土反の観てきた!クチコミ一覧

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テイキング サイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~

テイキング サイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~

WOWOW

天王洲 銀河劇場(東京都)

2013/02/01 (金) ~ 2013/02/11 (月)公演終了

満足度★★★

信念の衝突
名指揮者フルトヴェングラーが、ナチに協力したとしてアメリカの少佐に攻めたてられる緊迫したやりとりを通じて、政治と芸術の関係について考えさせられる作品でした。

ナチに対する憎悪や芸術の無力さに憤慨してフルトヴェングラーに対して次々に酷い言葉を発する少佐と、言葉や国を超越する音楽の力を信じて毅然とした態度を取り続ける指揮者の対決が壮絶でした。
横暴で共感しにくい少佐が何故そのような振る舞いをするのかが後半で明らかになり、単なる悪役ではない深みのある描かれ方となっていて印象的でした。

平幹二朗さんのいかにも指揮者らしい重厚で品格のある佇まいと台詞回しが素晴らしかったです。それとは対照的なキャラクターを演じた筧利夫さんの膨大な台詞で攻め立てる憎たらしい姿も強烈でした。
平さんと筧さんのやりとりの場面がほとんどで、他の4人はあまり台詞がなかったのですが、それぞれの立場における心情が物語を膨らませていました。ベルリンフィルの元メンバーを演じた小林隆さんが人間の弱さを暖かく演じ、重苦しい雰囲気の中で息抜きになっていて良かったです。

当時の記録映像(かなりショッキングな内容です)やセットの大仕掛けが用いられていましたが、説明的過ぎるように感じました。演技が四方ので、わざわざそのような手法を使わなくても十分に内容が伝わると思いました。

クラシック音楽やフルトヴェングラー、そして当時の情勢についてある程度知識がないと少々取っ付きにくいかと思いますが、終盤に向けてどんどん引き込まれる作品だと思います。

空アリマス

空アリマス

kikki-kikaku

スタジオイワト(東京都)

2013/02/02 (土) ~ 2013/02/03 (日)公演終了

満足度★★

テーブルの上のファンタジー
人形や様々な物による人形劇を、それらや機材等を操作するパフォーマー自身を見せつつパフォーマンスを行う、オブジェクト・シアターのスタイルによる作品で、詩のような美しさが感じられました。

周囲を黒い布で覆った空間の中央に小さなテーブルが設置されていて、その両脇に照明器具やスモークマシーンや扇風機がセットされた中で、抽象的な形の鳥の人形や、熊のぬいぐるみ、豆電球で表されたホタルが登場する幻想的なエピソードの合間に、生身の人間のダンスや演奏が行われる構成でした。
並べた皿に液体を注いで火を点けて青く燃える炎の上を鳥が飛ぶシーンが印象的でした。

人形劇のパートのクオリティーの高さに比べてダンスや演奏は完成度が低く、ガチャガチャした印象が人形劇の密やかな雰囲気を壊してしまっていて残念でした。

タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦

タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2013/01/23 (水) ~ 2013/02/05 (火)公演終了

満足度★★★

物足りなさを感じる演出
ワーグナー作品は大胆な読み替えや斬新な演出が話題になることが多いのですが、このプロダクションはセットが抽象的な点を除いてはオーソドックスな演出で、安心して観られるものとなっていました。

荘厳な序曲に乗せて、舞台全体がゆっくりと奈落から迫り上がって来る冒頭が印象に残りました。続くバレエのシーンではライヴカメラの映像を後方に映し出したり照明を頻繁に変化させたりと視覚的な要素を盛り込み過ぎていてダンサー達の存在感が薄まっているように思いました。
本編に入ってからはセットの変化があまりなく、解釈や手法においても目新しさが感じられず、演劇的観点からは興味を引かれる場面がほとんどなかったのが残念でした。

音楽的には全体的に抑え目の勢い任せにしない安定した演奏でした。タイトルロールを演じたスティー・アナセンさんが他のメインキャストに比べて声量が弱くて不安定な所もありましたが、演技が自然で良かったです。領主ヘルマンを演じたクリスティン・ジグムンドソンさんの厚みのある声と堂々とした立ち振る舞いが素敵でした。
繊細なピアニッシモから迫力のあるフォルティッシモまで美しく響かせる合唱が素晴らしかったです。

セットは作品中で登場する竪琴の弦をモチーフにしたと思われる、ストライプのデザインが支配的で、10m位はありそうな何本もの柱状のオブジェや、床面の縞模様がシャープな雰囲気を生み出していました。

今年はワーグナー生誕200周年なのに、新国立劇場ではこの作品1本しか上演せず、しかも新制作ではなかったのが残念です。

地下室

地下室

サンプル

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★

おかしな人々
閉鎖的なコミュニティーの中で異常性が肥大していく気味の悪さを、笑いと緊迫感を交えて描いた、奇妙な雰囲気に引き込まれる作品でした。
松井さんならではの変態性がありつつ、物語としては具体的で、取っ付き易かったです。

共同生活をしながら特殊な水を製造して販売する人達や、そこに訪れる客や曰くありげな取引先とのやりとりを通じて、それぞれの人物の異常性が明らかになり、自ら作った決まりに縛られていく人々の病理がグロテスクに描かれていました。
閉じた集団の中で、メンバーだけに通用するルールが設けられたり、性的に乱れている様子が、新興宗教や左翼運動の組織を思わせ、劇団というコミュニティーを自虐的に描いているようにも感じられました。

内容的にはコメディーではなく、寧ろ気の重くなる話なのにも関わらず、笑える場面がとても多く、そのことによって登場人物達の異常性が引き立ち、それが特別なものではなく、誰もが内に備えているものだと思わせました。

どの役もアクが強いながらもリアリティーを感じさせる演技で良かったです。中でも、古舘寛治さんのとぼけた味わいと狂気の紙一重感と、山内健司さんの高圧的で嫌味ったらしい感じが特に印象に残りました。

派手な効果は用いず、ゆっくりと明るさを変化させることによって独特の雰囲気を生み出していた照明の演出が素晴らしかったです。

オイコス・ノモス

オイコス・ノモス

ニグリノーダ

d-倉庫(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

未来を通じて現在を見る
※衣装で公演に関わった立場なので、個人的に受けた印象や良し悪しの評価については書かずに、客観的に作品の内容を記すのみにします。

神楽の形式に則って進行し、象徴的な表現を通じて、現代社会における幸福について問い掛ける作品でした。

森のシェルターに暮らす未来の人達の神楽の儀式に現代の人間が神として召喚され、もてなしを受けつつ、戦争や原発といった科学技術の発展の功罪を振り返り、これからの生き方について考えさせる物語でした。
ステージ上に更に1段高く設けられたステージが大量のしわくちゃになった紙で覆い尽くされ、奥には白とグレーの縦ストライプの幕が掲げられた中で、ダンスや演奏が多く盛り込まれながら進行しました。
Mono/物/者、神/紙、風/Whoといった掛け言葉が多く用いられていました。神楽の出し物を演じているという設定で、シーン毎にキャラクターが変化し、演技のスタイルが異なっていました。
登場人物の1人が他の登場人物達に感謝の言葉を述べるクライマックスのシーンでは、客席の映像が幕に映し出されて同様に感謝の言葉が掛けられ、観客が登場人物として作品に取り込まれていました。

ダイナミック ダンス! コンチェルト・バロッコ/テイク・ファイヴ/イン・ジ・アッパー・ルーム

ダイナミック ダンス! コンチェルト・バロッコ/テイク・ファイヴ/イン・ジ・アッパー・ルーム

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

満足度★★★

リズミカルなトリプル・ビル
アメリカと縁深い振付家や作曲家が関わっている、物語のない抽象バレエ作品のトリプル・ビルで、エンターテインメント性に富んだプログラミングでした。

『コンチェルト・バロッコ』
バッハの『2つのヴァイオリンのための協奏曲』に振り付けた作品で、ソロとトゥッティの対比や、カノン状に進行する旋律線といった音楽構造が視覚化されていて爽快でした。
第1楽章はオーケストラとダンサーがお互い探りあっている感じもありましたが、次第に音と動きの一体感が増して行き、第3楽章のユニゾンの部分では心地良い緊迫感があって素晴らしかったです。

『テイク・ファイヴ』
昨年亡くなったデイヴ・ブルーベックのカルテットの曲に振り付けた作品で、ミュージカルみたいな雰囲気が楽しかったです。6つのパートからなっていて、冒頭に踊られる『テイク・ファイヴ』にちなんで、その他のパートも曲の原タイトルとは別に、数字を含んだタイトルが付けられ、その数の人数で踊るという構成が洒落ていました。
本島美和さんと厚地康雄さんのデュオに大人の色気が感じられて良かったです。

『イン・ジ・アッパー・ルーム』
ビッグシルエットのストライプのシャツとパンツや、赤いレオタードに白のスニーカーといった衣装を身に纏い、多量のスモークの中でエネルギッシュに踊る作品で、この作品が作られた80年代の雰囲気が色濃く出ていて、ダサ格好良い感じが新鮮でした。
まるでスポーツの様にひたすら踊り続ける、かなりの体力を要求される作品でしたが、終盤の畳み掛けるシーンまでスタミナが続かずミスが多かったのが残念でした。

「テヘランでロリータを読む」

「テヘランでロリータを読む」

時間堂

シアター1010稽古場1(ミニシアター)(東京都)

2013/01/19 (土) ~ 2013/01/28 (月)公演終了

満足度★★★

声の存在感
1995年のイランのテヘランでプライベートな読書会で『ロリータ』を読む女性達を描いた小説『テヘランでロリータを読む』を舞台化した作品で、洗練された演出によって声の魅力が引き立てられていたのが印象的でした。

舞台上には登場しない「先生」と共に行われる読書会を通して宗教・文化・社会・女性の生き方について議論する様子に『ロリータ』の場面が重ね合わされながら展開し、抑圧された女性達の思いが伝わって来ました。
床置きの照明器具で境界を定められたアクティングエリアを客席が4方から囲み、1冊の本とサングラス以外には小道具も、椅子やテーブル等の家具も用いず、音響も全く使用しないという物理的には簡素な設えでしたが、役者達の演技によって様々なシーンの情景が浮かび上がっていたのが良かったです。

丁寧に作り込まれた脚本・演出・演技ではあったものの、馴染みのない文化圏の話だったせいか、物語の世界に入り込みにくく感じ、110分の上演時間が少し長く感じました。

キーワードを解説した資料や人物相関図が用意されていて、開演前には黒澤世莉さんがイランに行った話もしていて、観客に楽しんでもらおうとするホスピタリティーを感じました。

『無一物の生―良寛に寄せて』

『無一物の生―良寛に寄せて』

NPO法人 魁文舎

スパイラルホール(東京都)

2013/01/22 (火) ~ 2013/01/23 (水)公演終了

満足度★★★

良寛の言葉
それぞれ長い歴史を持ちながらも、ほとんど関わり合うことがない、声明と箏と能が、良寛の残した文章や俳句を媒介にして共演するという珍しい公演でした。

中央に能楽師の観世銕之丞さん、その後ろに箏の西陽子さんが位置し、3方の壁に沿って僧侶達が座った形を基本としつつ、僧侶達が客席の周囲を歩きながら歌ったり、キャットウォークに上がって歌ったり、能楽師が客席内の通路を通ったりと空間を大きく使い、様々な方向から聞こえてくる立体的な音響が印象的でした。

わらべうた風の曲や般若心経を倍音が豊かに含まれた声で歌われる中を観世鐵之丞さんが舞う姿が、衣装や照明も相俟って空間全体が金色に輝いている様に感じられ、印象に残りました。
箏のハーモニクス奏法による幻想的な響きの中、良寛の短歌と俳句が壁に映し出され、静かに立っている能楽師の周りにもみじの葉が降り、ゆっくりと暗闇に包まれるラストが美しかったです。

普段の能舞台では離れた所からしか観ることの出来ない、能楽師の静謐で緊張感のある身体表現を目の前で観ることが出来て良かったです。

100万回生きたねこ

100万回生きたねこ

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2013/01/08 (火) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

満足度★★★★

3次元化された絵本の世界
日本の若手劇作家3人による脚本と、イスラエルのコンテンポラリーダンス界で活躍するインバル・ピントさんとアブシャロム・ポラックさんの演出・振付・美術で有名な絵本をミュージカル化した作品で、シュールでキュートな中に切なさが感じられました。

とらねこが様々な人間に飼われては死んで行く様子がユーモラスに描かれる第1幕と、誰のものでもない野良猫になったとらねこが白いねこと出会い、そして死別する物語をしっとりと描いた第2幕の対比が印象に残りました。

前面が大きな枠で縁取られ、天井面も塞がれた、遠近法の錯覚で奥行きが強調された舞台の中で、カラフルながら落ち着いた色調のヴィジュアルと、様々な仕掛けを用いた手品の様な演出が繰り広げられ、まさに絵本の中の世界が飛び出して来たかの様でした。
涙を色々な小道具を用いてユーモラスに表現したり、おばあさんの余命が短くなって行く様子を衣装を用いて表現したりとアナログ感に富んだ多彩な手法に暖かみが感じられました。奇妙な服のシルエットや不自然なポーズや動きでいびつな感じを出していたのが個性的で楽しかったです。

台詞と歌とダンスがあまり密接に関連していなくて、言葉より身体表現や美術の比重が高く、ミュージカルと称するには異質な作品でしたが、まとまりが無かった訳ではなく、むしろ独特の雰囲気が出ていました。

主役の森山未來さんと満島ひかりさんはダンサー達に引けを取らない運動量をこなし、第1幕と第2幕での演じ分けも見事でした。特に終盤の趣向を凝らした短い台詞のやり取りの中に深い情感が感じられて素晴らしかったです。

チラシや公式サイトには書かれていないのですが、歌詞は友部正人さんによるものだったのも嬉しいサプライズで良かったです。

新春浅草歌舞伎

新春浅草歌舞伎

松竹

浅草公会堂(東京都)

2013/01/02 (水) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

満足度★★★

若手の華やかさ
若手中心の座組で、年明けにふさわしい華やかさが感じられる公演でした。

『毛谷村』
部分の抜粋なので物語としては物足りなさを感じましたが、短い時間の中に立ち回り、義太夫、子役といった様々な見せ場があり、シリアスな場面もコミカルな場面もあって楽しめました。
お園を演じた中村壱太郎さんが美しく、ときにはとぼけた味わいも見せていて印象的でした。

市川海老蔵さんによる口上は、新年の挨拶に続いて市川家伝統の「にらみ」が披露され、迫力のある姿で客席を沸かせていました。

『勧進帳』
ずらっと並んだ出囃子が祝祭感を盛り立て、定番作品としての力強さが感じられました。
海老蔵さんの弁慶は、元々古めかしくて分かりにくい台詞を少しこもらせた声色で言うので聞き取り難かったのが残念でしたが、若さ溢れるダイナミックな舞が良かったです。特に終盤の酔っぱらって踊る場面での豪快なよろめきっぷりが印象的でした。

祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹~

祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹~

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2013/01/12 (土) ~ 2013/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★

ケレン味に満ちた演出
ケラさんの演出が物語の世界に没入させる統一感のあるものだったのに対して、蜷川さんの演出は舞台の構造や機構を活用して演劇の虚構性を強調する趣向を多く盛り込んで観客を現実に戻しつつ、感情の高まるシーンでは一気に盛り上げるダイナミックなものとなっていてました。

中央部が1段上がっているだけのシンプルな舞台にシーン毎に椅子やテーブル等と奥の壁を入れ換えて進行し、スムーズにシーンが展開して行くのが気持ち良かったです。

蜷川さんが今までの作品で何度も使っているケレン味の効いた手法が多く使われていて既視感がありましたが、物語の内容に合っていて効果的でした。

コロスがギリシャ悲劇のそれとは全く異なるヴィジュアルと台詞回しになっていてインパクトがありましたが、そうした必然性が感じられず、ただ奇をてらっただけにしか見えず残念でした。

同じ戯曲でも演出によって登場人物の性格付けが異なり、同じ台詞でも笑わせようとしてたっりしてなかったりで、演出によって全然異なる作品に仕上がっているのが興味深かったです。

<ベジャール・ガラ>

<ベジャール・ガラ>

公益財団法人日本舞台芸術振興会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2013/01/19 (土) ~ 2013/01/20 (日)公演終了

満足度★★★

小林十市さんが圧巻
ベジャール作品のトリプルビルで、それぞれにベジャールならではの独創性が感じられて、楽しめました。

『ドン・ジョバンニ』
女性ダンサーだけによる作品で、ドン・ジョバンニは登場せずに照明や椅子を用いて象徴的に表現していていました。その周りでジョバンニに対してコケティッシュにアピールする女性達の姿が可愛らしくも滑稽でした。
最後に冴えない感じの裏方スタッフの男性が舞台を横切るという皮肉や、音楽のショパン繋がりでシルフィードが登場するというユーモアが楽しかったです。

『中国の不思議な役人』
色気仕掛けで追剥をする女と、何度殺しても死なない中国の男のやりとりを描いた、退廃的で官悩的な作品でした。女役を男性ダンサーが演じていて、倒錯的な雰囲気が魅力的でした。
中国の役人を演じた小林十市さんが、ゾンビのような不気味さと、その中にある純真な感情を的確に表現して踊っていて素晴らしかったです。ジャケット姿の男性群舞や、黒の下着姿の女性群舞も迫力があり格好良かったです。

『火の鳥』
原作とは全く設定を変えて、青い作業着に身を包んだパルチザンのグループの劣勢から希望への物語を描いた作品で、終盤へ向けての高揚感が素晴らしかったです。
パルチザンのリーダーである火の鳥を踊った木村和夫さんは少々厳しそうな所もありましたが、演劇的表現力があり、苦しそうな姿が作品のテーマに合っていたと思います。

音のいない世界で

音のいない世界で

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2012/12/23 (日) ~ 2013/01/20 (日)公演終了

満足度★★★

巡る季節と回る舞台
子供も楽しめる作品とのことでビジュアルや演技は可愛らしい雰囲気でありながら、変に子供に迎合することのない、シュールで観念的な要素が織り込まれたファンタジーでした。

タイトルでは「音」がいないとなっていますが、言葉を話す声や物音がなくなるのではなく、音楽や音楽に関わる概念がなくなった状況を描いていて、盗まれた鞄型のレコードプレーヤーを探しに1人で出ていった妻と、彼女を探す夫を中心とした四季を一巡りする物語でした。音がいないという設定に沿った、静寂を大切にした演出が印象的でした。

レコードプレーヤーを連想させるフラットな回り舞台を家型のシルエットをしたパネルで空間を手前と奥に分割し、向こう側で小道具を入れ換えながらシーンを転換していく手法が洒落ていて楽しかったです。
長塚さんの演出に感じられる鋭さがこの作品では控えめで、あまり新鮮さを感じられなかったのが残念でした。

出演者の4人それぞれが何役も演じていて魅力的でした。松たか子さんは女役だけでなく男役も演じていて、とてもチャーミングでした。
出演者の内の2人がダンサーなのでダンスに期待していたのですが、がっつりと踊ることはなくてマイム的な身体表現がところどころで用いられる程度だったので物足りなさを感じたものの、演技も味があって良かったです。

組曲虐殺

組曲虐殺

こまつ座

天王洲 銀河劇場(東京都)

2012/12/07 (金) ~ 2012/12/30 (日)公演終了

満足度★★★

優しさの中に込められたメッセージ
プロレタリア文学で知られる小林多喜二の晩年を描いた作品で、物騒なタイトルのイメージとは異なり、歌やコミカルなシーンが沢山盛り込まれていて楽しめながら、最後は重いメッセージが心に残りました。

資本主義・官僚主義を文学の力で批判する小林多喜二と、多喜二の姉、許嫁、後に妻になる協力者の3人の女性と、多喜二を見張る警察官2人による駆け引きが描かれ、シリアスになったかと思いきやドタバタになったりとスリリングな展開が魅力的でした。
2人の警察官は立場上は敵であるものの、多喜二のことをただ憎んでいる訳ではなく、共感しているところもあるという描き方に作者の優しさが感じられて良かったです。
登場人物それぞれの性格が伝わってくる情感溢れる演技が良かったです。神野三鈴さんの多彩な演技が印象に残りました。

視覚的な演出については意図が掴めず、もどかしく思いました。
6人の登場人物を象徴しているものと思われる、床に立てられた6本の細いポール状のオブジェが有効に使われていなくてもったいなく思いました。
映像が何度か使われていましたが、あまり効果が感じられず、特に最後の映像の演出は蛇足に感じられ、興醒めしてしまいました。

音楽は小曽根真さんのピアノ生演奏で、役者と息を合わせて弾いていて、存在感がありながらも抑制が利いていて素晴らしかったです。

くるみ割り人形

くるみ割り人形

スターダンサーズ・バレエ団

テアトロ ジーリオ ショウワ(昭和音楽大学・新百合ヶ丘キャンパス内)(神奈川県)

2012/12/22 (土) ~ 2012/12/24 (月)公演終了

満足度★★★

人形達の国
大まかな物語の流れはプティパの原典版に基づきながら、場面設定を変更したりして自然なストーリー展開にしたバージョンで、原典版の良さを残しつつ新たな魅力が加わっていました。

第1幕は室内ではなく、クリスマスマーケットが開かれているドイツの街中で、そこにやって来た移動式の人形劇場の中にクララが小さくなって入り込んでしまい、そこで人形達を助け、第2幕もお菓子の国ではなく、様々な国の人形達の世界という設定になっていて、クララとネズミの大きさが同じであることに整合性を持たせ、唐突な感のある世界各国のダンスにも必然性があるようになっていました。

振付や衣装は原典版の雰囲気を残したクラシカルな感じでしたが、第1幕終盤の雪の精の群舞だけは、前後で丈の異なる特徴的なデザインの衣装と、わざとバランスを崩すようなムーブメントで構成されていて、斬新でした。
古典的優雅さも良いのですが、このようなコンテンポラリーな要素がもっとあっても良いと思いました。

奥行きのある街並みや、可愛らしい移動劇場、折り畳み式の人形達の宮殿等、美術のクオリティーが高く、メルヘン的な雰囲気が良く出ていました。
クララが人形劇場に入ったシーンでは劇場の裏側からの視点のセットになっていて、書き割りの裏側の骨組みが丸見えで、一番奥には開演前に舞台の前で下がっていたのと同様の赤いビロードの緞帳が見えているという洒落たデザインが楽しかったです。

第2幕のグラン・パ・ド・ドゥのアダージュのクライマックスの部分をカットしたり、ラストの元の世界に戻るシーンで第1幕前奏曲をフラッシュバック的に挿入したりと、目立つ音楽の改編がありましたが、その効果が感じられず、違和感だけが残りました。

アンデルセンの卵

アンデルセンの卵

せんがわ劇場

調布市せんがわ劇場(東京都)

2012/12/15 (土) ~ 2012/12/24 (月)公演終了

満足度★★

意外と真面目な内容
『マッチ売りの少女』や『みにくいアヒルの子』といったアンデルセンの有名な童話のパロディーで笑わせるコメディータッチな内容かと思いきや、次第に反戦のメッセージが浮かび上がって来る作品で、子供向けな感じの宣伝をしていたわりには大人向けの内容でした。

父親の葬式を終えた男の所に、原作とはどこかずれているアンデルセン童話の登場人物達が現れ、現代、男の両親が若かりし頃の時代、童話の中の世界の3つの階層を行き来しながら展開する物語で、タイムマシン→アインシュタイン→相対性理論→原爆と戦争の話に繋がり、押し付けがましくない優しい雰囲気で戦争反対を訴えていました。

童話の世界のシーンでいかにもな大袈裟な演技をするのは演出として理解できるのですが、個人的にはただ騒がしいだけに感じてしまい、もう少し落ち着きが欲しかったです。

田口トモロヲさんの生の演技を観るのは初めてだったのですが、息子を認識出来ないくらいにボケてしまった老人から、変顔ではっちゃけまくる劇団長まで、幅広く楽しそうに演じていて魅力的でした。

4人の奏者の生演奏と役者達の歌は、クラシックからサルサ、ロックまで幅広い曲調で、楽しめました。
照明は多くの色や点滅を多用していて、演出過剰に感じました。

ポリグラフ

ポリグラフ

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/12/12 (水) ~ 2012/12/28 (金)公演終了

満足度★★★

斬新で美しいビジュアル表現
映像を駆使したマジカルな演出で知られるロベール・ルパージュさんとマリー・ブラッサールさんによる脚本の日本のキャストとスタッフによる上演で、オリジナルのバージョンは観たことがありませんが、ルパージュさんの他の演出作品を彷彿とさせる、センスの良い視覚表現が光る作品でした。

1980年代のケベックが舞台で、ある殺人事件に巻き込まれたレストランで働く男、その男の隣の部屋に住む映画デビューが決まった女、その女と地下鉄でひょんなきっかけで出会った男の3人を巡るラブ&サスペンス的な物語に、当時の東西ドイツの情勢やシェイクスピアの作品が織り込まれた作品でした。
基本的にシリアスなテイストですが、ナンセンスなユーモアが所々に感じられました。

青く照らされた壁をバックに全裸になった3人が様々なシーンの動きを繰り返すシーンや、ライブ映像の投影等、映像や照明を巧みに用いたイリュージュン溢れる手法自体はスタイリッシュで素晴らしかったです。しかし、その手法を用いる必然性があまり感じられずに変に内容を分かりにくくしているように思える箇所が多かったのが残念でした。
最後のシーンが森山開次さんが冒頭で出てきた物と対照的に扱われていて生と死を象徴的に視覚化していたのが美しく、強く印象に残りました。

太田緑ロランスさんのユーモラスな開演前の注意のアナウンスと吹越満さんの話から始まり、映像と影を組み合わせたスタッフロールで終わるという、本編以外の部分にも遊び心を感じさせる洒落た趣向が楽しかったです。

TOPDOG/UNDERDOG

TOPDOG/UNDERDOG

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2012/11/30 (金) ~ 2012/12/28 (金)公演終了

満足度★★★

underdog同士
登場人物は貧しい生活をしている黒人兄弟2人だけの対話劇で、所々にコミカルなシーンがあるものの、救いがない状況でもがく様子が痛々しく、観終わった時にやるせない気分になる作品でした。

カード賭博で稼いでいたのを辞めて遊園地で働く現実的な兄と、職に就かず遊び呆けていて今後はかつての兄のようにカードで儲けようと考えている楽天的な弟の、兄弟間の愛憎やプライドが交錯しつつ物語が展開し、終盤の騙し合いは物悲しさが漂っていました。
2人の心情の移り変わりが丁寧に描かれた作品で、力関係が頻繁に入れ替わる会話に引き込まれましたが、リアリズムなスタイルであるが故に、過去のことを懐かしむ説明的な台詞が多いのが気になりました。

リアルな室内のセットが奈落から持ち上げるように設置されていて客席との間に大きな溝があり、兄弟のやりとりが所詮狭い世界の中での勝ち負けでしかないと思わせ、虚しさを感じました。

兄を演じた千葉哲也さんは内に秘めた凄味と哀愁が滲み出ていて、大人の男の魅力がありました。
弟を演じた堤真一さんは自堕落な生き方をする中にも兄を思う気持ちが感じられ、キュートな感じも良かったのですが、少々雰囲気が軽すぎる気がしました。

祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~【KERAバージョン】

祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~【KERAバージョン】

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2012/12/09 (日) ~ 2012/12/30 (日)公演終了

満足度★★★★

西洋文学のミクスチャー
ケラさんにしてはかなり笑いを抑えたシリアスな雰囲気の作品で、重厚な物語と迫真の演技に引き込まれて、4時間強というかなり長い上演時間を全然感じさせず、見応えがありました。

ある街を暴力的に支配する男とその3人の娘を中心にした様々な人間関係から人間のダークな面が浮かび上がる重厚な物語で、必死に生きようとするが為に心が壊れていく人々の姿が痛々しく切なかったです。
宣伝文にもあるように、人間存在を描くロシア文学と超常現象が普通に起こるラテンアメリカ文学をミックスさたような雰囲気でした。さらにギリシャ悲劇の展開と様式が重要な位置を占めていて、西洋文学の様々な要素を取り込んだ、時代と国を超越したファンタスティックな世界観が感じられました。

個人的に映画作品の中で最高傑作だと思っている『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツァ監督)を思わせる設定や場面が沢山散りばめられていて、それらがパクりではなくオマージュとして感じられて楽しかったです。

パスカルズによるノスタルジックな音楽の生演奏や、動いている物へのプロジェクションマッピングを駆使した映像、頻繁な場面転換に対応した舞台美術等、スタッフワークも素晴らしく、物語を引き立てていました。

総合的にクオリティーの高い作品でしたが、個人的にはもう少し観客を突き放したような尖った表現が見たかったです。
この物語を蜷川さんがどのように演出するのか楽しみです。

トロイアの女たち

トロイアの女たち

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/12/11 (火) ~ 2012/12/20 (木)公演終了

満足度★★★

現代に繋がる怒りと嘆き
日本とイスラエルのユダヤ系・アラブ系の役者がそれぞれの民族の言葉を用いながら共にギリシャ悲劇を演じ、単純に調和や平和を訴えるだけではない、考えさせられる作品でした。

戦争に負けたトロイアの女性達が勝利国の戦利品として奪われ、国が滅ぶことを嘆く物語で、笑いどころか明るい要素も皆無で、終始重い雰囲気でした。
コロスの台詞の所は日本語→ヘブライ語→アラビア語と各民族のコロスが順に言うというルールを頑なに守りながら物語が展開し、途中までは冗長さを感じましたが、終盤の弔いの歌の場面では、その手法が非常に効果的でした。
トロイアの街が燃えるシーンでは客席も赤い照明で照らし出され、現代の戦争の音や赤ん坊の泣き声が鳴り響き、舞台上で演じられている悲劇と同様のことが現代でも起こっているという事実を意識させられました。

奥に数段上がっている舞台の周りを布で囲い、4隅にしなだれたヒマワリが置かれ、天井とヒマワリには血と火を思わせる赤い紐が吊られている簡素な美術の中、控え目な映像や歌舞伎の手法を用いた演出が、ギリシャ悲劇に似つかわしい様式感を生み出していました。
最初と最後に現れる月と、地面に伏せられる円形の楯の対比が印象的でした。

子や孫が次々に不幸な目に会い、悲嘆に暮れるヘカベを演じた白石加代子さんの台詞回しと存在感が圧巻で、作品に重厚な雰囲気を与えていて素晴らしかったです。
絶世の美女ヘレナを演じた和央ようかさんは視覚的にはまさにそうでしたが、(浮世離れ感を出すために敢えてそうしたのかもしれませんが)台詞の発声法が他の役者達とかなり異なっていて違和感があり残念に思いました。
海外の役者達も同じ台詞でも声や体の表現の仕方が全然異なっていて興味深かったです。

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