園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK

爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK

ヴィレッヂ/劇団☆新感線

新橋演舞場(東京都)

2025/11/09 (日) ~ 2025/12/26 (金)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

劇団☆新感線の45周年記念興行で、更に10年ぶりの「チャンピオンまつり」が「いのうえ歌舞伎」と合体したことがとても印象的でした。新感線はこういうカテゴリ・コンセプトを大事にしてくれる劇団なので、観客としても事前にイメージしやすく、かつ見易さに繋がっていると思います。チャンピオンまつりは笑いを重視した、パロディやお決まりのネタを多く含んだ演目。いのうえ歌舞伎は重厚なストーリーと歌舞伎リスペクトの演出が特徴的な演目。このふたつのコンセプトがミックスされた、笑いと重厚さ、そして演劇への愛情がたっぷり詰まった一作に感じられました。

ネタバレBOX

実際にはなかったことを本当にあったことにする「俳優(わざおぎ)の極(きわみ)」という極意が登場し、登場人物たちはこれを駆使して物語の中を駆け巡ることになります。演じることが大好きで、幕府から歌舞伎を禁じられても尚、演じることを止めようとしない登場人物たち。演劇を愛する、そして新感線を愛する人々への感謝と、「うちらの劇団はまだまだ行くぜ!」という力強い宣言と受け取りました。歌や笑い、演劇への愛、そして物語のカタルシスと、大掛かりなライブエンターテインメントしてしっかり傾いている姿は、新感線らしいと感じます。物語の中心にいた小池栄子さんが大活躍で、45周年を盛り上げる大看板のひとりとして輝いていました。
あたらしいエクスプロージョン

あたらしいエクスプロージョン

CoRich舞台芸術!プロデュース

新宿シアタートップス(東京都)

2025/11/28 (金) ~ 2025/12/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

脚本は福原充則さん。今作は浅草九劇のこけら落とし公演だったとか。その時の上演団体はベッド&メイキングス。僕は初演を未見のため、この物語に触れることも今回が初めて。演出は堀越涼さん。

個人的に惹かれたのは、福原さんらしい「美しさ」を放つ台詞の数々。人間の業を直視し、受け止め、業と共に生きることを肯定するような人間賛歌であり、絵空事ではない、汗と埃にまみれた美しい言葉たちが、観る者の心を打つ。勿論その台詞たちを発する俳優たちの奮闘も印象的でした。

ネタバレBOX

観劇前は「戦後の混乱期に文化や表現に携わろうとする若者たちが奮闘する物語」と想像していましたが、戦争の残酷さや理不尽さをあらわす爪痕もしっかり描かれており、想像以上に「反戦劇」になっていると感じました。福原さんらしい笑いも注入されており、パワフルなドタバタ劇にも見えますが、僕個人は真面目な演劇として受け止めました。
TRAIN TRAIN TRAIN

TRAIN TRAIN TRAIN

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2025/11/26 (水) ~ 2025/11/30 (日)公演終了

実演鑑賞

非常にコンセプトがしっかりしている公演で、今作が強い信念、熱い情熱をもって創作されたことが伝わってきます。観客のために用意された資料も丁寧にまとめられており、それらに目を通し、頭の中で作品を反芻することも今作の醍醐味であり、演劇の醍醐味と言えるでしょう。印象的だったのはロビーに貼ってあった説明文に「理解ではなく、より想像して楽しんで欲しい」という趣旨の一文があったこと。「紐解く」ではなく、自由に「広げる」ことを望んでいる作品なのかな?と考えました。

ネタバレBOX

公演資料に「子どもも大人も、視覚でも聴覚でも、あらゆる感性で楽しめる、新しい舞台作品」という記載があり、この説明に納得。共生への理解・浸透はもちろんですが、例えば好きなものが異なる人々も、それぞれ感性で楽しむことができる。言い換えると、観客それぞれによって好きなシーン、好きな表現が異なるだろうし、そういうフックがとても沢山用意されている公演と感じました。それから、これは余談になりますが、このコンセプトで公演をデザインする際に、上演時間が「一幕50分、休憩20分、二幕50分」に設定されていたことが、個人的に印象深かったです。ペース配分に色々な配慮が感じられ、こういう沢山の配慮が積み重なった集大成が、この上演と感じました。
星降る教室

星降る教室

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2025/11/22 (土) ~ 2025/12/01 (月)公演終了

実演鑑賞

昨年2024年に、同じ劇場、そして同じキャストで上演された演目が、翌年の2025年に上演される機会はなかなか珍しいと思います。元々はラジオドラマの脚本として生まれた物語が、昨年の朗読劇化、今年の演劇化と、時間とプロセスと稽古を経て、ゆっくり様変わりしていくことは、劇団活動の原点であり本質であると言えるかもしれません。見比べる楽しみもありますし、再会を喜ぶこともできます。青☆組は活動歴25年(劇団歴は15年)とのことで、創作団体として長く活動しているからこそ実現可能なアニバーサリー公演だと感じました。

ネタバレBOX

東京で教師をしている32歳の女性の元に一通の葉書が届く。差出人は彼女の恩師で、彼女が卒業した小学校の卒業式に出席し来賓として挨拶して欲しい、と書かれていた。その小学校は既に廃校となっているが、葉書から恩師の想いを感じとった女性は、懐かしい故郷へ向かうーー。上演時間は約65分。現在、過去、記憶などが幻想的に彩られ、ラジオドラマらしいオノマトペを多用した、「大人と子どものための寓話」という印象。手触りの良い、優しい表現に感じられ、手のひらに落ちる雪どけのような、繊細で儚い物語に触れることができました。
彼方の島たちの話

彼方の島たちの話

ヌトミック

シアタートラム(東京都)

2025/11/22 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了

実演鑑賞

ヌトミックによる新作音楽劇。会場のシアタートラムは横長に広いブラックボックスが特徴的だが、アクティングスペースに何段かの高低差をつけ、いくつかに分けたようなシンプルな舞台セットがよく映え、スタイリッシュな空間に仕立てられていた。俳優6名に、ギター、ベース、ドラムのスリーピース構成でバンドが加わり、俳優が台詞を喋ることと、バンドが音を奏でることが並列的に取り扱われる演出が印象的。演技パート、演奏パート、それらが重なるパート、が主な構成要素だが、ひとつの作品として統一感があり、見応えがあった。特にバンドが音圧を上げて演奏するシーンに俳優たちの演技が加わった際の「最大瞬間風速」はとても強かったと思う。

ネタバレBOX

海岸から飛び降りた父とその娘。その娘は、同じ海岸で父同様に飛び降りようとしていた女性と出会う。等々。死者や希死念慮、死生観などが物語の中心にある。ただし、私の個人的な解釈としては、「死」よりも「境界」の話のように感じられた。その境界をどう行き来するか?(現実的には行き来できないのだが…)。あるいは、その境界を超えるために、人間の叡智や文化はどう貢献できるか? という。それは、演劇と音楽、演じることと奏でること。その境界について考えることと重なり合う部分があるのかもしれない。
ドニゼッティ/歌劇 『愛の妙薬』

ドニゼッティ/歌劇 『愛の妙薬』

全国共同制作オペラ

東京芸術劇場 コンサートホール(東京都)

2025/11/09 (日) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

複数の劇場や芸術団体などが連携し、単館ではなしえないハイレベルなオペラ作品を新演出で制作する「全国共同制作オペラ」というプロジェクトによる公演。僕は、不勉強ながらオペラの観劇経験が乏しく、とても新鮮な気持ちで観劇しました。言語はイタリア語で、日本語と英語の字幕がつきます。

感想を一言で言うならば「とにかく見所が多い!」という印象。出演者の表情や身体を見て、言葉の意味を知るために字幕を見て、ダンサーや合唱の人たちの様子を見て、オーケストラピットを見て、指揮者を見て、舞台美術を見て、etc…。舞台全体を見ながら細部も見て、そのほとんど全てを楽しみました。オペラなので、視覚以上に刺激されるのは聴覚ですが、言うまでもなく、歌劇として大いに魅了されました。演出がオペラ初演出の杉原邦生さんで、彼は舞台美術家でもあるので、美術へのこだわりが随所に出ており、それが今作の大きな特徴になっています。劇場や国を超えた共同制作の真価を強く感じたオペラ公演でした。本当に見所が多いと感じましたが、個人的に最も「格好いい!」と痺れたのは、指揮者のセバスティアーノ・ロッリさんの所作でした。故に割と長い時間オケピを眺めていたと思います。

人生の中のひとときの瞬間

人生の中のひとときの瞬間

ぱぷりか

ザ・スズナリ(東京都)

2025/11/02 (日) ~ 2025/11/09 (日)公演終了

実演鑑賞

約3年ぶりとなる、ぱぷりかの新作公演。スズナリで観ることも新鮮で、新しい環境に散っていく劇団たちの動向に注目していきたいし、何よりエールを送りたいです。作・演出の福名さんが出産を経へ書き下ろした新作で、物語の中心にも「妊娠・出産」があります。演劇(小劇場)業界で活躍する人々を描いており、作り手の心情が色濃く反映された一作と想像できます。一方で、客観的・多角的な視座も多く取り入れられており、そのバランス感覚が印象的でした。個人的には「四分割されたチャート」のようなイメージで観ていました。

ネタバレBOX

登場人物は4組の、パートナーや家族(そのうち一人はシングルマザーと息子で、息子役は直接的には登場しない)。それぞれが「結婚・妊娠・出産」にそれぞれの心情を抱いており、それらがゆっくりと吐露されていく。ある人物は、自分の演劇活動に主眼を置いており、自身の妊娠に軽い戸惑いを覚えている。ある人物は妊娠を望んでいる。ある人物は結婚も妊娠も望んでいない。等々。そこにそれぞれのパートナーの存在(&意向)が加わり、物語がより立体的に立ち上がっていく。作り手の心情を込めつつ、それぞれの視座も肯定するような、優しく、俯瞰的な物語に好感を覚えました。
オオオ♪オォシゴト!

オオオ♪オォシゴト!

演劇ユニットタイダン

インディペンデントシアターOji(東京都)

2025/10/31 (金) ~ 2025/11/03 (月)公演終了

実演鑑賞

劇中に生演奏を取り入れて、独自の音楽劇を上演する「タイダン」の新作公演。チラシ画像から連想されるような、賑やかで楽しい雰囲気が特徴的です。モチーフが「雑誌の編集部」であり、作・演出家のリアルな労働体験が色濃く反映された一作と言えるでしょう。

ネタバレBOX

「雑誌編集部の繁忙期がとにかく大変である」という前提で物語が進行していくのですが、その前提がどの程度客席と共有されているか?が気になりました。私は雑誌の編集者なので、予備知識なく理解・共感できるのですが、それが客席全体に及んでいるか?は疑問が残ります。雑誌編集部のバタバタした雰囲気と、この団体の持つ賑やかさは親和性が高いため、その意味で良いモチーフだと思うからこそ、もう少し丁寧に説明・解説があっても良いと感じました。奇想天外な物語展開や独自のこだわりは健在で、小さな小道具や設定などもしっかり作り込んでいる点は、この団体らしい魅力のひとつといえるでしょう。
光るまで

光るまで

ほろびて/horobite

浅草九劇(東京都)

2025/10/30 (木) ~ 2025/11/03 (月)公演終了

実演鑑賞

ほろびての新作公演。会場は浅草の九劇。コンパクトにまとめられたシンプルな舞台セットで上演する、夫、妻、義理の母、義理の兄、の4人芝居(モノローグは夫目線で語られる)。妻曰く「母と兄の様子が、私の知っている昔の様子と全く異なる」とのこと。久々に同じ食卓を囲み、ゆっくりとコミュニケーションを重ねる家族たち。しばらくすると、妻は実家での暮らしに順応し始めるのだが……。

ネタバレBOX

細川さんらしい「見立ての演劇」は健在で、小道具や台詞、繰り返されるモチーフなど、各所に見立てが感じられる。それもあり「この要素はどこに繋がっているのだろう?」というパズルのような見方もできるし、観客それぞれが独自の解釈を持つことができる。実際、自分なりの解釈が見つかった時は、物語にブーストがかかったような快感が。終盤に大きなどんでん返しがあり、そのまま終演を迎える展開にも驚いた。

ほろびての作品を何作か観ていて感じるのは、細川さんの一貫性。作品ごとのテイストは異なるものの、創作としての一貫性を感じることができます。それは「横から見ていたものを下から見てみる」のような、物事の見つめ方、視座のようなもので、なるべく多方向から見たい、その上で見えたものを列挙したい、という感性・欲求ではないか…と考えています。
劇場版☆歌え!踊れ!育て!ははごころの庭

劇場版☆歌え!踊れ!育て!ははごころの庭

うたうははごころ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2025/10/25 (土) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「ママさんコーラス演劇」という唯一無二のジャンルをひた走る「うたうははごころ」。団体名がそのまま活動内容の説明になっている点も素晴らしいです。母心を歌う劇団。お子さん連れの方は古着持参で子供分のチケットは無料。古着を持参するとその交換会に参加でき、気に入った服を何着でも持ち帰ることができるとか。古着の輪廻システム。古着のフリマを眺めつつ、紙芝居や似顔絵コーナーなどもあり、勿論しっかり歌うライブパートもあり。母心の歌はユーモアと脱力で魅了し、多くのママパパの心を掴む。生きることと演劇が両輪となり、力強く前進する公演がとても素晴らしかったです。

ネタバレBOX

会場内に相当数のスタッフを常備しており、お子さんたちの様子などをしっかり見守っている体制に感心しました。すべての観客が安心して観劇できる環境づくりを目指しているように見えました。お子さんたちの安心や楽しさを演出しつつ、会場全体に明るい雰囲気が満ちたところで、ママさんコーラス演劇の上演。構成も練られており、おそらく「ベスト盤」的な公演だったと予想しています。
明日を落としても

明日を落としても

兵庫県立芸術文化センター

EX THEATER ROPPONGI(東京都)

2025/10/22 (水) ~ 2025/10/27 (月)公演終了

実演鑑賞

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から30年。そして、兵庫県立芸術文化センターの開館20周年。更に、今作『明日を落としても』。作品自体は多義的であり、解釈も様々だと思うが、私がいち観客として考えることは、やはり震災のこと。阪神・淡路大震災はテレビ中継を恐々としながら見て(子供だったこともあり、とにかく怖かった)、東日本大震災は東京で体験したことでもある。震災前と震災後。そのふたつの時間が、地続きでありながら決して交わらないことを、強く再認識した公演でした。

ネタバレBOX

舞台は阪神・淡路大震災の被災地にある老舗旅館。旅館で働く人々たちの群像劇。若女将の友人の息子(高校生)が旅館に預けられることになり、やりたいことが見つからない若者の更生の物語でもある。生きる目的をようやく見つけた人々が、震災を経て、他界してしまったり、あるいは震災後の人生に暗い影を落としたり、全体的にシリアスで張り詰めた空気が漂う上演だった。受け継がれていくことを意識したラストシーンには、作り手たちの祈りや鎮魂が含まれていると感じた。
暮らしとペニス/音楽とヴァギナ

暮らしとペニス/音楽とヴァギナ

食む派

スタジオ空洞(東京都)

2025/10/23 (木) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

全作ではないものの、これまで「食べ物関連」のモチーフを多く扱ってきた食む派(はむは)の新作公演。観劇前は「かなり大胆にハンドルを切ってきたなぁ」と考えていましたが、実際に観ると、食む派らしさを多く感じることのできた上演でした。はぎわら流のボーイ・ミーツ・ガールも健在。

ネタバレBOX

『暮らしとペニス』は女性による一人芝居、そして『音楽とヴァギナ』は男性による一人芝居、後にこの二人が出会う第3幕がある3部構成。劇中に出てくる性器などは多様な解釈ができ、比喩であり、心象であり、葛藤であり、等々。全編を覆う雰囲気はシリアスで、作り手の問題意識の高さ、常に問いかけ続ける真摯な姿勢が窺い知れる。男女の性差、性行為や性欲、それらを根本とした暴力などを描き、その上でなお葛藤し続ける様子が作品の誠実さを物語ります。全編に孤独感の漂う作品ですが、ラストは夜明けを想起させるシーンで幕を閉じ、一筋の柔らかな光が差し込むような余韻が残りました。
ながいみじか〜い

ながいみじか〜い

キルハトッテ

王子スタジオ1(東京都)

2025/10/09 (木) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

「時間」がテーマの短編3演目を連続上演する企画公演。ナンバリングは「vol.5.5」。劇団員の吉沢菜央が3作全てに出演し、そのうち1作は一人芝居。こういう機会だからこそ、改めて「目を引く俳優さんだなぁ」としみじみ。会場が王子スタジオ1ということもあって、シンプルな舞台セット、シンプルな舞台機構、コンパクトな空間性で上演され、そのことが作品と観客の一体感を生む効果もありました。日常的でありながら非日常な世界観。小劇場らしい上演と言えます。

ネタバレBOX

沢山のアルバイト歴を誇る女性が、新たな入社面接で自身の職歴を語る。他界した愛犬の弔い方を共に考える女子学生たち。等々。私たちの日常に近い世界観だが、そこに想像力・妄想力を注入させ、魅力的な非日常に変換させる。表現として、リアリティとデフォルメのバランスもよく考えられており、好感や共感の抱きやすい上演だと感じます。作・演出を担う山本真生の内面性や物事の見方、こだわり方なども感じられ、過剰な背伸びをすることなく、でも、少しだけ成長した姿を見せようと「つま先立ちをする」ような演劇、この団体が等身大で向き合おうとする表現に魅了されました。余談ですが、愛犬の弔いをモチーフにした『ダックスフンド』を観て、自分の死への恐怖が少し溶けた気がします。
Mary Said What She Said

Mary Said What She Said

Théâtre de la ville de Paris

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2025/10/10 (金) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

今年7月に亡くなられたロバート・ウィルソン演出による今作。16世紀のスコットランド女王、メアリー・スチュアートの処刑前夜を描いている。出演はフランスのイザベル・ユペール。不勉強ながらあまり知識のない私ですら、直感的に「…すごい上演を観た」と感じる公演でした。

ネタバレBOX

舞台セットは極めてシンプル。ほぼ何もありません。光の照射のようなシンプルな照明を巧みに使い、広い舞台に一人で立つイザベル・ユペールに影や光を纏わせます。上演中の大きな特徴は、イザベル・ユペールによる台詞まわし(モノローグ)。音として詩的な響きでありながら、そのシーンでの状況、女王の感情、そして上演中の臨場感などを含んだ表現として、観客の心を惹きつけます。私のイメージでは、落語などの「啖呵」を連想しました。言葉が矢継ぎ早に、かつ流れるように飛び出し、連なり、ひとつの物体のように大きな存在感を示す。そんなイメージを受けました。舞台上の「演劇の構成要素」は最小に絞り、そこから生まれる表現は特異なものとして強く放射される。とても直感的な観劇体験ができたと思います。
三島由紀夫レター教室

三島由紀夫レター教室

AOI Pro.

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/10/07 (火) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

原作は、三島由紀夫が残した異色作として根強い人気を誇る『三島由紀夫レター教室』。登場人物たちが書いた「手紙」で展開する昭和の恋愛小説であり、同時に「三島由紀夫による手紙の書き方講座」の機能を併せ持つ、凝った趣向が特徴的です。この原作を、映像をふんだんに交えた朗読劇として舞台化した今作。5名の登場人物を担うキャストは総勢48名、日替わりで組み合わせが異なり、公演ごとの特色もはっきりしていたと思います(私は俳優回の1ステージのみ観劇)。原作の持つ言葉の美しさ、奥深さが秀逸で、朗読劇として強い個性を発揮していました。

ネタバレBOX

朗読劇に映像を交える演出が予想以上に効果的で、観客へのイメージ共有を支える存在でした。そして何より、上演台本の魅力、三島由紀夫の言葉の魅力が際立つ上演でした。朗読劇におけるメインディッシュは、やはり朗読だと思いますし、そのことを思い出させてくれる一作と言えるでしょう。
劇場の魔法使い

劇場の魔法使い

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2025/10/11 (土) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

「ダンスのある星に生まれて2025」内の演目のひとつ。「劇場が踊り出す!?」というコンセプトにはさすがの一言。自由で柔軟な発想を大事にされる劇場ならでは。劇場の機構や装置をもちいて、音や光と合わせた上演。観劇前は「ダンス公演の、ダンサーが登場しない版(観客が出演ダンサーを想像で補う上演)」と予想していましたが、そうではなく、実際に「物体が動く」ことにこだわりを持った上演と感じました。

ネタバレBOX

僕はついつい「想像力で補えば何でも演劇になる」などと考えてしまうのですが、今作はそうではありませんでした。一本のホウキが登場し、歩いたり、空を飛んだり、様々な表現をします(余談ですが、このホウキが妙に人間らしい存在に思えてくることが不思議でした)。その他、大きな布を用いたり、機材を吊るすバトンをダイナミックに動かしたり、大音量の音楽でシーンを演出したり(大音量が出せることも劇場のひとつの機構ですね)、普段は舞台上で黒子役に徹する「劇場機構」が主役に躍り出た上演でした。時間にして約10分強ですが、観客の脳内にはそれぞれの物語が浮かんだと思います。
クロッシング☆落語

クロッシング☆落語

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2025/10/11 (土) ~ 2025/10/11 (土)公演終了

実演鑑賞

「ダンスのある星に生まれて2025」内の演目のひとつ。タイトル通り「ダンスと落語の交差・交流」と解釈できます。演劇やダンス公演でよく使用される「小ホール」の中央に高座を設け、上方の噺家さんなので見台・膝隠しも用意されています。通常の客席に加えて、桟敷席のような座布団席も用意。会場内にはカラフルな風船が置かれ、お子さんもリラックスして鑑賞できる配慮を感じます。演目は、前座さんは古典落語『平林』を、桂三四郎さんは自作の新作落語『一番のファンでいて』を口演していました。

ネタバレBOX

クロッシングということで言えば、三四郎さんの『一番のファンでいて』がそれに該当します。とあるラジオパーソナリティ(女性)と、天然キャラのパートナー(男性)の二人が登場。日々の失敗談などをおもしろおかしくラジオで紹介することで、その番組は人気を博します。ある日、男性が女性にサプライズを仕掛けようと、フラッシュモブを手配するのだが……。

このフラッシュモブがダンス要素となり、実際にダンサー役の出演者が高座を取り囲みながら踊るなど、新作落語の中に複数回登場します。落語は座った状態での身体表現も豊富なので、そこへ敢えてダンスを導入する方法に着目していましたが、こういう展開は予想しておらず、新鮮に観ることができました。途中でLINE風画面を用いた映像ネタを注入するなど、寄席ではできないことに果敢にチャレンジしている印象を受けました。
佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』

佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2025/10/01 (水) ~ 2025/10/13 (月)公演終了

実演鑑賞

日本とルーマニアの国際共同製作による、日本人俳優・佐々木蔵之介の一人芝居。演出を担うシルヴィウ・プルカレーテとのタッグは、2017年、2022年に続き三度目とのこと。モチーフ、原作、演出、舞台美術などはルーマニアサイド、出演者は佐々木蔵之介含めて日本サイド、と捉えることができ、その共同創作、相乗効果などが作品の個性へ強く影響しています。物語を理解したい方は、可能な限り事前に下調べしておくことをおすすめします。逆に、舞台上で起きていることを直感的に受け止めたい方は、予習なしで観るのも良いかもしれません。

ネタバレBOX

物語は、旧約聖書に登場する、漁師であり預言者の「ヨナ」がクジラに飲み込まれた逸話を土台に創作されています。その背景にはルーマニア文化史なども敷かれ、かなり多層的な視点から描かれている一作と言えるでしょう。僕自身は資料を読み、全体の輪郭を掴みましたが、知識の乏しい僕にどこまで正確に読み解けたかは、あまり自信がありません。開演10分前までロビーで待機し、多くの観客がなだれ込むように劇場内へ入ると、ステージ上には出演者の佐々木蔵之介の姿が。物語自体が「クジラに飲み込まれた」設定なので、ここはクジラの体内と想像できます。そこから一枚ずつ脱皮するように世界が変わっていき、終盤近くになると一際大きく世界が変わるため、そういう新鮮な驚きも。また、一人芝居なので、舞台俳優・佐々木蔵之介の存在感、佇まいと言った、「舞台俳優の生き様」を直視できる点も魅力だと感じました。
誠實浴池 せいじつよくじょう

誠實浴池 せいじつよくじょう

庭劇団ペニノ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2025/10/03 (金) ~ 2025/10/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

庭劇団ペニノと、台湾の団体「Shakespeare's Wild Sisters Group」による合同公演。初演は2024年に台湾にて、今年2025年に豊岡、富山、そして東京とツアーを行ってきました。タイトルを日本語で表記するのなら『誠実浴場』でしょう。浴場又は欲情。あるいは浴場で欲情。かもしれません。ホームページには、「夜毎、大衆浴場に戦死した男たちがやってきて、残してきた女を想い〈プレイ=演劇〉する─。」との記載があり、これも的確なコピーだと感じます。スタッフクレジットを見ると、その大部分が台湾の方々。にも関わらず、僕の記憶にあるペニノの様相や世界観を強く想起させられたことが驚きでした。平たく言えば「すごくペニノっぽい」と感じつつ、合同創作であることは間違いないため、とても相性の良い二団体による合同公演だと思います。

ネタバレBOX

当日パンフに記載されたタニノさんのコメントに「海で戦死した兵士たち専用のSMクラブ」という言葉があり、それに深く納得。戦死した兵士たち専用なので、風俗店を訪れるのは、いわゆる「魂」のような存在。その魂が、現世に残してきた後悔や戦死した状況などを語り、それらと向き合うようなイメージプレイ(=
演劇)を行う。演劇そのものと言える内容でもあり、呪術的、儀式的と捉えることもできます。一般的に語られる「泣ける演目」とは異なるのかもしれませんが、個人的にはすごく泣ける上演だと感じました。ラストへ向かう展開も、魂の浄化や平穏を連想させるもので、心に迫るものがありました。にも関わらず、見た目がユーモラスであることも、ペニノらしい魅力と言えます。
ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス

ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス

公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/10/03 (金) ~ 2025/10/13 (月)公演終了

実演鑑賞

2025年の MITAKA“Next”Selection 26th における2演目は「東京にこにこちゃん」の新作。某国民的アニメを彷彿とさせるアテレコ現場を舞台に、その創成期から成長、成熟期までの数十年を描いている。笑いを得意とする団体なので、笑いのシーンが多めだが、個性豊かな声優たち(登場人物)の内面的葛藤やバックグラウンドなども描いており、人間ドラマの一面も。

ネタバレBOX

序盤15分程はギャグのラッシュが矢継ぎ早に起こり、かなりハイテンポな空気に。ここで乗り遅れてしまうと終盤程度まで前のめりに観劇できない可能性もあり、観客によって評価が分かれそう。僕が観劇した回は序盤から笑っている人が多い印象でした。ただし、好き嫌いが分かれる笑いというより、コント的なボケ・ツッコミのレベルは高いと感じます。特にツッコミはひねりの効いた秀逸なものが多め(という印象)。中盤から徐々に登場人物たちの内面が見え始め、それぞれが葛藤を抱えていることが分かってきます。そして、そのアニメが国民的長寿番組へと成長を続けるなか、初期メンバーの声優たちが、ひとり、またひとりと、様々な理由で降板していき、物語は終盤へ向かうことに。

笑いに特徴のある団体なので、やはり作・演出の手腕に注目が集まりますが、それに加えて、今作の大きな魅力は出演俳優たちが支えていると言えます。的確な間や抑揚でボケ・ツッコミの役割をこなす俳優たち。そして、笑いにかき消されない人間味を上品に滲ませる俳優たち。俳優たちの力量や存在感が、作品世界の構築に大きく貢献していると感じました。

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