遠くから見ていたのに見えない。2
モモンガ・コンプレックス
吉祥寺シアター(東京都)
2026/06/26 (金) ~ 2026/06/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2017年初演の演目を、異なる劇場で同じテーマに挑んだ一作。初演は横浜だったそうで、今回は吉祥寺。会場に入ると、空間の中央に大きな舞台美術がありました。おそらく厚紙のような素材でできているそれは、天井から吊ってあり、テントのような、オブジェのような状態で、そこにありました。その四方を囲むように客席が設置され、観客は座る席を選ぶことができます。四方にはそれぞれ趣向の異なるエリアがあり、上演中にお喋りをしても良いエリアや、字幕モニターやダンス実況が聞こえるエリアなどがありました。
中央の美術に視界を遮られているが、その向こう側では笑い声が起こるなど、どの席に座るか?で作品の見え方が変わってきます。それは、どのエリアに座っても同じで、字幕モニターやダンス実況を通じて作品と触れ合う人たち、感想をささやきながら作品と触れ合う親子など、多様な鑑賞スタイルがひとつの劇空間をシェアする形に。その様子を間近で体験でき、そのこと自体が感動的、かつ刺激的でした。
ネタバレBOX
モモコンは自らを「ダンス・パフォーマンス的グループ」と自己紹介していて、元々パフォーマンス要素多めの作風ですが、今作はそれを強く感じます。ただ、丁寧に紐解くと、「あの振りにはこういう背景があって…」という分析も可能だそうで、本作がダンス公演であることははっきりしています。ユーモアを含む表現が多く、女性ダンサーたちの華やかさ、衣装のかわいらしさも相まって、観客が受け取りやすい内容になっていると感じました。そして、これは偶然の産物ですが、僕の真正面の席に盲導犬と一緒に来場された方がいて、その盲導犬が客席で大人しくしている様子にとても感動しました。僕は内心「たまにはパフォーマンスに視線を送っても良いんだよ!?」と思っていましたが、これは僕が盲導犬の訓練に不勉強なだけかもしれません。ですが、ごくたまに、ハッとした表情でステージ中央に目線を送る瞬間もあり(身体は勿論動きません)、その表情があまりにも良くて、感動のあまり泣きそうになる自分がいました。
ある港
some ports
SCOOL(東京都)
2026/06/26 (金) ~ 2026/06/28 (日)公演終了
実演鑑賞
公演資料によると、2018年まで演劇ユニット「mimimal」の代表として活動していたミミマルが、新たに発足した演劇団体の旗揚げ公演、とのこと。団体のコンセプト、旗揚げ作品のあらすじなどを読む限り、しっかり準備され、練り込まれた内容に感じられます。ある意味でリスタートのような公演だと思いますし、作り手側も意気揚々と試行錯誤をしている(←変な日本語ですが、そう感じました)印象を受けました。
ネタバレBOX
多少の小道具・ビニール、シート、ペットボトルなど、日常的な物品を活用した舞台美術・映像、などなど、比較的身近なもので構成され、作品世界と観客の距離感を意識した劇空間に感じられました。物語は、具体と抽象を往来しながら進み、難解に寄ろうとするタイミングで現代的なアイテムを用いて「身近」へ手繰り寄せるなど、各所に工夫がありました。それから、キャストの出力具合というか、観客にとって受け取りやすい出力・表現を心掛けていたように感じられ、その点も興味深かったです。
シャープさんフラットさん
キューブ
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2026/06/19 (金) ~ 2026/07/05 (日)上演中
実演鑑賞
満足度★★★★★
初演は2008年。ナイロン100℃の15周年公演として、ブラック・ホワイトの2チームに分け、更に台本も書き分けて上演されました。今回はふたつの上演台本をミックスした「ハイブリッド版」とも言えます。
元々すごく好きな一作ですが、18年ぶりに観て、忘れていたシーンが多かったことも事実(すみません)。また、初演の出演者の「影」が見えず、今回のキャスト陣による良さや、初演とは異なる空気感が感じられたことも印象に残りました。
ネタバレBOX
サナトリウムに集う人々による群像劇。なのですが。時代がバブル後期で、高額な保養所としての機能も兼ねている、という設定。つまり、比較的元気な人と、病気治療中の人が混在する場所。登場人物たちの多くはそれぞれの闇や背景を抱えており、劇中でさらりと語られる真実ひとつひとつに重みがある。コメディ作としての「笑い」と、人間ドラマとしての「切実さ」。その両面が際立つ作品に感じられました。何より、主人公の劇作家の苦悩が、その立場であれば直面するであろうリアルな感情として描かれており、その印象が強く残りました。
タイトルには「世の中の動きや価値観と折り合いのつかない人」という意味が込められています。社会の分断が進み、その間をSNSが埋めようとして逆に溝が深まる……という今日において、よりリアルに受け止められるテーマだと思います。
塔の上の
くによし組
スタジオ「HIKARI」(神奈川県)
2026/06/18 (木) ~ 2026/06/21 (日)公演終了
実演鑑賞
公演チラシなどから「寓話的な作品?」と思いつつ観劇しました。とある田舎町にある正体不明の高い塔と、その塔に住む謎の人物、そして、田舎町に住む人々にまつわる、少し可笑しくて、少し不思議な物語。中盤から、観客に「…おや?」と思わせるトリッキーな台詞やシーンが含まれ、終盤にそれらを伏線回収する展開。こういう過剰すぎない工夫や見せ方から、國吉さんの演劇創作経験の豊富さを感じます。大小の劇場、劇団公演、外部公演への参加など、様々な作品で作・演出を手掛ける國吉さんらしい一作でした。
ネタバレBOX
劇中の台詞や俳優たちの演技体は、寓話や絵本のような可愛らしさがあります。時代設定は(おそらく)現代のため、そこへUber EATSなどが交差する、リアルとファンシーが混ざったくによし組独特の世界観と言えるかもしれません。高い塔に住む人物は長髪の白髪を下界?へ垂らしており、その白髪の近くで人々は暮らしています。父親が亡くなり、久しぶりに実家へ戻ってきた美大生の青年は、卒業制作と称して、その塔の絵を描き続け、青年を慕う人々が彼のもとへやってきます。日常的であり、かつちょっと不思議な会話を交わしつつ、塔に住む人物の謎、街の人々の近況、青年の恋物語など、劇全体が少しずつ描かれていきます。
終盤に、劇中で感じた違和感が伏線回収され、人間の悲喜や人生の残酷さを感じさせる物語として終演。全編通してキャッチーな雰囲気をまとっており、観客の観やすさを伴う上演だと思います。その上で、「人生のうまくいかなさ」のような、切実な物語でもある。このあたりに、國吉さんの筆の力・魅力を感じる公演でした。
どっか行け!クソたいぎい我が人生
ぱぷりか
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
50代目前の母、大学生の娘、母の弟、弟の妻、母の職場の同僚、の出演者5名で紡がれる会話劇。劇中で用いられる方言は広島弁だそうです。母娘の関係性が物語の大半を占め、とりわけ母の心の闇や独善的な行動が色濃く描かれる。シングルマザーである母、一人娘である娘の共依存……と書けばその通りなのだが、そのこと以上に、現代的なモンスター性をここぞとばかりに発散する母親の狂気が強く印象に残った。戯画的な狂気でも、非日常的な狂気でもなく、マンションの上の階から響く怒号のような、現代人の日常の、すぐそばに潜んでいる狂気のように思えた。
ネタバレBOX
個人的な感想としては、あの狂気とリアリティが剥離せず、観客にとって「対岸の火事」にならない見せ方がすごいと思う。素直に母親が怖かった。それは戯曲や演出、そしてもちろん俳優が、効果的に機能していることに他ならない。過干渉すぎる母親と、自由を求めつつも、それを辛抱強く受け止める娘。どちらに感情移入しても息苦しい観劇体験になるだろうし、それも今作の特徴のひとつだと捉えています。
THE GAME OF POLYAMORY LIFE
趣向
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了
実演鑑賞
合意のもとで複数のパートナーと深く親密な恋愛関係を築くライフスタイル「ポリアモリー」をモチーフにした一作。初演は2016年とのことで、10年振りの再演になります。僕は初見でした。10年前の客席の反応と、現在の客席の反応に差異があるのか? など、一定時間を置いて上演することに意味がある戯曲だと思います。もし2036年に上演したら……という未来も気になりつつ。
観客各々が、この「ポリアモリー」という概念とどう向き合うか? という、自身への問いかけ、あるいは自身への問題提起に終始してしまうと、やや勿体ない作品に感じました。僕自身も、ついそれについて考えてしまうのですが、上演を観る限り、ポリアモリーはあくまでモチーフであり、本質は「人間は他者とどう親愛を分け合うか?」という、コミュニケーションの根源を見つめる一作に感じられました。
ネタバレBOX
劇中で描かれるポリアモリーというライフスタイルを見ていると、とても自然に感じられ、概念としても自然と受け入れられる感覚がありました。それに対する賛否の発想よりも、情報や登場人物たちの感情をスッと受け入れて、人物相関や物語を追いかけている自分がいました。これは、脚本や演出の整理の仕方が巧みだったことや、俳優たちの演技体などが背景にあると思います。観劇前は「難解な物語なのかな…?」と想像していましたが、想像以上に飲み込みやすい物語でした。一方で、「私とあなたの本音を交わして、できれば分かり合いたいです」という、できる限り心を開き、極力嘘を無くしたコミュニケーションの物語なので、ある種の討論劇のような、演劇上演の「型」として、やや単調な一面もあるように思いました。
また、これは余談ですが、どこかで「ハイヤーセルフ」(高次元に存在するもう一人の自分)という概念を知りまして、観劇しながら、それを思い出したりしていました。
A Perfect Family
果報プロデュース
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2026/05/20 (水) ~ 2026/05/24 (日)公演終了
実演鑑賞
俳優の山本沙羅さんによるユニット「果報プロデュース」の第三弾公演。これまでの二回は既成台本(おそらく山本さんが思い入れのある作品)を上演していましたが、今回はユニット発信となる新作台本の上演でした。観劇後にSNS等で他の方の感想を読みましたが、とにかく観た方の話を聞きたくなる一作でした。
ネタバレBOX
個人的にすごく印象的だったのは舞台美術。客席に座り開演を待っている時間はそこまで気にならなかったのですが、いざ上演が始まると、どんどん舞台美術が気になっていきました。場面は、オフィス、東京の街頭、広島の実家、程度の設定ですが、それらの情景を全て包み込むような、スケールの大きな舞台美術に感じました。隕石の飛来を模したもの?、ビル、漁港、仏壇、などなど、具体と抽象がうまく混ざり合い、作品世界を支えていたと感じます。小劇場であまり観たことのないアプローチだったので、この舞台美術がとても印象に残っています。
物語は、祖母、母、娘、の三代に渡る、ある種のディスコミュニケーション、時代背景などによる価値観の相違やすれ違いを描いています。家族メインの群像劇によくみられる物語性とも言えますが、もうひとつの大きなテーマとして「アロマンティック・アセクシャル(他者に対して恋愛感情を抱かず、性的にも惹かれない人)」が取り上げられています。そして、不理解、偏見、差別発言などが含まれた、ショッキングなシーンが多くありました(勿論それらを助長する意図で作られたシーンではありません。物語の流れとして、そういうシーンがあり、その後登場人物たちは真摯に対話をすることになります)。この辺りが「他の人の感想を聞きたい」要因になります。
これは僕の個人的な感想になりますが……。僕は、詳しくないこと、あまり理解できていないことを演劇で知ることが好きで、それが演劇の魅力のひとつだと捉えています。今回で言うと、アロマンティック・アセクシャルに関する知識は乏しく、その概念を知っている程度の知識でした。ですので、今作で知りたい、学びたいと感じたのは、その観点になります。そこがあまり伝わってこなかったのが、やや残念に感じました(←僕の理解力の低さが要因でもあります)。おそらく、作り手たちの意図も、マイノリティへの偏見撲滅や差別根絶にあると感じる作風でしたので、尚更、この問題提起の難しさ、繊細さを強く感じました。
ずっしりとした重さを感じたことは事実です。ただ、作り手も観客も、更なる学びが必要なのだと痛感しました。強い自戒を込めて。
居場所・ドラマの基礎と応用(2プログラム)
中野成樹+フランケンズ
シアター711(東京都)
2026/05/19 (火) ~ 2026/05/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ナカフラによる演劇作品集。様々な短編〜中編を複数集め、2プログラムにパッケージされている。近年のナカフラ公演によく見られる形式で、僕の中では音楽ライブの「セットリスト」のように捉えています。多彩なレパートリーと多様な活動経験を誇るナカフラならではのスタイルと言えるかも。
今回は、公募した「1分間の戯曲」で構成された『ランダム1・2』や、1947年に執筆された秋元松代のデビュー作『軽塵』、ナカフラの代名詞とも言える「誤意訳」としてテネシー・ウィリアムズの短編2作が上演された。
ネタバレBOX
2プログラムを観劇して思うのは、テーマの「居場所」が全体隅々まで行き届いているなぁ……という実感でした。テネシー・ウィリアムズの短編がこのテーマに直結するのは勿論のこと、秋元松代の『軽塵』も、公募を経て採用された1分間戯曲も、このテーマの上に立っている、と強く感じます。1分間戯曲は「その断片をお楽しみください」とアナウンスされ、前後の物語から独立し、自立した戯曲として、まさに「居場所を求めて彷徨い、ここに辿り着いた」物語のように思えた。
『ランダム』は、形式的にはショートコントのような形になるが、笑いの要素は薄め、あるいは抑えめで、余韻が長めに残るストーリーに感じられた。『軽塵』は、強い問題意識を持って執筆されたことがよく伝わる、論理的かつ俯瞰視のしっかりした戯曲。1947年なので、まだ戦後の混乱期と言える時代に、戦争をモチーフにしつつ、私たちはどう生きるか? どう暮らしていくべきか? という自立や自尊について言及していることに驚いた。テネシー・ウィリアムズ原作の2本は、どちらも現代の設定。現代的なリアルと、そのねじれのような歪みが混ざり合う、複雑かつ、私たちがいま直面している「現在」を観ているよう。2作とも、キレッキレの台詞、極上の見立て表現、現代的キャッチーさ、的確な演技体が混在する、至福のナカフラ体験。
ナカフラ公演として新鮮に感じたのは、2プログラムとも終盤を締めくくった身体表現。ダンスで締めるナカフラは、おそらく初めて観たかも。元々「語らないシーン」で魅せることに長けた団体なので、作風との相性は良いと思います。振付は Von・no ズ。
「居場所」というテーマは、社会問題のひとつではあるし、積極的に取り上げるべきものだと思います。けれども、小劇場作品では、意外にも上演例が少ないかも…と、今回改めて感じました。(←あくまで僕の経験上の感想です)。そんな中、ナカフラは過去公演を含めて、居場所をテーマにした上演が多いように感じます。『軽塵』が執筆された時代から現代まで、あるいは日本のみにとどまらず、人間が生まれ、育ち、生き続ける環境において、居場所は大きなテーマなのだと改めて考えました。
裏緑特技悲喜話(うらみどりとくぎひきばなし)
爍綽と
浅草九劇(東京都)
2026/05/20 (水) ~ 2026/05/24 (日)公演終了
実演鑑賞
俳優・佐久間麻由さんの団体「爍綽と」の第3回公演。外部から作・演出家を招聘するスタイルで、今回はTHE ROB CARLTONの村角太洋さんが作・演出を担います。キャスティングやアフタートークゲストなどから察するに、演劇ファンとお笑いファンを上手に融合させたい、という意図を感じます。実際、客席の反応も上々で、舞台上と客席による良い相乗効果が起きている印象でした。
ネタバレBOX
観劇後にタイトルを見直すと、「……なるほどねぇ」と思える展開で、創作過程から丁寧に計算された一作であることが窺い知れます。物語前半は、ドアからの出入りを多用したシチュエーションコメディに近い印象でしたが、後半は、生っぽいドタバタをより活かした、ライブ感強めの笑いが印象的でした。「一粒で二度美味しい」的なコメディだと思います。
かいころく
安住の地
WAKABACHO WHARF 若葉町ウォーフ(神奈川県)
2026/05/14 (木) ~ 2026/05/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
蚕(かいこ)にまつわるお話を同時上演する企画公演。2026年現在でレパートリーが三作あり、この先演目が増える可能性もありそう。当パンによると「元養蚕農家で上演する作品」を依頼されたことがきっかけだとか。これらの演目を養蚕と縁のある土地で上演するとか、想像しただけで激アツだなぁ。
上演前に作・演出の私道かぴさんによる「蚕に関する前説」があり、これも良かった。私道さんが「蚕にあまり馴染みのない方もいらっしゃると思うので、少し解説を」と仰っていたが、上演作品と観客の間に、こういう丁寧なコミュニケーションを挟んでくれるのはとても有難い。
ネタバレBOX
僕が観劇した日は、創作した順番に観劇できた。蚕や養蚕そのものにスポットが当たる(ように見えた)『養蚕農家編』、製糸業が盛んになり、女性の働き方や工場労働を描いた『工女編』、そして、蚕の飼育や品種改良をモチーフに、市井の人々の楽ではない暮らしぶりや、その生き方、命の問題を描く『蚕種編』。この順番で観ると、「蚕」を起点とした作り手たちの興味や問題意識が、徐々に拡張・発展していることがよく分かる。また全ての作品で、人間と、その営みを描いており、産業の歴史を俯瞰視したようなドライな作品ではない。
2月に上演された前作『よそほひ』もそうでしたが、出演者1〜2人の少人数体制での創作&上演が、作品そのものを形作っている点も興味深い。一人の俳優が何役もこなし、落語のように掛け合うシーンなども、この団体や作品の特徴でもあり、この形式の必然でもある。3都市ツアーを行うことも含めて、細部までよく計算&配慮された創作だと感じます。
……などと考えていて、ふと会場内の床に目をやると、モチーフの根幹とも言える繭が床上に散らばっている。もちろん意図的に配置されているのですが、ここは妙な「雑さ」を感じ、こういう全体バランスも魅力のひとつと感じました。
優しい劇団の大恋愛 Volume10『夕焼け色のダイダラボッチ』
優しい劇団
吉祥寺シアター(東京都)
2026/05/09 (土) ~ 2026/05/09 (土)公演終了
実演鑑賞
名古屋が活動拠点の団体で、僕は初見でした。この「大恋愛」シリーズは、事前に出演者へ台本を郵送し、個別稽古を重ねてもらった上で、上演当日の朝から、顔合わせ、稽古、本番、撤収を一日で行う企画だそうです。実質的な拘束日は一日になるのかな…? 小劇場で演劇公演を主催するハードルが徐々に高まりつつある昨今、実現可能かつ持続可能なフォーマットや企画性を模索する姿勢には共感できます。実際に色々な劇団・演劇人が、それぞれの特徴を活かすやり方を模索しているなか、優しい劇団が選んだ選択肢が「この企画」だったのでは。過去には河川敷で上演したこともあるそうで、コロナの影響でしょうけれど、もしこの企画を河川敷で観たら全く違う印象になりそうだなぁ……と想像。
ネタバレBOX
主に東京で活動する舞台俳優を中心に、優しい劇団の劇団員も出演する座組。単純に動員への期待もあるでしょうし、珍しい組み合わせを観られる希少性への期待もあるでしょう。個人的によく知る出演者も多く、その意味でのお得感は確かにありました。一方で、この企画性の器の限界も割とすぐ可視化できてしまうため、そこは諸刃の剣でもあります。上演全体にうっすらと漂う「内輪感」も少し気になりました。ただし、意図的に特殊なスタイルを選択した企画公演なので、その意図は汲みたいし、その意味でも、この公演だけでは判断できないなぁ…と思いました。
牧神の午後 Version.1
東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2026/05/04 (月) ~ 2026/05/05 (火)公演終了
実演鑑賞
特徴がはっきりしているのに、どこか不思議な感覚に陥る。そんな二律背反に似た感想を抱きました。スーパーやコンビニなどのレジ袋にハサミを入れて形を作り、人形のようなものを作ります。次に、円状に並べた数台の扇風機(送風機)で上昇気流を作り、レジ袋人形を空中に舞わせます。人間、あるいは妖精のように見えるたくさんのレジ袋人形たちが舞う様子を、観客たちがじっと見守る……という流れ。フォルムが人型なこともあり、気流になびくレジ袋人形たちがそれぞれ個別の動きをするので、その様子には命の存在を感じます。個人的に興味深かったのは、その様子を「人間が、自身より小さい生物を観察する」のか、「人間より大きな生物が、人間を観察する」のか、その見方で印象が大きく異なるのでは?という点。どう見えたか?はまさに観客次第なので、感想の幅も広いでしょう。環境を整えさえすれば再現性は高いのに、逆に環境を整えないと絶対に再現できないという意味でも、ひとときの幻想のような不思議な体験ができました。
ファソラシどすこい!タコどすこい!
東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2026/05/04 (月) ~ 2026/05/05 (火)公演終了
実演鑑賞
企画コンセプトに惹かれて、関心を持ちました。観劇前は「相撲甚句に寄っているのかな?」と想像しましたが、そんなこともなく、声楽や合唱など、色々な文化がミックスされ、かつ大人と子どもが一緒に楽しめる「音楽と相撲のイベント」になっていたと思います。特に「お子さんに飽きさせない」工夫は随所に見られ、そういう点も好印象でした。GW、そしてこどもの日の上演なので、来場したお子さんたちが、休み明けの学校で友達や先生にどんな話をするのだろう?と想像すると、ちょっと可笑しい。「劇場で四股を踏みました」とか言うのかな…?
『サボテンの微笑み』
キューブ
シアタートラム(東京都)
2026/03/29 (日) ~ 2026/04/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
登場人物7名が織りなす、静かで、情感豊かな、群像会話劇。ある兄妹を軸に、決して広いとは言えないささやかな人間相関が描かれ、人々の心の機微が丁寧に紡がれていく。上演時間は途中休憩を含む3時間強。派手さで魅せる物語ではないが、全く飽きることなく前のめりで観劇できた。
ネタバレBOX
とある兄妹と、その父親(の幽霊)。兄が密かに慕う女性と、兄の友人で妹が密かに慕う男性。女性の元夫。そして、兄妹と同じ町内の花屋の店員。登場人物はこの7名のみ。この人物たちの日常と、兄妹の淡い恋模様、そして、人物同士の心の機微が描かれていく。兄と妹は共に内向的な性格で、他者とのコミュニケーションが得意ではない。亡くなった父親は兄妹に莫大な遺産を残したが、幽霊となった今でも兄妹たちに干渉する。物語の核となる兄妹の恋模様は、上り調子に見えて、中盤から別の様相を見せ始める……。特別大きな出来事は起こらず、人と人が静かに向き合い、言葉を交わし、ゆっくりと時が流れる。台詞で語られる心情と、台詞で語られない心情、その双方が観客へしっかり届く一作でした。
出演俳優は皆さん魅力的で、独特の色気を持つ人たちばかり。特に緒川たまきさんは、ケムリ研究室の過去公演で演じてきたどのキャラクターとも異なる女性像を演じ、その引き出しの多さに驚かされます。早くも次回公演が楽しみになる、団体も、作品も、共に充実の公演だと感じました。
粛々と運針
iaku
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2026/04/09 (木) ~ 2026/04/19 (日)公演終了
実演鑑賞
劇場内に入り、最初に目に飛び込んできたのは、銀色の巨大な輪が吊られた舞台美術でした。初演は新宿眼科画廊とのことで、空間性を考慮すると、舞台美術は全く別物でしょう。これは、今回の舞台美術で観劇した後だから感じたことですが、舞台美術がここまで大きく変わると、観客の観劇体験は全く変わってきます。無駄のないシンプルな舞台美術が作品の魅力に大きく貢献していました。
ネタバレBOX
その巨大な輪の後方には階段がふたつあり、舞台を見下ろすような高い位置に座った白い衣装を着た二人の登場人物が縫い物をしています。ワイヤーが降りてきて、巨大な輪が斜めに傾いた状態になると、別の登場人物が二人出てきて、会話が始まります。巨大な輪の内側はどこかの家で、後方の階段とは別空間のようです。
物語は、序盤から中盤程度まで、とある夫婦、とある兄弟、の二組の会話で進んでいきます。夫婦は「妊娠したかもしれない新しい命を、産むか、産まないか」について。兄弟は「癌で入院中の高齢母親の延命」について、そして「母親に見せてあげたい孫の顔(=新しい命)」について、議論を続けます。中盤以降は、後方にいる二人も会話をします。この白い衣装の二人が、兄弟の母親であり、宿った新しい命を象徴する存在であることが、徐々に分かってきます。二人の会話劇が三組、それらが入り組んで構成された立体的な会話劇、という捉え方で観ました。
夫婦と兄弟は、基本的に相対する意見を持っており、その議論が会話の中心。それは「すれ違う」というより、根本的に思想や立場が異なる議論であり、着地点を見つけるのはかなり困難な状況。それでも、何とか着地点を見つけようと対話は続くーー。
全体の構成、会話の展開、俳優の存在感、そして舞台美術などが組み合わさった、演劇としての総合力は高いと感じます。個人的にはそれだけで十分見応えがありました。ただし、劇中で描かれる「命に関する価値観」が自身と合わず、あまり観劇に集中できなかった観客もいらっしゃるかもしれません。ですが、僕個人が作品から感じたことは、価値や倫理の提示、あるいは、価値や倫理の正解を描くことではなく、話し合いの場そのものを描く、その場を提供しようとする「試み」でした。
I Want To Hold Your Hand
ROCKSTAR有限会社
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2026/04/11 (土) ~ 2026/04/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
コンドルズ × ハンドルズ による合同コラボ公演も今年で3回目。僕は全3回観ていて、毎年良い刺激をもらっています。障がい者&健常者がひとつのステージで舞い、それをある程度客観的に見た時に、普通に違和感を感じないことが、とてもコンドルズらしい。車椅子の方もいるし、それぞれ不自由な箇所も異なるので、身体の動きは不揃いですが、それがまるで気にならず、妙な統一感やまとまりがあるのです。そこには「支援活動」のような雰囲気はなく、ダンス公演としてのダイナミズムや情熱が渦巻いていました。近藤良平やコンドルズメンバーだからこそ、これだけ垣根のないフラットなステージが創れるのだろうなぁと思うと、本当に、奇跡のような出会い・組み合わせと言えるでしょう。コンドルズの「人を巻き込む力」に魅了された公演でした。
The Closet Revue
EPOCH MAN〈エポックマン〉
ザ・スズナリ(東京都)
2026/04/04 (土) ~ 2026/05/04 (月)公演終了
実演鑑賞
下北沢のスズナリで一ヶ月のロングラン公演。観劇前は単純に「凄いなぁ」と思っていましたが、観劇後には、小沢さんの覚悟、そして強い思い、それらの現れのように感じました。ロングラン公演を行うことで、じわじわと口コミが広がっていき、テーマに共感する人が観に行ったり、逆に共感できない人が観に行くこともあるでしょう。より多くの人へ、より多様な人へ、作品を届けたいという強い思いがあるからこそ、スズナリでのロングランだと、想像しました。
ネタバレBOX
舞台美術で特徴的なのは、中央位置にある円形状の小さなステージ。タイトルに「revue」が含まれるので、ショー上演のためのステージと捉えられます。その周囲に同じく円形状にワイヤーが吊られ、カーテンのような状態になっています。そのワイヤーに様々な衣装が吊られており、シーン状況によってそれらを用いながら物語が進んで行きます。
テーマは、性自認や性的嗜好に関するカミングアウト。子どもの頃からその不確かさを実感する登場人物が、いじめや自認について悩み、揺らぎ、紆余曲折しながら、自身の心と向き合っていく。社会の中で生きづらさを強く実感し、辿り着いた場所が「秘密を告白できる場所」の The Closet Revue だった。
同じ苦悩や葛藤を持つ者が集い、胸の内を告白できる場所を描いた物語なので、明るいレビューシーンやユーモアを感じ取れるシーンもあるものの、全編を通して見ると、内容は非常にシリアス。後半からラストシーンにかけて、自分たちの生き方やカミングアウトについてなど、真剣な問答や独白がある。その真面目な姿勢、真面目な演出が、真っ直ぐかつ力強い。そして、それらのシーンを、作・演出・出演の小沢さんは、役柄上の「傍観者」として見守り続ける。客席から見ていると、舞台中央に登場人物たち、そこから少し後ろに(役柄としてそこにいる)小沢さん、という構図が、とても印象的でした。祈り、そして慈愛の眼差しを向ける傍観者のように感じました。
GOTTANI!!2026
CHAiroiPLIN
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2026/04/04 (土) ~ 2026/04/05 (日)公演終了
実演鑑賞
2025年11月にニューヨークで上演された、踊る小説『橋づくし~The Seven Bridges~』(作・三島由紀夫)の凱旋上演、そして新作となる、踊る詩集『こだまでしょうか』(作・金子みすゞ)の二本立て。力強い群舞シーンが印象的なカンパニーですが、この二作はどちらも10名以下のダンサーで構成され、身体性や人間性により重きを置いたように感じられました。
ネタバレBOX
個人的に印象深いのは『こだまでしょうか』。詩集がダンス作品になる新鮮な驚きもありますし、頭の中で、文字そのものが踊り手に変換されたイメージも浮かびました。創作の幅の広がりを感じますし、ストイックな創作姿勢も健在。ダンスカンパニー として、他に替えの効かない存在だと改めて思います。
日米交流「異文化ダンス記憶の出会い」
セッションハウス
神楽坂セッションハウス(東京都)
2026/03/28 (土) ~ 2026/03/29 (日)公演終了
映像鑑賞
セッションハウスによる、異文化交流・共生プログラム「ダンスブリッジ」シリーズの最新作。今回は配信映像で拝見しました。マドモアゼル・シネマ、近藤良平、米国のダンスカンパニー 「サンディエゴダンスシアター」による3演目。三者三様の差異も興味深いけれど、物語性を重視した表現、という意味ではひと繋がりの印象もあり、統一感があるように感じられました。
ネタバレBOX
上演内容とは直接関係のない余談かもしれませんが、「初見であり、おそらく一度しか観られない」団体や演目、そして、「何度も観ているし、今後も観る機会がある」団体や演目では、主観的な見方が変わってくるなぁ…と考えました。比較対象がある、ないという話でもあるし、その一期一会の演目と向き合う際の、観客の覚悟や集中力の話でもあります。「一度きり」だと、どうしても派手さや見易さに影響を受けがちですが、サンディエゴダンスカンパニーの上演は、もっと骨太な、本質的な表現に感じられました。
天照と倭姫命
人間の条件
高田馬場ラビネスト(東京都)
2026/04/01 (水) ~ 2026/04/07 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
この団体が事前に提示してくれる公演コンセプトやあらすじなどは、とても丁寧で、かつ観劇の参考になるので、興味のある方は公演概要をご覧ください。公演チラシには「本作で挑むのは、神道を切り口とした、日本人のアイデンティティの再定義」とあります。これだけ読むと難解な印象が残りますが、実際の上演には、観客への配慮と見易さへの工夫が多く見受けられます。特に、シーンの意図と表現方法の因果関係が明確で、「いま何が表現されているか?」を想像しやすく、自分の意思で思考を巡らせることの多い、価値のある観劇体験ができました。
ネタバレBOX
舞台構造や演出などに能へのリスペクトを感じ取ることができます。モチーフとの相性もあり、その試みは上手く機能していると感じられました。物語はある種ロードムービー(移動する物語)的な側面があり、天照大神を祀る土地を探す旅に出て、その先々で様々な登場人物たちと出会います。彼らは土地それぞれの神々を信仰しており、天照や大和の国に対して抱く感情も様々。人々がその土地で生きること、そして、その信仰や生活が略奪されたり、服従を強いられることなど、同化や異化、あるいは共生などの諸問題が描かれます。
時代設定は大体2100年くらい前の日本だが、現代に創作され、上演され、現代の観客が観ることで、いまの日本社会が抱える問題をいくつも連想することができます。多くの創作意図が背景にあり、結果としてそうなっていることは理解しつつ、それでも、現代を写す鏡としてしっかり機能していることに感銘を受けました。学びの多い観劇体験に感謝。