象 公演情報 新国立劇場「」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    全く古びない不条理演劇の代表作
    日本の「不条理演劇」の大家であり、今も最前線で活動を
    続けている別役実氏の代表作を、「桃園会」の深津篤史氏が
    演出した作品。言葉が面白く、たどればたどるほど、迷路に
    入っていくような感覚に襲われました。

    ネタバレBOX

    この作品『象』は、原爆によって背中に出来たケロイドを
    人々に向けて見世物にすることで喜びを得ている男と、
    その行為を止めなさいとたしなめる男、二人を軸にして
    展開していきます。舞台は病院で、一人は、そして後半では
    二人とも入院することになりますがその経緯も詳しいことは
    分からない。状況が全く説明されない。

    他にも。一面に分厚く古着が折り重なる舞台装置の上に
    溶け込むように倒れている人々。あまりに一体化し過ぎていて、
    最初どこから台詞が発せられているのか、分からなかったです。

    そう、この劇、『象』ではハッキリしていることは何もない。
    もしかしたら、二人の男は、精神を病んで、この病院に
    いるのかも知れない。ただ一つ、おぼろげながら分かるのは
    カフカ『城』のように、「あの町」があって、ケロイドの男は
    そこでかつてのように見世物をしたい。もう一人の男は
    男を「あの町」に行かせないようにしている事、くらい。

    正直、後半の中盤部分に差し掛かるまでは、脈絡が全く
    ない会話に、しょっちゅう変わる場面、追うことの
    困難なストーリーなど、集中力がいる物語でしたが、

    見世物の男が、また町に出て行って、昔のように見世物を
    したい! と言い出すことから、一気に話が動き出します。

    最後、着物の山の中から、死者の群れが無言のまま
    現れてはくず折れていく様は、まるで、原爆投下の
    もののみならず、全ての一瞬立ち上がってはすぐに
    消えていく記憶そのもののようでした。

    すごく恐ろしく見えるのは、往々にして、私たちの
    中に想起される記憶が、甘美なものではなく、その逆、
    二度と思い出したくないものに他ならないことを
    はしなくも語っているようでした。演出家の深津氏の
    並々ならぬ演出力の高さを目の当たりにして感激しました。

    この劇、会話は全く脈絡が無いのですが、選ばれている
    言葉の噛み合わせは印象的なのが多かったです。
    例えば、以下のような。

    「…死にたいとは、思わないのですか」
    「自分で死ぬより、誰かに殺される方がいいな」
    「どうしてですか」
    「それって、とっても情熱的なことじゃないか」

    痺れるような台詞のやり取りと、ラストのシーンの
    不気味さだけで十分にお釣りがくる舞台だと思います。

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    2013/07/05 09:09

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