ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

21-40件 / 3236件中
オーロラの碑

オーロラの碑

演劇なかま高円寺

座・高円寺2(東京都)

2024/11/22 (金) ~ 2024/11/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイトルのオーロラの碑はかつてここに建っていた杉並区立公民館で、アメリカが安保理で決議された戦略的統治地域に指定されたミクロネシアのビキニ環礁・エニウェトク環礁で(計67回行われた核実験)1954年3月1日に行われ最大級の死の灰を降らせた水爆ブラボーの核実験により第五福竜丸等(2015年水産庁公開資料によると1423艘)の漁船が被ばくし船員、獲られた鮪等が被ばく“原子鮪”“原爆鮪”などど大々的に報道され廃棄される中、杉並区議会は区民からの陳情翌日の1954年4月17日に全国初の水爆禁止決議を採択。総署名者数18.200.644筆に及んだ署名運動の足跡を残したい区民の念で建てられたモニュメントの名である。全公演字幕付き。追記後送

宙浮くカルト

宙浮くカルト

中央大学第二演劇研究会

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2024/11/14 (木) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 実際に大きな事件を起こしたカルトをベースに入信した信者、教団幹部、入信者家族や教師等関係者を中心に描いた作品。最初の事件発生から既にほぼ1ジェネレーション。事件は我が国の不健全性の陰画と見ることもできる。

ネタバレBOX

 ホリゾント中央にはラメのような光沢を持つ光背が掛けられ教祖の威光を高める演出が為されている。この光背の左右にはブルーの布が下がり出捌けに用いられる。また上手・下手側壁には黒幕で袖が作られこの2か所も出捌けとして用いられる他、演技スペースを広く取る場合は、テーブルやベンチを側壁にはめ込んで収納できるようにもなっている。室内は壁、家具類は基本的に白、教祖の座す椅子の膝から下の部分だけが黒い布で覆われている。 
 登場人物のうちカルト信奉者の衣装は白、教祖の衣装は黒っぽい。また司教も白い着衣だが上着にはかなり長い帯状の布を首回りに掛けて権威を現わしている。彼女がこのカルトの実質的推進派の中核を為しているのは教祖の実の姉であること、教祖に祭るのはジェンダーギャップのある社会では男の方が適当との判断からであろう。因みに教祖が訓戒を垂れる儀式の際は宙に浮く形を採っているが今作が実際に事件を起こしたカルト集団を下敷きの題材として用いており、事件を起こしたカルトの教祖は浮遊し得たとの噂が散々流されたからであろう。司教は入団者たちを新人類と呼びこれまでの宗教の如く既成の神を信仰の対象とするのではなく未来に生まれるべくして生まれる神を崇めることを目指しているが、今作で描かれるカルト内部では、入団者の間からも注射や薬物で五感の亢進性を高め一種のエスパーに仕立て上げようとするカルトの方針を問題視する意見が出、教団の掟に背いたと見做された者は殺害することも止む無しとの発想が強くなって教祖も姉とは異なる世間一般の道理に近い姿勢を取り始め遂には姉及び強硬派を追い詰める事態に至ってカルトは崩壊する処まで描き後日譚も描いて着地させている。
 これ以外にも序盤で血縁を否定しカルトの信者となった者を家族として接し他の諸々の社会的結束を断って自分たちの内部規範の内だけで行動し、判断する組織の道程を今作は中心に描いてゆくのであるが、入信した者達の殆どが学校の勉強は良くできるが、身内の関係(親子関係のミスマッチや親の愛情が子供に伝わらない等深刻極まる問題を抱えていること)が上手く行かないことが入信の契機となっていることの不気味もキチンと描かれている点は特筆に値しよう。警察や公安に親族が相談しようにも入信者本人の意思で教団の拵えた施設に家出をして移っているので個人の意思を権力がしゃしゃり出て規制するのも憚られるという、敗戦前の警察権力の横暴から来、敗戦後に曲がりなりにも民主主義国家を標榜して何とか被って来た仮面を剥がすわけにはゆかぬとの判断もあるのだろう。決して国民を守るなどという発想でないことは人権などあって無きが如き裁判や絶え間なく起こっているでっち上げによる起訴等の実例をみれば明らかである。何れにせよ、我が国が抱える様々な矛盾と国民無視の態度、政治の救い難さ、そして民衆の大多数の不甲斐なさが生み出したこのような不気味な事件を敢えてベースにして作った作品である。若者たちの健康な感覚がグー。
Day Dream Dance D.C.

Day Dream Dance D.C.

空想実現集団TOY'sBOX

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 βチームを拝見。

ネタバレBOX

 板上は基本的に裸舞台。箱馬が3つ置いてあるだけだ。物語は可成り単純。この店のステージで踊れればそれだけで大した才能と評価される名門スタジオのオーディションに受かった5人のダンサー。然し今まではステージらしいステージに立ったことも無い者が殆ど。どうして受かったのか? 不思議に感じている者さえ居た。とはいえ合格は合格、今迄逃げていた自らの不甲斐なさから脱却し雄飛するチャンスではある。だが給料は良いもののやらされることは1日中地下室の掃除、レッスンも無ければ公演へ向けてのミーティングらしいミーティングも稽古らしい稽古も一切ない。而も音響機器等ダンスを踊る際に必要な器具は何時のまにか撤去されていた。
 然し、オーナーサイドに1人、この5人を陰ながら支えてくれる人物が居た。彼女はダンスに必要なラジカセやダンスに適したヒット曲等を目立たぬ場所に予め隠し、ダンサーたちにヒントを与えてこれらを見付ける段取り迄つけてくれる。
 然しオーナーの目的は、先代の遺言に沿う形を採ってこの店をステージ諸共解体してしまうことであった。それが体は弱かったが優しかった父の誕生(逝去)日の2日後に落成したホール、ステージと組織のトップとして完全だが、仕事ばかりで体の弱い父にも、子供である自分にも目もくれなかった母への復讐であったのだ。唯母の残したとされる遺言状には、このホールを作ったのは、若いダンサーを目指す者がⅠ人でも居る限りその夢を叶える為の場を提供しようとの念からであったから、この趣旨に後継者が沿わない場合は一切の相続をさせないとの文言が記されていたのである。この内容を守った上で余りにレベルが低いダンサーばかりでは名門となったこのホールの名を汚すことになる。それをオーナーは狙っていたのである。
 ネタばれは此処迄。By the way,大団円では、無論もう一段盛り上がりや感動のシーン、或る種、ドンデンがあるが、其処は観て頂くとして、ダンスや演技について以下に少し述べておく。ダンスで一番切れのあったのは、オーナー役。体幹がしっかりしているのだろう。しっかりした体幹から繰り出される四肢の動きはスピード、切れ共に一番素晴らしい。次に上手いと感じたのはAの記号を衣装に付けて踊るダンサー、その次がDの記号のダンサー。キャラ的に魅力的なのがジェンダーギャップそのものを生きるオカマダンサー。
 物語をもう少しドラマチックに仕立て上げるにはオーナー役はダンスが一番上手いのだから、先に述べた事情以外にダンスの才能の問題を絡めてオーナーにもう1つの屈折を付け加えるということもできるのではないか? とは思った。
ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix

ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix

waqu:iraz

スタジオ空洞(東京都)

2024/11/12 (火) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 U~~~む。épave(s)!

ネタバレBOX

 オープニングはダンスで始まり基本的には群舞だが、完全にフォームが同じという訳dえはなく時折個的なダンスをする者も居る。こういったダンスを随所に織り込みつつ、各挿話が展開する。客席は演技スペースを半円形で取り囲むような感じに設えられ展開される個々の挿話は極めて2人称的な世界で異性間、同性間どちらも描かれるが当然の事ながら3人称世界が形成することのできる客観性や普遍性は端っから期待の仕様が無い。従って登場する人物総て、関係性総てはépave(s)でしか在り得ない。ということは、己の世界に精神的深み等は間違っても宿せないということである。
 説明によるとディバイジングシアターという形式の表現法ということだが、今の若い人たちの人付き合いの中心がSNS的手法なら、それは基本2人称世界なので自分達が2人称世界でしか交流していないことにも気付かないのかも知れない。ラップ調の歌詞も歌われたりするが、自分達独自で生み出したものでもないのに形だけ真似て何になるのか? ジャズでもラップでもロックや印象派が生まれた頃やダダ、シュールレアリズムが生まれた頃でも一部のごく少数の賛同者以外、最初は理解されず無茶苦茶に叩かれたりして、それをバネに更に力を付けて来た歴史と生き様、無理解な社会との格闘があった。そういった過程を無化して表面だけなぞってもどれだけの意味があるのか? 自分達で自分達の表現を作り出してこそのアーティストであろう。
栗原課長の秘密基地

栗原課長の秘密基地

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆、必見! 脚本、演出、演技何れも素晴らしい。流石にSpiral Moonの作品だ。殊に要を得た脚本が、役者が脚本に書かれた役を演技するというより、演技者に憑依するような脚本と感じる程脚本、演者の表現が素晴らしい。ネタバレ部分は、取り敢えずのネタバレ迄、余り詳しく書き過ぎるとこれから観る人の興を削ぎかねないから。

ネタバレBOX

 脚本は土屋 理敬さん、この脚本を選ぶ目がグー。演出はいつも通り秋葉 舞滝子さん。
 物語は児童書等の出版も手掛ける出版社の一室で展開する。板上は下手側壁の奥に出入り口のドア、壁の手前にクロスの掛かったテーブル。椅子は3脚。壁面には時計が見える。ホリゾント手前にも矢張り同様にクロスの掛かったテーブルと椅子3脚、上手側壁も同様にテーブルと椅子が並んでいる。無論下手と上手の席は相対して向き合っていて下手テーブル側は受賞者が入場時に座る席。ホリゾント前の席には審査員の席がそして上手の席は受賞した3人が賞状や盾、賞金を貰って着席する席があり、壁には伝統あるきつつき賞受賞を記す看板が掛かっている。因みにホリゾント審査員席の更に上手の壁の前には受賞者各々への賞品が置かれたテーブルがある。
 きつつき賞は児童文学会では権威も伝統もある文学賞であり児童文学の一流作家の登竜門としての地位を占めている。従って大賞を獲得した作品は必ず出版され読者の目に触れることも多い為児童文学作家を目指す作家志望者には垂涎の的である。今回の応募は382作品。選ばれたのは大賞が1編、佳作が一編、そのほか功労賞が1編の3編。出版界の不況もあってどの出版社も台所事情は厳しい。
 そんな状況の中、今回この賞授賞式の責任者を務めるのは、ビジネス情報誌の鬼編集長と評され辣腕を揮ってきた栗原。妻子ある身だが不倫をし不倫相手と別れたことで、セクハラをしたとの噂を流され、無実であった為児童書部門への左遷で茶を濁された。この授賞式で問題があれば忽ちリストラされかねない状態を自覚せねばならぬのは、人間関係のプロとしてのサラリーマンの習性である。
受賞式が始まって間もなく、緊急事態が発生、事前に充分な調査が為されなかったのか、或いは栗原の左遷が決まった直後の授賞式だった為か事情はハッキリしないが、佳作を獲った作家が実は可成り売れっ子の現役AV女優であることが判明、授賞式は急遽中段された。
ジキルの告白

ジキルの告白

ISAWO BOOKSTORE

サンモールスタジオ(東京都)

2024/11/06 (水) ~ 2024/11/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 今作は実際に起こった事件をベースに書かれた。事件は井上陽水の「氷の世界」が流行った頃起きた。大学助教授による教え子殺人事件の舞台化である。痴情のもつれ、そう言ってしまえばそれだけの事件である。然し犯人はインテリ、名の知れた大学の助教授であり犯人が罪を認めてから被害者の遺体が発見されるまでに7か月以上を要した点は極めて特異である。このように解明に時間が掛かったのには、無論理由がある。

ネタバレBOX


 その理由とは錯綜化である。犯行を犯したのは芥川も激賞した「The turn of the screw」を書いたHenry Jamesの研究者・大迫だが、事件を起こした年、彼がゼミで使った教本はStevensonの「Strange case of Dr Jekyll and Mr Hyde」という設定になっている。この設定が起こった事件通りなのか或いは創作であるのかという点迄自分は調べなかったので不明であるが作品化するに当たっての常套手段ではある。閑話休題、本題に入ろう。
 今作の錯綜は作家が事件を起こした犯人よりも周囲の人間を描くことに重点を置いて書いていることが無論その契機となってはいる。然し日本の研究者の一般的な在り様というか体質が関係していると解釈したのが自分の観方である。先にも述べたように事件自体は何処にでも転がっている痴情のもつれに過ぎない。特殊なのは周囲の対応なのである。自分はこのような特殊性に着目したという訳だ。研究者になる過程で修士課程、博士課程を経て多くの研究者はその道の専門家となるが、修士論文、博士論文を提出しなければ過程を終了したことにはならない。そして論文が通るか否かは査読で決まる。当然の事ながら指導教授を含め幾人かの先達が書かれた論文を読み判断をする訳であるが、論文提出者の今後の為に先達はサジェッションもするのが通例だ。そして研究者として生きて行く為に必要な最低限のことは、論文に記されていることに客観性があるか? ということである。無論他者の論文を真似たり、データを盗用するなどはもっての外、判明すれば忽ち落とされる。こういった事情もあるので兎に角、自らの視座で集めたデータを用いて客観化するという手法は謂わば研究者たる者の宿命と言えるかもしれない。それで大迫の犯行自認後も中々事件の解決への端緒が開かれなかった。而も航空機ハイジャック事件等もあった時代であるから成り行き次第で学生たちが大学を占拠して大学サイドの「倫理的腐敗や隠蔽」として問題化することも警戒せねばならなかった。周囲の者たちが置かれた状況はかようなものであった。だが被害者の遺体が発見されるのが極めて遅くなった理由は、矢張り大迫の個人的な心理的傾向に原因があったと思われる。この大迫の心理を心理学的に解いてゆく展開であったら、自分にはより面白い作品になったと思えるが、犯人そのものが犯罪を犯すに至り、事件の未解決化を図った心理的闇が抉られ描かれなかった点が自分には表層的に思えた。
La Memoria del pueblo ~民族の記憶~

La Memoria del pueblo ~民族の記憶~

ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール(東京都)

2024/11/06 (水) ~ 2024/11/07 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

華5つ☆見入り、聴き入った。

ネタバレBOX

 カンタはスペインから来た本場の歌い手。踊りは日本のフラメンコでこれだけ質の高い作品を見せることができるのはArte y Soleraだけではないかと思わせる踊り手たち。しょっぱな、照明は昏めで恰も洞窟内で歌い、踊るジプシーの様な雰囲気で始まる。往時にはスペイン伊達そのものであったであろう初老の男性ダンサーの踊りでいきなり惹きつけ、次には♂vs♀の掛け値なしの争闘。ジプシー女性の激しい叩きつけるような野生のエネルギーをそのステップ、四肢の躍動に急止、舞いつつ用いる優雅な手指の動きや回転の妙で存分に表現。急止した時の勝ち誇ったようなポーズに秘められているであろう女性故の哀しさや流離う宿命から公教育を受ける機会が殆ど無いことから文盲も多く貧しさに苛まれる女性たちの意地が表現されているように思う。腰の曲がった老婆が男性に合わせるシーンもあり当に老若男女入り乱れての男対女のぶつかり合い。見事である。
軌道

軌道

劇団カルタ

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2024/11/02 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 鉄道に夢中になる友人は子供の頃周りにかなり居た。然し自分には余り興味が持てず縁遠いままであった。唯一鉄道関係で縁があったのはHIゲージ上を走る鉄道模型(山林列車の牽引車と貨物車)であり、小学校時代から始めていた縦走の為に長野方面へ向かう鉄道であった。それだけに今作に描かれた運行する側の人々の労働の苛酷、苛烈は、ショックを受けるに充分過ぎる程のインパクトがあり、鉄道に夢中になっていた子供の頃の友人たちも或いはこのような苦労を既に話に聴いて居た為かも知れないと思い返していた。(追記後送)

#ヘスティア

#ヘスティア

ゴセキカク

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2024/10/31 (木) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイトルのヘスティアは、今作に登場するVチューバーの名前である。(追記後送)

ネタバレBOX

 物語は現代日本で暮らす日本人という可成り特殊な生き方に固定されたまま相変わらず受け身で生きて行く術しか持たぬ多くの人々が抱える日常を、正(まさ)しく現代日本の哀しいカリカチュアとして生々しく描いた作品と観た。
うすらひの下に、いる

うすらひの下に、いる

ここ風

「劇」小劇場(東京都)

2024/10/30 (水) ~ 2024/11/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 脚本は先ず擽りから入ってくる。自分は他の人々の多くが笑うシーンを大抵面白いと思わない。ほんとに偶に一緒に笑えるだけである。ところが今作の擽りに関してはその擽りの95%位まで素直に笑うことができた。その原因の1つが登場人物のキャラ設定の非尋常性にある。先ず、このことから笑いに必要な脱臼が巧みに埋め込まれていることが分かる。(追記後送)

ネタバレBOX

 物語は次に謎を提起する。そして次に逃げ場無しの深刻な内容へ怒涛の如くなだれ落ちてゆく。
 そして終盤は
憂鬱なロケット

憂鬱なロケット

友池創作プロジェクト

「劇」小劇場(東京都)

2024/10/23 (水) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 全く頭を使わず仕事帰りに楽しむことができる。

ネタバレBOX

高校時代科学部の活動と十数年後の現在がクロスしつつ展開する物語。発想も実際に良くあるペットボトルを使って何か有用な物を作るとエコロジー絡み。ロケットを作るのだが、これを全国大会に出し優勝したメンバーたちのその後が入れ子細工で展開する。ロケットがミサイルと実質的に極めて近いことは科学少年・少女でちょっと気の利く子なら小学生でも直ぐ気付く。そこに全国模試2位の秀才が絡み部員同士の恋愛感情が絡んで思春期部活のあれこれが観客にも想起される、と同時にかつての同級生が結婚して数年しか経たないのに中三の娘がおり、思春期の反抗が少し複雑なかつての同級生の家庭の有様を薬味として添える等である。
 こういったありきたりの状況に荒唐無稽な政治やスキャンダラスなその手法が絡み、マスメメディアが絡んで最終場面ではドンデンもある。
Nel nome del PADRE パードレ

Nel nome del PADRE パードレ

サカバンバスピス

APOCシアター(東京都)

2024/10/17 (木) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 評価ポイントが少し低いのは、日本人観客の多くが背景を理解できないからだろう。観る側の世界に対するアンテナ張りを意識させる作品である。(追記後送)

ネタバレBOX

 板中央にはテーブル、クロスは白。テーブル短辺各々に木製椅子。客席は対向した位置に各々作られている。センターのテーブルを挟むように部屋の短辺の片側には隅に女の子の人形が置かれた黒いベンチ、ベンチの手前に木製の椅子。反対側には棚、棚には珈琲を飲む為のポット、カップ、ソーサー等々の茶道具、本、食品缶詰等。棚の脇に食品クーラー等。更にその隣には電話台に載せられた電話。
 ストーリーが開始される前には黒服を着た男と白いワンピースを着た女が部屋が上演開始時に必要とする板の結界をテープを貼って示すとか、備品のレイアウトを完了したり、テーブルにクロスを掛ける等の作業をしており、作業終了後は直ぐ捌ける。(実はこの2人がK家の使用人と解される存在である)
大正元禄ロックンロール家族1926

大正元禄ロックンロール家族1926

エリィジャパン

吉祥寺シアター(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/22 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 A班を拝見、

ネタバレBOX

初日ということもあった為か、音響と台詞のバランスが適切でないシーンが結構あり、台詞が聞き取れないシーンが多々あった。音楽劇と銘打っているだけあって歌を歌う役者陣の声は中々良いがマイクの使い方は習熟度が足りないのか或いは初日で緊張したのか? 途中から良くなったので後者であろうが、ちょっと残念であった。リハをしっかりやって板の上に立って欲しい。
 また、ファーストシーンで石炭を掘るシーンが出てくるが、ここにカンテラを下げて灯りを持ってくる役目の女性が出ていたが、ホントに夕張ではこんなことに女性が関わっていたのか? 疑問に思った。自分の読んだ本で九州の炭鉱の切り羽では、男が鶴嘴等で石炭を掘り起こし(サキヤマ)女は切り出し掘り出された石炭を男の後ろに居て籠などに集め坑道で用いられていたトロッコに載せる作業をしていた(アトヤマ)。炭塵爆発等の事故があれば無論死の危険がある中、地下の坑道での作業は単に肉体的にキツイばかりではなく、暑さと命の危険にも日常的に対峙する環境であり、一緒に作業をする者達は夫婦も多かったが妻帯者が別の妻帯者と組むことや、妻帯者が未婚の者と組むことも珍しくなかった為、この苛酷な状況で一緒に仕事をする間に男女の仲になり山から脱走するケースも可成りあった。無論、切り羽の作業では女性も半裸で作業していたから、猶更であったことは想像に難くはない。こんな状況をも実際に炭鉱夫をしていた山本作兵衛さんが描いた有名な絵から了解を取って借用し背景に映すなどの効果を狙っても良かったハズだ。そうすれば晃と志津香の関係もぐっと深いものに見えたに違いない。
 1926年といえば昭和元年でもある。最も極端に短い元年ではあったが。物語はほぼ時系列で展開し描かれる場面は殆どが大正時代である。登場人物たちを襲う様々な事件や事故、戦争や災害などについて深い掘り下げがある訳でもなければ人間関係のゴタゴタや先に挙げた様々な事柄によって変化する心理や人間関係の機微についての掘り下げも浅い為、観客の心と魂を深く揺さぶるような対立を言語化した台詞よりも、ゴフマン流のドラマツルギー理論を援用したような創りになっているので余り心と魂に響かない。ルシファーと契約して格段に腕を上げたとされるブルースと呼ばれる男が時折吐く台詞には中々穿ったものが多いが、また崔の歌う歌詞には彼の在日としての苦悩が偲ばれる言葉が多いが、他の出演者は、この作品が展開する居酒屋食堂「八尋」の店主の立ち居振る舞いに深い人間性を感じさせる他は、晃を除き殆どの登場人物がありきたりのドラマツルギーに従って演技しているように思われた。
憧憬の記憶

憧憬の記憶

劇団水中ランナー

ザ・ポケット(東京都)

2024/10/09 (水) ~ 2024/10/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 華5つ☆、タイゼツベシミル!! 全容は敢えて書いていない。実見して素晴らしさを確認して欲しい。

ネタバレBOX

 物語が主として展開する板は高めの平台を置いた奥に作られており、下手壁手前にTVや障害1級の末っ子・啓太の遊び道具やリモコン等が置かれている。板中ほどにはソファ、上手の壁前には本などが入った棚他、その客席側に部屋に通じる入口がありここが出捌けにも用いられる。ホリゾント手前は他の部屋へ通じる通路になっており、ここがもう1か所の出捌けである。この部屋は劇団牛後(ウシコウ)座長・伊原文雄の部屋でもあり、劇団の練習場でもあるばかりでなく家族全員の共有スペースでもある。
 物語は、タイトルに凝縮されているように憧憬に纏わるものであり、座長の亡き妻の最後に関わるものでもある。因みに亡き妻の位牌は別の部屋にあるので出入りする者達が劇中何度も手を合わせにいったりする。
 オープニングシーンは文雄がTV番組見ていた処へ啓太が入って来て「消さないでね」と何度も繰り返す父の気持ちを知ってか知らずか‟アンパンマン“の画面に切り替えるシーンで始まる。座長役は剣持さんで実に上手い俳優さんなのでご存じの方も多かろう。啓太役は河津未来さん、初めてお目にかかる役者さんだが上手い。このシーンでアンパンマンのTV映像では首を挿げ替えるシーンが出ていたのを啓太が真似てお父さんの首を挿げ替えようとするが「それは出来ないよ」と言われるとアンパンマンのほっぺを千切るシーンを啓太はお父さんにするのだ。お父さんは、脂汗を拭って啓太のほっぺに「おいしい脂汗ですよ」と笑いつつなすりつける。この間啓太は無論ご機嫌だ。キーッと倍音を発し機嫌の良いことを示している。
 脚本も素晴らしいが、役者陣の演技が凄い。その脚本を身体に溶け込ませてでもいるかのように時に沁み出させまた溢れさせるのみならず、状況によっては箍を外す。或いは関係に距離を置く。最初に述べたようにこの空間自体が極めて親密な人間関係を結ぶ場であり、登場人物総てが家族・劇団員・及びその何れかの配偶者等関りの深い者ばかりである。このような濃い人間関係では問題は厄介になり易い。それはそうだろう。蒸発するとかでもしない限り深い縁は中々断ち切れるものではないからだ。今作は、そのような逃げ場のない人間関係の中で起こる諸問題の幾つかを、それを抱え込んで対立する大人同士は兎も角、育つ中での位置、例えば長男、長女である、次女や三女である等で同一問題であっても状況との出会い方は全く異なる。またその時置かれた状況次第でも事情は大きく変わるし、年齢によっても受け止め方は全く違う。同じことに同じ場所で出会っても出会い方は全く違うのが普通である。そしてこのような事情が時にはトラウマとして機能してしまうこともある。そればかりではない。社会の中ではそういった個人的事情は一切顧慮されないのは普通のことである。このような状況で多くのヒトが生き、誰の助けを求めることもできずに消えて行く。これが掃いて捨てる程もある一般的人生という形であろう。
 然し乍ら、濃い人間関係であれば、上記のような状態であっても、それらを的確に腑分けし、判断する者が存在するケースがある。だからこそ、より微妙な問題として気付いた者も気付かれた者も互いに口には出さず、そのことがかえって問題をこじらせる場合もある。そのような各登場人物の心理の綾迄が見事に観客に伝わってくるような優れた演技を役者陣はしている。これはもう、演技というより当に役を生きている実例と言いたい。脚本家が演出も兼ねているが、脚本、演出、演技は以上で紹介して如く素晴らしい。無論、舞台美術、照明、音響何れも今作同様いい出来である。
遺失物安置室の男

遺失物安置室の男

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2024/10/04 (金) ~ 2024/10/14 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイゼツベシミル!! 華5つ☆。条理を全うしたが故に不条理と化した物語。不条理劇の快作・傑作、白眉。初演から19年の歳月を掛け、即興、試行錯誤を重ね改稿を重ね纏められた今作。脚本の素晴らしさは出版社に出版させたい程の出来である。

ネタバレBOX

 舞台美術は随分工夫の行き届いている点で驚かされる。というのもこの狭いスペースでよくぞこれだけの意味をその舞台美術だけで具現しているか! について驚嘆させられる程のものだからである。例えば舞台手前の上手には遺失物管理所入口と書かれ、看板下部に右下がりの矢印を添えた地下という文字が読み取れるが、舞台正面に見えるのはその地下にある遺失物保管所であり、地下へ通じる階段は、案内板の据えられたコーナーの対角線上に設置されている。これは単にスペースが狭い故の工夫というより寧ろエッシャーの絵のように不思議な空間を現わしていると解した方がしっくりくる。また、看板のちょっと奥には手前の椅子がより高い、高さの異なる丸椅子が置かれているが、何故高低差があるのか? これは観てのお楽しみだ。無論、この他に出捌けの際に袖となるよう然るべき位置に衝立も立てられている。下手側壁近くには衝立がほぼ‟」“状に置かれその向こうに小さな呼び出しベルを載せた、ベルのサイズに不似合いな大きな台が置かれている。件の階段は、この奥の側壁から延びてこの地下保管室へ通じている訳だ。舞台中央には黒幕に遺失物の沢山入った像が映った保管棚が極端に誇張された遠近法を用いて表現されており、如何にも遺失物管理室という奥行きのある雰囲気を濃厚に漂わせる。ホリゾント部分にも黒い暗幕が掛かっているが、これもそれだけに終わらない仕掛けだ。
 さて、物語の本題に入ろう。演劇の常道として最初の何分かのシーンで作品の本質を示すシーンが入っているのも近年の小劇場演劇としては珍しく新鮮である。極めて本質的でありながら、言葉遊びの現象学的展開、乃至は遊戯としての人間性の本質、或いは探偵モノの質疑応答と解しても良さそうな知的遊戯とも解せる対話群が嫌が上にも興味をそそる。ここを尋ねてきた男と保管室管理人との質疑応答のシーンであるが、この問答で今作の主題が余すところなく提示されているのだ。(その内容詳細に就いては観劇して欲しいが存在 être(一例を挙げればSartreのL'Être et le Néantに於けるêtre )に関わる根源的な疑義についての問答である。この問答は一般の方々には珍妙に映るかも知れないが極めて論理的で緻密な論を、記憶を喪失しているとされる保管室管理人が展開するので、哲学に興味のある人々はわくわくするに違いない。
 もっとも哲学などと構えるまでも無く、誰しも1度は抱えたに違いない以下の自問、ヒトは何処から来て何処へ行くのか? 人間とは何か? という問いに答えを出せぬと諦めた大多数の人々にあからさまに関わる大問題の根底が論議されていることは、このオープニングを観ただけで直ぐに分かる。擽りも随所に的確に置かれていることは、この台詞群が多様な解釈を許す点にも表れていよう。演出、演技(主人公の記憶喪失を患う男を始め、ボランティアとして男を手伝う若い娘、刃物を預けた女、最初に現れ害虫扱いされる男、この地域の名家の子息でエリート、磁石を預けた女、古物商、そして今作で唯一ある種の客観性を提示する男。これらの人物がどのように絡み、どのような人間関係にあるのか? そしてそうなる経緯は? を観劇中に探ることで一種のサスペンスとして楽しむことさえ可能であろう。余談ではあるが、物と語り合うことのできる記憶喪失の男は、登場するエリートの父であるが作品に直接登場することは無い。但し記憶喪失した彼が職を得たのはこの名士の命を救い、その恩返しをしたいと名士が彼に職を世話したということは物語中で示される。更に蛇足ではあるが、これらの登場人物1人1人のうち誰一人欠けてもこの劇の滋味は落ちるだろう。各々の役者が良い演技を自然体でしている証拠である。照明や音響も秀逸。
 因みに後半の公演日は少し間が空き10.11~10.14まで。
ゆうせいむしむし

ゆうせいむしむし

劇団芝居屋かいとうらんま

OFF OFFシアター(東京都)

2024/10/04 (金) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 板状、基本的には素舞台。滑車付きの障子数枚を場面、場面で移動。衝立、間仕切り、袖、或いは裏に書かれた文字、写真を用いて必要に応じたインフォメーション掲示板として用いる。この辺りの演出はグー。然し脚本は劇作家の勉強不足が出てしまった。演技は悪くない。

ネタバレBOX

 基本的に内容は敗戦後のどさくさから東京タワーが建設された(1958)頃迄。場面によって主人公らの従軍時代が回想シーンとして描かれる。面白いのが、今作で奇妙な仕事をやる登場人物2人の仕事に纏わる最初のシーンで彼らの仕事が新聞広告に載り、その内容が障子裏に書かれた文字として表現されている点だ。曰く‟命販賣致し〼“。売るは旧字でますは〼で示されているのが実に良い。 
自分が勉強不足と指摘したのは、戦中、戦後の描写が余りに表層的と見えたからだ。オープニング早々の模様は障子に張られた写真を移動させつつ見せる内容で所謂『玉音放送』の一端も流されるが敗戦直後の都市部の飢えは極めて深刻で餓死者も多く出た。戦中の方が未だマシなくらいであった。その訳は、戦中は曲がりなりにも配給制度が機能していたせいで極めて粗末とはいえ一般庶民も糊口を凌ぐことができたからであるが、敗戦後はこれも崩れ、敗戦で価値の殆ど無くなった日本通過はハイパーインフレを起した為、生き残る為に人々の多くは家宝を農家に売り食物を得るというようなことがザラであり、庶民は生き残る為に何でもやった。敗戦後長い間、ラジオ・TVドラマの台詞にも「叩けば埃の出る体」という台詞が頻出していた。こんな状況の中で多くはヤクザが仕切る闇市が隆盛をきたし、利権を争う争闘も多発した。因みに特攻帰りの青年らが新興勢力としてこれらのシノギを巡りヤクザともことを構えた。背景には軍が特攻の恐怖を紛らわせる為にシャブを用いていた点も見逃せない。特攻生き残りの若者が抱えていた憤懣やるかたない心情の苛烈と体験して来た亡き戦友たちへの複雑な念、生き残っちまった自らを制御仕切れない「祖国の様変わり」に対する劣情と悔しさの爆発を想像してみて欲しい。
 余談ではあるがシャブは敗戦後も合法的に薬局で売られていた。薬品名をヒロポンという。敗戦後も長くこのようにシャブが合法化されていた理由は、国策としてシャブが用いられていたことが中毒者を産み簡単に禁止できなかった、という理由以外には考えられまい? こういった状況をそれとなく挟んで事態の深刻さをもっと皆に分かるようにすべきだったと考える。
海のない島

海のない島

劇団B♭

テアトルBONBON(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 激奨 タイゼツベシミル!! 華5つ☆(追記後送)

ネタバレBOX

 劇団B♭旗揚げ公演。そもそものタイトルからして矛盾しているような不思議なタイトル、無論このタイトル自体に仕掛けがある。物語の舞台は、鹿児島よりは遥かに沖縄本島に近い鹿児島県徳之島。無論周りは海の、島である。であるのに何故、海のない“島”というタイトルなのか? 
 物語の謎解きはここから始まるだろう。理由は、今作を観れば直ぐ納得するが、この物語は2つの時が綯交ぜになっている。一つは第二次大戦末期の沖縄戦、一つは現在に通じる時代だが、上演の形としては今作30年前に書かれた作品である。而も全く古びていない。それどころか益々大戦中の沖縄の状況に現在の方が近づいている。無論、細かい点で2024年に上演する為の変更はあっただろうが、本質的に差異が無いという実にあからさまな沖縄の置かれている状況があることに気付かない訳にはゆかない。
 というのも先に挙げたように今作は大戦中と現在がクロスオーバーする。このタイトルの特異性に気付くか或いは序盤から、演じられているのは現代なのに軍機の飛翔音がしたり、場面、場面で照明の異変に気付くならばしょっぱなから或いは極めて早い段階でこの物語の輻輳性に気付くことができるが、この点を見落としたり聞き逃したりすると物語の輻輳性が掴めず、作品の持つ本質性にも凄さにも気付くことができない。当然、仕掛けられた謎解きが終わって大団円を迎える時の感動の質も重さも全く異なるものになってしまう。
広い世界のほとりに

広い世界のほとりに

劇団昴

あうるすぽっと(東京都)

2024/10/02 (水) ~ 2024/10/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 脚本、演出、演技どれも優れていると感じたが、矢張り役者の間の取り方が上手い。

ネタバレBOX

 一筋縄ではいかぬ作品とみた。台詞構成がユニークで背景にあるもの・ことの単に現代に留まらぬ深さ、複雑性を想起させるからである。作家が英国籍ということである意味得心が行った点もある。オープニング最初の台詞も極めて特徴的である。(実際どんな台詞で始まるかは観劇して確かめて欲しいが)。物語は様々な挿話を構成して一編の戯曲としているが、その各々の挿話のみならず、各々の台詞の中でもその要旨を挫くような、脱臼と迄はいかない微妙な頓挫が仕込まれているのだ。それは恰も現代社会そのものがブルシットででもあるかの如き頓挫である。原作者・サイモンスティーブンスは英国の生まれだからブレクジットとも関係があるかも知れない。(ここでブレクジットを用いているのは、何もEU離脱のみを指さない。イギリスが伝統的に大陸ヨーロッパに対してきた歴史的態度である)翻訳も一筋縄ではいかぬ大変な苦労を要したであろうことは容易に推測できるが、良い訳に仕上がり、演出・演技は無論のこと流石老舗だけあって舞台美術から照明・音響、裏方さんを含め素晴らしい。
第38回公演『バロウ~迷宮鉄道編~』

第38回公演『バロウ~迷宮鉄道編~』

激団リジョロ

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/27 (金) ~ 2024/09/30 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ベシミル! 華5つ☆ 演劇の醍醐味を楽しんで欲しい。(追記後送)

ネタバレBOX

 リジョロの25周年記念公演第2弾は、Burrou.隠れ場所や穴を意味するタイトルの作品である。長い間観たいと思っていた劇団だが今回が初見。今作のベースにあるのは夢野久作の「ドグラ・マグラ」とある時期迄の唐 十郎の舞台だろう。演出等にも唐系の特質が見えるのは状況劇場で看板女優を担った時期を持つふじわら けいさんが、リジョロ団長・金光 仁三氏の師でもあるからだと思われる。無論、上記の影響を受け、ベースにしてはいても物語自体は独自で壮大な展開を見せオリジナリティー溢れる快作である。
されどハシクレ!

されどハシクレ!

劇団 バター猫のパラドックス

王子小劇場(東京都)

2024/09/25 (水) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 「誰も知らない」という映画は御存じだろうか? 切り口は全く違うものの今作を拝見しながらこの映画のことを思い出していた。(追記後送)

ネタバレBOX

 板上は奥に2F 部分を設け下手階段は板地部分から下手に延びた階段を上がり踊り場で右上に延びた階段。上手階段はそのまま2Fへ上がれる。2Fを支えるようにホリゾント側及びその手前に壁を設けこの壁と壁の間が通路になっている。
 オープニングで登場するのは明天前は結界でも張るような仕草を見せる男、素早く部屋の出入口、窓等を封印するかのようにテーピングすると直ぐ去る。物語り自体はゲームに登場するキャラクター・主役級、背景の名もなきキャラを構成し台詞ぽ無いキャラ・モブ等。後者の内ハシクレと呼ばれる者だけが主役級と対話可能であるが、他の者には彼ら2人の対話はテュゥルルルルという具合にしか聞こえないので一般モブは2人との対話も不可能なら対話内容を理解することも不可能である。
ところでどうやらこの物語の舞台はゲームとしてずっと機能していないらしい。ゲーム内の物語と外界と通じるゲーム機との間に出来した齟齬や様々なバグが絡まり合う中でゲームと現実が時に一体化してしまう世界での、とある状況を映し出している。根本的に不安定なので決して安息という状態を基礎とはし得ない。そんな社会に追い込まれた者(最弱者)の余りに痛ましい生涯を描いた物語なのだ。というのも主役級が待つヒーローは永遠に登場しない為、物語が始まることは在り得なかったのだ。この状態に閉じ込められたキャラ達は総て一応給料や社会保障等は出ているものの為すべきことが何一つ無いまま無為に過ごしているのである。永遠と見紛う退屈の中で。

このページのQRコードです。

拡大