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烈々と燃え散りしあの花かんざしよ

烈々と燃え散りしあの花かんざしよ

新宿梁山泊

ザ・スズナリ(東京都)

2019/08/13 (火) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/08/13 (火) 19:00

座席1階

温泉ドラゴンの舞台の梁山泊版。もともとシライケイタがどう構成したのか知りたくなってしまうが、金守珍のテント舞台さながらの演出に、ここはシモキタでなく、新宿花園神社かと思ってしまうおもしろさがあった。
梁山泊ファンなら、とりあえず満足できる舞台だったと思う。ただ、元の物語がそうだったのかもしれないが、主人公の二人を時代の殉教者にしてしまった感があるのが少し残念。今の日韓関係を思うと国籍以前の同じ人間としての叫びが聞きたかった。
いずれにしても、いわいのふ健と水島カンナの共演は見応えがあった。期待して熱帯夜のシモキタに来た甲斐があった。

ネタバレBOX

この舞台を花園神社でやった場合、ラストシーンがどうなるかを夢想してしまった。水島カンナが赤い綱を抱きしめて空を飛ぶか、いわいのふ健が池に飛び込むか。
すいません。いけない妄想でした。
明日ー1945年8月8日・長崎

明日ー1945年8月8日・長崎

劇団青年座

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/07/10 (水) ~ 2019/07/17 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/07/10 (水) 19:00

座席1階

青年座が再演する名作を拝見した。
長崎の原爆投下の前日から当日の午前にかけての、爆心地に住む庶民の生活を切り取った舞台だ。
原爆の惨禍というと、投下後のことに目が向くが、投下される前にも当たり前だが庶民の日常があったということを淡々と描くことで、それを一瞬で霧消させた原爆のむごたらしさを浮き上がらせる。

舞台は、前日に祝言を上げた若い夫婦とその周囲の人たちの物語で進む。その二人が原爆投下の日に繁華街でデートしようと約束する場面とか、投下の日の未明に誕生した赤ちゃんと若いお母さんの喜びが明るく演じられる。その明るさがぐっと明るいだけに、その後の「運命」を呪わずにはいられない。

演劇の本当の役割とはそういうものなのだろうと、強く思わせる「明日」の舞台。だから、これは平和を訴え続ける青年座の「DNA」を次に継承する演目といえる。客席を埋めたのは比較的若い観客だったのをみて、この演目の再演の意味を深く味わった。また、次の「明日」があるだろう。「明日」を明日へ継承し続けてほしいと願いながら、帰りの電車に乗った。

ネタバレBOX

もんぺのセーラー服すがたの三人が、ピアノやバイオリンなどでベートーベンの「悲愴」を舞台袖で奏でる。この音色が本当に舞台にぴったり寄り添っていて、感動を倍増させる。
『methods[メソッズ]』『過妄女[かもめ]』

『methods[メソッズ]』『過妄女[かもめ]』

劇団山の手事情社

ザ・スズナリ(東京都)

2019/06/21 (金) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/27 (木) 14:00

座席1階

劇団35周年記念公演だから、山の手事情社の独自の演劇スタイルの一つの集大成といっていいかもしれない。
チェーホフのカモメをベースに作り上げられた一幕もの。この劇団ならではの体の動き、ストップモーションのような俳優たち一人一人の動きを見ているだけで、あっという間に1時間半が過ぎてしまう。鍛えられたアスリートを見ているような演劇だ。
人間の生死を超えて行き来するような舞台。俳優たちのポジションがおおかた決まっていて、それぞれ独自の動きをする。スポットが当たるときに大きく動き、そうでないときは静止している。出ている俳優さんたちは舞台のそでに引っ込むことはあまりなく、ほとんど舞台上にいて存在感の強弱を体現している。それぞれのパフォーマンスはまるで大道芸のようだ。
物語を紡いでいくせりふと同時に俳優の体の動きがこの舞台のエンターテインメントの大きな要素。ほかの劇団が取り組むチェーホフとは全く違うテイストを楽しみたい。

闇にさらわれて

闇にさらわれて

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/06/23 (日) ~ 2019/07/03 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/24 (月) 13:30

座席1階

記憶が間違っていたら申し訳ないけど、コンラート博士のせりふで「良心が重なり、共謀罪になる」という一瞬があったような気がする。何だかドキッとして心に残ったのだが。多くの市民の良心が積み重なって一つの事実が作られていき、それが当局によって共謀罪に仕立て上げられていく。つまり、一人一人の市民は良心から行ったことが、最後は市民が政府にたてつく共謀として立件されていく。そんなふうにとってしまったのだ。
単なる聞き違いかな、とも感じたのだが、タイトルにもある「闇」は、自由にモノが言えない、息苦しい闇であり、たてついたものは拷問の末消されていくという世の中だ。
以前なら、遠い昔のファシズムの歴史的一幕とか軽く受け流すことができる舞台だが、今の日本は身につまされる恐ろしい演劇だ。シャレにならないというか、冗談では済まされないというか。そうした闇にたった一人で立ち向かっていくお母さん、イルムガルトはすごいと思う。ドイツ当局は女性だから手荒な真似はしなかったようだが、現代中国では女性でも政府にたてつくものは平気で幽閉し、拷問をする。昔話ではない。市民の他愛ない話を共謀罪にかけることができる法整備が既に終わっている日本だから、もう他人ごとではないのだ。
以前からあった名作という感じだが、2014年英国初演の舞台という。民藝が日本初演ということでチャレンジした。イルムガルト役は看板女優の日色ともゑ。この長大な会話劇を小柄な全身をいっぱいに使って演じきった。パンフレットによると、この役柄の女性への思い入れはずっと前に経験したあるエピソードが源流という。強い芯のような一本の筋が、彼女の舞台を支えていたように見えた。
翻訳と演出を担当した丹野郁弓が「読むだけでも精神的は疲労度は相当高い」と漏らした硬派劇だ。見る方も心してかかりたい。

「蛇姫様~我が心の奈蛇~」 

「蛇姫様~我が心の奈蛇~」 

新宿梁山泊

新宿花園神社 特設テント(東京都)

2019/06/15 (土) ~ 2019/06/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/06/19 (水) 19:00

座席1階

唐十郎のテント舞台を、時を超えて新宿梁山泊が再現した。いや、当時の舞台はもう見られないのだから再現かどうかは分からない。金守珍がきっと大胆に練り上げたと思われる。
2回の休憩を挟んで3時間の舞台もあっという間に過ぎた。息をつく間もなく次々に出てくる大立ち回り。役者の熱量をこれほどまでに浴びることが出来る舞台は他にはない。
蛇姫を演じた水島カンナは、特に力がこもっていたのではないか。ちょっと鼻声だったが、よく通る歌唱も心を射た。唐十郎の血を引く大鶴義丹はアングラ演劇をも引っ張る存在に進化した。大久保鷹の怪演もお約束。今日は長ゼリフも多かったのに、年齢をも吹き飛ばす勢いだ。
なんといってもラストがすごい。これを見るために花園神社に通う価値がある。

ネタバレBOX

定番の水かぶりだが、今回は舞台前の自由席だけでなくその後ろ2列の指定席にも水よけシートが配られた。タチションの水鉄砲も油断ならない。
『アニマの海』─石牟礼道子「苦海浄土」より─

『アニマの海』─石牟礼道子「苦海浄土」より─

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2019/06/13 (木) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/17 (月) 14:00

座席1階

古里の海の幸で生活してきた漁民たちが、工場排水の有機水銀で手足が不自由になって死んでいく。この理不尽な水俣病の舞台化に真正面から挑んだ。
栗山民也の演出が見事だった。手前に漁師の家のお茶の間を配し、3段ほどの階段を舞台を左右に切って堤防のように置き、背景の海や空を表現した。静かな波の音がずっと流れているのも、平和そのものだった漁村をうまく伝えていた。
1時間半ほどの凝縮した舞台に、次々に病いに倒れる家族、チッソによる分断工作、そして裁判に訴える流れが分かりやすく配置されている。佐々木愛ら高齢俳優がしっかりと若手をリード。淡々とした雰囲気だけに、残酷な現実が痛いほど伝わってきた。力作だ。

ネタバレBOX

まるで水俣の妖精のように、堤防の上をさまよう白いワンピースの少女に注目したい。海の妖精のようにゆったり動く少女は水俣へのオマージュ。ささやかな生活が奪われていくメタファーとして、物語をつないでいる。
アインシュタインの休日

アインシュタインの休日

演劇集団円

シアターX(東京都)

2019/06/14 (金) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/14 (金) 19:00

座席1階

アインシュタインが出てくるわけではない。日本各地を講演しながら休日を楽しみその地元と交わったというエピソードに着想を得て、天才科学者を見つめる大正時代の庶民を描いた。
対話劇に定評のある吉田小夏の作品で、楽しみにして出かけた。パン屋の家族、居候の書生、軍人、女郎あがりの女中。さまざまな人たちのエピソードが交錯する。アインシュタインの相対性理論の本を買ったものの難しくて納戸に放り出した家長のお父さんが、その本を読みたいと願い出た娘を花嫁修業の邪魔だと叱る場面など、当時はそうだったんだろうな、という話がてんこ盛り。
場面場面ではおもしろいのだが、全体を結ぶ縦糸がやや細かったか。関東大震災前夜という舞台設定も、その縦糸の補強にはなっていなかった気がする。そのため、舞台に視線を引きつける力が途切れる瞬間があった。

北齋漫畫

北齋漫畫

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2019/06/09 (日) ~ 2019/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/12 (水) 14:00

座席1階

葛飾北斎の一代記。演出の青年座、宮田慶子が関ジャニの横山裕を選んで臨んだとパンフレットに書いてあった。なかなかこの演目に挑戦できなかったのは初演へのリスペクトだそうだが、初演時の緒形拳の舞台はどうだったのか。客席を埋めた女性たちはたぶん、横山の舞台を楽しみに来た人だったと見られるが、今回は主演よりも脇を固めたメンバーの熱演が光った。
その筆頭は謎めいた女を演じたサトエリだ。その存在感は主役をしのいでいた。もっと彼女の艶かしさを前面に出して演出してほしかったが、ほとんどが女性客という状況を考えるとこんな程度で仕方ないのか。男たちをかどわす仕草、エロスがもっとストレートに出たら、さらにサトエリのよさが際立ったはず。
北斎の娘役の堺小春はよかった。北斎の娘も相当な腕前の絵師だったそうだが、そんな場面もあるとよかった。渡辺いっけいは幽霊役も含め、舞台「おもろい女」で見せてくれた軽快なユーモアを今回も存分に発揮し、ベテランらしく舞台を引っ張った。
長丁場の舞台で、休憩前の前半はテンポよくおもしろかったが、後半はいきなり二人の幽霊が舞台回しを務め、北斎90年の人生をあっという間に巻いてしまったのにはのけぞった。富士山の美しさを極限まで描いた富嶽三十六景など、名作を描く北斎の姿を見たかった。第二幕は晩年の北斎の姿が中心になっているが、あまりにも時が飛びすぎていて消化不良が残る。
先人のコメントにもあるように、横山裕にはやや荷が重かったかな、という感じだ。

ネタバレBOX

滝沢馬琴の妻を演じた枝元萌は、第二幕の冒頭、いきなり幽霊となって登場する。渡辺いっけいとの息の合ったところがよかった。
横濱短篇ホテル

横濱短篇ホテル

劇団青年座

カメリアホール(東京都)

2019/06/07 (金) ~ 2019/06/08 (土)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/06/07 (金) 18:30

座席1階

幕が下り、客席が明るくなった時、後ろから「あーおもしろかった」との大きな声が聞こえた。
ソワレの後、亀戸の飲み屋で舞台を語ろう。そんな気持ちになった。舞台を見てよかったなあ、という思いがあふれる秀作だ。
私は初めて見たが、何回も、各地を回って上演されている作品だ。マキノノゾミと宮田慶子のMMコンビで、汽笛が響く老舗ホテルを舞台に7話で構成されている。最初は1970年の初冬、最後は明示されていないが平成の終わりのころという感じだろう。高校生だった主人公たちは各場で成長し、大人になり、それぞれの人生が交錯し、中にはこの世を去ったという人もいる。
だが、この舞台の面白さはそれぞれの話が完全に独立して、一話完結型という物語でありながら、人間関係が微妙な糸を結んで「あ、あのときのあの場面が」という具合に思い起こし、関係づけながら舞台を楽しんでいけるところにある。
それぞれの時代の風俗をうまく取り込んでいる。それは役者たちの服装だったり、当時の若者言葉であったり、昭和から平成にかけて生きてきた観客にはクロニクルのように「ああ、そうだよな」と納得できる。
中島みゆきの「糸」を思い出してしまう。小さな物語にちょっと涙腺が緩む。そんなたくさんの起伏を味わい、それを反芻しながら幕は下りる。そして「あーおもしろかった」となるのである。

ネタバレBOX

途中休憩が一回あるが、自分としては一気に見たかった。
夢の果(ハタテ)

夢の果(ハタテ)

チーム・クレセント

ザムザ阿佐谷(東京都)

2019/06/06 (木) ~ 2019/06/10 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/06 (木) 19:00

座席1階

若い感性で当時の映画界を席巻した脚本家白坂依志夫の物語。フィクションと断っているが、この舞台の脚本を書いたニシモトマキが、交流のあった白坂氏のエピソードから着想したという。
仲代達也の野獣死すべしなど名作が多い白坂氏だが、女優や若手作家など華やかな人脈、交際でも知られる。今回の舞台でもその片鱗は出てくるが、物語はサブタイトルにもある、文壇のドンに歯向っていく展開だ。
孤児を描いた「お菓子放浪記」の西村滋作品をやり続けてきたチームクレセントらしいテイストもしっかり入っている。テンポよく進む舞台は、簡素な舞台美術とともに、演者たちの会話に集中してのめり込める。舞台回しを脚本家志望で白坂氏の家に潜り込んだという設定の女中にやらせたのは成功していると思う。

化粧二題

化粧二題

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/06/03 (月) ~ 2019/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/06 (木) 14:00

座席1階

この井上戯曲、初めて拝見した。
いずれも大衆演劇の座長役としての一人舞台。すべてがおそらく、役者の選択で決まる舞台だ。最初に登場する女座長を有森也実、次いで出てくる男座長を内野聖陽が演じた。
有森也実がサラシを巻いて肌をあらわにたんかを切る、という場面にドキドキしてしまった。こういう役に挑戦したその心意気を買いたい。ただ、今日のマチネは声の調子が今ひとつだったのか、若干かすれ声で、客席から「頑張れ!」と応援したくなるようなか弱さが邪魔をした。
後段の内野聖陽の物語と直接つながりはないが、何となく二つの舞台を結び付ける糸のようなものが引いてある。それはラストシーンで結ばれることになるのだが、その演出はちょっとアングラ演劇っぽくて好きです。
内野聖陽は迫力があったが、ややかっこよさというかスマートさが前に出てた感じ。もっと泥くさいところがあったら、さらによかったと思う。
いずれもの楽屋も、ライトの当て方を工夫してうまく演出してあった。客席を挟んで大きな鏡があるという設定で有森と内野が化粧をするのだが、本当に鏡があると錯覚させられる秀逸の演技だった。
舞台美術に力が入っていて、この舞台を最大限に盛り上げている。若い世代が集まる現代演劇の世界からは遠く離れた、昭和の演劇の姿を楽しみたい。

ざくろのような

ざくろのような

JACROW

座・高円寺1(東京都)

2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/05/29 (水) 19:30

座席1階

社会派演劇中村ノブアキが、会社のリストラ物語をベースに中国に食われる日本の技術など今日的な話題を盛り込んで仕上げた迫真の舞台。再演というが、自分は初めて見せてもらった。
女性の上司、親会社が買収された会社に送り込んできた人事担当が女性だったりという部分も世の中を映し出している。会社とは従業員にとってどういう存在なのか。社員それぞれの考え方や生き方、家庭の事情などで答えが変わるその問いを、サラリーマンが多いと思われる観客席に突きつける。
会社に必要とされる人材かどうか。一番決定的な部分だろう。そういうところを拠り所自分たちは頑張るのだと思うが、その会社という存在がきわめてあいまいなつかみどころのないものだということが、今更のように胸に響く。
何のためにこの会社にいるのか。あまり答えたくない質問をずっと舞台から突きつけられてきた2時間だった。

ネタバレBOX

会社に重宝されてきたトップエンジニアが中国の会社に移籍を決意し、こちらも国内で活躍するプログラマーの妻の人生をおもんぱかって離婚届を持ってくる場面は笑える。今やインターネットで仕事はいくらでもできるし、会議も連絡もオンラインだ。日本の技術を切り開いてきたエンジニアがそんなことに思いがいたらず妻の人生をリスペクトしたところがかわいい。
骨ノ憂鬱

骨ノ憂鬱

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2019/05/21 (火) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/05/23 (木) 14:00

座席1階

今回の桟敷童子も遺憾なくそのパワーと浪花節、さらには劇的な驚きを用意。観客席をその世界観に引きずり込んだ。
舞台は九州。3人兄弟の物語だが二男とその一人息子、3兄弟の父を中心に進んでいく。一人息子の子ども時代を振り返る形だ。
桟敷童子の舞台はいつも、脇役が光る。徘徊する老婆、傘ばあちゃんがきわめて重要な役割を果たしている。
驚きの舞台装置は今回も各所に用意されている。前例の客席には水よけのビニールが配られるように、舞台脇の池は、重要な装置となる。ラストシーンは花園神社のテント舞台顔負けの驚愕の仕掛けだ。物語を貫く真っ赤なトマトがまぶしかった。

時にはやかましいほどのはっきりした台詞回しが、ぐいぐいと舞台を引っ張っていく。

ネタバレBOX

ラストシーン、壁が倒れた後に見える真っ赤なトマトには注目。ラストシーンの驚愕の舞台転換を二度楽しむために、バックステージツアーに参加したい。
海と日傘

海と日傘

劇団俳協

TACCS1179(東京都)

2019/05/22 (水) ~ 2019/05/26 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2019/05/22 (水) 19:30

座席1階

前回見た「ナースコール」は看護師の労働環境をテーマにしたにぎやかな舞台だったが、今回は落ち着いた、しっとりした物語だった。
重い病気で死を覚悟した妻が、さりげなく夫のこれからを案じる。具体的な行動はないが、自宅に薬を届けに来た看護師に独り身かと聞いたり。おそらく、原稿を取りに来ていた女性社員との不倫にも気づいていたのかもしれない。
医師からの外出許可で夫婦は海に行くことにするが、来客で行けずじまいになる。もう最後のデートかもしれないのに、悲劇的だ。舞台は感情の起伏もなく淡々と進んでいく。
岸田国士戯曲賞を取った作品という。どう仕上げていくのか、腕の見せ所だったかもしれない。前回作と比べてしまったのは、抑揚の少ない作品の難しさだ。
ダブルキャストの片側を見ただけなのでわからないが、妻役の女優さんは健闘したと思います。ただ、作品に少し起伏を付ける演出があった方が良かった気がする。


ネタバレBOX

静かな舞台だけに空調の入り切りの音が気になった。
Taking Sides~それぞれの旋律~

Taking Sides~それぞれの旋律~

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2019/05/15 (水) ~ 2019/05/29 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/05/16 (木) 14:00

座席1階

見どころは、ナチスに水面下で協力したと疑われた名マエストロ役の文学座小林勝也と取調官の加藤健一との丁々発止のやり取りだ。多くのユダヤ人を救ったと尊敬を集めるマエストロ。職務に忠実で、マエストロは聖人だとのいわば常識を疑うアメリカ軍の取調官。取調室の部下たちも堂々とマエストロの味方をする中で、冷静とは言えないがマエストロを追い込んでいく演技は、カトケンならではの迫力だ。
確かに嫌な役だと思うが、常識や大多数側を疑うという姿勢は大切だ。タイトルのどっちの味方か、というのも示唆的だ。
演出も良かった。元生命保険の営業という取調官も戦争のトラウマを負っており、これが音と背景の演出でうまく表現されていた。オーケストラを構成する多くの楽器が舞台にさりげなく配置してあったのも目を引いた。
ナチ政権が名門オーケストラを利用したのはよく知られている。名曲に罪はないかもしれないが、文化までも戦争協力者にさせられる世の中の再来はゴメンだと、舞台は訴えている。

獣の柱

獣の柱

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2019/05/14 (火) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/05/15 (水) 19:00

座席1階

本当に久しぶりにイキウメの舞台を見た。切れ味の良さは変わらない。なんだかホッとした感じもした。期待を裏切らない舞台だ。
超常現象を描き、客席を空想の世界に連れて行くのに力を発揮する劇団だ。今回は無上の幸せを感じられるが、他力によって目を離すことができなければそのまま死んでしまうという、天から降ってくる柱を巡る物語だ。ある意味、天からの安楽死という感じだ。この「世界の終わり」からどう生き延びるか。天は次の世界に連れて行く、すなわち選ばれし人間をどう選んでいるのか。さらに、この柱を振らせているのは何者なのか。
舞台はいつものようにテキパキと進む。光と効果音を的確に使い、分かりやすい。今回もあちこちにメタファーが散りばめられ、見ている自分たちの想像力がクルクルと回転する。イキウメの舞台を見てきたなぁという、頭の回転の余韻が、観劇後に心地よく感じられる。

ネタバレBOX

天からの柱を見続ければ無上の幸福感に包まれて死ねる。劇中、足手まといの年寄りをこの方法で始末した、という話が出てくる。もちろん主役を演じる安田順平くんらはその提案を怒って却下するのだが、このエピソードは現代社会にもずしっと重い。無上の幸福感のうちに安楽死させるのだから殺人ではないという論理。でも、どうせ死ぬのならそっちの方がいいかなぁ。
一人ミュージカル「壁の中の妖精」

一人ミュージカル「壁の中の妖精」

Pカンパニー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/05/10 (金) 14:00

座席1階

春風ひとみ、見事というしかない。間違いなく彼女ならではの一人舞台であり、高度な一人ミュージカルだ。何度も再演を重ねている、木山事務所の作品では上演回数1位というが、見ていない人はぜひ、見た人もあの感動をもう一度味わいたい。
舞台はスペイン内戦。フランコ圧政のなか、30年もの間自宅の壁の中に隠れて生き続けた革命の闘士、その男と妻、娘の物語を春風ひとみがナレーターも含めて一人で演じる。演じるのは幼女から老女まで、性別も年代も超える。舞台を目一杯使い、客席まで巻き込んで物語をかき立てる。
ピアノとギターの音楽、効果音。さらにデフォルメされた影絵。上演を重ね練り上げられた舞台を一体化し、見事な芸術作品に昇華させた。
これは、一つの至宝。見ないと損するぞ。

ネタバレBOX

最後に孫娘まで登場するのには驚かされる。世代まで超えちゃうわけだ。
疾風のメ

疾風のメ

くちびるの会

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/22 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/22 (月) 15:00

座席1階

本日千秋楽。胸に秘めたものを吐き出すように、にらむことによって猛烈な風を吹かせる特殊な能力を持つ青年の物語。
一見、やさしさに見える優柔不断というか煮え切らないのが身上の主人公。結婚に踏み切れない決断力のなさに、一緒に住んでいた彼女に逃げられてしまう。職場帰りの繁華街で当たり屋にカツアゲされ、あっさりお金を支払ってしまう。
友人を助けようとして不幸をしょい込んでしまうこの青年は、持て余し気味の特殊能力とどう付き合って生きていくのか。
池袋ロサ会館の看板というギャグなど、かなりの昭和テイスト。だが、客席を埋めた若いお客さんたちは、結構笑っている。千秋楽のサービスではないだろうが、駐禁の看板を俳優がひっかけてしまうハプニングまであった。

しかし、結論には少し疑問が残る。疾風の扱いに脚本がぶれたのではないか。この結末では、特殊能力や世間の不条理など何もかも一人で背負って去っていってしまい、だからどうなのかということになりかねない。せっかく舞台の中で築き上げてきた関係性を、ラストシーンだけでばっさりやってしまったようだ。
かつての別役不条理劇も頭によぎったが、あの不条理性とも交差点はないような気がする。

虐待をしていると疑われる介護職員に、はっきりその事実を突き詰められない、つまり、周囲や仲間に気を使って傷つけない関係性については、なるほど、そうかもとリアリティーがあった。

役者たちははつらつとしていて、笑いも多く、好感の持てる舞台だった。

新・正午浅草

新・正午浅草

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/17 (水) 18:30

座席1階

永井荷風の伝記的舞台。平成が終わろうとする今、先の戦争に突入していく日本の世間を日記などで冷笑し続けた荷風を描く舞台を上演するのは、今に荷風が警鐘を鳴らすというとても重要な価値がある。
15分の休憩を挟んで3時間近い。若い頃から老境を体現した荷風だが、本人が年老いてからを起点に戦前を振り返る構成で、荷風の亡父が夢に出てきて会話するなど、高齢の演者によるゆったりとしたペースの会話劇が進む。だが、舞台は平板ではなく、荷風の会話がすっと胸に入ってくる。
荷風を演じた水谷貞雄は85歳。享年79歳の荷風よりずっと年上だ。この長い舞台を分かりやすく、情感たっぷりに演じきった。賞賛に値する舞台だ。

つながりのレシピ

つながりのレシピ

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/11 (木) 19:00

座席1階

亡き妻の残したパンのレシピ。会社人間で定年直後に妻をなくして閉じこもる夫が、妻がやろうとしていたことを引き継ぐようにして地域に溶け込んでいく物語。ホームレス支援をする団体でボランティアをする元ホームレス、精神的に病んでいる人たちが、この夫を支えるように取り囲むのがいい。

ホームレスへの世間の無関心、町内の偏見など、よく取材を重ねて練り上げられた脚本だと思う。親の過干渉で引きこもる少女が元ホームレスのメンバーとパンを焼くことで自立の道を歩こうとする話も、リアリティがあった。しかし何よりも、ホームレスとか精神病とか引きこもりとか全く関心がなかった定年後の会社人間が大きく変わっていくのが、この舞台の見どころだ。

台詞の中に「自分たちは普通の人間」といってホームレスとは違うという場面が出てくる。何が普通かというものさしがいかに狭い世界で使われるのかということを、この舞台は実感させてくれる。

ネタバレBOX

パン生地をこねたり、焼いたり。細かいところまでこだわった舞台小道具もよかった。

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