舞台版 嫌われる勇気【9/23公演中止】
ウォーキング・スタッフ
紀伊國屋ホール(東京都)
2024/09/23 (月) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
原作は岸見一郎+古賀史健「嫌われる勇気」で2013年暮にダイヤモンド社から刊行された。当時のベストセラーなのだが延々と売れ続けて今年でとうとう累計300万部になったという。それを記念しての2015年の舞台版の再演なのだ。同時に特別なイベントも行われる。
原作は著者の解釈によるアドラー心理学のエッセンスを哲人と若者の対話形式で解説している。有名なのは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」とか「他人は変えられないが自分は変えられる」とかの印象的な標語である。まあ自己啓発系か宗教であるが、高額なセミナーに連れて行かれたり信者から執拗な勧誘を受けることがないので是々非々で日常に取り入れていけば良いのである。
さてこの原作をそのまま舞台にすることはほとんど不可能である。問いかけと応答の連続では始まって10分で全観客が眠りに落ちてしまうだろう。そこで舞台版は和田憲明によってサスペンス仕立てに作り上げられた。哲人にあたる大学教授と若者にあたる刑事の娘の対話をベースとして、そこに虐待を受けてきた女性による殺人事件を多層的に組み合わせている。
さて問題はこの創作された部分である。ここは原作の雰囲気とはかなり違っていて演劇的といえるのだが、冒頭の派手な殺人シーンはただの悪趣味で観客を馬鹿にしている。なぜ原著者はこういう改変を認めたのか不思議なくらいだが、相手の領域には干渉しないというアドラーの教えを守ったのだろう。
原作を気に入って舞台も観てみようという方には全くおすすめしない。原作を未読の方はこの舞台を観るよりも原作を読むべきである(audible版もあり)。こんな嫌味な文書を投稿しなくても良いじゃないかとも思うのだが「嫌われる勇気」を出して書いておく。
8人の女
劇団しゃれこうべ
シアター風姿花伝(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何か見たことあるなあと調べてみたら、2019年11月のT-PROJECT「8人の女たち」を観てかなり丁寧な「観てきた!」を投稿していたのだった。そこで曰く、
「オールスターキャストで顔を観るだけで客は満足という作品なのだろう。そういう点ではこの舞台は弱い」
今回も全くその通り、謎解きものとしては弱いが演劇としては普通に楽しめた。しかし見どころは各々の女優さんの表と裏の対比にあるので、知らない女優さんだとそこがつながらない。
そういう点で2022年に宝塚OGによる公演が行われているのは納得できる。
どこかで小劇場界の人気女優さん8人を投票で選んで公演してくれないかなあ。
私が選ぶ8人はこの方々…と書こうとしたが色々考えて自粛(笑)
雑種 小夜の月
あやめ十八番
座・高円寺1(東京都)
2024/08/10 (土) ~ 2024/08/18 (日)公演終了
実演鑑賞
良くも悪くも昔のホームドラマを見ているようだ。
演出も演技も素晴らしいのだがストーリーは田舎の日常そのものである。
私は演劇に非日常を求めているので合っていなかったというのが結論だ。
神[GOTT]
ワンツーワークス
駅前劇場(東京都)
2024/07/19 (金) ~ 2024/07/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この舞台ではドイツ倫理委員会の公開討論会という形をとって「医師による自殺幇助は認められるのか?」を議論する。討論会が開かれるきっかけは78才のゲルトナー氏(以下G氏)が妻を無くしてから生きているのが苦痛であり、薬物による自死を希望すると訴えたことにある。G氏は精神的にも肉体的にも健康であるという診断がなされており、二人の息子と幾度となくこのことについて話し合ってきて、彼の中では確固たる結論が出ているという。
ドイツ憲法の現在の解釈では自己決定権は不可侵であり何人も自死を阻止することはできない。今でも首を吊る、高層ビルから飛び降りる、電車に飛び込むなどの手段はあるが失敗したときは悲惨であるし、後者二つは他人への迷惑が半端でない。苦痛なく完全な死を迎えるためにはバルビタール薬剤が一般的である。しかしそれを誰でも入手できる状態にできるはずはなく、その入手と使用そして完全な目的達成には今のところ医師の介在が避けられない。自死は自由であったとしてもその安全確実な手段を憲法は提供してくれないのである。
現在でも不治の難病で日々肉体的な痛みに苦しめられている人の自殺を医師が幇助することはすでに合法である。しかしながらG氏のような健康な人については合意はできていない。そしてここでの検討対象には78才の老人だけでなく、人生に絶望した若者なども含まれていることを忘れてはいけない。またG氏は自殺幇助が合法ないくつかの国、たとえばスイスに行って目的を達成することができるが、自国で行うことを絶対的に希望している。
この問題に関して専門家が参考人として呼ばれている。法学者、医師会副会長、カトリックの司教の3人である。これらの方々に質問し討論するのはドイツ倫理委員会委員の医師とG氏の代理人である弁護士のビーグラー氏(以下B氏)の二人である。B氏はG氏の意を受けて、医師による自殺幇助を認めることに有利な発言を引き出そうとして、法廷のような戦術を使い、しばしば司会の倫理委員長から注意を受ける。
この「観てきた!」では議論を再現することはしない。大きな論点は網羅されている。基本は近代合理主義とキリスト教的人生観のせめぎ合いである。前者は我々もなじんできたところであるが、後者については天国に至る門は狭いというあちらの教えを、念仏を唱えていれば極楽浄土に行けるというこちらの思想から理解することは難しいと実感する。
気になったのは硬直的でヒステリックな医師会副会長の人物設定である。原文を当たってみると「司祭以外の役は性別を問わない」とあって、原文でフルネームが設定されていても変更して構わないことになっている。したがって医師会副会長が女性であることは演出家の意図である。もっとも全参考人の質疑応答が終わった後で一人だけ退席することは原文にもあったので基本的には原作通りではある。
同じ作者による「TERROR テロ」が2018年に橋爪功主演で公演されている。作者は弁護士で自身をモデルにした(と思われる)ビーグラー弁護士が活躍し、最後は観客による投票という形式は両作で共通している。そして10月にこの「神」も同氏主演で行われるお知らせが今回のチラシ束に入っていた。配役を見ると全員が男性である。おそらく男性というより中性的な扱いとし議論の純粋化を狙ったのだろう。
今回の投票では「医師による自殺幇助を認める」ことに賛成の人29名、反対の人42名であった。
群論序説『ALICE IN WONDERLAND-不思議の國のアリス-』
PSYCHOSIS
ザムザ阿佐谷(東京都)
2024/07/12 (金) ~ 2024/07/17 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
アリスの世界は混沌の美の世界、プロデューサーは己の感性が導くままに耽美の世界を築き上げれば良いのだ。しかし過度な自由は誰にも理解されないものを生み出してしまう。作者の高取英(1952-2018)さんは自由と制約を突き詰め純化する過程でガロアの方程式論に出会ったのだろう。
(代数)方程式の解は自由に動こうとしても「解と係数の関係」という制約から逃れることはできない。多くの場合、これ以外の制約はないのだが方程式によっては自動的にもっと多くの制約が生じてしまう。その事情を抽象化、単純化して見せたのがガロアの理論である。
この舞台はガロア理論そのもの(のはじめの一歩)をアリスの世界で表現する実験である。まずはいくつかの人と状況が提示される。
人1.革命家としてのガロア
人2.革命家としての宮沢賢治と青年将校
人3.アリスと作者のルイス・キャロル、そしてハートの女王
国1.フランス革命
国2.日本の2・26事件
国3.アリスの不思議の国
そしてこれらが時空を超えて混ざり合うことにより、ハートの女王由来の多くの殺戮を生み出してしまう。この悲劇を終わらせるために、もつれた世界を引き離すことはできないのだろうか。
水と油は混じらないように無関係なものはもつれない。アリスたちはこれらの事柄を調べ、革命、殺戮、数学などによるつながりを見出し、それらが解となっている方程式を発見する。そしてガロア理論によるとこの方程式は解く(=解を分離する)ことができ、実際に引きはがすことに成功して世界は平和を取り戻すのであった。(おしまい、チャンチャン)
…などと長々と書いてきたが、もちろん実際の舞台でこんな理屈が延々と述べられるわけはなく、豊かなイメージとねじれた狂気の世界が美しく展開されるだけである。ガロア理論について語られるのは最後の10分かそこらでそれも大声で叫ばれるのでほとんで聞き取れない。そんなわけで上で書いたことは私のWonderlandから見えた歪んだ舞台の様子なのである。全然違ったぞという苦情は受け付けない(笑)
『口車ダブルス』
劇団フルタ丸
小劇場B1(東京都)
2024/07/10 (水) ~ 2024/07/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
保険営業員の生態を皮肉に、しかし暖かく描く、その塩梅が絶妙である。そしてまた落とし持ち上げる。終わってみれば根っからの悪人はいなくなっているのだがそこに演劇によくある臭みがない。うまいものだ。
登場人物の書き分けが見事で、そこにどんぴしゃりの役者さんたちを配役する。これもまた素晴らしい。ベテラン演技陣には感心するばかりだ。特に渡辺いっけい似の にしやま由きひろ さんの斜に構えた佇まいに痺れた。女優さんでは若い頃なら神咲妃奈さんに魂を抜かれていただろうが爺さんになった今では大野朱美さんの知的なクールさに惹かれてしまう。もちろん涼田麗乃さんのひたむきさも最高だ。
売りの講談システムだが無声映画の弁士を(有声の)演劇に使ったということに近い気がする。基本はナレーションだが演劇の中での役も与えられていて台本を書く上で非常に便利なしくみになっている。素晴らしい発明ではあるがユニークすぎてそのままでは他の団体が採用することは難しいだろう。何か変種が出て来ることを期待したい。
迷子
WItching Banquet
Half Moon Hall(東京都)
2024/06/27 (木) ~ 2024/07/03 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
千秋楽、金木犀 sideを観劇
CoRichでは好みの異なる皆さんが揃って大絶賛、そして謎の会場Half Moon Hallである。これは行かないわけにはいかない。いやあしかし、個人で地下にこんな施設を作るとは!この十分の1で良いから音楽用の地下室を作りたかったなあ。
…などと演劇とは関係ないことに心を奪われてしまった。そして、こんな気持ちを振り向かせるようなインパクトをこの舞台は持ってはいなかった。ストーリーはありきたりと見るか普遍的と見るか、私は前者。毒がないのが良いと見るか物足りないと見るか、私は後者。歌唱も普通の印象だった。マイクを使うと目の前の人の声が方向不明で聞こえてきて臨場感が失われるのが残念。
象
9PROJECT
上野ストアハウス(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
前説によると、つかこうへいが別役実を尊敬していてこの「象」からもたくさんパクっているという。この舞台はそれを強調してつかこうへい風の演出になっている。もっとも普通に演出した「象」を観たことがないのでどこがオリジナルでどこが「つか」風なのか正確にはわからないのだが、異常なテンションの高さ、ここぞと入るBGMはこの舞台特有なのだろう。
さすがに60年前の作品なのでリヤカーに乗ってムシロに座り背中のケロイドを見せてお金をもらうということのリアリティは失われている。若い人はケロイド以前にリヤカーもムシロも見たことがないだろう。題名の「象」はサーカスや動物園の見世物としての象なのだろうか「群盲象をなでる」の象なのだろうか。前者ならストレートに過ぎるし後者なら格好つけすぎだ。
そしてまたこの舞台は前述の通り「象」の中のつか的要素の研究なのだから反核や被爆者差別といったテーマに重きは置かれていない。そして別役作品と言っても初期のもので不条理劇ではなく電信柱も登場しない。兄が行こうとしている「あの町」がどこなのかが謎ではあるがとりあえず場所ではなく「見世物として輝いていた昔」だと解釈した。
観る人を選ぶ舞台で私は選ばれていないなあ。
いつか、ある夜。ノクターン。
演劇ユニット41×46
劇場HOPE(東京都)
2024/05/10 (金) ~ 2024/05/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
短編3作
・『フレンチとマニュアル』作:中川 浩六(三等フランソワーズ)
婚活で高級レストランに来た二人のあるある話。まあまあ笑えるのだけれど、ちょっと冗長で話の膨らみに欠けていた。ピアノの調律師とした設定をもう少し生かしてほしい。まあしかし、こういう特殊設定を追いすぎると作り物臭くなるので難しい。☆3
・『Fly Me To The Moon』作:館 宗武(演劇ユニット41×46)
アラサー?の女性バーテンダーの店にやって来た同年齢の女性会社員が恋の悩みを相談するという話。しっかりバーの道具を揃えてシェーカーを振るのは気分が出るのだが準備に時間がかかりすぎ。これも前の作品と同様に長さの割に話が膨らまない。こういう芸風の劇団なのかも。☆3
・『夜をほどく』作:畠山 由貴(劇団パーソンズ )
3姉妹が母親の葬式?49日?に集まって母を偲ぶお話。この作品も前2作と同じようなテンポで同じような振れ幅で進行するのだが、こちらが慣れたせいか話に心地良く乗って行けた。☆4
これにプラスして
・ギターの弾き語りが合間に入る
初回の登場で慌てたのかガット・ギターのチューニングをしないで出てしまった(弦を交換したばかりだったのかも)。そのまま強引に進めてしまう。勘弁してよ。次にアコースティック・ギターで再登場するとまたまたチューニングがボロボロ、オイオイ(怒)。今回は落ち着いて直していた。この人、アコギでストロークバリバリ(と歌)はうまいけど、指引きはまだまだ修行中。"Fly Me To The Moon"は歌がセリフと被って言いようのない不快な響きとなってしまうので、歌なしのソロギターを特訓で頼みます。☆3
総合すると☆3なのだが、話も役者も演出も私好みなので回を重ねて改善されて行く期待を込めて☆4
前説が録音だと拍手が取れないのでしらっとしたまま本編に入って行くことになる。下手でも生でやりましょう。折角の表現力錬成のチャンスなのにもったいない。録音の方は声優の杉咲杏奈さんだったけど、私を含む今日の観客には猫に小判。
Life is Numbers
劇団6番シード
萬劇場(東京都)
2024/05/02 (木) ~ 2024/05/08 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
【♣️クローバーside】
いやあ、欲張りが過ぎるでしょう。17人をちゃんと把握するなんて無理だよ。
古顔の皆さんは良いとして、若手の俳優さんは中肉中背で、ほどほどの美男美女では区別が付かない。前半で撒かれた伏線を後半で回収するのだが、「○○さんはいませんか」と言われてもそれ誰?ではピタッとはまる爽快感が味わえない。
フィクショナル香港IBM
やみ・あがりシアター
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2024/05/01 (水) ~ 2024/05/06 (月)公演終了
なかなか失われない30年
Aga-risk Entertainment
新宿シアタートップス(東京都)
2024/04/27 (土) ~ 2024/05/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
アガリスク、スピードが速すぎ、情報量が多すぎだよ。ちょっと取り残された感があったのがつらい。
いつもの1シチュエーションコメディだが、今回はタイムスリップ物である。4つの時代がそれぞれ問題を抱えながら一つの場所に集まる。そこをしっかりと交通整理して進行させる、いつもの匠の技がさえる。
強いて主役を上げれば伊藤圭太さんと淺越岳人さんなのだろう。その中でも淺越さんの不思議な魅力が全編に行きわたっている。CoRich舞台芸術まつり!2023春 演技賞(『令和5年の廃刀令』)受賞は言われてみれば確かにという不意打ち感があったが、今作は受賞記念的なこともあって台本でも特別扱いがされているのだろう。堂々の存在感である。CoRichの審査委員さすがの慧眼。
山下雷舞さんもようやくアガリスクの仲間と認められたのだろう。主役級の大役を与えられて全力で応えていた。
クールビューティー鹿島ゆきこさんは今回は見せ場なし。榎並夕起さんは他の舞台とか映画とかの役作りなのか、激やせに見えてちょっと心配。江益凛ちゃんは全編元気で普通で私は不完全燃焼。おっさん目線ではどこか不安定で守ってあげたいと思わせてほしいのだ。そして今回の推しは雛形羽衣さん。ちょっと軽目のキャラだが将来の目標は国連難民高等弁務官であるという。この国連難民高等弁務官というリズムの良い言葉で3割うまい(何が?)。
アフタートークに登場した鈴木保奈美さん、去年の「セールスマンの死」ではどうもしっくりこなかったのだが、このフリートークでは頭の回転の速さが分かってさすがだなあと感心しきりだった。適切な話を反応よく繰り出してきてよどみがない。中田顕史郎さんによるとシアタートップスのトップスはあのチョコレートケーキのトップスなのだそうだ。昔は1階に店があったという。
トライアル 2024
A.R.P
小劇場B1(東京都)
2024/04/24 (水) ~ 2024/04/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
[Team B]
久しぶりに完璧に楽しんだ。今年のナンバー1。
内容はコミカルな裁判もの。明るくさっぱりとした笑いで気持ちがすっきりする。ツッコミどころがあってもテンポが良いので首をかしげる時間を与えてくれない。ロジックも面白く、謎解きものとしても1級品だ。
あす月曜日の2公演には若干空きがあるという。観てない方はぜひ。
前髪(あなたに全て捧げるけど前髪だけは触るな)
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2024/04/24 (水) ~ 2024/04/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
モラハラ、ヤクザ、ゲイ、殺人、お笑い、人生訓、その他いろいろ欲張って空中分解してしまった。
まあ、そうなのだけれど、サスペンス部は良くできていた(ネタバレBOXへ)。他の部分も振り返ってみると、ああそうだったのかと思うこともあるのだが効果は薄かった。
一番気になったのはヒロイン海里の人物像である。有名俳優さんならどなたを使うことを作者は想定しているのだろうか。魅力的な役作りに作者も役者も失敗していて盛り上がりに欠けていたと感じた。
王様と私
東宝
日生劇場(東京都)
2024/04/09 (火) ~ 2024/04/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
19世紀後半、ヨーロッパ列強がアジアに植民地を拡大していたころのお話。シャム(今のタイ)国王の子供たちの家庭教師となったアンナ・レオノーウェンズの回顧録が元になっている。それが小説となりミュージカルとなった。デボラ・カーとユル・ブリンナーが主演した1956年のミュージカル映画が有名である。主題歌の「シャル・ウィー・ダンス?」はだれでも知っている名曲だ。
内容を一言で言うと魔法を使わないメリー・ポピンズである。もっともこのメリーの基準は欧米は進んでいてアジアは野蛮だということで、それを何のためらいもなく貫き通しているのが心地良いくらいだ。まあそういうことを教えるために雇われたのだから当然なのだが、違和感がしばらく脳内にとどまった。
明日海りおさんの歌声はスムーズで解放感に溢れていてお話が進むにつれどんどん調子を上げて行った。北村一輝さんはあのくどさというか脂っこさというか、そういう持ち味を封印して頑固な国王をコミカルに演じていてちょっと驚いた。また、シャムの装飾や衣装が実によくできていて感動的である。迷いつつのスタンディングオベーション。
ろりえの復讐
ろりえ
新宿シアタートップス(東京都)
2024/04/18 (木) ~ 2024/04/24 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「ろりえ」って初めてで傾向が分からず、復讐のための伏線をバンバン張って最後に怒涛の回収という流れかと思いきや、全く違って大勢の若者が大はしゃぎするだけのお話だった。(私のような年寄りには)何の見どころもないのだけれど、最後の最後に突発する製作委員会3人衆の特大の悪あがきにノックアウトされた。そしてその後の娘の一言がツボで久しぶりに腹の皮がよじれるという感覚を思い出した。そこだけは☆4つ。
La Mère 母
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2024/04/05 (金) ~ 2024/04/29 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
久しぶりに二日続けての演劇鑑賞。それも格調高そうな交互上演の2作品なので期待大だった。しかし昨日の息子の方はまあ普通だが今日の母にはガッカリ。演出の都合上内容が薄いのは仕方がないがそれにしてもこちらの想像を一歩も出ないストーリーには呆れてしまった。
まあこんなストーリーで商売が成り立つのはフランスの事情なのだろう。チェーホフの描く没落貴族の贅沢な悩みと同じだ。木戸銭を払うことのできる階層相手に商売をしているわけだ。日本のお父さんは家庭内の居場所は早々に失い、定年で会社という居場所も失うという悲惨な状態なのだが、彼らは演劇なんか観ないので芝居になることはない。そしてこんな母よりもっとたくましい(=鈍感ともいう)。
若村麻由美さんの熱演がかろうじて芝居の形を作っていた。それでようやく☆3つ。
Le Fils 息子
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2024/04/09 (火) ~ 2024/04/30 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
昨年だったか、隣の席に座った見知らぬ老婦人に話しかけられたことがあった。岡本健一さんの名前が出て、私が思わず「(彼は)若いのに…」みたいなことを言うと「違いますよ」と笑われてしまった。ええ?と思ってすぐ気がついた。私の中では彼はいまだに男闘呼組のギタリストなのだ(オイオイ)。その岡本さんも今では54歳、共演できる息子(岡本圭人)さんまでいるとは。
その健一さん演ずるお父さんピエール、繊細で尊大な息子テスラ(圭人)に思いっきり苦しめられる。そして離婚した元嫁にも悩まされ、夜泣きする赤ん坊の世話で寝不足になり、良好だった今嫁との関係もどんどん悪くなっていく。それに加えて職業は弁護士で大統領候補の政策案策定にも関わることを要請されているという。
いやあ大変だ。昭和の日本のお父さんならこんな息子は母親任せで知らんぷり(そして全責任を母親にかぶせる)か2-3発ぶん殴るとか押し入れに閉じ込めるとかで終わりなのだ。兄弟姉妹もいるので一人だけ駄々をこねても相手にされないし、近所にも子供がうじゃうじゃいて孤立しにくいという事情もある。しかし、欧米のお父さんはただひたすら家族を愛する。そういう相互依存の関係が悪いんじゃないのか、親も子も自分の中で完結してよというのが私の感想だ(異論多数は承知)。
素に戻るときが時々あったような健一さんに対し、常に小さな精神崩壊のエネルギーを放出している圭人さんの演技には怖くなることもあった。そして唐突ながら、影絵風な暗転が美しい。しかし、2018年にパリで初演、と新しい割に内容は通り一遍で深みに乏しい。そう感じるのはこういう若者のことに関しては日本がずっと先を行っているからだろう。
ボディガード
梅田芸術劇場
東急シアターオーブ(東京都)
2024/02/18 (日) ~ 2024/03/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
新妻聖子さん主演の回を観劇 65分+20分+65分
元はケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンの1992年の映画である。主題歌の I always love you、あの「アンダアー…」のフレーズは誰でも知っているだろう。この舞台でも新妻さんのエネルギー溢れる歌唱が楽しめる。ミュージカル版は2012年が初演でストーリーは映画版と重要な部分でも違っている。
細かく言うと文句の山なのだが余計なことを考えず、ミュージックビデオでストーリーはおまけだと思っていれば結構楽しめる。オープニングから数曲は音量が大きすぎたがその後はバラードが増えて気持ちよく聞けた。
新妻さんはミュージックフェアで何回か見たことがあるもののあまり記憶に残っていなかったが今日は舞台の全部を持って行ってしまう人だと見直してしまった。新妻さん目当ての方には絶対のお勧めだ。
大谷亮平さんも寡黙で強くて女に優しいハードボイルドの主人公の雰囲気をこれでもかと何層にも上塗りしていて感心した。まあでもこの舞台では何でもそうなのだが分かりやすすぎる。
一つだけ文句を書けば、ダンサーの体型がばらばらで多くは締まりがないことだ。新妻さんの引き立て役では恥ずかしい。劇団四季なら絶対に舞台に立たせてはもらえないだろう。
カーテンコールは長めのライブで、観客の皆さん少し不満があるのかバラバラのスタンディングオベーション。それにしても長すぎるので最後の最後のバンドの演奏を半分にしてほしい。
509号室−迷宮の設計者
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/02/16 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この韓国の有名建築家のことを私はまったく知らないので、一般的な独裁権力による弾圧の話になってしまう。そこが残念ではある。そして独裁者の弾圧というと北朝鮮がすぐに頭に浮かぶ。そちらも舞台になるようなら演劇界もバランスが取れていると感心するだろう。
役者さんの演技は皆さん的確だった。そこは星4つ。しかし設計に関しての話は不確かなものに不確かなものを重ねただけの妄想に思えた。