ジュニア
ミュージカル座
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2023/04/26 (水) ~ 2023/04/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/04/27 (木)
シアターグリーンにてミュージカル座『ジュニア』を観劇。
オーディションの最終選考に残った12名の子供たちの奮闘ぶりを描いた面白い作品。タイトルそのものや、12名の子供キャストと6名の大人キャストという構成を見ても分かる通り、まさに小中学生の"ジュニア"が主役の作品でしたが、想像を超える見応えと完成度の高さに驚きました。
まず、作品の序盤に出てくる歌唱審査、ダンス審査の合格発表のシーン。恐らく今回のキャストが決まるまでにも、何度かオーディションがあったのではないかと思いますが、「合格?それとも・・?」という不安な感情が上手くミュージカルナンバーとして表現されており、面白可笑しく拝見させていただきました。また、合格した子は歓喜に湧き、落選した子は涙を見せるというシーンは、どこかのメイキング番組で見たことがあるようなリアリティー溢れるもの。「あぁこういうシーンあるある」と妙に共感してしまうと同時に、こういったシーンをミュージカルとして見せるという発想や視点の斬新さに感心しました。さらに、オーディションの質疑応答シーンで披露される子供たち1人1人のエピソードもユニークで面白く、その後繰り広げられる最終合格者発表までの一連のドラマを含め、実際のオーディションをそのまま見ているような生々しさ、臨場感、緊張感、高揚感を一気に味わうことが出来た印象です。子供キャストたちの熱演はもちろんのこと、これはそもそも脚本自体が秀逸でセンスあるものだと思いました。そして、ミュージカルナンバーの数々もバリエーションが豊富で聴き応え十分でした。フライヤーに書かれていた“ジュニアキャストの奮闘記を描いた傑作ミュージカル”という謳い文句に相応しい一本だと感じました。キッズからシニアまで、どの世代が見ても楽しめるそれぞれの視点で共感や感動が味わえる作品だと思います。
個人的には昨年12月の『クリスマスに歌えば』から、今年に入り『スター誕生2』『東京ミュージカル』『相依為命』と、このところ連続してミュージカル座さんの作品を拝見させていただいていますが、今回の『ジュニア』を拝見し、ますます好きなカンパニーになりました。演目がバラエティーに富んでいて毎回素晴らしい感動をいただいています。また、今回出演された子供たちは普段は学校生活もある中でこれだけのボリュームたっぷりの台詞や歌を覚え、こんなに素敵な作品を作り上げた訳で、劇中の台詞にもあったように、子役の域を超えてまさにプロの俳優たちだと感じました。これだからジュニアミュージカルも侮れない。あっぱれです。
明日の卒業生たち
img
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/04/07 (金) ~ 2023/04/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/04/15 (土)
すみだパークシアター倉にてimgAct5『明日の卒業生たち』を観劇。
開演前のガイダンスが終わり、「卒業生入場」という一声が響くと、中央に配したステージ上に制服を着た“生徒達”が次々と入場してくる特徴的なオープニング。拍手で迎え入れられる“生徒達”の様子を見ていると、どこかの学校のリアルな卒業式に紛れ込んでしまったような不思議な感覚に陥りました。しかも、ステージと客席が向き合う一般的なレイアウトではなく、ステージを中央に配し、その3面に客席を設けたアリーナ型のステージ設定。このようなアリーナステージの作品はこれまでも何度か拝見したことがありますが、当然座る場所によって見え方が変わってくるので、見えない反対側の景色を想像しながら観るのも面白いと思いますし、リピートして観るのも楽しいと思います(スケジュールの都合もあり、なかなか難しいのが現実ではありますが…)。
今回の作品は大きな舞台セットこそないものの、2011年、2015年、2019年、2023年と4つの時代が描かれ、それが目まぐるしく入れ替わる展開ということもあり、このアリーナステージが特に効果的に機能していたように感じました。様々な方向から次から次にステージにキャストが登場し、時空移動を繰り返しながら物語が進んでいく展開は圧巻で見応えがありました。
ただ、あまりにも綺麗にというか、芸術的にカッコ良く進行し過ぎるためか、一度現在地を見失うとリカバリーするのが大変。4つの時代が入り乱れ、決してシンプルで分かりやすいシナリオとも言い難く、なかなか頭を使う作品だと感じた部分もありました。個人的にはこのような創り込まれた作品は好みであり、幸い、頭の中で整理しながら観ることが出来たので問題はなかったですが、一度脱落してリカバリーが上手くいかないと一気に退屈に繋がってしまうような可能性もあると思いました(予習の必要性を呼び掛けていたのは納得。販売用ではなく、当日配布用のパンフレットに相関図が載っていたら親切で尚良かったです)。
物語の随所にメッセージ性のある台詞が散りばめられており、なかなか濃い内容だと思いました。そして、その一つ一つの台詞を自然体且つ繊細に演じるキャストの皆さんの技量も高いと感じました。全体的に綺麗に美しくまとまっていた印象です。エンディングシーンで上島大和役の石渡真修さんが客席に紛れ込むという仕掛けも斬新で面白かったです。皆さんそれぞれに個性がありましたが、中でも上島匠役の丸山正吾さん、山崎ましろ役の田中音江さんらが印象に残りました。また、imgActさんの作品を拝見したのは2019年の『もともと特別』以来4年ぶり2回目でしたが、前作同様、劇中歌がまた良いアクセントになっていたと感じました。
相依為命(そういいめい)
ミュージカル座
シアター・アルファ東京(東京都)
2023/04/05 (水) ~ 2023/04/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/04/08 (土)
シアター・アルファ東京にてミュージカル座『相依為命 ~あいよっていのちをなす~』を観劇。
これは涙腺が緩むミュージカル、、。集中してステージを見ているつもりでも、周りの座席から鼻を啜る音が聞こえたり、ハンカチを持って目頭を押さえていたりする方がいらして、ただでさえジーンと来る内容に、プラスαの感動があったような気がします。2月に拝見した『スター誕生2』、3月の『東京ミュージカル』とはまた違ったテイストの作品。シアター・アルファ東京という初めて足を運んだ会場に加え、独特の会場の雰囲気と相まって、とても印象的で記憶に残る観劇となりました。
今回の作品は、1932年の満州国建国、1937年の中国(愛新覚羅溥傑)と日本(嵯峨浩)の政略結婚など、実際の出来事、実在した2人の人生にスポットを当てながら物語が展開される“歴史も学べる”ミュージカル。タイトルにもなっている「相依為命(そういいめい)~あいよっていのちをなす~」は愛新覚羅溥傑が生涯大切にしていた言葉で、「時代が移り変わっても相手を思いやる気持ちがあれば生きていける」との願いが込めらたものだそう。何かで「相依為命」という文字の並びは見たことがあったような記憶があるのですが、特に深く気にも留めず、読み方も意味も学ぼうとしなかったため、恥ずかしながら今回の観劇を通して読み方、意味を理解しました。なるほど。。きちんと理解すると、良い言葉だなぁ、、と、これはこれで感動がある訳で、ミュージカルを楽しみながら、歴史も学べる今回のような作風はとても価値があるうえに、一石二鳥で単純にお得?だと思うのです。
世の中色々な人がいて、その人の数だけ異なる考え方があるのは当然だと思いますし、基本的にはそれぞれを尊重し合うことが大事だと思いますが、些細なことで争いが生まれ、醜い戦いが繰り返されているのも事実です。歌詞にもあった通り、誰が強くて偉いなどはどうでも良く、人種や国籍、立場なども関係ない。同じ人間同士、相依為命の精神で、平和で自由な世の中になることを願いたいものです。前作の『東京ミュージカル』は全編が歌で構成され、それはそれで斬新でありだと思いましたが、今作のようにしっかりと間を取って、仕草や表情だけで見せるシーンがあるのも良いと感じました。第2幕、特に物語の終盤にかけては完全に涙腺が崩壊しました。このような心が穏やかになる素晴らしいメッセージが込められた作品は多くの人が観るべき。李涛さん、沼尾みゆきさん、吉良茉由子さん、飯塚萌木さんの“一家4人”はもちろん、幼少期役を務めた髙杉奏多さん、前田礼さんの子役2人や、浦壁多恵さんらの好演も印象に残りました。
ソングマン ~翔べ!三ツ矢高校・男子コーラス部~
トム・プロジェクト
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2023/03/21 (火) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/03/21 (火)
新宿スペース・ゼロにてトム・プロジェクト『ソングマン ~翔べ!三ツ矢高校・男子コーラス部~』を観劇。
演劇集団キャラメルボックスの多田直人さんや、2.5次元舞台を中心に活躍されている若手男優達が多く出演しているこちらの作品。会場に着いてまず感じたのは、女性のお客さん、それも若いお客さんが多いということでした。過去に拝見してきたトム・プロジェクトさんの作品は、実話を基にしたような社会派の作品が多かったということもあり、客席の年齢層は比較的高めで男女比に極端な差無しの印象があったのですが、今回はまるで異なる客層でしたので、一瞬会場を間違えたかと錯覚してしまう程でした。
しかし、キャスティングされているメンバーの顔触れを見れば納得。中でも主演の多田直人さんの存在感は半端なく、バンドのギタリスト&コーラス部の特別顧問という役に見事にハマっていたと感じました。また、男子コーラス部役の5人のキャストさんの好演も印象的で、個性豊かで面白い役どころにより拍車が掛かっているように感じました。誰か一人が欠けてもダメで、この5人だからこそ面白い。いや、そもそもストーリーが終始面白い。サクサクとテンポ良く軽快に進行する割に、一つ一つのシーンに見応えがあり、メッセージ性のある台詞も多い。作品の作り手、演じ手の両方の高い技術が上手く融合した質の高いエンターテインメント作品であるような印象を受けました。
青春って良いな、歌って良いな、時間って大事だよな、、など、文字に起こせば大したことではない?当たり前のようなことであっても、このような作品を観ることで改めてそれを実感するというか、何となく忘れ掛けていた大事なことに気付かされる感覚になるのは不思議なものです。"青春"とは一般的に13~20歳前半頃を指す言葉のようですが、"いつまでも青春"、"青春よいつまでも"などというフレーズもあるように、その気持ちを持ち続けていることが大事なのではないかと思いました。核となる人物はいるものの、物語に登場する人物の一人一人が重要なピースとなっている全員にスポットライトが当たる作品。良い舞台でした。
since 1991
ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2023/03/15 (水) ~ 2023/03/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/03/17 (金)
新宿スペース・ゼロにてジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン『since 1991』を観劇。
フィクションでありながら、ノンフィクションのようにも感じられる絶妙な設定の物語。その描き方、物語の展開の仕方も斬新で、これまでに拝見したジグジグさんの過去4作『デイドリーム・ビリーバー』『円盤屋ジョニー』『ひのくすり』『石を投げる女がいて』とはまた一味も二味も違った趣向、手法の作品であるように感じました。というより、このカンパニーの脚本・演出欄にはいずれも堤泰之氏のお名前がクレジットされているものの、本当に全て堤氏の作品なのかと感じてしまうほど、良い意味で統一性がない。まるで別々のカンパニー、或いは、それぞれに異なる作家さん、演出家さんがいるのではないかと錯覚してしまうほど、毎回異なる面白いコンセプト、テーマ、仕掛けがあるような印象を受けています。強いていえば、キャスティングされているメンバーが似たような顔触れであったり(劇団組織であれば当然ですが)、自然な会話劇の中に思わずクスッと笑ってしまうような小ネタがあったり(オーバーリアクションなど敢えて狙いにいかない自然な笑いが心地好い)、観終わった後に心に何かが突き刺さったような圧倒感、見応えがあったりする部分が“統一性”かもしれないです。毎回とても楽しませていただいています。
今回の作品は都内のとある演劇スタジオを舞台とした物語。1991年~2031年までの40年の間に起きる様々なストーリーが描かれているのですが、どれも演劇業界、演劇人のリアルというべきなのか、実際にこういうシチュエーションありそうだなぁ、こういう考え方の役者さんいそうだなぁ、あれ、こういう逆の考え方の役者さんもいそうだなぁ、、など、どのシーンにもどの役にも惹き付けられる何かがあったように感じます。
「何で役者をやっているの?」というシーンを例に取っても、その答えには100%がないように、結局は世の中多くのことがそうなのだと思います。だからこそ、個性というものがあり、その個性の一つ一つが尊重される訳で、世の中全てのこと、全ての人が同じ考え方、100%(1通り)の答えしかなかったら逆に不自然だと思いますし、演劇だって今のように様々なジャンルが存在し、その一つ一つが輝きを放つこともないと思います。答えがないからこそ、絶対的な正解がないからこそ面白いのではないかと。この舞台の見え方も人それぞれなのでしょう。それで良いと思いますし、これからも個々の価値観、感情が尊重される時代であって欲しいと感じました。
今回はSSチームを拝見させていただきましたが、キャストの皆さんがその時代時代でそれぞれ異なる役を演じ、全く違和感なくそれぞれの役に成り切っていたのはお見事。後に改めてパンフレットの相関図を拝見し、あの役とこの役は同じ役者さんが演じていたのか!といった驚きもありました。小林知未さんのナレーションも聞きやすく、時空移動を分かりやすくする良いナビゲーター役になっていたと思います。前作でインパクトがあった小林和也さんは今回も存在感あり。糸原舞さん、青山真利子さん、大竹散歩道さん、美波花音さん、小泉匠久さんらも印象に残りました。テンポが良くあっという間の2時間5分。演劇界の40年が凝縮されたような作品。果たして2031年の実際はどのような世の中になっているのか。。劇中で出てくる舞台のフライヤーだったり、スナック菓子のパッケージだったり、公衆電話だったりと、それぞれの時代に合わせた細かな再現もあり、見所の多い丁寧に作られた作品だと感じました。
東京ミュージカル
ミュージカル座
光が丘IMAホール(東京都)
2023/03/08 (水) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/10 (金)
IMAホールにてミュージカル座『東京ミュージカル』を観劇。
何ともシンプルでド直球なタイトルに加え、高層ビル群と華麗に踊るダンサー達が描かれたデザインのフライヤー。そこには「関東大震災から100年!絶望と再生を繰り返してきた東京。過去と未来の物語」とも書かれており、その情報量の多さから、観る前から様々な想像が頭の中を駆け巡っていました。一体どのような作品なのだろうかとワクワクしながら劇場に向かいました。
ミュージカル座さんの作品を拝見するのは先月の『スター誕生2』以来、1ヶ月ぶり通算10作品目。毎回見応え十分なのですが、やはりそれは今回も同様でした。そして、観る前に感じていたワクワク感が最後まで続きました。
「壮大」「圧巻」「斬新」「感動」「希望」・・・そんな複数のキーワードが出て来るような今回の作品。何と表現すれば良いのか、上手くまとめることが難しい気がします。それくらい目まぐるしい変化がある、詰めに詰め込まれた作品であると感じましたし、だからこそ、常にワクワクが止まらないような感覚が終始続いたような印象です。途中の休憩時間を挟んで2時間20分程。あっという間でした。
というのも、全編が歌で構成された珍しいスタイルの作品であったからというのもあるかもしれません。本来は会話劇で進むようなシーンにおいても、とにかく歌・歌・歌。計38曲にも及ぶミュージカルナンバーには驚きました。これまでに観てきたミュージカル作品とは一線を画す斬新な作風。時間を掛けてゆっくり見たいシーン、シリアスなシーンなどもあり、正直ここまで全編歌で構成する必要もないのでは?とも思いましたが、パンフレットに記載されていた脚本家・演出家のハマナカトオルさんのコメントを拝読して納得しました。なるほど、ベートーベンの第九交響曲がベースになっているのかと。。
いつの時代も苦難はあり、これからもそれは続くと思いますが、忘れてはいけないのは常に希望を持って生きていくことかもしれません。今の平和な東京があるのも、過去に生きた人々が希望を持って築いてきた歴史があるからだと思います。そして様々な悲しい事実も一つ一つが教訓になっているとも感じます。第二楽章から第三楽章にかけて時代が一気にワープしたような印象を受けたこともあり、現代社会の礎になっている戦後の高度経済成長期、古き良き昭和の時代を描いたシーンがもう少し描かれていると尚良かったようにも感じますが、東京を舞台とした斬新なミュージカルの初演は十分に見応えのある作品でした。
アプロプリエイト―ラファイエット家の父の残像―
ワンツーワークス
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/02/16 (木) ~ 2023/02/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/21 (火)
赤坂RED/THEATERにてワンツーワークス『アプロプリエイト-ラファイエット家の父の残像-』を観劇。
ワンツーワークスさんの作品を拝見するのは2019年11月の『死に顔ピース』以来およそ3年3ヶ月ぶり、通算5作品目。毎回強烈なインパクトを残す作品が多い印象があり、楽しみにしていた劇団の一つですが、コロナ禍で劇場から足が遠のいてしまっていたためか、このところの公演情報はチェック出来ておらず、今回久しぶりの観劇となりました。
まず感じたのは、相変わらず十分過ぎる見応えがあるということ。今回の作品は「亡くなった父の財産分与をすべく3姉弟が顔を合わせる」というよくありがちなシチュエーションから始まる財産・遺品分割の物語でしたが、海外戯曲がベースとなっているということもあり、当然ながらやや日本離れした会話劇が繰り広げられます。海外の作品を日本人の役者さんが演じるとどうしても違和感が出てしまいがちな印象があるものの、そこはさすがワンツーワークスさんというべきなのか、キャストの皆さんの技量の高さというべきなのか、不思議と違和感がなく、終始海外ドラマを見ているような感覚で楽しむことが出来ました(※この日のアフタートーク「翻訳劇役作り」を拝聴して納得。海外作品を演じるための意気込みや研究熱心度が素晴らしく、まさにそれぞれの役になり切っていたと感じました)。
一癖も二癖もある個性的な登場人物たちが繰り広げる壮絶な罵倒合戦は圧巻。どんな結末が待っているのだろうと好奇心を掻き立てられ、いざ結末を迎え、一つの豪邸が廃れていく様子には今回も強烈なインパクトが残りました。人間の醜い本質を見たような、、最後はあれはあれで良かったのかな。スローモーションでのワンシーン、暗転と音の効果的な使い方、大掛かりな舞台セット・演出などもさすがだと感じました。劇団の顔?である奥村洋治さん、関谷美香子さんの"ツートップ"に加え、間瀬英正さんの身体を張った熱演、阿久津京介さんの細かい仕草、川畑光瑠さんの大人にも子供にも見える絶妙な演技など一人一人が良い役割を果たされていたと思います。
入管収容所
TRASHMASTERS
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/02/17 (金) ~ 2023/02/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/02/20 (月)
すみだパークシアター倉にて劇団トラッシュマスターズ『入管収容所』を観劇。
2021年に名古屋出入国在留管理局で起きたスリランカ人の死亡事件をテーマとした作品。これが日本なのか、、日本でこのようなことが起きているとは、、。これは深い。。とてつもなく見応えのある社会派演劇に強い衝撃を受けました。
劇団トラッシュマスターズさんは以前から気になっていたものの、なかなか上手くタイミングが合わず今回が初観劇だったのですが、社会問題を扱う劇団だけあり、その内容はとても深く、非常に学びの多い作品であったように感じました。"観劇"というより、社会・道徳を"受講"したような感覚。実話を基にした作品は過去にも色々と拝見しているのですが、教科書や文献を見て学ぶよりも遥かに凝縮されていて、学ぶことが多いような気がするのです。当然フィクションの部分もあると思うので、全てを鵜呑みにすることは出来ませんが。
ただ、今回の作品も、ステージ上で展開されるワンシーンワンシーン、ひとつひとつの会話に全く無駄がなく、終始何かを訴え掛けてくるような、観る者の心に強く突き刺さるような特別な感覚に陥ったのは事実であり、濃厚な2時間40分であったことには間違いありません。
「入管は送還忌避者を本国に送還するのが仕事」。そう言われればそうなのかと思ってしまいそうですが、この作品を観ると決してそうではないと感じます。様々な事情から、本国に「帰りたい」けど「帰れない」人々がいるのは事実であり、そのような背景を一切考えず、送還ありきで進んでいる実態、人権を無視し、人をモノとしてしか扱っていない実態には憤りを感じずにはいられません。また、現場に近い組織の末端の人間の主張は尊重されず、上に立つ者、権力のある者の意見が正当化される体質。日本は本当に良い国なのか、平和な国なのか、世界に誇れる国なのか。もはや疑問しかありません。現代社会が抱える問題は根が深いです。今作で扱った入管問題は勿論、様々な事案に対してもっともっと議論されるべきと思います。自分自身で何が出来るのか、改めて生き方を見つめ直してみようとも思えるくらいの衝撃を受けた今回の劇団トラッシュマスターズさんの作品でした。入管施設内でスリランカ人が亡くなった時、「入管側の人間にも涙を流している人がいました」という事実があるだけ、まだ救いがあるかと感じました。これは多くの人が観るべき作品。そして考えるべき問題。休憩なしの作品としては長丁場ですが、それを全く感じさせない程のグイグイと惹き付ける展開、テンポの良さ、内容の充実度、秀逸な脚本、キャストの熱量、魂の入った演技に感動です。
あの春の約束を歩き出す君のために2023
東京印
ザ・ポケット(東京都)
2023/02/08 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/02/10 (金)
中野ザ・ポケットにて東京印『あの春の約束を歩き出す君のために2023』を観劇。
初見のカンパニーでしたが、客席に一歩足を踏み入れた瞬間、ステージ上にそびえ立つ古民家のような造りの舞台セットが目に入り、いきなりテンションが上がりました。 玄関、廊下、居室、庭などの間取りに加え、家具や小物など、細かな部分まで凝っているセットは圧巻。しかも、このような昭和レトロな雰囲気のセットは個人的にも好みのテイスト。このセットを見るだけでも価値があるなと感じました。それくらい惹き付けるものがあったような気がします。
「~あなたが大切な人に届けたいものはなんですか~」というサブタイトルが付けられたこの作品は、下宿屋「桃山荘」を舞台に繰り広げられる人間ドラマ。過去にシェアハウスを舞台とした作品は何度か観たことがありましたが、この作品も似たような雰囲気を感じました。年齢も性別も趣味もバラバラの人々が一つ屋根の下、共同生活を送っているという設定は、何かが起こる予感しかなく、ワクワク感が高まるのです。
しかし、いよいよ本編が始まり、キャラの濃い人物達が次々に登場してきたのですが、、。確かにひとつひとつのシチュエーションはユニークで、それ単体で見れば面白いものの、間の取り方の問題なのか、あまりにも一定のテンポで進行する各シーンに、逆に違和感を覚えてしまいました。もともと台本ありきで進むフィクション作品に求める部分ではないのかもしれませんが、日常生活を映し出したドラマであれば、もう少しテンポに変化が欲しかったような気がします。順番に次から次にポンポンと台詞が出てくる会話劇は、見ていて飽きない部分はあるものの、いかにも演じているだけという作品にも見えてしまい、若干感情移入がしにくいような印象を受けました。実際、サブタイトルに込められたテーマよりも、賑やかなドタバタコメディーだったという感想の方が先行したような気がします。ウケを狙ったキャラ、台詞が多く、じっくり楽しむというよりは勢いで一気見するような感覚。また、暗転が多く、各エピソードに繋がりが見えにくいようにも感じました。単に面白いシチュエーションを詰め込んだだけのような、 短編のオムニバス作品を観ている感覚に近いような…?
冒頭に書いた豪華な舞台セットに関してももう少し活かして欲しかったかなと思います。全体的なセットは勿論ですが、奥の部屋や隣の書店の部分などを含め、とてもしっかりと作られているように見えたので、その辺をもう少し見せるシーンがあっても良いような気がしました(個人的に見たかったです)。
舞台の雰囲気、BGMの雰囲気、フライヤーの雰囲気、タイトルの雰囲気と、内容が若干合っていないような印象を受けましたが、個々のエピソードは面白く、熱量の高い作品だと感じました。
スター誕生2 2023
ミュージカル座
中目黒キンケロ・シアター(東京都)
2023/02/01 (水) ~ 2023/02/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/02/04 (土)
中目黒キンケロ・シアターにてミュージカル座『スター誕生2(2023)』を観劇。
2018年に観て大変感銘を受けた『スター誕生』の続編。前作を拝見してから5年の歳月が経っているものの、個人的な感覚としては未だに衝撃が残っている作品の一つで、今作に対する期待値も自然と高まっていました。
結論から言えば、今回も期待値をはるかに上回る内容であったと感じました。星5つでは足りません。とにかく最初から最後まで全てが素晴らしいのです。
前作の『スター誕生』と同じ1970年代の芸能界という設定はそのままに、新たなエピソードを詰め込んだ内容は、どの役にも感情移入してしまいそうなくらいのリアリティー溢れるストーリーばかり。表舞台に立つ人、それを裏で支える人、或いは生み出す人。芸能界という華やかなイメージだけでなく、それぞれが抱える悩みや葛藤などが上手く描かれており、とても奥が深く、見応えがありました。今の時代も知られざる芸能の世界というのは存在すると思いますが、インターネットなどはなく、画面を通してしか知ることが出来なかったこの時代の芸能界というのは、尚更ベールに包まれていたと思います。その昭和の芸能界が実に上手く描かれている内容であると感じました。皆が試行錯誤しながらクオリティーを追求していた時代。今とは違う価値や重みがあるように感じましたし、これはこれで良い時代だったのだろうな、と回顧しながら楽しませていただきました。
決して大掛かりな舞台セットが組まれている訳ではなく、ステージ上に並べられたパイプ椅子に、キャストの多くが常に着席しているという個性的なスタイルはこれはこれでインパクトがあります。さらに、単に着席しているのでなく、札を立てる芸能関係者、ペンライトを振る観客などきちんと役目を果たしているのが面白いと思いました。大掛かりなセットがなくても、賑やかで華やかなステージに見えました。
また、24曲にも及ぶミュージカルナンバーはどれもこだわりが感じられ、それを歌うキャストの皆さんの歌唱力が半端なく高く、お見事としか言いようがありません。前作同様、特定の誰か一人にスポットライトが当たる訳でもなく、登場人物それぞれに見せ場があるうえ、長尺で歌を披露するという見所満載の内容は、何ともまぁ贅沢な内容なのでしょう。終始感動、興奮の連続でした。物語の最後に披露される“その後”のエピソードも微笑ましく、「その後どうなったのだろう」というモヤモヤを吹き飛ばす、すっきりとした終わり方であったように感じました。人生良いときもあればそうでないときもあるのは当然な訳で、この作品はその辺りを上手く描き、決して悲観的にならずに前向きに生きていけばきっと良い方向に事が運ぶというメッセージ性もあるように思いました。そして歌が重要な役割を果たしているということも。サブタイトルにある「歌こそわが命」はまさにここにあるのではないかと感じました。
今回で通算9作目となったミュージカル座さんの観劇作品の中でも、この『スター誕生』のシリーズは特に好みの作品です。昭和歌謡をリアルに楽しんでいた世代ではありませんが、どこか懐かしく、細かな感情表現、演出なども秀逸で大満足の演目。拝見出来て良かったです。
ミュージカル「クリスマスに歌えば」
ミュージカル座
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2022/12/21 (水) ~ 2022/12/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/12/23 (金)
シアターグリーンにてミュージカル座『クリスマスに歌えば』を観劇。
久し振りに拝見したミュージカル座さんの作品。観劇の記録を振り返ってみると、2019年10月の『boy be...』以来3年ぶり通算8本目。コロナ禍になって初めてのミュージカル座さんでした。まず率直な感想としては「約3年間なかなか足を運べていなかったのが勿体なかった」、、と思えるくらいの今回の感動。相変わらず良質でクオリティーの高い作品を上演されていて、やはり素晴らしいカンパニーだなと感じました。
今回の『クリスマスに歌えば』は、クリスマスに纏わる様々なエピソードをショートストーリーのような形で順々に展開していく斬新な構成となっており、これはこれでありだなと感じました。最後まで非常に濃密で、観終わった後のスッキリ感、ほっこり感が強く得られた気がします。また、生演奏で披露されるオリジナルのミュージカルナンバーはどれも心地好く、クリスマスシーズンにピッタリなものばかりでした。それに加え、ストーリーの素晴らしさと来たら、、。こういう作品を観てこそ世界が平和で穏やかになれるのではないかと感じました。決して自分が中心なのではなく、人のため、世の中のため、皆で支え合う世界に。今年の漢字は「戦」と発表されましたが、その中には海外で起きている様々な問題もある訳で、このような平和で素晴らしい作品こそが今の時代に求められることではないかと感じました。メッセージ性がある素敵な作品でした。
会議は踊る、されど進まず
リンクス
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2022/11/10 (木) ~ 2022/11/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/11/13 (日)
シアターKASSAIにてリンクス『会議は踊る、されど進まず』を観劇。
「学園祭で何をやるか」ー。クラス単位なのか、クラブ単位なのか、は別として、学園祭での催し物の内容を決める話し合いというのは誰もが経験したことがあるのではないかと思います。この作品はそうした身近、且つ、どこか懐かしさを覚えるような内容がテーマの会話劇でした。
“学園祭の話し合い”という設定は、以前拝見し夢中になったアガリスクエンターテイメントさんの『ナイゲン』にも似ており、今回も舞台上で繰り広げられる会議の展開に、やはり夢中になっている自分がいました。
設定自体はシンプルでありつつも、どのような展開に進んでいくのだろうと、まるで自分自身が学生時代に戻り、他クラスの話し合いを覗いているような、不思議な感覚になりました。ストーリー全体のテンポも良かったですし、登場人物のキャラクターも皆それぞれに特徴があり面白い。クライマックスで見せたダンスパフォーマンスは圧巻の一言でした。
団体、役者さんともに予備知識ゼロの完全初見状態で拝見させていただきましたが、なかなか強いインパクトがあり、しっかりと脳裏に刻まれた印象です。半田サラ役の久代梨奈さん、鍋島極子役の田中海凪さんの“2トップ”はもちろん、周りを固めた演者さん一人一人がしっかりと個性的なキャラクターを丁寧に演じられていて良い座組であったと感じます。他の作品も拝見してみたいところです。
陽炎
劇団アルファー
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2022/09/29 (木) ~ 2022/10/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/10/01 (土)
シアターグリーンにて劇団アルファー『陽炎』を観劇。
出演キャスト総勢29名。久しぶりに大所帯のお芝居を観たような気がします。少人数で何役も回す作品も面白いですが、こういった大所帯の作品もこれはこれで面白い。とても見応えがありました。
劇団アルファーさんの作品を拝見するのは初めてでした。今回は劇場のラックに置かれていたフライヤーが目に留まり観劇を決めた訳ですが、劇団のホームページを拝見すると2000年に設立された20年以上の歴史がある劇団さんのようで、まだまだ未見の劇団は多いなぁと改めて感じさせられます。第38回公演となる今回の作品は終戦から一年の銀座を舞台とした人情劇。キャストの賑やかさに加え、焼け野はらとなった街、そこに佇む元蕎麦屋、そしてその蕎麦屋の店内と、何度も転換される大掛かりな舞台セットの豪華さに、つい夢中になって観てしまいました。非常に丁寧にこだわって作られている本格的な作品で、最後まで見飽きることがなかったです。令和の日本において、戦争はすっかり過去のものと感じますが、世界に目を向ければ決してそうとも言えないですし、日本においても戦争経験者が年々少なくなっている状況ですので、今回の劇団アルファーさんの作品ように、演劇を通して戦争を伝えていくということは有意義で価値があることだとつくづく感じます。この時代の経験があったからこそ、今の平和な日本がある。忘れてはいけないことだと思います。
テレビでもご活躍されている山田邦子さん、大鶴義丹さんは今回の舞台においても安定の存在感がありましたが、その他の演者さんも皆お芝居のクオリティが高く、素晴らしかったです。中でも桜役の榊原のり子さんは孤児という難しい役どころを好演されていたように感じました。役のインパクトもあるかもしれませんが、潮見勇輝さん、乙葉るなさん、サムライ長次郎さん、臼間香世さんも印象に残りました。
エル・スール
トム・プロジェクト
俳優座劇場(東京都)
2022/09/21 (水) ~ 2022/09/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
俳優座劇場にてトム・プロジェクト『エル・スール』を観劇。
サブタイトルに「~わが心の博多、そして西鉄ライオンズ~」が付いている通り、博多の街に今の福岡ソフトバンクホークスではなく、西鉄ライオンズが本拠を構えていた頃のお話。開演と同時にいきなり野球実況が流れてきて、野球好きの人間からするとワクワクが高ぶる展開。西鉄ライオンズが存在したのは自分が生まれる前の話なので、決して世代ではないものの、舞台の全体的なセットやラジオの野球実況、さらに、伝説として語り継がれている西鉄ナインの名前を読み上げるシーンなどノスタルジックな世界に包み込まれ、自然と「懐かしい」と感じてしまいました。まさにタイムスリップも良いところで、舞台説明文に書かれていた「昭和30年代の九州博多。 ―― 戦後の焼け跡の中から、博多の町が生み出す明るさの中で、庶民は逞しく生きていた」という部分が上手く描かれているなと感じました。
トム・プロジェクトさんのお芝居は今回のように“昭和”を舞台とした作品が多くある印象ですが、どれも時代考証が緻密で、特に違和感なくその時代にタイムスリップすることが出来るような気がします。この部分が疎かだとせっかくのストーリーが良くても、どこか不自然さが残ってしまうため、トム・プロジェクトさんの作品はまずこの部分が優れていると感じます。
今回の作品は終戦から10数年の博多が舞台。現地に暮らす人々にとって、いかに西鉄ライオンズ、プロ野球という存在が大きいものだったのか。いかに大切な存在だったのかが分かる内容であると感じました。
先日拝見した『帰ってきたカラオケマン』の風間杜夫さんのユーモア溢れるお芝居も魅力的でしたが、今回のたかお鷹さんの味のあるお芝居も良かったです。皆さん九州出身の方なのかと感じるくらい、博多弁?での台詞も好演されていました。
帰ってきたカラオケマン
トム・プロジェクト
カメリアホール(東京都)
2022/09/14 (水) ~ 2022/09/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/09/14 (水)
カメリアホールにてトム・プロジェクト『帰ってきたカラオケマン』を観劇。
風間杜夫さんのひとり芝居。年齢のことを話題にするのは失礼なことと承知の上で触れますが、風間杜夫さんは今年で御年73歳。お歳を聞いてから舞台を観ても驚きですし、舞台を観てからお歳を聞いても驚き。…いや、でもそれは70代という数字に勝手な先入観があるだけかもしれません。人生100年時代と言われるようになってきた現代社会において、70代はまだまだお若い。…いや、健康年齢を考えるとそうとも言い切れない?…いや……。
今回の風間杜夫さんのひとり芝居を拝見し、まずは単純にパワフルで圧巻なお姿に度肝を抜かれました。アドリブなのか台本なのかわからない絶妙な間、ぼやき、ひとこと、客席との掛け合いなど、どれも素晴らしかったです。これぞエンターテイメントだなと深く感銘を受けました。また、人生山あり谷あり。色々ありますが、観た者全てが、今回の舞台に登場する“牛島明”のように前向きに元気に頑張っていこうと感じたのではないかと思っています。
赤羽焼肉劇場
ブロードウェイ・バウンズ
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2022/09/07 (水) ~ 2022/09/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
シアターグリーンにてブロードウェイ・バウンズ『赤羽焼肉劇場』を観劇。
赤羽に実在する焼肉屋、オーナーをモデルに、コロナウイルス拡大防止のための施策(時短営業、酒提供制限など)に葛藤する現代像を描いた作品。実に生々しく、リアルな設定に、これが令和の演劇かと、新たな時代の到来を実感したような感覚になりました。それくらいこのウイルスの世界的流行は衝撃的で、時代を動かした出来事と言えると思います。
今回の作品で面白かったのは、単にこのコロナ禍にある現代だけを映したのではなく、戦争していた時代の社会情勢、人物像などを融合させた点かと思います。コロナ禍で国から時短要請が出されているにも関わらず、営業を続けている飲食店、酒の提供自粛要請が出ているにも関わらず、平時と変わらずアルコールを提供している居酒屋。コロナ蔓延初期の頃、そのようなお店がニュースに取り上げられ、問題がクローズアップされていました。国の要請に従わない、つまりは“非国民”。過激な表現であり、個人的には決して用いるべき言葉ではないと思っていますが、確かにそのような誹謗中傷が問題化していたのも事実だと思います。
この現代社会の状況と、今からおよそ80年前。お国のために働き、それに従わない国民は“非国民”と呼ばれた戦争時代の状況を上手くシンクロさせた作品で「何ともまぁ斬新な発想なのでしょう」と、脚本のユニークさに感心してしまいました。
今回の物語に登場する焼肉屋は、当初は国の要請に従っていたものの、様々な事情から転換し、やがて誹謗中傷の的になったとのこと。その時に実際に届いた誹謗中傷の貼り紙が公演パンフレットに載っていましたが、飲食店が抱えるコロナ問題はやはり深刻だと改めて感じました(どの業界も厳しいとは思いますが)。
今回このブロードウェイ・バウンズさんは、大変失礼ながら、団体名も存じ上げていない程、完全に初見でした。ただ、代表取締役でもある山内勉(ツトム)さんをはじめ、キャストの皆さんの自然体の会話劇はクオリティが高く、実際に赤羽の焼肉店の様子を覗いてるかのように感じる部分もありました。現代の焼肉屋に戦車や軍人が入って来て「営業を止めろ」などと叫ぶ、時代がシンクロしたようなシーンも面白かったです。パンフレットに記載されていた“エンターテイメント社会派劇”に相応しい作風であったと感じます。
紡ぐ
演劇企画-きよみず
アトリエファンファーレ東池袋(東京都)
2022/09/02 (金) ~ 2022/09/30 (金)公演終了
映像鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/09/03 (土)
アトリエファンファーレ東池袋にて演劇企画きよみず『紡ぐ』を観劇。
初見のカンパニー&役者さん。徐々に規制緩和が進んでいるものの依然としてコロナ背景が続いている中、物語の中にこのコロナ感染症を実に自然な形で盛り込み、マスクを着用してお芝居していても全く違和感のないストーリー展開に、思わず「そう来たか」と感心してしまいました。先日3年ぶりに開催された「青森ねぶた祭り」の話題も劇中に登場してくるあたり、まさに令和4年の現在が舞台設定になっている“超”最新作?だと感じました。
そんなコロナ背景を盛り込んだ“超最新作”ですが、物語の中心は、とある田舎町に古くから続いている“神楽”がテーマという何とも絶妙な設定。感染症の拡大によって人々の暮らしは大きく変わってしまいました。その中には今回の作品に出てくるような「伝統を守るか、自粛するか」の論議が繰り広げられたものも多かったと思います。正直どちらが正解か不正解かは判断が難しいところ。というかすぐには判断出来ない部分だと思います。今回の『紡ぐ』という作品にも様々な考えを持った人物が登場する訳ですが、どの人物の言い分も理解出来る。だからこそ葛藤が生まれ、「果たしてどんな結末が待っているのだろう・・」と物語の終わり方が気になる展開が終始続いたような感覚です。
上演時間は1時間40分とアナウンスされていましたが、伏線回収が多い巧みなストーリー展開もあり、思ったよりも短く感じた印象です。役者さん一人ひとりの役どころも個性的で、キャラ設定がしっかりしていて分かりやすい。伝統を継承しつつも、工夫を凝らしながら、現在社会に合わせた新たなアイデアを織り交ぜることで生まれる新展開。「良かった良かった」と拍手したくなるような心温まるストーリーで、何か大切なものを思い出したような感覚になりました。面白かったです。優しく語り掛けるような天野眞由美さんの前座も印象的でしたし、親子役の石井淳さん、榎並美樹さんのエンディングシーンもとてもカッコ良かったです。他の演目も拝見してみたいところです。
アニー
日本テレビ
新国立劇場 中劇場(東京都)
2022/04/23 (土) ~ 2022/05/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/05/04 (水)
新国立劇場にて2022年版のミュージカル『アニー』を観劇。
2019年以来となる新国立劇場での本編複数回上演。オーケストラによる生演奏、ダンスキッズらも復活し、席数制限のない客席を見ると、少しずつ“かつての日常”が戻って来ているのを体感します。
『アニー』は今年で37年目の上演という歴史のあるミュージカルで、個人的には2009年・2010年と連続して拝見し、その後少し空いてしまったものの、2018年からは毎年観劇中。“何回観ても楽しめる”というのはまさにこのようなときに使う言葉であり、今年は初めてモップ、バケツの両方のチームを拝見させていただきました。それも同日に連続して。
2022年のアニーはともに小学5年生の山崎杏さん、山本花帆さん。毎年毎年よくもこう素晴らしい人材が出てくるものだなと感心してしまうくらい今年のアニー達もお見事であり、結論からいえば、これはモップチーム、バケツチームの両方を観るべきだなと、新たな気付きがあった公演となりました。それくらい2人のアニーが個性的なのです。同じ役でも演じ手によってガラリと雰囲気が変わるとはよく言われることですが、実際にこうして、しかも、立て続けに観ることによって特にそれを感じました。歌唱だけでなく、ちょっとした仕草、アドリブなどの違いも楽しめましたし、2匹のサンディさんが見られたのも良かったです。サンディがアニーの呼び掛けに応じて走って向かうシーン、、。人間と犬が一体となって一つの舞台を作り上げているのが感じられて、とても良いのです。山崎さんの少しハスキーな歌声、山本さんの透き通った歌声も魅力的でした。ウォーバックス家で「♪ここが好きかもね」と歌うシーン、両親が残してくれた大事なペンダントだと口調を強めるシーン、ウォーバックさんと「♪2人でいればいい」を歌うシーンなど印象的な部分を挙げたらキリがないです。
昨年までの藤本隆宏さんが演じるウォーバックスはなかなかのハマリ役だと思っていたので、このキャスト変更にも注目していましたが、葛山信吾さんのウォーバックスも新鮮で良かったです。ハニガン役のマルシアさんは今年はコミカルに演じるシーンが増え、オーバー過ぎるリアクションと相まって一段と存在感が増していたように感じました。鹿志村さんはこの作品に欠かせないキャストさんのお一人だと思います。今年も安定安心のキャスティングでした。
休憩無しの1幕構成も良いですが、カットされてしまっているシーンもあるのでやはり2幕構成が理想。また、以前のような大型のサンディもまた見たいところです。次回も期待しております。
石を投げる女がいて
ジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/03/27 (日)
新宿スペース・ゼロにてジグジグ・ストロングシープス・グランドロマン『石を投げる女がいて』を観劇。
団体名を間違えずに言えただけで一仕事を終えたような感覚に陥るジグジグさん。2019年8月公演の『ひのくすり』以来、およそ2年半ぶりに拝見させていただきました。
これまでに拝見した過去3作『デイドリーム・ビリーバー』『円盤屋ジョニー』『ひのくすり』はいずれも見応え十分。今回も勝手に期待値を上げて本番を待っていましたが、結論から言えば、その期待値を裏切らない見事な大作だと感じました。
公演パンフレットに、作・演出の堤泰之氏の「これは大河ドラマではなく、中河、いや、小河ドラマ」というコメントが記載されていたものの、個人的には「大河」と評しても納得いくのではないかと感じるほど、壮大で目まぐるしい展開に圧倒されました。
前半からリアリティーのある会話劇が繰り広げられる中で、時折見られるユーモア溢れる仕掛けは、観るものを飽きさせないばかりか、その一つ一つが後に繋がる伏線ではないかも感じてしまうほどの重厚感。ミステリーのような、ホラーのような、コメディーのような、社会派のような、、。また、誰が敵で誰が味方で、誰が悪で誰が良なのか。決して現実離れしている訳でもなく、かといって現実ではありえないような展開もあり。。
うーん、これは“ぐちゃぐちゃ、どろどろ”とでも表現すれば良いのでしょうか。堤氏が書かれている「一人一人の登場人物にスポットライトがあたりながら、どんどん物語が進行していく・・」という表現に妙に納得してしまった不思議な作品に感じました。
人間心理というもの微々たることで揺れ動き、それがきっかけで思わぬ展開を招くことがありますが、本質を見失わずに、ブレない信念を持つことが大事、、、? 今回は奥が深すぎて一回の観劇だけでは上手くまとめるのが難しい、色々と考えさせられる内容にも思えました。上演時間2時間30分はあっという間に感じました。やはりジグジグさんの作品は面白いです。
ストーリーの奥深さだけでなく、奥行きを感じさせる趣向凝らしたステージング、“パワースポット”という神秘的な空間を感じさせる照明・音響演出、キャスト陣の熱量も良かったです。女性キャストが多かった中で、小林和也さんの役どころは面白く、存在感があったように感じました。
新 My Sweet Baby
東京ハイビーム
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2021/09/12 (日)
シアターグリーンにて東京ハイビーム『新My Sweet Baby』を観劇。
近年他国で広がってきているという「代理母出産」をテーマとした社会的な?コメディー作品。タイトルに“新”が入っているので、一度上演した作品のリメイク版なのかもしれませんが、個人的には東京ハイビームさんの作品を観ること自体が初めてでした。
まず今回のテーマとなっている代理母制度について。キーワードを聞いて何となくの漠然としたイメージは抱いたものの、正直なところ今まで深く考えたこともなく、知識はゼロに近い状況でした。そのため、この舞台で繰り広げられる内容はとても新しく、「なるほど」「こんな仕組みがあるのか」と一つ一つ理解を深めながら観ることが出来、勉強になりました。
コメディー作品の位置付けのためか、序盤は賑やかな展開に加え、ウケ狙いのやり取りが散見され、せっかく良いテーマを扱っているのに勿体無いと感じる場面もありましたが、中盤から終盤にかけての母2人の心情や、それを支える夫の心情にリアリティーがあるように映り、物語に引き込まれる感覚に陥りました。それぞれの立場を考えるとなかなか複雑でどういった形が好ましいのか分からない。そのモヤモヤした気持ちを抱いたまま突入したクライマックスのシーンは、何というか、モヤモヤが一気に晴れるようなほっこりとした展開に感じました。最後の胎児が代理母のお腹の中で話した内容、また、父母母の3人で赤ん坊を抱くシーン良かったなぁ。。思わず見入ってしまいました。人生は奇跡の連続。命のありがたみを再認識しました。
強いていえば、ストーリー展開上、特に深い関わりが無さそうに思えるやり取りが多めに感じたのと、やや「??」の登場人物が存在したこと。もう少しコンパクトにまとめても良かったのではないかという印象も受けました。
コロナ禍での上演のため、入場時の検温・消毒はもちろん、換気や座席数の制限、最前列の観客にはフェイスシールド着用を求めるなど、徹底した感染防止対策が講じられていた点は良かったと思います。役者さんで特に印象に残ったのは父親役の小谷嘉一さん。イケメンなのに面白い役どころ。赤ん坊役の美月まりもさんも役回りに合った無邪気で輝く表情が印象的でした。代理母役の黒田由祈さんの熱演も良かったです。初見だった東京ハイビームさん。また他の作品も拝見してみたいところ。