
アナと雪の女王
劇団四季
JR東日本四季劇場[春](東京都)
2021/06/26 (土) ~ 2024/10/31 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
第一幕70分休憩20分第二幕55分。
センター最前は4列目から、サイドは3列目から。
マスクをしないおばちゃんをひたすら説得している女性係員の受難。
劇団四季ビギナーには今作が一番良いと思う。普通に誰が観ても面白い。チケットは高いし取りにくいが、小学生の娘さんなんかに是非観せてあげて欲しい。「ミュージカル最高!」な気分で帰れる筈。実際、ミュージカルは死ぬ程面白いもの。子供の頃に味わったあの感覚は人生の底流に流れ続け、この世界への根拠なき肯定感にきっと繋がることだろう。
開幕早々、少女時代のアナ(三上さくらさん〈8歳!〉)とエルサ(服部菜々美さん〈『LADYBIRD,LADYBIRD』2019を観ていた!〉)の歌声が余りにも素晴らしく、ガチガチに本気の作品だと身構えた。2.5次元の気楽な感じではなく、真剣にあの映画を舞台で再現しようとしている。どこまでやる気なのか?映画が世界的大ヒットの誰もが知っている名作なだけにその心意気に興奮する。氷の魔法の表現の美しいこと。
大人のアナ(三平果歩〈さんぺいかほ〉さん)がまた凄い。これだけ歌が上手いと気持ち良いだろうなあ。触れるもの全てがメロディーになるミダス王のような。服を着替えたりアクロバティックなダンスを踊りながらも変わらぬ完璧な歌声。口パクかと思う程の完成度。
大人のエルサ(岡本瑞恵さん)は第一幕のラストに皆が待ち焦がれた「レット・イット・ゴー~ありのままで~」が炸裂。青いドレスに一瞬で早変わりするその刹那、ゾクゾクする名シーンが。
中野高志氏のスヴェン(トナカイ)も素晴らしい存在感、瞬きが優しい。
子供が一番盛り上がるのは、小林英恵(はなえ)さんのオラフ。操る人形と同じ表情をしてみせてくれる。
オーケン(竹内一樹氏)の伝えるヒュッゲ(デンマーク語ノルウェー語で「居心地の良い快適で陽気な気分」なライフスタイル)も作品の奥行きを拡げる。
三上さくらさんは隠れびとのアンサンブルも(多分)兼任。紛れもない天才、必見。
プーチンのウクライナ侵攻のニュースを散々見せられている時なだけに、鳴り止まぬカーテン・コールとスタンディング・オベーションは目の前の舞台に向けたものだけではなかった。愛(他者への無心な思い遣り)が恐怖(自身のエゴと欲望)に打ち克つ寓話への超自然的信仰心に近い魂の昂揚が確かにあった。

不思議の国のアリス
文化庁・日本劇団協議会
ザ・スズナリ(東京都)
2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
母が森ようこさん、姉が山丸莉菜さん、アリスが紅日毬子(あかひまりこ)さん。自分の為にキャスティングしてくれたのかと勝手に思い込んで観ていた。歌にダンス、三方の幕に入った無数のスリットから飛び出す小道具。大きな脚立は死刑台にもなり、トランプのスートが入った大量のパイプ椅子は高く積まれて曲芸にも。下半身だけのマネキン、奈落を使った逆さまの上下感覚。童謡を器用にアレンジして白日夢を游ぐ追体験。曲と詩が抒情的で、投影される映像もセンス抜群。
郵便配達夫のチカナガチサトさんが小さくて可愛い。遠近感が狂う程、小顔。
死刑執行人、丸山厚人(あつんど)氏は美声、長身でカッコイイ。『続・荒野の用心棒』のジャンゴみたい。
ヴァイオリン弾きの田村龍成氏の華麗な演奏は最高、ずっと聴いていられる。
音楽担当も兼ねている諏訪創(そう)氏のドルサイナ(チャルメラ)演奏も素晴らしい。屋台のラーメン屋の呼び込みメロディーがジャズ調にアレンジされて哀愁を漂わせる名曲に。
ピアニカ(?)の清水ゆりさんに異常に見覚えがあるのだが、何の作品が思い出せなかった。調べてみると『ぞうれっしゃがやってきた』。その時も楽器多用で見事な演奏。
山丸莉菜さんが最高に可愛かった。御手製のフェルトの靴も素晴らしい。
石炭を積んだまま、砂漠に忽然と消えたキャラバン隊。その行方を探し続ける探偵(伊藤俊彦氏)。
父親(イワヲ氏)は嘗てブランコ乗りで失敗して地面に落下。人事不省の一週間を経た後、気付くとピエロになっていた。
永井豪の傑作『手天童子』を思わせる話だった。

母孵ル、
fukui劇
劇場MOMO(東京都)
2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
Bキャスト【初春の夜】
気が違っている面々が織り成す病んだホームドラマ。妻が失踪し、居候が裏山で見つけた巨大な卵を持ち帰る。そこに家を出たまま音信不通だった娘が結婚相手と仲人を連れてやって来る。
元Jリーグの審判、家の主人は山崎良郎氏、味がある。
元警察署副署長、息子の嫁の片瀬直さんはてきぱきとこの空間を成立させていく熟練した手腕。
十年振りに帰って来た娘、七々原瑚子(ななはらここ)さんがエロ可愛い。まさか本物だったとは!
その兄、輩風味のポリスYouTuber、九島勇(くしまゆう)氏も魅力爆発、喋りが上手い。
不審な仲人の女、岩堀なみきさんは後半見せ場がギッシリ。
病んだ展開とマニア向けの笑いが完成度の高い舞台美術に立ち込める。ずっとニヤニヤしているだけの志賀耕太郎氏も良いし、ちょこちょこ男優口調になる久我真悟氏の細かい笑いもポイント。熊田修氏は手足が長い。今風のコント風味、下ネタ満載。

チクリ、冬が胸をさす。
ゴツプロ!演劇部
「劇」小劇場(東京都)
2022/02/23 (水) ~ 2022/02/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これを見逃す手はない。あっと驚く構成の妙。巧みな脚本に唸る。この世はまだまだ未知なる才能とアイディアに溢れ返っている。感心した。幾らでも物語を語る方法論に開拓の余地はある。
昔、「メロディーは出尽くした」と言われた音楽界だが、ハウス(DTM〈Desktop Music〉)が台頭しアレンジを変えることによって無限に選択肢は増えた。「物語は尽きた」とされた映画界にはタランティーノが登場し、種種雑多なる語り口の変化で更に奥行きが拡がった。
そんなことを今更思い起こす程、気持ち良く畏れ入った。お薦め。
氷や雪の中に蝋燭を灯す町のイベント、“雪灯り(ゆきあかり)”が名物の長野のペンションが舞台。幻想的な光が雪の白と夜の黒を溶け合わせ、無数のキャンドルが放つ神秘的な炎の揺らめきに世界は妖しく照らされる。願い事をすると、それはきっと叶うと云う。
ペンションを始めたばかりの男(久保俊貴〈としき〉氏)と今週でペンションを終業する女(林彬〈はやしあきら〉さん)、二組の物語が同時進行で語られる。下手にある階下と上手の階段を上った二階を役者陣は頻繁に行き来する。空間を立体的に活用、声だけのシーンなど上下左右かなり広く使われるステージ。
練りに練られた構成とスピーディーな暗転による場面転換、張り巡らされた伏線、上質なミステリーのような演出が見事。面白かった。

救世の曲
絶対♡福井夏
Mixalive TOKYO・Hall Mixa(東京都)
2022/02/18 (金) ~ 2022/02/21 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
主催で主演の福井夏さんが可愛い。八の字眉で目眩く表情变化、蒼井優系の美人。熱狂的固定ファンを抱えるだけの魅力がある。
大きな段ボール箱に腰掛けた福井夏さん。失踪した彼氏、マサヒロの従兄弟(北原州真〈クニマサ〉氏)の部屋にいる。従兄弟は少しすっとぼけた男で二人の会話はなかなか噛み合わない。マサヒロはバンドマンで彼女を連れて従兄弟の部屋に入り浸っていた。福井夏さんは「二人の会話に合わせていただけで楽しかった訳ではない」と告げる。従兄弟はマサヒロの真似をして、福井夏さんに対応の再現を求める。
とにかく福井夏さんが魅力的なので、チェキを2枚買った。後半ガラリとテイストが変わるので、お楽しみに。

どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード
東京にこにこちゃん
シアター711(東京都)
2022/02/16 (水) ~ 2022/02/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
去年の5月にチケットを予約していたのだがコロナで中止。今回何とはなしに観てみたらかなり面白かった。(二回中止しているらしい)。竹熊健太郎や岡田斗司夫的な笑いが好きな人にはツボだと思う。オタク的分析による文化人類学系コメディ。恋愛シミュレーションゲーム(現ギャルゲー)のパイオニア、『ときめきメモリアル』の世界をリスペクトしており、そんなVRゲームの中に主人公(釜口恵太氏)が入って行く。その手のゲームに嵌った経験を持つ人には堪らない風景が広がり、ニヤニヤしっ放しのネタ満載。上からさっと降りてくる白い幕が場面転換に効果的で、投影されるゲーム画面もそれ風でセンス有り。テンポが良いので飽きずに転がり、超満員の客席は笑いの渦に揺れる。よっぽど期待値が高かったのか、開演前から熱気が凄い。作り手と演じ手の善なるフォースが、荒んだ心を和らげ好意的な受け手を作り上げた。
主人公は転校生となって高校生活を送り、卒業式後、伝説の桜の樹の下で登場人物の一人に告白する。キャラは多種多様で攻略フラグがかなり難しい。保健室の先生(踊り子ありさん)からヒントを貰い、選択肢を選んでいく。
同級生役の四柳智惟(よつやなぎともただ)氏のキャラがバカリズムを彷彿とさせる毒舌連発でかなり面白い。担任の教師役の鳥島明氏も強烈。釜口恵太氏の実直な優しさに貫かれたキャラが、ラストに観客喝采の名シーンを呼び起こす。虚構に恋したことのある全ての人々に捧ぐ。お薦め。

SLAPSTICKS
KERA CROSS
シアタークリエ(東京都)
2022/02/03 (木) ~ 2022/02/17 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕75分休憩25分第二幕80分。
1939年、デブ君の愛称で大人気だったロスコー・アーバックル(金田哲氏)のリバイバル上映の企画を、配給会社のデニー(元木聖也氏)にプレゼンしているビリー(小西遼生氏)。全く興味を持たないデニーに、ビリーは自分が助監督として参加していた18年前のサイレント映画黄金時代の日々を語り出す。チャップリンを育てたハリウッド喜劇映画の王様、マック・セネット監督(マギー氏)のもとに潜り込み数々の伝説のスター達との邂逅。監督の嘗ての恋人でもあった憧れの女優メーベル・ノーマンド(壮一帆〈そうかずほ〉さん)はその頃はコカイン中毒に。若き日のビリー(木村達成氏)がサイレント映画に捧げた青春。そして運命の1921年9月3日、「ハリウッドの笑いが止まった日」が訪れる。
ビリーの当時の恋人、サイレント映画のピアノ伴奏者のアリス(桜井玲香さん)が魅力的。この二人のささやかなロマンスが遠く懐かしきセピアの郷愁となりサイレント映画の興亡とだぶっていく。
サイレント映画ばかり観ていた時期もあり、かなり好きなネタなのだが何故か面白くなっていかないもどかしさが続く。配役のせいなのか、構成のせいなのか、もっと盛り上がる筈の場面が淡々と過ぎていく。命懸けのサイレント喜劇映画の狂気の核とは、死屍累々の無名のスタントマンの生き様あってこそ。『雨に唄えば』や『蒲田行進曲』のように。どうもその辺がごっちゃになっているような。KERAのオリジナルは知らないが、翻訳が上手く行っていない海外ミステリー小説を読むようなぎこちなさ。凄く面白い物語が無駄に煩雑なややこしさに阻害されて、観客のもとに届く時にはイマイチ楽しめないものに成り代わる。時折スクリーンに映写される本物のサイレント映画の断片は素晴らしかった。

女歌舞伎 さんせう太夫~母恋い地獄めぐり~
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2022/02/06 (日) ~ 2022/02/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
かなり自分の理想とする『山椒大夫』が観れた。小学生の頃読んだ『あんじゅとずしおう』が今もずっと心の奥深くに棲みついている。“人買い”、“人拐い”の恐怖。横田めぐみさんの事件を知った時、すぐにこの作品を連想した。騙されて攫われて、何十年も後に生き別れの家族と再会する物語。ハッピーエンドとは程遠く、仏教説話のような救いもない(多少あるが)。出演者全員女優の女歌舞伎を称し、アングラ小劇場オールスターズによる宝塚のような絢爛は好きな人にとっては堪らない御馳走であろう。スズナリにはこういう作品こそ良く似合う。
津軽三味線の駒田早代(さよ)さんがメタル・ギタリストのような速弾きを見せ、コンパクトな笏拍子(しゃくびょうし)を装着した河西茉祐(かさいまゆ)さんが説経節を唸る。黒子・飯田美千香さんが操る等身大の人形は美しき真白な地蔵菩薩。物語は開幕早々、拷問の末惨殺される安寿(えびねひさよさん)の生き地獄が眼前に展開。妖しき見世物小屋の歪み病み倒錯した頽廃美。石井輝男の代表作『徳川いれずみ師 責め地獄』を思わせる構成の妙。徹底した残虐非道ヒール役の三郎(諸治蘭〈もろじらん〉さん)は一周回った清々しさすら感じさせる生き様。
物語は過去に戻り、父に会いに陸奥国(むつのくに)〈福島県〉から筑紫国(つくしのくに)〈福岡県〉まで旅に出た一家の仲睦まじい様子が描かれる。母(山崎美貴さん)、安寿、厨子王(染谷千里さん、青年期は宮菜穂子さん)の何気ないひとときはこの話の唯一の安穏。誰もが何処かで何となく聞き知っている『山椒大夫』に流れる、実話を元にした故の血と肉の痛み。森鴎外は大正時代、小説にするに当たって残虐描写を悉く削った。今作は原典の中世説経節をモチーフとしていて表現に容赦が無い。
主催者の水嶋カンナさんは額に梵字の焼き印を入れられた下女役で、この世の苦しみに足掻く名も無き弱者の叫びを象徴する。会場の笑いを鷲掴みで掻っ攫ったのは丹後国分寺の律師役、伊藤弘子さん。彼女の登場から明らかに館内の空気は熱気を帯び、力尽くで後半戦に突入した。熱唱する『紅』がこれまた良い出来。
個人的MVPはさんせう太夫役ののぐち和美さんで、今役こそまさに彼女の嵌り役。彼女だけでも観に行く価値は充分。ベロンベロンに酔っ払えるデカダンスのひととき、まだ間に合う。

The leg line
仮想定規
中野スタジオあくとれ(東京都)
2022/02/10 (木) ~ 2022/02/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
大雪警報で最悪の天候、しかし観に来る価値は充分にあった。「劇場の素晴らしさとは、その暗闇が観客一人ひとりの孤独すら覆い隠し、誰もがその刹那だけ自由になれること。」、素晴らしい哲学。まだまだショーは課題山積みだが役者一人ひとりが魅力的。何処かで観たことのある方ばっかりなのだが、一つとしてその作品に思い当たらなかったのは物凄く不思議な感覚。ルサンチマンのない寺山修司みたいな明るさ。曲は東京キッドブラザーズの小椋佳作品みたいに凄く耳に残る。『青ひげ公の城』的に一人迷い込んだ異邦人の目線から物語を綴っても面白いかも知れない。
劇場の地下に棲みつくファントム(持丸伸孝氏)の圧倒的舞踏で開幕。劇場ではブッキングライブの予定、かつての人気歌手(青木砂織さん)はトリを新人の女の子に変えられて不機嫌。楽屋を仕切るマネージャー(星達也氏)は皆にウーバーイーツ(星郁也氏)で弁当を差し入れ。挙動不審な見慣れぬ女性(末廣円さん)がうろつき、外は大嵐で出演者はなかなか到着しない。
星郁也氏は劇団ひとりに何処か雰囲気が重なる。ふたり芝居の『チンパンジーには見えない』を観たことがある。才能とやる気に溢れたかなり有望な若手、すぐに人気が出るだろう。個人的に末廣円さんの演技が大好物でずっと見ていられる。彼女の細かな仕掛けが秀逸。職人的な味のある役者が揃っていて前半の楽屋風景は三谷幸喜的に面白い。もっとこの空間を味わいたかった。

『銀河鉄道の夜』
楽園王
サブテレニアン(東京都)
2022/02/02 (水) ~ 2022/02/06 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
3年半前、初演を観ている。受付の人が凄い綺麗で、舞台が始まるとヒロインの藤田早織さん(現・館山サリさん)であった。そんなことを思い出しつつ観ていたが、かなりの場面を覚えている自分に気付く。
今回のヒロインの日野あかりさんは真木よう子に見えたり、玉井詩織に見えたりとにかく美人。横顔の鼻のラインがやたら綺麗。役柄は主人公(政井卓実氏)の別れた元カノ、そののち事件に巻き込まれて亡くなったことを知らされる。そんな彼女が夢に現れ、「銀河鉄道に乗って私に逢いに来い。」と誘う。宮沢賢治の『銀河鉄道』の元となった岩手軽便鉄道(現・SL銀河)に思わず乗車するのだが···。
前回より美術や演出を簡略化して、シンプルに刈り込んだ構成。テンポよく観易いのだが、劇中劇が『銀河鉄道の夜』のダイジェスト風で、初演の辿々しい迷宮感が薄れてしまった。「自己犠牲の美学」のエピソードを並べてしまうと途端に話は安っぽく俗っぽく。原作の持つ深く謎めいた魅惑は作者にもはっきりとはしない無意識の想念の渦で、綺麗に解決しない不完全燃焼感が逆にずっと後を引く作品の核心。
死者の魂と世界の果てまで旅に出、鉄道の窓から目に映るのは神秘的な美しき世界の謎。最初から最後までジョバンニの胸の裡をエーテルのように充たしているのは決して癒えることのない蒼き悲しみ。

チェーホフも鳥の名前
ニットキャップシアター
座・高円寺1(東京都)
2022/01/26 (水) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
素晴らしい。時間を置いてまた観たい傑作。これはまさしく映画で、舞台でこの感覚を表現するのは凄い。中南米の映画で同じ空気感を味わった記憶が多々ある。スペイン語圏の手触り。惜しむらくは、役者が何役も兼ね過ぎていて逆に勿体無い部分も。あの時代のあの時にしか存在しない人、と云う余韻が感じられない。あと人物説明が台詞頼りで下手。説明なんかなくても一族の子孫だと自然に感じ取れるようにしなくてはならない。ワジディ・ムワワドなんかはエンターテインメントを上手に取り入れて複雑な人物相関図を娯楽化してみせた。でも今作が大好きな映画ファンは多い筈。行ったこともない樺太に望郷の念を覚え、時間のたゆたう揺り籠に揺られ世界に酔いしれていく。タイトルはサハリン島を訪れては去って行く人々を渡り鳥に見立てたらしいが、センスが良い。村上春樹の短編みたい。
樺太を舞台にした作品と云えば、映画『樺太1945年夏 氷雪の門』(舞台版もあり)や最近では吉永小百合主演の『北の桜守』。終戦したかと思いきや、5日後、突然ソ連に侵攻されて恐怖の中逃げ惑い、絶望の中青酸カリを飲んで自決する女性達。民間人の引揚船をソ連の潜水艦が襲った「三船殉難事件」では1700人余りが殺戮された。当時は人口40万人、王子製紙の工場が立ち並び、国内の需要を賄い栄えた地。
全四幕、三時間、1890年から1980年代まで三世代に渡る激動の樺太(サハリン)に生きた人々の叙事詩。
美貌のロシア人(時には京都弁)一族の山岡美穂さんが一本の幹、とにかく華がある。ギリヤーク人(ニヴフ人)の血筋、高原綾子さんは何処にも属せない異邦人を象徴。朝鮮人の一族、仲谷萌さんは幕間のシーンで圧倒的な見せ場(一番印象に残るシーン)。千田訓子(せんだとしこ)さんはチェーホフに宮沢賢治サハリン墓参団と、樺太を訪れる来訪者となる。
下手では田辺響氏等のパーカッション、木琴、多種多様な民族楽器が効果音を奏でる。黒木夏海さんの透き通った唄声が美しく、ラストの歌はピタリと嵌った。

おつかれ山さん
ことのはbox
シアター風姿花伝(東京都)
2022/01/26 (水) ~ 2022/02/01 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Team葉〉
前半は教職員から見た高校風景。生徒側からしか見ていなかったので、いろいろと考えるところがあった。ストレスの坩堝、病んだ人間を寄せ集めたテトリス、適当にやっていかないと気が狂う日々。今作の主人公、山口教諭(﨑山新大〈ざきやましんだい〉氏)は演劇部の顧問に柔道部まで押し付けられ、趣味的に運営している小劇団だけが生き甲斐。幼い子供を抱えた妻(篠田美沙子さん)との関係も上手く行っていない。柔道部は怪我続き、演劇部は人間関係の悪化、担任のクラスは喫煙で処分者続出、イカれた保護者(岩堀美紀さん)が怒鳴り込む毎日。
このテンポこの感じ、ワンツーワークスを思わせる。高教組やその他類似団体ネタなど着眼点が良い。組合や運動に希望を掲げる教師(堺谷展之〈さかいやのりゆき〉氏)の言説はかなり興味深い。この環境では人はそうなってしまうのかも知れない。女教師役杉本玲緒奈さんがMAXのNANAとこじはるを足したような美人。演劇部部長役の齋藤舞佳さんのじとっとした目付きがリアルで良い。
淡々としたエピソードの積み重ねは全てクライマックスの一点に向かっており、観客衝撃のラストが待っている。オミクロン旋風で東京では感染者数14086人、感染症専門の教授森内浩幸氏の衝撃の発言、「今、風邪の症状がある人はもうコロナと思って結構です」。次々に公演中止が発表される舞台。山さんの至る境地に誰もが共感するのではないか。果たしてタイトルの台詞は誰が誰に発するものとなるのか?この怒涛のクライマックスだけでも必見。お薦め。

だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
俄然『ビリー・エリオット』が観たくなる。(元は映画で邦題『リトル・ダンサー』)。普通の大学生が偶然貰ったチケットで初めて観たミュージカル。大興奮して役者になろうと劇団のオーディションを受ける。よく分からないまま受けた劇団はシュールで難解な作風により、客足が遠のいて久しい弱小小劇団。他に誰一人応募がなかった為、年12万と月々1万の劇団費を払えば誰でも入ることが出来た。劇団の作演出を担当する津村知与支(のりよし)氏が最高。何が面白いのか判らなくなり、もう書けなくなっている。小劇団あるある連発で未知の空間に放り込まれる主人公を観客も一緒になって体験していく。主人公役の名村辰(しん)氏がプロレスラー田村潔司の若い頃を彷彿とさせる純情さ。何かに憧れ何かを無心で目指す日々は人の魂を透き通らせていくようだ。
劇団員一人一人丁寧に描写され、子供の頃から幼馴染みの二人(伊東沙保さんと成田亜佑美さん)の積もり積もった確執も一つのキー。先の見えない未完成の稽古が続く中、コロナ禍が猛威を振るい、舞台と今現在がリンクしていく。
ラスト・シーンが最高。何度も観たくなる面白さ。超満員の客席、かなりのお薦め。

空鉄砲
柿喰う客
ザ・スズナリ(東京都)
2022/01/14 (金) ~ 2022/01/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
気が狂っている。作家(中屋敷法仁)の脳内に力ずくでぶち込まれた観客が乗せられるのは妄想と情動のジェットコースター。『ミクロの決死圏』のようにインナースペースの至る所を猛スピードで駆け巡って行く。素舞台で着の身着のまま、三人の役者が語るのは家族と同性愛と虚構。何一つ解決しないミステリー小説と、映画化を口実にしたいつまでも撮影の始まらない極私的リハーサル。完全に気が狂っている令和型寺山修司は満杯の女性客で狂熱。

令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~
虚飾集団廻天百眼
ギャラリーo2(東京都)
2022/01/16 (日) ~ 2022/01/27 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
バーのカウンターの前で、台本片手の朗読劇。コスチュームが凝っていて荒れ地の三人の魔女なんてSMの女王様風味のボンデージ・ファッション。語られる物語は『マクベス』そのままで、時折『ハムレット』のオフィーリアの話題が出てくるのみ。目黒鹿鳴館のギスギスした雰囲気かと思いきや、役者もスタッフも観客陣も人柄が好く、居心地の良い優しい空間。これはまた観に来たくなる感じ。
挟み込まれたチラシのイメージから、J・A・シーザー調の歌をヴィジュアル系にアレンジしたLIVEが展開されるんだろうと勝手なイメージを持っていたが全く違った。「いつか観に行こう」と思ってはいたが、“いつか”なんて一生訪れることはないのが真理。無理して観に行く以外に道はなし。

恋愛論
動物自殺倶楽部
イズモギャラリー(東京都)
2022/01/11 (火) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何にも情報を入れずに観た方がいい。何が面白いのかを熟知している手腕。金が取れるプロの仕事。大手拓次(たくじ)の『動物自殺倶楽部』と云う詩から劇団名を取っているが、その詩の内容は陰惨な獣達の自死の風景を淡々と叙述するもの。恐るべし高木登。

朝ぼらけ
teamキーチェーン
吉祥寺シアター(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
自閉スペクトラム(連続体)症とは、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」の三つに分類される。その中で知的障害を伴う者を「自閉症」と現在では呼んでいるらしい。(この辺、定義が不明確な為、はっきりしていない)。障害者の兄弟姉妹である、「きょうだい児」と云う言葉を初めて知った。
障害のある息子(山中雄輔氏)の自立を促す為に自宅を改装した八百屋で働かせているモロ師岡氏一家。そこにバイトで田中愛実(あみ)さんが入ってくる。知的障害者への偏見、蔑視、敵意がそこら中に渦巻く世間。そこで織り成す日常の物語。
自閉症の山中雄輔氏、更に重度の暴力を伴う自閉症のマナベペンギン氏の熱演。『聖者の行進』のイメージからか、いしだ壱成、そしてキャラクター的に香取慎吾を想起。ピョンピョン飛び跳ねるポゴダンスは甲本ヒロトの痙攣ダンスを思わせる。嘗てブルーハーツがNHKに出た際、観ていたファンの母親が「こういう人達も一生懸命頑張っているのねえ」と涙ぐんだエピソードを思い起こす。
安未紗さんがエロいキャバ嬢みたいになっていた。思えば寺山修司作品以外の彼女を初めて観た。これはこれで魅力的。常連のお客さん役宮永薫さんが綺麗だった。

赤目
明後日の方向
インディペンデントシアターOji(東京都)
2021/12/29 (水) ~ 2021/12/31 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕70分休憩10分第二幕80分。
白土三平の紙芝居時代から貸本劇画時代への変遷期を、劇中劇としてマニアックな初期作品『赤目』と共に綴る。白土三平の会話の内容がかつての左翼文学っぽく、自省的でちょっと難解。何かを言おうとすると「いや違う。本当は僕はそう思ってはいない。」的に自らすぐに打ち消しにかかる。独り言のように繰り返される自問自答。1967年に書かれた斎藤憐(れん)のこの作品を白土三平は観たのだろうか?
1958年(昭和33年)、紙芝居画家の白土三平(直江里美さん)は金野(こんの)新一(野村亮太氏)の下で共同生活をしながら働く。しかし、テレビの普及に伴い紙芝居の人気はどんどん落ちていく一方。仲間の瀬川拓男(渡邊りょう氏)は指人形劇団太郎座を率いて全国を巡業している。(実際の時代とは3年程ずれている)。後に妻となる李春子(百花亜希さん)がそこに移り住んでくる。紙芝居屋に人生を賭けると言っていた満州帰りの吉やん(國松卓氏)はある朝書き置きをして去って行く。貸本漫画家の誘いを受けつつも紙芝居による表現に拘る白土三平。上野国(こうずけのくに)〈群馬県〉の義民・磔茂左衛門(はりつけもざえもん)を描いていく。将軍に農民の窮状を直訴した罪で、妻子もろとも川原で磔刑に処せられた郷土の英雄。そのうち、白土三平は自分が描きたいものがどうも違うことに気付き出す。「物事の結果がどうであるかはどうでもいいんだ。大事なのはその過程で、具体的に何をしたのか?なんだ。」
『ドップラー』の主演で印象を残した國松卓氏はいつも汗だくで目が座っている。何か痩せたような。百花亜希さんは観る度に役柄の纏うイメージが違うので、一体どんな女優なのか未だに掴めない。今作のような陰々滅々たる物語には彼女の明るさが必須。キーボードコンダクターの後藤浩明氏とコントラバス奏者の藤田奏(すすむ)氏の生演奏が最高だった。
新聞紙を上手に使った美術、段ボールの紙芝居、「金は無いがアイディアは有る」気概。

『脱兎を追う』
楽園王
d-倉庫(東京都)
2021/12/21 (火) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
☆白組
日暮里の名・小劇場、dー倉庫の閉館日。観易くていい小屋だった。これで日暮里に来ることは無さそう。
開演前の舞台上から、淹れたコーヒーを飲みながら古きタイプライターで執筆中の本堂史子さん。この劇団は音楽の使い方が抜群で、選曲が素晴らしい。その部屋に訪れる妹の林美月(みづき)さんは宇多田ヒカル似で時折水川あさみっぽくもある美人。この二人の遣り取りが秀逸で、「夢の中で飛び降り自殺をした現場に行きたい」と妹は言う。崩壊した家庭の生き残り、自殺願望のある妹。姉はそのこと自体を執筆中の舞台のシナリオに取り入れながら、入れ子構造の物語は続いていく。

マンホールのUFOにのって
マチルダアパルトマン
OFF OFFシアター(東京都)
2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
開演前、毛むくじゃらの謎の着ぐるみの男(大垣友〈ゆう〉氏)がアコギを爪弾き出す。やたら巧い。その後、開幕すると舞台上手に座り、鍵盤楽器を奏でる松本みゆきさんと劇伴を生演奏。
前半は高橋留美子調のラブコメで、冴えない大学生の主人公へちま(宮地洸成〈ひろなり〉氏)がやたらめったら癖のある女の子にもてまくる展開。へちまの彼女の遥(小久音〈さくね〉さん他)は自称(?)宇宙人で、複数の役者が交替制で演じていく。UMA研究会会長の若葉(早舩聖〈はやふねひじり〉さん)、レディースの渚(御飯ゆかりさん)。
不思議な遥に夢中な優しいへちま。彼女から預かった大切なガチャガチャのカプセル。絶対に開けてはいけないそれを到頭開ける時が来る。
遥&猫役の小久音さんが可愛かった。
クライマックス、大垣友氏のオリジナル曲『マンホールのUFOにのって』が炸裂。これが胸を打つ名曲で、この舞台はこの一曲を奏でる為にあったことが分かる。全てのシーン全てのエピソードがこの一曲に凝縮されていく素晴らしい演出。
昔凄く仲が良かったが喧嘩別れした奴と、何十年振りかに思わぬ場所でばったり再会。流れで飲みに行って久方振りに矢鱈盛り上がり、御機嫌で店を出て「じゃあな」と二人別れて行く。そしてお互い共もう二度と会うことはないことを知っている。そんな舞台だった。
「寂しがれたのさ、君が傍にいた。ばっちり世界は幸せに溢れてんのな。」 The ピーズ 『手おくれか』
28日から隣の「駅前劇場」でも劇団の別作品を同時公演。日程が合えばこれも行きたかった。是非観た方が良い。