ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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バルカンのスパイ

バルカンのスパイ

日本・セルビア演劇交流プロジェクト

ブレヒトの芝居小屋(東京都)

2014/11/21 (金) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

らあらあらあ 政治音痴は観ておくべし!
                               
 論理というものは、そのオーダーを一旦、固定的な公理として定めて仕舞ったが最後、その展開は唯一つしか無い。即ち尖鋭化することである。
今作は、その恐ろしさを、端的に描いた秀作。
カリスマ指導者、チトーの死を経、ユーゴスラビア解体以降益々混迷の度合いを増した、各民族、宗教諸派、異言語集団、政治体制の異なる集団、バックアップする大国の違いによる利害の相違等々を通して育まれ、徹底した不信・疑心暗鬼に陥った人々の「非日常的」な何気なさに巣食う、最早客観への糸口を失った狂気の哀れを骨太に描いて秀逸である。
彼らは、不信と分断故に、互いに孤立の陥穽に陥り、最早、自壊してゆくしかないように見える。この状況をグローバリゼーションとトリクルダウンの論理に染まった、迷妄の巷に暮らす日本人に当て嵌めてみると、興味深い結果が透けて見える。

第二回学生シアタースポーツ大会

第二回学生シアタースポーツ大会

インプロカンパニーPlatform

宇宙舘(東京都)

2014/11/22 (土) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★

楽しめる
 今年で第二回目を迎えたTheate Sports Platform cup for Studentsだが、拝見したのは、マチネ。予選のオープニングである。先ずは“KICK・おふ”VS“劇団しおむすび”が、次へ駒を進める為に闘う。

ネタバレBOX

即興は観客から直前に書いて貰ったメモや貰ったお題。其々のタイトルに沿った即興が、その時点で決められたルールに従って作られてゆく。尤も、ルールはその場で演じる者達が、決めて良い。審査員は4人。Platform大学教授の面々だ。文学部教授は、シナリオの出来を。商学部教授はエンターテインメントとしての採算性・利潤を。法学部教授は法的妥当性を。保健体育学部教授は、身体に落とし込むレベル・技法を。其々、優5点、良3点、可1点、不可0点の札を挙げて評価するが、ラッパ音が鳴らされた場合は、その時点で演技は強制終了である。評価は強制終了時点で行われる。無論、高い得点の者達が、勝者であるが、同点の場合は、今回は無かった。その場合は、MCなりスタッフなり審査員の意見なりで決まるだろう。何れにせよ、遊び心と適度な緊張感の入り混じった楽しい催しである。
 2劇団対決の後は、ロングフォームの、やや長めのヴァージョンが、観客からお題を貰って演じられた。
 各グループは各々のカラーを持っているが、総体としての実力に、大きな径庭は無いように思う。従って勝敗を分けたものは、お題が向いていたなどの偶然が働くこともありそうだ。
互いに切磋琢磨して、瞬間的な判断の切れ味アップとスピードアップ、観客の予想しなかった展開を即座に作ることができるような地力をつげて欲しい。同時に、社会的な側面、政治・経済・紛争・社会問題などにも広く目を向けて、単に真面目に対応するのではなく、大人のやってきたことが駄目だと思うなら、それを揶揄できるような力をつけて欲しいものである。くれぐれも遊び心を忘れず!!

包囲網

包囲網

チタキヨ

小杉湯(東京都)

2014/11/20 (木) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★

癖になりそう
  銭湯演劇というのは初めて観た。高円寺の駅近くにある小杉湯が、今回の上演会場である。話も銭湯に関わりがあるものだから、壁の絵なども活きてくる。無論、演じられる舞台は、洗い場なので、カランや浴槽、シャワーなどもある。観客は脱衣場に設えられた観客席から観る仕掛けだ。入場は、履き物を下駄箱に入れたら、番台でチケットを購入する。すると手作りのとても可愛らしいリーフレットをくれる。(追記2014.11.22,公演が終了したので、更にネタバレ追記11.26)

ネタバレBOX

番台を過ぎたら、奥は、寛げるスペース(壁に猫島訪問をした女性の猫写真が貼ってあるから、猫好きは必見。上演中は、まだ貼ってあると思う)で、このスペースの左側が、会場である。また、小杉湯の宝をあしらったシャツが上演中に出てくるから、小杉湯の建物に入る前に、切妻風屋根の破風の辺りに気をつけて見ておくと良い。観劇記念に通常より少し値引きされた入浴券を買って湯に浸かってきても良かろう。ハンダラお気にいりの銭湯である。
 さて、前置きが長くなったが、もう少し、銭湯と芝居・表現の共通項を挙げておきたい。自分は良い銭湯というものは、表現に通じる世界観を持っていると思っている。何故なら、銭湯は、昔から人々の交流の場であり、噂、知識、雑学、世相談議、芸談に至るまで、幅広い知識や世間との窓口であり、社交の場、時に男女の愉しみの場でもあったからだ。何れにせよ、湯に浸かった体は、ゆったりと寛ぎ、憂き世を一瞬忘れて桃源郷にでも浸る気分を味わうことのできる時空間であり続けた。現在でもその伝統は良い風呂屋に受け継がれている。上に挙げた様々なことは、表現に繋がる。また、これらの根底にあるのは、自由闊達な精神である。多くの人が、銭湯で演劇という発想すらしないが、考えて見れば、共通項は結構ある。更に、小杉湯のオーナーが自由闊達な精神の持ち主なのであろう。客に対する考え方は入ってみれば分かる。実に良心的な上に、健康や環境に配慮したインフラであり、休憩所なのである。
 この心休まるハズの銭湯と共通項のあるはずの芝居の内容は、寧ろ、単純素朴では飽き足らなくなったひねくれ者の都会人に楽しめる作品になっている。極めて日常的で、誰にでも起こり得ることを感じさせる設定が憎い。同時に、風呂屋の姉・弟、その妻、そして、その駈け落ち相手で姉の親友という4人が、実際に登場する人物であるが、この銭湯のオーナー夫妻が、話として登場し、サブプロットで大切な役割を果たしている。
 弟は姉の親友と3年前に駈け落ち。身重の女房には、一通の書き置きが残されただけであった。駈け落ち相手は、なうての浮気症。兎に角、ドキドキが続かなくなれば、他人の男を自分のものにし、罪悪感を香辛料に恋のボルテージを上げることしか考えていない。というより、そういう病気である。弟はだが、この女に魅入られた如く、逆らうことが出来ない。妻は、結局、精神的な問題から、子供を失くしてしまった。それでも、6つ年下の夫の帰りを待ち続けて、嫁ぎ先の風呂屋で働いている。父母も息子遁走のショックで、引き籠りと過食で埒も明かない。そこで、姉に手伝いに来て貰っているが。3年ぶりに弟が舞い戻って来た。而も、恋人を連れてである。
 総領息子が生まれて以来、余計者と見做されていると感じている姉は、自分の立場を失くす。妻は、浮気相手に子供ができたから離婚してくれ、と迫る夫に、自分が失った子はどうなのだ! との思いが拭えず離婚を認められない。一方、浮気相手の女は、現在働く場所の板長、支配人、高校生の泊り客、他の客等々と散々浮気をしまくってきた。従って、本当の所、彼女の腹の子は誰の子か分からない。但し、彼女の主張に従えば、弟以外の男とのセックスでは、避妊はしていた、という。夫は夫で、妻の料理の上手さや、滲みでるような女性らしさを思い出して、彼女と寝て仕舞う。最終的に、浮気相手と別れる決心をしてよりを戻そうとするが、妻は、離婚を承知してくれた。亡くなった子供が夢に何度も現れて彼女の後悔を新たにしていたのだが、今迄一度も見えなかった子供の顔がイメージできたからである。結局、駈け落ちカップルが成立。子供は3人授かった。姉の夫は、自分がほって置かれる状況を面白く思わず、終に離婚を決意する。そして、再婚。妻は、アルバイトに来ていた男の子と一緒になったが、別れた後は1人で過ごした。
 男女関係の綾を“飽きる”という恐ろしいコンセプトでなで切り。当然、飽きられる、という恐怖を抱えても居る訳だが、一般家庭の何処にもある、男女関係の可能性とその結果としての子供(生命)、家族成立・崩壊の問題等々を実に巧みに女性的な視点で纏めて見せる。
8分間

8分間

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2014/11/21 (金) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★

Loop
8分間でループする話である。舞台は、とある駅のプラットホーム。似たような場面が延々と繰り返されるので、観客を飽きさせない為の工夫があちこち為されているが、シナリオ、演出の妙を楽しみたい。無論、繰り返される内容は、微妙に異なったり、重なったりしつつ、解釈に必要な情報は除々に明かされてゆく。その緊迫感を楽しんで欲しい。

ネタバレBOX


 深読みすれば、似たような日常の中に、仕組まれた取り返しのつかない事象や、一見、何の変化も無いように振る舞っている、我らの日常の直ぐ裏側にびっしり貼りついた脅威のいつ起きるとも知れない不気味で不可逆的な地平を示唆しているとも取れる。
とけない鎖

とけない鎖

劇26.25団

OFF OFFシアター(東京都)

2014/11/19 (水) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★

保険金殺人
の母と共犯にされた者と、実の娘(更なる追記2014.11.26)

ネタバレBOX

彼女、ななしは14歳の時、父の計らいで家を出た。実母、冬子が詐欺罪で逮捕されたのみならず、母の犬となって共犯にされた世話役のさゆりも同様に捕まったからである。この事実が顕在化する前に、父は、娘を事件の齎す喧騒の渦中から救い出したいと考えたのであった。警察の家宅捜索は、単なる詐欺では無く、それ以上の罪を疑っていると考えるのが、至当だと思われる熾烈なものであった。事件が起こったのは九州、そして事件は冤罪でもなければ、単なる詐欺事件でもなく、父の懸念した通り、保険金殺人という重罪であった。
 父は、知り合いのつてを頼って、芸能関係の会社が持つ寮に娘を預け、毎月の仕送りを欠かさなかった。一方、ななしは、器量も良く、才能も見込まれた為、芸能事務所はアイドルとして売り込めると判断し、初期投資を積んだが、彼女に母の暗い思い出がある為か、彼女の才能が花開くことは無かった。為に、終に事務所も彼女のデビューは諦め、芸能界からは干されて、愈々、住む所も無くなり掛けたその時、担当は、彼女を雑用係として、自分の所で雇う形にしてななしをフォロー、小説執筆ができる環境を提供する。ななしは、自分の生い立ちをベースにした小説を仕上げ、その作品で見事、純文学の登竜門とされる文学賞を受賞した。受賞インタビューでの思いがけない返答や容姿の麗しさから、忽ち時代の寵児となった彼女であったが、有名になり、人気が出れば、彼女の生い立ちを詮索する輩も出てくる。ネット上では、早くも彼女の母親に纏わる噂が、囁かれ始めていた。彼女の実母が殺人犯なのではないか、との噂である。それを事実だと、ななし自身が自分のブログで認めてしまったから、業界は大騒ぎ。手のひらを返したような、ななしへの過剰なバッシングや担当編集者への嫌がらせ等々が重なった。
  ななしは、自らの影響力の大きさに愕然としながらも、自ら表現者の位置・意味を見出し、その重い責任を果たす為にも表現する者として生きて行くことを選択する。このラストが、実に良い。
通る夜・仰げば尊し

通る夜・仰げば尊し

劇団芝居屋

ザ・ポケット(東京都)

2014/11/19 (水) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

後代の育成
 
 今回、増田 再起さんの出番は、とても少ないのだが、これも後代の育成の為と観た。
再起さんの出番が少ない分、恵美さんが、迫真の演技をしている。(追記後送)

ぜんぶのあさとよるを

ぜんぶのあさとよるを

Pityman

pit北/区域(東京都)

2014/11/19 (水) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★

ディストピア
 言いたいのはラスト他は総てこれを導く為の導線と観た。
評価は分かれよう。(追記後送)

ぼくたちの学校

ぼくたちの学校

演劇企画ハッピー圏外

TACCS1179(東京都)

2014/11/19 (水) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★

解釈の多様性
大学の男子寮内にある食堂が舞台だ。時は、1972年。沖縄闘争も終焉を迎え、ベトナムからアメリカの地上部隊も撤収した。2月には、京浜安保共闘が、合流して永田 洋子が、赤軍メンバーを粛清したことで非難を浴びたあさま山荘事件が起きた。然し、巷間に流布されたことは事実ではない。(追記後送)

LACK.

LACK.

projectDREAMER

小劇場 楽園(東京都)

2014/11/18 (火) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★

Aキャストを拝見

 今公演は、「ユートピア」と「病の王国」の2本上演である。まあ、通常の時間内で収まる。
では、先ず「ユートピア」から参ろう。(初日を終えたばかりなので、ネタバレは途中迄)
 フェニックスのマスター役、武田 祐一の演技は、新宿独特の優しさや寂しさ、ゲイの持つ雰囲気を醸し出してとても気に入った。

ネタバレBOX


 新宿2丁目のゲイバー“フェニックス”マスターのシンは、薬チュウだった性同一障害者、ケイを薬禍から救った。その後、立ち直ったケイは、精神科の看護師となったが、店に来た大学事務員のヒロミが倒れたのが、薬の所為だと知って他人事とは思えず面倒を見、彼女の薬が切れる迄の間、シンに頼んで、店内に監禁し、禁断症状から解放しようとするが、ヒロミは、逃げ出してしまった。彼女は、高卒で大学の事務をやっているのだが、コンプレックスから、大学に進学する望みを持ち、デリヘル嬢をして金を貯めていた。一方、仕事の関係で知り合った、勤務先の学生が、薬の売人をやっていたことから、薬を入手、1年ほど前から薬チュウになっていた。
次「病の王国」だ。
lackとは、欠如、それも必要なものの欠如を表す名詞でもあれば、他動詞でもある。他動詞の場合、本質的属性を欠くというケースもあるので、意味する所は、かなり深いと言わねばなるまい。
 彼女のロストバージンは、実父であった。父の女癖の悪さと、彼女自身が応募してグランプリに輝いた美少女コンテスト後のメディア攻勢に母は精神を病み、彼女に当たり散らし、虐待を繰り返すが、娘は母が若い頃やっていたと同じように、売りに走り、中年、初老の男達から大枚を巻き上げていた。
 そんな娘も15になった。誕生日のその日、懇願する義母に誘われるように娘は。
男肉 du Soleilのマーマレード男子

男肉 du Soleilのマーマレード男子

男肉 du Soleil

シアター711(東京都)

2014/11/17 (月) ~ 2014/11/19 (水)公演終了

満足度★★★★

祭りのノリに入れれば
 JK、女子高生物が、一幕で演じられる。

ネタバレBOX


 高2迄、全然友逹のできなかった小石川は、高3になると同時に、父の仕事の関係で転校。移った学校では、女子3人と仲良くなる。こうして、4人組に加わって初めて、早く終われと考えるだけだった学校生活が頗る楽しい充実したものに変わっていった。男子たちとも仲良くなって、一緒にキャンプに行ったり、恋を知ったりで、今迄の遅れを一挙に取り戻すような、健康的で明るく、誰もが経験する、恋のドキドキ感や照れ、そして、好きな人は自分が眼中に無く、自分を好いてくれる人は、自分の興味を惹かないとおいうまどろっこしさも経験しつつ、卒業を迎え、進学する迄を、描く。
 二幕は、一幕とは何の繋がりも無い。寧ろ、子の繋がりの無さが小気味よいほどである。余り上手では無いが、観客にエネルギーを貰いながら、プレデターと戦い抜き、最終的な勝利を収めるというだけの作品だが、その間、唯一の武器がダンスなのである。このバカバカしさをあっけらかんと楽しんで欲しい。この祭り行事に入り込めれば楽しめる。
たとえばあしたのこと、とか。

たとえばあしたのこと、とか。

ともサンカク

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2014/11/16 (日) ~ 2014/11/17 (月)公演終了

満足度★★★★

野暮用で開演前の作品は観れず。残念!
 放送室ジャックだの、結婚だの、呆けてゆくお馴染みさんの老女と売り子の、気の毒に思う心と迷惑を掛けているのではないかとの懸念の交錯に、老女の東京大空襲の記憶等を重ねた作品だののオムニバス。小林 知未の一人芝居だ。

ネタバレBOX


 心に残った科白は、シンプルだけど深いものだけが、本物だ。という表現。実際、自分も出雲崎に出掛けた際に、廻船問屋をやっていた2番目の母の先祖が建てた寺の世話になったことがあって、この寺では、味噌、醤油等も自分の家で作っているのだが、山菜などは、裏の山に入って採る。シンプルなのだが、実に深い味わいで、東京に戻って1カ月程は、テンヤモノを食べると味の元の味が、嫌で嫌で堪らなかった記憶がある。
 彼女が自分自身で到達している認識にも可也深いものがあるのだが、ハイデガーやサルトル、できればフッサール、そしてハイデガーの愛弟子であったハンナ・アーレントなども読んで欲しい。全然タイプの違う思想家ではウィトゲンシュタインもお薦め。
 更に、自らのスタンディング・ポジションを確立した後は、自由とイマジネーションを最大限に活かして精神の遊びを確立して頂ければと思う。「梁塵秘抄」はお薦め。また、多和田 葉子の作品もお薦めである。
舞台「靖国への帰還」

舞台「靖国への帰還」

ネリム

滝野川会館 大ホール(もみじ)(東京都)

2014/11/14 (金) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

我、どこからきてどこへゆくか
矜りは自ら立てるべし!

ネタバレBOX


 1945年5月末、未明の空へ飛び立った夜間戦闘機、月光に搭乗した武者らが海軍厚木基地を飛び立ち、B29の大編隊を迎撃したが、敵機は500機以上、友軍は漸く40機という劣勢であったが、武者らはB29一機を撃墜後被弾し、雷雲に突入して的の目を欺き、帰投しようとするが、雷雲を抜けた時、彼らが見た物は、見覚えのない物だった。
 武者が気付いたのは、どうやら病院である。戦友の姿は無かった。腹部の傷が酷く助からなかったのである。ところで、何だか様子がおかしい。米国の軍人と日本人が訪ねて来たのである。何と、彼は、21世紀の厚木基地へタイムスリップしてきたのであった。不時着したのが、月光だった為、政府は、この事実を隠蔽、助かった武者を観察したり、未だ信じられないタイムスリップの実例なら実証研究の対象にしようとしていた。偶々、彼の面倒を見るとう名目で忍び込ませていたスタッフから、靖国問題について戦時中の軍人が何を考えていたかの実例として政治的に利用できそうだとの話を聞いた総理、内閣調査室らが画策、首相VS武者のTV対談を組み、靖国公式参拝を既成事実化しようとの計画が持ち上がるが、諸外国からの抗議・外交問題化を懸念する声に負けて頓挫した。然し、武者自身は、自分が生かされているのは、何らかの意志によるものと靖国への忠誠とプロパガンダを素直に信じ込んだ人々のイデオロギーを喧伝する広告塔になろうと決意。反対派ジャーナリストとのTV討論に参加するが、スタジオ入りしていたオブザーバーの女性から本質的な批判を浴びせられ、己が見解の根拠を崩されてしまう。
 一方、心に秘めた純愛の対象であった女性は、未だ存命であり、彼女の兄の孫は、大伯母に瓜二つ。その彼女は、21世紀現在、見た目は自分と殆ど変らない武者に大伯母の愛が乗り移ったような恋愛感情を抱いていた。彼女は、武者と結婚を望んでいる。
 一方、大伯母、ゆみこは、武者 滋以外、総てが、空襲で焼け死んだ彼の家族の墓をずっと守り続けてきてくれていた。墓場で彼らは、偶然再会する。時は、流れ、二人の青春は返って来ない。
 武者を中心とする純愛の品の良さと純度の高さが、今作の一つの柱、そして靖国を巡る様々な立場、意見、主張がもう一つの柱だ。
 純愛に関しては、女性の歩き方、言葉遣い、しとやかさ、羞恥心の在り様などをキチンとした滑舌で伝え、演じたヒロインを褒めるべきだろう。
 武者役も、朴訥なキャラクターを過不足なく演じたと言って良かろう。自分は、武者の戦友を演じた役者の演技も気に入った。
 劇団の姿勢として、真摯に取り組んでいることが、良い印象を齎している。単に、靖国問題を掘り下げたのみならず、その本質に近い所迄、表現して見せたからである。
私見だが、靖国問題の本質とは、本来、個々人と崇拝の対象である神仏の不可侵の関係を宗教と定義するならば、宗教をスポイルし政治化したことである。実際、これこそ、靖国神社が歴史的に行ってきたことであるから、これは、宗教の脱宗教化という手術を強いた上で、宗教とは無縁な何かに対して宗教という名を冠し、大衆操作の具と化した政治であるという以外に的確な言葉を自分は見付け得ない、ということである。実際「国家神道」という政治的役割を歴史的に果たして来、現在もその延長にあるのが「靖国神社」というシステムなのである。これは、丁度、ユダヤ教を脱宗教化した上で政治的に利用している、イスラエルの「国家」イデオロギー、シオニズムにそっくりである。そんなものは、紛争しか生まないのではないか? 現に、公式参拝が国際問題化することを見ても。
捨て犬の報酬 終演しました!どうもありがとうございます!

捨て犬の報酬 終演しました!どうもありがとうございます!

おぼりん

pit北/区域(東京都)

2014/11/16 (日) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

ポチ
 宝石泥棒に拾われたポチは、彼とのミッションでしくじった。結果、吠えることを自らに禁じたが、それが極めて長期に亘った為、終には吠え方すら忘れてしまった。

ネタバレBOX


 そんなポチは、闘犬競技で最強の座を射止めたが、報償を与える為、犬ならば吠えろと命じられる。然し、吠えることができない。それで、過去の犬殺しを非難されたり、今回の戦いぶりが残虐だと罵られたりと散々な目に遭う。そこで、生い立ちを説明し始めたわけだが、最後の最後、ポチは、拾い主から誕生日の祝いを貰う。漸くに安堵の地平を得て、ポチは再び吠えることができるようになった。
 といった粗筋の作品なのだが、最後に「月を盗みに行こうぜ」という科白が歯居るのだが、こういう科白を嘘っぽくならないようにするには、背景い流す音楽は現代音楽の不協和音を多用した曲を用い、割れた鏡や硝子を底に敷いて水を張った盥のような容器を用意して青い照明を当て、スモークを焚く位のことはやっても良いように思う。基本的に演じていたのは1人なのだし、それは可能だと考える。
 またシナリオは、センチにせず、ドライに、更に別の地平から一、二本のサブプロットを入れて、構造を立体化したい。
そのときのはなし

そのときのはなし

おちないリンゴ

小劇場 楽園(東京都)

2014/11/12 (水) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

対峙するのは、永遠
 残る作品(人の心に、歴史に)を、と結成された女性作家4人によるシナリオを”おちないリンゴ”が舞台化。表現する者、即ちアーティストが対峙するのは、永遠である。その意味でこの4人の作家の姿勢を正当なものだと評価する。無論、そのような作家たちの作品を舞台化した「おちないリンゴ」も評価する。それは、同じ表現する者として、現在、評論を担当する評論者が言うのだ。そして、評論の仕事は判断することである。(追記後送)

ネタバレBOX

「そのときのはなし」おちないリンゴ 2014.11.14 14時~楽園
 1,4の短編で2,3の中編を挟みこんだ構成。因みに1は、黒川 陽子作の「アップルパイな人々」言の葉を分節化した上で、大抵は述語部分を脱臼させる。方言に置き換え、わざと間違えた音便化をしてみる。その表現に対しては、標準語で答えたり、それを受けた科白は、また別の方言を茶化してみたり、音だけ似せて、意味はシチュエイションで解るようにして別の脱臼をさせたり、残念ながら、この傑作を遅刻して途中から拝見したのだが、作家の言語センスに痺れた。手の込んだ言葉遊びにカラッと笑える。ルイスキャロルの笑いに似た頗るつきに優れた笑いである。
2作目、3作目は中編だ。取り敢えず、2作目「女2」坂本 鈴作である。
 企業で事務をしている29歳のOLの話。彼、中村と同棲している。付き合い始めて8年。3年目、5年目、7年目の危機を乗り越えてきているわけだが、彼女には、社内に憧れの君、吉田が居る。吉田は弁護士を目指しており、感じも良ければマスクも良い。タッパもある。所謂、高学歴で背が高くハンサムで性格が良い。女性にもてる要素を総て具えた男である。当然、モテル。だが、彼女にした所で、事務のベテランで薹が立つとはいえ、中村というアンパイを持ち、趣味で書いていると言い募る小説には中々の才を見せている。そんな彼女が、プロを目指す者も多い社内の同人誌に誘われ、合評会にも参加したりしながら、吉田との恋愛を夢想しつつ、同時にあわよくば作家への夢も実現したい、と夢を夢見るわけだが、一方、中村は親から結婚をせっつかれ、今迄の経緯から、彼女との結婚を自然に考えてもいる。唯、中村は普通の男で、彼女はエキサイトしない。彼女は、自分に心地よい夢想に浸っていたかったが、吉田は司法試験に合格、会社は辞メルことになり、彼女も居て近いうちに結婚する。夢破れた彼女は、送別会にも出ないつもりだ。同人誌に掲載されるかも知れなかった作品も今回は見送られた。才能が無かったからではないのだが、そのことは、彼女に筆を折らせた。夢想を投げ出し、総てを冷静に眺めて彼女は中村との結婚を幸せなものだと納得し、送別会へも出掛ける決意をする。
「女女女ニョニョニョ」&「Tポーズお願いします。」

「女女女ニョニョニョ」&「Tポーズお願いします。」

グワィニャオン

萬劇場(東京都)

2014/11/12 (水) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

スピンオフとも
段ボール箱が届いた。中に入っていたのは、女だった。著名小説の第一行として充分通用するこのコピーは、今作のリーフレットのものである。直接的なインスピレーションを作家が得たのは、繁華街の電柱に張り付けられたビラだったそうだ。(追記後送)

ごきげんさマイポレンド

ごきげんさマイポレンド

ゴジゲン

駅前劇場(東京都)

2014/11/13 (木) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★

モラトリアム
 3年前に解散した小劇場演劇のグループメンバー6人が再会。この間にあったことをアパートの一室で話すという設定だ。客に囲まれて真ん中に畳敷きの舞台が設えられている。

ネタバレBOX


 其々が、自分の3年間を語るのだが、旅あり、性あり、エコロジー回帰あり、就職問題あり、不倫あり、有為転変ありと試行錯誤が、恰もダチ同士の会話として演じられる。30前の男達のモラトリアム告白記とでも括ったら分かり易かろう。
 観客の評価は、ここで演じられた物語を演技ととるか、とらないかで大きく分かれよう。駅前劇場で靴を脱がせ、観客をリラックスさせた上、畳敷きの舞台上で演っているのだから、無論、演技ではあろう。然し、大人になり切らず、方向性を模索している姿をそのまま、俎上にあげたという意味では、まんまである。
 今後の選択に期待しよう。少なくとも、誤魔化していない。

巨人伝説

巨人伝説

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2014/11/06 (木) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

下司野郎とそれに従う女の国
“だんだらぼっち”という呪いを唱えて不如意な自らのアイデンティティーを誤魔化し続ける日本人の典型を、その醜悪な迄に滑稽極まるゴヤの巨人のような巨大なイマージュと誇大妄想によってアイロニカルに描いた安部公房の作品の舞台化だ。

ネタバレBOX

面子を守る為に、罪もない一家の家に放火する。理由は、朝鮮系というだけだ。女、小さな子供を含めて、一家全員が焼け死んだ。それを村長は、脱走兵を出した村の村長という非難から逃れる為に、村の巡査と共謀して実行したのだ。今も、この見苦しい精神構造は変わらない。事実をキチンと観ることより、建前を重んじ、利害だけを優先し、自らのアイデンティティーを曖昧化することによって倫理的責任を逃れようとする下司根性は一切変わっていないからだ。
日本人は、自分の胸に手を当てて、深く考えてみるべきだろう。
爆弾魔メグる

爆弾魔メグる

あたらしい数字

王子小劇場(東京都)

2014/11/07 (金) ~ 2014/11/10 (月)公演終了

満足度★★★

爆発することが社会と繋がらなければ弱い
 民衆が武装していないこの植民地では、爆弾と言っても手製か精々がプラスチック爆弾止まりだろうし、実際の爆弾の出てくる話だとは思っていなかったので、ほぼ予想通りの内容であった。だったら、もっと爆縮のコンセプトでも使えば面白くなったであろうに。覚醒することが、残酷なことであるのは、無論、覚醒している本人にとっての話であるのは、当たり前なので、その悲惨を悲惨として更に強烈に描くのに、爆縮概念は適当だと思うのだ。

ネタバレBOX


 メグはデートで大観覧車に乗る。彼は、トップの地点でキスするだろう。今、二人は頂点への運航で起こることに期待が膨らんで幸せである。然し、彼女がふと下を見ると、自分と同じようにプロポーズをされたり、抱擁されたり、花を贈られたりして幸せに感じている。自分と彼だけの世界だというのは幻想で皆、同じことを、ゴンドラの順番でやっているに過ぎない。これが彼女の地獄である。たったこれだけ、それで、彼女の心の中にある黒い風船ははち切れんばかりになったのだ。そうして自爆して土の下に埋められ、死ぬまで地底で生き、死んでゆく。誰にも知られること無しに。彼女には重力が無かったから爆縮することができない。そして忘れ去られた。たったそれだけ。
へたくそな字たち※無事公演終了致しました!ありがとうございました!

へたくそな字たち※無事公演終了致しました!ありがとうございました!

TOKYOハンバーグ

サンモールスタジオ(東京都)

2014/11/09 (日) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

文科省よ! 中学(夜間部)と本来なるべきだろう
描かれているのは1998年5月30日から1991年3月17日迄の3年間である。昭和63年から平成元年に当たる。

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 生徒は、十代から五十代までと幅広い。この夜間中学は大田区糀谷という設定になっている。大田区は田園調布を擁する高級住宅地が在ることでも知られるが、東京の町工場の一大集積地としても知られる。なぜなら、世界中で、この地区の特定の町工場にしかできない仕事をやっている工場が存在しているほど技術的レベルが高いからである。その点では、まいど1号以来、有名になった大阪の町工業地帯とも共通するものがあるかも知れない。何れにせよユニークな町である。
 さて、夜間中学の話である。自分も30年以上前に尾久の夜間中学を取材した経験を持つ。その時体験したことと被る部分が結構あって、拝見しながら、劇作・演出を手掛けた大西 弘記氏が、キチンとした取材をしているなと思わされる箇所が随分あった。今作には、無かったが、自分の経験から、字が読めない、ということはどういうことなのかを伺った具体例を1つだけ挙げておく。電車等に乗る時、初乗り運賃切符を購入なさるそうである。で、降りる駅は、アナウンスに気をつけていて、目的地の駅名がアナウンスされた所で降り、精算なさる、とのことであった。大変な苦労をなさるのだな、と改めて思い知らされた記憶がある。
 一方、生徒達の構成は、時代の鏡でもある。自分が取材した33,4年前の尾久では、中国残留孤児の方々、在日の方々、登校拒否で学校に通えなかった若者、終戦のドサクサで学校に通えなかった方などがいらした。給食が出ることや土曜日には、給食が無いことは、今作に描かれている通りである。
 教師の質が高いことも今作に描かれている通り。実に人間的で、包容力とイマジネーションに富み、而も謙虚で真摯な先生方には尊敬の念を禁じえなかったことも記憶に新しい。また、生徒達も苦労してきた方々、子ばかりだから、ホントに暖かい。真の連帯を果たすのが、弱者たちだけだというアイロニカルな真実も露呈するのが、夜間中学という場所である。その点も、実に巧みに描かれていた。
 役者総ての顔が良い。どの役を演じている役者も輝いているのだ。こんなに良い顔を役者全員にさせたシナリオ・演出も高く評価されるべきであろう。
 観て泣く必要はない。唯、今でも、夜間中学に通う人々が居るのだという事実を認識して欲しい。自分が取材した時点で、文部省(当時)は、夜間中学を正式に認めていなかった。現在はどうか調べていないが、今でもそうだとしたら、文科省は見直す必要があろう。無論、自分達の態度をだ。
サムライ・シェークスピア "R&J”

サムライ・シェークスピア "R&J”

シアタージャパンプロダクションズ

笹塚ファクトリー(東京都)

2014/11/05 (水) ~ 2014/11/09 (日)公演終了

満足度★★★

もっと深い所で構造構築をしないと
IDA K.Lang TheaterでのNY Performances東京プレビュー公演と銘打たれた今作。作品コンセプトとしては、Theatrical performanceということなのだろうが、シェイクスピアを生誕450年で色々な催しがあるであろう英国ではなくアメリカで上演するというのも、ちと腑に落ちないものがある。

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が、イギリスでシェイクスピア俳優ということになれば、それだけで大したステータスだから、母国語を英語とする訳でも無い日本人が、英国で上演するには、余程の実績が無ければ難しいだろうというのは頷ける。だからといって、業を磨かなくて良いということには無論ならない。
大体、performの意味を軽く取り過ぎているのではないか? 接頭辞、perには、完全にという意味がある。performを演ずると訳す場合でも、完全に成し遂げるからこそ、演じることで過不足なく伝わるのであり、それ以外ではない。リーフレットによれば、法廷心理劇の手法を用いているということだが、それならば、それが成立する為の構造をしっかり作らなければならない。「ロミオとジュリエット」の背景にあるものを深く掘り下げ、同時代の日本の武士の価値観を深く掘り下げた上で対比し、ロレンスの位置を弁証法的に下降させるということにすれば、リーフレットで述べられていることの半分以上は実現できたであろう。然し、構造的にこの基礎部分ができていない。結果として、役者達の間が、どうにも締まりのないものになってしまって、其々のポジショニングも曖昧化し、ドラマツルギーとして結実していない。演出にも難がある。オープニングのダンスシーンでロミオ役が、横笛を吹いた後、サッシュベルトの後に横笛を差すのに手間取ったり、その後、全員、扇を用いて踊った後、矢張りサッシュベルトに差すのに手間取ってタイミングが狂う。こんな凡ミスは、これらを収納する容器を足に取り付けておけば簡単に片付く問題だろう。
また、剣は、左腕で振るものである。殺陣の最中、右手だけで振るわなければならない場合は兎も角、構えている時点で右腕で刀を支えているのが一目瞭然では話にならない。演出家は、キチンと基本を押さえるべきである。
以上の点を意識して実践できれば、格段に良くなるだろう。

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