はじめ ゆうの観てきた!クチコミ一覧

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片鱗

片鱗

イキウメ

青山円形劇場(東京都)

2013/11/08 (金) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★

やや新味に欠けるかも
イキウメのホラー作品。閑静な住宅街に起こったある異変、
それが引き起こす疑念が徐々に大きくなって、やがて崩壊を
招く、という物語。

青山円形劇場をああいう形で使う、というのはなかなかない
感じで、すごい、と思いました。ただ、台本が…最後は多分
こうなるかな、と思ってた着地点に落ち着いたのが残念。

ネタバレBOX

物語自体は、昔の「Jホラー」にいくらでも題を見つけられそうな
話です。男親とその娘が越してきて以来、近隣住民の住む家の
芝生は枯れるわ、住民は一人づつ、「絶対に許さない」という言葉を
残して、常軌を逸していくわ…。

どうやら、親娘に宿った「過去からの呪い」が原因じゃないか、という
事までは観ていて分かるんですが、詳細は不明です。最後は近所に
住む一家の男の子と娘が情を通じてしまい、結果、妊娠。

娘は女の子を出産後、親と一緒に蒸発し、残された男の子が娘と共に、
やがては同じ道をたどっていくのではないかという含みを持たせて
物語は終わります。

私は熱心な読者ではないですが、鈴木光司氏の作品に同じ内容の
作品があるかも知れないですね。詳細の説明が無い、という意味では、
平山夢明氏の不条理系ホラーが好きな人にもお勧めできると思います。

呪いのかかった人が舞台に残す大量の水。私は、あれ、「羊水」を暗示
しているんじゃないかと解釈したんですけど、果たしてどうなんだろう。
自分を妊娠させて、挙句捨てた男の一族への、女の呪いとか?

あと、この劇、ラスト周辺の台詞の恐ろしさが秀逸過ぎると思います。

「こんなに可愛い子が…絶対に有り得ません!」

でも、その子も生理が始まる頃には、周囲への呪いが発動して
破滅を引き起こしていく可能性が非常に高いわけで…。
それだけに、ありがちな終わり方だけど、背筋凍りました。
ロスト・イン・ヨンカーズ

ロスト・イン・ヨンカーズ

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2013/10/05 (土) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

家族の幸せって
難しいなぁ、と、改めて思いました。
とりあえず、主人公のジェイとアーティーの笑いの取り方tが
たまんなかったです。あと、キャラクターで一番好きなのは
ベラかなぁ。深い共感を覚えます。

ネタバレBOX

自分の妻が難病にかかり、その治療費捻出のために
ほとんどの財産を使い果たしてしまった、主人公二人の父。
運良く、南部で見つかった、戦争のための鉄クズを収集する
出稼ぎの仕事が見つかり、その期間中、二人を自身の母に
預けるが、それからが大変。

主人公二人にとって、祖母はほぼ赤の他人。それだけでも
キツいのに、お菓子屋の店番やら厳しい家のしきたりやら
辟易とするものばかり。

しかも、親類は若干発達障害のきらいがある、「大人になれない」
ベラ、厳しくされた子供の頃のトラウマから、実家に戻ると過呼吸に
なってしまうガート、裏稼業に手を出しているといわれるルイなど
問題のある面々ばかり。二人の明日はどうなる…? みたいな
話ですね。

物語の鍵を握るのはベラ。大好きな映画の席で出会った男性との
結婚を夢見る彼女が、家族全員が集う席で、自分のような女性には
幸せに、女性の幸せをつかむことは難しいのか、と問うシーンは
重く突き刺さって正視できませんでした。

ラストは…どう解釈すべきなんでしょうね。新しくできたベラの友人に
図書館勤務の知的な兄がいて…というオチ。また同じ結末を
繰り返してしまうのでは、という危惧もあるけど、映画館の案内係の
男と違う家庭環境の男性という時点に、今度こそは…という希望も
感じますね。

そもそも、絶えず興奮状態が続いて落ち着くことが出来ないベラには
これまで友人がいたためしがないのですから。そこに、ニール・
サイモンの、皮肉っぽい雰囲気を漂わせながらも、最後は優しい
視点を感じましたね。
冒した者

冒した者

葛河思潮社

吉祥寺シアター(東京都)

2013/09/20 (金) ~ 2013/10/13 (日)公演終了

満足度★★★★

三好十郎の最後の到達点
三好十郎という劇作家は、今ではあまり記憶されることのない
作家のように思えますが、その心血を注いだ、裏表のない
言葉の数々は、何十年経っても変わることなく人を打つ威力が
あると思います。長塚氏は、その圧倒的事実を、巧みに観せて
くれました。心から感謝します。

ネタバレBOX

手元にある片島紀男『三好十郎傅 悲しい火だるま』(五月
書房)によると、「現在の時期というものと、この日本という
場の真ん中に生きている私という実感から直接的に生まれた」
ものが、本作『冒した者』であり、この作品は、三好の最後の
長編戯曲となります。

この作品は、数年前に、青空文庫で読んだんですよね。その
時は、それまでにない、サスペンスに近い作風に、まったく
相変わらずの熱い独白が延々続くスタイルにしびれて、この
作品、舞台化ならないか、とは思ってたんですが、限りなく
小説に近づいてしまっていて、舞台転換などが難しい、と
感じ、ちょっと諦めてたところがあります。

それだけに、長塚圭史氏が演出、上演を手がけると聞いて
感動しましたよ、本当にね。

『冒した者』は、戦争の記憶そう遠くない、朝鮮戦争の時期、
そして日本の再軍備が近づき、またの戦争が始まるのでは、
という気配の中で書かれた作品です。

なので、世相を反映して、敗戦と共に力を失った軍人や
政治家が再び徒党を組んできな臭い動きを見せたり、左翼
マルキズムに根ざした反体制平和運動に屋敷の住人の一人が
加担していたり、時代の混乱がまんま出ています。

戦時を引きずったかのような時局をよそに、屋敷といわれる
三階建て、塔付きの奇妙な設計の屋敷に居住する9人の
住人は、表面的には平穏で平和な日常を過ごしつつも、
危ういバランスの中、お互いを牽制し合っているようにもみえます。

そんな中、最近恋人との心中に失敗し、その両親や近所の魚屋を
殺して逃げてきた須永という青年が屋敷をひょいと訪れたことで
その均衡が一気に醜く崩壊していく…という話。

闖入者である須永は…ひとことでいうと、「死に魅入られた、死
そのもの」ですね。時代精神に押し潰され、恋人を失い、夢遊の
中で人を殺してしまった彼は、その時点で生者との接点を失い、
まるでゾンビのようにただ徘徊する存在になってしまったのです。

面白いのは、戦争をくぐり抜けて生き延びてきた、タフな屋敷の
住人達が、須永の存在になすすべもなく、自身の本質をさらけて
いくところ。その存在に過度に思い入れたり、恐れたり、そして
意味づけしてみたり。

そうすることで、須永という、自分達とは異質な、いや、異質と
思いたいけど、実は近しい存在をなんとか理解しようとして
みるけど、途中から、須永が生きているのか、屋敷の住人が
生きているのか、それともみんな死んでいるのか、よく
分からなくなってきます。その辺が、闇を巧みに用いた
ライティングなどの演出によって、うまい具合に浮き彫りに
されていきます。じわじわ得体の知れないものに侵食されるよう。

場面展開なども、以前の『アンチクロックワイズ・ワンダー
ランド』や『荒野に立つ』のように、シームレスにつないで
いく手法を用いて、ああ、うまいな、と。

この作品、60年位前の作品なんですけど、同時代性があり過ぎて
ちょっと怖いです。何が起こるか分からない不透明な世相に、
動機がはっきりしない殺人事件、現在と同じく時代の圧力で
圧迫されながら生きる意味を失い、死人と近しくなっていく
人々(特に若者)、人を死に導く原爆(現在では原発)の存在…。

三好十郎が、おそらく自身を仮託している「私」の言葉では
「YESでもNOでもない、第三の道がきっとある」
「自分を圧迫するピストンの存在に苦悩しつつ、立ち向かい、
再び生の実感を取り戻そう」
という言葉が、そんな中で、とりわけ印象に残りました。

役者では、証券屋を演じた中村まことの啖呵と、理知的だけど
得体の知れない医師を演じる長塚圭史の不気味さ、茫洋として
つかみどころのない青年、須永の役である松田龍平が印象に
残りましたが、皆、良かったです。
OPUS/作品

OPUS/作品

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/09/10 (火) ~ 2013/09/29 (日)公演終了

満足度★★★

楽団という最小単位内での人間模様
観終わって、「100%海外演劇だなぁ」というのが最初の感想。
演出次第によっては、後味の悪い、冷徹でブラックな話に
なっても仕方がない題材ですが、小川絵梨子氏の手になる
それは、違った方向性を求めていたようです。

ネタバレBOX

皆ベテランの俳優ばかりなので、開始早々、「こっからは
日本語にしとこうか」で、客席の爆笑を誘うなど、あ、上手い、と
単純に思いました。遅れてきた観客に「大丈夫?」とか、本当に
嫌味なく笑いが取れる人達です。

ラザーラ・カルテットは、ホワイトハウスでも演奏出来る程の
実力派カルテットなのですが、それほどの技量の持ち主達なら
当たり前のように火種を日々抱えているわけで。

ヴィオラを担当するドリアンはカルテット内随一の演奏家でありながら
鬱などの精神病を抱え、その安定しなさっぷりを原因に、花形の
第一バイオリンを演奏出来ずにいる。

第一バイオリンのエリオットは、癇癪持ちの上に、演奏の技量はそれほど
高くないことが周知になっていて、実は恋仲のドリアンの擁護があって
何とかなっているのが実際のところ。

第二バイオリンのアランは女癖が悪く、浮気が原因で離婚の憂き目に
あっているし、コントラバスのカールは5年も前から重いガンを患う。

こんな感じで表面的には上手くいっているものの、内部はいつ崩壊
してもおかしくないほどの緊張感があり、その微妙に保たれた均衡は
ドリアンが名器といわれるラザーラのバイオリン盗み出したことが
きっかけで解雇されるに至った時、一気に壊れていく…。

男の嫉妬や愛の果てにある憎しみって怖いな、って素直に思いました。
最後、ドリアンがエリオットを解雇し、自身を代わりに第一バイオリンとして
迎え入れるよう提案してきた時。その一端をかいま見た気がしましたね。

それを受け入れてしまう他の三人もすごい。この劇中でも見え隠れする
けど、表面上の仲の良さはさておき、最終的には演奏家、芸術家の
エゴ、最高の演奏をしたい、という欲望につきまとわれているんですね。

最後、第一バイオリンを返さないエリオットと他の皆でのバイオリンの
取り合いの中、末期ガンであることをドリアンに暴露されて焦っていた
カールによって、名器は叩きつけられ、完膚無きまでに破壊されます。

それは、このカルテットの崩壊を意味するのでしょうか。それとも、
新しい再生を意味するのでしょうか。それは演出家の解釈に多分を
任されているのですが、小川氏は後者の解釈を選んだようです。
それが正しいかどうかはさておき、続きが非常に気になる作品でした。

伊勢佳代氏、カルテットにまだあまり馴染んでない感ありありの、
力んでいる様子が可愛らしかったです。でも、カルテットに所属
する際に条件とされた、他のオーケストラのオーディションを
受けないことを破っちゃうあたり、ただの世間知らずな子では
ないんですよね。その辺の人物造形がリアルでした。伊勢氏は
もっと他で客演して欲しいと思っています、個人的には。
夏の終わりの妹

夏の終わりの妹

遊園地再生事業団

あうるすぽっと(東京都)

2013/09/13 (金) ~ 2013/09/22 (日)公演終了

満足度★★★

ミニマルの中に意味が見えてくる
遊園地再生事業団『夏の終わりの妹』@あうるすぽっと。
先月号の『すばる』(集英社)に、本作の小説版が載ったのですが、
正直よく分からなかった(苦笑 こうして、舞台での、役者の動きと
「ことば」に触れて、初めてその作品の持つ多重の意味に気付ける。
今回も、深く考えさせられました。

ネタバレBOX

この作品は、主に三つの構造が複雑に入り混じっています。

1つ目は大島渚監督の『夏の妹』のストーリーやそこでの台詞、
2つ目は恐らく事前の役者へのインタビューを基にしたモノローグ、
そして3つ目は謝花素子という沖縄出身、インタビュアー資格
受験者の女性を主人公にしたフィクション。

舞台美術も、衣装も白一色を基調とした中、文節を解体されながら
コーラスのように役者間で繰り返される台詞、唯一ともいえる、
舞台装置の簡素な椅子を用いての奇妙な動きを追ううちに、

舞台の中で大きな役割を果たす架空の町、「汝滑町」(うぬぬめ
まち)にある、これまた架空の制度、「インタビュアー資格制度」
について、話は一直線に向かっていきます。

「汝滑町」では、資格を有さない者は、何人にも問いを発する
ことが出来ない。それ故に、あの「大震災」での多くの問い、
「水は安全なのか」「いつ都市機能は回復するのか」「東京に
汚染が広がっているというのは本当か」、というその全ては
無効となり、誰も回答する者はいないのです。

他にも、人々が孤立化し、お互いに「問い」「呼びかけ」を
通じて交流し合うことが無くなった挙句、衰退をたどる一方の
コミュニティ復活のために、本制度が既に「汝滑町」のみならず
ニュータウンにまで導入され始めているということが語られます。

しかし、その状況を横目に、謝花素子が10年間の歳月をかけて
取得しようとした「インタビュアー資格」ヘのモチベーションは
ただ一つ。「『夏の妹』を撮った監督にたった一つ。何故あの
映画を撮影したのか、その意図を、私が分かるように聞きたい」。

2013年1月7日。謝花素子はついに念願の資格を手にするのですが
その一週間後、監督(大島渚)が亡くなった事を知ります。

もう会うことが永遠にかなわなくなった人。永遠に、宙に浮く
こととなった問い。その双方は、既に過去に、そして個人の
記憶の中にしか存在しないものになったのでした。

この作品、いつもの遊園地再生事業団と同じく、幾つもの意味や
物語を入れ込んでいるから、一回で文章に落とし込むのがすごく
難しいですね。ここに書いた以外にも、サイドストーリーに似た
ものが数多く挟み込まれています。

でも、観終わった後、問題意識、とか、あるはっきりとした
喜怒哀楽の感情よりは、どこかタイトル通りの、哀愁というか
もうめぐってくることのない過去の季節や時間を振り返るような
そんな寂しさを淡く感じました。
臆病な町

臆病な町

玉田企画

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2013/08/30 (金) ~ 2013/09/08 (日)公演終了

満足度★★★

そこはかとないおかしみにやられた
.青年団独立後の第一回公演から三鷹で、って、何気に
ものすごい快挙だと思います。それだけ、実力を認められて
いるということだと思いますが、シリアスにならずに、巧妙な
笑いで突き抜けるその作りは見事だと感じますね。

ネタバレBOX

この作品は、昔ながらの旅館に強化合宿に来た中学の卓球部、
大学も会社も一緒のOL二人と、彼女達とは大学同期で、仕事
続かず無職、OLの片方のヒモとして生活している男とが一堂に
揃うことで始まる、かなり直球のコメディ。

部屋で枕投げして障子破っちゃう中学生二人、友人がヒモ男と
別れないのに業を煮やして自分から男に色々暴露しちゃう、
少し面倒くさいOLに、言うこと格好いいけど追いつめられると
手も口も出まくる典型的なまるでダメ男なヒモと、

コメディなので、とにかくキャラが分かりやすい。そして間の
取り方の上手さも笑わせるためのセンスを備えていると
いえると思う。

中学生たちが今年転任する自分たちの顧問に向けた
手紙を読む場面の、事前準備をおろそかにした末の
しっちゃかめっちゃかぶり、感動のかけらも無い
ボロボロ感が、特に劇場を爆笑の渦に巻き込んで
いました(笑 まったく呼吸の合っていない読みっぷり最高。

お笑いの中でも、関西的なボケと突っ込みというよりは、
いつの間にかポイントがズレにズレてどうしようもなく
なっていく感じの笑いなので、そういうのが好きな人には
たまんないと思います。

細かい会話のネタを何度も繰り返すとことか、全体的に
緩い感じがほんの少し五反田団にも似てるけど(本作には
五反田団の人も客演しています)、ちゃんと笑いはしっかり
拾ってくれるので、そこは流石だな、と

青年団系で、ここまで笑いにシフトしている劇団も珍しい。
笑い好き、コメディ好きとしては、今後も出来るだけ、その
動向を追っていきたいですね。
僕にしてみれば正義

僕にしてみれば正義

箱庭円舞曲

ザ・スズナリ(東京都)

2013/08/30 (金) ~ 2013/09/01 (日)公演終了

満足度★★★

何だろう、この残念感
『見渡すかぎりの卑怯者』などの外部仕事が好きで、今回初の
箱庭円舞曲。作品のテーマも他の人が既に話しているように
すごくアクチュアルだし、演劇として調理するその手腕も高い。
冒頭の演出含め、全てが高レベルなのに、なぜか、満足できない。
どうしてか考えた末の理由は以下、ネタバレに。

ネタバレBOX

この作品が物足りないのは、いい意味で意固地な人間が
いないところですね。「徴兵忌避」、という、最初の前提から
既に作品世界ではタブーの行為を犯しているわけなのだから
誰になんと言われようと、その見苦しさを最後まで保って欲しかった。

なんか皆、少し強く押されただけで、自分の頑固さが砕け過ぎ。
そんなに覚悟の無い人間ばかりが、結局、この家には集まって
いたんだよ、という、作者からの隠れたメッセージだったの
かもしれないけど…。

子供作ることが、国家への反抗です! って言ってたやつなんて
それからすぐに逃げ出しちゃったりしてて、悪い意味で見苦しい。

なんだかんだで、一番ブレないのは、あの壊れて音の出ない
機器を首からぶら下げて聞き続けている人かな。人としては
ものの見方が斜に構えすぎてて好きになれるタイプじゃない
けど、一番ルールを守ってやってた気がする。

それにしても、みんな言うことは格好いいんだけど、それに
見合っていない、と言うのが、妙にリアリティある感じ。
戦場帰りの男なんて、最初言うこと筋通ってていいじゃん、
とか思ったけど、除隊した真の理由を知って萎えたわ。

最後、古川氏が、近作で対談する須貝氏に向けて花束
用意してて、そういうところに拍手する手も熱くなっちゃいました。
前向き!タイモン

前向き!タイモン

ミクニヤナイハラプロジェクト

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/08/22 (木) ~ 2013/09/02 (月)公演終了

満足度

役者熱演も演出に難ありか
決して広いといえない舞台の上を、三人の役者が駆け回り、
走り回り、装置の移動やらとあちらこちらを移動しながら、
早口になったり、通常の喋りになったり。

まともに見せられるまで磨き上げるのに、なかなかの苦労が
あったのではないかと想像たくましくしてしまうような、そんな
舞台でした。役者各位、本当にお疲れ様でした!

ネタバレBOX

タイモン演じる鈴木将一朗は、激しすぎる動きに加え、
「良いタイモン」「普通のタイモン」「悪いタイモン」の
三人格を顔の表情で演じ分けなくてはいけなかったので
もう本当に大変でしたね・・・としか。

役者の頑張りに反比例して、演出の方はもう少し頑張れた
のではと思うところがちらほら。身のこなし方とか、腕の
振り方とか、少し単調すぎて、多すぎる台詞も相まって
途中かなり眠くなりました(苦笑

nibrollと比べてはいけないと思うのですが、もう少し変化が
欲しかったです。役者サイドはあれだけの台詞と動きを
破綻なく行うのに精一杯だと感じるので、その辺は演出側の
役目じゃないかと。
『iSAMU』 20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語

『iSAMU』 20世紀を生きた芸術家 イサム・ノグチをめぐる3つの物語

KAAT神奈川芸術劇場

PARCO劇場(東京都)

2013/08/21 (水) ~ 2013/08/27 (火)公演終了

満足度★★★

宮本亜門の眼を通した「iSAMU」
宮本氏が3年の年月をかけて完成させた、という「iSAMU」。

窪塚洋介の、軽やかで繊細な動きもあって、一時代を単に
切り取るだけでなく、今の時代にまで脈々とつながるものを
表現できたのではないかと感じました。

ネタバレBOX

まだ母親と暮らしていた時のイサム、功なり名遂げて...
日本に凱旋し、原爆記念公園の設計に取り掛からんと
する壮年期のイサム、そして、現代、「9.11」直後の
ニューヨークに暮らすカップル、の三つの時代が交錯
する本作品。

そこで見えてくる「イサム・ノグチ」の姿は、心に
孤独を抱え、祖国日本でも、第二の故郷アメリカでも
その国の人間になりきれない寂寥の念を持ち、

敗戦を経て、すっかり変わってしまった日本の地で
「昔ながらの自然との調和を基とした日本の美」を
唱えるも、自身の妻(イサム・ノグチの妻が一時のみ
李香蘭だったの初めて知りました…)にも理解されない
苦悩に打ちひしがれる、小さなもの。

場面場面に入ってくる、後方スクリーンのナレーションが
またうまいんですよね。「これまで歩んできた過去の自分は
まるで別の自分のような気がする」

確かに、振り返ればそんな気もしないではないです。

最後、イサムは、自分が亡くなって何十年も経過した
懐かしの土地、ニューヨークで、そこに暮らすカップル達と
自身が作り上げたさいころ状の立体作品を見上げ、

恐らく、自分の存在は自身が愛した宇宙よりは小さいのだと
いう絶対に動かない事実、

でも、そんな小さな人間でも、もしかしたらその作品は
時代を超えて残るのではないか、そこで作り手の生きてきた
人生も完結するのでは、と感じました。

それにしても…舞台の上の星空なのに、すごく綺麗だった。
この夏という時期にぴったりの作品でしたね。
カルデッド

カルデッド

JACROW

OFF OFFシアター(東京都)

2013/07/24 (水) ~ 2013/07/31 (水)公演終了

満足度★★★★★

「自殺」をテーマに、「あなたの物語」へ
「自殺」というテーマに真正面から向き合った4話。
最初と最後に、仄かに救いの見えるお話、そして
中2話が逆に無間地獄のようなお話で、構成もよく
時間を忘れて観ることが出来ました。

ネタバレBOX

各話は以下の通り。

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第1話「甘えない蟻 Another Ver.」

災害の傷癒えない福島。妻子を東京に行かせ、
一人故郷に残った男の自殺。戻ってきた母子、
そして男の兄弟達との会話は、自然とその死の
原因に及び、徐々に険悪なムードに…。

第2話「スーサイドキャット」

娘の死に自殺の疑惑を持っている両親と、
校長、その担任との会話。子供の死は
いじめが原因ではないかと舌鋒厳しく
追求する両親に、教師陣はいじめの
事実は無いと告げる。激昂した母は
ナオミという女性への憎しみを綴った
娘の手記を、いじめの証拠として出す。

第3話「リグラー2013」

ある不動産会社の一室。後輩達に比べ、
営業成績の出せない男を徹底的に絞る
営業課長。ある時、本社からやってきた
人間が持ってきた、男の妻の手紙を機に
事態は思わぬ展開へ…。

第4話「鳥なき里に飛べ」

樹海にやって来た、会社を倒産させ、
胃癌で先の長くない男。ゲートキーパーの
男に、自殺を止められるも、その決心は固い。
そこへもう一人のゲートキーパーが、ゆっくり
「鳥とこうもりの話」を聞かせる。

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第4話目は、普通にかなりいい話。明日も、ま、生きて
みようかな、なんて思わせてくれる、ふっと肩を押して
くれるような話ですね。人と人の連関が心地よい。

個人的に一番好きなのは、かなりホラーがかっている
第3話。結末の意外性と、永遠に先の見えない地獄に
陥ってしまった営業課長の姿が恐怖を誘います。

作・演出家が、「今の時代の空気感、今、まさにどこかで
起こり得ていることを濃密に表現する中で、自殺という
テーマを「社会」の問題には出来なくても、「あなた」の
物語にはひょっとしたら出来るのではないか」ということを
話していたけど、

そのことを確かに証明してみせた、短編オムニバス集でした。
カタルシツ『地下室の手記』

カタルシツ『地下室の手記』

イキウメ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/07/25 (木) ~ 2013/08/05 (月)公演終了

満足度★★★

自分の人生の主人公になれない人
イキウメの番外公演(?)、カタルシツの第一回目は
あのドストエフスキーの『地下室の手記』の戯曲化!

原作は実は未読なのですが、骨子をそのまま現代版に
移植したという本作見る限りだと、かなりイタい人の話
だったんですね…。現代に通じ過ぎててかなり怖い(笑


ネタバレBOX

主人公は、40歳を迎え、母親の遺産を手に、日がな地下室に
こもりっきりの自称「文筆家」。といっても、著書は一冊も無く
評論を書いているブログも廃墟状態だそうなので、実質無職。

そうなる以前は警備員だったそうなので、警備員から「自宅
警備員」に移ったわけですね? と、突っ込んでみたくなります(笑

その男が、ニコニコ動画の中継動画(で、ひたすら自分の
過去を「カタル」、というのが、ざっくりとした内容。

端的に言うと、「自分の人生の主人公になれなかった人の話」で
話はやたらと小難しく、自分がいかに他人と比べて思慮深いか、
優れているのか、周りがカスなのかを延々と語る。

でも、住んでいる家では、母親に家事の一切を任せ、ほとんど
社会との接点が無い仕事をしているため、コミュニケーション
不全者に限りなく近い。出来ること? 全くなし、です。

無理やりに参加してきた同窓会では、最初空気扱いされ、そこで
めげずに、君らの人生、意味なんてねえ! 的な語りを入れた結果、
ワインをかけられ、殴り倒され、ヘタれる。その上、会場代金が
払えず、逆にクリーニング代5万円を恵んでもらう情けなさ。

その後、一発かましてやるぜ! とシャドーボクシングまでして
待ち構えた風俗街には同級生は誰も来ず、何故か、ひょんな
流れでソープ嬢にお相手してもらうことに。

そこでも、ソープ嬢に説教かまして揉めまくって、住所の書置き
残して去っていく。で、ソープ抜けしたいので手伝って! って
頼みに来たソープ嬢から散々逃げ回った末、

なんかいい感じになっちゃって、関係しちゃった後、上機嫌で
今日は帰るね♪ と去っていこうとしたソープ嬢にお金握らせて
激怒させて、その後、部屋で男泣きして、彼女を追い求めるも
既に遅く… で、今のヒッキー生活。この格好悪さ、そしてそこに
言い訳するから、さらに泣ける。

後半が、えぇ、そんなことしちゃうの、言っちゃうの? の連続で
観てて思わず頭を抱える展開がてんこ盛り。この人の話を聞くと、
自分が特別で優秀な人間だ、という妄想と自意識だけが過剰に
膨らみ続ける生活から脱出したいのに、抜けられない悔しさと
後悔、そして諦念が入り混じっていて。悲哀がにじむ。

人生唯一の重要な選択肢、ソープ嬢の申し出をあそこで
無下にしなければ…というのが伝わってくるので、なおさら
きっつい。孤独に暮らす、って、色々な意味で難しい気がする。

とにかく、過剰なまでの自分すごい! が逆に爆笑を誘い、そこに
背景のニコニコ動画のコメントまで被さってきてすごいことに(笑
これから女の話を始める! とか言っておいて、延々独白演説をする
男に、「女の話マダー?」とかコメントかかっているのに笑いました。

この話の教訓は一つあって。酒席の、あるいは酒の入った男の
話は盛っているので一切信じず、はいはい、って聞き流して
あげること。これですね(苦笑 お酒入ると、格好いいこと
言うんだけどね、この人。実行と行動が伴わない、どこにもいそうな人。
「わたしって可哀想」

「わたしって可哀想」

プリンレディ

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2013/07/19 (金) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★★★

笑いもしんみりもバランスよく
劇団も劇場も初、だったのですが、非常に楽しめました。
説明にあるように、キリスト教のお嬢様学校で育まれた
友情をそのままの形でこじらせてしまった4人の物語が
おかしく、ほんの少し切ない感じで描かれています。

ネタバレBOX

昔のままではいられない。
これは、もちろん人対人の間の関係でも
大いにいえることで。

昔は仲良し4人組だった女の子たちも
大人になれば、昔願った通りには
いくはずもなく。

仕事バリバリやっています! と宣言した子は早々に結婚、
子供が出来るも、自分の価値に迷った末、マルチ商法の
片棒を担ぐ羽目に。

逆に、早く家庭に収まりたい、と言っていた子は、未婚の
まま、雑誌編集長を務めるも新興宗教にハマるという。

そんな二人が、久々の再会で、お互いを勧誘し合う図、
というのも、どこかわびしくなる光景ではあるけど。
一人が傾倒している新興宗教の教祖が、女学校時代の、
神の教えを世界に! 系の、敬虔一辺倒で、絵に描いたような
真面目な先生が、40にして啓示を受けたなれの果て、と
いうのも、より一層何だかな感を煽る。

教祖の名前が「ミセス・バンビ」で、元の名前の「小鹿先生」を
英語化したまんま、というセンスも頭くらっとするけど。この
ミセス・バンビ、フリーセックスを謳っちゃったり、異様なまでの
ハイっぷりが最高に笑えました。本作の笑いのMVPですね。

でも、一番悲惨なのは、どう考えてもダメんずのミュージシャン
くずれの男に二股かけられている2人で、結婚式の最中、
一人がその男と不倫のキスをしているのを、ミセス・バンビに
目撃された後の、修羅場の煮え切らなさ感は辛い。

とうとう、新婦が友人との関係を清算しちゃう結末に至るんだけど、
友人との関係を断ち切ることで、その友人に無意識的にべったり
だった、昔の、そしてそれまでの自分を一緒に清算したのかな、
なんてことまで考えてしまいました。

ラストの、4人がまだ無邪気なままの4人でいられた頃の、過去の
回想場面で、新婦だった子が全員の幸せを祈るシーンは、差し込む
夕日が美しくも、ちょっぴり哀しい物語でした。

余談ながら、音楽を担当していたsleep warp。ブルージーな曲など
ピッタリと合った曲を提供していて、最高だと思いました。
グッドバイ

グッドバイ

バストリオ

SNAC(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/06 (土)公演終了

満足度★★

舞台芸術の新潮流の一つを観る
バストリオは、メンバーが遊園地再生事業団(宮沢章夫氏の
演劇ユニット)に客演したり、参加していて気になってました。

この間の『ユリイカ』の特集で、佐々木敦氏がナカゴーや
ブルーノプロデュースらと一緒に注目の劇団としていたのが
今回の鑑賞に直接つながった形です。そうか、こういうのが
最先端を行く「演劇」「舞台芸術」の一つなんだ、と、腑に落ちる
部分がありました。

ネタバレBOX

本作の元となった太宰治『グッドバイ』(新潮社)は、不勉強
ながら未読なのでハッキリとはいえないですが、そこから
台詞を拾って、自分たちの言葉と有機的に結び付けることで
多分、太宰の時代から私たちが生きる時代まで変わることの
ない「グッドバイ」の持つ意味を一本にまとめ上げようと
試みたんだと思います。

時折挟み込まれる劇団側で作った台詞は少し壮大で、感傷的で、
そしてロマンチックだと思いました。多分、書いた人は
純粋な人なんだと思う。「人は死んだら、重量だけがそこに
残る」という台詞は、真実を衝いていて面白い、と感じました。

SNACの、内部だけでなく、外まで縦横無尽に使って行われる
舞台は、ただただすごいな、と。SNACの前って、普通に人が
通っているし、現にじろじろ見られていたし。役者にとっても
負担にならなかったのかな。

人の動かし方や小道具の扱い方に、遊園地再生事業団、もっと
いうと、宮沢章夫氏の影響は見て取れますが、かなりの部分、
物語性を排除しているため、演出の自由度は飛躍的に高まった
反面、なかなか観ている側の感情を揺り動かして、引き込むのは
難しいのでは、と感じました。

時間が約70分ということでしたが、そういうこともあって、実際には
2時間の舞台を見せられたような気がしました。そこが何とかなれば。。

本作を評価する、ある一つの指標となっている佐々木氏の
『批評時空間』(新潮社)もまだ未読なので、それを読んだ後、
再度、この作品を考え直していきたいと思います。
象

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/07/02 (火) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★★

全く古びない不条理演劇の代表作
日本の「不条理演劇」の大家であり、今も最前線で活動を
続けている別役実氏の代表作を、「桃園会」の深津篤史氏が
演出した作品。言葉が面白く、たどればたどるほど、迷路に
入っていくような感覚に襲われました。

ネタバレBOX

この作品『象』は、原爆によって背中に出来たケロイドを
人々に向けて見世物にすることで喜びを得ている男と、
その行為を止めなさいとたしなめる男、二人を軸にして
展開していきます。舞台は病院で、一人は、そして後半では
二人とも入院することになりますがその経緯も詳しいことは
分からない。状況が全く説明されない。

他にも。一面に分厚く古着が折り重なる舞台装置の上に
溶け込むように倒れている人々。あまりに一体化し過ぎていて、
最初どこから台詞が発せられているのか、分からなかったです。

そう、この劇、『象』ではハッキリしていることは何もない。
もしかしたら、二人の男は、精神を病んで、この病院に
いるのかも知れない。ただ一つ、おぼろげながら分かるのは
カフカ『城』のように、「あの町」があって、ケロイドの男は
そこでかつてのように見世物をしたい。もう一人の男は
男を「あの町」に行かせないようにしている事、くらい。

正直、後半の中盤部分に差し掛かるまでは、脈絡が全く
ない会話に、しょっちゅう変わる場面、追うことの
困難なストーリーなど、集中力がいる物語でしたが、

見世物の男が、また町に出て行って、昔のように見世物を
したい! と言い出すことから、一気に話が動き出します。

最後、着物の山の中から、死者の群れが無言のまま
現れてはくず折れていく様は、まるで、原爆投下の
もののみならず、全ての一瞬立ち上がってはすぐに
消えていく記憶そのもののようでした。

すごく恐ろしく見えるのは、往々にして、私たちの
中に想起される記憶が、甘美なものではなく、その逆、
二度と思い出したくないものに他ならないことを
はしなくも語っているようでした。演出家の深津氏の
並々ならぬ演出力の高さを目の当たりにして感激しました。

この劇、会話は全く脈絡が無いのですが、選ばれている
言葉の噛み合わせは印象的なのが多かったです。
例えば、以下のような。

「…死にたいとは、思わないのですか」
「自分で死ぬより、誰かに殺される方がいいな」
「どうしてですか」
「それって、とっても情熱的なことじゃないか」

痺れるような台詞のやり取りと、ラストのシーンの
不気味さだけで十分にお釣りがくる舞台だと思います。
つく、きえる

つく、きえる

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/06/04 (火) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★

「あの日」以来、気が付いたもの
作者、シンメルプフェニヒの作品は、倉持裕氏が演出した
『昔の女』を観ていますが、あの時のホラーっぽい内容とは
一転、本作『つく、きえる』は寓意に満ちた、結構難解な
作品になっています。

一応、「3.11」をふまえた作品だということになっていますが、
注意深く観ていくと、そこを超えたメッセージが見えてくる。
そのメッセージをどう思うかで、この作品の印象は大きく
変わってくるでしょう。

ネタバレBOX

あらすじは、ある月曜日、三組のカップルが不倫の逢瀬を
重ねる、港沿いのホテル。

滑稽なことに、三人のカップルは同じホテルを使っているのに
来る時間帯が異なってたり、偶然が一致していたりと、お互いの
存在に気が付かない。

そして、ホテルの若いオーナーは、少し離れた先の灯台守の
女の子、「ミツバチ」とお互いの仕事があり、会うことが出来ない
ために、もっぱらメールのやり取りだけでを繰り返している。
「会いたい」「いつ会えるのか」 言葉は繰り返されるけど、一向に
会えそうにない、そんな時間がずっと繰り返されるような、日常。

そこに、「3.11」を思わせるような、ホテルを海の底に一瞬にして
変えるような、そんな大きな津波が襲いかかってくる。津波が
本筋ではないので、最初、何があったのかよく分からない位に
幻想的な台詞と演出で描かれていて、スクリーンに波の映像が
使われていなかったら、津波とも気が付かなかったと思う。

一瞬の津波に飲まれ、命を失い、しかしそのことに気が付かず
家に帰る人々。大きな波によって余計なものが洗い流された
かのように、三組のカップルの間にも、元の相手に対する
別の感情、初めて相手に抱く関心、理解、温かい感情が
まるで火を点したかのように浮かび上がってきます。

それは暗く、鈍色をした、生命が全て死に絶えたような
舞台の中でほんのりと存在感を放っています。でも、
これって「津波」があったからのことで、もしその存在が
なかったら…? そう考えると皮肉な気がします。

ホテルの若いオーナー、「クジラ」のもとを、「ミツバチ」が
訪れるきっかけとなったのも、「津波」あったのことだし、
まるで当たり前のように繰り返されてきた日常は、脆い
ものであるが、私たちを取り巻く日常という枷が外れたとき、
真に自分が欲していたものが見える、だから、全くの悲劇と
いうものは、厳密には存在しない。そういわれているような
気がしましたね。

台詞は難解で、意図的に似た場面が繰り返されるため、
全貌はよく理解できなかったのですが、後半、一気に
シンプルになった展開を見て、そう感じました。
磁界

磁界

浮世企画

新宿眼科画廊(東京都)

2013/05/17 (金) ~ 2013/05/22 (水)公演終了

満足度★★★

「うわぁ、いるいる!」系の人たちの物語
浮世企画は、主宰の方がカムヰヤッセン『やわらかいヒビ』の
初演に客演した時から気になっていました。今回観ることが
出来て本当に良かった。というか、いちいち爆笑してしまった。。

ネタバレBOX

とにかくダメダメな男たちばかり出てくるのがいいです(笑

一番笑ったのは、登場人物の一人が勤めている町工場の、
二代目若社長。どうせ俺なんて…系の、なにかすごい勢いで
こじらせている、かなり面倒くさい人なのに、アイドル(しかも
14歳!)にだけは熱くなる、という、相当なアレっぷりに笑った。

でも、この作品、一番すごいのは、中盤の山脇唯でしょう。

「人間AIBO」からはじまって、恋人の浮気相手がマンションを
訪れた時の、ハイな飛ばしぶりは、客席のほとんどの人の記憶を
一気に奪い去ったと思う(笑 すごい勢いで笑いが起こり、正直
他のシーンの記憶が。。。

最前列だったので、「この泥棒猫がっ!」って叫んだ時、耳が
すごいことになりました。あと、「一軒目はハワイアン~」
すっごく笑いました、ナイス。

チケットが連日完売した本作品。後味もよく、上演時間もちょうどよく
佳品といってもいい話だと思います。
獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)

獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2013/05/10 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了

満足度★★★

「異質なモノ」が「当たり前のもの」になる過程
見る者を幸福の渦中に突き落としてしまう、謎の柱をめぐる
人々の物語。というより、寓話に近いと思います。

百年前と現在とで、人々の柱のとらえ方がまったく
違っていることに、今自分が生きている現在でも
同じことってあるんだろうな、とふと感じていました。

ネタバレBOX

なかなかに考えさせられるテーマを持つ作品でした。

天から、神話の世界よろしく、人々に刹那の幸福を与える柱が
落ちてからというもの、目にするだけでマトモな日常生活を
送れなくなるような幸福感に包まれ続けるため、それまでの
文明社会は崩壊、

人々はそれこそ神話の世界のように都市部から田舎へ群れを
成して逃げていくが、ある程度の人口が確保されると同時に、
柱はそこにも落ちてくる。まるで「天の目」によって監視されて
いるかのように…。

百年前は災いを呼ぶ存在であったはずの柱が、現在では
人々の悩みを解消させる神として、「ミハシラサマ」として
信仰の対象にまでなっている皮肉、

百年前、それを見越した、田舎の村の代表者が、逃げてきた
研究者に柱を分析させる中で言い放った言葉、「悪い予感が
する。今、君たちがやっていることは意味のあることだ。柱の
存在についてはこれからの未来、何かイヤな感じがする。
ヘンに特別な存在として認識されるのはよくないよな」。

はたまた、柱が降る前に、同じ効力を持った隕石や変化した
看板などの登場で警告がなされていたにもかかわらず、
数少ない警告は無視され、黙殺されていた事実。

そして、百年後の現在、「柱は人々に幸福を与えてくれる、
尊い存在だ」という考え、というより思い込みが主流となり、
誰もそれを疑わない、昔に村の代表者が懸念したことが
事実となり、柱を見ることができる人、柱の神性を疑う人は
村八分にされること。

逆に、柱を乗り越えることが人類の発展と信じてやまない人も
立場が反対なだけで、実は柱を信仰している人と変わらない、
ということ。

---------------------------------------------------
なんか、今の日本を深く考えてしまいそうな、そんな内容でした。

ラスト、柱を見ることが出来る子たちが、自分たちを利用しようと
している大人たちの手を離れて、新しい世界に踏み出していこう
とする姿は、

この日本で、ひそかに芽生えつつある、新しい視野や考えを持った
世代の台頭をひそかに感じたような気がして興味深かったです。
レミング ~世界の涯までつれてって~

レミング ~世界の涯までつれてって~

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2013/04/21 (日) ~ 2013/05/16 (木)公演終了

満足度★★★★★

ものすごく心地良いヂャンヂャン+寺山
先日行われたイベントで知りましたが、5月4日が寺山修司没後
30周年なんですね。寺山の仕事の中では圧倒的に演劇が好きです。
不条理で夢幻的な展開がカフカっぽくてかなりツボ。

本作『レミング』は、ファンにとっては天井桟敷の最終公演作品として
... 有名なのですが全く未見で、それだけに気になっていました。今回
観ることができて、本当に嬉しかったです! そしてその期待どおりの
作品でした。

ネタバレBOX

この舞台、演出が本当に面白かった。奇妙にねじれたような、でも
すごく癖になるBGMにかぶせた、役者達の5・7拍子で取られた動き、
そこで鳴らされる足音や台詞の響き、その全てが音楽的に、整然と
機械的にかっちりと演出されていて。

洞窟のようにも、都市の摩天楼のようにも見える舞台装置や、
宮沢賢治っぽい、どこか夢幻感のある衣装。すごく良かったです。
寺山が観たら、多分絶賛していたと思う。あくまで多分だけど。

あのミニマリズムは慣れてくると心地良くて、ずっとこの空間にいたい…
そう思えるようになってきますね。違うかもしれないけど、四つ打ちの
ダンスミュージックに身を任せるような、そんな高揚感があります。

ダンスミュージックで思ったけど、寺山の扱う言葉は多分にヒップホップ的、
今回の作品の演出に合わせて、細かく分解された流れで台詞を耳にして
実感しました。言葉の意味ではなく、流れや響きを重視していると思しき
ことや、韻をふんでいるようなかけ合いかたとか、

多分、今、寺山が生きていたら、ジャズの流れで間違いなくヒップホップに
傾倒していたと思いますね。そして20歳若かったら、絶対にその作風は
「ままごと」や「マームとジプシー」のそれと近かったはず。抒情的な彼等と
違って、冷ややかで即物的な作品に演出されそうな気がしますが。

物語は意外と笑える要素が多い、というか、笑いどころばかりでした。
八嶋・片桐のコンビネーションがよくて、いいタイミングで台詞を
差し込んできて、結果、客席大爆笑。

一番笑ったのは、無くなった壁の代わりに、修理人がサルトル『壁』を
置いていったのに対して、こんなステップで超えられそうなの、壁じゃ
ないだろっ! ほらっ、ほらっ! って、必死に八嶋が飛んでみせる場面と

松重豊扮する主人公の母親が分裂して、片桐がモグラ叩きよろしく
追っかけて回る場面かな。客席も、その笑いを誘う様子にドッと
沸いてたな。

最後、狂気に意識が分裂し始めた八嶋が静かに眼鏡を外してニヤっと
笑い、ボソッと台詞を呟いた刹那、けたたましく鳴り響く音楽と一緒に、
舞台上の狂気が一気に客席にまで拡散していくような気がして、思わず
ぞぞっと鳥肌が立ちました。なかなかない希有な体験をしました。
また、生で観てみたいな。そうしたら、もっと別の構造が見えるのかも。
効率学のススメ

効率学のススメ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/04/09 (火) ~ 2013/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

「効率」という看板の向こうに見えるもの
「効率」という、分かったようでいて、その実よく分からないものを
めぐってのドタバタの喜劇、というのがこの作品、『効率学の
ススメ』に一番合った紹介ではないかと。

目に見えないものに、いかに人がよくも悪くも翻弄されるのか、
その一端に触れたような気がします。

ネタバレBOX

表面上はうまくいっているようで、実際三者それぞれが
違う方向を向いてしまっている研究所の職員たち。
そこに、「最大効率化こそがわが使命」と自ら恃んで止まない
ビジネス・アナリストのケン・ローマックスが送り込まれてきた。

関わった先では、数々のリストラや事業縮小が引き起こされ、
その名がとどろくケンを目の前に、研究所の所員たちも
自分達も「効率化」の名の下にリストラを迫られるのではないか、と
疑心暗鬼を抱くようになる…。

という話。ここまで書くと、なんか凄惨な話を想像する人も多そうですが
自称「イケメン」研究員のジェスパーと、なんとか威厳を保とうとしつつも
実は小物だったという研究所の責任者ブラウン氏の存在が、なかなかに
いい味を出しています。

ブラウン氏の場合、奥さんまで巻き込んで、ケンを懐柔しようと
しているのに、全然うまくいかない、そのダメぶりが、もう何というか…。

「効率」の守護神のようなケンが徐々に変化して、ラストでは
「ブラウン氏の非効率的な運営こそが、最大の効率化を生むのです」
「そのため、ただちに、ブラウン氏を昇格させて、もっと多くの部下を
持たせ、さらなる効率化を図りなさい」と提案するのは、

映写された「科学的発見の第三段階:人は間違った人物に功績を
認める」の一文とあいまって、すごくよく効いていましたね。

ただ…ケンという人物が、どのくらい「効率主義」の権化なのか、
序盤をのぞき、描写が無かったので、「効率」「効率」と連呼しても
伝わらなかったかも…。普通に所員たちと長話をしているし(笑

テーマは面白かったんだけど、そういうところも含めて、ツメの甘さが
目立ちました。でもラストはなかなかに微笑ましくていいです。
ジェニファーがジェスパーに電話番号を書いた紙を叩きつけて
出ていく場面とか。ケンが必死に天気の話を予習するところとか。
ああいうの、いいなぁ。
長い墓標の列

長い墓標の列

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/03/07 (木) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

理念か現実か
本作の初演は1957年ですが、約55年が経過した現代においても
舞台の設定を変えるだけで、そのまま今の日本の状況をものの
見事に説明しているような気がして、正直少しぞっとしました。

何故なら、本作の最後は、「理想の死」と、最早逃れられない
「破滅」と、醒め切った「現実の蔓延」で幕切れを迎えるからです。

それを客席から観ている自分にとっては、現在の日本の未来は
まったく同じ地点に帰結するのではないかという考えがひしひしと
するのです。

ネタバレBOX

物語のあらすじは「説明」にある通りです。

この作品で最も重要と思われるところは理想的自由主義的
社会主義を掲げ、「人間の可能性は無限大だ」を奉じる山名と、
その弟子である城崎の対立でしょう。

あくまで、「人間の可能性は無限大で、負ける闘いでも闘い
続けなければいけない」とする山名に対して、

城崎は全く違う意見、「万人が先生のような正しさに
生きているわけではない」、「既に終わってしまった大学でも
教えを請いに来ている学生はいる。彼らを自分の理念だけで
見捨てるわけにはいかない」、「そもそも先生の発言はつまらない
ヒロイズムに過ぎません」を言う。

観ていて、太宰治の「駆込み訴え」を思い出しました。

「理念に生き、美しいままでありたい」とする山名に対して、
人間はそうなれるほど強くはないとする城崎の対立。
城崎が最後、山名を裏切り、大学に復職するところが
イエスを裏切った、弱いユダを思い起こさせました。

もちろん、山名の確固たる姿勢にも瑕疵がないとはいえません。

「理想に生き、美しいまま生をまっとうする」というのは、自らの
理想的民主主義的社会主義の立場からみれば、人間本来の
精神に則った、発展的、進歩的な生き方かもしれませんが、

この「理想」を「八紘一宇」、もしくは「大東亜共栄圏」の理想に
置き換えてしまえば、なんのことはない、意見を異にする、
革新派の立場とそう変わることはないのです。

現に、憑かれたように研究を重ね、命をも燃焼させている
山名の姿に、私は気高さというより、妄執のようなものすら
覚え、そら恐ろしさすら感じました。

そこにあるのは、城崎がいみじくも言い放った、「ヒロイズム」であり、
日本民族の未来は我にあり! とする、旧来的な知識人階級の全人
善導型の指導体系に過ぎないのです。

その、単純に過ぎない対立が、本作『長い墓標の列』であり、山名と
城崎―「理想主義」と「現実主義」の終わることのない対決は、現代
日本の潮流の中にあっても脈々と生き続けていると言える気がするのです。

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