ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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気がつけば五・七・五

気がつけば五・七・五

試験管ベビー

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2015/08/15 (土) ~ 2015/08/15 (土)公演終了

満足度★★★★★

DARC
DARCという名を聞いたことはあるだろうか? Drug Addiction Rehabilita-
tion Centerの略である。

ネタバレBOX

要は薬中リハビリセンターである。世間はそう見るだろう。この言い方には差別が含まれる。そのことを言う側は、それだけの迷惑を掛けているのだから当然とするかも知れない。然し乍ら、そういう認識は果たして正しいか? 
実際、この施設でリハビリに励む人々を描いた今作では、収容される本人が、依存症とは病である、という認識を持っていない。即ち己の病に対し、差別する側と同様、無知なのである。その為、必要なケアではなく、何とかしなければ、自分の我慢が足りないからだ、堪え性が無いからだ、と無益な努力をした結果、その努力の苦しさや社会的疎外感など様々な要因からなる誘因に惹かれて再犯という形になってしまう。非情にデリケートで難しい問題であり、中毒者本人だけではどうにもならないのが現実なのである。
そこでDARCではグループセラピーを行っている。皆で病に係ることによって、自分の悩みが自分だけのものではないことに、収容者達は気付き、自分自身の位置をそれまでより客観化できるのである。無論、この変化は本質的である。何故なら、この事実に気付くことによって初めて、各収容者は自分が、皆の中でちゃんと生きているという認識を持つからであり、ヒトが社会的存在であるということの根本を知るからである。実存哲学的に言えば、キルケゴールが規定したように不安・絶望・孤独により自己認識が失われた状態からサルトルの言う対他存在への移行というコンセプトで説明できそうである。天才哲学者達が必死に考えて漸く発見したことである。そんなに簡単に分かることではない。だから、施設に入っても個人差はあるが、これが分かる迄に皆長い時間を要する。その間にまた薬物に手を出してしまえば零に戻るどころかマイナスである。だから、施設では「今日だけは、我慢しようね」と日々を1日ずつ乗り越えてゆくことを実践している。これが生涯続くと考えて貰えば、如何に困難な事か分かって頂けよう。その困難に真正面から取り組み、極めて深い認識と理解、そして丁寧で良く練られたシナリオ、演出、演技によって舞台化した実に良心的な作品である。
 
イチエフ・プレイズ

イチエフ・プレイズ

ワンツーワークス

ザ・ポケット(東京都)

2015/07/17 (金) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

ジレンマジレンマを拝見
2011.3.12による大人災は、無論現在も我々の日常生活、生命を破壊し続けている。(追記後送)

ネタバレBOX

 エートスプロジェクトを始めとする原子力推進国際マフィアと追随する「日本政府」らの好い加減なプロパガンダと御用学者達の内部被ばくを予めネグレクトするデータ操作等の欺瞞を越えて、その欺瞞の在り様を国権の発動として調査する1年後の調査官と保安検査官との会話を中心に展開するAの部屋、噂によって大打撃を受けた地場産業を代表して農協職員と仲買い、農民と市場動向と商取引の間で行われる詐欺行為を通して産業界の苦境と実情、そして消費者心理を問い掛け、訴えかけるBの部屋、そして、地震・津波と原発災害という複合災害により避難させられ家具財産付き空き家同然となった人家へ忍び込み、盗みを働いた法学部上級生2人の窃盗と被災者支援の落差等々を描くCの部屋。
 同一舞台上で演じる役者の座る位置で、其々の部屋を表すと共に、演ずる時刻をずらして効果的にF1事故によって齎された社会的状況を俯瞰する。元ジャーナリストの古城 十忍さんらしい合理的で社会的な視座の作品である。
 原発事故の悲惨は、にっちもさっちもゆかないアンヴィヴァレンツを至る所で生み出すことにある。今作では間接的に描かれている、人災事故後の対応についても事故を収束さえようとすれば、必ず被曝しなければならないなどもその典型例である。
紛争地域から生まれた演劇シリーズ8

紛争地域から生まれた演劇シリーズ8

公益社団法人 国際演劇協会 日本センター

東京芸術劇場アトリエウエスト(東京都)

2016/12/14 (水) ~ 2016/12/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

 年末に上演されるこのシリーズも8回目を迎える。何とも感慨深いではないか。

ネタバレBOX

漸く日本の文化人も何とか世界に目を向けようとする時代にはなったか!? そうは言っても、普段評論が書ける方は兎も角、多くの演劇関係者がイスラムの内実については殆ど何も知るまい。「インシャラー」という科白でフランスのリセーアンが何故笑うのか? この程度の単純なことすら多くの日本人には分からない。更にハラルミートなどの宗教的タブーに関することも多くの日本人には分かるまい。自分は知らぬことを攻撃しているのではない。外部に目を開こうとしない多くの日本人の態度に対して批判しているだけである。既に日本には多くのムスリムが住み、日本人とも接触してきた。にも関わらず、彼らの価値観や人間関係のありようをアメリカ流のバイアスを掛けてしか見ない日本人が多数存在するように思うのだ。無論、そうでない日本人も自分の周りには多いが、日本人全体としてはマイノリティーであろう。
 まあ、ヨーロッパ人は、アメリカの大衆ほど単純ではないからムスリムに対して様々な対応を取るが、それでも“テロとの戦争”を標榜してブッシュがイスラム圏に仕掛けて以来、多くのヨーロッパ諸国でもイスラムフォビアが猛威を奮ってきた。今作の原作者イスマエル・サイディはベルギーで1976年に生まれたモロッコ系の人物である。ジハードは彼の三作目の戯曲である。現在までに205回もの公演が打たれ、観客の延べ人数は7万を超えるが、そのうちの4万人はリセーアンなどの若者である。一方で彼の笑いに富んだ作品は多くの世代に受け入れられているのも事実である。実際、突き付けている問題の深刻さ、鋭さを見事に笑いで緩和しつつ、キチンと問題提起をしている点で彼の優れた才能は高く評価されてしかるべきであるし、自分も原文で読んでみたい作家である。興味のある向きは仏語版を探して読んでみることをお勧めする。自分もこれからちょっと調べて読んでみるつもりである。
the Code

the Code

FUTURE EMOTION

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2015/12/03 (木) ~ 2015/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

おもりょい!
 タイトルからすっかり暗号物と思っていたのだが、やられた。

ネタバレBOX


 本筋は量子コンピューター開発である。量子コンピューターの噂くらい聞いたことがあるかもしれないが、自分も門外漢なのでさっぱり分からないか、と覚悟していた。だが、多少科学的なセンスがある人なら、科白の中に説明が入っているので、それを聞けば本質は直ぐ掴める。実に面白い。知的緊張とハッカーとの対決や、部内にスパイの居る可能性、内調が実は何を何故狙っているのかという科学研究者としての倫理と名誉や金、社会的地位との天秤問題など、実際に最先端技術分野では必ず起きてくる問題が配置され、良く調べ、考えられたシナリオにセンスの良い展開の演出、役者の演技も適度な愛嬌や適確な役作りでキャラが立っている。コンピュータお宅、太田役の野田 孝之輔、チームリーダー白井役の瀧澤 知恵の演技が気に入った。
Rabies2021

Rabies2021

メガバックスコレクション

キーノートシアター(東京都)

2015/05/01 (金) ~ 2015/05/06 (水)公演終了

満足度★★★★★

メガバックスの作品
にはぐいぐい引き込まれてしまう。無論、シナリオの上手さ、作品の面白さを引き出す演出の巧みもある。更に、舞台美術も自分達が自力で作ることでチームとしての結束力や息が合って、どんな状況にも、しなやかにそれで強靭な対応が可能なのである。こういう特徴は劇団桟敷童子と共通するような気がする。何れも、好きな劇団、力のある劇団であるのは、評価の高さからも分かろう。(追記後送)

二本の二人芝居

二本の二人芝居

unks

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

演劇の醍醐味を楽しめる!
二人芝居を二本演る企画なのだが、「かごの鳥」を拝見した。作に別所 文+竹内 銃一郎となっていて、どこからどこまでが、各々の作者の文なのかは、確認していないのだが、この脚本が素晴らしい。言葉の持つ喚起力をこれ程、見事に紡ぎ出した脚本は滅多にない。こんなに、日本語というものは美しかったのか! とハッとさせられる出来である。その見事な言語表現に応えて、余計な物は一切省いた演出も良い。

ネタバレBOX

必要な小道具は、紙にその都度描いて使う。だから、マジックのような太字のペンとA4の紙と後はステージ等を組む時に使う木箱が8つあるだけだ。登場人物は、二人、今は飯倉の金持ちに嫁いで2年目の若奥様のペン。そう呼ばれているのは、本名が筆子だからである。もう一方が、はっぱ。兄が、魚の研究者で、一応、少女趣味は軽蔑したフリをしているが、内心は無論憧れており、ペンが兄を慕っていることにヤキモチを妬いている。本名は葉子。大の仲良しなのだが、時々絶交しては仲直りする。
二人は、ある場所に閉じ込められてしまう。研究者の兄に助けを求め、ペンの亡くなった母の生まれ代わりだというカナリヤに救助要請の手紙をつけて飛び立たせるが、確実に届く保証も無いのに、閉じ込められた部屋の前に流れる川は大雨の為に増水し、自分達も呑みこまれてしまいそうな状況で、雨漏りも酷い。
それでもはっぱのお祖母さんに教わったという編み方で撚った紐を使って、泳げないペン共々、川を渡ろうと考えたり、綺麗な瓶に救助要請の手紙を入れて川にながして見たりしたが、紐は、はっぱが、自暴自棄になって首を吊ろうとしたら切れてしまったし、瓶は、勢いを増した川の流れにあっという間に持っていかれ、岩か何かに当たって砕け散った。
二人は、ペンがはっぱの兄とデートの約束をしていた8年前、雨に濡れた為倒れ、デートに行けずに結核のサナトリウムに長期療養に行ったまま戻れなかった話をしたり、ペンが兄宛に出した手紙をはっぱが、嫉妬して焼いてしまった話等をしていたが、自分達を攫い、此処に閉じ込めたのが、誰かを推理する。
未だ上演中だから、答えは明かさないが、はっぱを演じた増岡 裕子、ペンを演じた上田 桃子が素晴らしいし、ナレーションの今井 朋彦の声も良い。出演者数こそ少ない二人芝居だが、演劇の醍醐味を味わえる。
一場と二場で若干、シナリオの優劣を感じた。役者の疲れもあるかも知れないので、ハッキリこうだとは言えないのだが、二場の方が劣っている。理に走り過ぎ、イマージュの本質に迫っていた一場より、イマージュの喚起力から離れていたのだ。ナレーションを的確だと言ったのは、ナレーションが、このギャップを素人の目からは隠しおおせたであろうからである。それだけ優れたナレーションであった。この劣化が役者の疲れに起因するのであれば、一場と二場の間に10分程度の休憩を取るのも手だろう。二人だけでこれだけの内容の作品を演じるのだ。考慮する価値はあるのではなかろうか。
MID騎士(KNIGHT)ミラージュ

MID騎士(KNIGHT)ミラージュ

無頼組合

シアターKASSAI(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

泥臭いダンディー
というのが、このシリーズの本音という気がする。ハードボイルドというより、泥臭ダンディーという方がしっくりくるように思う。その視点で見ると、実にかっこいいのだ。そもそも、泥臭いのにダンディーというのは、語義矛盾である。然し、ここには、それが、絶妙なバランスで成立しているのだと言いたい。
 感心するのは、このテイストでシリアスな内容をよくぞ、ここまで表現したという点である。殊に、遠いところで単に事件として起こったことが、その地域で苦労している人と友人になることで、自分の問題として捉えられるようになるということや、だからこそ、自分で調べ、自分の頭で考えて、自らの行動を自ら選択してゆくという、社会人としての基本を、普通の人間の内側から描いている点に、作家の極めて真っ直ぐな視座を観る。実は、この視点こそ、表現する者にとって最も大切なことなのである。
 背景に描かれた、都会の寂しさを象徴するような美術のセンスも、また、照明によって効果を変える手法も素晴らしい。(追記後送)

床の味

床の味

ビッケの一派

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2015/07/31 (金) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

植民地の生
 前提として相変わらず、ずれた発表をしている植民地政府・官僚共であるが、ウィキリークスに頼らなければ、自らがハッキングされていることにも気付けない間抜けばかりの政治屋や、官僚、職員、社員が、本当にエリートと呼べるのか? ということがあり
 今、この生きずらい植民地に暮らす若い女の子たちの悪夢は悪夢のままに、けだるさはけだるさのままに、距離は距離のままに、極めて自然にリアルに丁寧に掬い取って作劇したシナリオが素晴らしい。

ネタバレBOX

初の本公演というが、助走期間は長かったようで、その間に遭った有象無象を見事に結実させている。描かれた人物像もキャラが立ち、其々の個性の陰影の描き方も正確である。殆ど素舞台なので演技力が試される舞台だが、役者の演技力も高い。科白量が多いので、少し早口になる部分が時に聞き取り難いこともあったが、そういう点は追々直して貰うとしてポテンシャルの高さを買う。今後を大いに期待したい一派。
ダイニングトーク

ダイニングトーク

T1project

小劇場 楽園(東京都)

2014/04/29 (火) ~ 2014/05/06 (火)公演終了

満足度★★★★★

何度も観たい
 T1プロジェクトからは多くの役者たちが巣だってきた。今回もAmour,Bague,Croix,Diamantと4組が、同一作品にチャレンジするが、自分はCroixチームを拝見した。主宰の友澤氏の作・演だが、彼のセンスの良さと物語を紡ぐ能力の高さ、そして演出の巧みによって、若い役者たちの才能を引き出している。

ネタバレBOX

 なお、ネタバレに関しては近日中、以下のサイトにアップするので、興味のある方は見てほしい。http://pubspace-x.net/pubspace/ペンネームはハンダラである。
わかば

わかば

うさぎストライプ

アトリエ春風舎(東京都)

2016/05/01 (日) ~ 2016/05/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

渇きと乾き
 独特の乾いた感覚処理が良い。

ネタバレBOX

また、ここで描かれている登場人物たちの背景に広がる世界が、実にグロテスクなものであるらしいことを感じさせる点も良い。実際、我らの生きている状況はグロテスクそのものである。文部科学大臣が大学の自治を否定したりhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016031502000125.html、環境省が、核の塵を一般塵として処理する法律を作ったりhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201604/CK2016042802000267.html、自由を否定し、民衆の為の報道を力でねじ伏せるべく総務相がメディアを恫喝しまくる。http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021002000126.html。要は、地球上の総ての生命に対する冒涜である行為、即ち放射性核種をばらまく愚か極まる下司が支配者であるという現実。これがグロテスク以外の何だと言うのだ!! 社畜と言われてへらへらし、血税を宗主国であるアメリカに収奪されながら、喜んで尻尾を振る奴隷根性の塊、それが日本人(・・・)だろう。
 とはいえ、今作で以上のことが直接描かれている訳ではない。ただ、歪んだ人間関係の発露が、極めて効果的に描かれているだけである。登場人物は2人。タイトルの“わかば”は登場しない。実際にわかばが(居る・居た)のかどうかさえ定かでないように組み立てられた作品だ。自分は、既に彼女は死んでいると解釈した。というのも、登場する人物の1人である男は、わかばの主人、そしてもう1人はわかばの妹と名乗る女であり、彼女は戻らない(・・・・)姉の代わりに、姉との約束(・・)を守り続ける義兄と、終には子作りの行為をし妊娠するのだが、男は生まれるのは娘だと言い張り、その名を“わかば”と命名する。
先代わかばは、子作り行為の前にDVを揮われることを要求し、その後行為に及んでいたのだが、恐らくはその暴力が、先代わかばを死に追いやったのである。無論、殺意があった訳ではなく、過失致死だろう。だが、殺してしまったからこそ、代理である妹(・)の妊娠した胎児に姉と同じ名を付けることによって再生を図った訳だ。一方、先代わかばにも奇妙な傾向があった。夫が外出して仕事をすることを禁じ、上半身をぐるぐる巻きに縛って食事の時さえ腕の自由を奪うと共に、真っ赤なハイヒールを寝る時さえ履かせて、2人で始めていた社交ダンスの練習を強制したりもしていた。夫は、部屋に居ても受注できる仕事しかさせて貰えず、1日中、閉じ込められている訳である。だから、真っ赤なハイヒールを履いた状態で足を使ってパソコンを操作している。で、子作り行為の前には必ず、暴力を揮うよう強制されていたのである。このような歪の生まれる背景として自分が想像したのが、上に書いた事柄と言う訳だ。観客の想像力を信じた、面白い作りである。そして恐らくこの作品の成功は、この登場人物たちが抱えている心の・魂の叫びとしての渇きの切実な苦悩すらも、作家によって砂漠の砂のように太陽に灼かれる物として描かれている点にある。その視座の適確、乾きの距離とでも言うべき隔たりによって、対象化されている痛さこそが挙げられよう。
銀色の蛸は五番目の手で握手する

銀色の蛸は五番目の手で握手する

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターサンモール(東京都)

2013/12/27 (金) ~ 2013/12/30 (月)公演終了

満足度★★★★★

命の輝き
 離島の山奥に不時着したUFOには、臨月の宇宙人が乗っていた。

ネタバレBOX

 彼女は、偶々異変に気付いて近付いた老人に子供を頼み息絶えた。老人は1人暮らしであったから、生まれたばかりの子を連れ、育てることにした。だが、この子は、銀色の皮膚をし、足が11本もある子だった為、村の子達のからかいや苛めの対象になり、一人泣く姿がよく見受けられた。そんな中、村で最も可愛いと評判のハナ子だけは、彼にも優しく声を掛け友達にもなってくれた。そんな彼女の父は、体を壊し寝付くことが多かった。そんな父の快復を願い、彼女は四葉のクローバーを探していたのである。オサムと名付けられた遺児は、彼女と一緒になって四葉のクローバーを探すが、この時には見付けられなかった。そんな山間での学生時代を終える頃、ハナ子は、先輩でサッカー部の主将、皆の憧れの的である池畑と付き合い始めた。オサムは、ガールフレンドとして付き合って欲しい、と思っていたが、あっさり夢は断たれてしまった。
 失意のオサムにおじいは東京へ一緒に行かないか? と誘う。おじいは読者モデルなどをするつもりなのである。始め、島の仲間達とまだ過ごすつもりだったオサムは、飛来したUFOが自分の生まれた星からのものだと思い、生まれ故郷へ帰ると友達に告げ、ハナ子から四葉のクローバーを送られ、皆に挨拶を済ませてUFOに乗り込もうとするが、全然、別の星から来たUFOで相手にされず、じいと一緒に東京へ出る。一方、ハナ子も池畑と共に東京へ出てきていた。彼女は看護師になったと言う。池畑は商社マンで随分忙しく働いている由。
 オサムの手足は8本になっていた。それは、かつてじいが大怪我をした時じいを救い、高熱を出して寝込んだ時に、腕がもげてしまったからであった。以来、じいはその力を使わないよう命じていた。(追記2013.12.31)
 然し、オサムは知ってしまう。ハナ子が決して幸せではないことを、それどころか、池畑はすっかり駄目になっており、仕事もせずにハナ子に春を鬻がせ、自分の子ではないかも知れないなどと悪態を吐いてはDVに走る。ハナ子は終に堪忍袋の緒を切らし、彼を殺害してしまった。その罪を救ったのは、オサムであった。じいに禁じられた不思議な能力を用いて池畑を助けたのである。無論、オサム自身は体調を崩し、現在は世界のトッププレイヤーとして活躍する彼は休場。その後10日間も寝込んでしまうが、漸く何とか昏睡から目覚めた彼の前には、子供が泣くのを、隣室から何度も咎められ、赤ん坊の口を枕で覆って死なせてしまったハナ子の窮状があった。彼は、今回も彼女を助ける。その結果、総ての腕を失い、2本の足だけになったが、漸くキーパーをさせられずに済むようになった彼は、フォワードとして復帰、終にシュートで得点を上げた。
 宮澤賢治の描く「夜鷹の星」などのような純粋な自己犠牲と命の輝きを、切り捨てられた沖縄基地問題や未亡人製造機と揶揄されるオスプレイ強行配備などの対局に置いて痛罵しながら、軽々と高く舞うポップンマップチキンの清々しさよ!! 爪の垢を安倍に飲ませてやりたいものである。
HARUKA

HARUKA

旋風計画

ザ・ポケット(東京都)

2014/08/20 (水) ~ 2014/08/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

総ての世代が腑に落ちる舞台
 キャラメルボックス成井氏の良く練られた深い科白。有坂 美紀さんの洒落た演出、演技陣の素晴らしさ、照明、音響など効果の巧さ。メンタリティーと道理との相克。どれをとっても素晴らしい。これだけの内容を子供にも分かるように表現している所に、この劇団の凄さを感じる。(追記後送)

蝶を夢む

蝶を夢む

風雷紡

シアター711(東京都)

2013/08/11 (日) ~ 2013/08/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

哀れ
 作家、演出家、美術、役者陣、照明、音響、歌唱力どれをとってもセンスの光る作品。

ネタバレBOX

 腐り切ったこの植民地の退廃をGHQの関与も噂される帝銀事件を絡めて描き出した。GHQが絡むのではないか、との噂は、731部隊と当然のことながら関係する。広島・長崎への原爆投下以降、日本で、軍事研究に携わっていた研究者の多くが、自らの戦犯としての罪一等を減じる為、被爆後の現地に入って詳細なデータ(大学ノート183冊分)を取り、その後、僅か2ヶ月程で英訳してアメリカへ送っていることは衆知の事実である。731部隊のメンバーも多くが、敗戦後アメリカに協力した。無論、罪一等を減じて貰う為である。 
 日本の所謂エリートの腐り切った根性は今に始まったことではなく、連綿と続いてきたことなので、班目春樹、勝又 恒久、清水 正孝などの無責任ぶりは、今更驚くには価しないが、この作品は、伯爵家という貴族を絡ませた点に、深い意味がある。誰でも知って居て当たり前のことに、大日本帝国憲法における主権者の問題がある。現行憲法の主権者は、無論、我々、国民である。従って、戦争などを始めた場合、それが己の愛する者達全員の死に終わることになろうとも、そのオトシマエは主権者である我々、国民が負う。当然の理屈である。推進したのが政治屋であっても、結果責任を負うのは彼らではないことに注意しておいて貰いたい。彼らは、委託されたに過ぎないのだから。ふんぞり返って偉そうに詭弁を弄しているのは、彼らの無能の証であると同時に、それを糾弾しない国民である我々の不甲斐なさだ。閑話休題。
 さて、大日本帝国憲法にあって敗戦の責任を負うべき主権者は誰であったか、無論、天皇、裕仁である。彼だけが主権を持っていたのであるから。法解釈だけから言っても、このことは妥当である。而も、裕仁自身、1945年2月近衛文麿が早期終結意見書を提出した際「もう一度戦果を挙げてからでないと中々難しいと思う」と拒否、沖縄、広島、長崎、東京大空襲等々の惨劇を招いたのである。この国の唯一無二の政治家とアイロニカルに言われる裕仁とは、己と一族の利害の為だけに他の総てを犠牲に供し得る無責任者そのものなのであって、この作品における渡辺 秋利伯爵は、裕仁の矮小化された喩である。だから、小笠原 芙美子は、あのような形で復讐せざるを得なかったのであり、その復讐は人間的には最もなことだと納得されるのである。だってそうだろう。自分の住むエリアの法が、どんなに正当な手続きを踏んでも、不正をしか齎さない時、被害を受けるだけの者は、如何なる権利を持ち得るのか? 合法的権利ではあり得ない。而も、それなしに納得はあり得ない。そのような選択肢を迫られた時、誇りを持つ人間であれば、誰しも、非合法ではあるが、唯一、無残に殺された者を悼み、己自身も納得できる選択肢として復讐しか見出せないのは必然である。哀れを誘うのは、このエリアで起こって来た歴史的事件の背後には、常にこのような歪んだ制度があり、そこで苦しめられてきた者達が居たであろうこと、そして、このような形でしか復讐が果たされないような未分化な政治体制が現在も過去もこのエリアの住民を律してきたことなのである。その哀れを作品化し得ている所にこの作品の本当の凄さがある。
 もう一言言っておくならば、貴族の最も愚劣な点とは、人生を退屈と捉えるディレッタンティズムが許されることである。退屈から逃れる為なら、人間は何だってする。このことの危険性を良く認識しておくべきだろう。渡辺伯爵も退屈していたのである。
 そして、渡辺伯爵に仮託された無責任体制は、731部隊メンバーの訴追逃れをも齎し、原爆被害報告書を作成した軍事科学者らと共に、戦後、日本の暗部を形成してゆく。その結果が現在の日本だ。だから、マダラメ正しくはデタラメやかつまた、正しくは且つまた、しみず、正しくは沁みずなどの妖怪が跳梁跋扈するのである。
せんせい

せんせい

株式会社トキエンタテインメント

上野ストアハウス(東京都)

2014/04/09 (水) ~ 2014/04/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

先生に感謝
 退任する英語教師、真野を同僚、生徒達がサプライズ・イベントで送りだそうと企画した。だが、春休み中とあって同僚教師は、保険室の養護教諭を含めて6名。生徒はたった4人。何十年も勤めた先生を送り出すには余りにも寂しい有り様ではある。唯一の希望は、生徒達がフェイスブックにこの件をアップしているということであった。

ネタバレBOX

 無論、肝心の主役、真野が何時頃現れるか? は、送別会の折、何気に確認してある。一応、その予定で準備を進めている。シナリオは体育教師の長壁が書いた。ゲネに近いリハーサルが為され、最終確認をしている所に卒業生がやってきた。フェイスブックを見たという。現在は警察官になっている近藤であった。現在、真野の生徒に接する態度は、おとなしい、冷たくは無いが距離を置いた生徒に葉余りインパクトの無い教師である。近藤の覚えている真野は、1時間近く遅刻してきて何だ、君? Who are you? と問う先生であったが、その注意の仕方に風情を感じる先生ではあった。その後、矢張り、ファイスブックを見た猿丸がやってくる。彼女は現在看護師をしていて夜勤明けだったが、Who are you? の真野が退任するとのインフォを見てかけつけたのだ。その後、現在、教職に就いている瀬良が来る。真野は熱血教師だったという役者をやっている井出が来る。誰も覚えていると言えない舞踏家の三村が来るで、ゲネレベル迄仕上げたサプライズ・イベントは、崩壊寸前。そこへ、現在は、市内でスナックを経営するママとホステスの熊野、園田がやってくる。彼女達の証言では、真野は、寒いジョークの先生だった、と言う。卒業の時代によって真野は大きく変化していたようなのだ。イベントに参加する人間が膨らみ収集がつかなくなるのが確実視されるようになったこの期に及んで、それでも、何とか纏めようと、本来のシナリオを持ち出して、訴える長壁であったが、終に真打ち登場。スパルタ教師だった頃の問題児2人、吉森と田川である。現在は、ヤクザになった彼らは、偶々、友人から真野が退任することを聞き、やって来たのだったが、風体、態度、言葉つきどれをとってもヤクザ以外の何物でもない。それで、皆、ビビってしまった。が、卒業生だというのでむげに追い返す訳にはゆかない。
 一方、サプライズ・イベントの段取りは滅茶苦茶である。疑心暗鬼も起こる。ひょっとしたら、真野が借金をしていて、取り立てのヤクザが来たおではないか? といったようなことを心配したのである。女性教師が卒業名簿を調べると吉森も田川も名前が無い。借金取り立ての懸念がリアリティーを帯びて来た。そこで、長壁・保井は合同チームを組んで、何とか二人のヤクザを追い出そうとする。会場には現役警官もいる。いざとなれば対応する条件は整っている。問題は、ヤクザである彼らに問題を起こさせればいいわけだが、どんな問題をどのように起こさせるか、それが問題なのであった。唯、ヤクザでるというだけでは、逮捕などできないのは当然のことであるから。そこで、相談をした所、滅茶苦茶にマズイ飲み物を彼らに飲ませ、怒らせて暴力を揮ったら現行犯逮捕する、という案が出て、トライするが、他の卒業生が、飲み物の入ったカップを配る手伝いをして計画は潰れ、第2のミッション、に掛かった。例によって、長壁・保井がチームで彼らを侮辱し、怒らせようとしたのだが、彼らの法が一枚上手、総てジョークとして受け流してしまう。第3ミッションにとりかからざるを得なくなり、マズイ飲料を、今、手元に在る物と差し替えて飲ませ怒らせようとしたが、誤魔化し誤魔化しやっていた作業の終盤、椅子の下にもぐって差し替え作業をしていた近藤が不審を問われ、これも頓挫。グチャグチャになっている所へ主賓の真野が戻ってくるという見張りからの連絡が入り、兎に角、サプライズイベント優先で、皆、結束。段取りは、流れの中で自然にできたものに殆ど任せて、真野を迎える。
 ここから先、感動のシーンが続くが、上演中なので、詳細は書かない。是非、観て欲しい。特に、学生時代、問題児だった人には。
 とどのつまり、先生ってのは、信じられる人間が世の中には居るってことを教えてくれる人のことだ。幸い、今迄、自分にもこのような先生が居て下さった。お陰で、何とか人の道に背かずにやってこれた。有り難いことである。
つくづくな人間

つくづくな人間

マニンゲンプロジェクト

小劇場 楽園(東京都)

2015/01/28 (水) ~ 2015/02/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

Someone like you
 2月1日17時迄の8回公演の初日。良い舞台を拝見した。シナリオ、演出、演技そのどれもが、設定の良さに調和し過不足なく伝わってくる。描かれているのは、ドブ泥の中で生きているような人々、別の表現をすれば殆ど個人名を持たない人々、つまり我々に似た誰かである。(更なる追記後送)

ネタバレBOX

 世の中を見ようと思えば、下から見上げるのが良い。この際、気をつけるべきは、バイアスを排すことである。
泥の子

泥の子

劇団 きみのため

劇場HOPE(東京都)

2014/10/29 (水) ~ 2014/11/03 (月)公演終了

満足度★★★★★

デジャビュ
感がある。自分のホントに小さな時、ここ迄悲惨ではないものの、雰囲気は残っていたからだろうか。(追記2014.11.12)

ネタバレBOX

敗戦3年後の東京、ニコライ堂の鐘の音が、響く病院アパートには、大家面した元小使いの老婆が、爆弾にやられたこの建物を人々に貸して日銭を稼いでいた。彼女、爆発で耳をやられて音が聞こえない。然し、その日の宿代の払えない者は遠路無く追い出すという冷静な面を持ち合わせている。中々因業な老婆である。
 現在、部屋を借りているのは、元鬼検事と自称する初老の男、何やら般若心経やら、観音経やらを誦し、鈴を振る。綽名は、先生だ。年齢は初老といった所か。帰還兵も居る。曹長だったとかで、中国大陸では若娘に酷いことをしたらしい。年中魘されている。猫を被ってはいるが、悪には違いない。綽名は復員。シナリオライター志願のヒロポン中毒者、ポン中。血を売ってはシャブを買っている。知識はあるが、ナイーブな男。靴を盗んでは金に換え、何と銀行預金を12万3千円もしているカッパ。自称大地主の息子で農地改革で財産を失った男。凶暴な犯罪を犯すタイプでもないが、ちゃらんぽらんな所もある。因みにカッパはカッパライから来ているのは、誰にも直ぐ分かるだろう。
その他姉弟が1組。貧しさから奉公に出されたが、年頃になると、器量の良いことから妾にされた。そんな暮らしが嫌で飛び出した後は、ストリッパーやパンパンをしながら中学生の弟を養って来たが、学の無い娘に他にどんな仕事があったというのだろう? それでも、弟に悪影響を与えられないと売春を止め、バーで女給として働くことで何とか身を立てていたが、彼女の美しさが仇を為した。チンピラヤクザにヤサを見つけられ、レイプされかかった際に、聞き及んだ居たヤクザの顔役の名を出して撃退したことから、このヤー公のレコにアヤをつけられた揚句、ヤー公から焼きが入ってレイプされた。おまけに、唯一の夢であった弟のマーボーは結核性の病に倒れて、薬の手配もままならない。唯一、治療に効果のありそうなペニシリン注射は1回1000円もする。薬代を稼ぐ為に再びパンパンに身を落としたが、名前を使った件に関してのレイプを1回で済ませ、シャブ漬けにもアヘン漬けにもしなかったのは、彼女の気性をヤー公が評価したからだった。然し、目を掛けたスケが誰彼構わず股を開いたとあっては、このヤー公の顔が立たねえ、となって2度目の焼きを入れられた訳であるが、本人は出張ってこない。手前のバシタのやっかみが怖いということもあるだろう、格好をつけて舎弟と例のチンピラを寄こした。舎弟がこのチンピラ命じた為に、この間のカラクリがばれていたこともあり、チンピラにも焼きを入れられる始末。
 それでも、鶴は弟の前で、金の心配をさせまいと「人気のある踊り子だから金は手に入る。心配はない」と嘘をついていたのだが、姉の不自然な態度をいぶかしんだ弟に質問されて、事実は、元パンパンの同僚、トンボの口から漏れてしまった。父と同じ病に罹ったと知っている弟は、父が患ってからの母の苦労を思い出し、姉の負担をいやがうえにも想起させた。優しい弟は終に自殺してしまう。
 弟を大学へやって世間を見返す為もあって、男断ちの誓いを立て、被ってきた泥を清めたハズの鶴であったが、レイプされて穢れ、たった一つの生きる目的・希望であった弟に先立たれて、ショックの余り床についてしまった。
 鶴の看病をしていたトンボは、就職してマッポになったを幸い、カッパを逮捕した復員に2万で手を打ってパイにして貰ったが、復員のあくどさはこんなものではなかった。復員が2万どころか彼の通帳を狙って首を絞めて来たので、反抗して自分も復員の首を絞めたが、気付いた時、復員の息は無かった。それで一旦、ヤサへ戻り、看病の為に其処に居たトンボを復員から奪ったワッパで拘束してトンコしてしまった。
 畳の上で往生したがっていた先生は、本当は鬼検事などではなく、主人家族を殺した殺人犯で、空襲で務所に火が回ったドサクサに紛れてトンコした脱走死刑囚であるとホントの事を話し、穏やかに息を引き取る。この辺り、最終的に、ホントのことを誰かに聞いて貰いたい、という人間実存の欲求を示してリアルである。
 一方、鶴は思うのである。死刑囚が観音に願って願いを聞き届けられ、畳の上で穏やかに死んだのに反して、苦労しかしたことのない姉弟が、人としての尊厳を踏みにじられたのみならず、最愛の者を奪われ、友人を失い、惨めさに泣くことさえできぬような苦悩を負わされる。そんな、神や仏とは何か!? と問う鶴の叫びは悲痛である。
 そして、このような叫びは至る所に在った。井上 ひさし作の東京セブンローズでも描かれていることであるが、戦い破れ、武器を取り上げられてしまった男なんぞ、何の意味もない。実際、戦後のどさくさに家族を守ったのは、女性達である。パンパンを余儀なくされた者もあったであろう。女を武器にした者もあったであろう。然し、現実に、戦前の飢饉や戦費調達に実質的に大いに貢献したのも女性の力が大きかったことを考えれば、売春をしていたからと言ってそれだけで彼女達を非難することは過ちである。からゆきさんの墓は、墓碑銘が総て古里に背中を向けていると言う。それだけ深い絶望を彼女らに味あわせたのが、我々の過去なのだ。そして、この過去を我々は未だ引きずっている。何故なら、既に多くの日本人がこの過去を忘れ、嘗て、売春婦を嘲ったように現在も差別し続けているからである。自分は、故あって無神論者である。然し乍ら、死者に対する冒涜とは、忘れ去ることであることぐらい知って居る。そして、忘れ去るとは、儀式化も含む。死者は、我らに、我らが生々しさを以て感じ続けることを要求するのだ。
 今でも、劇中のトンボの科白「自分は汚れている」という深い心の傷を抱える女性は多い。実際に、そういう傷を抱えながらも立派に社会復帰を果たし、他の人の面倒も見たりしてしっかりした生活を送っている方も多いのだが、また、知的職業に就いて、良い仕事をしている方もいるのだが、彼女達の心の傷は生涯癒えない。それでも、生まれてしまった彼女ら・我らは、誰しも自らの傷を生き延びねばならない。今作は、そのような覚悟の作品である。
 因みに神も仏も疾うに死んでしまったが!!
注:トンコ 脱走、逃亡のこと。
  シャブ 覚醒剤
  レコ 女
  バシタ ステディ
  パイ 釈放
  ヤサ 家、住まい
  ワッパ 手錠
  マッポ 警察、警官
バグダッドの兵士たち

バグダッドの兵士たち

ピープルシアター

シアターX(東京都)

2015/11/18 (水) ~ 2015/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

役者の身体能力・鍛錬に注目
 初演は5年前であった。あの時よりずっと真に迫ってくるのは、日本の右傾化・軍事化が着々と進み、直ぐにでも日本人がここで描かれているような体験をしなければならないということに現実感が伴うからだろう。
 宙空に設えられたヒジャブをつけたイスラム女性の後ろ姿のようなオブジェや、上手・下手などに矢張りヒジャブを纏った黒衣の女性が立つのも、殺人者そのものである米兵を追い詰める民衆の影の圧迫感を表して効果的である。また、役者たちの身体鍛錬の見事さも素晴らしい。彼らのプロ意識に敬意を表する。また本日19日マチネ公演後と明日ソワレ公演後には来日している原作者のマガノーイのアフタートークがある。これもお勧め。(追記2015.11.20:02:43)

ネタバレBOX

 ここで描かれている米国人は、兵士であるが、イラク戦争時、最悪の行動をとっていたのは、無論、傭兵である。彼らは人を殺すのが楽しみと考えているとしか思えない。女性をレイプし、人々を拷問に掛けて楽しんだ挙句惨殺していた。代表的なのは、ブラックウォーターの傭兵たちである。無論、傭兵の方が悪いことを平気でするのには、訳がある。国軍の兵士は、ジュネーブ条約などで禁じられている行為を為した場合、戦争犯罪を犯したとして軍法会議にかけられ処罰される。だが、私兵である傭兵にはこの懸念がない。今作で一般市民を殺した兵士達が処分を気にしているのはこの為である。単に、人間として悩んでいるだけではないのだ。
そもそも、人間として悩むくらいなら、兵士になるかならないかのレベルでもっと深刻な悩みを抱えているだろう。そんなことも想像できない知的レベルにアメリカの大衆が置かれていることの意味する所を考えていないのは、当しく現在の日本の大衆と変わらない。そして、この程度の頭脳では、たかが貧乏程度で、己の魂を売ることに大きな抵抗はないのだ。考える人間なら、貧乏を恥じることはない。恥ずべきは魂の弛緩であるという程度のことには気付く。この程度のことを自分の頭で考え実践することもできない連中は所詮、人間らしい生き方など望むべくもないのは当然のことだろう。
根本的な問題として、アメリカ人の誰がISの行為を責められるか? 今作でもたくさんイラク人を蔑視した言い方が出てくるが、バカを言っちゃいけない。そもそも大量破壊兵器が無いことを証明せよなどという難癖をつけ、何の罪もないイラクに殴り込みを掛け、残虐極まる攻撃を仕掛けたのは米英である。彼らは新たな武器の宣伝に、古い武器の刷新に、イラクの良質で豊富な石油の収奪に、また軍需産業の儲けと回転に、更には自分達で破壊しておいて建設を請け負うというマッチポンプ収奪迄してきた。イラクの国宝の多くがアメリカに盗まれたのは周知の事実である。にも関わらず、国籍がアメリカだというだけで、彼らはイラク人より偉い、或いは命が重いと考えているらしい。愚か者である。
どういうアイロニーか。今作では、おまけに医者になりたいと言う者が人殺しを生業としているのだ。精神的に穢れていることにも気付いていないかのようではないか? 少なくとも遠い木霊のようにしか彼らの魂には響いていないのだ。そして、心は正常を装っている。何と悍ましい欺瞞であることか! おまけにそれを軍に来なければまともな人生が歩めないせいにしているのだ。よその国に出掛けて行って頼まれもしない人殺しをし、あまつさえそれを正当化する為手前のスケベ根性を丸出しにしていやがる。下司野郎! それがアメリカ人の姿だろう。少なくとも一方的にやられる側からはそのように見られて当然である。
ISが、各地で騒動を引き起こしている。しつこいようだが、そもそもISのような組織ができてしまった主たる原因がアメリカ・英国が中心になって起こしたこのイラク戦争であった。はっきり言って英米はイラクにいちゃもんをつけ、無辜の民を虐殺、レイプ、拷問に掛け恥辱を与え大地を穢した。バクダッドのような人口密集地で大量のDU弾を用い地球の年齢ほどの半減期を持つ放射性核種で汚染した。
無論この汚染に関して国連も英米も知らんぷりを決め込んでいるが、これは明らかな人道に対する罪、戦争犯罪として賠償させるべきである。仮に彼らの主張するように原因がDUの放射線ではないにせよ、重金属毒性の可能性も含めて国際的な第三者委員会による検証が必要である。そして客観的判断で英米のDU使用に非人道性があったと認められた場合、彼らは、国家が破綻しても払いきれぬだけの借財を背負うべきである。当然のことだ。 
殊に副大統領であったチェイニーの悪、ブラックウォーターの創設者、エリック・プリンスらの戦争犯罪は国際的に指弾されるべきである。ブッシュにも無論罪はあるが、彼の最大の罪は愚かであったこと。愚かであり続けていることである。丁度、パシリ安倍のように。
今回の観たいで自分は原作者が殆ど原作を書くためのデータをインターネットで集めた、と書いたが、彼は全部をインターネットで集めたと言っていた。こちらが自分が聞いた正確な話である。観たいでは少し遠慮して書いたのだ。だが、恐らくネットで集めた情報は、一般的米兵の言質に近かったのだろうと再演を拝見して思う。露骨な表現がたくさん出ていることからも、在日米兵から得るデータ・印象からも、非公式な場所でホントに語られていることに近いだろうと思うのである。その生の感覚を吉原さんの見事な翻訳は、日本で暮らす我々にも届けてくれている。この自然な日本語にトランスレイトされた翻訳の、本質の正確な捉え方がなければ、今作は、ここまでキチンと我ら観客に届くことは無かったであろう。
【韓国】第12言語演劇スタジオ『多情という名の病』

【韓国】第12言語演劇スタジオ『多情という名の病』

BeSeTo演劇祭

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/11/05 (火) ~ 2013/11/06 (水)公演終了

満足度★★★★★

知的演出
Polyamoryを実践する多情という女性の生き方はMonoamoryが当たり前と考える社会で成立し得るのか? という問いが今作の基本テーマである。実際問題、異性と付き合うに当たって一人と付き合って自分の望む異性像の総てが満たされるということは殆ど無いだろう。あれば、奇跡だ。精神的な部分で相性が良くても、体力、年齢差、身体的相性など、総てが完璧などということは、完全に無いとは言えないだろうが、先ず無いと断言して構うまい。ということは、一見、どんなに不足が無いように見えるカップルでも、1つや2つの相違、行き違い等は、誰しも抱えているのに、総てが満たされるなどということは無い、と皆知っているから妥協しているだけ、というわけだ。

ネタバレBOX

 今作のタイトルは高麗時代に書かれた「多情哥」という有名な詩から取られている。作・演出のソン・ギウンは、謙遜して私的な世界と言っているが、これは、現代だけの問題ではなく、男女間にある普遍的な問題であるということができる。初演は2012年6月ソウル。
 作・演出のギウン本人が、彼役の役者が居るにもかかわらず、作品に登場したり、多情役の女優が二人居たり、多情という女性には、モデルが居て、その女性はホントに多くの男とリアルタイムで付き合っていたり、と。リアルな世界と舞台とが、舞台上で入れ子細工になるとても知的で面白い演出方法で、演劇手法に興味のある人には堪えられない舞台である。
 誰しも嫉妬などの生臭い関係を想起するシチュエイションを救っているのは、ギウンが、恰も社会学の研究者のように多情とその恋人達の関係を捉えようとすることによってである。例えば、factを表にした彼女と付き合う男達のデータ分析である。この表を見ることで、彼女と男達の付き合い方がパターンとして見えてくる。どろどろの関係が、抽象画の面持ちで現れてくるのだ。だが、この知的転換が、多情にとっては、ゲーム的で、対ギウンで愛憎半ばする原因であり、ギウンにとっての救いなのである。
 多情は本気である、と信じている。唯、心の動くままに愛し別れるのだ。だから、変わってゆくと。一方、ギウンは、その知的作業を自らの意識の地平で行う為に、破綻・発狂という事態を生じない限り、己のディメンションを超えることはない。(追記後送)
グレイな世代 黒とシロ&IN廣島 紐育に原爆を落とす日

グレイな世代 黒とシロ&IN廣島 紐育に原爆を落とす日

獏天

Geki地下Liberty(東京都)

2015/07/28 (火) ~ 2015/09/14 (月)公演終了

満足度★★★★★


 日本で戦中核開発に携わっていた人物としては仁科博士が良く知られているが、今作の主人公は同じく物理学者の彦坂博士である。未だ、アインシュタインやオッペンハイマー、ボーアも原子核の正確な構造を見抜けなかった時代に彼は、その構造を見抜き、原子爆弾を作ることが出来ることを見抜いていた。早く出過ぎた大天才であった。

ネタバレBOX



 近い所で言えば、南部さんレベルかそれ以上の頭脳の持ち主であったと考えられる。彼は、欧米の熱狂するウランではなく、トリウムの研究をしていたと言う。何故なら、膨大なエネルギーを生み出す原爆を作ってもそれを制御できる技術が確立出来た後でなければ、そんな物を作ることが人類の未来に禍根を残すと考えていたからである。軍部の度々の核爆弾開発強制にも断固として首を縦に振らなかった彼の親族もまた、戦争の中で殺されてゆく。優秀な愛弟子も、婚約者を原爆で殺され、少ないウラン燃料を用いてどのように起爆させるかに気付き、陸海それぞれの最も優秀な飛行機乗り達にその方策を示し、奪われたテニアン上空での原爆爆裂を画策するが。
 彦坂博士は、己の研究者としての倫理を賭けて、軍への非協力を貫いた。何故なら、日本が核で応戦したら、負の連鎖が起こり、世界は終末への加速度を益々早めるからである。
 非常に重いテーマに真正面から取り組んだ快作。戦争の酷さを描きながら、技術はどうあるべきか? を深く問い掛け考えさせる、現在の核政策の問題点をキチンと炙りだした作品。彦坂博士役、和興の熱演が特に気に入った。
アンソロジー

アンソロジー

ACRAFT

笹塚ファクトリー(東京都)

2015/07/01 (水) ~ 2015/07/05 (日)公演終了

満足度★★★★★

全然古びていない。無論、褒め言葉だぞ!!
原作は13年前、前田 和紀氏によって書かれた。中心となる時代は7世紀末の柿本 人麻呂が活躍した時代、万葉集の時代と言った方が良いか。或いは壬申の乱の時代、即ち蘇我 入鹿らが、中大兄皇子、中臣鎌足らに討たれ大化の改新(645年)に至った後の話であるが、歴史を上手に持ち込んでいるのは、この展開の中に、ちゃんと唐・新羅と百済・大和の関係を持ち込んでいることである。而も、今回、脚本・演出を担当した久保田 唱氏が、稗田阿礼と柿本 人麻呂を配したことで、今作で内容が、歴史的物語として定位されているのである。(更なる追記、終演後に後送)

ネタバレBOX

物理学でいえば、時間、空間が移ろう為の場が定位された訳である。この作品の安定性はこの点にある。無論、今作は演劇作品であるから、様々な歴史解釈・説の中で必ずしも定説に従っている訳ではない。然し、それは当然のことである。芸術作品の役割は、人間を描くことであって歴史上の事実を発見することでもなければ、あるイデオロギーや支配体制にとって有利な歴史観を敷衍することでもないからである。
 今作では、言霊という表現に込められたもの、即ち言霊の意味する所を追求することによって人の心の在り様と、その痛切な念を描いているからである。
 その具体的な在り様が如何なるものであるかは、終演後に記すが、品、切実さ、哀れ、温かさと幸せ、政治と人心など、現代にもそのまま通じる鮮烈で純粋な表現に集約したこの作品の作(原作及び脚本)・演出・キャスティング、演技、殺陣、照明と音響の効果、舞台美術、裏回りスタッフの対応迄含めて良い作品に仕上がっているというべきだろう。

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