かずの観てきた!クチコミ一覧

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血と骨

血と骨

トム・プロジェクト

ザ・ポケット(東京都)

2019/04/10 (水) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/10 (水) 19:00

座席1階

映画にもなった有名な作品を、各劇団から集まった選りすぐりの俳優たちが熱演した。
主役の俊平を演じた劇団昴の金子由之は、身勝手だが内から湧き上がるどうしようもない感情の発露を懸命に表現した。だが、今の時代には稀有な存在で、しかも在日という出自を背負って荒れ狂う男を内面から演じきるのは難しい。荒れ狂う一方で見せる優しさも、あまりに落差が大きい。きわめて困難な舞台であったと思われる。その困難性は妻役の文学座、名越志保も同じだったろう。どんな暴力にも、夫の女癖にもこれは運命と耐え続ける。一度の反抗も見せないその胸の内に自分を支えた確固たる面影がある。それをおくびにも出さないけど何かあると感じさせる演技が必要だ。

総じてどの俳優も健闘した。舞台のテンポもよく目が離せない展開で客席を引きつけた。だが、やはりこの作品の深さを見せつけるには編集などで強化できる映像作品の方が有利だったかもしれない。生身の人間が目の前で演じる舞台ならではの色合いはあったと思うが、やや荷が重かったなと感じた。

ネタバレBOX

すがるように北朝鮮に渡るラストシーンには考えさせられる。歴史の悲劇を思わせる幕切れだ。
コーカサスの白墨の輪

コーカサスの白墨の輪

東京演劇集団風

レパートリーシアターKAZE(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/06 (土) 14:00

座席1階

人情あふれるブレヒト劇。さまざまな劇団が演じてきた名作で、やっぱり最後の判決に向かうあたりに注目と期待が集まる。
裁判の争点になる子どもを人形に演じさせるのは多数派だろうが、劇団風は人形を多用した。他のレパートリーでも人形をうまく使った作品は多く、人形の使い方はこなれている。でも、今回人形に演じさせた領主などの役を俳優がやった方がよかったような気もする。
裁判官が呑んだくれのアツダクだと宣告され休憩前の前半が終わる。ミュージカル仕立てでテンポはいいのだが、後半の裁判場面を考えるとちょっと長い気も。さらに、育ての親が貧困と苦難の中で育てる場面や、婚約者(だったと思うが)の兵士が生きて帰り、自分の妻が小さな子どもを抱いているのを見てショックを受ける場面はちょっとあっさりしていた。
歌や踊りを交え、全体を通して楽しく見られるのがいい。ふたつの階段を舞台両脇に配し、上下空間も含めて3次元的に役者を駆け回らさせた演出は、客席との距離もきわめて近く、迫力があった。

ネタバレBOX

白墨の輪をどう書くか、注目だった。舞台床を持ち上げて大きな輪を描くという演出はとてもよかった。円を描くタイミングがずれると役者がずり落ちてしまうので、かなり稽古を重ねたと思われる。一つのクライマックスとしての見どころに仕上げた。
ReMemory  『生きのこった森の石松』  『あい子の東京日記』

ReMemory 『生きのこった森の石松』 『あい子の東京日記』

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2019/03/19 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2019/03/19 (火) 19:00

座席1階

女一人、男一人の独白劇。それぞれ、パーソナルな人生、人間関係などが語られる。独白ではあるが、台詞は坂手さんらしい味付けになっている。
続けて上演されるが、休憩なしの別舞台。中山マリの方が自分は興味深かった。昭和テイスト満載だったためだろうか。今の時代から見ればバカバカしいほどピュアだったりするわけで、かなり懐かしかったりする。
森の石松は、ちょっと時代がずれている分だけ感情移入しにくい。でも、これも静岡おでんのようにいい味を出しているのだ。

血のように真っ赤な夕陽

血のように真っ赤な夕陽

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2019/03/15 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/03/15 (金) 19:00

チョコレートケーキの古川健書き下ろし作品を、俳優座のベテランたちがアトリエ公演で披露した。ソ連参戦と前後して国家に見捨てられ、塗炭の苦しみを受けた満蒙開拓団の物語。
古川さんのことだから、緻密な取材をベースに練り上げた作品なのだろう。貧しい田舎の信州から新天地を求めて開拓団に加わった3家族は、お互いに協力をし合って開拓を進める。与えられた入植地が先住中国人がまだ開拓する前の土地で、開拓地を安く買い叩いて中国人を追い出した土地でなかったこともあり、中国人との軋轢がなく、地元民との協力関係があったことが、その後の開拓団の運命を左右する。
悲劇一色の開拓団がほとんどだと思うが、このような恩返し的な歴史があったとは、史実なら救われたような思いがする。それは、学問があるとか地位があるとかいう前に、人間としてどう他民族と付き合うかという根源的な問いを突きつけている。
休憩含み3時間近くの舞台だが、最後まで食い入るように見た。

ネタバレBOX

劇場は少し暑い😵
喝采

喝采

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2019/03/13 (水) ~ 2019/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/03/14 (木) 14:00

座席1階

パンフレットで加藤健一が、ブロードウエイのロングランにあたる再演だと書いている。ブロードウエイのロングランは、評判が良くてチケットが売れるからそうなるわけだが、カトケン事務所が再演をしてきたというのは、ブロードウエイのロングランに相当する自信作、ということなのでしょう。
前回の「Out Of Order」とは違って大爆笑の連続で楽しませてくれるカトケンワールドではないが、本来は見ることができない演劇の舞台裏の人間関係などをこの戯曲の経糸として楽しむことができる。さらに、カトケン演じる主役の往年の名優の夫婦関係が横糸になる。酒浸りになり落ちぶれた盟友を支える妻を演じるのが竹下景子。これもパンフレットに書いてあったのだが、小田島恒志、則子の二人の翻訳家が苦労したという1950年代アメリカのちょっと微妙に含蓄のあるセリフ。舞台で実際にそのセリフを聞いてうーんなるほどと感じ入ってしまうのは、翻訳の妙も当然あるけど、やはり経験値の高い女優、竹下景子ならではのせりふ回しなのではないか。
Pカンパニーの林次樹、ワンツーワークスの奥村洋治と、おおっと思う俳優たちによる座組も興味深い。新人女優役の寺田みなみは、カトケン事務所公演のボランティアスタッフをしていた経験もあるというから、その下積み経験を土台とした晴れ舞台に拍手。
休憩をはさみ約3時間とやや長いが、納得のいく舞台だった。

SWEAT

SWEAT

劇団青年座

駅前劇場(東京都)

2019/03/06 (水) ~ 2019/03/12 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/03/06 (水) 19:00

座席1階

熱量のある舞台だ。米国の作家による作品を小田島氏が訳し、青年座らしい完成度の高い戯曲に仕上げた。
ラストベルトと呼ばれる、かつては活気があった工場城下町。移民国家アメリカでは誰もが夢を持ち、よりより生活を目指して働く。ところがITバブルが弾け、より労働単価が安いメキシコなどに工場を移転する動きが強まり、労働者たちは分断され、お互いの仲間を傷つけあっていく。うまく回っていたころはあまり表に出なかった肌の色による差別、中傷。仕事を後から来た移民に奪われる怒り、恐怖。社会は分断され、荒れ果てていく。
実際の取材に基づくリアルな話だけに、迫力がある。外国人労働者を安価な労働力として受け入れようとしているどこかの国への、警句であるようだ。
本来は青年座のアトリエ公演で行われる舞台だったと思うが、今回は下北沢駅前劇場の小空間で。しかし、初日の舞台はとにかく客席が暑かった。休憩込みで3時間に及ぶだけに、もう少し空調だけは何とかならなかったものか。とても引き込まれるいい作品なのだが、結構辛かった。

寒花

寒花

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/03/04 (月) ~ 2019/03/12 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/03/04 (月) 18:30

座席1階

タイトルの寒花とは、極寒の地に舞う雪という。文学座がアトリエで上演したものをサザンシアターという比較的大きい劇場で再演、その初日を拝見した。
初代韓国統監伊藤博文を暗殺した安重根が処刑前に収監された旅順の監獄が舞台。信念を持って殺害を実行した安が毅然と、泰然と死刑を受け入れようとしているのに対し、監獄の看守長や通訳など日本人たちはそれぞれの思いや背景を抱え、落ち着かない。日本はアジアの盟主として君臨しようと体裁を維持するのに腐心しているのが情けない。それはともあれ、死に向かう人間の心理、心の動きを少し斜めから見つめている舞台といえる。
今の時代の価値観から言えば、どんな理由があれ暗殺は許されない。その観点では安を英雄的に描いていて落ち着かない感じも。今の日韓関係には寒花が舞っていて、歴史の教訓を考えるのも、なんだかタイミングがよくない気も。舞台を見た後、かなりの重みを体に感じたのは、そんな今の政治状況があるからかもしれない。

エーデルワイス

エーデルワイス

ブス会*

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/02/27 (水) ~ 2019/03/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/02/27 (水) 19:00

座席1階

ペヤンヌマキは今回も、期待を裏切らない。悲しくもいとおしい女の人生は、舞台で輝いた。
ダメンズに巻き込まれる女はきわめてまじめに、正直に男に向き合っている。自分が頑張らなきゃとその身を犠牲にして。はたから見ればまともではないように見えるが、筋が通っている。そんな恋愛にアラフォーまでを捧げた姿を物悲しくも明るく、どこかさっぱりと描かれる。もちろん、笑いもしっかり取る。
鈴木砂羽がそのキャラクターを遺憾なく発揮している。自分としては、彼女の意外な側面を見た気がする。
ブス会のコンセプトには、一度ハマると抜けられない。今から次回作を期待してしまう、そんな中毒性がある。

ネタバレBOX

基本的ににハッピーエンドだが、ラストの手前は衝撃的に笑える。
花火鳴らそか ひらひら振ろか

花火鳴らそか ひらひら振ろか

劇団銅鑼

あうるすぽっと(東京都)

2019/02/15 (金) ~ 2019/02/21 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/02/19 (火) 19:00

座席1階

お盆に、亡くなった家族が帰ってくる。おじいちゃんの親友(故人)の孫が離れに住んでいるという設定。話はややこしく、それ故のドタバタ劇もあるが、涙も誘う物語だ。
お盆の時だけ帰ってくるとされる故人たちだが、この世に残っている人たちにとってはお盆の間だけでいいから話したいと切に願う。もし、話すことができたらこんなこともあるかな、という話が次々に出てくる。認知症のおじいちゃんの存在は、光っている。久しぶりに帰って来た息子が認知症の妄想だと考えて施設に放り込もうとする展開はあり得ると思ったが、息子の無理解の描き方はちょっと度を超している。
ドタバタ劇かと思いきやの感動舞台だった。真冬の今でなく、お盆の夏に見たい舞台だ。

正造の石

正造の石

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/02/14 (木) ~ 2019/02/25 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/02/14 (木) 18:30

座席1階

婦人活動家福田英子の家にお手伝いに入った女性、サチの人生を通して、足尾鉱山の鉱毒に汚染され水中に沈められた谷中村を描く物語。分かりやすい展開で進む。
作者の主張はラストシーンで語られる。今でこそ、自分たちはこうあらねばというメッセージだ。明治時代と今は比較しづらいかもしれないが、今の政府の方がずっと信用ならない。だから、サチのように勉強し続けなければひどい目に遭うのだ。
初日だったためか分からないが、音楽の入りなど、民藝らしからぬミスが目立ったのは残念。福田英子役の樫山文枝は体調不良だったのではないか。聴き取りにくかった。
いつもは安定感がある丹野郁弓の演出だが、今回は細切れすぎて、成功したとは言いがたい。

拝啓、衆議院議長様

拝啓、衆議院議長様

Pカンパニー

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/02/06 (水) ~ 2019/02/11 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/02/06 (水) 19:00

座席1階

期待の演目である。あの事件をどう戯曲にするのか。あの古川健がどう切り込むのか。
舞台は、容疑者の弁護士の視点から語られる。死刑廃止を訴えている人権派弁護士という設定だ。接見に行くたびにに繰り返される容疑者、被告人の身勝手な主張に、さすがの人権派もこいつに生きていく資格なんてない、と弁護人を降りる決意をするところまで追い込まれる。
そんな彼が再び弁護団に戻る決意をするのはなぜか。そして、裁判の結末は。
殺された障害者の遺族、障害者施設で働く人たちなど、丁寧な取材をして練った戯曲だと思う。この舞台の主題である差別の本質についてどう結論付けるかは、客席に委ねられる。
個人的には、脳性まひと思われる障害者に寄り添う介護女性の本音に心を揺さぶられた。障害者介助の現実から目をそらせて単に共生とか社会的包摂とか言うだけでは、事件はまた繰り返される。一人一人の覚悟が問われる。

イーハトーボの劇列車

イーハトーボの劇列車

こまつ座

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/02/05 (火) ~ 2019/02/24 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/02/05 (火) 18:30

座席1階

ご存知宮沢賢治の物語。初日に拝見した。悲しいラストシーンだが、「思い残し切符」によってその悲しみが少しだけ希望に変わって受け継がれていくように思える。
井上ひさしはこの物語を丁寧に編んでいる。東北の農村の喜びや悲しみを、そして賢治が作ろうとしたユートピアを。全二幕、3時間半に及ぶ長い舞台も、思いがこもっているだけに食い入るようにみてしまう。
主演の宮沢賢治役、松田龍平は意外なことに舞台初出演という。彼らしい淡々とした演技で宮沢賢治らしいのだが、長丁場だけにちょっと棒読みっぽいところも。賢治の父親や賢治をつけてきた刑事役の山西惇は意図的だと思うが松田龍平よりかなり声が大きい。それはそれで成功していると思うが、むしろ、定番のテレビドラマ「相棒」のテイストでやったらどうかとも感じた。

ネタバレBOX

キーワードは「思い残し切符」。何が書かれているかは、客席一人一人の思い次第だ。
どうぶつ会議

どうぶつ会議

こまつ座

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/01/24 (木) ~ 2019/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/01/24 (木) 19:00

座席1階

井上ひさしの強いメッセージが込められてた舞台。子どもも大人も一緒に楽しむことができるのがいい。
戦争や公害など、動物や自然に暴虐を尽くす人間たちに対し、世界の動物たちが立ち上がる。アフリカで動物会議を開き、戦争を二度としないようにすることなどを示した書類にサインするよう求めるのだが。
全編を貫く手作り音楽が魅力的。舞台の役者たちがリードするが、客席と一緒に大合唱できる。

顕れ ~女神イニイエの涙~

顕れ ~女神イニイエの涙~

SPAC-静岡県舞台芸術センター / コリーヌ国立劇場

静岡芸術劇場(静岡県)

2019/01/14 (月) ~ 2019/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/01/16 (水) 13:30

座席1階

静岡に出張し、日本初演、フランスからの凱旋公演を見た。中高生の演劇鑑賞会と同席したため、宮城聡芸術総監督自らの丁寧な前説があった。
アフリカ奴隷貿易に加担した原罪と向き合う舞台。先祖がその原罪に口を閉ざし、新たに生まれる人に入る魂たちが、輪廻を拒否する。その死生観というか、魂への考え方が日本人とそっくりなところに驚く。
宮城氏がク・ナウカで取り組み始めた二人一役の演出が堪能できる。言葉と身体の動きが引き裂かれているところに、なぜこんな面倒なことをと思うが、舞台が進行していくうちに違和感がなくなっていくのが不思議。そのゆったりとした動きが話者にくっついていく。神との対話を描く舞台で、その演出はとてもしっくりくる感じだ。
東京では味わえない舞台を堪能。来た甲斐があった。

ネタバレBOX

ラストシーン。神さまからの伝言が客席にばら撒かれる。言葉の吹雪を浴びながら、歴史を曲げずに伝えることの大切さを感じることができる。
夕闇、山を越える/宵闇、街に登る

夕闇、山を越える/宵闇、街に登る

JACROW

小劇場B1(東京都)

2018/12/20 (木) ~ 2018/12/27 (木)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/20 (木) 19:30

座席1階

田中角栄生誕100年。今太閤、コンピュータ付きブルドーザーともてはやされたが金権政治で失脚する。その人たらし、人間的魅力を佐藤内閣後の総裁選を巡る激しい権力闘争の中に描く。
もう今から半世紀近く前の政治だから、若い世代のお客さんはこの舞台の面白さを倍増するために少し事前の予習があった方がいい。当時の自民党は派閥の領袖が争い、政策を競い合い、いい意味では活気があった。今の安倍一強のもの言えぬ政治とは違い、権謀術数あれど、日本をどうするのかということに論争があった。舞台では、歴代総理に名を連ねる男たちが登場するが、それぞれが個性的で、泥臭く描かれる。まぁ、権力闘争なのでそんな感じになるのだろうが。これにノスタルジーを感じてしまう昭和世代にはたまらない舞台だ。
もちろん金が乱れ飛ぶ当時の政治がいいわけじゃない。だが、表向きは何ごともないように見せかけて何でもありの問答無用の力づくでくる安倍政治を見ていると、人間らしい政治だったのかもと感じてしまうわけだ。
さて、田中角栄のダミ声、何を言っているか分からない大平、機を見るに敏な竹下、融通がきかない三木。それぞれの俳優がいい味を出して演じている。本人と似ているそぶりに笑いが起き、客席の満足度の高さを示した。
舞台回しに山口淑子を起用。これがツボを突いて成功している。有名人ばかり登場する政治群像劇は難しいのではと思ったりするが、シリーズ第2弾ということもあってか完成度は高い。
面白かった。体力があるお客さんは、第1弾と続けての鑑賞に挑戦してほしい。

ネタバレBOX

中曽根が李香蘭のファンだったとは! 本当ですかと作演出の中村さんに聞いたら、創作ですとの答え。いゃぁ、笑えるアイデア😊
リトル・ドラマー・ボーイ

リトル・ドラマー・ボーイ

演劇集団キャラメルボックス

サンシャイン劇場(東京都)

2018/12/15 (土) ~ 2018/12/25 (火)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/12/16 (日) 12:00

座席1階

劇作家の成井豊が書いているように、人気劇団キャラメルボックスが力を入れるクリスマス公演。タイトルからクリスマス仕様で、客席にその力でプレゼントを、という趣向。
久しぶりに見たキャラメルボックスの舞台だが、気のせいか今回は思い切り感動したとは言えません。主人公設定がどんな病気やけがも治してしまうヒーラーというところにあるのだろう。その超能力を使うと、確実に死が近づくという説明だったが、当然だけど要所要所では使ってしまう。このあたりが、物語の次が見えてしまい、ラストの感動を薄めてしまった気がする。
客席は2階席まで満員で、若いお客を中心に支えられているところが分かる。だからこそ丁寧な作りが望まれる。セリフが早速すぎて不明瞭なところがあったり、舞台転換もちょっと雑なところがあった。

ネタバレBOX

ラストシーン、主人公が左手で握手を始めて変だなと思った。左手はヒールする利き手だ。その直後、やっぱり!
予測がつくと、感激が薄まってしまう。残念だ。
ゼブラ

ゼブラ

ONEOR8

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2018/12/04 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/09 (日) 15:00

座席1階

2005年初演のこの劇団自信作。再演にあたり、満を持しての登場だ。「大家さんと僕」で手塚治虫賞を受賞した異例の芸人、矢部太郎がいい味を出している。これから北海道や岩手などで地方公演もあるという。その地域の皆さん、見ないと損するぞ。
人気作とあって、本日千秋楽には午前中に追加公演が組まれた。客席を埋めた千秋楽のお客さんはちょっとおとなしかったようだが、かなり大笑いできる部分も多く、成功していると思う。普通なら、もっと笑いの渦が起きてもおかしくない。
ゼブラとは白黒のシマウマ。これがお葬式の白黒の幕につながるのだが、4姉妹それぞれに女手一つで育ててくれた亡くなった母親への思いが舞台に交錯する。この交わり方のテンポがよくて、まったく飽きさせない展開で舞台は進んでいく。認知症と思われる症状で入院して最期を迎えた母親の気持ちも涙を誘った。
やはり脚本の妙なのだろう。作・演出の田村孝裕は配られたパンフレットで「20年たってもソコソコの劇団」と謙遜するが、同時に書いている「底力」を見せつけている。4女それぞれの性格がおもしろいし、それぞれが大人になって抱えている事情も面白い。末っ子を元モーニング娘。の新垣里沙が演じている。まあまあの存在感だ。
あえて言えば、矢部太郎のために作ったとしか思えない最後の最後の部分は余計だった。わたし的に言わせてもらえば、その手前で暗転、幕切れにした方が感動が倍増した。

葬儀の生前予約、というのは今風だ。また数年後、例えば劇団30周年でもやってみてほしい。また、違った空気感で笑ったり泣いたりできるのではないか。

ネタバレBOX

葬儀屋兄弟はなぜ、柿がそんなに嫌いなのだろう。このあたりのギャグも本当に笑える。
その恋、覚え無し

その恋、覚え無し

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/08 (土) 18:00

座席1階

桟敷童子の舞台いつも迫力がある。この演目はいつもに増して力強かった。嵐を表現する天井からの激しい流水の音に勝たないと聞こえないのだから、当然かもしれないが、役者さんは大変である。今回は4人の盲目祈祷師を演じた女優4人のパワーが際立っていた。
山岳信仰色濃い山里の物語。村の少女が失踪し、神隠しに遭ったのではと村の総力を挙げての山狩りが始まる。女漁師が水車に絡んで目にけがを負う事件が起き、舞台は緊迫度を増す。
以前の「オバケの太陽」でも度肝を抜かれたが、衝撃のラストシーンだ。目が見えない人は素晴らしい景色なんて見えないと考えがちだが、目で見るのでなく心で感じるものだと気付かされる。

ネタバレBOX

とにかくラストがいい。目が覚めるよう
舞台風景に満足度倍増だ。
グレイクリスマス

グレイクリスマス

劇団民藝

三越劇場(東京都)

2018/12/07 (金) ~ 2018/12/19 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/07 (金) 18:30

座席1階

この作品は、劇団民藝の魂を受け継ぐ名作だ。タイトルのグレイクリスマスは、白い雪が何もかも隠してしまう美しいホワイトクリスマスでなく、汚いものを隠すものがない雪の降らぬクリスマスという意味。何と示唆に富む一言。この舞台の底流にどっしりと構え、観るものの心に突き刺さる。
民藝の舞台は、前作の「時を接ぐ」に次いで歴史を見つめ直す作品。連続ヒットの仕上がりだ。
二度と戦争はしない。ピープル、国民に主権がある。占領軍民政部が心を砕いた日本国憲法だが、憲法は単なる言葉なのであって魂を吹き込み続けるのはピープル、国民次第なのだ、と。今この名作を再演する意味はここにあるのだろうが、私はこの舞台が描く人間のしたたかさ、あざとさ、悔しさという部分に惹かれた。
屋敷を接収され、生きる能力のない当主。その没落ぶりが面白く描かれる。米将校のホステス役を買って出るお嬢様たちの生命力はなかなかだ。限界を生きる姿は、今の平和に慣れた体にカツを入れる。
秀逸なのは、元男闘呼組の岡本健一だ。伯爵家に巣食ってうまく立ち回る在日朝鮮人の役だが、ナレーションも含めた舞台回しの役割を見事にこなした。
タイトル通り、毎年のクリスマスに舞台設定した脚本は歯切れがいい。「この演目だけは自分がやりたかった」と言ったという丹野郁弓の演出も良かった。

ネタバレBOX

ラストに憲法の条文の一部を朗読する場合がある。このメッセージをどう受け止めるか、この舞台の評価につながるかも。
おかしな二人

おかしな二人

劇団テアトル・エコー

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2018/12/06 (木) 19:00

座席1階

ニール・サイモンの喜劇。荒れ放題の男の部屋で夜な夜な繰り広げられるポーカー。その部屋に妻子に三下り半を突きつけられた綺麗好きの男が転がり込む。何となく始まる二人の共同生活。とても合いそうにない二人なのだが、友情というか愛情が芽生え始め、仲間たちも応援する。
休憩を挟んで2時間半は少し長い。全編笑いに包まれ切れのいい台詞の応酬が続くだけに、もっとシャープにアレンジできなかったものか。だが、笑いの満足度は高い。R ICOら女性陣の演技も納得だ。セクシーさを前面に、視線を釘付け、あきさせない。

ここで苦情を一つ。劇団関係者と言葉を交わしていたからたぶん招待客だと思うが、大いびきを立てているのは顰蹙だ。せっかくの舞台が台無しだった。こういう喜劇でよく爆睡できるなと思うが、寝るなら静かに寝てほしい。星3つなのはそのせいです。

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