ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

641-660件 / 864件中
アナと雪の女王

アナと雪の女王

劇団四季

JR東日本四季劇場[春](東京都)

2021/06/26 (土) ~ 2024/10/31 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

第一幕70分休憩20分第二幕55分。

センター最前は4列目から、サイドは3列目から。
マスクをしないおばちゃんをひたすら説得している女性係員の受難。
劇団四季ビギナーには今作が一番良いと思う。普通に誰が観ても面白い。チケットは高いし取りにくいが、小学生の娘さんなんかに是非観せてあげて欲しい。「ミュージカル最高!」な気分で帰れる筈。実際、ミュージカルは死ぬ程面白いもの。子供の頃に味わったあの感覚は人生の底流に流れ続け、この世界への根拠なき肯定感にきっと繋がることだろう。

開幕早々、少女時代のアナ(三上さくらさん〈8歳!〉)とエルサ(服部菜々美さん〈『LADYBIRD,LADYBIRD』2019を観ていた!〉)の歌声が余りにも素晴らしく、ガチガチに本気の作品だと身構えた。2.5次元の気楽な感じではなく、真剣にあの映画を舞台で再現しようとしている。どこまでやる気なのか?映画が世界的大ヒットの誰もが知っている名作なだけにその心意気に興奮する。氷の魔法の表現の美しいこと。
大人のアナ(三平果歩〈さんぺいかほ〉さん)がまた凄い。これだけ歌が上手いと気持ち良いだろうなあ。触れるもの全てがメロディーになるミダス王のような。服を着替えたりアクロバティックなダンスを踊りながらも変わらぬ完璧な歌声。口パクかと思う程の完成度。
大人のエルサ(岡本瑞恵さん)は第一幕のラストに皆が待ち焦がれた「レット・イット・ゴー~ありのままで~」が炸裂。青いドレスに一瞬で早変わりするその刹那、ゾクゾクする名シーンが。
中野高志氏のスヴェン(トナカイ)も素晴らしい存在感、瞬きが優しい。
子供が一番盛り上がるのは、小林英恵(はなえ)さんのオラフ。操る人形と同じ表情をしてみせてくれる。
オーケン(竹内一樹氏)の伝えるヒュッゲ(デンマーク語ノルウェー語で「居心地の良い快適で陽気な気分」なライフスタイル)も作品の奥行きを拡げる。
三上さくらさんは隠れびとのアンサンブルも(多分)兼任。紛れもない天才、必見。

プーチンのウクライナ侵攻のニュースを散々見せられている時なだけに、鳴り止まぬカーテン・コールとスタンディング・オベーションは目の前の舞台に向けたものだけではなかった。愛(他者への無心な思い遣り)が恐怖(自身のエゴと欲望)に打ち克つ寓話への超自然的信仰心に近い魂の昂揚が確かにあった。

ネタバレBOX

第二幕が駆け足でちょっと残念な感じもある。
誰が歌っても、松たか子さんの「レット・イット・ゴー~ありのままで~」が一番耳に残るのは声質のせいなのか?ずっと不思議に思っている。
ちなみに『アナ雪2』は同時期に公開された『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』と話の構造がそっくり(祖父の過ち、一族の過去の精算、選ばれた血統の意味。)で、ディズニー製作によるポリティカル・コレクトネスの弊害を感じた。余りに正義への制約が多過ぎて、やれる行動が限られてしまう。頭でっかちな正義も噓臭いもの。

アナの無邪気で自然なあどけなさ、やはり誰もが連想せずにはいられない神田沙也加さん。
神田沙也加さんが亡くなったことを知った日、SIONの名曲、『信号』の一節が頭の中をぐるぐる廻り続けた。追悼。

彼女はしあわせになった
雪がたくさんつもった夜に
溶けてなくなるその雪を
眺めていたのは誰
不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

文化庁・日本劇団協議会

ザ・スズナリ(東京都)

2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

母が森ようこさん、姉が山丸莉菜さん、アリスが紅日毬子(あかひまりこ)さん。自分の為にキャスティングしてくれたのかと勝手に思い込んで観ていた。歌にダンス、三方の幕に入った無数のスリットから飛び出す小道具。大きな脚立は死刑台にもなり、トランプのスートが入った大量のパイプ椅子は高く積まれて曲芸にも。下半身だけのマネキン、奈落を使った逆さまの上下感覚。童謡を器用にアレンジして白日夢を游ぐ追体験。曲と詩が抒情的で、投影される映像もセンス抜群。

郵便配達夫のチカナガチサトさんが小さくて可愛い。遠近感が狂う程、小顔。
死刑執行人、丸山厚人(あつんど)氏は美声、長身でカッコイイ。『続・荒野の用心棒』のジャンゴみたい。
ヴァイオリン弾きの田村龍成氏の華麗な演奏は最高、ずっと聴いていられる。
音楽担当も兼ねている諏訪創(そう)氏のドルサイナ(チャルメラ)演奏も素晴らしい。屋台のラーメン屋の呼び込みメロディーがジャズ調にアレンジされて哀愁を漂わせる名曲に。
ピアニカ(?)の清水ゆりさんに異常に見覚えがあるのだが、何の作品が思い出せなかった。調べてみると『ぞうれっしゃがやってきた』。その時も楽器多用で見事な演奏。
山丸莉菜さんが最高に可愛かった。御手製のフェルトの靴も素晴らしい。

石炭を積んだまま、砂漠に忽然と消えたキャラバン隊。その行方を探し続ける探偵(伊藤俊彦氏)。
父親(イワヲ氏)は嘗てブランコ乗りで失敗して地面に落下。人事不省の一週間を経た後、気付くとピエロになっていた。

永井豪の傑作『手天童子』を思わせる話だった。

ネタバレBOX

①砂漠から独立して共和国を名乗ったサーカス団の家族。そこに伝令が現われ、王政が復古して女王が戴冠したと告げる。女王の第一の仕事は共和国の最後の喜劇役者を処刑すること。父親が連行される。
②アリスは探偵と犬の協力で城内に忍び込み、囚われている父親と再会する。
③ライオンの王様と虎の王様に協力を仰ぐアリス。
④兄は空中ブランコを失敗して腕を折ってしまう。それはアリスの視線のせいであった。
⑤砂漠の死刑台で全ての謎を解くアリス。

父親が人事不省の間、母親はキャラバン隊の隊長と浮気。その時に身籠ったのがアリス。母親の不安な心が作った砂漠の穴の中にキャラバン隊は落ちてしまっていた。

『手天童子』では、無数に鬼が生まれ続ける修羅地獄のような鬼獄界の根源を主人公が探っていく。その正体は主人公の母親が幽閉された精神病院の壁に描き続ける殺戮し合う無数の鬼達の絵。それに気付いた父親が絵を壁ごとハンマーで砕く。鬼獄界は滅び、主人公は家族の元に戻る。母親のインナー・スペースこそが現実の地獄の正体であり、そこを和解救済することが物語の着地点になる。
今作もアリス一家のインナー・スペースを治癒する話なのでは。

前半は最高に面白いのだが、後半は飽きてくる。この手の話の終わらせ方の一様のつまらなさ。ミステリー小説じゃないんだから、種明かしをする必要は全くない。「何か変な夢だったな」でいいんじゃないか?長過ぎることと父親の行方などに全く興味が持てないことが原因か。でも前半は最高、また観たい。
母孵ル、

母孵ル、

fukui劇

劇場MOMO(東京都)

2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

Bキャスト【初春の夜】

気が違っている面々が織り成す病んだホームドラマ。妻が失踪し、居候が裏山で見つけた巨大な卵を持ち帰る。そこに家を出たまま音信不通だった娘が結婚相手と仲人を連れてやって来る。

元Jリーグの審判、家の主人は山崎良郎氏、味がある。
元警察署副署長、息子の嫁の片瀬直さんはてきぱきとこの空間を成立させていく熟練した手腕。
十年振りに帰って来た娘、七々原瑚子(ななはらここ)さんがエロ可愛い。まさか本物だったとは!
その兄、輩風味のポリスYouTuber、九島勇(くしまゆう)氏も魅力爆発、喋りが上手い。
不審な仲人の女、岩堀なみきさんは後半見せ場がギッシリ。

病んだ展開とマニア向けの笑いが完成度の高い舞台美術に立ち込める。ずっとニヤニヤしているだけの志賀耕太郎氏も良いし、ちょこちょこ男優口調になる久我真悟氏の細かい笑いもポイント。熊田修氏は手足が長い。今風のコント風味、下ネタ満載。

ネタバレBOX

底辺の企画AV女優が実家に帰るドキュメンタリー風味の作品を引き受けるネタ。
かなり面白いシチュエーション・コメディなのだが、クライマックスがダラダラして盛り下がる。岩堀なみきさんがカルト人気のカリスマAV監督で、女優を言葉責めで嬲り、心の殻をバリバリと剝がしていく。(モデルはバクシーシ山下?)。その長い遣り取りが平平凡凡で何だか静かに醒めていく感じ。(役者陣は好演)。そしてやっと訪れるオチが酷い。でもそこに至るまでは凄く面白かったのでかなり残念。Aキャストは話の展開も違うそうなので気になる。
チクリ、冬が胸をさす。

チクリ、冬が胸をさす。

ゴツプロ!演劇部

「劇」小劇場(東京都)

2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これを見逃す手はない。あっと驚く構成の妙。巧みな脚本に唸る。この世はまだまだ未知なる才能とアイディアに溢れ返っている。感心した。幾らでも物語を語る方法論に開拓の余地はある。
昔、「メロディーは出尽くした」と言われた音楽界だが、ハウス(DTM〈Desktop Music〉)が台頭しアレンジを変えることによって無限に選択肢は増えた。「物語は尽きた」とされた映画界にはタランティーノが登場し、種種雑多なる語り口の変化で更に奥行きが拡がった。
そんなことを今更思い起こす程、気持ち良く畏れ入った。お薦め。

氷や雪の中に蝋燭を灯す町のイベント、“雪灯り(ゆきあかり)”が名物の長野のペンションが舞台。幻想的な光が雪の白と夜の黒を溶け合わせ、無数のキャンドルが放つ神秘的な炎の揺らめきに世界は妖しく照らされる。願い事をすると、それはきっと叶うと云う。
ペンションを始めたばかりの男(久保俊貴〈としき〉氏)と今週でペンションを終業する女(林彬〈はやしあきら〉さん)、二組の物語が同時進行で語られる。下手にある階下と上手の階段を上った二階を役者陣は頻繁に行き来する。空間を立体的に活用、声だけのシーンなど上下左右かなり広く使われるステージ。
練りに練られた構成とスピーディーな暗転による場面転換、張り巡らされた伏線、上質なミステリーのような演出が見事。面白かった。

ネタバレBOX

葉山あかりさんは“大衆的な”加藤綾子のような丁度いい可愛らしさで舞台を彩る。おっとりした九條愛美(まなみ)さんには博多弁でがなる見せ場あり。(ビンタはぬるいが)。二つの空間を跨ぐような謎の女、汀紗(なぎさ)さんへの意味深な演出から、観客は少々注視して観ることとなる。

ラストは美しいが、「『桟敷童子』なら、この百倍は用意しただろうな」なんて思ってしまった。欲を言えば宗教的な厳かな力を意識させる伏線の種を丁寧に撒き、物語の収斂と共に説得力のある“卒業”を、約束された福音として降臨させたかった。それには音楽の使い方が重要。
救世の曲

救世の曲

絶対♡福井夏

Mixalive TOKYO・Hall Mixa(東京都)

2022/02/18 (金) ~ 2022/02/21 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主催で主演の福井夏さんが可愛い。八の字眉で目眩く表情变化、蒼井優系の美人。熱狂的固定ファンを抱えるだけの魅力がある。

大きな段ボール箱に腰掛けた福井夏さん。失踪した彼氏、マサヒロの従兄弟(北原州真〈クニマサ〉氏)の部屋にいる。従兄弟は少しすっとぼけた男で二人の会話はなかなか噛み合わない。マサヒロはバンドマンで彼女を連れて従兄弟の部屋に入り浸っていた。福井夏さんは「二人の会話に合わせていただけで楽しかった訳ではない」と告げる。従兄弟はマサヒロの真似をして、福井夏さんに対応の再現を求める。

とにかく福井夏さんが魅力的なので、チェキを2枚買った。後半ガラリとテイストが変わるので、お楽しみに。

ネタバレBOX

1987年に藤沢で起きた事件をモチーフにしている。ラストに福井夏さんが口ずさむのが「救世の曲」なのか?躍動的なダンスに昂揚する世界。
何かホンがちぐはぐな印象。心理療法の一つ、サイコドラマをもっと駆使して二人にいろんなキャラクターを演らせても良かったかも。
どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード

どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード

東京にこにこちゃん

シアター711(東京都)

2022/02/16 (水) ~ 2022/02/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

去年の5月にチケットを予約していたのだがコロナで中止。今回何とはなしに観てみたらかなり面白かった。(二回中止しているらしい)。竹熊健太郎や岡田斗司夫的な笑いが好きな人にはツボだと思う。オタク的分析による文化人類学系コメディ。恋愛シミュレーションゲーム(現ギャルゲー)のパイオニア、『ときめきメモリアル』の世界をリスペクトしており、そんなVRゲームの中に主人公(釜口恵太氏)が入って行く。その手のゲームに嵌った経験を持つ人には堪らない風景が広がり、ニヤニヤしっ放しのネタ満載。上からさっと降りてくる白い幕が場面転換に効果的で、投影されるゲーム画面もそれ風でセンス有り。テンポが良いので飽きずに転がり、超満員の客席は笑いの渦に揺れる。よっぽど期待値が高かったのか、開演前から熱気が凄い。作り手と演じ手の善なるフォースが、荒んだ心を和らげ好意的な受け手を作り上げた。

主人公は転校生となって高校生活を送り、卒業式後、伝説の桜の樹の下で登場人物の一人に告白する。キャラは多種多様で攻略フラグがかなり難しい。保健室の先生(踊り子ありさん)からヒントを貰い、選択肢を選んでいく。
同級生役の四柳智惟(よつやなぎともただ)氏のキャラがバカリズムを彷彿とさせる毒舌連発でかなり面白い。担任の教師役の鳥島明氏も強烈。釜口恵太氏の実直な優しさに貫かれたキャラが、ラストに観客喝采の名シーンを呼び起こす。虚構に恋したことのある全ての人々に捧ぐ。お薦め。

ネタバレBOX

キャラクター達が観に行く映画の公開年からゲーム内は94〜95年を舞台にしている。開演前SEに延々流される大塚愛といい、世界観がやたら懐かしい。

ゲーム内のキャラ達にもそれぞれ自我があり、プレイヤーがいない時には素に戻って本音を語り合っている。
正統派ヒロイン赤猫座ちこさん攻略シーンは全てスキップと云うギャグも大受けだった。
短編を長編化した為に、中盤のルーティーンワークは引き延ばしたように中弛みしてしまう。もう一捻り必要か。
ゲーム世界から消去されていくキャラクターの演出がイマイチ。黒子の手に持つ黒幕はもう少し工夫するべき。(バグのようにズタズタにされても良いと思う)。テンポも悪くグダグダしているので、音楽と照明でクライマックスをもっと盛り上げたい。理想は『THE END OF EVANGELION』の人類補完計画。

それにしてもラストの踊り子ありさんと釜口恵太氏のキスシーンは見事。文句なしの絵だった。

「ミッドナイトタイムライン」Have a Nice Day!
SLAPSTICKS

SLAPSTICKS

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2022/02/03 (木) ~ 2022/02/17 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕75分休憩25分第二幕80分。

1939年、デブ君の愛称で大人気だったロスコー・アーバックル(金田哲氏)のリバイバル上映の企画を、配給会社のデニー(元木聖也氏)にプレゼンしているビリー(小西遼生氏)。全く興味を持たないデニーに、ビリーは自分が助監督として参加していた18年前のサイレント映画黄金時代の日々を語り出す。チャップリンを育てたハリウッド喜劇映画の王様、マック・セネット監督(マギー氏)のもとに潜り込み数々の伝説のスター達との邂逅。監督の嘗ての恋人でもあった憧れの女優メーベル・ノーマンド(壮一帆〈そうかずほ〉さん)はその頃はコカイン中毒に。若き日のビリー(木村達成氏)がサイレント映画に捧げた青春。そして運命の1921年9月3日、「ハリウッドの笑いが止まった日」が訪れる。

ビリーの当時の恋人、サイレント映画のピアノ伴奏者のアリス(桜井玲香さん)が魅力的。この二人のささやかなロマンスが遠く懐かしきセピアの郷愁となりサイレント映画の興亡とだぶっていく。

サイレント映画ばかり観ていた時期もあり、かなり好きなネタなのだが何故か面白くなっていかないもどかしさが続く。配役のせいなのか、構成のせいなのか、もっと盛り上がる筈の場面が淡々と過ぎていく。命懸けのサイレント喜劇映画の狂気の核とは、死屍累々の無名のスタントマンの生き様あってこそ。『雨に唄えば』や『蒲田行進曲』のように。どうもその辺がごっちゃになっているような。KERAのオリジナルは知らないが、翻訳が上手く行っていない海外ミステリー小説を読むようなぎこちなさ。凄く面白い物語が無駄に煩雑なややこしさに阻害されて、観客のもとに届く時にはイマイチ楽しめないものに成り代わる。時折スクリーンに映写される本物のサイレント映画の断片は素晴らしかった。

ネタバレBOX

「ハリウッドの笑いが止まった日」とは、ロスコー・アーバックルが若手女優ヴァージニア・ラップの強姦殺人容疑で逮捕された日のこと。このスキャンダル(冤罪)でロスコー・アーバックルは映画界から追放された。
ヴァージニア・ラップは慢性の膀胱炎を患っていた。アルコール多量摂取による泥酔と、それを醒まそうと介抱した者達が浴槽の冷水に入れたことが死因となった膀胱破裂の本当の原因らしい。
ロスコー・アーバックルは事件の12年後に心臓麻痺で死亡。

第二幕から時折、死んだヴァージニア・ラップ(黒沢ともよさん)が幽霊となって彷徨い歩く。何を言っても誰にも伝わらない無声映画の寂しさ。ラスト、彼女は観客に必死に何かを伝えんとする。その様子がスクリーンに投影されてフィルムは終わり暗転。
もう一度観てみたくなるような余韻。
女歌舞伎 さんせう太夫~母恋い地獄めぐり~

女歌舞伎 さんせう太夫~母恋い地獄めぐり~

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2022/02/06 (日) ~ 2022/02/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり自分の理想とする『山椒大夫』が観れた。小学生の頃読んだ『あんじゅとずしおう』が今もずっと心の奥深くに棲みついている。“人買い”、“人拐い”の恐怖。横田めぐみさんの事件を知った時、すぐにこの作品を連想した。騙されて攫われて、何十年も後に生き別れの家族と再会する物語。ハッピーエンドとは程遠く、仏教説話のような救いもない(多少あるが)。出演者全員女優の女歌舞伎を称し、アングラ小劇場オールスターズによる宝塚のような絢爛は好きな人にとっては堪らない御馳走であろう。スズナリにはこういう作品こそ良く似合う。

津軽三味線の駒田早代(さよ)さんがメタル・ギタリストのような速弾きを見せ、コンパクトな笏拍子(しゃくびょうし)を装着した河西茉祐(かさいまゆ)さんが説経節を唸る。黒子・飯田美千香さんが操る等身大の人形は美しき真白な地蔵菩薩。物語は開幕早々、拷問の末惨殺される安寿(えびねひさよさん)の生き地獄が眼前に展開。妖しき見世物小屋の歪み病み倒錯した頽廃美。石井輝男の代表作『徳川いれずみ師 責め地獄』を思わせる構成の妙。徹底した残虐非道ヒール役の三郎(諸治蘭〈もろじらん〉さん)は一周回った清々しさすら感じさせる生き様。
物語は過去に戻り、父に会いに陸奥国(むつのくに)〈福島県〉から筑紫国(つくしのくに)〈福岡県〉まで旅に出た一家の仲睦まじい様子が描かれる。母(山崎美貴さん)、安寿、厨子王(染谷千里さん、青年期は宮菜穂子さん)の何気ないひとときはこの話の唯一の安穏。誰もが何処かで何となく聞き知っている『山椒大夫』に流れる、実話を元にした故の血と肉の痛み。森鴎外は大正時代、小説にするに当たって残虐描写を悉く削った。今作は原典の中世説経節をモチーフとしていて表現に容赦が無い。

主催者の水嶋カンナさんは額に梵字の焼き印を入れられた下女役で、この世の苦しみに足掻く名も無き弱者の叫びを象徴する。会場の笑いを鷲掴みで掻っ攫ったのは丹後国分寺の律師役、伊藤弘子さん。彼女の登場から明らかに館内の空気は熱気を帯び、力尽くで後半戦に突入した。熱唱する『紅』がこれまた良い出来。
個人的MVPはさんせう太夫役ののぐち和美さんで、今役こそまさに彼女の嵌り役。彼女だけでも観に行く価値は充分。ベロンベロンに酔っ払えるデカダンスのひととき、まだ間に合う。

ネタバレBOX

「安寿恋しや、ほうやれほ。厨子王恋しや、ほうやれほ。」のメロディが秀逸。平安時代末期、遥か遠くの地にて(新潟県佐渡島)母の口ずさむ唄が人口に膾炙して二人のもと(京都府由良海岸)にまで辿り着く奇跡、確かにこの位メロディが強くなくては成立しない。作曲大貫誉氏、見事。

ロマン・ポランスキーの傑作にナスターシャ・キンスキー主演の『テス』がある。不幸な運命に翻弄され最期は絞首刑に処せられる主人公、テス。只々無力なだけの善良な女性であった。朝靄のかかった美しき野原のエンディング・ロールに被せられる献辞には「亡き妻、シャロンに捧ぐ」。いつかこんな『安寿と厨子王』が観てみたいもの。横田めぐみさんの母である横田早紀江さん(キリスト教プロテスタント系福音派)の物語はまだ続いている。
The leg line

The leg line

仮想定規

中野スタジオあくとれ(東京都)

2022/02/10 (木) ~ 2022/02/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

大雪警報で最悪の天候、しかし観に来る価値は充分にあった。「劇場の素晴らしさとは、その暗闇が観客一人ひとりの孤独すら覆い隠し、誰もがその刹那だけ自由になれること。」、素晴らしい哲学。まだまだショーは課題山積みだが役者一人ひとりが魅力的。何処かで観たことのある方ばっかりなのだが、一つとしてその作品に思い当たらなかったのは物凄く不思議な感覚。ルサンチマンのない寺山修司みたいな明るさ。曲は東京キッドブラザーズの小椋佳作品みたいに凄く耳に残る。『青ひげ公の城』的に一人迷い込んだ異邦人の目線から物語を綴っても面白いかも知れない。

劇場の地下に棲みつくファントム(持丸伸孝氏)の圧倒的舞踏で開幕。劇場ではブッキングライブの予定、かつての人気歌手(青木砂織さん)はトリを新人の女の子に変えられて不機嫌。楽屋を仕切るマネージャー(星達也氏)は皆にウーバーイーツ(星郁也氏)で弁当を差し入れ。挙動不審な見慣れぬ女性(末廣円さん)がうろつき、外は大嵐で出演者はなかなか到着しない。

星郁也氏は劇団ひとりに何処か雰囲気が重なる。ふたり芝居の『チンパンジーには見えない』を観たことがある。才能とやる気に溢れたかなり有望な若手、すぐに人気が出るだろう。個人的に末廣円さんの演技が大好物でずっと見ていられる。彼女の細かな仕掛けが秀逸。職人的な味のある役者が揃っていて前半の楽屋風景は三谷幸喜的に面白い。もっとこの空間を味わいたかった。

ネタバレBOX

英語字幕があったのか分からなかった。
後半、突如ステージが始まるのだがイマイチ楽しくない。そこが本当に残念。青木砂織さんの越路吹雪みたいな貫禄は流石。出演者が本当に楽しんでいるのが伝わってきて観てるこちらも嬉しくなる。
『銀河鉄道の夜』

『銀河鉄道の夜』

楽園王

サブテレニアン(東京都)

2022/02/02 (水) ~ 2022/02/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

3年半前、初演を観ている。受付の人が凄い綺麗で、舞台が始まるとヒロインの藤田早織さん(現・館山サリさん)であった。そんなことを思い出しつつ観ていたが、かなりの場面を覚えている自分に気付く。

今回のヒロインの日野あかりさんは真木よう子に見えたり、玉井詩織に見えたりとにかく美人。横顔の鼻のラインがやたら綺麗。役柄は主人公(政井卓実氏)の別れた元カノ、そののち事件に巻き込まれて亡くなったことを知らされる。そんな彼女が夢に現れ、「銀河鉄道に乗って私に逢いに来い。」と誘う。宮沢賢治の『銀河鉄道』の元となった岩手軽便鉄道(現・SL銀河)に思わず乗車するのだが···。

前回より美術や演出を簡略化して、シンプルに刈り込んだ構成。テンポよく観易いのだが、劇中劇が『銀河鉄道の夜』のダイジェスト風で、初演の辿々しい迷宮感が薄れてしまった。「自己犠牲の美学」のエピソードを並べてしまうと途端に話は安っぽく俗っぽく。原作の持つ深く謎めいた魅惑は作者にもはっきりとはしない無意識の想念の渦で、綺麗に解決しない不完全燃焼感が逆にずっと後を引く作品の核心。
死者の魂と世界の果てまで旅に出、鉄道の窓から目に映るのは神秘的な美しき世界の謎。最初から最後までジョバンニの胸の裡をエーテルのように充たしているのは決して癒えることのない蒼き悲しみ。

ネタバレBOX

主演の政井卓実氏は他の演者との掛け合いが浮いているような気も(狙いなのか?)。一人芝居のような雰囲気を醸し出す。
本作の一番重要なシーンは主人公とヒロインの別れ。とっくの昔に死んでいるので今更別れでもないのだが、「またどっかで偶然姿を見掛けることになると思っていたよ。遠くから『元気そうだな』って思うつもりでいたよ。」の台詞にサバサバとしたヒロインの笑顔。筋肉少女帯の名曲、『また会えたらいいね』が流れてくるような名シーン。「思い出はきっと悲しみと同じ成分なんだな」なんて浅井健一の気分に。いっその事ジョバンニすらも主人公に兼ねさせて、このシーンに全ての情念を集めた方が良かったかも。主人公と『銀河鉄道の夜』が上手くリンクしないもどかしさ。
チェーホフも鳥の名前

チェーホフも鳥の名前

ニットキャップシアター

座・高円寺1(東京都)

2022/01/26 (水) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素晴らしい。時間を置いてまた観たい傑作。これはまさしく映画で、舞台でこの感覚を表現するのは凄い。中南米の映画で同じ空気感を味わった記憶が多々ある。スペイン語圏の手触り。惜しむらくは、役者が何役も兼ね過ぎていて逆に勿体無い部分も。あの時代のあの時にしか存在しない人、と云う余韻が感じられない。あと人物説明が台詞頼りで下手。説明なんかなくても一族の子孫だと自然に感じ取れるようにしなくてはならない。ワジディ・ムワワドなんかはエンターテインメントを上手に取り入れて複雑な人物相関図を娯楽化してみせた。でも今作が大好きな映画ファンは多い筈。行ったこともない樺太に望郷の念を覚え、時間のたゆたう揺り籠に揺られ世界に酔いしれていく。タイトルはサハリン島を訪れては去って行く人々を渡り鳥に見立てたらしいが、センスが良い。村上春樹の短編みたい。

樺太を舞台にした作品と云えば、映画『樺太1945年夏 氷雪の門』(舞台版もあり)や最近では吉永小百合主演の『北の桜守』。終戦したかと思いきや、5日後、突然ソ連に侵攻されて恐怖の中逃げ惑い、絶望の中青酸カリを飲んで自決する女性達。民間人の引揚船をソ連の潜水艦が襲った「三船殉難事件」では1700人余りが殺戮された。当時は人口40万人、王子製紙の工場が立ち並び、国内の需要を賄い栄えた地。

全四幕、三時間、1890年から1980年代まで三世代に渡る激動の樺太(サハリン)に生きた人々の叙事詩。

美貌のロシア人(時には京都弁)一族の山岡美穂さんが一本の幹、とにかく華がある。ギリヤーク人(ニヴフ人)の血筋、高原綾子さんは何処にも属せない異邦人を象徴。朝鮮人の一族、仲谷萌さんは幕間のシーンで圧倒的な見せ場(一番印象に残るシーン)。千田訓子(せんだとしこ)さんはチェーホフに宮沢賢治サハリン墓参団と、樺太を訪れる来訪者となる。

下手では田辺響氏等のパーカッション、木琴、多種多様な民族楽器が効果音を奏でる。黒木夏海さんの透き通った唄声が美しく、ラストの歌はピタリと嵌った。

ネタバレBOX

幕間のソ連軍との交戦シーンは巨大な白い幕に影を投影して表現。そしてその白い幕が大地に敷かれると、その上を逃げ惑い走り続ける妊婦仲谷萌さん。爆撃が続く中、シーツの四隅が順番にウェーブされていき波立つその上を必死に走って行く。悪夢の表現として美しい。
命懸けで守られたその赤子は内地から40年振りに顔も知らない母に会いに樺太に来るのだが、仲谷萌さんは結局姿を現さない。現さないことが伝える余白の大きさ。
そしてラストに黒木夏海さんが歌うのは宮沢賢治の『星めぐりの歌』で、これしかない選曲。

チェーホフの『三人姉妹』のヴェルシーニンの台詞が何度も何度も繰り返される。「やがて貴方達の声が時代の中で掻き消されてしまったとしても、それでも貴方達の存在は何の意味もなく虚しく消えてしまう訳ではない。世界に何一つ影響を残さず終わっていく訳ではない。必ず貴方達の生きた痕跡は素晴らしい未来への礎となっていくでしょう。」(意訳)。

上演中、咳の止まらない観客が近くにいて、スタッフの方が「宜しければ席を移動されても構いませんよ」と声を掛けて下さった。どうも有難うございました。
おつかれ山さん

おつかれ山さん

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2022/01/26 (水) ~ 2022/02/01 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈Team葉〉
前半は教職員から見た高校風景。生徒側からしか見ていなかったので、いろいろと考えるところがあった。ストレスの坩堝、病んだ人間を寄せ集めたテトリス、適当にやっていかないと気が狂う日々。今作の主人公、山口教諭(﨑山新大〈ざきやましんだい〉氏)は演劇部の顧問に柔道部まで押し付けられ、趣味的に運営している小劇団だけが生き甲斐。幼い子供を抱えた妻(篠田美沙子さん)との関係も上手く行っていない。柔道部は怪我続き、演劇部は人間関係の悪化、担任のクラスは喫煙で処分者続出、イカれた保護者(岩堀美紀さん)が怒鳴り込む毎日。
このテンポこの感じ、ワンツーワークスを思わせる。高教組やその他類似団体ネタなど着眼点が良い。組合や運動に希望を掲げる教師(堺谷展之〈さかいやのりゆき〉氏)の言説はかなり興味深い。この環境では人はそうなってしまうのかも知れない。女教師役杉本玲緒奈さんがMAXのNANAとこじはるを足したような美人。演劇部部長役の齋藤舞佳さんのじとっとした目付きがリアルで良い。
淡々としたエピソードの積み重ねは全てクライマックスの一点に向かっており、観客衝撃のラストが待っている。オミクロン旋風で東京では感染者数14086人、感染症専門の教授森内浩幸氏の衝撃の発言、「今、風邪の症状がある人はもうコロナと思って結構です」。次々に公演中止が発表される舞台。山さんの至る境地に誰もが共感するのではないか。果たしてタイトルの台詞は誰が誰に発するものとなるのか?この怒涛のクライマックスだけでも必見。お薦め。

ネタバレBOX

ラスト、教頭の訪問時にチャイムが鳴らなかったような。全てにうんざりしてどうでもよくなる為に、もっと前半重くリアルでシリアスな空気感を醸成していた方が良かった。別の話のようにミスリードされ点々と散りばめられた伏線が、山さんの自宅で一本の線に繋がるカタルシスこそが今作の武器。前半のミスリードにもう少し工夫が必要か。
だからビリーは東京で

だからビリーは東京で

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

俄然『ビリー・エリオット』が観たくなる。(元は映画で邦題『リトル・ダンサー』)。普通の大学生が偶然貰ったチケットで初めて観たミュージカル。大興奮して役者になろうと劇団のオーディションを受ける。よく分からないまま受けた劇団はシュールで難解な作風により、客足が遠のいて久しい弱小小劇団。他に誰一人応募がなかった為、年12万と月々1万の劇団費を払えば誰でも入ることが出来た。劇団の作演出を担当する津村知与支(のりよし)氏が最高。何が面白いのか判らなくなり、もう書けなくなっている。小劇団あるある連発で未知の空間に放り込まれる主人公を観客も一緒になって体験していく。主人公役の名村辰(しん)氏がプロレスラー田村潔司の若い頃を彷彿とさせる純情さ。何かに憧れ何かを無心で目指す日々は人の魂を透き通らせていくようだ。
劇団員一人一人丁寧に描写され、子供の頃から幼馴染みの二人(伊東沙保さんと成田亜佑美さん)の積もり積もった確執も一つのキー。先の見えない未完成の稽古が続く中、コロナ禍が猛威を振るい、舞台と今現在がリンクしていく。
ラスト・シーンが最高。何度も観たくなる面白さ。超満員の客席、かなりのお薦め。

ネタバレBOX

アル中の父親役の古山(ふるやま)憲太郎氏が酔って暴力を振るうのだが、見事なアマレスムーヴ。
空鉄砲

空鉄砲

柿喰う客

ザ・スズナリ(東京都)

2022/01/14 (金) ~ 2022/01/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

気が狂っている。作家(中屋敷法仁)の脳内に力ずくでぶち込まれた観客が乗せられるのは妄想と情動のジェットコースター。『ミクロの決死圏』のようにインナースペースの至る所を猛スピードで駆け巡って行く。素舞台で着の身着のまま、三人の役者が語るのは家族と同性愛と虚構。何一つ解決しないミステリー小説と、映画化を口実にしたいつまでも撮影の始まらない極私的リハーサル。完全に気が狂っている令和型寺山修司は満杯の女性客で狂熱。

ネタバレBOX

ベストセラー連発の大御所ミステリー作家が自宅の風呂場で遺体として発見、死因はヒートショックと見られた。若き息子(永島敬三氏)はその父の死を映画化しようと試みる。長年父の愛人であった解体工(玉置玲央氏)は主演に無名の役者(田中穂先氏)を推薦する。役者は作家そっくりに整形を重ねた、解体工の腹違いの弟であった。映画の為の役作りと称して、自宅に役者を住まわせる息子。在りし日の再現を繰り返すうちに三人の脳内が現実と虚構の垣根を越え、死んだ作家=父=愛人=“兄を虜にした男”の仕掛けた大伽藍の性愛絵巻へと。

キーワードは「ケダモノの白い涎」と「弾の出ない由緒ある火縄銃」、「貴方の子供を作りたい」男と「空鉄砲」を持て余す男。元乃木坂の若月佑美さんと新婚ほやほやの玉置玲央氏のエロスが腐女子を惑わす。田中穂先氏が作家の役を演じるのだが、突然憑依するようで怖い。

個人的にはラストの歌(KinKi Kidsの『Kissからはじまるミステリー』)とアフタートークが作品の余韻を掻き消してしまうようで少し勿体無い気も。何か有りがちな風景に観客はほっとしてしまい予定調和の安心を得てしまう。妄想なら妄想でキッパリ叩き付けてさっさと終幕しても、それも一つの立派なファン・サービスだろう。

作家の産まれてくる息子への想いを込めた作品は変態的な内容となり、世間の評価は低かった。それを本屋で立ち読みした中学時代の解体工は、異様に興奮し精通に至る。「ケダモノの白い涎」を垂らしたことをファンレターにて作家に告白。数年後その作品が映画化するとなってオーディションで役を勝ち取る。しかし彼を一目見た作家は業界に圧力を掛けて芸能界を追放させる。理由は「一目惚れ」だった。彼を愛人にして情事に耽る作家。金を一切仲介させないことが二人の歪な関係性を更に特別なものとするプレイへと。作家の息子は母を亡くし、愛人の下に入り浸り帰って来ない父に孤独を募らせる。ある日父から見せられた先祖代々伝わる由緒ある家宝の火縄銃、それを抱いたまま布団に入り興奮、精通に至る。十五の夜、父と解体工を密室に閉じ込めて性行為を見せることを強要。歪んだ性癖は父を媒介にした純愛か。

挿絵画家の石原豪人と彼の絵に性的興奮を植え付けられた「自殺サイト殺人事件」の前上博の関係を想起。
女性向けの同性愛であって、男性的には物足りないのがやや不満。(その気のないこちらもベロンベロンに興奮させて欲しかった)。石原豪人の名言に「女はホモの美少年を見ると濡れるんです。」と云うのがあるが、きっとそれは真理なのだろう。

こういう形態の作品が成り立つのは小劇場演劇の特権。商業演劇、TVや映画になると説明を求められ、理路整然とした納得を要求される。舞台は作家のぶつぶつとした独り言を複数の役者で彩りを添えただけだと観客は理解しているので、受け止める度量が深い。このレベルの語り口を当たり前のように許容する観客の熟練度に拍手。
令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~

令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~

虚飾集団廻天百眼

ギャラリーo2(東京都)

2022/01/16 (日) ~ 2022/01/27 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

バーのカウンターの前で、台本片手の朗読劇。コスチュームが凝っていて荒れ地の三人の魔女なんてSMの女王様風味のボンデージ・ファッション。語られる物語は『マクベス』そのままで、時折『ハムレット』のオフィーリアの話題が出てくるのみ。目黒鹿鳴館のギスギスした雰囲気かと思いきや、役者もスタッフも観客陣も人柄が好く、居心地の良い優しい空間。これはまた観に来たくなる感じ。

挟み込まれたチラシのイメージから、J・A・シーザー調の歌をヴィジュアル系にアレンジしたLIVEが展開されるんだろうと勝手なイメージを持っていたが全く違った。「いつか観に行こう」と思ってはいたが、“いつか”なんて一生訪れることはないのが真理。無理して観に行く以外に道はなし。

ネタバレBOX

ラスト、死を望むマクベスは『女の腹から産まれていない男』を探し求める。「どいつが俺を殺してくれるのか?」と楽しみに待つがそんな奴は誰もおらず、到頭生き延びてしまう。そこからは寺山修司風のポエトリーリーディングが始まって終劇。何か中途半端な『マクベス』朗読劇だったかな。女優が誰が誰だかさっぱり判らず、後で名前を知って驚いた。

『マクベス』と云えば黒澤明の『蜘蛛巣城』とロマン・ポランスキーの作品が決定版で、他に何を観ても物足りない。幸せになる筈の行動がどんどん自分を不幸に追い詰めていく様。幸せとは欲望の現実化ではないことを諭す。
恋愛論

恋愛論

動物自殺倶楽部

イズモギャラリー(東京都)

2022/01/11 (火) ~ 2022/01/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何にも情報を入れずに観た方がいい。何が面白いのかを熟知している手腕。金が取れるプロの仕事。大手拓次(たくじ)の『動物自殺倶楽部』と云う詩から劇団名を取っているが、その詩の内容は陰惨な獣達の自死の風景を淡々と叙述するもの。恐るべし高木登。

ネタバレBOX

「ルッキズム」がテーマのように見せ掛けているが、多分違う。この劇団『動物自殺倶楽部』の紹介のようなもので、「こんな感じで半分ふざけてやっていきますよ」と云うことだろう。シリアスな作風は『鵺的』が担うが、零れ落ちるアイディアをここで華咲かせていく。「夜会行」のパロディーのようにも見えた。セルフ・パロディーと自虐ネタ満載で、観客はニヤニヤニヤニヤしっ放し。“役者”や“演劇”や“観客”まで全て引っ括めてネタにして笑い飛ばしてみせる力量。
野花紅葉(のはなもみじ)さんがやたら綺麗だった。赤猫座ちこさんはセルフ・イメージをパロっている感じ。小西耕一氏はキモい演劇論を振りかざすステレオタイプなイタい役者を好演。金子鈴幸氏は弁舌の立つ理論的なダメ演劇人を見事に肉体化。

赤猫座ちこさんの突然の一般人との結婚により、捨てられた演劇人達が彼女の部屋で未練タラタラ。役者引退作を高木登主導の作品でやると言うが···。
朝ぼらけ

朝ぼらけ

teamキーチェーン

吉祥寺シアター(東京都)

2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

自閉スペクトラム(連続体)症とは、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」の三つに分類される。その中で知的障害を伴う者を「自閉症」と現在では呼んでいるらしい。(この辺、定義が不明確な為、はっきりしていない)。障害者の兄弟姉妹である、「きょうだい児」と云う言葉を初めて知った。

障害のある息子(山中雄輔氏)の自立を促す為に自宅を改装した八百屋で働かせているモロ師岡氏一家。そこにバイトで田中愛実(あみ)さんが入ってくる。知的障害者への偏見、蔑視、敵意がそこら中に渦巻く世間。そこで織り成す日常の物語。

自閉症の山中雄輔氏、更に重度の暴力を伴う自閉症のマナベペンギン氏の熱演。『聖者の行進』のイメージからか、いしだ壱成、そしてキャラクター的に香取慎吾を想起。ピョンピョン飛び跳ねるポゴダンスは甲本ヒロトの痙攣ダンスを思わせる。嘗てブルーハーツがNHKに出た際、観ていたファンの母親が「こういう人達も一生懸命頑張っているのねえ」と涙ぐんだエピソードを思い起こす。

安未紗さんがエロいキャバ嬢みたいになっていた。思えば寺山修司作品以外の彼女を初めて観た。これはこれで魅力的。常連のお客さん役宮永薫さんが綺麗だった。

ネタバレBOX

周囲で軽度の知的障害者が結構働いていて、彼等の行為にうんざりする現実がある。彼等を見ていて思うのは、人に好かれる嫌われるは知能の問題ではなく、個々の人間性なのだろうと云うこと。
自分は偏見の塊の為、この手の作品に素直に感動することが出来ない。(何某かの障害があるのかも?)。ただ、隣の男性客が声を震わせて号泣するような作品であった。障害者から目を背けずに真っ直ぐに一つずつ何度でも少しずつでも心を通わせていこうとする現実的な物語。気の遠くなるような苦悩の果てにほんの少しの笑みが零れる。介護と一緒で自分の身に降りかからないと(自分の物語だと自覚しないと)本当の意味では理解は出来ないのだろう。正解は無い。あるのは日常だけ。モロ師岡氏が言う名台詞。「未来を考えていたら私達は生きていけないのですよ。今日一日を生きていって、その先にあるのが未来なんです。」

この手の作品で一番衝撃を受けたのが、韓国映画『オアシス』(イ・チャンドン監督)。重度の脳性麻痺のヒロインとの恋愛話なのだが、もうこのジャンルでこれ以上の作品は作れないのではないか?と思った。
赤目

赤目

明後日の方向

インディペンデントシアターOji(東京都)

2021/12/29 (水) ~ 2021/12/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕70分休憩10分第二幕80分。
白土三平の紙芝居時代から貸本劇画時代への変遷期を、劇中劇としてマニアックな初期作品『赤目』と共に綴る。白土三平の会話の内容がかつての左翼文学っぽく、自省的でちょっと難解。何かを言おうとすると「いや違う。本当は僕はそう思ってはいない。」的に自らすぐに打ち消しにかかる。独り言のように繰り返される自問自答。1967年に書かれた斎藤憐(れん)のこの作品を白土三平は観たのだろうか?
1958年(昭和33年)、紙芝居画家の白土三平(直江里美さん)は金野(こんの)新一(野村亮太氏)の下で共同生活をしながら働く。しかし、テレビの普及に伴い紙芝居の人気はどんどん落ちていく一方。仲間の瀬川拓男(渡邊りょう氏)は指人形劇団太郎座を率いて全国を巡業している。(実際の時代とは3年程ずれている)。後に妻となる李春子(百花亜希さん)がそこに移り住んでくる。紙芝居屋に人生を賭けると言っていた満州帰りの吉やん(國松卓氏)はある朝書き置きをして去って行く。貸本漫画家の誘いを受けつつも紙芝居による表現に拘る白土三平。上野国(こうずけのくに)〈群馬県〉の義民・磔茂左衛門(はりつけもざえもん)を描いていく。将軍に農民の窮状を直訴した罪で、妻子もろとも川原で磔刑に処せられた郷土の英雄。そのうち、白土三平は自分が描きたいものがどうも違うことに気付き出す。「物事の結果がどうであるかはどうでもいいんだ。大事なのはその過程で、具体的に何をしたのか?なんだ。」

『ドップラー』の主演で印象を残した國松卓氏はいつも汗だくで目が座っている。何か痩せたような。百花亜希さんは観る度に役柄の纏うイメージが違うので、一体どんな女優なのか未だに掴めない。今作のような陰々滅々たる物語には彼女の明るさが必須。キーボードコンダクターの後藤浩明氏とコントラバス奏者の藤田奏(すすむ)氏の生演奏が最高だった。
新聞紙を上手に使った美術、段ボールの紙芝居、「金は無いがアイディアは有る」気概。

ネタバレBOX

白土三平の『赤目』が劇中劇として挿入。領主信平の圧政に耐えかねた百姓・松造(菅野貴夫氏)達は蹶起し、一揆を起こすも種子島(火縄銃)の前に悉く敗れる。身重の妻を惨殺された怨みを抱いたまま、何とか生き延びる松造。忍者に拾われ数十年修行を積むも、「才能なし」と大怪我をしたまま打ち捨てられる。山猫の大群に襲われたところを猟師に助けられるも、片目と片脚を失う。自分を救ったものが因縁の種子島であった事に項垂れる。猟師の言葉、「餌である“赤目”がいないせいで山猫が人を襲う」にピンと来る松造。「赤目」とは兎のことである。
郷里の村に帰り、廃寺に棲み着く松造はいつしか「上人」と呼ばれるようになる。松造は「赤目教」と云う兎を崇める新興宗教を広めていく。段々と「赤目教」は広まり、村人が兎を殺さなくなった為、兎は増え続ける。兎を餌とする山猫も増え続けていくも、今度は兎の食べる野草が無くなる。無理して何でも食べようとしたせいで、疫病が発生し兎は大量死。松造は人の死体を山猫に食わせ、味を覚えさせる。飢えた山猫は無差別に人間を襲うようになる。領主信平は百姓達に種子島を渡し、山猫駆除を命ず。それを手にした百姓達はくるりと踵を返すと、種子島を城に向ける。

3年後、大人気の劇画家として成功を収めた白土三平に、瀬川拓男は『赤目』のラストを褒め称える。「民衆が主人公となって初めて自らの意思で銃を権力に向けたんだ。このラストは君にしか描けない。」
それを否定する白土三平。「本当のラストシーンなど誰にも描けない。」、筆を手に狂ったように加筆していく。一揆が成功して勝利の歓喜に沸く百姓達。復讐を遂げた松造は「まだ何も終わってはいない!今から始まるのだ!」と檄を飛ばす。ポカンとする群衆。狂ったように皆に斬り掛かる松造に「上人様が狂った!」と逃げ惑う人々。「まだだ!まだだ!まだだ!まだだ!」と暴れ続ける松造と「松造!狂え!狂うんだ!」と描き続ける白土三平で終幕。

原作の『赤目』のラストは、領主信平の首をぶら下げた松造が気がふれて何処かに歩き去って行くもの。

難解な作品だが、ラストの昂揚は素晴らしい。
『脱兎を追う』

『脱兎を追う』

楽園王

d-倉庫(東京都)

2021/12/21 (火) ~ 2021/12/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

☆白組
日暮里の名・小劇場、dー倉庫の閉館日。観易くていい小屋だった。これで日暮里に来ることは無さそう。
開演前の舞台上から、淹れたコーヒーを飲みながら古きタイプライターで執筆中の本堂史子さん。この劇団は音楽の使い方が抜群で、選曲が素晴らしい。その部屋に訪れる妹の林美月(みづき)さんは宇多田ヒカル似で時折水川あさみっぽくもある美人。この二人の遣り取りが秀逸で、「夢の中で飛び降り自殺をした現場に行きたい」と妹は言う。崩壊した家庭の生き残り、自殺願望のある妹。姉はそのこと自体を執筆中の舞台のシナリオに取り入れながら、入れ子構造の物語は続いていく。

ネタバレBOX

自殺の名所であり、心霊スポットにもなっている集合団地の三号棟。靴を脱いで屋上に立つのはイトウエリさん。それをじっと覗き見ているのは、ドッペルゲンガーか死神か謎が謎を呼ぶ存在のあべあゆみさん。イトウエリさんがなかなか飛び降りないので、あべあゆみさんは到頭促しに姿を現す。イトウエリさんが死んだら『代わりの女』となって、彼女の人生を引き継ぐらしい。「それは御免だ」と揉める二人。更にそこにやって来るのが飛び降りに来たハイジ・アーデルハイド(黒田智栄さん)と止めに来たクララ・ゼーゼマン(加藤彩さん、怪演!)。ドタバタが続いて行く。

結局、あべあゆみさんが飛び降り、イトウエリさんは彼女の『代わりの女』として生きていくこととなる。どうも彼女の魂は林美月さんを兼ねているようで、ここから生きていくことを力強く宣言する。

本堂史子さんと林美月さんの紡ぎ出す世界が素晴らしかっただけに、後の二組の話は同じ作家が書いたとは思えない雑さ。時間を埋める為のコントか?会話の内容も低レベル。残念極まりない。
マンホールのUFOにのって

マンホールのUFOにのって

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演前、毛むくじゃらの謎の着ぐるみの男(大垣友〈ゆう〉氏)がアコギを爪弾き出す。やたら巧い。その後、開幕すると舞台上手に座り、鍵盤楽器を奏でる松本みゆきさんと劇伴を生演奏。
前半は高橋留美子調のラブコメで、冴えない大学生の主人公へちま(宮地洸成〈ひろなり〉氏)がやたらめったら癖のある女の子にもてまくる展開。へちまの彼女の遥(小久音〈さくね〉さん他)は自称(?)宇宙人で、複数の役者が交替制で演じていく。UMA研究会会長の若葉(早舩聖〈はやふねひじり〉さん)、レディースの渚(御飯ゆかりさん)。
不思議な遥に夢中な優しいへちま。彼女から預かった大切なガチャガチャのカプセル。絶対に開けてはいけないそれを到頭開ける時が来る。
遥&猫役の小久音さんが可愛かった。

クライマックス、大垣友氏のオリジナル曲『マンホールのUFOにのって』が炸裂。これが胸を打つ名曲で、この舞台はこの一曲を奏でる為にあったことが分かる。全てのシーン全てのエピソードがこの一曲に凝縮されていく素晴らしい演出。

昔凄く仲が良かったが喧嘩別れした奴と、何十年振りかに思わぬ場所でばったり再会。流れで飲みに行って久方振りに矢鱈盛り上がり、御機嫌で店を出て「じゃあな」と二人別れて行く。そしてお互い共もう二度と会うことはないことを知っている。そんな舞台だった。
「寂しがれたのさ、君が傍にいた。ばっちり世界は幸せに溢れてんのな。」 The ピーズ 『手おくれか』

28日から隣の「駅前劇場」でも劇団の別作品を同時公演。日程が合えばこれも行きたかった。是非観た方が良い。

ネタバレBOX

後半は15年後の遥(松本みゆきさん)と、ナマケモノとへちまのカサブタから採取したDNAを交雑して誕生した“えにし”(大垣友氏)の物語。えにしはアコギを肩に掛け、人語を解す。喋れるチューバッカのような存在。遥は自らへちまに別れを告げ去って行ったものの、ずっと彼のことが忘れられず引き摺っていた。遥の親友でもある元レディースの伝説の総長、紫(宍泥美〈ししどろみ〉さん)が帰郷して来る。(芸名は宍戸留美のパロディーか?)。紫と「喫茶さざなみ」のマスター(久間健裕〈たけひろ〉氏)との恋模様。えにしの独り立ち。マンホールはきっとワープゾーンで、望んだ場所に連れて行ってくれる筈。へちまとの再会。

中学時代、屋上で小さなUFOを捕まえた遥はそのまま落ちていく。『ラピュタ』の飛行石を手にしたシータのようにゆっくりと。そこで紫と出会う。UFOに乗っていた宇宙人は紫に恋をする。遥はUFOをガチャガチャのカプセルに入れ、自分が他人とは違う特別な存在であることの証明として隠し持つ。大学に入り、へちまと付き合い出し、へちまにカプセルを預ける。二人の関係が終わる頃、遥に促され到頭カプセルを開けるへちま、中には何もない。矢張り自分は特別な存在でも何でもないことを認めた遥は大学を辞め、へちまの前から姿を消す。実はUFOはとっくの昔にそこを抜け出ており、宇宙人は人間型に擬態し「喫茶さざなみ」のマスターとなっていたのだった。

何人もの役者で演じることにより、遥はへちまにとって掴みどころのない女の子に見えることを巧みに表現。遥の行動言動は全て思春期の厨二病のように思わせて、きっちりとSFでもある。胸に残るラブ・ストーリーだった。

このページのQRコードです。

拡大