ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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ビニールの城

ビニールの城

劇団唐組

雑司ヶ谷鬼子母神(東京都)

2019/10/26 (土) ~ 2019/11/04 (月)公演終了

満足度★★★

二幕で休憩入れて2時間5分程。
腹話術師の朝顔は喧嘩別れした人形、夕顔に逢いに行くも行方知れず。神谷バーのホステスのモモとその形だけの夫、夕一に消息を尋ねる。
腹話術の人形達が一体一体魅力的。
久保井研氏の半人形化は素晴らしい。
全原徳和氏はまるでプロレスラー。登場しただけで全てを力ずくで薙ぎ倒していく、圧倒的な存在感。
ヒロイン藤井由紀さんが目を見張る程綺麗。最後の屋台崩しは映画のワンシーンのよう。

ネタバレBOX

今回は臀部と腰が耐え難く痛くて堪らなかった。腰が悪い人には辛い舞台。
物凄く真っ直ぐな純愛もの。ほぼ二人の話。孤独な腹話術師が人形と自問自答の暮らし。部屋に元々置かれてあったビニ本の女に愛を囁く。隣室に住むそのビニ本モデルの女が盗み聞きしつつ、男の愛の告白を受け入れる。女は人形を手に入れ、男が見付けに来るのをじっと待つ。男が女の愛を受け入れた時、女は去っていく。ラスト、男はビニール1枚の膜を撃ち抜いて女を捜し続ける。
BGMにゴダールの『軽蔑』、はっとした。
初演が緑魔子と石橋蓮司、観たかった。
燃えつきる荒野

燃えつきる荒野

ピープルシアター

シアターX(東京都)

2019/10/30 (水) ~ 2019/11/04 (月)公演終了

満足度★★★★

『人間の條件』のような大河ドラマ。
ススキのようなものが数束ずつ舞台のあちらこちらに配置。それだけで風が何処までも吹きすさぶ満州の荒れ野を脳内にイメージ出来るのだから面白い。
次郎役の蓉崇 (ようたかし)氏が美声。台詞が耳に残る。『柳絮(りゅうじょ)〈柳の種子が風に乗って大空を彷徨う様〉のように生きたい』が馬賊の攬把(らんぱ)〈首領〉として生きてきた次郎の人生のテーマ。皆が破滅していく中、個人的には愛犬、猪八戒〈桶谷憲司氏名演〉の死が一番哀しかった。
DNAというカルマ〈宿業〉を背負った者達のあてどない旅路。船戸流『カムイ伝』なのだろう。抜け忍となった次郎が世界を裏側から覗き見る構成。まさにテアトルノワール。船戸物語のロマンティシズムとは、弱き者への慈しみと飽くなき正しさ強さへの渇望。
YouTubeで前二作を全編観れるので出来れば観賞すべき。次郎と猪八戒の冒険談を外伝的にまだまだ観たい。

ネタバレBOX

次郎が死んでから後は、エピローグみたいになってしまった。強烈な意志を持った男の行動がないと、ただただ時代に翻弄される者を眺めるだけになってしまう。226くらいから駆け足の印象。あれよあれよと敗戦してしまって少々残念。ここまでの大河ドラマ、四兄弟の死に様生き様を堪能したかった。いつか映画化して貰いたい題材。個人的にはやっと感覚的に満州国の全貌がうっすらと掴めてきたような気持ち。
原作者船戸与一氏は胸腺癌で闘病中に執筆。刊行の二ヶ月後に亡くなる。作者の書いておきたいエピソードや人物が無数にあったのだろう。情念のようなものが舞台上に立ち込めている。
第一部の冒頭を考えると、二宮聡氏演ずる謎の男、間垣徳蔵こそがもう一人の主人公だったような構成。
『ヘイヘイホー』の歌の登場人物全員による合唱で終幕。
組曲虐殺

組曲虐殺

こまつ座 / ホリプロ

天王洲 銀河劇場(東京都)

2019/10/06 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了

満足度★★★

第一幕100分休憩15分第二幕80分。
第一幕、貧富の差のない平等な社会を作る為、共産主義運動に参加した作家小林多喜二。特高警察の二人にマークされる。
第二幕、地下に潜って逃走しながら執筆を続ける多喜二。警察の包囲の網が狭まっていく。
作曲とピアノ演奏の小曽根真氏が素晴らしい。名曲揃いの上、役者6人は歌える方ばかり。中盤、小林多喜二役の井上芳雄氏が「片方だけの○○じゃ何の役にも立たない」と己の無力さを嘆くBLUES、『独房からのラヴソング』が心を震わす。作品のテーマとも言える『胸の映写機』は井上ひさし氏の創作法の開陳を。『信じて走れ』の歌詞、「後に続くものを信じて走れ」は氏の遺言のようにも聴こえ。
多喜二を支援してずっと匿う伊藤ふじ子役の神野三鈴さんが良かった。(小曽根真氏の奥さんでもある)。存在が温かく空間を立ち込めていく。
ジブリ調の優しい好青年、小林多喜二がこの世を正しく変えてゆこうと願う物語。その姿をチャップリンに準えるとは流石である。その結末はタイトルに記されている通り、虐殺なのだ。
『何か綱のようなものを担いで絶望から希望へ橋渡しをする者がいないものだろうか!いや、いないことは無い。』
井上ひさし氏の哲学がぎゅうぎゅうに詰まった遺作。

ネタバレBOX

自分の心の奥底に焼き付いた原風景、トラウマをそれぞれがカミングアウトしながら自我の土台を確認していく場面が記憶に残った。みんなの押しくらまんじゅうを多喜二が眺めながら、「またかけがえのない風景が胸に焼き付いた」と呟く。何てシーンだ。
クライマックス、多喜二が「互いの生命を大事にしない思想など、思想と呼ぶに値しない。」と叫ぶ。凄まじい台詞である。これが井上ひさし氏の魂の根幹にある。
上白石萌音さんはミスキャストのような気が。役者バカ系の女優なので、もっと過剰に要求される役の方が映えると思った。
からくりサーカス

からくりサーカス

舞台劇「からくりサーカス」製作委員会

新宿FACE(東京都)

2019/10/10 (木) ~ 2019/10/19 (土)公演終了

満足度★★★★

原作ファンは必見。心に残った数々の名シーンを見事に再現。この難解な話を纏め上げた脚本と演出に感服。自分も随分前に全巻読んだだけなので、観ながらいろいろと思い出した。
前作の色っぽい大湖せしるさんも良かったが、今作の花奈澪さん演ずるコロンビーヌは秀逸(平野綾風)。目線や仕草でからくり人形であることを見事に表現。鈴木桃子さん扮するディアマンティーナ(ハーレイ・クイン調)との対決は映画の一場面のよう。原作最大の名場面、井戸の中で赤ん坊を守る為に自らを犠牲にするフランシーヌ人形。大西桃香さんの熱演によって感動のシーンに。コロンビーヌの最後と共に場内かなり落涙。原作の名場面を網羅しようとする努力と熱意が凄い。
加藤鳴海役の滝川広大氏は今回も見事な殺陣。陰の主演とも言えるフェイスレス役村田洋二郎氏はこの舞台の心臓となって、観客を退屈させないようあの手この手で大活躍。皆で歌うラストシーンが完璧な終わらせ方。面白かった。

ネタバレBOX

かなり難易度の高い話なだけに、未読の方には判り辛いだろう。長期連載中に何度も設定を弄くったせいで、御都合主義的な歪さがある。(そこが面白くもある。)
自己中心的で誰にも好かれない男が、初恋の女の心を手にする為、数百年も掛けて散々な悪事を働く。最後は宇宙船にて主人公の男の子と二人きり、教え諭されて自分が悪いことを認める。この余り見ないラストが当時話題になった。
治天ノ君

治天ノ君

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/10/03 (木) ~ 2019/10/14 (月)公演終了

満足度★★★★

明治・大正・昭和の三代の天皇を主軸に据えた見事なる『ゴッドファーザー』。日本の近代史と謎めいた天皇という存在を一家族の叙事詩に歌い上げる。日本という国がどういう国なのか、眼前に突き付けられるかのよう。維新から敗戦まで存在した『大日本帝国』興亡録としても面白い。本当は大河ドラマでこういうものをこそ製作しなければいけない。タブーばかりで、覆ってしまうから歪な国になってしまった。
大正天皇を演じた西尾友樹氏の人懐っこさが作品全体の優しいムードを醸し出す。ジブリっぽくもある。後半、髄膜炎の悪化と共に何度も何度も激しく転ぶ様は心配になる程。素晴らしい役者。
偉大なる父、マーロン・ブランドに憧れと拒絶を併せ持つアル・パチーノが『父よ、貴方ならこんな時どうしたのか?』と自分の無力さに途方に暮れる、そんな気分になる日本史。宿命(さだめ)という言葉の余りにも重いこと。

ネタバレBOX

牧野伸顕をシスの暗黒卿のように配して、昭和天皇をカイロ・レンのように描く。ドラマとしての着眼点が面白い。大正天皇が大隈重信に『天皇とは一体何なのですか?』と尋ねる場面が最大の見せ場。大隈は『我々が維新の時に拵えた“神棚”だ』と答える。『自分が作ったものを拝む奴はいない。民衆に拝ませる為のものだ。』と。それを認めた大正天皇と、また別の更なる高みを目指した昭和天皇。
私家版 孤島の鬼

私家版 孤島の鬼

K'srutan produce

新中野ワニズホール ( Waniz Hall )(東京都)

2019/10/09 (水) ~ 2019/10/13 (日)公演終了

満足度★★★

康芳夫氏がデヴィッド・リンチに撮らせようとした乱歩の最高傑作。この世界をどう舞台化するのか?月船さららさんのやったほぼ一人芝居『二輪草』は原作忠実でヤバかった。本作は美形の同性愛者、諸戸道雄を主人公に別視点から語り直す。扮する小山蓮司氏の熱演に観客席も息を呑む。醜い邪悪なる傴僂男、諸戸丈五郎を小林裕氏が見事に再現。レベルの高い役者が揃い濃密な空間、異世界を形成。ヒロイン木崎初代と秀ちゃんの二役を演ずる赤猫座ちこさんのはっとする美しさ。
愛と憎悪の結合双生児は報われない恋慕に身を焦がす諸戸と彼の愛する箕浦金之助そのもののように。因果な身の上を呪いながら、唯一箕浦にのみ心の救いを渇望した憐れな男の悲しい独白である。
小さな空間に寄せては返す波の音がぼんやりと聴こえていた。

ネタバレBOX

諸戸目線は正解。ただ、原作に縛られず設定をもっと削りに削った方が。諸戸箕浦初代(秀)、三人の恋物語に徹底して欲しかった。80分ではこの傑作を語り切れない。
原作は登場人物全員の全存在を賭けた人生観世界観の戦い。諸戸丈五郎が日本中を奇形人間で埋め尽くそうとするのは差別されてきた者達の当然の復讐の権利である。諸戸の愛にしろ、吉ちゃんの愛にしろ、善悪の彼岸に立ったギリギリの実存。そこに感情移入させることが出来たなら。
後半、岩屋島からがダイジェストみたいで失速。乱歩世界の二重性、(内面と表現していることが全くかけ離れて矛盾している)をもっと取り込んだ方が良かった。
愛と哀しみのシャーロック・ホームズ

愛と哀しみのシャーロック・ホームズ

ホリプロ

世田谷パブリックシアター(東京都)

2019/09/01 (日) ~ 2019/09/29 (日)公演終了

満足度★★★

同居を始めたばかりのホームズとワトソンの物語。単調なよくある展開が続くと思いきや、横田栄司氏演ずる兄マイクロフトの突然の登場から舞台は花開く。広瀬アリスさんはとても舞台向き。『ヘンリー五世』のシーンは必見。いつの間にやら巧い女優になっていた八木亜希子さんに驚いた。華があって、笑える楽しい芝居。

ネタバレBOX

兄の仕組んだ偽の事件でホームズを喜ばせてやっていたという話。兄の手の上で踊らされていたことを知ったホームズがカードゲームで戦いを挑むことになる。ポーカー風カードゲーム、ランターンがクライマックスに相応しくない。それなりに面白くはあるのだが、兄を乗り越えて『名探偵ホームズ誕生!』のカタルシスがない。エピローグのワトソン夫妻の物語も、もう一度初めから観返してみようという驚きに欠けていた。小ネタばかりで大ネタがないような。ホームズ好きとしては好感を持てる作品なのだが思い入れがない人にはどうだろうか?
ピノッキオ

ピノッキオ

座・高円寺

座・高円寺1(東京都)

2019/08/31 (土) ~ 2019/10/04 (金)公演終了

満足度★★★★

アスリートのような鍛え抜かれた肉体と獣のような俊敏な動き、辻田暁(あき)さん扮するピノッキオは最早舞踏。子供の時観ていたらトラウマになりそうな、延々と悪夢をさまよい続けるような演出はサントリーローヤルCM、ランボー編を思い出す。大人が子供を見下して『教育』してやるような嘘臭さが微塵もなく清々しい。チュールにワイヤークラフトのような動物の被り物と、半透明の美しさは影絵のような世界。BARBEE復活にも興奮しつつ、KONTA氏の格好良いこと。一体何役やるんだ?の森ようこさんの妖気。高田恵篤氏に至っては皆目見分けがつかなかった。役者七人の芝居とはちょっと信じ難い。70分がちょうどいい。表面お伽噺なのだが、時折心底恐ろしいものを見せられている感覚になった。是非また観たい。

ネタバレBOX

ラスト、人間になったピノッキオ。肉体を手に入れた生き物の歓喜を辻田暁さんの躍動で表現。『海獣の子供』のよう。『キカイダー』や『どろろ』も想起。理屈なく、人間の身体を持っていることは余りにも素晴らしいことだ。
舞台版「魔法少女(?)マジカルジャシリカ-マジカル零-ZERO-」

舞台版「魔法少女(?)マジカルジャシリカ-マジカル零-ZERO-」

爆走おとな小学生

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2019/09/05 (木) ~ 2019/09/16 (月)公演終了

満足度★★★

邪悪な『魔法少女』モノ。世界を救う力を手にする為、魔法少女になれる学園に少年少女達が集められる。三年間を経て卒業した彼女達の任務とは?
独特な世界観に嵌まる人は嵌まる。突き放したエンディングが面白かった。

ネタバレBOX

世界を滅ぼそうとする組織による偽の学校であり、洗脳された少女達は善良な巨人族や妖精族を虐殺していく。それと共に生命力を吸い取られ続け彼女達も全滅。ラスト、一人生き残ったマジカル・サクラがポジティヴに全てを肯定して終わる。壮大な物語の一幕といった感じ。説明を入れず、判らないままにパーツだけを提示していく演出に好感。合わない人には合わない。前半学園アニメ、後半バトル・ロワイアル。『school is magical』のメロディーが耳に残る。
ガリレオの生涯

ガリレオの生涯

こゆび侍

新宿眼科画廊(東京都)

2019/09/07 (土) ~ 2019/09/16 (月)公演終了

満足度★★★

中世イタリア、キリスト教の支配下にて、創造主である『神』こそが絶対であった。それに対し検証できる真実のみを追求する科学者達。自説を撤回せず火炙りで処刑されたジョルダーノ・ブルーノ。同時代、ガリレオ・ガリレイは転向することによって生き永らえる。
ナチスに国を追われた共産主義者、ベルトルト・ブレヒトの作品。観客の感情移入による物語を否定し、『教育劇』と称する客観的な事象の提示を観客が咀嚼するスタイルを提唱。知性を支配する神を否定し、人間が自由を勝ち取っていく物語の構造。ガリレオはダーウィンやニーチェと同列に語られる。
主演、館山サリさんの存在感。一体この人は何を演じることになるのだろうか?辿り着く先が気になる。狭いスペースで工夫を凝らした役者の動線。壁に貼られた幾何学模様。細かいアイディアが面白い。実験の際の表現方法が楽しかった。

ネタバレBOX

重要な台詞が聞き取りにくい。『理性の勝利だ』や転向の玉音放送。古典に忠実たらんとするより、観客の理解を強めて終盤興奮させた方が良い。遠藤周作の『沈黙』に通じるテーマでもある。
今日もわからないうちに

今日もわからないうちに

劇団た組

シアタートラム(東京都)

2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

元宝塚トップスター大空ゆうひさん主演の傑作。個人的には三越劇場版『壁蝨』以来の衝撃があった。中二の娘役の池田朱那さんに見覚えがあったが、矢張『壁蝨』にて主人公の娘に苛められる役として出演していた。た組の申し子のような台詞回し。天才なのでは?池田朱那さんの全く違う役での演技を観てみたい。
物語は旦那と奥さんと娘のごく普通の一家の風景から始まり、奥さんが記憶障害を突然発症。少しずついろんなことを忘れていく。優しい旦那の介護とそれを知らされていないが故の娘の怒り。
ほぼすっぴんの大空ゆうひさん(篠田麻里子さんに似ているような)が素晴らしい。ただそこに佇むだけで観客の『母なるもの』への記憶を呼び起こし、時には舞台をぐるぐるぐるぐる駆け回る。旦那役鈴木弘介氏の台詞は絶品。『早く行かないと、なので』など細かいニュアンスのセンスに唸る。演者以外舞台に上げない為、セットや小道具を動かしていくのも役者自身。集中力が途切れない。
クライマックス、夜の公園での母娘の会話。至極の名シーンであった。この遣り取りを観れただけで満足。場内も至る所で啜り泣き。

ネタバレBOX

「お母さん、私の事を覚えていてね。私の事を忘れないでね。」
アーシア・アルジェント主演の『雨上がりの駅で』を思い出した。過ごした時間、共有した時間、記憶こそが人間の唯一無二の宝物なのか。お馴染みの天井からの落下物も有り。
しかし、ここからのエピソードが蛇足気味。実は妻には死体遺棄の過去があった。父親が殺した母親の死体を、実家の床下に埋めることを手伝っていたのだ。そのことで父親から脅迫まで。ラストは中二の娘が妻の父親(お爺ちゃん)をぶっ殺し、一家で死体を埋める。「どうせ私は忘れてしまうから」がオチ。
照れ隠しなのか、オリジナリティの誇示なのか、どちらにしろつまらない。カーテンがバッと開かれるとキャバ嬢の部屋で、しかも物語とは何らリンクしないというナンセンス・ギャグは面白かったが。
肉体だもん・改

肉体だもん・改

劇団ドガドガプラス

浅草東洋館(浅草フランス座演芸場)(東京都)

2019/08/17 (土) ~ 2019/08/26 (月)公演終了

満足度★★★★

望月六郎監督といえば90年代の日本映画界に傑作を叩き付けた、北野武や三池崇史と並ぶ天才。知らない方は『新・極道記者』『恋極道』『鬼火』なんかを観て頂きたい。吃驚すると思う。今は劇団を率いているという。期待通りの凄まじい作品であった。ゾクゾクする台詞の連発。敗戦後の浅草でパンパン(売春婦)達が花火の如く生き様を炸裂し合う。胸の谷間や太腿を見せつけて、『さあ、私だけを見ろ!』と観客を挑発する女優陣。常連ファンの集う大衆演劇場、浅草東洋館のハコの良さ。地下アイドル的要素もありつつ、心地好い空気感に嵌まる気持ちがよく分かる。物語は戦後の浅草、二つのパンパングループとそのケツモチの愚連隊達による闘争と純愛。小鉄役の那海さんが華々しく目を引く。翠子役の椿千優さん(小保方晴子さん似)の二度唄う劇中歌が心に染み入る名曲。蜜柑役の石川美樹さんが超怖かった。『仁義なき戦い 頂上作戦』の要素も。一度絶対観た方が良い。

ネタバレBOX

グループの対立概念が不明瞭。警部、トップ屋、田島の考えが判り辛い。ハメット『血の収穫』のようにわざと抗争をけしかけて一網打尽にするのかな?と思ったがそうでもなさそう。第二幕の無理矢理感が強い。とは言え、面白かったから次回も観ます。
烈々と燃え散りしあの花かんざしよ

烈々と燃え散りしあの花かんざしよ

新宿梁山泊

ザ・スズナリ(東京都)

2019/08/13 (火) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★

韓国映画『金子文子と朴烈』から金子文子に興味を持った。日本側から彼女をどう描くのか?パク・ヨル(パキョル)も金子文子も実際何もしていない。国家権力の横暴な取り調べに激昂して、天皇若しくは皇太子暗殺計画の構想を語っただけ。反抗的な態度から死刑判決を受けた。あの時代に圧倒的な力を前に死の脅しにも屈せず、自ら獄死した23歳の女性。人類を平等にする為にはあらゆる価値観の徹底的な破壊しかない、とうそぶく。まさにPUNK ROCK、金子文子役水嶋カンナさんが吠えに吠える。戸籍も学もなく、本能だけを頼りに思想家に辿り着いたある種の天才。パク・ヨル役はいわいのふ健氏。何をやらせても、らしく見える。大正のSID AND NANCYの物語。水嶋カンナさんが唄う劇中歌が素晴らしかった。今こういうジャンルを堂々とやれるのが小劇場の強味。

ネタバレBOX

金子文子の生い立ちを中核に据えたのは違うような。不逞社の朝鮮人仲間のエピソードも中途半端。当時のパク・ヨル達の異様な生命力を感じられないのは勿体無い。映画も舞台も何かのパーツが足りない印象。日本論、日本人論にもなりうる筈。金子文子は何故か金子みすゞとイメージがだぶる。伊藤野枝だの管野スガだの、一つの日本人女性のアーキタイプなのでは。
青空

青空

方南ぐみ

三越劇場(東京都)

2019/08/09 (金) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★

四人の朗読劇。柴犬の女の子とキジトラ猫の男の子が魅力的。愛犬家愛猫家には堪らない。『少年H』のような時代背景。満州事変の年に生まれ、終戦まで戦争と共に育った少年、源平大和の物語。勿論バリバリの軍国少年である。その彼が愛犬、麦を守る為非国民になってしまう。大和役染谷俊之氏、麦役松井珠理奈さんが凄まじく美形であった。暴力が人間を支配していく有り様を伝えることの重要性。

ネタバレBOX

後半の逃亡生活がリアリティーがなく残念。山の無人の炭焼き小屋に八ヶ月隠れて暮らすのだが。全員元気に終戦を迎えるハッピーエンドにしたのは驚いた。(通常は幸せな夢を見ていたことにして、『フランダースの犬』のように凍死)。とは言え、志の高い作品だと思う。犬目線で舞台化しても面白い。『ドラえもん 』の「ぞうとおじさん」を思い出す。
第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

DULL-COLORED POP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了

満足度★★★

第3部。東日本大震災後の2011年12月、福島のTV局の報道部が何を放送すべきかで喧々諤々。
冒頭の地震と津波の再現が凄い。客席通路まで役者が駆け回る臨場感。観客全員、あの時どうしていたかの記憶が生々しく甦ったことだろう。上手天井から吊るされた金色の異形なる無数の電球。原発の象徴なのだろうが、人が造り出した奇形の神様のような美しさ。チェレンコフ光の妖しさにも似て。
春名風花さんを苛める役の有田あんさんがヤバイ。リアリティーのあるハスキーな声で生々しかった。春名風花さんは熱演、ありとあらゆる役に挑戦している感がある。穂積三兄弟の語る双葉町の半世紀の物語の完結。

ネタバレBOX

う~んと云う感じ。原発はただのガジェットに。圧倒的な現実の前で虚構が立ち尽くしてしまっているような。第二部での死者と生者の共存と云う観点が興味深かっただけに少々残念。死者と生者と原発の未知なる世界を見たかった。
妻と子供を津波に流された被災者役、東谷英人氏の生々しい告白がクライマックス。語り部足るべき元町長は惚けて寝たきり。死の間際、ずっと待っていた亡き愛犬モモの鳴き声にぐっと来た。
夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国

“STRAYDOG”

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/08/06 (火) ~ 2019/08/11 (日)公演終了

満足度★★★

現代と戦後まもなくの広島が交錯する構成。被爆して亡くなった三人の姉を想う、今では父となった弟、演ずるは重松隆志氏。妻も亡くしてしまい二人の子供と暮らす。原爆を落とされた者達のその後を追体験。生き残った者達の物語としては『父と暮らせば』に近い。クライマックスで歌われるコトリンゴの『誰か私を』が素晴らしかった。まさにこの曲しかない。毎度ながらこの劇団の選曲センスは相当だ。セットリストに清志郎追悼のような感も。佐藤仁氏が熱唱。RC版『イマジン』も聴きたかった。薄幸の美人役、瀬名葉月さんの儚さ、ウスバカゲロウのような。市島琳香さんと山田奈保さんの唄の力。子供からお母さんまでを見事に演じきる神崎晴香さんの煌めき。ハッとするシーンが幾つもあった。

ネタバレBOX

放射能は呪いだと自分は思っている。「そんなものに負けてなるものか!」と云う広島市民の生命力。『私達を殺そうとした者が「また、一人死んだ」と喜んでいるわ』。凄まじい台詞。
全体としては構成がぶつ切りし過ぎで美しくない。いいところで一々解説が入るのもテンポが乱れて残念。現代のシーンは殆ど不要に感じた。
ロンドンコメディ『RUN FOR YOUR WIFE』

ロンドンコメディ『RUN FOR YOUR WIFE』

アーティストジャパン

三越劇場(東京都)

2019/07/27 (土) ~ 2019/07/31 (水)公演終了

満足度★★★★

三越劇場によく似合う英国コメディ。ここまでやられると面白いを越えて感心、見事な喜劇。二人の妻と二重生活を送っていたタクシー運転手が、ばれた嘘を更なる嘘の言い訳で切り抜けていく物語。第一幕はまあよくある設定と展開、おおよその予想はつく。回りくどい設定の説明の多さが気になる程。それがどんどん熱を帯び、美人妻役花奈澪さんと旦那の友人役ルー大柴氏の掛け合いが狂気の最高潮。ヒステリーを起こして金切り声を上げる花奈澪さんに観客も絶頂。全てがばれてこれでおしまいという一幕のラスト。だが、面白いのはまさかの第二幕からなのであった。実力者が揃ったさすがの舞台。必見。

ネタバレBOX

第二幕は変態性癖で乗り切ろうという話。ゲイの乱行パーティー部屋に全員集合、英国っぽい下ネタ。(これに差別が加わると『モンティ・パイソン』)。ルー大柴氏が凄い存在感。乗りに乗っていくと全てが嵌まる。何をしても面白く感じる存在に。「スタンリー君」の単語だけで場内大爆笑。鮎川太陽氏(長身の元ジャニーズ)の役だけがちょっと弱い設定か。もう少し話に絡める役ならもっと行けた。七木奏音さんも偉く美人。下着姿で大暴れの花奈澪さん共々、色気たっぷり。花奈澪さんは何でも出来すぎてちょっと怖くなった。
てっちゃんの写真館

てっちゃんの写真館

東京AZARASHI団

サンモールスタジオ(東京都)

2019/07/23 (火) ~ 2019/07/28 (日)公演終了

満足度★★★

穴吹一朗氏の演出脚本主演。よくこうワン・シチュエーション・コメディが書けるものだ。プロの腕にただただ感心。元は写真館だった喫茶店にありとあらゆるトラブルを抱えた客が入れ替わり立ち替わり入店。滅茶苦茶なネタ振りが綺麗に整理整頓され結実していく見事さ。面白かった。院長と秘書役の飛志津ゆかりさんと山岸由佳さんの登場シーンに『これが観たかった』奴だと合点。世界中ここでしか観れない唯一無二のオリジナルな笑い。

ネタバレBOX

感情移入出来る視点を持つキャラがいない為、ただ起こっていることを眺めているだけに。(本来なら根本こずえさんなのか?)。幽霊の見える売れないアイドル(若菜唯さん好演)を支柱に固めた方が良かった。何かキャラクター先行で話を無理に作った感も。観劇条件が悪く、(周囲の客の揉め事や絶え間ない咳き込み等)、イマイチのめり込めなかったのが残念。
舞台「アンフェアな月」第2弾 ~刑事 雪平夏見シリーズ~ 殺してもいい命

舞台「アンフェアな月」第2弾 ~刑事 雪平夏見シリーズ~ 殺してもいい命

刑事・雪平夏見シリーズ製作委員会

サンシャイン劇場(東京都)

2019/06/21 (金) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★

劇団『秦組』を率いる秦建日子氏の小説が原作。重厚なミステリー映画のように物語が面白い。クール・ビューティーな篠田麻里子さんは雪平夏見刑事役にはまっていた。セットと照明の演出が巧みで、まさに映画を観ている気分、非常に判り易い。
敏腕女刑事の別れた旦那が殺された。第一発見者は自分自身。『フクロウ』と名乗る殺人請負業者による連続殺人が幕を開く。
死んだ旦那がナレーション的役割を果たすのが面白かった。

ネタバレBOX

多数の役者、台詞のトチりや噛みが多発。早口で長台詞の応酬が続く為か。これだけ連発する舞台も初めてで逆に新鮮。第一幕がハードボイルド調でスタイリッシュだっただけに、二幕の解決篇が乱調気味。駆け足で話の収束を雑につけた感じで勿体無い。ずっと犯人を追っていた退職した老刑事の存在をもっと膨らませて作品の基調にしないと。いろんな要素が見事に絡み合うことを期待していただけに肩透かし。原作のダイジェストになってしまっている。愛猫家やストーカー、探偵(小島よしお氏好演)の伏線が作品世界の書き割りで終わってしまった。狂言回し的な役回りを背負った安藤刑事の視点もさほど機能していなかった。
2.8次元

2.8次元

ラッパ屋

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/06/09 (日) ~ 2019/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

こりゃ、ウディ・アレンだ。『さよなら、さよならハリウッド』の感じ。センスのいい小洒落たカルチャーギャップ・コメディ。本当によく出来たシナリオである。
歴史ある新劇の劇団雑草座が存続の危機を賭け、未知なる2.5次元舞台に挑む。劇団員は役者業に誇りを持つ老人ばかり。対するは原作アニメに忠実たらんとする若きディレクター。
客演のミュージカル女優REINA役の豊原江理佳さんが素晴らしい。彼女がいるのといないのとでは作品の厚みが大違い。生演奏のピアニスト佐山こうた氏はそれだけで金が取れる名演を披露。ラストは小津安二郎の『浮草』を思わせ、旅芸人の哀愁も漂う。座長役、木村靖司氏も味のある余韻を残す。ウディ・ファン必見。

ネタバレBOX

劇中劇の2.5次元舞台がつまらなそうなのが残念。(狙いなのだろうが)。二つの価値観が融合して訳の分からない作品になるところが観たかった。筒井康隆氏の『大いなる助走』のようにメタ演劇論まで突っ切って欲しい気も。

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