実演鑑賞
満足度★★★★
アリスの世界は混沌の美の世界、プロデューサーは己の感性が導くままに耽美の世界を築き上げれば良いのだ。しかし過度な自由は誰にも理解されないものを生み出してしまう。作者の高取英(1952-2018)さんは自由と制約を突き詰め純化する過程でガロアの方程式論に出会ったのだろう。
(代数)方程式の解は自由に動こうとしても「解と係数の関係」という制約から逃れることはできない。多くの場合、これ以外の制約はないのだが方程式によっては自動的にもっと多くの制約が生じてしまう。その事情を抽象化、単純化して見せたのがガロアの理論である。
この舞台はガロア理論そのもの(のはじめの一歩)をアリスの世界で表現する実験である。まずはいくつかの人と状況が提示される。
人1.革命家としてのガロア
人2.革命家としての宮沢賢治と青年将校
人3.アリスと作者のルイス・キャロル、そしてハートの女王
国1.フランス革命
国2.日本の2・26事件
国3.アリスの不思議の国
そしてこれらが時空を超えて混ざり合うことにより、ハートの女王由来の多くの殺戮を生み出してしまう。この悲劇を終わらせるために、もつれた世界を引き離すことはできないのだろうか。
水と油は混じらないように無関係なものはもつれない。アリスたちはこれらの事柄を調べ、革命、殺戮、数学などによるつながりを見出し、それらが解となっている方程式を発見する。そしてガロア理論によるとこの方程式は解く(=解を分離する)ことができ、実際に引きはがすことに成功して世界は平和を取り戻すのであった。(おしまい、チャンチャン)
…などと長々と書いてきたが、もちろん実際の舞台でこんな理屈が延々と述べられるわけはなく、豊かなイメージとねじれた狂気の世界が美しく展開されるだけである。ガロア理論について語られるのは最後の10分かそこらでそれも大声で叫ばれるのでほとんで聞き取れない。そんなわけで上で書いたことは私のWonderlandから見えた歪んだ舞台の様子なのである。全然違ったぞという苦情は受け付けない(笑)