中井 美穂の観てきた!クチコミ一覧

1-10件 / 10件中
わが友ヒットラー

わが友ヒットラー

シアターオルト Theatre Ort

駅前劇場(東京都)

2013/03/27 (水) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

なぜ、今、この様式で、三島由紀夫なのか
駅前劇場の使い方が新鮮でした。
ランウェイのような舞台美術で照明も洗練されていて、
全体的にデコラティブな空間のイメージと違う、かなり作り込んだ
いかにもお芝居らしい演技をされていて、驚きました。

チラシのデザインもいいと思ったのですが、実際のお芝居とは一体感がなかったように思います。

三島戯曲は難しいですよね。特に長いセリフが多いですから、俳優個人の力量が試されます。
長いセリフの場面は演出の工夫がもっと必要だったのではないでしょうか。
ただ、私に合わなかっただけなのかもしれませんが…。

ネタバレBOX

『わが友ヒットラー』は生田斗真さん(ヒットラー)、東山紀之さん(レーム)が出演する
蜷川幸雄さん演出作品を観ています。
東山さん演じるレームの肉体、精神面での軍人のリアリティーを思い出しました。
この作品ではなぜあの身体表現を選んだのかがわかりませんでした。
衣装が部分的に和風だったのもなぜかしら。
ココロに花を

ココロに花を

ピンク地底人

王子小劇場(東京都)

2013/05/31 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了

満足度★★★

擬音だけの作品も観てみたい
このフェスティバルへの応募文章とチラシの文言を読んでから拝見したら、
ストーリーが全然違っていて少し戸惑いました。
携帯電話がいつ出てくるんだろうと待っていたんですが、
最後まで出てこなかったですね(笑)。
チラシのビジュアルから受ける印象と、作品の内容もかなり違いました。

SFっぽい少し不思議なストーリーは、イキウメに似てるな~と思いました。
(後で気づいたのですが、イキウメの『散歩する侵略者』を上演されてますね!)
効果音を役者さんの声で表現するのが面白かったです。漂う雰囲気が独特で、
登場人物たちのぎこちない会話にも味わいがありました。

作・演出のピンク地底人3号さんは、戯曲で会話を書くことが初めてだったと伺いました。
今までの戯曲は擬音とト書きだけだったそうで、とても興味深いです。
擬音だけの作品も観てみたいと思いました。

ネタバレBOX

夢の中での患者たちの交流が、複数の絞殺未遂事件の犯人探しとどうかかわっていくのか、
追うように観ていたのですが、話がなかなか進まなかったですね。
「あの話はどうなったの?」という疑問への答えがないまま、間延びしているように
感じることもありました。でも、はっきりとは見えないことや、
ひっかかってモヤモヤすることから、色んな事を考えることができました。

大学教授の殺人の自供が覆され、犯人探しは振り出しに戻ってしまいます。
昏睡状態にある妻の病室に熱心に通う刑事が、実は妻の浮気を疑っていて、
彼女の首に手を掛ける場面が挿入されました。
誰が、何の目的で、愛する人を殺そうとしたのかが、どんどん曖昧になっていきます。
そして、自分のことを見守ってくれるはず人々は昏睡状態にあり、
意識があるのかないのかもわかりません。

例えば私が1人で外国にいる時にパスポートを失くしてしまったら?
自分を知る人が全くいない場所で、人間はどうやって自分が自分であることを
他者に伝えられるのか。もしかすると自分でも自分が何者なのか、
わからなくなってしまうんじゃないか…。
人間の存在なんていつだって不確かで、不安定なのかもしれません。

脚本は整理すればもっと面白くなると思いましたし、舞台美術はシンプルで見やすく、
空間もちゃんと埋まっていました。衣裳も含め、全体のセンスがいいですね。
こういう作品は古びないので、再演もできるのではないでしょうか。
黒塚

黒塚

木ノ下歌舞伎

十六夜吉田町スタジオ(神奈川県)

2013/05/24 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了

満足度★★★★

歌舞伎の本質を伝えるポップな現代演劇
原作歌舞伎の世界観を壊すことなく、丁寧に余白を埋めて、現代に通じるお芝居にしていました。
たとえば花組芝居のように女形が登場したり、衣裳が豪華絢爛だったり、
歌舞伎のビジュアル要素を用いるのではなく、
歌舞伎の本質をポップな現代演劇にして伝えてくれたと思います。

役者さんは皆さん素晴らしかったです。
特に老女岩手を演じた武谷公雄さんの技術は非常に高いと思いました。
照明も音響も音楽も転換も良くて、あの小さなスペースで組み立て式のセットでも、
十分に歌舞伎作品として味わえました。

実際の歌舞伎では、メインの俳優以外の俳優はリアクションをしなかったりするので、
現代劇に親しんでいる私は、最初はその方式に馴染めませんでした。
でもこの作品では、俳優それぞれが舞台での出来事にちゃんと反応していたので、
違和感なく拝見できました。

原作の完全コピー稽古をやると聞いて、びっくりしました!
歌舞伎は所作やセリフの抑揚も独特ですから、
体得するために相当なお稽古をされたのだと思います。
完全コピーの通し稽古をUstreamで配信したそうですね、見たかった~。

終演後のトークも、90分やってもらってもいいぐらい面白かったです。
公式サイトにアップされた木ノ下裕一さんのラジオ番組風(笑)、音声ガイダンスも聴きましたよ!

ネタバレBOX

ヒッチハイカーのような姿の若者が4人出てきて、岩手のあばら家を訪れます。
登場までに何もない時間が長く取られていたのには少々戸惑いましたが、
彼らが「僧です」と言ったのには笑っちゃいました(笑)。

歌舞伎、現代口語歌舞伎、現代口語という3種類の言葉を、うまく組み合わせてありました。
僧たちの中に1人だけ岩手の言葉を理解できない人物がいて、
彼に説明する現代口語のセリフのおかげで、観客が置いてきぼりにならないんですね。
その配慮と工夫がいいと思います。

具象と抽象の表現をバランスよく慎重に選んだ演出でした。
拾った薪の束に岩手が花を挿す場面がとても良かったです。
包丁を最後まで扇子で表しつづけたのも品がいいと思います。
ヒップホップのダンスに歌舞伎の動きを採り入れていて感心しました。

音楽には中島みゆきの「時代」などの昭和歌謡、ラップ、歌舞伎の楽曲も使っていました。
ラップの歌はスピーカーから流しているのかと思ったら、僧たちが実際に歌っていました(笑)。
合いの手を入れるのも可笑しかった。

鬼になった岩手を倒し、僧たちが安達が原を去る時、
1人だけ立ち止まって岩手のために祈る演技がありました。
それが岩手に殺される娘を演じていた俳優だったことに、救いを見出せました。
岩手は鬼になってしまったから死ぬことができません。
彼女は人間を信じて、裏切られて、殺して…を繰り返す悲しい運命。
黒塚(墓)にズルズルと入っていくラストシーンも良かったです。
兄よ、宇宙へ帰れ。【ご来場ありがとうございました!】

兄よ、宇宙へ帰れ。【ご来場ありがとうございました!】

バジリコFバジオ

駅前劇場(東京都)

2013/05/29 (水) ~ 2013/06/03 (月)公演終了

満足度★★★

オリジナルの人形が魅力的
オリジナルの人形が役者さんと一緒に活躍するお芝居を続けて10周年。
駅前劇場が盛況でした。劇団のファンも大勢いらっしゃるんですね。

長男が引きこもっている家庭と、劇団解散を決めた作・演出家の
2つのエピソードから成るストーリーでした。
コントのようなネタがいっぱいで、よく笑わせていただきました。
人形の登場シーンは想像していたより少なかったですね。
もっと人形が大勢出てきて、人間と同じぐらいに演技をするんだろうと思っていました。

終演後、ロビーで販売されていたおおかみの人形が可愛かったんです。買えばよかった~!

ネタバレBOX

最初は劇団の稽古場のシーンで、役者さんの人数が多くて驚きました。
出演者の皆さんは個性がはっきりしていて、魅力的な人が揃っていたように思います。
パンフレットで誰が劇団員なのかわかるようにしてくださると嬉しいです。

宇宙から来た(?)引きこもりの長男がいる一家のエピソードは、
作・演出家の創作として劇中劇の構成に収まるのかと思いきや、そうでもなかったですね。
楽しかったんですが、色んな要素を盛り込みすぎかな~とも思いました。
長男に即興劇をさせて、心を癒していくシーンが良かったです。
女性が記憶を失っていくあたりのセリフのやり取りは、
映画「五十回目のファーストキス」そっくりでしたね。

美輪明宏さんの人形の前説が面白かったです。
私が観た回は10周年記念アフターイベント「紅白人形歌合戦」がありました。
たくさんの種類の人形が見られて良かったです。
My Favorite Phantom

My Favorite Phantom

ブルーノプロデュース

吉祥寺シアター(東京都)

2013/04/26 (金) ~ 2013/04/29 (月)公演終了

満足度★★★

「演劇って何なんだろう」と考える時間
役者さんがそれぞれに「ハムレット」との出合いを語り、
色んな人の記憶と「ハムレット」というお芝居の断片を見せられたように思います。
音楽は出演者の1人に相当するほどの存在感と主張があって、かっこよかったです。
照明も工夫があったのでお好きな人はいると思います。

行き着く先がわからない繰り返しは計算なんでしょうね。
とらえどころがないので「いつ終わるのかな」と考えながら座っている状態になりました。
よくわからない時間と空間の中に投げ込まれ、
放っておかれて、実験データを取られているような気分にも。
観客に対するいわゆる「サービス精神」といったものは感じられなかったし、
面白いかどうかと問われると、私は「面白い」とは答えられないんですが、
「演劇って何なんだろう」と考えることができました。
私自身に全てがゆだねられていたんだと思います。

構成・演出の橋本清さんはご自分の欲望に忠実で、
本当に興味のあることだけをやるタイプなんでしょうね。
ありがちな娯楽性はなく、メッセージを伝えようとしているわけでもなさそうでした。
自分の主張を広く伝えるために演劇をやってる方は少なくないと思うんですが、
橋本さんはその逆で、難解であることも込みで
「観客が好きに感じればいい」「お好きにどうぞ」という姿勢を徹底されているようです。

アフタートークに出演者全員が出ていて、
役者さんの自己紹介だけでほぼ終わってしまったのは残念でした。
演出家の方からもっと本質的なことを話した方がいいと思います。
可愛いデザインのチラシに作品概要が載っていたので、
当日パンフレットに挟み込むと良かったんじゃないでしょうか。
トークの最後に「質問があれば訊いてください」とアナウンスして、
橋本さんも出演者もロビーに出て来られました。
観客を置き去りにせず、対話を求めていることに好感を持ちました。

ネタバレBOX

閉じていた幕が開くと、電球が吊り下がってる以外に何もない裸舞台でした。
そのまましばらく役者さんが出てこなかったです。
やっと女優の李そじんさんが登場すると、
最初は本人だったけどオフィーリア、ガートルードと名前が変わっていって、少し頭が混乱しました。
自分は役を見ているのか、役者を見ているのか…。
演劇には不思議な関係性がありますよね。

セリフは全て台本通りというわけではなく、部分的に即興になっているようで、
聴こえても聴こえなくてもいいようでした。
ポツドールの「ANIMAL」のようにセリフが全く聴こえない作品もありますから、
演劇の常識をあえて曖昧にしていく試みは興味深いです。
左の頬(無事全ステージ終了!ご来場まことにありがとうございました))

左の頬(無事全ステージ終了!ご来場まことにありがとうございました))

INUTOKUSHI

シアター風姿花伝(東京都)

2013/04/10 (水) ~ 2013/04/21 (日)公演終了

満足度★★★

学園祭のような楽しさ
劇場に入ってみると、手作り感のあるパネルが目に入りました。
劇場入口の物販ブースの雰囲気も含めて、
小劇場演劇というよりは学園祭のような楽しさでしたね。
開演前の小芝居も嫌いじゃないです。
コントを積み重ねていくような内容で、舞台上でも出演者が学校ノリで存分に
楽しんでいる感じ。自分の同級生が出てたらめちゃくちゃ面白いだろうな~。

劇団員が全員20代という若い劇団なのに、
内容が「笑ってる場合ですよ!」「おれたちひょうきん族」「ぐるぐるナインティナイン」など、
80~90年代のバラエティー番組のようで意外でした。
選曲が懐かしい!みんなで考えて、がんばって作っていると思いましたし、
犬と串という集団がやりたいことも伝わってきました。

ただ、笑えなくはないけれど、コント演劇を大人の鑑賞に耐えうる完成度にするのは難しいですよね。
たとえば「表現・さわやか」のように15~20分の短編コントを
つなぐ構成にしてもいいんじゃないかと思いました。

チラシが可愛らしくて、すごく楽しそうなデザインです。
字はちょっと小さすぎる気もしますが、必要な情報が全部わかるし、
チラシだけで観に行きたい気にさせてくれます。真ん中の戦車もいいですね。
舞台美術は、チラシと関連性を持たせたら良かったのではと思いました。

ネタバレBOX

チラシのキャッチコピーは「狂ってるよ!でもかっこいいよ!」ですが、
「狂ってる」ほどではなかったかなと思います。
役者さんの演技のテンションにあまり変化がなく、もっと押したり引いたり、
メリハリが欲しいです。

ギャグを連発して走り抜けるには、それぞれのネタが長すぎるように思いました。
双子のエピソードの両方ともを同じ見せ方で進めるのも、
エレクトリカルパレードもたっぷりでしたね。

テキストを書いたパネルを次々に出していく演出は面白いですが、オチまでが長いかも。

鈴木アメリさんと二階堂瞳子さんのダブル主演の構造はよくわかりました。
双子の衣装が昔のアイドルみたいで可愛かったです。
男性陣は水玉模様のパンツを履いて、とっかえひっかえ色んな役を演じていました。
舞台の上下への出はけを、ブリッジの体勢でがんばっていました。
そして脱ぐのが好きなんですね(笑)。
二階堂さんとウォルト役の一色洋平さんは、プロフェッショナルとして
空気を引き締めてくれました。
キャッチャーインザ闇

キャッチャーインザ闇

悪い芝居

王子小劇場(東京都)

2013/03/20 (水) ~ 2013/03/26 (火)公演終了

満足度★★★

「小劇場演劇」をビジュアライズ
「小劇場演劇」と聞いてパっと思い浮かべたら、こんなお芝居なんじゃないでしょうか。

若い役者さんがおしゃれな衣装をまとって、声を張り上げて客席を向いてセリフをしゃべり、
やみくもに動いたり、長い暗転があったり…演劇でしかできないことを実践されて
いて、昔の小劇場のイメージがビジュアライズされたように感じました。

LEDの照明も、装置も動かすセットチェンジも見どころがあって、
特にオープニングの照明が良かったです。
なかでも一番好感を持ったのは衣装ですね。
キャラクターの背景がわかるので区別もつきやすく、一生懸命工夫されていると思いました。
ポンチョやカメラに文字を描いていたり、“先生”が着ていた変なガウンも面白かったです。

役者さんは皆さん、とてもがんばってると思いました。
女優さんが可愛いかったですし、“スピード”役の人の体のキレが良いのも印象に残りました。
たとえば劇団鹿殺しだったら菜月チョビさんと丸尾丸一郎さん、
柿喰う客だったら玉置玲央さんなど、劇団を象徴する肉体を持つ俳優が出てくれば、
“悪い芝居”をまた観に行きたくなると思います。

ネタバレBOX

2人の女性陸上選手と男性コーチ、盲目女性とその夫と愛人、
ある学校の先生と生徒2人(そして夢見の人)という、
3つのエピソードが交ざり合ってカオスが生まれます。
役者さんが劇場を走り回り、装置を動かし、
疲れて行く身体を見せる意図はよくわかりましたが、
マインドも疲れていたら、よりグっと来るのになと思いました。

音楽ライブと演劇を一体にする作風だと、小劇場劇団では
劇団鹿殺し、FUKAIPRODUCE羽衣が思い浮かびます。
彼らには「これしかない」という境地に行き着いた感があり、熱も迫力も伝わってきます。
『キャッチャーインザ闇』については、
「何が何でもこれを書きたい」「どうしてもこれしかない」というところまで
行きついて欲しいなぁと勝手に思いました。
作・演出の山崎彬さんの今後に期待したいと思います。
『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

意外な演出、人間らしい会話が欲しい
『あの記憶の記録』『熱狂』の順で拝見しました。
両方とも客席は男性が多くて集中力が高かったです。
『あの記憶~』では泣いてる人がいっぱいいらしゃいました。
劇団の世界観が好きな人がいて、固定のファンがついているんですね。
『熱狂』はお客さんの年齢層が高く、有名劇評家も何人かいらしていました。

ネタバレBOX

○『あの記憶の記録』
学校で上演される教育演劇のような印象を受けました。
真剣に興味を持って、よく調べて書かれている脚本だと思いましたが、
「昔こういうことがあった」という知識を教えてもらう状態で、
そこからもう一歩何かを受け取れるまでは私はたどりつけずでした。

例えば野田秀樹さんも歴史的事実をモチーフに作劇されますが、
そのままズバリではなく違う形で見せてくれます。
私がストレートなものを素直に受けとめられないのは、
単に好みの問題か、色々なものを観すぎてるせいかもしれません。
 
現在のイスラエルのことを描けるのは、演劇ならではですね。
変わっていく世界情勢、現実を伝えるのは、上映まで時間がかかる映画よりも、
演劇の方が有利で即効性があると思います。


○『熱狂』
ナチス内の人間関係を描く会話劇で、俳優は熱演。
制服、軍服をうまく着こなしていました。
“男のハードボイルド”の印象が強く、男性が好きそうな作品ですよね。
『熱狂』は一色のトーンで押していく直球勝負のパワーがあり、
『あの記憶~』よりも力強かったように思います。
ヒットラーの雑用係だったビルクナーが『あの記憶~』にも登場し、
2本がリンクする仕組みでした。
戦後の歴史が見えてくるので、両方とも観た方がいいと思いました。

広報のゲッペルスが「美しさ」を重視したのに頷けます。
民衆はそろいの制服やポーズ(敬礼、腕章など)に弱いんですよね。
集団の熱を利用して、考える隙を与えず、雰囲気で乗せていく…
プロパガンダで民衆を扇動するのはナチスだけが特殊なのではなく、
日本でも起こり得ることだと思います。

ヒットラーが登場するお芝居といえば、
昨年の三谷幸喜さんの『国民の映画』がすぐに思い浮かびます。
三谷さんの手法は、歴史上の人物を私たちと同じ人間として見せるところ。

でも『熱狂』の登場人物のセリフは事実や解説など、
意味や意図がしっかりあるものばかりで、
心情的なものはほとんど語られないんですよね。
人間臭さが感じられる日常会話がなく、
劇作家の古川健さんは歴史にご興味があるのだろうと思いました。
枝光本町商店街

枝光本町商店街

のこされ劇場≡

枝光本町商店街アイアンシアター(福岡県)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/30 (土)公演終了

満足度★★★★

ふと、また観たくなる、また会いたくなる
まず、街を探訪するだけで楽しかったです。
そこに住んでいる人がいて、土地に染みついているものがあることを実感できました。
枝光に住んでいない人(のこされ劇場≡の劇団員)が作っているという構造も面白いですね。
街に縁のない人がつくる街の物語。
街を愛していないとできないことだと思います。

商店街で働く方々が出演されているのは、
最初にさいたまゴールドシアターを観た時の感覚に近かったです。
なぜか、プロの俳優とは違う、少々たどたどしい演技をする姿に胸打たれるんですよね。
生きてきた年輪が重要なのだと思います。
この作品では、目の前でしゃべっているのは市井の人だけど、俳優でもある。
そして観客の私自身も物語の登場人物の一人になる、面白い体験でした。

俳優に自由に質問ができるので、公演の進行が参加者の采配次第なのも新鮮でした。
時間が決まっているような、決まっていないような…、偶然を装っているかというと、そうでもなくて…。
ジャンル分けが難しいですが、演劇って何だろうと考えるきっかけにもなりました。

明確な意図を持ってルートを決めて観客を案内し、最後にあの場所に連れて行って帰結させるのは演劇の演出と言えると思います。

人に会うと心が動いて、恋情のような気持ちが生まれますよね。
ふと、また観たくなる、また会いたくなるんじゃないでしょうか。
そんな後を引く感覚があります。
北九州まで行った甲斐がありました。

ネタバレBOX

体験型演劇というとリミニ・プロトコル「Cargo Tokyo-Yokohama」を思い出します。
トラックに乗って品川から横浜をめざすのですが、車窓から外を眺めると、道に立って歌う女性がいました。
また同じ女性が自転車に乗って追いかけてきたりするんです。

『枝光本町商店街』の場合は案内役の俳優は1人だけで、最後に付き添いだった人が作品に参加することで演劇の効果が生まれます。
欲を言えば、もっと前から仕掛けがあって欲しかったですね。
商店街で「八百屋さん」を演じる俳優もいるのかなと想像していました。

古い旅館に着いた時、思い描いたのは自分の両親のことでした。
私には自分の故郷の記憶がないので、知らない古い街を訪れることは父母の故郷に行くのと似た感覚があります。
最後にお嬢様が手を振る姿を見て、私の父と母にも、自分たち自身の意志で、故郷から東京へと出てきた日があったんだと思い起こしました。
思わず『ベルサイユのばら』の「さらば!もろもろの古きくびきよ・・二度と戻ることのないわたしの部屋よ・・父よ・・母よ・・!」というオスカルのセリフを思い浮かべたりも(笑)。

どんな街でもそうですが、住む人がいなくなったら、街について語る人がいなくなります。
人が生きていない古い街…たとえば遺跡がそうですよね。
この公演が、街を“人の記憶の集合体”として残す試みであると考えると、とても興味深いです。

見る人によって印象に残るところはバラバラですが、記憶が集まると、
目の細かいジグソーパズルみたいに細部にわたって街が再生されるんじゃないでしょうか。
ピースが多ければ多いほど、奥行きが広がって立体的になり、陰影が出てきますよね。

美味しいひょうたん最中をご馳走してくださった和菓子屋みずまの店長さんが、
「地獄横丁に赤い大きなイスがあった」というエピソードを披露されましたが、
果たしてそれが事実だったのかどうかは、確かめようがありません。
記憶はいつでも作りかえられたり、脚色されていくものです。
ある時代に生きていた人の証言が、口伝えで未来へと受け継がれていきます。
今、生きている人のしゃべることも絶対じゃないですよね。
じゃあ、真実って、何…? そんなことを考える契機になりました。
演劇に出会えたのだと思います。

こう考えていくと、のこされ劇場≡というネーミングはうまいですね。
劇団を「劇場」と呼ぶところもいいと思います。
劇場での演劇作品も観てみたくなりました。
月の剥がれる

月の剥がれる

アマヤドリ

座・高円寺1(東京都)

2013/03/04 (月) ~ 2013/03/10 (日)公演終了

満足度★★★

心つかまれる一瞬を逃してしまった
プレビュー翌日の初日に拝見しました。
作家に言いたいことが沢山あるのだろうと思い、必死でメッセージを探したけれど、一番の核心部分を探り切れなかった…そういう気持ちが残りました。
観る日によって振幅が大きく出る作品なのかもしれないと思いました。
出演者の人数が多いので、本番の舞台上で役者さんを動かしてみてわかることもありそうです。
初日の幕が開いてからどんどんと変化していくのは演劇の醍醐味で、映画やテレビではありえません。
いま作って、1日ごとに進歩するのは、演劇が生きている証拠であり、武器のひとつだと思います。

世界観のあるチラシが目を引きました。ただ、長文の文字が小さく、色も薄くて読みづらかったです。
ずっと同じデザイナーさんが作っているんですね。
こんなチラシ文化は演劇ならではですし、効果的に使っていると思いました。

ネタバレBOX

武力ではなく怒りを放棄した未来の日本が舞台でした。
憲法第9条の引用もあり、作家は今の日本の不甲斐なさを腹立たしく思っているのかしらと想像しました。
たしかに「怒らない技術」といった題名の本がベストセラーになっていますね。
怒りは感情の発火点だったり、行動の起爆剤になったりします。
愛よりも怒りの方が、立ち上がるエネルギーが強い場合もあると思います。
でもそれを自ら放棄した日本人は、果たして進化したのか退化したのか…強い問題意識を感じました。

散華(サンゲ)という集団と、それについて学習する未来の学校との入れ子になっていて、まだ生まれていない人物も登場させていました。
「“おはよう”が“キル・ユー”だったりする日常」「悪夢から覚めたらまた悪夢」といったセリフがあり、
構造が複雑で、唐突に時空を越えることから、テレンス・マリック監督の映画「ツリー・オブ・ライフ」を思い浮かべました。
父と息子の確執が軸なのですが、突然場面が大昔に変わって恐竜が登場したりするんです。
この人にしか作れない、圧倒的な美しさのある作品に出会った時、私は「これは詩だ」と思います。
広田淳一さんの詩に、かすかに触れられたのかもしれません。

このページのQRコードです。

拡大