
ミュージカル チキチキバンバン
avex live creative
東京建物 Brillia HALL(東京都)
2025/01/17 (金) ~ 2025/01/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この会場は二度宝塚OBモノを観に来たことがあって、その時の席は一階後方。今回は二階、全体としては観易いが人物の細かな表情までは見えない。
発明家カラクタカス・ポッツ役・長野博氏は南原清隆に見えた。
その父、グランパ・ポッツ役・別所哲也氏は野性爆弾のくっきー!に。
バルガリア国のバロネス・ボンバースト役・愛華みれさんは渡辺えりに。
ジェミマ・ポッツ役・三木美怜ちゃんがMVP。彼女の溌剌とした生命の躍動こそが観客を元気にさせる。ここを基調として作劇すべき。
異様なまでのスタンディング・オベーションと複数回観劇を重ね出来上がってみえる客層はジュニアの小山十輝(とき)君のファンがメインだったのかも知れない。皆さんやたら好意的。

ドードーが落下する
劇団た組
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2025/01/10 (金) ~ 2025/01/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
まるで平原テツ氏の独り芝居のよう。L字型の2面の壁に囲まれた部屋。6本の蛍光灯が天井から吊るされている。それが時折点滅すると場転の合図。壁の上に寝そべった出演者達が舞台を上から覗き込んでいる。ロマン・ポランスキーの『テナント』みたいな被害妄想と強迫観念の構図。幻聴幻覚が自分の体内から滲み出てくる。かなり演出に凝って変えているので同じ戯曲の別ヴァージョンみたいな感じ。
今回観て気付いたのが安川まりさんが場のキーパーソンであること。要所要所で重しになっている。
初演時のイベント制作、藤原季節氏の役が秋元龍太朗氏になっている。ピン芸人秋元龍太朗氏の役は鈴木勝大氏に。バイトリーダー山脇辰哉氏の役が諫早幸作氏に。
前回は平原テツ氏の相方が登場しなかったと思う。今回はかなり重要な存在(金子岳憲氏)に。

音楽劇 わが町
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2025/01/11 (土) ~ 2025/01/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕60分休憩10分第二幕55分休憩5分第三幕40分。
凄く好きな作品。以前翻案した作品を観たことがあったが本物は格別だ。俳優座劇場オールスターズの貫禄。本当にこの劇場が失くなってしまうのか?と詰め掛けた観客皆が思ったことだろう。
主演の土居裕子さんの輝き。進行の清水明彦氏の妙味。坪井木の実さん、片桐雅子さん、満田恵子さんの聖歌隊の灯し火。加賀谷崇文氏の発する痛み。高橋ひろし氏、斉藤淳氏の語る重み。奥田一平氏の純情。
作曲家上田亨氏の名曲が炸裂。「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ」は残る。
作品を味わうのではなく考える。考えて考えて考えて、そしてまだ判らない。それは自分のことだから。ソーントン・ワイルダーが何処まで考えていたのか。演劇の枠組を超越した思想の片鱗を感じさせたかったのか。
さようなら俳優座劇場・最終公演はシェイクスピアの『嵐 THE TEMPEST』で4月。観ざるを得ない。

二十歳の集い
アガリスクエンターテイメント
上野ストアハウス(東京都)
2025/01/02 (木) ~ 2025/01/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①『Go as Operation!!』
レンタルビデオ屋のベテランバイト、チーフのおっさん(矢吹ジャンプ氏)が主人公。バイトの大学生の女の子(榎並夕起さん)が辞めて郷里に帰る報告に動揺を隠せない。ずっと彼女に恋していたのだ。それを知らぬ彼女は信頼するチーフに常連客(小林和葉氏)への恋心を告げる。今日最後の日に彼に告白したいのだと。とてつもない急展開、迫られる選択肢にテンパるおっさん。とりあえず恋の成就なぞさせてなるものか。売れないバンドマンの常連客(古谷蓮氏)を借金をカタに協力させて恋が成就しないように舵を切る。
②『宇宙からの婚約者』
到頭恋人にプロポーズをする日が訪れた。主人公(岡田怜志氏)は給料2.5ヶ月分の指輪をセッティング。付き合って一年の彼女(榎並夕起さん)に求婚するも返事はNO。は?理由が酷い。「実は私、ウルトラマンなので」。
古谷蓮氏は窪塚洋介っぽい。
岡田怜志氏は余り見ないキャラ。観客と気軽にやり取りしながら場を回す。
榎並夕起さんは出ずっぱり。
①店長がお薦めする『ホーム・アローン2』、その心は?が面白かった。
②ウルトラセブンの最終話、モロボシ・ダンが友里アンヌに自分の正体を明かす名シーン。一瞬暗転、突如背景に銀ラメの幕がすっと下がり、手前の見つめ合う二人はシルエットのみになる。流れるシューマン『ピアノ協奏曲イ短調』。完璧な演出。今作ではこれにオマージュを捧げている。

赤毛のアン
劇団四季
自由劇場(東京都)
2024/12/03 (火) ~ 2025/02/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『赤毛のアン』といえば「世界名作劇場」、高畑勲監督な訳で宮崎駿、近藤喜文の磐石の布陣。今も鮮烈に焼き付いている。ガキの頃からこいつらアニメの天才の才能を存分に見せ付けられてきたものだ。それ以来、原作も映画も観たことがない。一体、あれは何の話だったのか気になって観てみた。
19世紀末(1897年)カナダのプリンス・エドワード島にある田舎町、アヴォンリー。マシュー(飯野おさむ氏)とマリラ(大橋伸予さん)の老兄妹は農作業の手伝いの為にノヴァスコシア州の孤児院から男の子を引き取ることにする。本土から船と機関車を乗り継いでやって来る彼を駅に迎えに行くと、居るのは11歳のそばかすだらけの痩せた赤毛の少女。お喋りで空想癖で劣等感の塊で悲観的で癇癪持ちで感受性ビンビンのアン・シャーリー(三代川柚姫さん)。人間違いだと孤児院に帰す筈がいつのまにか彼女に夢中にさせられていく老兄妹。唯一の武器は心の純粋さだけ、そんな一人の少女が小さな町で生命を輝かせていく。
三代川柚姫さんの魅力に尽きる。これぞアン。そうなんだよ、この面倒臭いキャラ設定。リアルに周囲にいたら皆うんざりするかも知れない。この原作が名作なのはアンの造型に全くの嘘がないところ。原作者ルーシー・モード・モンゴメリ自らの少女時代の投影でもある。凄い主人公だった。
ダイアナ役の林明梨さん、スグリ酒でベロンベロンの名シーン。
恐怖のブルーエット夫人(杉山由衣さん)。
名曲、「アイスクリーム」の歌。
パフスリーブへの想い。
是非観に行って頂きたい。

文豪が多すぎる
劇団6番シード
新宿シアタートップス(東京都)
2024/12/25 (水) ~ 2024/12/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
大正12年12月25日、兵庫県有馬温泉にある旅館「梅梅坊(うめうめぼう)」。色々なものから逃れて女流作家・宇田川美樹さん(林芙美子っぽい?)が宿を取るも不手際で相部屋をお願いされる。原稿300枚を一週間で仕上げないと借金を返せないと煽る書生(永石匠氏)。
「梅梅坊」の若女将・高宗歩未さんは色っぽい美人で川島なお美っぽくもある。大女将・椎名亜音さんは『ガラスの仮面』で野際陽子が演じた月影千草っぽくもある。この配役は見事。
藤堂瞬氏(夏目漱石?)、佐藤弘樹氏(有島武郎?)、夢麻呂氏(小林多喜二?)、オオダイラ隆生氏(太宰治?)、那海さん達そこに偶然居合わせた文豪達を焚き付けてどうにか原稿を書かせるコメディ。
エリザベス・マリーさんの天井の梁を伝って移動するギャグは大受け。
矢島美音(みのん)さんはアイドル顔。
書道家・遠藤しずかさんの来年の一字は何だったのか?
はらみかさんの高級娼婦も見事。
この作家は脚本よりも演出の方が優れているのかも知れない。原稿用紙でキャスト紹介するオープニングや、音楽と役者の動きだけで時間経過を組み立てるモンタージュが素晴らしい。こういう工夫が観客を喜ばせる。空間の技術。

桜の園
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2024/12/08 (日) ~ 2024/12/27 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
チェーホフはよく判らん。S席12000円⁉『江戸時代の思い出』が面白かったのと天海祐希さんを(多分)観たことがなかったのでこわごわと抽選予約に参加。当選してしまった。『桜の園』自体は観ているがそこまでハマってはいない。
小間使いドゥニャーシャを野口かおるさんだと思って観ていた。途中、「そういや池谷のぶえさんも出てたな」と思い、「もしや!」とやっと気が付いた。そのぐらいキャラ変している。同じくロパーヒン(荒川良々氏)もやっと気が付いて驚いた。従僕ヤーシャ(鈴木浩介氏)もかなり後になって気付く。こんなキャラも演れるのか!?禿ヅラ被った大学生トロフィーモフ(井上芳雄氏)にも驚く。こんな贅沢な配役はない。わざとイメージと違うキャラを演らせるギャグなんだろう。
それにしても女主人ラネーフスカヤ夫人(天海祐希さん)の登場シーン。スターのオーラ。思わず客席は拍手しそうになっていた。背が高くピンと立ち、誰よりも際立つ存在感。これはファンが付くわけだな。宝塚でトップを張るとはこういうことだ。
家庭教師シャルロッタ(緒川たまきさん)のマジックもなかなかのクオリティ。老僕フィールス(浅野和之氏)も流石。屋敷の事務員エピホードフ(山中崇氏)の「ね」。隣の地主ピーシチク(藤田秀世氏)の借金をねだるクズっぷり。

荒野に咲け
劇団桟敷童子
すみだパークシアター倉(東京都)
2024/12/15 (日) ~ 2024/12/24 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
25周年記念作は劇団員のみで公演。これは本当に凄い作品なんだがどうにも伝えようがない。どんなに言葉を選んで積み重ねてみても大して伝わらないだろう。何だろうな、この感覚。気になった人全員に観に行って欲しいがチケットはもうあるのかないのか。このクラスの作品を年末にガツンとぶつけられて頭はクラクラ。次の桟敷童子の新作まではどうにか生きていたいと思った。
客入れのもりちえさんは見る度にどんどん痩せていく。
井上莉沙さんは可愛いが役柄が・・・。
ワンツーワークスのようにスローモーションで皆が駆けるオープニング。構成が映画的で時間軸が次々と飛んでいく。それを無理矢理成立させる役者陣。メイクと衣装と表情とでこの無茶を成り立たせる腕力。何度も強調して使用される対位法。象徴的なものはどうしようもなく不幸な場面に流れる「ラジオ体操第一」の明るいメロディー。黒澤明の好んだ演出で世界と自分とのズレを浮き上がらせる。今回は演出がかなり凝っており、バラバラにばら撒かれたシーンや夢、妄想や記憶が一枚のモザイクアートのように収斂されていく。
主演の大手忍さんは主演女優賞もの。中村玉緒みたいな嗄れ声で猫背の病んだ女性役。軽い障害のある人の受け答えそのもの。ここまで作り込んだか。
彼女の母親役、板垣桃子さんは助演女優賞だろう。確かにそういう女性が舞台上にいた。直視したくないものを直視させる演技の凄味。この表情。
彼女の弟役、加村啓(ひろ)氏が劇団員になっていた。押尾学みたいなふてぶてしい面構え。
彼女の父親役、三村晃弘氏の元気ハツラツとした健康的な笑顔。山登りとラジオ体操が大好き。とにかく身体を動かしてこそ人間だ。
従姉妹にあたる増田薫さんの表すリアルな痛み。誠実に生きているが故に誠実に我慢ならない怒り。
妹方の叔母にあたるもりちえさんの佇まい。再婚した家庭で会得したのは何も感じない“無”。そしてそれは当たり前の生活の一頁。誰にとっても特別なことではない。
彼女の義理の母親、鈴木めぐみさんが重要なパーツ。独り暮らしの老いぼれた交通誘導警備員だがSNSで動画を投稿していいねを稼ぐ。全く腐っちゃいない。今の時代を楽しみまくっている老婆の強さ。
大手忍さんのキャラはギリギリなところを突いている。観客の感情移入と生理的嫌悪のギリギリ。しかもユーモラス。こんな鬱話の中、観客が笑いでホッとする。そこのサーヴィス精神こそが数十年続く劇団の持つ地力。こんな話に和む笑いを入れる余裕。幾つもの修羅場を潜り抜けて来たタフなベテランの持つ味。
作家が10年以上前から着手していた実際の知人をモデルにした物語だそう。現実では彼女に何もしてやれなかった。せめて虚構(嘘話)ならどうにか出来るのだろうか?納得出来る救済のカタルシスを用意出来るのだろうか?だがそんな嘘話を騙ったところで一体何になる?
こんな負け戦の作品に心底取り組んだ作家の魂にRespect。
「一体どうしたらあんたを救えるんだろうか?」
「それは私が知りたいよ!どうしたら私は救われるのか!」
答えのない世界にただ問いだけが舞っている。
主人公(大手忍さん)の一生絶対に関わるつもりがなかった母親(板垣桃子さん)との電話のシーンでは泣いた。はらわたから振り絞る声、互いに何一つ嘘が存在しない。作家の安易なヒューマニズムに逃げない姿勢を支持。嘘臭い話で器用にまとめるのは簡単だがそんなものは現実と乖離し過ぎていて無意味。今作は虚構から現実を撃たねばならないのだ。嘘話で現実の人間を救う?笑止千万。だがやるのだ。
哀しみが嫌いだったら気のぐれた振りをすればいいし
別に悪い事じゃないさ ねえあんた少し変だよ
BLANKEY JET CITY 「ロメオ」

ケレン・ヘラー
くによし組
シアタートラム(東京都)
2024/12/19 (木) ~ 2024/12/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
アフロ子(中井千聖さん)とケイト(大場みなみさん)によるお笑いコンビ「ポジティboo」。十八番ネタの「ヘレン・ケラー」(ヘレン・ケラーの「WATER」を茶化す)にクレームが入り謹慎中。名村辰氏はアフロ子の内面として話の進行役を務める。二人はバイトしている古本屋の二階、ケイトの家で一緒に暮らしている。古本屋の性欲旺盛な店長(花戸祐介氏)、バイトの谷川清夏さん、新しく入ったてっぺい右利き氏。てっぺい右利き氏はケイトにガチ恋していてストーカーのように付きまとう。「ヘレン・ケラー」ネタはお母さんが初めて大爆笑してくれたもので、アフロ子にとって絶対に譲れないものだった。それをやれないことに我慢ならずコンビを解散。お喋りロボット、サリバンちゃん(柿原寛子さん)を購入して新しい相方に。タブーなしで面白いと思うこと全てをやる芸風で突き進む。
中井千聖さんは「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「いまきた加藤」を思い出した。
大場みなみさんは幸薄いATG顔。当時の原田美枝子っぽい。
谷川清夏さんも華がある。

世界の果てからこんにちはⅢ
SCOT
吉祥寺シアター(東京都)
2024/12/13 (金) ~ 2024/12/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
勝手な先入観から糞つまらない演劇との偏見を持ち、吉田喜重、実相寺昭雄的なものを想像していた。観念だけで中身空っぽの評論家向けのお遊びを。自分でモノを考えられない連中は保証書付きのブランドに群がる。ステータスと肩書とに。だがそれはある意味とても健全なことだ。世界には秩序が必要。どれだけ自分でモノを考えなくていいかを競っているような世の中だ。それはそれでとても正しいことなのだろう。
そんな気分でいざ観てみるとピスタチオの漫才のようなシュールなコント。金屏風をバックに下半身だけ下着姿(上半身と下半身とが別人格の表現)の登場人物達が車椅子で登場。真剣に日本論日本人論を語り合う。各自自らの足で車椅子を移動させるのだが舞台を踏みしめる足音に拘りを感じた。口を左側に歪めて伝統芸能(狂言)のような低い声色で全員が会話。「にっぽんJIN」とジンの部分に強いアクセント。どうやら近未来の日本は巨大な病院となっているらしい。
平野雄一郎氏は中村獅童を老けさせた感じ。
長渕剛っぽい人もいたが名前が判らない。
女性6人組ダンサー・グループ「パンプキン」が大活躍。病院に慰問に来たような設定で見事な踊りを披露。女性の顔がプリントされた謎のうちわを右手に持ち、女版『純烈』のよう。ロリータ・ファッションの熟女達という出で立ちは現代日本への皮肉か?一番上手の女性が気になった。彼女達二曲のダンス場面が鮮烈。
凄く高尚に下らないことをやっている。
SCOT=Suzuki Company of Toga
1976年、鈴木忠志氏率いる劇団「早稲田小劇場」は富山県東礪波(ひがしとなみ)郡利賀(とが)村に移住。(現在は合併して南砺〈なんと〉市利賀村に)。山間の過疎村に建てられた劇場、稽古場、宿舎は後に「演劇の聖地」として世界中の演劇人が訪れる巡礼の地となる。来年で50周年。俳優訓練法「スズキ・トレーニング・メソッド」は世界的評価を受ける。
「利賀」と聞くと「三里塚」みたいに左翼の小難しい口うるさい老人のイメージを連想していたのだがどうやら全くの誤解だったようだ。
勿論居眠り客は沢山いた。結構熱心そうなファン程眠りに就くのは永遠の謎。
「これで吉祥寺で演るのはラストになるかも知れない」と鈴木忠志氏85歳。観るなら今回しかないかも。

お婆ちゃんの詩的な生活
shelf
THE HALL YOKOHAMA(神奈川県)
2024/12/14 (土) ~ 2024/12/14 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
世界中の孫達から世界中のお婆ちゃん達に贈るLOVE SONG。
冒頭、主演の女性がお婆ちゃんの想い出を語りながら衣装をまとっていく。「小さい頃はいつもお婆ちゃんの背中に乗っかっていた。ある日気が付くとそれはとても小さな背中だった。そして小さい頃はいつも後ろを追っ掛けていたがいつの日か自分が道の先を急ぐようになっていた。お婆ちゃんは夜空の星を捕まえて瓶に詰め戸棚に隠した。その戸棚の開け方は私とお婆ちゃんだけの秘密だった」。女性はいつのまにかお婆ちゃんの扮装になっている。
お婆ちゃんは田舎の村で一人暮らし、息子一家は飛行機を使わないと会えない都会に。大好きな可愛い孫の男の子。ついその子の事ばかり考えてしまう。孫の為に手作りで人形を作っている。まだ未完成の彼はコピーロボットのような顔。早く遊びにおいで。
人形は後頭部と背中に棒が付いており、頭と左手を操作、胴体と右手を操作、両足を操作の三人遣い。非常に滑らかな動きを表現。お婆ちゃんがいない、もしくは眠っている時だけ自由に動くことが出来る。孫への愛情を代わりに受けてきた人形は自分が孫の代替物だと認識しており、何とか本物の孫がお婆ちゃんに会いに来るよう企む。アンサンブルの子供達がボール状の光る星を上下にバウンドさせる。星は願いを受け止めて必ず地上に降りてくる。
中国語に下手のスクリーンに英語と日本語の字幕が投影される。お婆ちゃん以外に役者として登場する人間はいない。後は人形と星の球を揺らす子供達だけ。
好きな世界。思わず、帰りに小さなコピーロボット風人形を買ってしまった。そんな気持ちになる舞台だってこと。

黙れ、子宮
KAAT神奈川芸術劇場、韓国国立現代舞踊団
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2024/12/13 (金) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
未来人に「未来ではどんなお笑いが流行っているのか」と訊ねたらこの作品を見せられそう。未来のドリフ。曲に合わせて集団で踊るシーンは未来のダンスシーン最前線を見ているよう。まるで『時計じかけのオレンジ』。全く訳が分からないがきっと未来の若者には大受けなのだろう。
韓国国立現代舞踊団からの三人は子宮(支援)班。
上は銀色の宇宙服のようなへそ出しトップス、背中に小さな赤いマント。下はステンレスたわしのような銀色ゴワゴワのオムツみたいなパンツ。
刺青筋肉質の父親(イ・デホ氏)が「ムクゲの花が咲きました」とだるまさんが転んだを始める。母親(ユン・ヘジンさん)は手足が長く人形のような肢体。三つ編みツインお団子の娘(イム・ソジョンさん)はコミカル。(右膝を桜庭和志のようにガチガチにテーピングしている)。御約束の寄り目。振り向く父親にバレないように動いていく笑い。突然マネキンのように倒れていく二人を慌てて抱きとめる父親。未来型ドリフ。寄り目、振り向く、硬直、倒れる、抱きかかえる、寄り目・・・。延々と続く謎のだるまさんが転んだ。
両腕を鳥の翼のように斜め上に掲げる功夫の鷹爪拳に近い型が子宮のポーズ。一発ギャグとして秀逸。
迎え撃つ日本人ダンサー達は金玉隊。
赤と黄のデザインが入った青い宇宙服のようなつなぎ、腹のあたりがポッコリ膨らんでいる。金玉のポーズもある。
「鹿児島おはら節」、福岡の「黒田節」などが使われる。
「金玉のテーマ」は圧巻。
令和の暗黒舞踏。
是非観に行って頂きたい。

『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』
あやめ十八番
澤田写真館(東京都文京区本郷4-39-9)(東京都)
2024/12/12 (木) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
澤田写真館、青い三角屋根の黄色い古風な洋館。歴史ある写真館を今は多目的スペースに。天才ピアノ職人・大橋幡岩(はたいわ)の作ったDIAPASON(ディアパソン)の1947年製アップライトピアノが置かれている。それを吉田能氏が生演奏、贅沢な空間。コンガを膝に挟んでの演奏も。飾られているアートは現代美術家・高遠まきさんの鏡をモチーフにした作品群。銀幕をイメージした幻想的な銀の鏡、『六英花 朽葉』から触発されたものだと。

竜
TinT!
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2024/12/11 (水) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ドイツの認知症老人ホーム、介護士のユダヤ人デボラ(さかい蜜柑さん)が面倒を見ている。元SSのハンス(佐川和正氏)、同じくヴァルター(桝谷裕氏)。ハンスはいつも右手に小さな銀のスプーンを握り締め片時も離そうとしない。スノードロップの花を見ると摘んで捨ててしまう。そこに訪ねて来る配管工ゲオルク(木場允視〈こばまさみ〉氏)。孤児として育ったが最近父親がクラウス(木場允視氏二役)という人物だと連絡を貰い、両親を知る者を捜しに施設に来たのだった。
大戦末期のドイツ、レーベンスボルンで産まれた自分の赤ん坊に醜い赤い痣があった。処分される前にクラウスは孤児院でもある教会に密かに預ける。赤子を受け取ったシスター・マリア(染谷歩さん)。同僚のハンスはクラウスがコソコソ教会に通っているのを不審に思う。
モビール(ベッドメリー)を思わせる天井から吊り下げられた装飾。赤ん坊をあやす為の物。
桝谷裕氏の佇まいが好き。佐川和正氏は熱演。木場允視氏は父子を演じ分けた。

天保十二年のシェイクスピア
東宝
日生劇場(東京都)
2024/12/09 (月) ~ 2024/12/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
初演は1974年、出口典雄演出で休憩込み4時間30分(270分)とされている。
再演は2002年、いのうえひでのり演出で第一幕85分休憩25分第二幕115分(全長225分)。
2005年版は蜷川幸雄演出で第一幕120分休憩20分第二幕100分(全長240分)。
2020年版は藤田俊太郎演出で上演時間約3時間35分(全長215分)、第一幕100分休憩20分第二幕95分。
今回も基本的に2020年版に準じているが何か違って見えた。
前回2020年版は二回観ている。
今回はS席が15000円。「誰が買うのか?」と思っていたが思わず自分が買ってしまった。
魔女と飯炊き婆を演じた梅沢昌代さんが流石の仕事。
木場勝己氏は作品の文鎮。

病室
劇団普通
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2024/12/06 (金) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『風景』から観始めたので、その前の『病室』もずっと気になっていた。だが『病室』から観始めていたらその後は観なかったかも知れない。体調のせいもあるのか前半目茶苦茶眠かった。そして長くだらだらしてキレがない。用松亮氏目線で切り取った人生模様に凝縮して編集すべき。要らないシーンが多過ぎる。(その要らない部分こそがこの劇団の武器なのだが、今回はそう思えなかった)。
テーマは『家族』。体を壊して死を見据えた時、自分には誰がいるのか?

メイジー・ダガンの遺骸
名取事務所
新宿シアタートップス(東京都)
2024/11/30 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
マジックリアリズム(魔術的リアリズム)はラテンアメリカを世界の最先端にした。全ての物語に行き詰まった文学はバロウズのカットアップやフォールドインなど特殊な技法に走る。(新聞や雑誌をバラバラに切り離してランダムに繋げるなど)。ポストモダン文学は脱構築(解体と再構築)を掲げるがデリダの意図から離れ、そこにあるのは無意味で虚しい記号の羅列の世界であった。だが先住民(インディオ)の文化が白人西洋文化によって侵略、虐殺、奴隷化された混血の歴史を持つラテンアメリカにこそ誰もまだ見ぬ文学の種が蒔かれていた。それは理屈が通用しない世界。幻想と矛盾と神話と非日常とが現実と混在しつつ全てが許容されていく。何の制約もなく無限の想像力だけでこの世界の人間の本質に触れようとする衝動。読者の感覚はまるで夢を見ているようなもので人為的作為的なものを感じずにごく自然に有り得る一つの世界として受け止めていく。
今作もその文脈で解釈した。
運転する車がアイスバーンにスリップ、トラクターに激突して亡くなったとされるメイジー・ダガン(谷川清美さん)。その訃報をFacebookの連絡で知った娘の滝沢花野(はなの)さん。家出してからずっと音信不通だった実家に帰って来る。イングランド、サザーク・ロンドンのベッカムからアイルランドのケリー州へ。
知的障害の弟(森永友基氏)は楽しそうにトーストを焼いている。暴力しか能のない耳の遠い父親(髙山春夫氏)。
母親への酷い暴力を毎日のように見て育った滝沢花野さんはこの家を心底憎んでいた。心の拠り所だった真っ白な仔猫もある日無惨に始末されていた。生涯帰ることもなかった筈の家、そこには死んだ母親が当たり前のようにいる。
森永友基氏は「うんちょこちょこちょこぴー」で誰もが知るGO!皆川を連想させる。
髙山春夫氏はいつもこんな役。段々本当にそういう人間に見えてきた。
谷川清美さんはこの役を本当に嬉しそうに演っている。女優冥利に尽きる、と。
滝沢花野さんは秋野暢子の若い頃みたいで魅力的。母親への愛憎が自分自身を作り上げていったことへの苦悩。余りに世界があやふやで暴力でしか自分と他人を確かめられなくなってしまった。
母娘二人のシーンが鮮烈。打ちのめされる。月夜の墓穴。中原中也だ。
この作品は間違いなく価値のある作品、出演者制作陣は誇るべき。『夜は昼の母』よりもこっちが好き。演出の寺十吾氏には天野天街氏を感じた。
是非観に行って頂きたい。

はんなま砦は夜更けまで
大統領師匠
駅前劇場(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ルックスの良いのが揃ってる。6番シード系のエンタメ劇団。
主演の遊佐邦博氏は大泉洋っぽい三枚目。
大島朋恵さんは復讐に燃える狂った姉。
石塚みづきさんはジャミラ風の着ぐるみの腹から何でも食う化け物。
牢屋をすり抜ける斉藤有希さんは印象に残る。
音野暁(ぎょう)氏はヒールの怪演系。
ヒロインの橘沙穂さんは演劇部顔。
一人秀でたルックスと存在感の騎士、塩崎こうせい氏は作品の要。
筒井康隆の『パプリカ』、DCミニという装置を使って他人の夢(無意識)に潜入し精神の病を治癒するサイコセラピストの話。これを実写化したようなジェニファー・ロペスの映画『ザ・セル』。
今作もその流れで患者の精神世界に入って記憶を書き換える治療を行なう研究所が舞台。

リフレクション
レイジーボーンズ
小劇場 楽園(東京都)
2024/12/03 (火) ~ 2024/12/11 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
想像を遥かに超えて面白い。凄まじい才能が爆裂している。誰もが認める天才の集結。青山勝氏と狩野一馬氏のユニット、「レイジーボーンズ」はCOMPLEXを彷彿とさせる。(JACROW演出助手・野月敦氏もメンバーの一人)。脚本は中村ノブアキ氏の書き下ろし、ONEOR8の田村孝裕氏が演出。二人芝居とされていたが実質は音楽担当の宏菜さんも含めた三人芝居だった。
東京ドームでコンプを観に来た大観衆の前、突然現れたアイナ・ジ・エンドが最高のステージングで喝采を浴びるような舞台。天才は天才を知る。このシチュエーションで舞台二作目の新人がよく暴れ回れるものだ。末恐ろしい。宏菜さんはギターも巧く手が綺麗。
脚本も圧倒的。入れ子構造が互いのイニシアチブを奪い合い二転三転し続けるようなメタフィクション。このアイディアにもひれ伏す。
演技合戦としても面白く、玄人から素人から唸らされるだろう。終演後の物販では脚本が飛ぶように売れた。宏菜さんのCD直販もあり。「来年3月30日、王将を下った先の下北沢LOFTでワンマンがあるそうだ。」
メチャクチャ面白い。是非観に行って頂きたい。

ゴーギャンおやじ2
グワィニャオン
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いかりや長介の声がする。「次、行ってみよ〜!!」
東福生駅、横田基地の街。そこで生まれ育った主人公(山口勝平氏)の一代記。破天荒な親父(西村太佑氏)、安保闘争で丸太ん棒をぶん回して機動隊と戦ったWILDなお袋(上高涼楓〈かみたかすずか〉さん)。貧乏だったが米軍ハウスで暮らした少年時代。(主人公の少年時代役は天野ユウ氏)。あの頃は誰もが『あしたのジョー』に憧れた。父が始めたボクシング・ジムでボクサーへと前のめりで走り出す。
PBB(パーフェクト・ビッグ・ボクシング)にPPP(パーフェクト・プリティ・プロレス)というネーミングセンス。挿入される新興女子プロレス団体のエピソードはつかこうへい風味。園山ひかりさんが凄く良かった。
「この街は軍用機の音でいつも話が遮られる。」
山口勝平氏がやたら格好良すぎる。サム・ペキンパーの苦味。人生って奴は栄光や夢へと駆け登る甘い子供向けのは第一部、序章に過ぎず、本篇は第二部からなんだ。転落して何もかも失って惨めに生き長らえる。誰もが去っていく。もう体面も糞もない。生活していかなくちゃ。払うものを払わなきゃ。
一番好きなシーンは郷里に戻り、かつて住んでいた米軍ハウスに寄ると今ではコーヒーショップになっている。店を経営し画家でもある青井はれる(松浦裕美子さん)との邂逅。ここのシークエンスがまさに映画。作家の込めたものが凝縮してある。
魚建氏の丹下段平も最高。
遠藤純一氏は佐村河内守に見えた。
日替わりゲストのインフルエンサー役、桜咲千依(おうさきちよ)さんも狂っていた。凄くリアル。
ガッチリした脚本、第二部は文学だ。次回は来年5月に朗読劇!勿論これも観たくなる。