
おつかれ山さん
ことのはbox
シアター風姿花伝(東京都)
2022/01/26 (水) ~ 2022/02/01 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Team葉〉
前半は教職員から見た高校風景。生徒側からしか見ていなかったので、いろいろと考えるところがあった。ストレスの坩堝、病んだ人間を寄せ集めたテトリス、適当にやっていかないと気が狂う日々。今作の主人公、山口教諭(﨑山新大〈ざきやましんだい〉氏)は演劇部の顧問に柔道部まで押し付けられ、趣味的に運営している小劇団だけが生き甲斐。幼い子供を抱えた妻(篠田美沙子さん)との関係も上手く行っていない。柔道部は怪我続き、演劇部は人間関係の悪化、担任のクラスは喫煙で処分者続出、イカれた保護者(岩堀美紀さん)が怒鳴り込む毎日。
このテンポこの感じ、ワンツーワークスを思わせる。高教組やその他類似団体ネタなど着眼点が良い。組合や運動に希望を掲げる教師(堺谷展之〈さかいやのりゆき〉氏)の言説はかなり興味深い。この環境では人はそうなってしまうのかも知れない。女教師役杉本玲緒奈さんがMAXのNANAとこじはるを足したような美人。演劇部部長役の齋藤舞佳さんのじとっとした目付きがリアルで良い。
淡々としたエピソードの積み重ねは全てクライマックスの一点に向かっており、観客衝撃のラストが待っている。オミクロン旋風で東京では感染者数14086人、感染症専門の教授森内浩幸氏の衝撃の発言、「今、風邪の症状がある人はもうコロナと思って結構です」。次々に公演中止が発表される舞台。山さんの至る境地に誰もが共感するのではないか。果たしてタイトルの台詞は誰が誰に発するものとなるのか?この怒涛のクライマックスだけでも必見。お薦め。

だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
俄然『ビリー・エリオット』が観たくなる。(元は映画で邦題『リトル・ダンサー』)。普通の大学生が偶然貰ったチケットで初めて観たミュージカル。大興奮して役者になろうと劇団のオーディションを受ける。よく分からないまま受けた劇団はシュールで難解な作風により、客足が遠のいて久しい弱小小劇団。他に誰一人応募がなかった為、年12万と月々1万の劇団費を払えば誰でも入ることが出来た。劇団の作演出を担当する津村知与支(のりよし)氏が最高。何が面白いのか判らなくなり、もう書けなくなっている。小劇団あるある連発で未知の空間に放り込まれる主人公を観客も一緒になって体験していく。主人公役の名村辰(しん)氏がプロレスラー田村潔司の若い頃を彷彿とさせる純情さ。何かに憧れ何かを無心で目指す日々は人の魂を透き通らせていくようだ。
劇団員一人一人丁寧に描写され、子供の頃から幼馴染みの二人(伊東沙保さんと成田亜佑美さん)の積もり積もった確執も一つのキー。先の見えない未完成の稽古が続く中、コロナ禍が猛威を振るい、舞台と今現在がリンクしていく。
ラスト・シーンが最高。何度も観たくなる面白さ。超満員の客席、かなりのお薦め。

空鉄砲
柿喰う客
ザ・スズナリ(東京都)
2022/01/14 (金) ~ 2022/01/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
気が狂っている。作家(中屋敷法仁)の脳内に力ずくでぶち込まれた観客が乗せられるのは妄想と情動のジェットコースター。『ミクロの決死圏』のようにインナースペースの至る所を猛スピードで駆け巡って行く。素舞台で着の身着のまま、三人の役者が語るのは家族と同性愛と虚構。何一つ解決しないミステリー小説と、映画化を口実にしたいつまでも撮影の始まらない極私的リハーサル。完全に気が狂っている令和型寺山修司は満杯の女性客で狂熱。

令和元年のシェイクスピア~マクベスvsハムレットマシーン~
虚飾集団廻天百眼
ギャラリーo2(東京都)
2022/01/16 (日) ~ 2022/01/27 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
バーのカウンターの前で、台本片手の朗読劇。コスチュームが凝っていて荒れ地の三人の魔女なんてSMの女王様風味のボンデージ・ファッション。語られる物語は『マクベス』そのままで、時折『ハムレット』のオフィーリアの話題が出てくるのみ。目黒鹿鳴館のギスギスした雰囲気かと思いきや、役者もスタッフも観客陣も人柄が好く、居心地の良い優しい空間。これはまた観に来たくなる感じ。
挟み込まれたチラシのイメージから、J・A・シーザー調の歌をヴィジュアル系にアレンジしたLIVEが展開されるんだろうと勝手なイメージを持っていたが全く違った。「いつか観に行こう」と思ってはいたが、“いつか”なんて一生訪れることはないのが真理。無理して観に行く以外に道はなし。

恋愛論
動物自殺倶楽部
イズモギャラリー(東京都)
2022/01/11 (火) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何にも情報を入れずに観た方がいい。何が面白いのかを熟知している手腕。金が取れるプロの仕事。大手拓次(たくじ)の『動物自殺倶楽部』と云う詩から劇団名を取っているが、その詩の内容は陰惨な獣達の自死の風景を淡々と叙述するもの。恐るべし高木登。

朝ぼらけ
teamキーチェーン
吉祥寺シアター(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
自閉スペクトラム(連続体)症とは、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」の三つに分類される。その中で知的障害を伴う者を「自閉症」と現在では呼んでいるらしい。(この辺、定義が不明確な為、はっきりしていない)。障害者の兄弟姉妹である、「きょうだい児」と云う言葉を初めて知った。
障害のある息子(山中雄輔氏)の自立を促す為に自宅を改装した八百屋で働かせているモロ師岡氏一家。そこにバイトで田中愛実(あみ)さんが入ってくる。知的障害者への偏見、蔑視、敵意がそこら中に渦巻く世間。そこで織り成す日常の物語。
自閉症の山中雄輔氏、更に重度の暴力を伴う自閉症のマナベペンギン氏の熱演。『聖者の行進』のイメージからか、いしだ壱成、そしてキャラクター的に香取慎吾を想起。ピョンピョン飛び跳ねるポゴダンスは甲本ヒロトの痙攣ダンスを思わせる。嘗てブルーハーツがNHKに出た際、観ていたファンの母親が「こういう人達も一生懸命頑張っているのねえ」と涙ぐんだエピソードを思い起こす。
安未紗さんがエロいキャバ嬢みたいになっていた。思えば寺山修司作品以外の彼女を初めて観た。これはこれで魅力的。常連のお客さん役宮永薫さんが綺麗だった。

赤目
明後日の方向
インディペンデントシアターOji(東京都)
2021/12/29 (水) ~ 2021/12/31 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
第一幕70分休憩10分第二幕80分。
白土三平の紙芝居時代から貸本劇画時代への変遷期を、劇中劇としてマニアックな初期作品『赤目』と共に綴る。白土三平の会話の内容がかつての左翼文学っぽく、自省的でちょっと難解。何かを言おうとすると「いや違う。本当は僕はそう思ってはいない。」的に自らすぐに打ち消しにかかる。独り言のように繰り返される自問自答。1967年に書かれた斎藤憐(れん)のこの作品を白土三平は観たのだろうか?
1958年(昭和33年)、紙芝居画家の白土三平(直江里美さん)は金野(こんの)新一(野村亮太氏)の下で共同生活をしながら働く。しかし、テレビの普及に伴い紙芝居の人気はどんどん落ちていく一方。仲間の瀬川拓男(渡邊りょう氏)は指人形劇団太郎座を率いて全国を巡業している。(実際の時代とは3年程ずれている)。後に妻となる李春子(百花亜希さん)がそこに移り住んでくる。紙芝居屋に人生を賭けると言っていた満州帰りの吉やん(國松卓氏)はある朝書き置きをして去って行く。貸本漫画家の誘いを受けつつも紙芝居による表現に拘る白土三平。上野国(こうずけのくに)〈群馬県〉の義民・磔茂左衛門(はりつけもざえもん)を描いていく。将軍に農民の窮状を直訴した罪で、妻子もろとも川原で磔刑に処せられた郷土の英雄。そのうち、白土三平は自分が描きたいものがどうも違うことに気付き出す。「物事の結果がどうであるかはどうでもいいんだ。大事なのはその過程で、具体的に何をしたのか?なんだ。」
『ドップラー』の主演で印象を残した國松卓氏はいつも汗だくで目が座っている。何か痩せたような。百花亜希さんは観る度に役柄の纏うイメージが違うので、一体どんな女優なのか未だに掴めない。今作のような陰々滅々たる物語には彼女の明るさが必須。キーボードコンダクターの後藤浩明氏とコントラバス奏者の藤田奏(すすむ)氏の生演奏が最高だった。
新聞紙を上手に使った美術、段ボールの紙芝居、「金は無いがアイディアは有る」気概。

『脱兎を追う』
楽園王
d-倉庫(東京都)
2021/12/21 (火) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
☆白組
日暮里の名・小劇場、dー倉庫の閉館日。観易くていい小屋だった。これで日暮里に来ることは無さそう。
開演前の舞台上から、淹れたコーヒーを飲みながら古きタイプライターで執筆中の本堂史子さん。この劇団は音楽の使い方が抜群で、選曲が素晴らしい。その部屋に訪れる妹の林美月(みづき)さんは宇多田ヒカル似で時折水川あさみっぽくもある美人。この二人の遣り取りが秀逸で、「夢の中で飛び降り自殺をした現場に行きたい」と妹は言う。崩壊した家庭の生き残り、自殺願望のある妹。姉はそのこと自体を執筆中の舞台のシナリオに取り入れながら、入れ子構造の物語は続いていく。

マンホールのUFOにのって
マチルダアパルトマン
OFF OFFシアター(東京都)
2021/12/22 (水) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
開演前、毛むくじゃらの謎の着ぐるみの男(大垣友〈ゆう〉氏)がアコギを爪弾き出す。やたら巧い。その後、開幕すると舞台上手に座り、鍵盤楽器を奏でる松本みゆきさんと劇伴を生演奏。
前半は高橋留美子調のラブコメで、冴えない大学生の主人公へちま(宮地洸成〈ひろなり〉氏)がやたらめったら癖のある女の子にもてまくる展開。へちまの彼女の遥(小久音〈さくね〉さん他)は自称(?)宇宙人で、複数の役者が交替制で演じていく。UMA研究会会長の若葉(早舩聖〈はやふねひじり〉さん)、レディースの渚(御飯ゆかりさん)。
不思議な遥に夢中な優しいへちま。彼女から預かった大切なガチャガチャのカプセル。絶対に開けてはいけないそれを到頭開ける時が来る。
遥&猫役の小久音さんが可愛かった。
クライマックス、大垣友氏のオリジナル曲『マンホールのUFOにのって』が炸裂。これが胸を打つ名曲で、この舞台はこの一曲を奏でる為にあったことが分かる。全てのシーン全てのエピソードがこの一曲に凝縮されていく素晴らしい演出。
昔凄く仲が良かったが喧嘩別れした奴と、何十年振りかに思わぬ場所でばったり再会。流れで飲みに行って久方振りに矢鱈盛り上がり、御機嫌で店を出て「じゃあな」と二人別れて行く。そしてお互い共もう二度と会うことはないことを知っている。そんな舞台だった。
「寂しがれたのさ、君が傍にいた。ばっちり世界は幸せに溢れてんのな。」 The ピーズ 『手おくれか』
28日から隣の「駅前劇場」でも劇団の別作品を同時公演。日程が合えばこれも行きたかった。是非観た方が良い。

眠れぬ姫は夢を見る
サヨナラワーク
劇場HOPE(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
かなり良く出来ている。演出家(深寅芥〈みとらあくた〉氏)も脚本家(Arry氏)も才能がある。今敏の『パーフェクトブルー』を思わせる展開。照明とプロジェクションマッピングが素晴らしく、心象風景を氷の結晶のように美しく描き出す。地下アイドルグループ、「ネバーエンディング・ガールズ」(通称ネバガル)に加入した少女の物語。全員役名を自身の芸名のまま演じる。同じ話が違う視点から幾度も語られて、その裏側に隠された物語を観客が味わっていく構成。“熊”の存在が少女の心の闇を象徴し、『森のくまさん』の歌が効果的に使われる。
「世界は見える所にしかないんだ。見えない所に世界はない。だから、その為に僕がいるんだ。」
女優8人を効果的に配置し、楽しく語られていく暗い混沌。好きな人には堪らない筈。
「夢を見る為に人は生きているんだ。さあ夢を見よう。」
ローカル局のアナウンサー、水野奈月は地下アイドルがストーカーに襲われた事件を取材中。メンバー達に彼女について聞いて回る。

vitalsigns
パラドックス定数
サンモールスタジオ(東京都)
2021/12/17 (金) ~ 2021/12/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『ノンマルトの使者』や金城哲夫を思わせるガチガチの直球SF。本多猪四郎や実相寺昭雄テイスト。『アトランティスから来た男』等海外SF秀作シリーズを思い起こさせる生真面目な作風に好感。
深海救難艇(艇長と操縦士)が救難信号を受信し、水深840mにて海底探査艇バラエナ(鯨の学名)から三名を救助。だがどうやら、その三名は人間ではない···!?
舞台は狭い救難艇内のワン・シチュエーション。人間と、人間ではないものとの存在を巡る対話。知的快楽に満ちたSF。好きな人には堪らない。お薦め。

鈍色(ニビイロ)のヘルメット -20歳の闘争-
KUROGOKU
中板橋 新生館スタジオ(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
主演の富川陽花(はるか)さんが顔は岡田奈々(AKBじゃない方)、空手は大会優勝経験もある腕前。大谷翔平といい最近の天は気前よく二物も三物も与えまくっているようだ。「ゲバルト・ローザ」こと柏崎千枝子がモデル。
高校時代、『サウンド・オブ・ミュージック』を観た帰りにデモ隊と機動隊の衝突に巻き込まれ、投石で怪我。彼女を介抱してくれた東大生(小坂広夢氏)に恋をする。彼は後に東大全共闘の議長を務める存在に。モデルはカリスマ山本義隆。
フリーのカメラマン役の松本みなみさんが時代背景の語り手となり、東大全共闘に参加した少女から見た安田講堂陥落までを綴る。議長の演説の説得力。「戦争に勝った国は学問に秀でた国である。国の根幹とも言える学問の発展を阻害するものと闘う事は学生達にとって自明の理である」。
日大全共闘との抗争や共闘、田中美津をモデルにしたような女性解放運動家の登場。革命歌『インターナショナル』が轟くが政治思想は希薄で、一つの「青春グラフィティ」として仕上げてある。片桐健人氏と久原大知氏がコメディリリーフとして機能。小守航平氏のルックスがまさに当時の学生運動家顔で、山本直樹の描くキャラのような目付きに好感。
東大の少女が正義の為にせっせと機動隊に投げる火炎瓶を作る現実。これが本当に日本の風景だった。その頃の空気感を味わいたかったら、是非観劇を。

『水』/『青いポスト』
アマヤドリ
新宿シアタートップス(東京都)
2021/12/16 (木) ~ 2021/12/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
『水』
開幕すると所謂“演劇”がスタートして、集団で台詞を合唱斉唱重唱輪唱していく自分の嫌いなタイプの語り口。「これが2時間20分続くのか」と気が滅入るものの、いざ物語の中に投げ込まれると話自体が面白くて世界に没入出来る。ただ暖房が効き過ぎで、周囲は結構居眠りしていた。
物語の原型はボリス・ヴィアンの『日々の泡』(邦題『うたかたの日々』)。妙な現実感を組み込んだ大人の為の童話(寓話?)のテイストは『劇団おぼんろ』の感覚にも似て。
初めにこの話がハッピーエンドであることが観客に明かされ、ハッピーエンドのちょっと前の様子も見せてくれる。それがどう見てもハッピーエンドには成り得そうにない光景でこれが蒔いた一粒目の種。ヒバリのバニラの無惨な死の光景も前もって語られる。これが二粒目の種。
細かい台詞や動きも完璧に計算され尽くしていて、相当な稽古量が透けて見える。演出家の完璧に構築された設計図があり、役者皆が一人ひとり自然に輝くようにデザインされている。
ヒロイン役一之瀬花音(かのん)さんは吉高由里子にちょっと似ているような可愛らしさ。ヒロインの旦那役・阪本健大(けんた)氏は岡田圭右似でえらく格好良く、強い存在感で目を離せない。ヒロインの母親役の右手愛美(うてまなみ)さんは韓国映画の女優みたいな派手な美人。夏に『歴史法廷の中に生きる我々のための小噺集』で観た、医者役の木村聡太氏はスタイルの良さから記憶に残る。ヒバリ役冨永さくらさんはバレリーナのようにステージ中を軽やかに跳ね回り、その余韻が木霊し影が残像となって消えていく。
序盤に蒔かれた二粒の種が約束通り芽吹くとき、無力さに打ちのめされるだけのこの物語に果たして光は射すのだろうか?

舞台サルまん
気晴らしBOYZ
小劇場B1(東京都)
2021/12/15 (水) ~ 2021/12/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この世で一番面白いギャグ漫画は『サルまん』な人にとって、ファン感謝デーみたいな舞台。初日は作者の竹熊健太郎氏と相原コージ氏も観劇。この場にいられることの幸福。原作の素晴らしさを逐一確認していくような作品で、ファンフィルムを観ているような気分。これ当時、毎週『スピリッツ』を楽しみに読んでいた連中は観た方がいい。『とんち番長』が観れるだけで充分。
開演前SEは何故か、RCの『COVERS』が延々流される。主演・竹熊健太郎役のコウガシノブ氏がいい。ド迫力の顔芸、「俺を描け~!」のパンイチ・ポーズ、目が常に血走っていて、「ちんぴょろすぽーん」ポーズのキレもいい。相原弘治役の錦織純平氏もいい表情、もっと頭を抱えてゴロゴロ床を転げ回って欲しかったか。とんち番長役は栗原卓也氏、一休役はアモーレ橋本氏、彦一役はドロンズ石本氏、吉四六役は佐野寛大(かんだい)氏。紅一点のヒロイン役は杏さゆりさん。何役もこなす大忙しの青地洋氏。元力士の両國宏氏が辮髪(べんぱつ)姿で、担当編集者・佐藤治役を見事に再現。これを大真面目にやってくれるだけでリスペクト。編集長白井勝也役と意味なし番長役の石橋保氏。役者の無駄遣い感が心地良い。
原作ファンならずっとニヤニヤしていられる。会場で一番受けていたのは吉四六の決め台詞「もう警察に任せた方がいい」で、どっと沸く。自分の作品に笑う竹熊健太郎氏を横目で眺めながら、ファン冥利に尽きるひととき。未だに『サルまん』以上のギャグ漫画は登場していない。リアルタイムで読めたのは幸運だった。

人間讃歌
エンパシィ
スタジオ空洞(東京都)
2021/12/14 (火) ~ 2021/12/16 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
演劇好きな人間には大好物、涎を垂らすような御馳走。稽古場にパイプ椅子を二列並べたような会場。舞台セットはDIY感漂う裸の木材の建前、実に良く出来ている。すぐ目の前で繰り広げられる取っ組み合いや集団演舞。これだけ近くに囲まれていたら、役者もやりにくかっただろうに。プロのダンサーでもある引間文佳(ひきまあやか)さんの舞踏が爆発的で、この狭い空間をズタズタに切り裂いてみせた。余りの激しさに履いていたパンプスのソールが剝がれてしまう程。(後半は裸足で熱演)。
岸田國士(くにお)の短編戯曲三本を交互にシャッフルしザッピングするように送る。岸田國士は名前しか知らなかったがかなり面白い。何か既視感を感じ調べてみたら、成瀬巳喜男の『驟雨』が岸田戯曲を組み合わせたものだった。この感じ、確かに成瀬巳喜男だ。磯部莉菜子さんが借りてきた戯曲集をベンチで朗読していく内に作品世界にのめり込んでいく構成になっている。
A 命を弄ぶ男ふたり
夜、線路を見下ろす土手で自殺の為、汽車を待つ男。そこに現れる顔中に包帯を巻いた男。
B 恋愛恐怖病
夕暮れ時、海を見下ろす小高い砂丘の上で腰を下ろしている男女二人。ツンデレ会話のような互いの本音の探り合いが続く。突如『Let It Go(ありのままで)』が炸裂する異色の演出。
C 屋上庭園
デパートの屋上庭園で、久方振りに偶然再会した男二人。どちらも奥さんを連れている。一人は裕福そうで、一人は見窄らしそうにも見える。
全ての話に共通するのは上下関係である。マウントの取り合いとも言えるが、どちらも互いの投影するイメージに対しての優劣に異常に拘り抜く。死ぬことよりも自分を見透かされることに非常に怯えている。岸田國士は人間のそんな奇妙な習性が面白くて仕方がなかったのだろう。
もっと大きな会場で沢山の観客に味わわせるべき作品。このような試みを是非続けて頂きたい。演出の三上陽永氏はセンスがある。
勿論出演する全ての役者が素晴らしいのだが、個人的MVPは『屋上庭園』の裕福な友人役、久保貫太郎氏。この役を説得力のある、胸を震わす友人へと見事に昇華してみせた。『命を弄ぶ男ふたり』の包帯男役、中田春介氏は眼と口だけしか見えない容貌で、声という武器を駆使してこの奇妙な男の存在にリアリティーを乗せた。

そっと左手を添えてお釣りをくれるかわいいコンビニ店員野沢菜菜さんとの秘密の出来事・in・ブルー
イチニノ
小劇場 楽園(東京都)
2021/12/11 (土) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
タイトルのイメージから楽しいラブコメを想像していたのだが、社会に適応しているよう必死に見せかけた、社会不適合者の「心の旅―地獄篇―」だった。当日配布パンフがオールカラーで凄い出来。舞台は角に柱を挟んで、L字型二面に客席を配置する為、重要な場面の時はどちらにも見えるよう役者が配慮してくるくるくるくる回ってくれた。物凄い台詞の量、主演の大図愛さんと佐藤ホームラン氏にリスペクト。2回の公演の為とは思えない熱量。
高校教師の佐藤氏はコンビニの女子高生店員、大図愛さんがお釣りを渡す度に毎回手を触れてくれることが気になって仕方ない。自分にだけなのか?誰にでもなのか?妄想が妄想を呼び、到頭デートに誘ってしまう。
「ガトーフロマージュ」がこの世界を脱出するキーワードで、廃線寸前の心の列車に乗って、終点の何駅か先まで進まなくてはならない。二人の心の牢獄に棲み着いた“あおい”(梅木彩羽〈いろは〉さん)。彼女(彼)への贖罪から、心に蓋をして生きていくことを決めた過去。大図愛さんがうまく説明出来ないオリジナルな魅力に溢れていて、痛みが生々しい。生活の手触り、体臭、寝癖、服の皺、余りに現実であり過ぎて御伽話には成り得ない話。二人のデートシーンの演出がエレクトリカルパレードみたいで楽しい。脇を固める通行人のような役者陣がいい仕事をしてくれる。

溺れるように走る街
吉祥寺GORILLA
劇場HOPE(東京都)
2021/12/09 (木) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
チラシと配布パンフの写真のセンスが良い。その辺で撮ってもこんな風に切り取れるものだ。色彩の使い方が上手なのか。
お笑いコンビ「ダブルマインド」のボケ役、川上献心氏が巧い。本職のような口調、テンポ、ノリ、全く違和感が湧かない。ツッコミ役、平井泰成氏はいつもながら観客を内面へと引き込んでいく。この役者は私小説みたいな存在で、ふと気が付くと没入して深く読み込んでいる自分に気付く。稀有な存在。「ダブルマインド」のネタが観たかった。
ラジオ番組のブースがメインなのだが、舞台美術も小道具も本当に良く出来ている、ディレクター役岡野優介氏の表情やジェスチャー、構成作家役魔都氏の風貌、まさに皆が思い描くラジオの世界だ。作者は本当にラジオが好きなんだろうなあ。インターネットが無い時代、TVではやれない笑いが深夜ラジオには満載だった。
売れない芸人ラクーダ矢野役ヨシケン改氏も本物。「さんまのお笑い向上委員会」に出てそう。
コンビ解散を切り出した平井泰成氏、マネージャーは病気休養という事にして休ませる。レギュラーのラジオ番組は川上献心氏が一人で何とか切り盛りする。そのラジオを姉に薦められてずっと聴いていた女子大生(山下真帆さん)、大ファンのハガキ職人(榎本悟氏)等の人生模様。ラジオ収録場面はかなり面白い。

ぶっかぶか
ここ風
シアター711(東京都)
2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
メチャクチャ面白い。超満員の客席、高いリピート率、もっと大きな箱でやっても良いのでは。口コミの熱気に嘘が無く書かれた言葉の通り、喜劇としてもかなり笑える。登場人物一人一人のキャラへの描き込みが半端なく、普通の舞台なら「この人主演で一本行ける」ネタを惜しげもなく何本もぶち込んでいる。帰り道、観客達の幸福な会話が下北に溢れ返る光景。「舞台って面白いなあ」としみじみする。
タイトルの『ぶっかぶか』とは、サイズの合わない大きすぎる外的自己を押し付けられてどんどんストレスが溜まっていく内的自己のことであろう。
舞台は妹夫婦の経営する小さなペンション、そこに居座る兄のエピソードからスタート。兄・牧野耕治氏は西田良や郷鍈治を思わせる強烈な風貌、ズカズカ無神経に振舞う口上は近田春夫を思わせる。妹夫婦は矢鱈巨大な香月健志(かつきたけし)氏と本格的なカーフキックを見せる天野弘愛(ひろえ)さん。兄と妹夫婦の遣り取りがモロ『男はつらいよ』で、「この駄目な兄の話だな」と思わせるが実は全然違う。そこを訪れる宿泊客達の抱えるエピソードは予想もつかない突拍子のないものばかり。圧倒されつつ、人の想いの織り成す不思議なハーモニーにじんわり浸されていく。
漂泊民、三谷健秀(たけひで)氏のキャラは一本の映画のようで、よくもこんな人物を創造出来たものだ。日本人離れした雰囲気は外人が演じているのか?とも思った程。浅井健一の詩のような人物像。

帝国月光写真館
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2021/12/08 (水) ~ 2021/12/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
少年探偵団の小林少年を思わせる主人公、山丸莉菜さんは躍動的でその姿をずっと観ていられる。
支那事変から太平洋戦争へと戦火が拡大していく昭和初期。婦女子を拐う「怪人紅マント」の噂で町中に不安が広がっていた。公園にやって来る紙芝居屋が繰り広げるのはエログロ風味の「紅マント」のお話で、集まった子供達は水飴をしゃぶりながらその顛末に恐れ慄く。
プロローグとエピローグで語られる女学生による三原山火口投身自殺事件。彼女が死の間際、最期に見たいものは「支那上海の阿片窟」で、「はないちもんめ」と「かごめかごめ」が効果的に歌われる。彼女は誰にも必要とされていない自分を殺し、誰かに必要とされる自分に生まれ変わることを望んだ。
皆、誰かの妄想の中に棲み着いていて、更にそこでいつも何かを妄想し続けているような世界。その漆黒の闇の中に差す一筋の月光、山丸莉菜さん扮する少年の真っ直ぐな情熱は迷いがなく清い。

ダウト 〜疑いについての寓話
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2021/11/29 (月) ~ 2021/12/19 (日)公演終了