元気な姿を舞台上で拝見したいと思う。

 原作のロバート・ボルトは、日本では、戯曲家というよりは、映画のシナリオライターとしての方が有名だろう。『ドクトル・ジバゴ』『アラビアのロレンス』『ライアンの娘』など、名だたる名作の脚本を手がけている。『花咲くチェリー』はボルトの劇作家としてのほぼデビュー作で、しかも出世作となった。
 不況で会社をクビになった主人公が、家族に真実を告げられず、仕事もないのに、毎日出かけるフリをする、というのはいささか平凡な筋立てだが、初演でチェリーを演じたのが、『女相続人』の名優、ラルフ・リチャードソン。本邦では長らく北村和夫の当り役で、もちろんどちらも未見なのだが、“ただのサラリーマンの悲喜劇ではない”ことは、この重厚なキャスティングからも伝わってくる。アーサー・ミラー『セールスマンの死』とも比較対照される、アメリカ現代戯曲の代表作の一つなのだ。
 できうることなら、現在の文学座の最高の俳優たちによって鑑賞したい。

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