ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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ゲキ★BAR

ゲキ★BAR

世の中と演劇するオフィスプロジェクトM

タイニイアリス(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/24 (水)公演終了

満足度★★★★

桶屋のはらぺこソングが抜群
先ずは「ふ抜けの投影」(20分)、「桶屋はどうなる」(50分)を拝見。前回も紹介したようにBARが設置されている。今回はウェイターも居た。

腑抜けが、見えない物を通してイリュージョンを立ち上げるという演劇手法であるならば、桶屋は、時代の現実に棹さしつつ庶民の的確な判断を勘違いも甚だしい阿保な為政者に突きつけるメスの役割を担ったもう一つの演劇の形であると言えよう。こちらは、原因こそ目に見えない放射線であるが、その結果は、医療機器の進歩で資格化できるようになったものが、増えた。桶屋だけなら、★5つの所だ。

ネタバレBOX


「ふ抜けの投影」
 男(兄)はキャンバスに向かって見えない絵を描いている。女が現れる。二人は同じ夢を見ているとか。で、男が何度も名を呼ぶので、女はやってきたわけだ。男は相変わらず、キャンバスに向かって描き続ける。男の描いているのは、彼を振って出て行ってしまったさよこの肖像だ。然し、女に絵は見えない。女は、自分を見て、と言う。男は女を見る。然し、女は自分を見ていないと言う。男は、胸に手を入れ取り出すと、女に手渡す仕草をする。愛情を手渡したのだと言う。女は、何も無いと応える。男は上着や、ズボンのポケットをまさぐろうとするが、女に言われる。ポケットは無いよ、と。女は男の帽子を指さす。男は帽子を脱いでその中からまた何かを取り出す仕草をする。そして女に手渡す。女は応える。空っぽ、と。そして、あたしは“さよこ”じゃない、と応じた。
妹が出てくる。妹も何度もさよこに間違えられた、と言う。彼女はまだ恋に恋している段階なのだが、先に進みたい。実際に男友達を呼び出して告白しようとするが、上手くゆかない。
33歳のOLが、登場し、彼女が、新宿西口のLOVEモニュメント交差点に突っ立っている理由“結婚して下さい”と年齢とが書かれた段ボールを首からぶら下げて盛んにアピールしている。偶然が重なって、どうにか、カフェのウェイターと話をすることはできたのだが。
メインストリームは、絵を描いているハズの男と現在の彼女の話である。だから、最後は、其処に戻って行く。で、最初の会話と同じ科白が演じられた後、女が言う。男が愛情だと寄こしたものに空っぽだと応えてから、私はさよこじゃない、と。
「桶屋はどうなる」
 風が吹くと桶屋が儲かる。という例の話なのだが、じゃあ、それは実際何がどうなると最終的に桶屋が儲かるのか? と問われて即答できる人は、そんなにいまい。落語通なら居るかも知れないが。
 で、実際に語られるのは、ゴキブリ姉妹の話である。妹には名が在って、チャバネ、姉には名が無くお姉ちゃんで通される。
 ゴキブリはシーラカンス同様、3億年前から存在し、地球上、生物の居る所なら殆ど総ての場所に生息し、主たる食物は塵である。その生命力と繁殖力の逞しさは並大抵ではない。ところで、チャバネは腹ペコである。お腹と背中がくっついちゃいそうな程だ。でもくっつかないけどね。何故かというと、お姉ちゃんが隣の庭に住んでいる鈴虫に恋をして、ストックしてあった胡瓜を毎日持ちだしてしまったからだ。毎日、お姉ちゃんは胡瓜を鈴虫の所へ持って行く。そして、お腹が減って鈴虫の目の前で全部食べてしまう。それで、鈴虫に「2度と顔も見たくない」と振られてしまった。声フェチのお姉ちゃんの恋はこうしてお姉ちゃんの喰い意地のせいでおジャンになった。でも、お腹はすく。喧嘩なんかしないで、仲良くしてたってお腹はすく。特に、チャバネはペコペコで腹が減り過ぎて腹痛を起こしているほどだ。そんな彼女らの所へ、妙な野菜が歩いてきた。色も変なら、形もおかしい。野菜なのに、手足がある。足は根っこが変形したと本人は言っていたが、ミュータントなのだという。要は、突然変異である。姉妹は、この野菜にベジ子という名をつけた。ベジ子は、自分の体になっている幾つもの異なる野菜から、1つづつもぎ取ると姉妹に与えた。姉ちゃんは、可也、警戒している。というのも、突然変異を起こした原因は、自分の子供達に悪影響を及ぼさないか、と心配しているからである。だって、食べたものが、体を作るわけだから、食べ物こそ、自分の生命である。従って、その声明の素に悪い物質が入っていたr、あ自分の体が悪くなり、母体から栄養を摂取するしかない子供たちも母を通して同じ悪影響を蒙るハズだ、と彼女は言うのである。姉妹はベジ子に訊ねる。何故、突然変異を起こしたのか? 何があってそうなったのかを。ベジ子は答えた。風が吹いた、と。風邪が吹くと雲が出来る。雲が出来ると、雨を降らす。雨は、汚ない物を溶かし込んで、地面に沁み込む。土は、汚染されてしまった。そして、ベジ子は汚染された土の畑で育った。そして体がこうなった。収穫の時期に人間に見付かると処分されてしまう。折角、食べられる為に、おいしく育ってきたのに、処分されてしまうのでは、自分の生きて来た、否、生きている意味が全否定されてしまう。だから、彼女は畑から逃げ出してきたのだ。この風が吹いて云々から、奇形迄のプロセスが、桶屋のそれと照応するのである。そのことで、人間が自然界に齎した災厄と生命に対する罪を告発しているのだ。
 説明はこれくらいにしておく。兎に角、姉妹はベジ子がちぎってくれた野菜を食べた。ホントにおいしかった。こんなにおいしいのに、それを食べた者にも、その子孫にも異常が出る可能性があるというのだ。ベジ子自身もレゾンデ―トルを失い、アンチノミーに引き裂かれている。この残酷な状況に除々に気付いていった姉妹は、初め50度cのお湯を掛けて、ベジ子の汚染を取り去ろうとするが、そんなことで内部被曝の悪影響は拭えない。次に体内の悪い因子を排出する為のエクササイズに挑むが。野菜の鮮度は直ぐ落ちる。そうこうしているうちに、ベジ子は、腐り始める。そして、彼女は、1人去ろうとする。処分される為に。だが、心を通わせたチャバネにそれは耐えられない。まして、ベジ子の何も理解せず、というより意図的に隠蔽し矮小化して何も問題は無いとするような者の手で処分させてはならない、とチャバネ自らがベジ子を処分することに決めた。先ず、種を取り出して、劣性遺伝子の拡散を防ぎ、彼女の体を見仁に刻んで、深い土中に埋める。そう決めたチャバネにベジ子は訊ねる。「私を処分した後、あなたはどうする」と。チャバネは答える。「あんた達の末裔を食べられるまで生き抜く」と。
 ベジ子の解体しつつある体からはDNAの螺旋が出て来た。二人は、その端を互いに持って3億年前の世界を垣間見た。その美しかったこと! その驚くべき世界を見た2人は未来を思い描く。3億年後、生物は進化を遂げて人間になった。

国境23号線

国境23号線

各駅停車

小劇場 楽園(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

武器を持たない中立は可能か
 軍を持たず中立を守り、尚且つ、独立心を保とうとすることは、軍事力を持つ者に攻められたときにどうなるかなどの問題を分かり易くシナリオ化しており、音響効果も大変上手い。場面設定もピッタリである。

ネタバレBOX


 武器・軍隊を持たず、中立を貫く都市国家は、この都市国家を挟んで国境を接する仲の悪い両国と交易を通して利潤を得て来たが、この所、隣国同士の関係はおもわしくない。戦争が始まるのではないかと誰もが懸念している。ところで、この工場の製品は好評で、唯でさえ忙しくて残業をしているのに、工場の電気が消えた。周囲を見回しても、矢張り真っ暗だ。街灯も消えているのだ。停電である。
 長い停電があってから間もなく、都市国家は、一方の国に占領されてしまった。とはいえ、業績は右肩上がりで生産がおっつかない。占領されはしたが、軍の需要が多く、キチンと支払いもしてくれるので、儲けは増えているのだ。然し、問題は、相手の言う通りの物を作らなければならないこと。マニュファクチュアの特性を活かし、技術的に難しい、既製品にはない良さを売りに成長して来た企業だけに人気もあるのだが、作り手として従業員のプライドが高いのである。だが、贅沢は言っていられない。工場を閉鎖させられたり、インフラを落とされて廃業に追い込まれた所が数多くあって、失業者が町中に溢れだしているというのに、この工場ばかりは優遇されているのだから。との言い分が大部分を占めるが、一人だけ、それでいいのか? と疑問を持ち、ストライキ等で対抗しようという女子社員がいる。また、最終工程を担っている南の夫は、矢張り革命家と共闘していた。現況を嘆いていたのだが、酒を飲んで鬱憤を社長にぶつけ殴ってしまって首になったばかりだ。それで、金の事を言われると妻に言い返せない。だが、表を見れば人々の鬱屈はつのるばかりだ。デモが弾圧されると暴動が散発し始めた。おまけに、人々は、この工場に占領国側の監視役が入り、儲けを出したことを知っており、更に逆恨み募っているのである。そのうち工場入口に脅迫状迄届く始末だ。それでも、工場内の人々は一人を除いて、仕様が無い、と生活者の論理で動いていた。ある日、この工場に駒形と名乗る女が来た。社員、毅の彼女だと言う。而も、彼女こそ、これ迄、デモや暴動を仕掛けて来た革命家であった。彼女と南の夫は、工場が危険だから、早く逃げるようにと忠告しに来ていたのである。社長は、暫く前から徴用されて占領国の職人達に技術指導をさせられているので不在である。そうこうするうちに投石で硝子が割れる音が響いてきた。此処に至って漸く、社員達は、慌てだしバリケードを築き始めるが。群衆の様子を確かめに行った南の夫が頭に投石を受けて戻ってくるのと入れ替えに、暴徒と化した群衆を宥めようと駒形は部屋を出る。その際「もしなにかあったら、自分達で身を守るように」と言いながら、拳銃を置いていった。だが、群衆はなだれ込んで来て工場はめちゃめちゃにされ、従業員の殆どは怪我をした。
 暫くして、社長が戻された。残った社員2人と工場を見に来たが、余りのことに、落胆して帰宅してしまった。残った社員二人がぼちぼち片付けを始めるが、明日は見えない。淹れて貰った珈琲に濃い目と注文はつけたものの、濃い珈琲の好きな石塚もその苦さに驚く所で幕。

ゲキ★BAR

ゲキ★BAR

世の中と演劇するオフィスプロジェクトM

タイニイアリス(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/24 (水)公演終了

満足度★★★★

短編だから簡単というわけではないよ、逆。
「Kaigi」「お見舞い」「立ち入り禁止区域の恋愛」の3本を拝見。1番目から25分、55分、20分の作品である。上手観客席寄りにバーカウンターが設けられていて、座ると、女性がオーダーを取りに来てくれる。ドリンク、つまみ等は料金が別途になるので注意。

ネタバレBOX


「お見舞い」
 昆明は雲南省の省都であり、数多くのマイノリティーが住む雲南省の全マイノリティーの半分以上が、この地に住む。人口400万人。独立意識は無論高いのは、中国の各時代に於いて東南アジアへの玄関口であり、元によって中国領とされる迄は、四囲を山に囲まれたこの地に住む各民族毎に自治を保っていたようである。現在26民族が住むという。年間平均気温14.5度、1月でも8.1度、7月が19.9度と中国国内で最も過ごしやすい気候の土地で、海抜1891m。古くから栄えた土地なので、中国有数の古都市としての魅力も具える。
 ここを故郷とする仁は、日本人と結婚したので、現在の本拠地は日本だ。然し、近年、騒がれるヘイトスピーチによって、唯でさえデペイズマンのある身にとって、居心地は決して良くない。神経を病むようなことさえ懸念される程だ。アイデンティティー崩壊の危機に立たされ続けるのである。それは、故郷へ戻って来ても変わらない。既に国籍は日本であり、夫、娘も日本人だ。E.サイード流に言えばOut of placeという状態である。
今作では、取り敢えず、親友の光蓮の所へ寄ってから、二人の恩師が入院している病院へ見舞いに来たという設定だ。物語は二人の雑談で進んで行く。アクセントとして、地方から、昆明に働きに来ている少女が出て来て、現代中国の状態を表しており、この辺も頗る上手いシナリオである。雑談の中で、革命以降の中国現代史も語られる。例えば、仁の父の話から分かるように、文革・紅衛兵(紅小兵)時代の中国の様子等も推して観るべきだろう。でなければ、恩師の怒りっぽさや、古代中国詩を教えられている側には気付かれない位に気をつけつつ、本質を伝えた意味が、こちらに伝わって来ないし、そもそも、何故、怒りっぽい、と見える先生を中年になった嘗ての女性徒が訪ねるのか、また、佐藤春夫が訳した、中国の古詩が、ダブルミーニングで言及されるのか意味が分からなくなる。 
今作が、今日、拝見した三作の中で本当は最も格調の高い作品である。上品で華麗、而も、その作品の底には、中国現代史の闇がキチンと畳みこまれている。にも拘らず、現在の自分にとって、ディレッタントを自称する自分にとってさえ、今作を2位につけざるを得ないのは、2011年3月12日以降の大問題があるからである。亡くなった方々、親族・捲族を失くされた方々には申し訳ないが、今迄も、これからも、地震と津波だけなら、どれだけの被害を蒙ろうとも、哀しみを糧として復興を目指すことができた。然し、核被害は根本が異なる。未来など、何処にもないのだ。従って、本来、国家の為すべきことはこの残酷な事実をありのまま、被災者に告げ、生き残った被災者に対する根本的な代替策を練ることであった。つまり離散宣言を被災者に通知徹底することであったのだ。にも拘わらず、為政者達は、根本問題をネグレクトし、忘れさせようとした。強大な力の前で、この国の武器を持たぬ民衆は、キチンと自分達の権利を主張する手段も持たないまま、歪に自らを変質・変形させていった。その結果が現在、既に至る所に現れている。この全く明日の無い状況が、ディレッタントをして、芸術的に最も優れた作品を推すことを許さない。
「立ち入り禁止区域の恋愛」
 本来の評価は2位である今作が、今、自分が推す今日拝見した作品1位だ。無論、扱っている問題が、プルトニウムなど、現在、日本政府が発表している核種の中で、半減期の長いものを扱ったからである。それも、小松左京原作の日本沈没と掛けた形で。こうすれば、原子力については分からない、と逃げている日和見な人々にも届く可能性が広がる。放射性核種で汚染された立ち入り禁止区域にも、研究者や作業員は居る。研究者は、核の汚染による生物への影響を研究する為、残留放射能の多い立ち入り禁止区域に残った若い女性だ。作業員も若い男性である。若い男女が、シンドイ状況に四六時中置かれていれば、恋に逃れるしかないのは必然である。結果、妊娠した。当然、両親共に、汚染されている。子供は欲しい。然し、生まれてくる子供に障害がないという保証もなければ、様々な劣勢がないという保証もない。、まともな研究者であれば、ICRPやWHO、エートス、国家、IAEAや核大国が出鱈目を流し続け、研究者としての態度を完全に放棄していること位、重々承知している。産むのか、産まないのか? そもそも、産めるのか? 大きなリスクを背負って!
「Kaigi」
 カフカの作品を劣化させたような作品。論理そのものに必然性がなく、従って弱い。詭弁と上げ足とりのレトリックで構成された皮相な作品だから、その皮相を強調すれば、面白い作品になったかも知れない。
人間機械より夜空へ

人間機械より夜空へ

劇団晴天

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2014/09/20 (土) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

ハラドキ
序盤、ハラハラドキドキであった。内容がいいからではない。悪過ぎたからである。非礼を覚悟でとも考えそうになった。幸い、それは杞憂に終わったが。これは、キャスティングと演出、そして、月子を演じた女優の演技が、この中では光っていたから持ちこたえ得た、ということである。

ネタバレBOX

 
 中盤以降は、ギターの練習も碌にしていないことがミエミエの生演奏が無くなったり、表現が徐々に上達してゆくシナリオの内容と演技がマッチした演出・演技になった為、全体としてのバランスが取れてきた。中盤から舞台が締まった原因としては、オーでぅションに合格した太陽が、撮影に入る場面等が演じられ、このシーンで、現場の雰囲気や役者が担わされる過酷な状況が描かれたり、演技力dえは明らかに上の月子では無く、太陽が、ヒロインに選ばれるシーンが挿入されることで、チャンスは結構、非合理的なのだという現実の在り様が表現されるので、ある程度リアリティーが確保される。その後の展開でも寂しさから浮気に走った月子が人間では無くロボットであり、彼女が主張していたのとは逆に、太陽はロボットでは無く人間であり、それが事実であると確認してしまった月子が、その事実を意識することによって自壊を望むに至ったアンチノミーを理解しなければならない。即ち、お姉ちゃんとして生きて来た月子が自らをロボットと認識すれば、人間の姉として自らに課して来た総てのデューティーは雲散霧消して意味がないどころか、強烈なアイロニーとして彼女の思考回路を攻撃せざるを得ず、その事実に反する人間として自らを措定するならば、ロボットの必要とする充電はできない。こうして月子はアンチノミーの縊路に囚われた。当然のことながら、彼女は死ななければならない。この悲劇的展開が終盤を一気に引き締め、ポテンシャルを高めた。
 まあ、作りとしてはこのようになっているのだが、役者が、ホントに力があって意識的に上記の作業をこなしているわけではないと観た。ただ、様々な要素が偶然に作用して結果的にこうなったと観たわけである。若い役者ばかりの劇団のようだ。今後ともしっかり鍛錬を積んで欲しい。
ガダラの来訪者

ガダラの来訪者

首塚のリンゴ

pit北/区域(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

旗揚げ公演
旗揚げ公演の割に役者が上手いと思ったら、それもそのはず。円、俳優座、銅鑼などの役者が客演で出ている。だが、シナリオのメインプロットに大きな矛盾や問題点はないものの、サブプロットとの関連では若干齟齬の生じている部分があった。(追記後送)

ネタバレBOX

 都市部からのアクセスは余り良くないが、レトロな町並みや、夏涼しい気候、掛け流しで美肌効果のある秘湯にも恵まれた平家の落人部落に、避暑地誘致の話が持ち上がっている。現在は人より豚が多いような養豚の町だが、四囲を森に囲まれ、高台の向こうには清流が流れる。地元の実力者は二人、畜産業を営むゴンゾウと旅館を営むミミオである。ゴンゾウは平家落ち武者、蛇目氏に連なる身で、先祖の蛇目は弓の名手であった。隠れたこの地が、地味悪い荒れ地同然の土地だったので、彼は山に入っては弓で獲物を狩り、持ち帰って皆を養った。或る時、旅の僧が、通り掛かりこの地に投宿したが、一宿一飯の恩義とでも考えたか、彼は、穀物の栽培法を教え、狩りにゆくなら、猪を生きたまま連れ帰り、此処で飼って増やせば良い、と提案。日本で初めての養豚業はこうして生まれた、との話だ。他にも、僧は治水や灌漑、薬草の知識など多くの事を村人に教え、だんだんと村に溶け込んでいった。然し、村人の根本的な猜疑心迄は解けなかったようだ。僧の余りの優秀さに恐れを為した住民は、僧を鬼の類と位置付け、謀って井戸に突き落とし生き埋めにした。それでも暫くは、僧の伝えた技術によって集落は潤い、かつてない繁栄を見せた。が、暫くすると、彼の教えによって始まった養豚業で三つ目の子が生まれる。大抵は死んでしまうのだが、生き残った三つ目の子が、僧が生き埋めにされた井戸のあった場所にへたり込んで、押せども引けどもびくともしない。その上、地下から、唸り声が聞こえる。その後、空が焼け爛れたように真っ赤に染まったかと思えば天変地異に襲われ、集落は壊滅的打撃を蒙った。
相対的浮世絵

相対的浮世絵

劇団花鈴

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

今作も芝居の醍醐味を味あわせてくれた
芝居には、無論、色々な形がある。出演者が多く、舞台装置も華やかで、歌や踊り、様々なパフォーマンスが入るものから、素舞台で舞台装置はなく、俳優1人で演じる物まで。 
 劇空間のサイズや、稠密度とシナリオの出来、演出と演技の質の高さが上手くバランスされている舞台は、矢張り、どんなタイプの舞台も良いものだが、余り大きな劇場になるとオペラグラスを用いなければ、俳優の細かい表情が見えなかったり、様々な障害の為、見切れない場面や部分が出てきたりするし、どうしても、大掛かりなスぺクタクルを用いることになる。自分の経済的理由もあるが、自分の好みは、数人の出演者が、じっくり作品を消化しているものなのではないか、と感じている。(追記後送)

ネタバレBOX

  というのも、今作「相対的浮世絵」や先日拝見した2人芝居「かごの鳥」のような、抜群のシナリオに、熟練した演技と卓越した演出があれば、本当に芝居の醍醐味を味わえるものなのだと身に沁みるからである。
 今作、出演者は、5人。総て男性である。舞台セットは台形の底辺を外したように並べられた中央のベンチと左右の直方体だけだ。シナリオは、土田 英生氏 キャストは岬 智郎役に村瀬 智之、関 守役に今井 英喜、岬 達郎役に菊池 真志 遠山 大介役に伊藤 文介そして野村 淳役に熊谷 圭祐である。1幕4場。晩夏、墓場の中に設えられた休憩所。
 墓場の休憩所に据えられたベンチに中年の男が来て一人座っている。午後9時頃だ。男の名は、岬 智郎、社員10人程の小さな会社に勤めるサラリーマン。ちょっと手持ち無沙汰な感じである。突然、ベンチの後ろからぬっと人が飛び出した。関 守だ。高校教師で卓球部顧問、女性に対しては女子高生にしか興味が持てない。暫く、他に来る予定のメンバーを待ちながら、雑談しているが、待っていた二人がやって来た。智郎の弟、達郎と、同級生の遠山である。四人は全員が卓球部出身。達郎は3カ月ほどやっただけ、遠山は3年でレギュラーになった。一番上手かったのは智郎である。現在、卓球部顧問の関は、補欠だった。
Libido

Libido

創作集団Alea

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★

Libidoとは、本能に基ずく欲望と精神的エネルギー?
大学居時代、仲良くなった7人組を中心に、楽しかったモラトリアム期である学生時代と社会へ出てからの脱落者人生を中心に描いた作品

ネタバレBOX


 役者ばかりでなく、恐らく作家や演出家も若いのであろう。舞台美術など、非常に面白い作りになっているのに、(最も客席に近い側は、額縁が、中ほどで切断され、それが、上下にずれた状態で、斜めに設えられ、更に奥の舞台を絵画の中を見るように工夫されていたり、奥で実際に役者が動き回る舞台の床は、手前が高く、奥が低い坂状になっていたり)この舞台美術の完成度と話の内容が、チグハグなのである。そのことで不安定感を表現したいなら、役者は役作りに当たってもっと具体的に何を演じるのかをヴィジョンとして明確化して欲しい。それが、し難いのであれば、シナリオの詰めが甘いのである。実際、ダラダラした生活(学生時代も社会人になってからも)しか描かれておらず、劇中、物語全体を条件づける決定的な要素としての価値観または、価値の崩壊が表されていない。従って演劇というよりは、日常でしかないのである。
 メンタルなレベルで出口無しということを感じていてもそれだけでは足りない。少なくともそれが、一体何を意味するのかしないのかを哲学的に考えてみる程度の作業は必要であった。そうすれば、体制のマヤカシを透視する視座が、少なくともその断片は見えてきたであろう。
 まあ、日本はアメリカの実質植民地なのに、それを政府・官僚・メディア・「カルチャー」等々は、意図的に誤魔化してきた訳だから、薄められ平準化され商品化された「カルチャー」を消費して捨てることで、時間つぶしをして来たに過ぎない人々には、既に脳内に内実のあるものはなく、ただのスッカラカン、スカスカであることは、理解できるのだが、だからこそ、アナログが基本の演劇は、棹さして欲しいのだ。

SPIRAL Cage

SPIRAL Cage

teamキーチェーン

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

大人への不信感
アホ極まる植民地政府が、宗主国の言いなりになって、自国民から搾取するのみならず、核被害犠牲者をモルモット化してデータを集め、宗主国の利害、宗主国の仲間の利害の為に注進し、自国民にバレルと流石にまずいので、嘘と情報操作、隠蔽、嫌がらせ、恐喝、殺人(どんなに軽くしても幇助)等々、ありとあらゆる方法で事実を潰しにかかるこのエリアに住む、精神的に健康な若者が持つ当然の心情を描いた作品と言えよう。
 舞台美術に使われている柱の意味を見出した時には、慄然とした。

ネタバレBOX


 さて、ストーリーを若干、紹介しておこう。池袋にある高級ホテルには妙な噂が流れていた。ネット上では、このホテルの何処かの階には、怪しいものが現れるという嘘とも真とも知れぬ書き込みが絶えなかったし、都市伝説とも、悪い冗談ともとれる噂がひきも切らず載っていた。
 一方、TVのバラエティー番組制作を任されているプロダクションでは、視聴率の低迷にプロデューサーがカンカンである。プロデューサー自身が出した企画なのだが、失敗すると下に責任だけ押し付けてストレスや不満のはけ口にする、例のヤツである。それでも現場は、プロデューサーの言うことに従わなければ、仕事が回ってこないから、しぶしぶ仕事をこなしていたが。プロデューサーのストレスもマックスに達したと見えて、最終通告が出された。現場リーダーは、企画はあるととっさに嘘をつき、その場は逃れた。企画会議と言う程大げさではないが、スタッフが集まって相談をしていると、セコンドが、あるにはある、と言い出した話が、件のホテル怪奇譚であった。セカンドにノウハウを教えて貰っている作家志望の女子が、持ってきた話だったが、バラエティー系ではなく、単なる噂話かも知れないが兎に角、取材してみよう、と動き出すと、このホテルのできる前に、おかしなことが幾つもある。それは、国家の絡んだ大きな秘密プロジェクトだった。
I SHALL BE RELEASED

I SHALL BE RELEASED

ピストンズ

RAFT(東京都)

2014/09/17 (水) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

不如意
 描こうとしたものが、不如意だから、こうなるのだろう。黒布を動かして場面変化をつける演出は面白いのだが、悲劇は、普通の才能の持ち主なら誰でも書ける。喜劇は数段難しい。そして、不如意は恐らく喜劇より難しい。もう少し、演出に知恵を絞る必要がありそうだ。(追記後送)

ネタバレBOX

ケンスケは26歳にもなって何だか居場所が無い。彼女のナルミからの借金も嵩んでいる。オジから「お前にも事情はあるだろうが」と母危篤の電話が入った。ナルミと会う約束をしていたが、急遽、実家のある長野へ向かうことにした。病院に到着した時、ベッドに固定され、たくさんのチューブやパイプに繋がれた母には、まだ意識があった。母が、必死に何かをもぐもぐ言っていた。母の口元に耳を寄せると、自分宛てだけのメッセージではなかった。失踪している兄と俺へのメッセージだったのだ。だが、兄は、母を殴って失踪した父の後を追って家を出て以来、10年連絡が途絶えたままだ。而も、母は、そんな兄のことも心配しながら、言葉を発していた。この言葉が、最後だった。
おとなげない遺伝子

おとなげない遺伝子

スマッシュルームズ

シアター711(東京都)

2014/09/17 (水) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

因果と主体
DNAは,リン酸,ペントース(デオキシリボース),および塩基からなる。塩基成分にはアデニン(A) , チミン(T),グアニン(G) ,シトシン(C)の4種類があるのは、今時、誰でも知っている基礎知識だ。だから、舞台上に置かれている4つの立方体は、其々、黄、赤、緑、青と塗り分けられてその一つ一つが各塩基に対応している訳だ。そして、因果律のように四六時中ついて回るのである。先ず、この構造に気付かなければなるまい。(追記後送)

ギンノキヲク FINAL

ギンノキヲク FINAL

ラビット番長

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

身につまされる
 ラビット番長の人気シリーズも、今回で一応、ファイナルだ。流石に安定した作りである。が、自分は、其処に不満を感じた部分がある。今作で気に入った役者は3人、作・演出も手掛ける井保 三兎さん、福田役の福田 貴之さん、そして、ヘルパー役の西川 智宏さんだ。作・演出を手掛ける井保 三兎さんが、実際に介護の仕事に就いていたからこそ、書ける作品ではあろう。
劇作家になっても、人の心を思い遣る気持ちや、その想像力の質が、相手の立場に立って考えるという点は、介護職の時も、今も、余り変わらないのではないか。そう感じさせる想像力の劇である。と同時に、描かれている方々には、実際のモデルがあるとか。

ネタバレBOX


認知症や不随・麻痺などの不自由さと本人の意識の差や、植物状態になっても生きることが、果たして、本人にとっても良いことなのか? 等々、安楽死問題にも繋がる重い問いは、我々の日常と切っても切れない状態にある。観客の中にも、そのような家族を抱える方は多かろう。人口構成が、底辺の広い三角形ではないのだから、高齢者を抱える家族が多い。今作についての詳細は、他のコリッチメンバーが語ってくれよう。自分は初日に拝見したし、余り、露骨なネタバレは好みではないので、此処から先は、ちょっと、触発された話で行く。
年をとれば、色々な所にガタも来る。機械だって、材料にだって経年劣化はあるのだ。人間の体だけが、何時までも健康を保てるわけが無い。IPS細胞のような技術が発達してきた昨今、将来的に自らの身体から取り出した組織で拒絶反応を起こさないあらゆる臓器ができたとしても、それが、どれくらい持つか等は、多くの臨床を経なければならないわけだし、研究は、まだ、始まったばかりだ。リスクも考えなければならないし、そのリスクの内には、人間だけが増え続ければ、地球全体の生態系がどうなるかも、当然のことながら含めなければならない。生態系の最上位に生きる地球の生き物として、生まれ、生き、死ぬ。それも当分の間は、この地球上で。全地球上の生物悉くを殺しかねない核及びその廃棄物と共に。人間が核で滅ぶのは、自業自得であるが、他の生物に迄迷惑を及ぼすのは、矢張り犯罪である。進化論が正しいならば、人間など滅んだ所で大したことではない。だが、ゲノム・DNAに甚大な損傷を齎す核技術を持った、食物連鎖最上位の生き物が好き勝手をやって良い、ということではない。そんなことまで、生き死にという問題は考えさせてくれるのだ。
二本の二人芝居

二本の二人芝居

unks

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

演劇の醍醐味を楽しめる!
二人芝居を二本演る企画なのだが、「かごの鳥」を拝見した。作に別所 文+竹内 銃一郎となっていて、どこからどこまでが、各々の作者の文なのかは、確認していないのだが、この脚本が素晴らしい。言葉の持つ喚起力をこれ程、見事に紡ぎ出した脚本は滅多にない。こんなに、日本語というものは美しかったのか! とハッとさせられる出来である。その見事な言語表現に応えて、余計な物は一切省いた演出も良い。

ネタバレBOX

必要な小道具は、紙にその都度描いて使う。だから、マジックのような太字のペンとA4の紙と後はステージ等を組む時に使う木箱が8つあるだけだ。登場人物は、二人、今は飯倉の金持ちに嫁いで2年目の若奥様のペン。そう呼ばれているのは、本名が筆子だからである。もう一方が、はっぱ。兄が、魚の研究者で、一応、少女趣味は軽蔑したフリをしているが、内心は無論憧れており、ペンが兄を慕っていることにヤキモチを妬いている。本名は葉子。大の仲良しなのだが、時々絶交しては仲直りする。
二人は、ある場所に閉じ込められてしまう。研究者の兄に助けを求め、ペンの亡くなった母の生まれ代わりだというカナリヤに救助要請の手紙をつけて飛び立たせるが、確実に届く保証も無いのに、閉じ込められた部屋の前に流れる川は大雨の為に増水し、自分達も呑みこまれてしまいそうな状況で、雨漏りも酷い。
それでもはっぱのお祖母さんに教わったという編み方で撚った紐を使って、泳げないペン共々、川を渡ろうと考えたり、綺麗な瓶に救助要請の手紙を入れて川にながして見たりしたが、紐は、はっぱが、自暴自棄になって首を吊ろうとしたら切れてしまったし、瓶は、勢いを増した川の流れにあっという間に持っていかれ、岩か何かに当たって砕け散った。
二人は、ペンがはっぱの兄とデートの約束をしていた8年前、雨に濡れた為倒れ、デートに行けずに結核のサナトリウムに長期療養に行ったまま戻れなかった話をしたり、ペンが兄宛に出した手紙をはっぱが、嫉妬して焼いてしまった話等をしていたが、自分達を攫い、此処に閉じ込めたのが、誰かを推理する。
未だ上演中だから、答えは明かさないが、はっぱを演じた増岡 裕子、ペンを演じた上田 桃子が素晴らしいし、ナレーションの今井 朋彦の声も良い。出演者数こそ少ない二人芝居だが、演劇の醍醐味を味わえる。
一場と二場で若干、シナリオの優劣を感じた。役者の疲れもあるかも知れないので、ハッキリこうだとは言えないのだが、二場の方が劣っている。理に走り過ぎ、イマージュの本質に迫っていた一場より、イマージュの喚起力から離れていたのだ。ナレーションを的確だと言ったのは、ナレーションが、このギャップを素人の目からは隠しおおせたであろうからである。それだけ優れたナレーションであった。この劣化が役者の疲れに起因するのであれば、一場と二場の間に10分程度の休憩を取るのも手だろう。二人だけでこれだけの内容の作品を演じるのだ。考慮する価値はあるのではなかろうか。
今はただ遠くからありふれた歌を-

今はただ遠くからありふれた歌を-

演劇企画ハッピー圏外

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/16 (火)公演終了

満足度★★★★

ベタだが、心温まる作品
 操縦シーンに好感を持った。

ネタバレBOX

 難病の為、冷凍されていた純ちゃん(11歳)は、孤児。施設で育った。大の仲良しが篤っちゃんと敏ちゃんだ。50年後、漸く安定して来た解凍技術のお陰で蘇生した純。出迎えてくれたのは、もう、初老に達した篤ちゃんと敏ちゃんだった。彼らは、川崎の多摩区で板金工場を経営していて、ロボット製作なども手掛け、その道では世界トップクラスの技術者になっていた。そして、彼女が冷凍される前にした約束を果たす為に、今では、法で禁じられた二足歩行ロボットを秘密裏に開発していた。然し、彼らの技術力の高さを誰も放っておいてくれない。何故なら、家事用実用ロボット、7c型マルチパーパスコンテナを初めて作ったのは彼らだったし、そのオリジナルは、現在も、家族の一員として、この家内工場で活発に動き回っていた。純ちゃん達の食事も彼が作ってくれる。
 だが、流石に50年の時は世相を大きく変えていた。あの時まで、IT技術の進歩によって社会インフラの管理は、総てコンピュータ制御になり、ネットで繋がった社会は効率的で、合理的であるかに見えた。
然し、ある時期を境に、コンピュータの中に自ら意志を持ち、人間に対して悪意ある攻撃を仕掛けて来る者が現れた。その為世界中が大混乱を起こし、殆ど、国が崩壊する所迄行ったケースが何件もあった。その為、人間は、総てのネットに機器を繋げることを禁止せざるを得なかった。何故なら、意志ある電脳体が人間を殺してやろうと思えば、電源を落としてやるだけで、ネットワークに繋がる電源総てが落ち、病院や社会的インフラは忽ち機能停止する。患者のケアをしていた機器類は一斉にストップする。人間はこの事態に恐怖した。同時に暴走の原因を、暴力的なコンテンツやそのプログラムが人工知能に悪影響を与えた為と考え、メディアから、一切の攻撃的・暴力的表現を排除した。無論、暴走を始めた人工知能の支配するエリアにアクセスすることはタブーとなりインターネットへの接続もできなくなったのみならず、何時頃からかギリシャの都市国家のように、都道府県単位で独立国家化したエリアは、互いの利権を争って戦争を始めていた。同盟相手は政治や状況によって変わる。各々の地域内部では、その地域の法があり、他のエリアと個別法が異なるのは当然のことであった。
 ところで、篤っちゃん達の仲間には、NASAから受注を受けている耐熱・耐衝撃パネルを制作できる瓦屋、山下も居た。つまりこのエリアは、世界トップレベルの中小企業が集まる一大集積地でもあったのである。
 そんなこんなで、この工場には、様々なスパイが潜り込んでいた。ある者は事務員として、ある者は、実際に工場内に忍び込む形で、そして、各地域の政府・軍関係者は地元警察と手を組む、というようにして。
 偶々、このエリアの地元の優秀な警察関係者長尾の娘、美樹が難病に掛かり、敵対する東京では認可されている薬が、このエリアで認可される迄にはまだ5年の歳月が必要とされていた。然し、娘の体はそれ迄持たない。冷凍されて、薬の認可を待てばよいのだが、彼女の母が冷凍された時に技術が追いつかず酷い後遺症を患ってしまった為、娘は冷凍に対する恐怖感を克服できずにいた。彼女の掛かっている担当医は純ちゃんと同じであったことから、美樹と純は仲良くなる。一方、長尾は、横浜の軍関係者から、東京の医者に掛かり、件の薬を調達することと引き換えに、篤っちゃん達の工場で開発されていると噂される二足歩行ロボットの件を確認し、あれば確保するよう求められる。横浜サイドは約束通り、娘の新しい病院への転院手続き書を用意した。ロボットを発見しながら、純ちゃんと娘の関係や、三人組の事情を慮って知らぬふりを決め込んだ長尾だったが、横浜から攻められて、工場へ向かう。が、皆の機転で、警察には手に負えないと報告してメンタルな繋がりの出来た者同士の激突は避けることができた。だが、千葉のスパイだった事務員の麻木が、純ちゃんと美樹を拉致、麻木は、何かに彼女らを載せて強い雨で増水した多摩川に流してしまった。和恵と彼女の部下が車で純達を追うが、多摩川を挟んで、横浜軍、千葉軍が対峙し、戦車からの砲弾や戦闘機による空爆で純達が載せられた筏のようなものに近付くこともできない。おまけに、純ちゃんは頭痛がし出した。未だ、冷凍技術の未熟な時代に冷凍された純の脳は、ダメージを受けており、頭痛がし出したら6時間以内にオペを受けなければ重大な結果を生ずる。
 救出手段は一つ。一つあるだけだ。無論、ロボットの起動である。純達の位置確認等、データ収集は、パーパスコンテナが自らが電脳世界に取り込まれることを覚悟した上でインターネットにアクセスし集める他に無い。起動及び操縦は、スパイとして潜り込んでいた源次郎が行う。
無論、巨大な二足歩行ロボットを作る程、劇団に資金は無いから、知恵を使っている。コクピットだけを舞台中央に作ってあったのだ。観客側が開いた箱の中に椅子を据えて操縦席とし、箱の上手・下手に両端を繋いだロープのような物を数本ずつつけ、足元には、パーカッションのスネアドラム用足踏みのような器具を作って、役者があっちこっちと懸命に動かすのである。これは、若い男の役者しか出来ないほどハードな動きだが、演じた中川 敏伸を褒めるべきだろう。
篤っちゃん、敏ちゃんは、捕まってしまった。行方は分からぬものの、純は信じている。二人が元気でいることを。だって、三人には、未だ他の約束も残っているから。幸い、純の手術は間に合ったばかりか難手術も成功し、術後の経過も良い。今度は、純が待つ番になった。行方が分からなくなってしまった二人を。残りの約束を果たす為に。








太陽への回廊

太陽への回廊

無頼組合

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

嘘の国、日本の糞ったれ!
 糞ったれ! な現代日本への熱いメッセージだ。実際、F1事故の処理は終わるどころか、どんどん、出口が見えなくなっており、内部被曝も、これから、本当にその影響が増えてくるのに、川内原発を再稼働するような規制委の判断は、原発の現場を知らない田中 俊一なればこそだろう。核は、総ての生命を危機的状況に晒している。核大国、安保理、原子力産業、原発で電気を産んでいる電力会社、IAEA,ICRP,WHO(核の齎す健康被害に関しては、IAEAの言うなり)等々の核組織は、核の齎す健康被害については、極力実態を過小評価、データ改竄や、隠蔽、独立系科学者、医学者らへの嫌がらせや司法と組んでのでっち上げ逮捕を始めとする弾圧で圧殺を図ってきた。時には、一番、中核になる人物を「自殺」に追いこんで。マッポが実行犯に、個人情報を流すのである。その情報を元に、子供がどうなっても知らないぞ! と脅す訳である。そんな連中の権威等糞喰らえ! である。規制委のやっていることも単にアリバイ作りに過ぎない。こんな連中に権威など認めることは、犯罪と言わねばならない。茶番なのである。それらの、日本の構造を見事に描いた。因みに、ここで描かれているトンネル工事は、最も、危険な工事であった。2番目が埋め立てである。現在では、トップに原発解体工事が入ってくるだろうが。(追記2014.9.18)

ネタバレBOX

 何も、日本の糞共に権威を認める必要はさらさらない。なぜならば、我ら民衆にとって、彼らの齎す害は著しいが、益は無いからである。寧ろ、独立系研究者、医療従事者らを権威として敬うべきである。ちょっと、考えてみるが良い。核種の出す膨大なエネルギーと生命の設計図であるDNAやゲノムを繋いでいる力の差を。

 さて、本作のアウトラインを書いておこう。1964年の東京オリンピックに向けて世の中が、建設ラッシュに沸いて居た時代。長野県の村の人々の不便を解消する為にトンネル工事が進められていた。監督は、人望の厚い海馬 正義。掘削工事が半分程終了した所で、本社は、急に工事の中止を申し渡して来た。現場監督以下、作業員は、次の現場に振り向けられるハズだった。
ところで、急に工事がトリヤメになった理由は、オリンピック関連の道路工事の入札が決まって、その方が金になるからであった。建設ラッシュで不足気味の作業員も確保したい。儲けと人員確保の為には、地方の大した金にならない工事などはさっさと引き上げて金儲けをしよう、というのが本社の意向だったのである。
海馬は、作業員全員を集め、今迄の給料支払いや、今後の割り振りなどについて、指示を出していたが、この時「海馬自身はどうするつもり」か問われ「一人残って作業を続けるつもりである」ことを話した。すると、作業員も全員、「残る」と言いだしたのだ。無論、海馬が皆の給料を払ってやれるわけではない。それでも良い、と言うのが、作業員の総意であった。こんな経緯で、当時、建設業界で最も危険な工事だとうたわれたトンネル工事は殆ど無給で続行されることになった。皆、会社の儲ければよいというやり方が気にくわなかったのだ。それに、現場監督である海馬の人望もあって残ることにしたのであった。
 無論、会社としては面白くない。命令に背いた上、村の人々の為に、タダ同然で工事を完成されたとあっては、会社のイメージダウンに繋がる。それを恐れて、工事に対する嫌がらせが続いていた。然し、それでも、仲間はくじけなかった。業を煮やした会社側は彼らの作業現場に発破を仕掛けて爆発させる。其処に居た全員が亡くなった。盲腸で休んでいた唯一人の作業員を除いて。事後処理は、無論、落盤事故で片付けられた。
 数十年後、このトンネル工事現場に隕石が落ちた。政府は最近落下した隕石から出たガスによって、死人が生き返る、という情報を入手していた為、このエリアを立ち入り禁止にし、蘇生した人間を使ってあるプロジェクトを立ち上げていた。
 折しも、2011年の原発人災で低迷している産業界を活性化させようと、原発人災後の放射性核種漏れや汚染水の問題は収束したとの嘘と共に、オリンピック招致合戦が行われていた。拡大する一方の経済格差と政治の貧困、力のある者への優遇税制、軍事国家化や翼賛体制への足音は、凶悪犯罪を極端に増加させていた。警察では2年前に凶悪犯罪対策の専門チームCEPTを立ち上げ、凶悪犯を殺害する実行者として、生き返った海馬を使った。彼は、無論、骨だけになっていたのだが、蘇生してからは、悪意を感知し、銃弾を浴びても、直ぐに再生する能力を具えていた。更に、彼が凶悪犯の前頭部を鷲掴みにすると、彼は、悪意を自らに取り込むことができた。凶悪犯は命を失うが、悪意は消滅し、解放されて死んでゆく。チームは、海馬を手に入れてから、何度もこの方法で凶悪犯を殺していた。だが、犯行の増加は抑えきれなかった。そこで、上司に逆らったりして、頗る優秀であるにも拘わらず、否、だからこそ窓際に追われた部署ダストボックスの人間達に協力を要請。一緒に仕事を始めることになるが、上司に逆らってでも、将来を棒に振ってでも、何かを守ろうとした彼らに、裁判も受けさせずに犯人を殺すチームのやり方は許せなかった。海馬に対する同情もあった。
 警察サイドでこんな体制が組まれた矢先、某有名政治家の息子、渡瀬が、犯罪の片棒を担ぎにくる。彼は、自らの体に流れる悪胤を絶やそうとしていた。その為に、家系に染み・汚点をつけたいと願っており、腐りきった社会の耳目を逆立てるような犯罪を起こそうと考えていた。一方、社会的騒乱を起こした者に賞金として1億円を出す、というネット広告が出た。彼は応募し、採用され、実行した。1億円は振り込まれた。次は、もっと大きなことをやろうと考え、仲間を募った。仲間になることを嫌がる男、北見に爆弾製造を頼んだ。北見は、人を傷つけるようなことは絶対にない、という渡瀬の言葉で製造に加担した。だが、渡瀬は、最初から人も殺す予定である。北見は元々、掏りであるが、かつて時々組んで詐欺を働いた沼田夫婦には、拾われて、当たり屋をやらされている女の子、知佳がおり、彼女を不憫に思うような優しい所もあったから、人が傷ついたり死ぬことには反対したのである。今回、この話を持って来たのは沼田夫妻であったが、彼らはヤクザを詐欺に掛け追われていた。期日までに金を用意しなければ自分達が、東京湾に沈められる。それで、銃やマシンガン迄買いこんで対応に大わらわだ。而も、知佳はトロイと踏んでいる沼田 一徳は、逃亡の足手まといになると考えて、彼女を射殺してしまう。渡瀬は東京湾に掛かる橋の爆破を考えており、当然、多くの被害が予想された。自分の作った爆弾の設置場所を知った北見は、起爆装置を解除しようと現場に赴くが、其処には海馬が来ていた。おまけに、北見は海馬が亡くなった後、妊娠していた妻が産んだ息子であった。親子は向き合い、海馬は息子を殺すことになった。同時に、再生した者のリミットを迎えて息絶えた。それらを嘲笑うかのように現れた渡瀬とダストボックスが対峙する。渡瀬は撃たれて死に、橋は爆破されずに済んだが、実は、渡瀬に賞金を出していたのはCEPTの局員、橋爪で渡瀬の父とは昵懇の間柄であった。




ホラフキ ~あなたの職場、幸せにします~

ホラフキ ~あなたの職場、幸せにします~

劇団与太組

小劇場 楽園(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/16 (火)公演終了

満足度★★★

ディレッタントの自分には不思議な感覚の作品
 自分はディレッタントなので、こういう会社は大っきらいだし、こんな管理下では働けない。そも、広告を創るという作業は、自由裁量の範囲が広くなければ良いものなど作れない。自分が広告を書いていた頃、やはり、まあ、大体、出勤時間は守っていたものの、クライアントとの打ち合わせや、デザイナーや、カメラマン、モデルとの打ち合わせ等々の理由があれば、それがすんでから出社するのは当たり前。その代わり、閉めが迫っている時は事務所で寝泊まりしながらなんてこともよくあった。それが、当たり前で、下らない愚痴なんかこぼすのは、イギタナイと軽蔑していた。愚痴をこぼすのが当たり前なんて感覚でやってるから、何時まで経っても日本の企業の多くが駄目なんじゃないかな。中小に対する、大企業の態度は酷いもんだし、何もしないで丸投げするだけで3割抜くってのも、糞ではあるけどさ。それでも、広告とTV局の仕事はギャラがいい。

ネタバレBOX

 適当な事を言っては、社員の心身の疲れを癒し、仕事を楽しく効率的に進めようと作られた“休憩室”。そこで働く河原は、カウンセラーだが、システム設計などの専門家、鈴木と組んで、効率重視の新社長の下、様々な企画を実現してゆく。若手や女子社員には好評なのだが、休憩室での会話は盗聴され、つけさせられたリストバンドは、社員の位置情報などが取れるチップが埋め込まれIT技術を用いた監視システムであった。勿論、モニター用にカメラも設置されている。
 一方、河原が、この会社に入った目的は他にあった。自分が崇拝していた上司が、この会社で仕事をし、広告で大ヒットを飛ばし、賞も獲ったのに何故か社を止め、行方知れずになった原因を探ろうとしていたのである。
 それは鈴木姓が多いこの地方の、歴史にも関わることであった。元々、この地域には、狩猟、採集を生業とする先住民が居た。ミスミ一族である。だが、彼らは、稲作農業技術を持った鈴木一族の先祖によって、平地を追われ、山に移り住んだ。無論、其々の氏の中から、自分達のコミュニティーを出て相手のコミュニティーに打つる者はあったが、一度、コミュニティーを出た者の復縁は許されなかった。狩猟採集民の性格は、自由奔放である。生活の安定性は低いものの、その生活には、縛る物が少なく、発想は自由で野山に融和して生きていた。一方、農耕民族は勤勉で技術力も高かったが、土地に縛られ、因習に縛られて自由度は低かった。また、農業は、天候に大きな影響を受ける。冷害や旱魃、大雨、長雨等々の影響で作物は生育は大きく変化する。日照りに喘ぐ時には、山の天狗と言われる人々に仲介をして貰って龍神に雨乞いをした。河原が尊敬していた先輩は、この天狗一族の血を引いており、雨女だった。然し、彼女の自由な発想とポテンシャルの高さは、広告業界では優れた才能として評価され、同僚、社内の様々な人間から多大の嫉妬を買っていた。それで、彼女が会社を辞めさせられ、それを苦にして失踪したのではないか、というのが河原の推理であった。然し、事実はそうではなかった。未だ、公演があるので、ここから先は観て頂こう。
ねじまき島エレキテル

ねじまき島エレキテル

アナログスイッチ

シアター711(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★

有名税?
 ねじまき島は、天才科学者、川原博士の秘密研究所。様々なタイプのアンドロイドを試作している。無論、公になれば、軍事技術に最初に利用されることは目に見えているから、博士は、無人島になったこの島の廃墟の地下に研究施設を作って研究を続けているのである。(追記2014.9.18)

ネタバレBOX

 まあ、本当にリアルなレベルで秘密研究をしようとしたら、インターネットをアンドロイド達が、スパイ機能防止の所作も見せずに使って居ること自体、甘っちょろくて話にならないが、まあ、御愛嬌である。何故なら、話の本筋は別にあるからである。その本筋とは? 
 初めて、島を旬日に亘って離れた博士は、周囲から研究と結婚した、と思われる程の堅物だが、実際には、結婚しており、子供まで居た。博士が島へ戻る予定日の3日前、その
子供が、守役のネネと共に、島へやってきた。
 ネネの前では、猫を被っているこの餓鬼、頗る性質が悪い。アンドロイド性質が反抗しようとすると、前に自分のお守をしていたアンドロイドは自分に逆らった為、父に良いつけたら、ルンバにされてしまったなどと嘘をつくので、それが、嘘だと分かる迄アンドロイド性質はこの餓鬼に散々苛められた。然し、彼自身が学校で苛められている事実が判明し、アンドロイド達は、其々の方法で対応策を教える。其々の方法は個別矛盾したりしているのだが、根底にあるものは、同じであった。即ちOne for all, all for one.そして、アンドロイド達が、苛めっ子対策として教えたのは、闘うこと、非暴力だが主張を曲げないこと、そして逃げることであった。考えてみれば、この他に苛めを避ける方法は無いのではなかろうか? このような問いは、主人公の子供に投げられることにより、実際には観客に投げられていると考えたい。何れを選ぶかは、観客に委ねられているのであるが、このような問い掛けを行っている点は見逃せない。
兇王は涙を流さない

兇王は涙を流さない

劇団くもりのちはれ

吉祥寺櫂スタジオ(東京都)

2014/09/13 (土) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★

中々深いぞ
 シナリオは、劇的展開に必要な要素を盛り込み、ダイナミックに展開して楽しめる。(追記2014.9.18)

ネタバレBOX

 先祖の秘密を守り抜いてきた、側近の末裔を歴史小説家が訪ねて、巷間流布されているのとは、異なる話を聞き出すという設定になっているので、歴史的人物として、絵画に描かれるようなストップモーションが効果的に使われている。
 一方、今作は、以下の問題も提起しているだろう。即ち現実政治が直面する問題についてである。言う迄も泣く王権。貴族政治にせよ民主主義や独裁にせよ、少数者が他の大多数を支配するには、その正統性を与える為の根拠が必要であり、その施策を実現する為の官僚組織が欠かせないということである。そして、形式上、そのシステムに齟齬が在ってはならない。何故なら、正当性を付与された為政者は、それ故に義務を負い、義務を果たすことによってしか正当性を維持できないからである。
 ことある時、人間の持つ諸感情(愛情、友情、嫉妬、より良きものへの意志、絶望、失望、破戒衝動等々)を採るか、一歩距離を置いて、決めごとに従うかの決断に迫られたなら、結果によってどちらがより良かったか、は後代が判断するであろうが、為政者は、問われたその時に判断せねばならない。安倍のような馬鹿でない限り、その判断は、ある程度、後代でその論理や哲学を問題にされるか、判断の見事さを称揚されるであろうが、無論、基本は、その人物の持つ性向によって判断は異なり、異なる判断を許容するのが、一般的な大人社会であることは言うを俟たない。
 今作は、政治としては、余りに幼稚な、友情を介在させることによって、政治劇としては児戯に等しいものとなったが、それ故にこそ、作家にとっては、今作が書かれる必要があったとも言える。何れにせよ、観客は、この幼児性を許容するか否かを求められる。許容できれば、面白い作品であり、できなければ認め難い作品であろう。だが、本当にそれだけだろうか? 自分には、その判断の分かれ目に、実際立ち会う個々人の必然的差というものが、余り必然的なものとは思えないのである。育った環境の差だとか、受けた教育の差だとか、或いは偶然だとかは、想像できる。然し、その差が必然的である為の必然的差異は、ハッキリ言って未だ分かっていない。そして、現在の所、その原因を探る時間が無い。いつか、自分にその事を探る時間的余裕ができたら、探ってみたいテーマの一つである。そのような問題を提起してくれたことによって、この作品は意外に深いと感じているのだ。
東京オペレッタジゴロ オペレッタ公演

東京オペレッタジゴロ オペレッタ公演

芝居舎ジタリキ

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/13 (土)公演終了

満足度★★★

パロるなら、更に高度に
 上手にはチンドンで使うタイプのパーカッション等が置かれているが、基本的に素舞台。開演前には、猿蟹合戦の昔話の朗読に文部省唱歌をキチンとした合唱団が歌ってBGMにしたような音響が流れている。

ネタバレBOX

 前説は、歌舞伎町のちょっと時代がかった趣向で興味深い。隋所に黒子が登場するのも、浄瑠璃のようで面白い。黒船で眠れなくなったヤマトンチューは、急ぎに急いで西欧化を図った。だが、そう簡単に総てが変えられるわけは無い。大衆芸能の世界でも、オペラではなく、色々な所やものを継ぎ接ぎした、謂わばキメラの如く奇怪なダシモノが、異様にキッチュな魅力を発揮して、てんやわんやの癖に中味が何なのか、自分達が何故、てんやわんやなのかを知ろうともせぬ大衆の心を、捉えて居たのかも知れぬ。演目は、猿蟹合戦、スターウォーズ、シンデレラの3本。これをオムニバス形式で演じるわけだ。
 其々に、日本の芸能の手法が用いられているのだが、スターウォーズは如何にも、アメリカの作品らしく、正義を矢鱈、称揚するイデオロギーが単純な形で描かれている分、殆ど、グロテスクそのものである、パックスアメリカーナをパロっているようで面白かったと同時に、オビワンケノービの登場場面では、オビワン役の役者を浄瑠璃人形に見立てて演技するという面白い試みも披露された。
 その他、矢張り、ギターやチンドンさんの音曲に、このオペレッタはマッチする。

ヒョウイズム

ヒョウイズム

爬虫類企画

新宿シアターモリエール(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★

前説シリーズ化して売り込めば?
 少し早目に行くのがお薦め! 自分は、ホンのちょっと、拝見しただけだったが、前説が抜群なのだ。どんな風に抜群なのかは、観てのお楽しみだが、これをシリーズ化して、関連会社に企画として売り込み、採用されれば、ブレイク間違いなし、という感じの面白さである。広告コピーも書いていたから、こういう勘は、業界で鍛えた。
 さて、本編であるが、背景に映る映像のセンスも鋭い。どうやら、メンバーには様々な才能の持ち主が居るようだ。恐らく個性も強い、これらのメンバーの才能を最大限に生かしながら作劇する為には、口立てでシナリオ化するのが良かろう。つか こうへい的、ピーター・ブルック的な方法だ。それが、難しいとなれば、ワジディ・ムアワッドのように、兎に角、皆の話をじっくり聞いて1年ぐらい掛けて話を纏めてゆく。最初の提案で劇団としての活動資金が稼げれば、相当好きな事をやってのけられる。
 

ネタバレBOX

 一応、作品の内容にも触れておくが、初日が終わったばかりだから、ホンのさわりだけ。基本、苛めの話。但し、苛められっ子は、あることを経て、特殊な能力を二つ持つことになった。
注文の多い!?料理店

注文の多い!?料理店

HyouRe Theatre Company

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2014/09/10 (水) ~ 2014/09/11 (木)公演終了

満足度★★★★

もっとプッシュしてみたら
 折角、結構ラディカルなことやってるんだから、もっと、上手く表出してみたら、更に、高い評価を得られるのでは? エンタメ的な視点も武器になるにゃ。
 今作、可也特殊な公演形態を採っている。このことに注意を向けておかねばなるまい。少なくとも、作る側が呈示している条件は、観客が、劇団の寄こした三段重ねの容器に入った干し葡萄や、菓子、木の実を指示に従って食べることである。これは、基本的に観劇中の指示に従って為されることになる。これが、お約束である。無論、これらの食品にアレルギーのある観客は食べる必要は無いが、その旨、劇団側に伝えるようお願いが為されている。これが、通常の前説と決定的に異なる点なのだ。

ネタバレBOX

 ところで、かつて、観客も、演劇の構成要素だとして一世を風靡した寺山修司の天井桟敷や、状況劇場の唐十郎らが居た。劇空間と日常空間の境界を曖昧にして何か非日常の世界に踏み込んだような擬似体験を仮構させる(天井桟敷)や水などを撥ね散らかして強制的に当事者に仕立て上げる唐十郎の状況劇場でも、ここ迄ラディカルに観客を劇に内包し得て居なかったのである。どういうことかと言うと、今作の主眼である「西洋」料理店は、様々な注文を客が店に対してつけるのではなく、店主が、様々な注文を客につけて、自らの好みに仕立て、供するように作られているのである。無論、店主が自ら、そのような下世話な命令を下す訳ではない。間には、執事のような役の者が居て、荒野を歩き疲れた大衆に対し、道を案内するのである。この道は、必ずしも大衆の望む所へ通じている訳ではないものの、一度、選んでしまえば、後戻りはできないものとアナウンスされ、従う者は、他の可能性が在るかないかなど、疑いもせぬ。阿保である。その愚かさ故に、彼らは、何の根拠もなしに、旗を振る者を先導者・水先案内人・リーダーと思い定め、道なき道を行き、涯無く思われる荒れ地を彷徨い歩くのだ。何の収穫も無く。そして、もう駄目だ、万事休すと思われた時、彼らは、夢のカケラを投げ与えられ、リーダーの用いる方便によって、最後の一歩を踏み出す。最早帰ることのできない地平へ。
 待っているのは、無論、主人のプレートである。そこに、先ほど買われた山鳥と合わされて、適当な野菜と共に供されるのである。店主(天守・天主、天子であっても良い)の待つ食卓へ! 
 かなり、寓意的に作られた舞台なので、どのように解釈しても構わない。自分の解釈は、以下の通りである。
 店主・天主・天子とは、国際原子力マフィア(アメリカ、英国、フランス等を中心とする西側核保有国とIAEA、エートス・プロジェクト、CORE、ICRP、WHO、FAO、安保理、これら、世界の有力機関に媚びを売る総てのメディア、国家、研究者・機関等々)。大衆とは我々、力なき者全員である。旗振り役は、核の軍門に下った総てのリーダーだ。ナイフとフォークは、プルトニウム239、ウラン238、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131等々の放射性核種である。これらを体内に取り込むと、ゲノムが破戒され、トンデモナイ遺伝的疾患が生じると考えられるが、核が関わると疑われる健康被害に関して、公的な公衆衛生に関しては、何ら権限や役割も持たないIAEAの従属的役割しか果たしていないWHOは、一切、その憲章に書かれている使命を果たしていない。(IAEAとWHOの間に交わされた1959年の協定を調べてみよ)
 マンハッタン計画に由る核汚染以来、まき散らされてきた死の灰や、放射性核種は、今や地球のありとあらゆる場所を汚染している。無論、汚染の酷いエリアとそうでもないエリアは存在するが、安全な閾値が知られていない物質を放出するテクノロジーは、制御されていないどころか、故意に制御していない、と言われても仕方のない原理的欠陥を孕んでいることは、小学生でも分かる理屈だ。
 そんな技術が、益々、蔓延しようとしている中で、我らが、天日干しの食物を食べること、最早、人間の技術によって甚だしく汚染された環境中に生育する総ての生き物から、我らが、生きてゆくのに必要な食物を得るということは、国際原子力村の認めていない内部被曝のリスクを伴うということである。
 この捕食行動を通して、食物連鎖のヒエラルキーをも示唆した今作で、我らが為政者に為し得ることは、我らの体内で更に濃縮されて為政者の食卓に上がり、我らの死によって、彼らの健康を少し害すること、だけなのだろう!

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