満足度★★★★★
鑑賞日2019/06/07 (金) 18:30
座席1階
幕が下り、客席が明るくなった時、後ろから「あーおもしろかった」との大きな声が聞こえた。
ソワレの後、亀戸の飲み屋で舞台を語ろう。そんな気持ちになった。舞台を見てよかったなあ、という思いがあふれる秀作だ。
私は初めて見たが、何回も、各地を回って上演されている作品だ。マキノノゾミと宮田慶子のMMコンビで、汽笛が響く老舗ホテルを舞台に7話で構成されている。最初は1970年の初冬、最後は明示されていないが平成の終わりのころという感じだろう。高校生だった主人公たちは各場で成長し、大人になり、それぞれの人生が交錯し、中にはこの世を去ったという人もいる。
だが、この舞台の面白さはそれぞれの話が完全に独立して、一話完結型という物語でありながら、人間関係が微妙な糸を結んで「あ、あのときのあの場面が」という具合に思い起こし、関係づけながら舞台を楽しんでいけるところにある。
それぞれの時代の風俗をうまく取り込んでいる。それは役者たちの服装だったり、当時の若者言葉であったり、昭和から平成にかけて生きてきた観客にはクロニクルのように「ああ、そうだよな」と納得できる。
中島みゆきの「糸」を思い出してしまう。小さな物語にちょっと涙腺が緩む。そんなたくさんの起伏を味わい、それを反芻しながら幕は下りる。そして「あーおもしろかった」となるのである。