ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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恋愛漫画~鳳凰篇~

恋愛漫画~鳳凰篇~

ライオン・パーマ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2025/10/22 (水) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 楽日拝見版。パソコントラブルで文章を入力することができず丸2日以上ロスしてしまった。劇団にお詫び申し上げる。(追記後送)極めてバランスの良い、傑作。華5つ☆

ネタバレBOX

 初日のレビューは敢えてネタバレを書かなかったから、今回はネタバレを中心に書く。ストーリー展開のメインは漫画家と編集者との駆け引きの凄まじさである。無論、両者共に良い作品を本という形で読者に届けたいという念が共通している。その為に編集者は作家(今作では漫画家)と読者をどのようにすれば最善の形で結べるか? に知恵を絞り、作家はそれに応える為に徹夜の連荘も厭わず作品を創るのだ。このような生活が健康的である訳がないことは重々分かりつつである。一方、出版社も利益が確保できなければ倒産してしまう。雑誌でも本でも印刷・製本をせねばならぬしその前に紙面のデザイン・レイアウト、使用する紙の選別・調達、サイズに合わせての断裁等々もしなければならぬ。編集者も忙しいのである。無論、これらの作業の他に打ち合わせや編集会議は何度となく繰り返される。特に締め切りに間に合わなければ印刷に掛かる多大な費用の決済が滞り出版社、印刷屋の連鎖倒産も起こりかねないから創作者の責任は極めて重い。然し作家は本当に自分で納得できる作品が上がらなければ世に出すわけにはゆかない。こんな背景があるから締め切り期日は関ケ原の合戦の如き意味を持つ。ところで互いにプロであるから、以上の前提に立って編集者は予め早目の期日を作家に告げ、作家はその点を見越して対応するので両者の丁々発止は熾烈を極めるのだ。
人間になりたがったミミズと、

人間になりたがったミミズと、

劇団うぬぼれ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2025/10/24 (金) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 発想の面白さ、脚本のしっかりした構造性、構成の妙、これらを活かす演出の細かい点にまで留意した点、演者達の若者らしさと爽やかさ、何れもグー。舞台美術も良い。(追記後送)

ネタバレBOX

 学生演劇のようだが脚本の発想が面白い。脚本の構造がしっかりしているので物語の展開も理路整然として分かり易く合理的なのだ。オープニングで物語に登場する進化系ミミズ・ミミズαへの進化過程が流され彼らがどのように進化して来たのかが流される。舞台となるのは森に棲むミミズαの高校。何故、高校があるのか? も作中で語られるがミミズαへの進化は直接の先祖であるプラナリアの持つ能力からとされる。
カメレオン探偵

カメレオン探偵

人となり

アトリエファンファーレ東新宿(東京都)

2025/10/24 (金) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

 板上は下手奥コーナーにバーカウンタ。丸椅子3脚、中央に円のセンターを色分けしたマークのついた扉、扉の直ぐ左手に貸鉢に植えられた植栽。上手には蓄音機。出捌けは上手側壁部の袖から。

ネタバレBOX

 オープニング早々、吉本1年目というお笑いコンビが登場するが、寒い。余りにも寒い。芸の理想は夢と現の狭間で夢想空間を現出せしめることだと理解している自分にとって、これ以上の寒さは信じられないレベルの「表現」であった。
 タイトルのカメレオン探偵も一種のSFであるが、内容は乏しく感じられた。残念である。全体の構成も良いとは感じられず、脚本も甘い。役者陣の演技はまずまず。開演後照明は昏め。尺は90分程。
恋愛漫画~鳳凰篇~

恋愛漫画~鳳凰篇~

ライオン・パーマ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2025/10/22 (水) ~ 2025/10/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 初日を拝見。ライオン・パーマが何度となく再演してきた作品とのことだが、自分は初見。尺は休憩無しの約2時間25分。然し一瞬たりとも目を逸らすことが出来ない傑作だ。初日が開けたばかりなのでネタバレは極力控えるが必見の作品。華5つ☆。観るべし!

ネタバレBOX

 板上は嵩上げされた奥のホリゾントセンターの幕のど真ん中に“万引きは極刑です”の張り紙、上手には“万引きを見つけたら金一封”、同様に下手には“本屋→警察→学校→親”と記された紙が目を引く。これだけで尋常ではない、笑いの種が撒かれている。因みに開演前にはサマータイム等のBGMが流れてセンスの良さを感じさせる。明転すると板中ほど上手は本屋の入口、小さな町の本屋で、店員が正面を向いて座っている。センターやや下手には引き戸式の手洗い、下手は書架が置かれている。嵩上げされた奥は、場面、場面で書店主が兼業している小さな出版社の編集部になったり、ラーメン屋のキッチンになったりとオムニバス形式の今作の物語の展開次第で様々に変容する。枢要なプロットは漫画家vs編集者、書店と常連客、張り紙に纏わる諸々、ラーメン屋の顧客獲得作戦と山奥に残る狼保護vsダム建設、瞬時伝送システムを持つ企業の実際、天才漫画家の闘病と後継者問題これらの挿話がくんずほぐれつしつつ終盤で一気に集約されてゆく。この手際の見事なこと。而も上質な笑いを誘うシーンが随所に鏤められ観客を擽る。無論、これだけの傑作、それだけで終わらない。一々の挿話自体が深く、隠されたテーマは各々大変本質的で喫緊の問題群でもあるが、これらを如何に非専門家の生活者に届けるか? についての極めて稀な成功例でもある。

リーディングセッション『蠅取り紙ー山田家の5人兄妹』

リーディングセッション『蠅取り紙ー山田家の5人兄妹』

OVER40S

ザムザ阿佐谷(東京都)

2025/10/18 (土) ~ 2025/10/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 over40’sの 顔見世公演である。出し物は「蠅取り紙」飯島 早苗さん、鈴木 裕美さん作。開演前とリーディンング中の効果音はアコーデオンの生演奏が入る。尺は途中休憩を10分挟み2時間10分。華4つ☆

ネタバレBOX

 物語は山田家の5人兄弟を中心としたホームドラマ。未だ蝿取り紙が使われていた昭和30年代頃の話も思い出話として出てくるからそれから兄弟が大人に成る頃迄の話と考えてよかろう。因みに蝿取り紙とはガムテープ程の幅の赤茶色の紙の両面に粘着剤を塗って蠅を捕る為に使われた紙。鮮魚等を扱う店頭では上から吊るし巻き芯を錘として用いた。未だ日本は貧しく1$は固定制で360円。令和の現在より総てが荒々しく活気に満ちており都内の祭りでも喧嘩神輿の風習が残り時折死者が出た。然し近所付き合いは盛んで子供たちは近所の道や広っぱで缶蹴りやビー玉、メンコ、ベーゴマからかくれんぼ、鬼ごっこ、縄跳び、だるまさんが転んだ、ままごと、戦争ごっこ、けん玉、相撲、野球、木登りなど何でもやって遊んだ、今より遥かに自由でゆるやか、大らかな時代であった。無論、時々子供同士の喧嘩はあったが、大人が止めに入ると、「子供の喧嘩に大人が口だすんじゃねえ!」と啖呵を切る子供さえ居た。世の中は今よりずっと暮らし易かった。下町の長屋では、朝布団を質屋に入れて働きに出る親も多かったが、味噌や醤油、マッチが切れれば近所の部屋の何処に何があるかは子供が知っていたから親は自分の所に無い物を借りに行って賄いをし合うそんな融通が利くことが当たり前の、少なくとも精神的には相見互いの時代の了解が根底にあった時代の話である。
 今思えば、人々の人生は現在より遥かに人間的で充実していたのではあるまいか。現在のように何でもかんでも禁止、それが如何に不合理であっても意図的に作られたトレンドであってもそれが時代のトレンドであれば、それに逆らったり敢えて無視したり、対抗・対向したりすれば否定的で無責任な匿名の非難、悪罵が殺到するという現象は無かった。
 これに反し現代資本主義がスタグフレーションやリーマンの詐欺的手法の失敗以降更なる利潤優先を推し進めてきた結果、我が国でも人々の発言は二極化し片や非難しようのない毒にも薬にもならぬ用心深い表現に、片や非難している対象の内実で何が問題とされているか考えることさえせず唯嫌いだとか、己の狭い了見に合致せぬというだけでダメージを与えようとする意志と匿名で投稿するのであれば意味の無い自己顕示欲? を満足させる為だけにSNS等ネット上の表現方法を用いて叩く、寒いだけの時代を更に推進するだけの緩やかな自滅に加担する者達の群れに自らを進んで没入させる思考停止した人々の何と御し難い趨勢であることか! 
 より遥かに精神的に健全であるが故に暮らし易い、安寧な時代であった。そんな時代を描いた作品である。出演した皆さんの活舌も良く、間合いの取り方も上手い。初めての海外両行に出た父母だったが、ハワイへ向かう航空機内で不調を訴えていた母は到着して病院へ直行、入院する羽目に陥ったが原因は盲腸、オペは成功したが麻酔から醒めない。この状態で母は子供たちの集まっている自分の家へ帰還してしまった。子供たちはびっくり、実は母の生霊らしいということは推測できるものの、目覚めなければ大変なことになる。観劇中、生霊について自分はWミーニングで捉えながら拝見(拝聴)していた。つまり今作の母の生霊と源氏物語の六条御息所の生霊とを同時に思い浮かべつつ拝見(拝聴)していた訳だ。タイプが正反対の生霊なので実に得難い体験をさせて頂いた。と同時に良質なホームドラマを堪能させて頂いた。
三道楽煩悩 Sandra born now サンドラ・ボーン・ナウ

三道楽煩悩 Sandra born now サンドラ・ボーン・ナウ

劇団Turbo

OFF OFFシアター(東京都)

2025/10/14 (火) ~ 2025/10/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 板上に30㎝程の高さの平台を置き、中央に緋色の布を巻いた高座、噺家登壇の際は無論座布団を敷く。高座の奥ホリゾント壁から観客が観易い角度に調整されたスクリーン。その他、下手、上手に丸椅子と舞台美術は至ってシンプル。尺は約100分。因みにタイトルにある三道楽とは煩悩のうちの“飲む-打つ-買う”を表しているとのこと。

ネタバレBOX

 師匠と弟子たちの話である。師匠は酒のせいで目を患い何度もオペを繰り返してきたが、一向に酒を断つことが出来ず、失明すると分かって居ながらことあるごとに弟子に酒を買って来いと命ずる。買って来なければ破門との要求に遂に新弟子が屈し飲んだ結果、片目の視力を完全に失った。それでも総ての弟子に月稽古をつけることを止めない。この稽古での出し物が演じられてゆくという作りになっているのだ。ピンの話芸が中心だが歌を交えるケースが多く歌の上手い役者が多い。その中で古参の弟子の地方に住む両親が歳を取り最後の面倒を見て欲しいとの切なる願いが伝えられ、芸の親と生みの親とに引き裂かれ悩む弟子の何とも言えぬ苦悩・悲哀が下敷きとなって、生前葬というシーンに仮託されて師匠が弟子が実家に戻ることを許す場として演じられ、終焉時実際に舞台を去ることが告げられるが悲喜交々の感情が去来する実際の役者さんの人生そのものが見えて観客の心を撃つ点が秀逸。
 何れにせよ登場する役者個々人の個性が異なることが良く判る小劇場演劇の特性を活かした作りの作品であるが、歌の上手い役者が多い中で殊に上手いと感じたのが最も新しく入門した新米という芸名の役者、ギターも極めて上手いし楽器を大切にしている様も良く見て取れるのがグー。因みにこの師匠の芸名の名付け方は師匠自らを含め総て米絡み。ターザンのような衣装で登場する人物が歌うシャンソンの仏語も正確である。
平和

平和

うずめ劇場

シアターX(東京都)

2025/10/17 (金) ~ 2025/10/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 東京公演初日を拝見、尺は途中休憩10分を挟み丁度2時間。お勧めの舞台である。(追記後送)

ネタバレBOX

 今回の上演作品は、現在普段は九州で活動するうずめ劇場を主宰する矢張り東ドイツ出身のペーター・ゲスナーさんが先ず東京上演の後、ベトナムのニンピンでの上演を予定しているという意気込みからも窺える。
 史実として、大ディオニュシア祭で今作が上演されたのは主たる戦争推進者であったアテネ将軍・クレオンとスパルタの指導者であったブラジダス両名が戦死した後の空僚をアリストファネスは如何にも喜劇作家らしい自由な視座から利用したと考えてよかろう。(この点も当パンに記された観点をベースに記している)近年ではチャップリンがヒトラー全盛期にヒトラーを茶化した「独裁者」を発表したことと似ている。
 喜劇は現実の悲惨、耐え難い苦悩、人々の魂が負った深い傷をも、その原因となる元凶を茶化し笑いで無化する作用を持つ最もラディカルな表現手段である。そして最も大きな害を齎すものこそ戦争なのではないか? 先に挙げた害悪の最たるもの・ことは総て戦争の必然的産物に他ならない。気を付けねばなるまい。
曇天に咲く華

曇天に咲く華

劇団KⅢ

萬劇場(東京都)

2025/10/15 (水) ~ 2025/10/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 尺は休憩無しの130分。某領主が城を建設中の領地。時代設定は不明確だが城は間もなく完成する予定だ。
 殺陣シーンが可成り多く、役者の身体能力に合わせてスローモーな殺陣にしたり、通常のスピードにしたりの工夫がある。尺はもう少しギャグを削って詰めても良かろう。バチではあるが歌い手が入って歌うシーンもあり、歌の上手い歌手である。極めて深い台詞や名シーンもあるのでギャグを削っても充分訴えかける力を持つ作品になろう。(追記後送)

桜の園

桜の園

パンケーキの会

com.cafe音倉(東京都)

2025/10/10 (金) ~ 2025/10/11 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 流石にパンケーキの会の朗読公演! 

ネタバレBOX

 チェーホフの原作をそのまま上演すると尺は3時間に及ぶ。今回の朗読公演では伊藤 毅さんの翻案で休憩を10分取り2時間20分に縮めて上演された。つまり脚本を三分の一削ったことになる。
 衆知の如くチェーホフの作品は緻密で人生の綾や希望とぞっとするような個々人のカルマが齎す破滅に由来する底抜けの虚しさ迄を濃厚に漂わせる名文だから、原作の要をキチンと残したまま作品の齎す様々な陰影を表現する為の翻案には大変大きな格闘があったことが窺えるが、その甲斐あって結果は見事なもので原作の持つ繊細で豊かな情緒表現や瞬間、瞬間の登場人物達の心の動きが良く判る創りになっている。若干、噛む役者が居たことは残念だがパンケーキの会に参加する役者陣はレベルの高い役者さんが多いので臨場感たっぷりの質の高い公演になった。
223番のはなし 東京公演

223番のはなし 東京公演

劇団芝居屋かいとうらんま

OFF OFFシアター(東京都)

2025/10/10 (金) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 必見、華5つ☆。終演後、色々深い作品故更に追記する。

ネタバレBOX

 板上、ホリゾント両側壁にはびっしり茂った樹木の葉が見える。板上はフラット。箱馬があちこちに置かれている。開演前、三味線の弦を爪弾くような音と金属を叩く音が聞こえ、折々水滴が垂れ金属に落ちるような音が混じる。なんとなく怪奇譚が始まるような雰囲気を醸し出している。
 幕が開くと和服を着た面々が寄り合い何かの儀式を行っている模様。着衣は皆和服である。場転、明転すると和服の者らが箱馬を幾つか整然と並べて、そこへ長い杖状の棒を差し込む。その向こう側には洋服を着た男が独り箱馬に腰かけ客席側を向いている。資料を挟んだしかつめらしいバインダーを持って女が尋問を始めた。ここは牢屋である。男は未決拘留されており女は事件の経緯についての尋問を行っているのだ。容疑は反逆罪等。然し、男は虫も殺せない、と妻が言うほど心優しくとても大それた事件を起こしそうなタイプには見えない。名を山岸という。機械等を扱う会社で営業をやっていた47歳のサラリーマンである。尋問している女は調査官。名は月守。
 冒頭のこの場面、舞台美術を極力簡素化し、簡素化した機材を見事な用い方で牢屋に変換する演出も舞台美術も秀逸でいきなり作品に引き込まれる。無論脚本も発想自体が素晴らしく細かい点迄よく書き込まれ骨太で構造のしっかりした建築物のようでもあると同時に生き物の持つ柔らかさが充満した少し不思議な安らぎを齎す優れもの。この脚本にして、この演技、それを上手く合致させたセンスの良い合理的な演出。これらを支える音響、照明、道具、衣装も村の住人は和服で統一して古を象徴し都市から来た者は洋服で統一して現在を象徴しているのみならず、村の娘と結婚を約している是枝という男の着こなしでは和服の下からYシャツの襟が覗いている点等細かい処で是枝がどういう人間か、上手く示唆している。(この辺り衣装担当の努力と工夫もみものだ)
 実に考えさせる内容であるから、この詳細については終演後に書き記すこととする。
シャガ

シャガ

SHEDDING

インディペンデントシアターOji(東京都)

2025/10/09 (木) ~ 2025/10/13 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 シャガを祭るミツガオカ村の物語。尺は約2時間。(追記後送)

ネタバレBOX

 ちょっと変わっているのは、村長がこの村を国家同様のコンセプトを用いて機能させようとしていることだ。この奇妙な発想から鎖国政策が今回も出され村人が領域から出ることも、よそ者が領域外から入ることも法に触れ死刑に処される。このような掟に縛られながら生きる村人たちは村に在る祠にことあるごとに神頼みして来た。言い伝えによれば祠を開けることが出来れば願いが叶うと伝えられ開けた者は英雄として遇される。為に天災等の大災害に因る危機の度、祠を開けようと挑む者が絶えなかった。一度も成功した験しが無かったにも関わらず。今、また旱魃が村を襲い、村人たちは飢えていた。
埋められた子供

埋められた子供

劇団昴

Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)

2025/10/03 (金) ~ 2025/10/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 必見、華5つ☆。休憩を挟み2時間10分を越える大作だが役者陣の見事で迫真の演技から目が離せない。(追記第1回)10.11

ネタバレBOX

 何度でも観たい、そう思わせる作品だ。というのも“理解する”とかこう“判断する”と言い切れないが不気味、不安定、底知れなさ、軽妙で洒落た笑い、唐突、所在なさ、皮肉、各々の登場人物個々人が抱える不安、遣る瀬無さ、かつての栄光と現在の己の間で生き乍ら引き裂かれる魂の無力・退廃、抗う術を持たぬことから生じる虚無感、そしてこれら総てをその根底から支える唯一“罪”の意識。に観客は当に立ち合うことになるからである。
 多くの観客が感じるであろうことは論理的であるとか、矛盾があるなどの指摘が為され得る作品ではないということだ。そういう作品であれば、理解した気にはなれる。今作は、元々そのような反応を拒む作品ということができよう。意味らしい意味は互いに無関係な科白の応酬によって無化され、台詞と台詞の間に紡がれるもの・ことは通常の対話ではなく先ずはその登場人物個々のザインであり、要所要所に於けるダーザインである。而もこれら存在の諸形態は無規定の直接性として我々、ヒトの持つ最も奥深いもの・ことを刺激し続けるのだ。外では強い雨が、こんな人間共の心象を嘲笑いでもするかのように時に激しく雷鳴を伴い、時にしとしと降り込めて外界との接触を極めて煩わしいものと為す。同じ家に居ながら互いに通じ合えない人間という生き物の根源を描いた傑作戯曲を実に深く理解し翻訳された今回の広田敦朗さんの脚本と、極めて難しい演出をこなし魅せる舞台に仕上げた桐山知也さん。難題を抱えた戯曲を見事に身体化し演じたドッジ役の金尾哲夫さん、ティルデンを演じた佐藤洋杜さん、ブラッドリーを演じた中西陽介さん、ヴィンスを演じた赤江隼平さん、一方でアメリカ人の心法を支えるものにプロテスタンティズムがあるのはご承知の通り。今作では、ファーザーを揶揄する形や、ドッジの妻・ハリーの何をおいても神の名を挙げる態度に痛烈なアイロニーとして反映されている。面白いのが、ずっと家に居るのはドッジであることだ。無論病身であるから外出しないということは分かる。然し年中、どれくらいの期間になるのかも分からぬ外出をするのが妻・ハリーであること、それも神職とはいえ同伴するのが男性であることも様々な含みを感じさせる。更に言えば宗教がバックボーンとなる国民性とはクリティカルな精神というより信じ込む精神を意味しよう。その過ちを質すのが容易ではないことも示唆する。それは刷り込み同様ア・プリオリな固定観念となっていると考えられるからである。

6月26日/生きてみれば

6月26日/生きてみれば

FUTURE EMOTION

キーノートシアター(東京都)

2025/10/03 (金) ~ 2025/10/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 「生きてみれば」「6月26日」2作品を上演、途中15分の休憩を挟み、尺は2時間から2時間5分。(追記後送)

ネタバレBOX


 仏語の名詞にdépaysementという単語がある。今作の内容に合致する訳をあてはめてみと凡そ以下のような意味を持つ:異なった環境や習慣の中に身を置いた者が、その環境や習慣になじむことができず異和感や居心地の悪さ、戸惑いなどに悲哀を感じて苦しむこと、という意味を持つ単語であるが、古くは異国への追放を意味した。今回、上演される2作品の何れにもこの単語の意味する処が根底に流れている気がする。2作品に共通するのは歴史に翻弄される人々という点であろうか。
いえないアメイジングファミリー【2,000円席有】

いえないアメイジングファミリー【2,000円席有】

sitcomLab

ザ・ポケット(東京都)

2025/10/01 (水) ~ 2025/10/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

Red Devilsの回を拝見、尺は約90分。

ネタバレBOX

 最近異類とヒトとの純愛作品が増えているような気もする、世の中しっちゃかめっちゃかだから、人間に対する不信感の根源的な現れかも知れない。今作では、異類の側が女性でヒトに恋するのだが、無論こんな転倒は文学上の初歩的なテクニックに過ぎず要らぬ摩擦を避ける為の常套手段だ。ジェンダー論が盛んになっていることとも関わるかも知れぬ。
 肝心なことは、それが純愛である点だ。ピュアなもの・ことは胸を撃ち心を締め付ける。今作の肝もその点にある。物語が展開するその日は、雨降りで太陽に焼かれる心配が無いので父や姉妹は青山墓地へ出掛けて留守、合間を利用して核を為す恋の成就を切望する乙女(メモリ)は恋人晴海を初めて実家に招いた。晴海が父に挨拶したいとたっての懇願をしていたからである。然し天気予報に反し雨は止んでしまった。急遽父たちは帰ってくる。準備も満足にできていない状態で大の人間嫌いで通る父が認めるハズがない。メモリは偶々残っていた叔父に晴海の保護を頼み、止んだ雨に急な対応をした為エネルギーを使い果たし休んでいる父を休息させた後部屋に戻った父方にLuciferの血を引く孫娘であるカイリ、サトリ姉妹がメモリを庇い、叔父とカイリの夫らがメモリの恋に協力することとなった。やがて力を回復した父がdevilsの館に入っていた泥棒とメモリが愛する晴海とを混同したまま晴海を殺害しようと乗り込んでくる。更に物語を錯綜させるのが館に棲む悪霊と様々な人間等に化体する能力を持つカイリの夫が化けた晴海が入れ替わり立ち代わり父の前に現れるので父は混乱を招く顛末。おまけにエクソシストの能力を持つ神父迄現れてシリアスな恋と喜劇的要素がくんずほぐれつする様は中々工夫されており、テンポも良く進行する。さて、メモリの純愛に応える晴海の覚悟は? そして大団円は? Luciferが元々、天使であったことも思いださせることもグー。
父と暮せば

父と暮せば

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2025/09/26 (金) ~ 2025/09/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 こういう舞台に稀に出会うから観劇は止められない。断固、観るべし! 当然華5つ☆ 今年になって観た舞台で最高峰! 尺は休憩無しの110分。完全に舞台と対峙しつつ見入った110分であった。
 原作は井上 ひさしさんの名作。内容は今更くどくど述べる必要などあるまい。(追記9.27)

ネタバレBOX

 改めて手練れ作家、井上 ひさしさんの構成の上手さ、条理展開の見事、限界状況に置かれた人間のヒトとしての倫理、親子の情、娘の友人やその母を通じて描かれる被爆者たちとの交々。総てを引き裂く原子爆弾の仮借なき酷たらしさ。その央で展開される究極の選択で死に行く者の優しさと生き残ってしまった者に襲い掛かる申し訳なさの思念。これら総てを、演出を担当し父、竹造を演じた浅井 星太郎さん、娘、美津江を演じた池田 純美さん二人の役者が演じるが、間の取り方、演者同士の板上での距離、表情や仕草、効果的抑揚や巧みな台詞回しで見事に演じ切り一瞬たりとも目の離せない緊迫の舞台を創り上げた。
 伴奏は、浅井さんの音楽の師、佐々木 多幸詩さん(キーボード)、ギターに松岡 信二さん。劇中歌の歌詞も良い。
草創記「金鶏 一番花」

草創記「金鶏 一番花」

あやめ十八番

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2025/09/20 (土) ~ 2025/09/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 彗星を拝見、途中10分の休憩を挟み2時間45分の長尺。然し長さは全く感じない。

ネタバレBOX


 物語はテレビジョン黎明期、日本の対外戦争、そして歌舞伎と各々ジャンルが割れるものの、深堀りしたり当時を生きた人々の人生を通せば、大きなうねりに何とか立ち向かおうと懸命に生きたヒトという生き物の視座から俯瞰し得るような物語として収斂し得る。この事情を梃に入れ子細工宜しく舞台は組み立てられてゆく。
 ところでテレビジョン黎明期は技術の問題として戦争とは繋がり易い。これに対して歌舞伎は? と感じる人々も多かろう。これにはあやめ十八番・代表の堀越涼氏が歌舞伎に15年も関わっていたことが大いに関係している。無論、歌舞伎が日本文化を代表する芸能の一つであることを否定する者はあるまい。そして芸事というものは、伝統的であればあるほど新たな基軸を見出し芸として表出することが困難になる領域の文化である。序盤、坂東天鼓の父、天五郎が栄国稲荷の狐と契約を交わすシーンがある。洋の東西を問わず優れた芸術家が狂気の域に足を踏み入れることすら辞さなかったことは、それほど迄の覚悟をする必要があるということの裏返しでもある。
 今作を貫いているのは、このような向き合い方、大抵の人々が流されてしまう宿命というものに抗う個々人の姿である。天五郎が自らの芸を新聞で痛罵されたことを気に病み遂には栄国稲荷の狐と契約を交わすシーンが描かれているが、上述の如く芸事を極めるということは、狂気にすら怯まず精神を開拓する程の覚悟が要求されるものであることは、古今東西の優れた芸術家が幾度も描いてきた本質の一つである。
 その先駆・中興例の一つとしてテレビジョン映像を世界で最初に実現した金原 賢三(役名、モデル:高柳健次郎氏)の偉業が為されたことが今作の柱の一本として選ばれている。1926年12月25日の事であった。この年大日本帝国は昭和元年を迎え歴史的惨敗戦への年号を刻み始めた。これが今作第二の柱、太平洋戦争勃発(1941年12月8日)以降の戦争譚に繋がり第三の柱(歌舞伎、今作ではスマトラでの兵士たちによる“白浪五人男”上演)に繋がるのである。実に意味深長ではないか!
 これ以外にキネマの女性脚本家として名を為していた天鼓の親友伊勢友之助(駿河屋)の母、尾長光子に脚本家を目指し弟子入りしていた久連子益次郎(女性だが故あって男の名を名乗っている、訳は今作を観るべし)に纏わるサブストーリーが絡む。彼女の脚本家に成るという執念と彼女が友之助の筆おろしをしたことを根に持って暴行、悪罵を加え追い出した友之助の姉、尾長さなえの恋う人(天鼓)を喪い希望を失くしたどろどろの感情を描き、稲荷と契約を交わすに至り、その契約後名跡を復活、旧劇の大立者となった天五郎(駿河屋)との因縁話が組み込まれているのも、日本の体質を見事に炙り出して今作の基底を下支えしているのは見事という他あるまい。柳田國男の指摘を待つまでもなく日本社会の特質を示した深みと観ることができよう。優れた芸術・美の足下に蜷局を巻くのは常にこのように不気味なカオスなのである。
VIVID

VIVID

Loneliness of the butterfly

イズモギャラリー(東京都)

2025/09/19 (金) ~ 2025/09/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 照明、音響等の効果もグー。何より詩的作品である点が気に入った。 
 脚本・演出は“さかさまのあさ”の宮田 みやさん、演ずるは“ウテン結構”の岩澤 繭さん。Symbiosisの中でも特殊な異種恋愛の物語だ。

ネタバレBOX


 Corichの説明文を読んで詩的な作品だと感じたのだが、その直感は当たっていた。科学の発達に伴い近年では宇宙の始まりに関してのみならず様々な銀河の写真集や解説本も数多く出るようになった。生命の誕生が宇宙の諸星達の生々流転と関りのあることも次第に人々に知られるに至っている。科学少年、少女たちには既に知られていたことが漸く人口に膾炙するようになったのである。かつて詩人が予言していたように諸星から生まれた生命は互いに関連し様々な関係を持ちながら生々流転している。そんな巨きな流れの中で、人類以外の生き物たちが互いの情報を交換し合い、そうして得た情報をも用いつつ生存競争をしているということも分かりつつある。漸く人間だけが“言葉”を用いることが出来る、などと言う傲慢極まる論理は廃り始めたのだ。オルフェウスが鳥や獣のみならず岩や他の自然とも話すことが出来たとの言い伝えや、アニミズムの残る世界で未だに伝わる土地の古老の誰々は鰐と話が出来る、などの口承も余り軽んじてばかりは居られないようになるかも知れぬ。人間の知っていることなど宇宙の10のマイナス何十乗倍分の1に過ぎまい。
 おっと話が大きくなり過ぎた。物語は人間の或る男と南米に実在する極めて毒性の強い、然し宝石のように美しい毒蛙*との純愛を描いた作品である。この蛙一匹の持つ毒でアフリカ象2頭が死ぬとされる程の猛毒を持つ蛙が天敵のこの毒に耐性を持つ蛇*に襲われ泡や、という時男がこの毒蛙を救ったのである。救われた毒蛙は、彼のヴィオトープで飼われることになった。助けられた瞬間、彼女は雷に撃たれでもしたように恋に落ちた。然し人間が直に毒蛙に触れれば忽ち死ぬ。それほどの猛毒なのである。だが彼女は既に恋に落ち、そしてそのまま天敵の蛇に襲われたダメージで気を喪ってしまう。「お早う」という声に目覚めると、其処に居たのは『彼』であった。心臓が脈打ち、ドキドキが加速する。世界がいっぺんに変わってキラキラ輝く。恋が世界の見え方迄変えてしまった。然し彼が居なくなると嬉しさも胸のドキドキトキメキも総て失せ、世界は単調でもの憂いものに変わってしまった。のみならず恋焦がれれば焦がれるほど、彼と己を隔てるヴィオトープの透明な壁のみならず、直に彼に触れれば己の毒が彼を殺すという事実が己を苦しめる。彼に触れたい、直に触れてキスの雨を降らせたい。然しその念を叶えた途端、彼は死ぬ。それは免れることができない。愛するが故に求めることが、果たされればそれは愛する最愛の人を殺すことなのだ。このアンヴィヴァレンツが彼女を生き乍ら引き裂き、耐え難い苦しみを齎すのだ。一方、こんな彼女の悩み苦しむ姿を知ってか知らずか、彼女が「騒がしい」と文句を言ってきた奴がいる。上階ヴィオトープに棲む青大将である。彼はヴィオトープで生まれ育った蛇であったから、外界のことは余りよく知らない、知っていることはヴィオトープで元野良から聞いて仕入れた知識であった。然し乍らこの蛇がヴィオトープで生き続けることは退屈と窮屈に徐々に圧し潰されて精神を病む地獄だと認識しておりいつか脱出してやろう、との夢を持っている。偶々この青大将が脱走に成功した。飼い主の人間即ち蛙の命の恩人がヴィオトープの蓋を閉め忘れたのだ。彼は一緒に逃げないか? と声を掛けてくれた。然し彼女は此処に満足していたので断った。彼は独りで旅立った。
 この後も彼と毒蛙の日々は続く。蛙は「お早う」で始まる毎日の彼との逢瀬を十全に味わい幸福すら感じていたが、触れたい、彼に触れキスの雨を降らせたい、との念は募るばかり。恋の煉獄に身を魂を焼かれ苦悩していた。そんなある日、彼女はヴィオトープの蓋を彼が閉め忘れたのを発見した。抜け出すことができる。彼は出掛けていて、彼女は抜け出た後、彼が怪獣に絡み付かれ口に嚙みつかれているのを見たように思った。その瞬間、彼女は今度は彼女が彼を救わねばならぬと猛烈な勢いで怪物に突進、張り付き最後には怪物の顔面に毒をぶちまけた。怪物は堪らず彼を離して逃げた。倒れた彼はペシャンコになった彼女の体に裸の手を触れた。始め彼女の体は人間の体温に耐えられず火傷を負ったが徐々に彼の体温が下がり彼女の体は焼かれることが無くなった。遂に彼と直に触れ合い純愛を実現することができたのであった。
*登場する毒蛙は、自然界で最強と言われるアルカロイド系の神経毒バトラコトキシンを持つモウドクフキヤガエルだろう。毒を持っていることを示し無駄に他の生き物を殺さずに済むよう体色は極めて鮮やかで宝石のように美しい警告色。彼女を襲った天敵の蛇はノハラツヤヘビ属マイマイヘビ科のヘビでバトラコトキシン耐性を持つ唯一の蛇ということになる。
 
受付/六月の電話

受付/六月の電話

演劇ユニット茶話会

Paperback Studio(東京都)

2025/09/19 (金) ~ 2025/09/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「受付」「六月の電話」2本を上演、「受付」は☆4つ、「六月の電話」は☆5つ。総合評価華4つ☆(追記9.21)

ネタバレBOX

「受付」
 別役さんが今作を書いたのは当パンによれば1980年だが、演出家は余り作家の今作執筆当時の心理状態をイメージすることができなかかったのではないか? との疑念が残った。実際今作で別役さんが何を描きたかったのか? については様々な解釈が存在し得るし何も私如きが感じることが正しい等という気はさらさら無い。然し今回今作をどう解釈するのか? という点で結論を出していないような気がしたのも確かなことなのである。表層だけ観れば精神科を受診しようと訪れた45歳の既婚子供4人の会計事務所勤務のサラリーマンが、受付の女性に、募金、アイバンク登録、献体等々を押し付けられてゆく不条理な喜劇と取ることができよう。然し、別役氏の意図はそんなに単純なものだったのだろうか? 受付嬢の台詞の大多数は、このビル内に存在すると彼女が主張する37もの各種団体の受付との電話内容なのだが、この内容をからかいたかったのか? だとすれば何故? 何故このような形で? 等様々な疑問が生じる。
 また、何年もの間、机上に置く筆立ての位置に迷い、他の事に手を付けられない程の状態を続けている彼女の心理状態は何を反映しているのか? といった疑問である。下らないこと、余りに些末的で解決する気なら自分で少し細工して机の引き出しに入れるとかどうしても机上と関連付けておきたいのであれば筆立て自体を嵌め込めるような容器を作りその容器が取付金具で机に取り付けられ自由に動かすことが出来るようにすれば済むこと。或いは小型で平たい筆記具用の皿型の物を用意し、邪魔にならない場所に置けばよいだけの話で何年もバカバカしい些末事項に拘る等愚の骨頂である。
 以上のようなことを茶化したというのであればそれが何故か? を考えて演出をしたとは考えにくい。また受付嬢役の女優さんが台詞をやたら噛んだのも残念。
「六月の電話」1995年作(当パンより)
 今作で重要なアイテムは板奥の衣文掛けに掛けられたウェディングドレス。此処に現在住む女が20年前の今日結婚式場の控えで着ていたものである。して当日新郎は式場に現れなかった。以来20年、彼女は誰もいない空間に「あなた」と呼びかけ続けている。時折掛かって来る電話に応対することが彼女の現在の仕事であり、寄る辺なく何のあても無い彼女は自分で決めた日課をその時刻が訪れると果たすことで時間をうっちゃっている。今日もそのような日をいつも通り過ごしていた彼女の下をアリバイを証明することが自分の仕事だと称する男が訊ねて来た。依頼人も不明、非依頼者の個人情報も不明、唯彼が仕事を果たす為の最低限の情報とアリバイを客観的に示すことができるよう、カメラや当日の新聞というアイテムを引っ提げて。必要最小限の情報とは、アリバイ照明が必要となると思われる者の住所であった。住所は確かに彼女の実際住んでいるこの場所であり、危害を加えるそぶりもなければ、非紳士的態度でもなく、唯水が飲みたい、とか彼女の残した食べ物を食べても良いか? 等の質問をすること位で害は一切ない。但し依頼者の指定した時刻迄は被依頼者のアリバイを証明する為、被依頼者と一緒の場に居て被依頼者がずっとアリバイ証言者に証言して貰える状態であったことを保証しなければならない。これが、この話の要点であり、話が進むに連れて依頼者の目途と何故このような依頼が行われたか、その背景が明らかになってくる。
 その背景とは1970年代初頭には既に瓦解していた所謂世界の展望を形成する視座が、時代の反進歩勢力によって益々混迷の度合いを増し遂には消滅するに至る過程で起こった進歩派同士の内ゲバであった。進歩派の理論的指導者の多くが実際の社会経験に乏しい若者達であり旧支配体制を維持する勢力に対する有効で決定的な闘争指針を打ち立てきれず、而も今迄主張して来た論理との整合性を保つ為に更に論理を先鋭化させる以外の道を持たなかったが故の近親者同士のぶつかり合いが起こっていた。この辺りの指導部のメンタリティーや焦燥の結果を垣間見させる独特の雰囲気を持った作品である。

「タクボク~雲は旅のミチヅレ~」

「タクボク~雲は旅のミチヅレ~」

江戸糸あやつり人形 結城座

ザムザ阿佐谷(東京都)

2025/09/18 (木) ~ 2025/09/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 江戸糸操り人形劇団、結城座旗揚げ390周年記念公演の第二弾は「雲は天才である」も書いた石川啄木が代用教員を務めた頃の話として紡がれた。(追記9.21)

ネタバレBOX


 物語冒頭、人形劇上演の為に人形を詰めたバッグを提げ、小道具等をポケット一杯に詰め込んだ団員一同が興行する街、劇場を求めて彷徨い歩く模様が描かれる。とある街で彼らはぽっかり口を開けた穴を見付けた。何やら興味を惹かれ中に入ると階段が付いており底迄降りることができた。底に降り立ち中を歩いていると1冊のノートが落ちていた。拾い上げて読んでみると石川一(はじめ)と書いてあり団員の一人が啄木のことではないか? とあたりを付けた。どうやらここは啄木が代用教員として児童たちに教えた学校のようだ。啄木が雲に拘ったようにこの穴の底に青空が現れたり壁面に現れたりして其処を様々な形の雲が過ってゆく。子供たちが歌っている歌は児童たちが自由に闊達に自然と戯れ、その想像力を広げると同時に自然の持つ多様性や豊かさ、推移や時に厳しさから様々なことを学べるよう詩人・啄木が願いを歌詞にした作品であったが、頭の固い校長やその奥さん、校長にべったりの教頭らは猛反対“正式な許可も無しに校歌を歌わせるとはけしからん”と難癖を付けてきた。こんな状況にもへこたれず、一先生は、児童たちを森に連れて行き課外授業を行った。これも“とんでもない”として校長たちは授業を潰す為に森に入って行った。
 丁度、同じ頃劇団員がバッグに入れた人形が紛失していることに気付いた。八百屋お七の人形である。大切なヒロインの人形が何者かに盗まれたと判断した劇団員たちは人形捜索に当たると同時に失せ物、失踪者等の困りごとを解決する、と銘打つ探偵に操作を依頼。探偵も森に入り、犯人を特定した。
 ところで森には橘が群生する場所があり、この橘の群生は得も言われぬ芳香を発していたが、人がこの匂いを嗅ぐと睡魔に襲われ眠り込んでしまうと伝えられ八百屋お七の人形を何者かに奪われそれを探しに来ていた劇団員たちは息を止めて森から脱出、一先生や児童たちも校長らの追跡から逃れていたが、深追いした校長らは芳香に絡め捕られ眠り込んでしまった。眠りから覚めた校長たちの言動はその後どうなったか? 盗まれたお七の人形は? 人形を盗んだ犯人と犯人を突き止めた探偵の決着は? それらは観てのお愉しみだ。
『天守物語 〜夢の浮橋〜』

『天守物語 〜夢の浮橋〜』

虹色ぱんだ

アトリエファンファーレ東新宿(東京都)

2025/09/18 (木) ~ 2025/09/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイゼツ、ベシミル! 華5つ☆ 初日を拝見。

ネタバレBOX

 虹色ぱんだは灰衣堂愛彩さんが、自分の好きな作品を自分の息の合った俳優たちと創り上げ上演する為に作ったチームである。今回は泉 鏡花が1917年9月号『新小説』に発表した傑作戯曲「天守物語」を上演。原作の現代の読書人には若干難しく感じられたり、とっつき難いと感じられるであろう箇所を原作の華麗・流麗は保ちつつ現代のどんな世代にも極めて分かり易く而も作品の本質を極めて的確に掴み取り優れた解釈と虹色パンダさんの舞台演出で一瞬観ただけで引き込む舞台に仕上げているのは、ずっと時代劇をAshで作品化してきた主宰の灰衣堂さんの積み重ねてきた歴史認識やその認識の深さ、確かさを物語るものであろう。余りにも有名な作品であるし、玉三郎絶頂期に彼が富姫を演じ国際的にも大喝采を浴びたことは多くの演劇ファンの知る処である。
 役者の演技も凄い。殊に感心したのは姫路城天守閣五層のあやかしたちに力を与えている獅子頭が鷹匠・図書之介を追って城主の命で五層の住人たちが攻撃を仕掛けられた際、目を攻撃され、皆の目が見えなくなる中、工人桃六の鑿によって視力を回復するが、この桃六を始め富姫の師匠をも演じた役者さんが棒杭が倒れ込むような一見無造作な倒れ込みシーンを演ずる場面が序盤から中盤に掛かる辺りにある。可成り御歳を召した俳優さんだが、これは歌舞伎等で荒事とされる程危険な演技である。それを難なくやってのけるこの役者さんの凄さにほとほと感心した。
 無論、このように見事な演技にこれほど感心できるのも、原作の解釈の深さ、的確、そして今作上演台本の分かり易さがあり、同時に鏡花存命中は上演されることのなかったこの傑作を原作の本質である純愛の受ける途轍もなく理不尽で厳しい「現実」と、女性が男性優位社会に担わされてきた苦労・苦悩を現代ジェンダー論を踏まえた上で、演じられる時代とその価値観とも通底する現代の形に創り上げた演出の巧み、そして今作上演台本・演出に架ける念が見事に役者陣の演技と共に結実していることがある。

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