悪魔を汚せ
鵺的(ぬえてき)
サンモールスタジオ(東京都)
2019/09/05 (木) ~ 2019/09/18 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/09/14 (土) 19:00
2016年に初演して鵺的の代表作とも呼ばれる作品を、ほぼ同じキャストでの再演で、初演も観てるが、やはりインパクトが凄い。悪を悪と感じない兄妹とその一族のおぞましい物語だが、初演を観たときは、あまりと言えばあまり、という展開にビックリしたものの、今回はストーリーを知っているだけに覚悟して観ていることで、一応は気持ちを落ち着けて観ていられる。その意味で冷静に観てみると、所詮はフィクションだと思える展開だが、高木の描く物語と演じる役者が絡み合って、強烈な作品に仕上がっているな、と、今更ながら思う。チケット完売だそうだが、当日券で観てほしいと感じる作品。
あつい胸さわぎ
iaku
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/09/13 (金) ~ 2019/09/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/09/14 (土) 14:00
iakuらしい戯曲が展開される100分。母子家庭の娘の千夏は、同じマンションに住む幼馴染みの同級生の光輝と同じ大学に入学する。光輝に恋心を抱く千夏は、姉のように慕う透子と相談する一方、母の昭子は東京から来た上司の木村から好意を感じる。しかし、木村がもらったサーカスの券で5人が一緒にサーカスを見ているとき…、という展開で、5人の関係は複雑な方向に向かう。時折笑いも起こるが、最後は切なく、しかし、人間の存在を信じられる「いい話」として終局する。多様な意味に取れるタイトルが秀逸である。舞台美術は抽象的で、多様な場として使われるのだが、舞台上部に張られた赤い糸に何か意味があるように思えた。
死と乙女
シス・カンパニー
シアタートラム(東京都)
2019/09/13 (金) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/09/13 (金) 19:00
いろいろなユニットで何回か上演されているらしいが、初めて観る戯曲。極めてタイトな95分だった。軍事政権下で反政府運動をしていたジェラルド(堤真一)は、同じく反政府運動をしたために拷問されレイプされたことがトラウマになっているポーリーナ(宮沢りえ)と結婚しているが、新政府の人権調査委員に選ばれたために、妻のトラウマを表に出すことができない。ある雨の夜、車の故障を助けてくれた医師ロベルトを家に招くが、その声を聞いたポーリーナはロベルトこそ自分をレイプし続けた男だと気づく…。ロベルトを縛りつけ復讐を遂げようとするポーリーナと、無実を訴えるロベルト、ポーリーナの暴挙を止めようとするジェラルド、という三者三様の言葉の応酬の後、全く予想できないエンディングに向かうために、疑問が残り、多様な解釈が可能な戯曲は、まずすごい。そして、役者陣が機関銃のように台詞を放つのも見事だ。ただ、演出の緒川はやや抑制的な演出をしているように見え、そのことの評価は難しい。
暴力先輩
NICE STALKER
ザ・スズナリ(東京都)
2019/09/11 (水) ~ 2019/09/16 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/09/11 (水) 19:30
Nice Stalker らしい楽しい舞台だった。「私」と「先輩」の関係を軸にして、登場人物が議論する場面と、「カワイイ女の子」あるある的なドラマ・パート4編を交互に提示する、イトウシンタロウらしい一種トリッキーな作りも面白いが、ドラマ・パートの物語が興味深い。何と言っても台詞の切れ味がいい。みしゃむーそ、という人物を初めて知ったが、興味深いキャラクターで大事な役割をしっかり演じてた。
ただし、当初100分と言っていたのが130分となったのは、いただけない。
今、僕は六本木の交差点に立つ
ネルケプランニング
天王洲 銀河劇場(東京都)
2019/09/04 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/09/05 (木) 14:00
休憩込み2時間40分の長さが気にならない面白さを持つ舞台だった。中津留章仁の脚本と赤澤ムックの演出という、小劇場系で劇団を主宰し、近年商業演劇系にも進出してる2人だが、この2人の組合せは多分初めてということで、興味を持って観に行った。実在の人物をモデルにした物語という点では中津留の得意な部分だが、第1幕で人物像を描き、第2幕で歌を歌うようになった経緯を描くというあたりは巧い。時折はさまれる老年の日本人とタイの少女との物語が持つ意味が分かるエンディングも悪くない。
トリスケリオンの靴音
エヌオーフォー No.4
赤坂RED/THEATER(東京都)
2019/09/04 (水) ~ 2019/09/16 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/09/04 (水) 19:00
久々に観る堤泰之の作・演出作品で、昨年に初演されたものを役者陣を変えての上演だが、初演は観てない。堤らしい「いい話」が展開される。田舎町の再生のため、彫金師の工房を資料館にしようという計画が持ち上がり、設計事務所から派遣された若い男と彫金師の弟子だった男が相談していると、突然現われた彫金師の娘。この3人が絡み合って物語が展開されるのだが、巧みに張られた伏線がしっかり回収され、最後に一種のハッピーエンドで終わるあたり、堤の脚本は巧い。役者陣も独特のキャラクターの登場人物をしっかり演じ、気持ちよく終わる。惜しむらくは、「トリスケリオン」という単語が我々(少なくとも私の)日常で用いられないため、インパクトが弱いということだろうか。でも、いい気分で帰れる100分だった。
アリはフリスクを食べない
やしゃご
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/08/31 (土) ~ 2019/09/10 (火)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/09/02 (月) 19:30
重い話題を扱った作品だった。やしゃごの前身である青年団リンク伊藤企画の2014年の旗揚げ公演の再演。知的障がい者の兄とその弟を取り巻く人々の群像劇。勿論、軸になるのは兄弟だが、他の人々もそれぞれの事情を抱える。そんな中で、兄の誕生日を祝うパーティーの日に、施設に入れる話を持ち出す弟だが…、という展開は、ありうると思えるものだが、巧みな脚本が巧い。障がいを持つことの重さと真摯に向き合った作品は、面白い、という表現は適切ではないが、いい芝居を見せてもらったと思える110分だった。
プレイハウス
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2019/08/25 (日) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/08/31 (土) 18:00
根本宗子がPARCOプロデュースで始めて800人規模の劇場での公演を行なった。明るく楽しく演劇的にも味のある根本だった。前作の『クラッシャー女中』の後説で「コクーンでやりたい!」と叫んでた根本だが、ほぼ同じサイズでの公演が実った。10人組女性アイドルユニット GANG PARADE を軸に、歌舞伎町の風俗店を舞台に、イケメン・ホスト系の男優を配するパターンは、ある種得意のパターンと言えよう。第1幕60分で、登場人物のキャラや謎を提示し、第2幕90分で解決する。終わってみれば、何だこりゃ、と言われそうな物語だが、ミュージカル型式を取ったことで楽しく時間が過ぎ、最後の30分はしっかり芝居をする、という構成に思えた。根本らしさが遺憾なく発揮された作品だと思った。
ユスリカ
東京夜光
小劇場 楽園(東京都)
2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/08/30 (金) 19:00
初見の劇団。かなりイライラする芝居だったけれど、おそらく、それが作者の意図なのだろう。登場人物のキャラの立て方は巧く、展開も興味深いものだけれど、脚本には若干の弱点があるようにも思う。結婚を約束してカレシと同棲する妹の所に、10年も話していないくらい嫌いな姉が余命宣告されたと言って転がり込み、それから展開する物語という流れ。妹の恋人が、姉を余命宣告されたというだけで受け入れてしまうのは、やや不自然に感じた。しかし、そういった部分も含めて、計算された脚本には思えた。ただし、チラシとかに書かれているバタフライ・エフェクトの話題は、あんまり軸にはなっていなかった。
私の恋人
オフィス3〇〇
本多劇場(東京都)
2019/08/28 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/30 (金) 14:00
昨年の『肉の海』に続いて、上田岳弘の小説がベースの戯曲だが、小説はよんでいない。元の小説がそうらしく、時空を超えて様々なシーンが交錯するというのは、渡辺の劇作に似ている。ただし、それを、渡辺と小日向文世と初舞台ののんとアンサンブル4人で上演するというのはなかなか大変だと思う。物語を追うのは難しいが、まだ会えぬ恋人、いつか会うはずの恋人を探して、旅する、という感じと言えようか。単純に面白いと言うのは難しいが、感触を味わう渡辺の作品らしい魅力は確かにある。初舞台ののんが、意外に伸び伸び演じてて、魅力的な存在だった。
さなぎの教室
オフィスコットーネ
駅前劇場(東京都)
2019/08/29 (木) ~ 2019/09/09 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/29 (木) 19:00
タイトな舞台だった。大竹野没後10年記念公演第4弾として大竹野正典作の『夜、ナク、鳥』をベースに、小松台東の松本哲也が作・演出する。重たい2時間弱だが、緊張感を持って観ていられる。2002年に実際に起きた女性看護師4人による保険金殺人という実話ベースの作品だが、同じ看護学校の学生だったという点をやや強調した作劇となっている。『夜、ナク、鳥』も観たが、テイストは似ているものの、看護学校時代を入れたことで、より深く看護師たちの内面に踏み込もうとしているとは言える。それがタイトルの意味だと思う。久々に舞台で観た佐藤みゆきを始めとして役者陣が確実な演技を見せ、しっかりした作品になっている。
惜しむらくは、主犯格のヨシダを演じる予定だった森谷の2週間前の降板で男性の松本がヨシダ役をやることになったことで、ヨシダの強さが男性の強さから出てくるものに見える場面があったことか。でも、いい芝居だった。
なるべく派手な服を着る
TABACCHI
小劇場B1(東京都)
2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/28 (水) 19:00
初見のユニット。面白い。土田英生がMONOの2008年の公演に書いた脚本を、本ユニット主宰の戸田武臣が演出する。4つ子とその弟と養子の末弟の6人兄弟が、父の危篤を聞いて実家に集まる。次男と4男は内縁の妻を伴い、5男は恋人を連れてくるのだが、何故か4人は5男の名前すら思い出せない。という、やや奇抜な設定の中で、徐々に明らかになる兄弟の秘密と、力関係の変化を描いているのだが、その辺のバランスが土田らしい微妙なラインを守っていて、よくできた脚本だと思う。同時に、あんまり一緒にやらない座組の役者陣も丁寧に芝居を作り上げているのは見事。
2020年以降の夏
くによし組
王子小劇場(東京都)
2019/08/21 (水) ~ 2019/08/28 (水)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/26 (月) 19:00
くによし組待望の短編集。若干苦い作品群だ。2020年以降、戦争が頻繁に起こるようになった近未来の物語3話という構成。『セミ人間と恋した夏』は一部のセミが人間となるという設定が巧みで、人権のないセミ人間は殺してもいい、とか、この設定から出る細部の描き方が巧い。25分。『私の頭が消しゴム』は頭が消しゴムになってしまう病気にかかった少女を軸とした周辺の人々の物語、を語る女の物語、とも見える。35分。『晴れた日』は戦争で失った体を、機械に入れ替える男が病気の少女と出会う物語。ここで3話が一つに繋がる40分。どの作品も國吉らしい不条理がいっぱいあるが、全体に切ない物語が泣かせる。
DNA
劇団青年座
シアタートラム(東京都)
2019/08/16 (金) ~ 2019/08/25 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/08/16 (金) 19:00
JACROW主宰の中村ノブアキが自劇団以外に初の書き下ろしで青年座に書いた脚本を、宮田景子の演出で上演する、というところを興味深く観た。悪くない。自劇団では社会派と呼ばれ、実話や実在の人物・事件などを描くことが多い中村だが、プログラムで自身も言っているように、家族の問題を入れたあたりは少し珍しい。PC事業部の主任である夫は結婚前の約束に反して子どもを欲しがるのだが、妻は欲しくないと反発する。一方で、会社では若い社員が「限りなく黒に近いグレイ」な処理に不満を述べる…、という物語。会社も妻も一定の落ち着きを見せて終わるのだが、その終わり方は本当に順当なのか、という疑問を(特に家族に)持ってしまうのは私が少しひねくれているのだろうか。役者陣はさすがに青年座と思わせるシッカリした演技力で、巧みに見せてくれる。シリアスな場面でも時折笑いが起こるというのは、演出の力もあるのだと思う。
夢見る喜世子レヴュー
ピストンズ
王子小劇場(東京都)
2019/08/15 (木) ~ 2019/08/18 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/08/16 (金) 15:00
若いエネルギーは感じる舞台だった。再演だということだが、初演は観てない。戦後のパンパン達の溜り場になっている劇場跡を舞台に、元女優の高級娼婦、という存在を中心に置いた群像劇。軸になるのは高級娼婦の話をする別の娼婦なのだが、個々の娼婦達にも少しずつ焦点を当てるシーンを割り振るなど、細かいエピソード作りは物語に一応のふくらみを与える。ただし、女優陣が可愛過ぎてパンパンのスレタ感触が全く出ていないのが何とも惜しい。使う歌も考証が甘い。
’72年のマトリョーシカ
風雷紡
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2019/08/14 (水) ~ 2019/08/18 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/15 (木) 19:00
有名な浅間山荘事件を扱った芝居だが、こうくるか!、と思わせる視点の持ち方が吉水の脚本らしいなと思った。人質となった管理人の妻の事件後を中心に、時に回想シーンを混じえる手法はよくあるものだが、大きなフィクションを一つ入れたことで、物語が家族を巡る展開になった。家族というキーワードは近年の風雷紡の一つの軸となっているが、今回も妻の家族と犯人の兄弟(という家族)という2面を持ち、深みある芝居になっていた。事件をリアルタイムに(TVで、だが)見ていた自分にとっても、いろいろと考えさせられる舞台だった。
工場
青年団リンク 世田谷シルク
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/08/13 (火) ~ 2019/08/18 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/15 (木) 14:00
面白い。動きに特徴のある世田谷シルクにとっては珍しいストレートプレイ。と言っても、動きが目立たないだけで、シルクらしい感触はある。とある「王国」(どう見ても日本にしか見えないのだが)の工場が「外の人」を受け入れることになって起こる混乱や軋轢を描く。ある意味で社会派の芝居とも言えそうなのだが、そこは堀川らしく、ファンタジー的に収束させる。ただし、物語はしっかりある。
ママの恋人
ミュージカル座
中目黒キンケロ・シアター(東京都)
2019/08/07 (水) ~ 2019/08/12 (月)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/08/12 (月) 12:30
ミュージカル座によるストレート・プレイ。1990年に初演して以来、何回も同劇団で上演されているというコメディを千秋楽に観劇。面白い。瀬戸早妃改め咲嬉がママを演じるというのに興味を持ったが、戯曲が良くできていて、ホンワカする舞台になっていた。恋多き女優とその小学生の娘を取り巻く人々の話だが、タイトルにあるように、娘がストーリーテラーを演じる面もあり、娘りえ役の番場愛理が実年齢で重要な役をしっかり演じていたのは見事だった。
フローズン・ビーチ
KERA CROSS
シアタークリエ(東京都)
2019/07/31 (水) ~ 2019/08/11 (日)公演終了
月がとっても睨むから
Mrs.fictions
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2019/08/03 (土) ~ 2019/08/12 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/08/04 (日) 19:00
Mrs. fictions らしい「いい芝居」を観せてもらった。江東区が海になってしまった近未来、不幸な事件の加害者と被害者として出会った少女と少年が、20年後に偶然に出会い、周辺の人々もその事件と関わりを持ち…、という設定がなかなか良い。登場人物のキャラクターもある種独特だし、伏線の張り方も巧妙で、最終的にきちんと回収するあたりは、いかにも中島の脚本らしい。本来は1年前の夏に上演する予定だった作品だが、脚本が不十分ということで公演を中止したものを、そのときと同じキャストで上演した。ある意味で理想的な修復作業だが、それができたのは奇跡的と言ってもよいように思う。役者も力量をしっかり表出し、素敵な舞台となっているのだが、日曜の夜の所為かもしれないが空席が目立つのが残念でならない。ちょっと行きにくい劇場ではあるが、是非観てほしいと感じる作品だった。