ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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そこで、王たちはいなくなった

そこで、王たちはいなくなった

劇団回転磁石

北池袋 新生館シアター(東京都)

2013/07/19 (金) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

面白く爽やか
 シナリオは重すぎず、軽過ぎず、演劇的手法を良く弁えた作りになっていて、センスの良さを感じた。箍の外し方も飛んでいて良い。ギャグが、キチンと機能するのは、その斬新なセンスと意表を衝く発想だ。そうして箍を外した所へ見えるものと見えないものの相補関係を持ち込んでくるので、観客はそれをすんなり受け入れてしまうのだ。その辺りの上手さも、軽めのノリにプロットを重層化させる手腕も、展開の妙を醸し出し、楽しい中にも爽やかな舞台になった。キャスティングも良い。紅一点の山本 あんなの可愛らしいこと。男性陣も、皆爽やかな好青年である。
 これからも、様々なこと、方法に挑み続けて欲しい。

小さい つ が消えた日

小さい つ が消えた日

ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズ

六行会ホール(東京都)

2013/07/18 (木) ~ 2013/07/20 (土)公演終了

満足度★★★★

大人の望む子供 と 実際の子供
 子供の感性に配慮した作品。

ネタバレBOX

 “っ”は小さく、それ自体では発音されない為、五十音村の仲間達から馬鹿にされ傷ついて家出をしてしまう。最初は、初めて出会う外界を怖く思ったりもしたが、言葉を持たない星や太陽、海や空と出会って、“言葉そのもの”にはなれないと悩んでいる自分にも居場所はあり、自分は、宙から来たのかも知れないと幻想を抱くに及んで、漸く、心に安定の兆しを見せる。
 一方、“っ”を失った五十音村では、言葉が崩壊しかかっていた。人間界も同様である。弁護士に相談に来た者と、弁護士の会話で、「訴える」が「歌える」になってしまうなどの混乱が生じていたのである。このままでは、五十音は、人間から見捨てられ、他の表現手段にとって代わられる、との危機感から、父である大きな“つ”のみならず村総出で小さな“っ”捜索が始まるが、杳として行方は知れない。村の皆は、苛立ち、互いに彼を追い出すに至った罪をなすりつけ合ったりして争うが、長老の提言で、人間の手を借りることによって、彼にメセージを送ることになった。幸い、そのメッセージに応えて、彼は帰村することになった。それを祝い、皆の骨休みも兼ねて、村総出で温泉へ保養に出掛けることになった。その日、人の世界は丸一日、静かであった。
 ストーリー、主張がしっかりしており、メインストリーム、サブストリームの連携も良いので、子供にも分かりやすく楽しい作品に仕上がっていたが、更に子供を熱狂させるには、矢張り、大人たちの常識に囚われないナンセンスや不可解性を導入してみても面白かろう。例えば、「不思議の国のアリス」や「銀河鉄道の夜」などのような。
番外公演 トラベリンマン

番外公演 トラベリンマン

立体再生ロロネッツ

明石スタジオ(東京都)

2013/07/18 (木) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★

う~~~~~む
 リストラに纏わる有象無象を描いた作品。

ネタバレBOX

 然し、舞台上のキャラクターは人間ではなく、猫と狐。それも後になって狐に憑かれた人間と化け猫ということになっているのだが、何故、狐憑きと化け猫なのか? 必然性が全然ないばかりか、役者陣の工夫や間の外し方で笑いが生まれる以外は、シナリオ自体の独自な笑いも無い。極めて陳腐なシナリオである。不必要に、登場キャラクターを人間以外のものに替えていることもあって、表層レベルでリアリティーを喪失し、寓意は考えてもいないことが明らかな浅い思考を露呈させ、只、退屈であった。
付きまとう褐色

付きまとう褐色

演劇チーム 渋谷ハチ公前

SPACE107(東京都)

2013/07/17 (水) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★★

受け身のアリバイ
 主張がハッキリせず、流される人々のアリバイ作りを目指したような作品。出吐けの被り、閉じた会話回路でその辺りのアンニュイを描いているととる事はできようが、自分には合わなかった。

ネタバレBOX

 町工場に勤める男兄弟4人と、隣家の亭主に逃げられた若妻、その売春相手、兄弟の幼馴染の大家、同じく幼馴染のおかま、矢張り幼馴染で兄弟の誰かと結婚しようと決めている押しかけ女房志願の娘と、フラッシュバックシーンでの亡き父と兄弟の間に繰り広げられる、性衝動を中心とした行為と付随する諸々の情況、世間体との有象無象を描く。タイトルに含まれる褐色が何を意味したいのか、ハッキリは分からない。長男が刺した売春相手の男の乾いた血ととる事はできるかも知れないが、単に、作家の個人的イメージでしかないような気がする。
 何より、登場人物の誰一人として、自らの宿命に積極的にチャレンジしようとしない点で特異な作品であるとは言えよう。そこにしびれる観客にはお勧めである。
ジュリアス・シーザー

ジュリアス・シーザー

華のん企画

あうるすぽっと(東京都)

2013/07/11 (木) ~ 2013/07/16 (火)公演終了

満足度★★★★★

演出の冴え
 舞台は殆ど裸だが、木製の椅子とテーブルが上手く活用され、色調もベースの黒に馴染む抑えた色で舞台に溶け込み、一切の演技を邪魔しない。役者陣の「群演」もバランスの取れた質の高いものであった。
 子供のためのシェイクスピアと銘打たれているのだが、こんなに質の高い舞台を生で観ることは、子供達の将来の為にも非常に有意義だと思われる。質の高い舞台を提供しているこのチームの良心を感じる。また、観た時、直ぐにそれと分かる必要など無論ないので、子供向けの味付けは現行のもので充分だろう。1度観れば、子供の頭には、結構記憶は残っているものだ。その記憶を想起すれば分からなかったものも分かる時が来る。
 舞台美術、音響、照明も適確で内容に合ったもので演者達の陰影をより深く、適確に観客の心に定着させるものであった。役者陣の演技力の高さ、演出の切れ、展開の上手さ、総合力など、どれもレベルの高いものでありながら、スッキリして分かりやすく而も風格のある舞台であった。

限界ベイベェ!

限界ベイベェ!

ヒミツキチ110階

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/07/11 (木) ~ 2013/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★

アイドル
 28歳でアイドル路線を走る花山 ミュウ。歌、踊り、ベシャリ何をとっても、デビュー時より落ちているとファンクラブ会長にすら言われてしまう彼女だが、だからこそ、その頑張りは、周りの人々を元気づける。
 

ネタバレBOX

 名プロデューサーに見出され芸能界に入ったことがきっかけで勘当された彼女を、病身の身ではありながら見捨てなかった彼のおかげで、なんとか現役でいられる彼女だったが、現在、彼女をプロデュースするのはスカウトしたプロデューサーの息子。マネージャーは、もとミュ-ジッシャンで、彼女よりも音楽シーンでは実績があった男だが、一所懸命なミュウの魅力にほだされて現在では、マネージャーに徹している。
 それでも、28歳という年齢は、アイドルとしてはとっくにの薹の立った年である。而も、彼女の夢は、武道館でライブをやることなのだ。己の夢を掛けた彼女は、視聴率アップを狙う現在のプロデューサーと武道館出場を賭けて北海道の100Kmマラソンにチャレンジする。12時間以内にゴールできたら、武道館行き決定、但し、できなければ芸能界引退という勝負だ。
 結論から言うと、演劇的には、ゴール時点で幕というのが、正解だと思う。その後は、余りにリアリティーを損なってしまうと考えるのだ。その辺り、荒さがあるが、旗揚げ公演で観客に感動を与えたのも事実。それは役者陣の熱演とひたむきを追及したシナリオであった。
白夜

白夜

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ・九段下GEKIBA(東京都)

2013/07/12 (金) ~ 2013/07/14 (日)公演終了

満足度★★★★

寺山 初期作品
 失踪した妻を訪ね歩く男を描いた寺山修司の若書きが今作のシナリオだが、後に更に深化する韜晦の芽やシュールな感覚への傾き、予めの喪失感など、終生の特質となった寺山の特徴が、その卵の状態や発芽した状態で、隋所に見られる点でも価値ある上演だ。没後30年の今年、寺山の世界は、あちこちで、再演されるであろうが、初期作品を扱った点でも面白い試みである。

ネタバレBOX

 若書きとはいえ、メインプロットにサブプロットが輻輳されるような形で重層化しつつ陰影をつけ、深化し、微妙な対比を示しつつ、大団円のどんでん返しに持ち込む基本的な作劇術の骨組みは、矢張り大作家のものと言ってよい。同時に、彼ほどの才能ですら、若いな、と感じる部分があるのも事実。そのニュアンスをきちんと出した演技、演出は好感が持てる。4人の登場人物のうち女中以外は、Wキャストで演じられるが、自分が拝見したのはBバージョンだ。老人役の鈴木 浩二の演技が気に入った。天井ホールから、移ったGEKIBAの空間へは初めて足を運んだが、稠密で自分の好みではある。音響効果も密室的な空間によく響き、濃密な舞台になった。
 気になった点がいくつか、女中が、拭き掃除をする際、床を拭いた後で、椅子を拭くなど、作業手順に問題があるように思う。拭き掃除は通常、高い所から低い所へ作業の手が移って行くものだと思う。寺山のシナリオのト書きにそうあるなら仕方が無いが、これは、シナリオを当たって居ないので分からない。
谷繁【リピーター割引はじめました!】

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タテヨコ企画

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2013/07/10 (水) ~ 2013/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

漂う日本人の行方
 上演順に喜怒哀楽を表現した以下の短編4本「名付け親」「お巡り」「人の思い出話ほどつまらないものはない」「谷繁」を一挙上演する。

ネタバレBOX

 各挿話には必ずタニシゲが入って関連をアピールすると同時に、最初、意味不明であったタニシゲは、楽しげに感じられたり、河童や自然を守るキャラクターに感じられたりと、様々なイメージや意味を担って、何者かに為って行く。この構成が巧みである。演出もエッジが効き、気の利いたものである。役者陣は作品に応じてアットホームな雰囲気を出した演技、体当たりの演技、抑えの利いた演技、ちょっとコミカルだが、迫真の演技とバラエティーに富んだ演技で対応し、質も高い。
 ところで、谷繁の行きつく先は、楽しげで心安らぐ緑野か、はたまた原子の火に焼かれ滅びる道か? 最終話で見せる谷繁の予知能力に見る限り、彼の予知は正確で示唆に富むが、それを信じて実行するか否かの選択権は、我らに在る。谷繁の言うことを信じなかった竹原の最後は劇場で。
エデン瞬殺

エデン瞬殺

Cui?

新宿眼科画廊(東京都)

2013/07/12 (金) ~ 2013/07/17 (水)公演終了

満足度★★★

分人
 要は、平野 啓一郎の言っている分人の発想に近いのだろう。問題は、平野は既に、跳んで着地した現実の基盤から言葉を発しているのに対し、この作のシナリオ担当者は、未だ、エデンに居座っていることだ。結果として、頗る眠い。現実認識のレベルが、少年、少女レベルで幼稚なのが、その原因だ。きちんと目を開いて世界と対峙している若者が、このような現実認識を持つことは不可能である。何となれば、我らを取り巻く環境は、エデン追放以降の社会なのであって、見る前に跳んで安全確実な大地など何処にもないことは明らかだからである。だから、普通に生きてゆきたいと思うなら、誰でも、跳ぶ前に良く観察し、いくつか確認のための実験をし、周りで競合する者たちとの優劣、有利、不利をにらみながらチャレンジするのである。
 着地場所は、例えてみれば氷山だ。割れもするし、溶けたり、薄くなったりもする。また、大陸のような安定感は無く、基本的に漂っているだけである。だ
が、こういう場所にしか我らは着地できないように仕向けられているのだ。エリート気取りの人非人から。1960年代に世界で吹き荒れた革命理論は、そのままでは無効であろう。だが、革命以外に、民衆が浮き上がるすべは無い。其処まで踏み込んでの主張なら、分人主張にも大きな意味がある。

ヴェローナの二紳士

ヴェローナの二紳士

ハイリンド

吉祥寺シアター(東京都)

2013/07/08 (月) ~ 2013/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

爽やかで楽しいシェイクスピア
 シェイクスピア20代の作品だが、演劇の基本である対比を言葉によって完全に書き上げており、その才能の凄さを改めて見せつける内容であった。その原文の内容を見事な新訳に移した松岡 和子も、当然、高い評価を受けるべきである。演出の斬新、その覚悟も志の高さも称賛に値する。更に、中心になった四人の役者達の、若々しく爽やかな演技は、観ていて本当に気持ちの良いものであった。殊に、岡本 篤の演技が気に入った。何れにせよ、体当たりの演技で軽やかに力強く、爽やかさを感じさせるほどに純粋に演じていたことに好感を持った。

ネタバレBOX

 最後のパイ投げで、目にクリームかパイ生地が入ったようだったが、木下 智恵は大丈夫だっただろうか? 何事もなかったことを祈る。
獏、降る

獏、降る

ハイバネカナタ

小劇場 楽園(東京都)

2013/07/10 (水) ~ 2013/07/15 (月)公演終了

満足度★★★

どうなんだろう
 余り纏まりを感じない作りだ。一応、メインストリームは存在する。然し、それが、メインプロットとして、他と画然と隔たっているわけでは無い。領域の辺縁部分が意識されないままに、漫然と取り込まれているような感覚なのだ。
 その分、時折、科白にエキセントリックな感覚が紛れ込む。そのちょっとイカレタ感覚の妙に活き活きしている点が、興味深い。シナリオ自体が、泳いでいるような不思議なものなので、演出でこれを適確に配置し直すことは難しい。但し、こういったシナリオそのものが、今、この「国」で起こっている生の情況を映しだしている可能性はある。これから、もう少し観察してみる必要がありそうだ。

NO GOAL 【ご来場ありがとうございました】

NO GOAL 【ご来場ありがとうございました】

青春事情

駅前劇場(東京都)

2013/07/10 (水) ~ 2013/07/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

サッカーとSDF
 ホームレスのサッカー世界大会の話である。チームの最低構成員数は、控え選手を入れて5名。通常、正選手4名、控え4名の8名で構成されるが、サッカーフィールドも通常の11名参加のフィールドよりかなり狭い為、細かいルールには、異なる部分もある。何れにせよ、ゴールキーパーを除く3名がフィールド上を駆け回ることになる。当然、世界大会会場は、日本以外の場合もあり、海外遠征をすることもあるので、パスポートを取得しなければならず、ホームレスのように多くの事情を抱える者が参加する場合には、住所、戸籍謄本などの提出書類を始め、パスポートの取得費用なども壁になり得る。また、様々な事情の一つに、社会参加が苦手であるとか、それに失敗して来た結果、トラウマを抱えている人も居るので、メンタルなレベルでのケアも必要な場合が出てくる。更に、人づきあいが苦手という先入観から依怙地になる者も多く、他人に心を開くことが苦手なケースもみられ、こういう者同士の場合、些細なことで喧嘩になり、チームメイトどころか人間関係そのものが破綻してしまうケースもある。
 言う迄もなく、サッカーはチームプレイである。それも極度に知的で人生そのもののような複雑さを秘めたスポーツである。審判のミスや、試合中、相手選手のハードなディフェンス、審判に見えない所でのダーティープレイなども散見されるのが、実際である。また、サッカーの裾野人口の多さから、観客もマナーのいい者ばかりではない。フーリガン騒ぎを思い出す人もあるだろう。こういったことを含め、また、貧困に悩む地域の子供達が、裸足で、ボール代わりにぼろきれを丸めた物を蹴ってサッカーを覚えるような情況を含めて世界ではサッカーが最もポピュラーなスポーツであることもあって、ありとあらゆる技術、悪知恵、狡知に長けた戦術、戦略、伝統的な戦法、チームメンバーの個性を活かすのかチーム力を活かすのか、体格による戦闘方法の差等々、サッカーは、人生の総てが詰っているのが、実感できるスポーツなのである。それ故にこそ、フーリガン達は、あれだけ騒いで罪悪感を持たないのであり、一種のお祭りとして、試合に参加するのである。
 自分が、こんなことを言うのも、嘗て、世界最高の選手たちと寝食を共にした経験を持つからである。アンダーセブンティーンの世界大会が日本で開催されたのは、1993年、自分が共に過ごしたのは、その時のヨーロッパチャンピオンであったポーランドチームであった。練習中に、フィールドで選手達に混じってボールを蹴ったこともある。そうこうしているうちにサッカーというスポーツの持つ魅力に魅入られてしまった。こんなにエキサイティングなスポーツは無い。そう感じた。それ迄にも、自分はスポーツをやってきたのだが、多くは格闘技で、サッカーのような仲間との連携を含めたスポーツの楽しさを覚えたのは、初めてのことであったのだ。
 この作品でも、選手になるホームレス個々人の抱える問題が、問題になり、チーム瓦解、世界大会参加資格喪失の危機などが次々にチームを襲う。 この作品の成功の秘訣は、これら諸問題の解決が、同時にサッカーチームとしての成長に繋がり、サッカーチームとしての成長が、社会人としての彼らの成長に繋がっている点である。その結果、サッカーが人生である、ということが、また人生がサッカーに例えられるような緊密で凝縮された舞台空間が成立した。適度にユーモアも交え、ラスト2試合迄負け続けでへたっているメンバーの起死回生への念を込め円陣を組んでの掛け声が、始めのバラバラな印象から格好良さに変わっていく点に、盛り上げ方の上手さ、作品メッセージの持つ温かさと普遍性、自然な連帯が見える。
 

リーディング公演「統一エクスプレス」

リーディング公演「統一エクスプレス」

日韓演劇交流センター

早稲田大学小野記念講堂(東京都)

2013/07/09 (火) ~ 2013/07/09 (火)公演終了

満足度★★★★★

38度線
 休戦後も分断が続く38度線に接する幼馴染同士が、珍妙な商売を始めた。儒教の伝統が、今も色濃く残る韓国、北朝鮮の人々には、冠婚葬祭の儀式も古い形が、日本より遥かに根付いている。親族・倦族が分断されたケースも多い。肉親の情は断ちがたいから越境する者が出てくるのは、必然である。命を落とす危険があっても、38度線を越えなければならない事情があるのである。こんな需要があるので、幼馴染が始めた越境ビジネスは、大儲けできたのであった。然し、彼らの拠点の間近に政府が、公式往来窓口を開設した為、彼らの商売は上がったりとなってしまった。
 然し、長い間続いている分断で、分断故に儲けけている者も多い。そんな連中が徒党を組んで分断復活を企む。このことが功を奏して、再び活況を呈してきた越境ビジネスであるが、脱北後、統一を信じて越境ビジネスを手伝い、春を鬻ぎ、地雷を除去してきたオッカの「私たちの願いは統一」の歌が流れる。

劇団青羽(チョンウ)「そうじゃないのに」

劇団青羽(チョンウ)「そうじゃないのに」

タイニイアリス

タイニイアリス(東京都)

2013/07/05 (金) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

演技が抜群
 シナリオは、現代韓国に生きる人々の不安や欠落感、未だ民族統一のならぬ国際情勢下にあって、台頭する中国との歴史的経緯、同盟国とはいえ、多くの問題を起こし、人々から疎まれる米軍及び米兵と国家間の利害調整に、複雑な念を抱く民衆の大きな齟齬を見事に形象化してみせた。この難題を、演出家は、俳優たちに個性を活かすことで最大限表出させ、役者陣は、見事に、この難題に応えた。ただただ見事である。無論、シナリオは先に述べたこと以外に、歴史と実存の距離を見事に捉え表現し得た結果、面白く同時に不思議な悲哀に満ちた舞台を現出させた。このこと自体、演劇的事件と言わねばなるまい。

ネタバレBOX

 少し深読みしておこう。気になる科白がある。「象は、昔、皆人間だった云々」である。つまり、逃げ出した象は総てもと人間で変身したのだ、とする。変身しなければならないほどの疎外、抑圧、政治的・社会的状況が背景にあると考えるのが順当だろう。ひとつには、民族分断がかくも長きに亘って続く状況があり、戦争は終わっていない、という状況があろう。休戦でしかないのであるから。おまけに北は、核武装さえ既に終えている。望まないが、いてもらわねば困る、レイプ犯、粗暴犯の多い米軍の問題も唯否定すれば足りる訳ではなく、同一民族同士が殺し合った苦い傷はいまだ癒えることなどあるまい。変身せざるを得ないような条件は、至る所に転がっており、それをじっくり見据えることができる世代が生まれたということでもあろう。同時に、彼らの見せる大陸的優しさが、変身対象を草食で通常は大人しいが、一旦怒ればライオンやトラでも勝つことはかなわぬ、知恵と力のある象という生き物にさせたのだろう。作品の持つテイスト面白哀しさの背景には、こんな事情があるように思う。
 こう考えるのも、象達が、その巨大な足と大きな耳とで、情況を極めて正確に把握しているととれる科白が挟んであり、親子の関係に子供ですら気付かないのは、その変身によって、ディスコミュニケイションが成立してしまったからだ、との結論まで示唆しているからである。
 そして、ラスト。その変身の共通項に無理解が挙げられている所に、この作品の根幹があろう。花吹雪舞う下で、2頭の象がゆったり動く異様なまでの美しさに、芸術の粋まで昇華された現代韓国の社会、人々の悲哀が凝縮されている。
津軽三味線独弾/弦の光 vol.11

津軽三味線独弾/弦の光 vol.11

踊 正太郎

キッド・アイラック・アート・ホール(東京都)

2013/07/07 (日) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

津軽三味線の魅力
 踊の特徴は、高音部の多用と撥の返しでも他の弦を弾く奏法の多用、更に弦を共鳴させ、棹を唸らせることによって恰も琵琶、琴の音を思わせるような音を聴かせる点にあろう。
 そもそも、津軽三味線で使われるのは太棹、通常の三味線は、三毛猫の皮を使い、重さも1.5kgほどの細棹だが、太棹は約5kg、胴に張る皮も犬の皮である。他に中棹があり、こちらは地歌などの伴奏に用いられる。
今回、演奏に用いている撥の手元は象牙、はじく側は鼈甲である。弦は3本で材質は絹。一番上が最も太く、強い音で、聴衆を驚かせ、一気に津軽三味線の世界に引きずり込む。真ん中の弦は、優しい音色、一番下の弦は、最も細くしんみりした感情を表すのに適している。
有名な「津軽じょんがら節」や「津軽よされ節」「津軽おはら節」にしたところで、大体曲想は決まっているものの、中味は基本的にアドリブなので奏者によって大いに違う。
 先に踊の特徴を上げたが、この他に新しい曲想へのチャレンジがある。大いに、曲想と戯れているのである。この実験的精神と遊び心をどう捉えるかで評価が分かれるだろう。無論、技術は非常に高い。

わたしは浅瀬で溺れています

わたしは浅瀬で溺れています

激情コミュニティ

atelier SENTIO(東京都)

2013/07/05 (金) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★

イメージとして綺麗に纏まってはいるが
 鬱に陥った兄の姿を深海魚に例え、背景に時折魚の映像を映しながら舞台上では、兄のモトカノと兄の関係を描きつつ、妹と矢張り鬱に陥る彼をオーバーラップさせて展開する物語。イメージとして、綺麗に纏まっているが、問題解決には程遠い。恐らく、積極的に問題を解決しようと思っていないのであろう。

Pride -プライド [傲慢] -

Pride -プライド [傲慢] -

演劇レーベルBo″-tanz

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/08 (月)公演終了

満足度★★★★★

ハードボイルド & ダンディー
 裏切りに次ぐ裏切りを迫られ、自ら薬に溺れて瓦解してゆく実行部隊、制服組にも背広組にも裏切られた者、そうはならなかった者の分断、組織の細胞として切り捨てられてゆく姿、ここで多くのサラリーマン、労働者は重ねるべきだろう。誰にだと? 手前自身に決まってるだろうが! 
 さて、本題に入ろう。薬ビジネスに血道を上げる密売組織、陰で糸を引く政治屋、その手代の官僚共、芸能人、スポーツ選手を含むユーザーの相関図情報。そこから生まれる莫大な利益・権益。それら総てを叩き潰すべく立ちあがった復讐鬼たち、かつて仲間を救えなかったことを悔やみつつ、今も、麻薬取締官として働くチームリーダー、はぐれ刑事達の動きに、くんずほぐれつの化し合いが絡み、センチメンタリズムの入り込む余地は殆ど無い。日本の作品には珍しくハードボイルドタッチが小気味よい。物語のアップテンポな展開に引き込まれ乍ら楽しめる展開になっている。
 更に、ヒトは何を守って生き続けてゆくのかに関わって花言葉が実に巧みに用いられ、洒落た中にも極めて硬質な煌めきを見せている。

stick

stick

創作集団Alea

明石スタジオ(東京都)

2013/07/04 (木) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★

設定の面白さ
 山奥のロッジに心中に失敗したカップルがやってくる。が、これが、ヘテロのカップルではない。だが、彼らはまだ、その不思議性に於いてこのロッジのオーナー夫婦、料理人、他の客らに比べて可愛いものである。
 登場人物のキャラクター設定が非常に面白いので、余り、リアリティーに拘らなければ、別の展開も可能だろう。但し、役者陣はもう少し役柄の勉強をする必要がある。特異なキャラクターばかりなので、被差別者の意識についての勉強をキチンとすべきなのである。その辺りの屈折が、殆どの役者に気付かれてもおらず、演出も気付いたのかどうか? 殆どの役者の人物造型が、単純に過ぎた。というより表現し切れていない。とはいえ一所懸命にトライしている。楽しんで観ることはできる。

ことほぎ

ことほぎ

文月堂

「劇」小劇場(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

日常の中の深さ
 築50年、かつては賄い付き下宿だったコーポことほぎ。現在は、流石に賄いは付かないが、かつて食堂として利用されていた1階の広いスペースが共用空間となって1、2階住人の娯楽空間のようになっている。テーブルに椅子が置いてあり、この共用スペースに面して102号室、104号室があるが、舞台は、このスペースを中心に展開する。(追記後送)

『太平洋食堂』

『太平洋食堂』

メメントC+『太平洋食堂』を上演する会

座・高円寺1(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

この作品の位置
 今、戦への狼煙が焚かれ、反対する者には、恫喝と弾圧、民衆には嘘と分断と相克、更には共謀罪の成立を目指す画策が着々と進められる中で、この作品の上演は大きな意味を持つ。(追記後送)

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