もう一人のヒト 公演情報 秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場「もう一人のヒト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    喜劇仕立てなのだが、それは平和な今の時代から当時の狂気を笑っているから。笑える時代だから、この喜劇は面白いのである。それに客席が気づけば、この舞台を今上演する意味が浮かび上がってくる。
    初演は劇団民芸だったというが、再演は青年劇場が引き継いだという。今回は3回目だそうだが、先の戦争の記憶が消えつつある今だからこそ、笑ってみたい舞台なのだ。
    藤井ごうの演出は印象的だ。冒頭、東京を焼き尽くした焼夷弾か、あるいは広島や長崎に落とされた原爆を思わせる裸電球が天井から廃墟のがれきに降りてくる。これがラストシーンにつながるプロローグなのだが、この舞台。もう一つ興味深いのが、同じステージで戦時中の庶民のあばら家と、皇族専用の堅牢で豪華な防空壕が交代で出現するというところだ。それは、この物語のハイライトである庶民と皇族の思わぬつながりを象徴するうまい演出だ。
    権威あるものに対するうそっぽさを、庶民側と皇族側の両方からうまく描いたのもいい。宮様が防空壕に芸者を連れ込むところ、庶民の側の小さな権威である小学校の先生が、身重の人妻に手を出そうとする。権力の大小はあるが、ともにその世界の一段上の力を笑い飛ばしているようだ。
    狂気の軍人を演じた青年劇場の看板俳優吉村直の迫力はすごかった。狂気といっても本人は真剣に真っすぐに信念を貫いている。その一途さが狂気の度を増していった。
    終演後、強い印象とともに、「いい舞台を見た」と思った。休憩をはさみ3時間というのは確かに長いが、それに耐えられる舞台だ。青年劇場という劇団の底力を感じたような気がする。

    ネタバレBOX

    南朝が正統な皇統であると信じ、あの時代に「今上天皇は偽物だ」と言い切る勇気。狂気であるから面白いのだが、私は勇気でもあると思う。この舞台の最大の見どころ、笑えるところは、金目当てで売ったがらくたが歴史的な証拠となり、貧乏な靴職人が天皇になりかかるところだ。
    その天皇、最初にやろうとしたのが出征した息子を内地に呼び戻すこと。権力を使ってプライベートを優先する親心が、なんだかホッとするのだ。

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    2019/09/19 22:58

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