糸洲の壕 (ウッカーガマ) 公演情報 糸洲の壕 (ウッカーガマ)」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.4
1-20件 / 21件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/08/17 (日) 14:00

    太平洋戦争末期の沖縄戦、病院壕内の軍医・学徒動員の女学生らを史実に基づいて真摯に描いた力作。
    装置(枠組みだけの大きな立方体を3つ組み合わせたものが左右に聳え立っている)こそ抽象的だが話の展開は生々しく、そこでの人物たちの戦争への疑問や怒りが直接的に伝わってくるというか、そのまま観客のものになるよう。
    また、医薬品不足な中、モルヒネと青酸カリはあるとか退却時に歩ける者だけ連れてゆくとかの状況が現実にあった恐ろしさ。前々日に観たものとは全く違う意味で「やだなーやだなー、こわいなーこわいなー」だよね。
    それでいて、最後は人道的な方向に向かう(=稀有な例とのこと)が当時このような判断をした人物がいたことが救い。
    そして終盤の小池少佐の「生きてこの事実を伝えよ」という言葉が結実したのが本作の元となった資料群であり本作であるということに感動し、直接語ることができる人が減りゆく中、こういう方法で語り継げると改めて気付く。
    あと、演劇やダンスなどをしている小学生から高校生をゲストに招いてのアフタートークも面白かった。

    ネタバレBOX

    劇中の疑問は
    「お国のために死ぬとはこういうことなの?」
    「なぜこうなってしまったのか、なぜこうなる前に手立てをしなかったのか」
    など。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    極限状態では人は正気でいられない。とても重い内容で、色々と考えさせられました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    まずはこのような作品を企画、上演いただいたことに感謝申し上げたい。私は沖縄戦についてほとんど知識がなかったし、この作品に出会わなければ興味を持たずに過ごしていただろう。

    さて作品であるが上演時間約130分が私には長く感じられた。何故なら物語としての魅力が乏しかったと思うからである。先の「観てきた!」コメントで「教育演劇のような...」と仰っていた方が居られたが私の抱いた思いも近いかもしれない。少々乱暴で失礼な物言いになるかもしれないがお許しいただきたい。作者は伝えたい思いが溢れていて、それをすべて詰め込んだような物語だな、と思った。「戦時下でもこんな兵隊さんがいました」、「看護活動はこんな悲惨な状況でした」etc...、いくつものエピソードを各場面に当てはめて、それをつなぎ合わせて物語を組み立てているように見えたのだ。もちろん各場面での登場人物は、笑ったり怒ったり舞台上での生が感じられるのだが物語全体を通して見ると物語が本来持っているべきはずの魅力(あえて「物語のうねり」というが)が感じられない。そういう意味では「ふじ学徒隊」と対をなして物語の核となる人物、小池隊長のエピソードも多くのエピソードの中に埋もれてしまった感がある。ついでに言うと、小池隊長と里に残してきた妻が会話を交わす短いシーンが何回か出てくるが(夫婦の愛情や隊長の人柄を表現したものか?)なんとも中途半端なシーンに感じられて必要なシーンだったのか、疑問が残る。

    さりとて、戦争における非人間性、残虐性、狂気などを伝え、観客の想像力を喚起し、各自が二度と戦争を起こしてはいけないという思いを抱かせるには十分な力を秘めた作品だったと思う。改めてこの作品に出会えてよかったと思う。

    もう一つ、好きなシーンについて書きます。小池隊長が隊の解散を宣言した後、(どしてそうなったのかは忘れたが)少女たちに歌を歌うことを所望し彼女たちが童謡「ふるさと」歌ったシーン、これは沁みた。これこそドラマだな。

    余談だが、先日、ニュース番組を観ていたら俳優の渡辺謙さんが反戦への思いについてインタビューを受けている中で次のように語っておられた。「戦争について知らないことばかりなのを引け目に感じることはない。知ろうとすることに意味がある」。心に留めておこうと思った。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    舞台美術は2mほどの正方形枠を左右に
    3つ程置いたシンプルなもので
    その分 衣装などがしっかりとしていました
    卒業証書をかたにしての従軍で
    日本人得意の同調意識もあっての
    従軍看護を淡々と劣悪なる状況に向い
    過酷になってゆく戦況を背景に
    見事に表現していた舞台であり
    引き込まれました

    ネタバレBOX

    昭和20年の終戦の年に生まれた女性が
    孫を連れて沖縄に旅行に来て
    自分の母が体験した沖縄戦を
    孫娘に語って聞かせ
    その話の再現が舞台作品となってる体です

    看護助手としての従軍ではあるものの
    戦闘で負傷した兵士の四肢を切断するばかりで
    碌な医療品もない状況が進んでいき
    段々と精神が削れられ終には部隊の解散となり
    軍人さんは全て戦死し
    女学生らは米軍の捕虜となり悲惨なめに
    あったようだが作中ではボカしてましたね
    この話を伝えた祖母の母は
    首里の守備隊にいた婚約者とのあいだで
    子を成していて妊娠4か月だったので
    凌辱を免れたようだが
    学友達は後世にこの戦争の史実を伝え
    生き延びよと隊長の最期の命令あったが
    母は何も語らず死後に見つけた日記と
    自分の調べたことを孫娘に伝えて
    命を繋ぐ尊さを託したかったと
    一人孫娘の妊娠に気付いた祖母は語り
    終演となります

    作中で女学生たちが歌うのも
    何か良かった

    野戦病院の医薬品がモルヒネと多量の青酸カリ
    しかなかったとか悲惨通り越しますね
    医療軍人さんらも専門が歯科とか産婦人科とか
    眼科など外科が1人もいないとか
    末期の戦争デスよね
  • 実演鑑賞

    終戦80年の年に上演された作品。

    ネタバレBOX

    この劇を見るまで実感として抜けて落ちていた事に気づきました。
    当然のことではあるのだけど、80歳の人には、戦時中の記憶がないということ。
    80歳というとかなり高齢者だけど、そんな人でも戦争は体験していない。
    改めて気づき、愕然としました。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    小池勇助軍医については、ドキュメンタリー映像や別の舞台を観たことがあり、地元の偉人でもあることから、私自身本を書いて上演したことがあります。
    沖縄戦について、ひめゆりなどとは異なる結末のお話である一方、犠牲者も少なかったからか、あまり扱われることもないですが、多くの人に知ってほしいお話であり、今回舞台にしていただき胸が熱くなる思いです。
    風雷紡さんの観劇は三度目ですが(前回の舞台も長野…)、風雷紡さんらしく史実に対して誠実に真っ直ぐ描いた、教育演劇のような、教科書のような作品だなぁと思いました。

    現代のおばあちゃんが、亡くなった学徒隊の娘という設定で、語り継ぐ学徒隊本人が亡くなりつつある現実が現れていて、戦争の現実を後世に伝えていくタイムリミットを感じました。

    色々な人に観ていただき、特に学生さんや若い人に知って欲しいです。

    ネタバレBOX

    素人ながら気になったところをいくつか。

    ふじ学徒隊の話は規模は小さいとしても、沖縄戦のシンドラーや杉原千畝だと思っていて、ひめゆりなど他の学徒隊が、「冷酷な」本土の日本兵の道連れに合い命を失ったという構図に対して、同じ本土の一人の軍医によって多くの命が助かった実話です。
    戦争という極限状態で3日間悩んで女学生達を助けることを決断するのですが、隊長として抱えるものもあった中で、なかなか出来ることではなかったのではないかと思います。
    当日パンフにも書かれているのですが(知らないお客さん向けには載せないでも良かったかも)、このあと小池隊長は自決してしまいます。自決は学徒隊を助ける前から決めていて、巻き添えには出来ないと思ったのか、学徒隊には生きろと言いつつ自身は自決しなければならなかった事情は何だったのか、本土の家族や部下のことなど葛藤はなかったのか、また、自決した小池隊長を発見したのは落ちていたタバコを届けようと壕に戻った女学生だったかと思うのですが、届けようとまでした女学生の行動、小池隊長の遺体を発見したときの思いなど、ちょっと観たかったところもあります。

    史実に基づいたお話はどこを拾ってどこを削るか、書き手によって違うところが良いのですが、私としては小池隊長の人柄、心情や葛藤によりフォーカスしたものも観たかったかとも思います。

    部下には厳しかったが患者や女学生には優しかったとの話もあり、隊長と学生との直接の関わり合い、優しかったというエピソードがあっても良いかと思いました。大切なことを言わない人設定だったのと、部下が大分代弁して話を進めてしまっていたり、直接は無関係な野戦病院のエピソードが多く、小池隊長の話が薄まってしまった気もします。
    この辺りも証言してくれるおばあ達が少なくなってどんな関わりがあったのか情報も集められないとは思いますが。

    おばあちゃんと孫娘の設定も、ふじ学徒隊は結構語り部として映像でも証言している中、隊長に命令されながら死ぬまで話さなかった理由とか、飛行機に乗ってから行き先を話すものか、孫娘があれほど戦争の話を嫌がるものか、嫌がる様子が感情的で子供っぽくて妊娠する設定も不自然に思え、本題と違うところで話が広がりすぎかとも思いました。

    小池隊長が雨男だったり佐久や浅間山の話も後に活かされるのかと思ったらそうでもなかったり、部下のタバコも、死後の話を知っている私からするとキーアイテムに思えてしまい、回収されなかったのが気になったりしました。

    いずれ、こうした話を掘り起こして伝えられるのは演劇の良いところで、観に行かれて良かったです。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    戦後80年…沖縄の悲劇を考えさせられる、素晴らしい舞台でした。
    風化させてはならないと同時に、自分自身を含めた、戦争を知らない、次世代への継承の難しさも、改めて考えさせられました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    8/16と8/18の2回鑑賞しました。とても良かったです。
    始まりに一人一人がちょっとずつ舞台に出てきて、沖縄戦の世界に自然と引きずり込まれていきました。
    話は一対の男女で進行し、それぞれのエピソードが混じって、面白い演出でした。そして、戦争の為に失ってしまうものの大きさに改めて気づかされました。このような戦争は二度と起きてはいけないことなのだと痛感しましたが、今の世の中、劇中にもあった同調圧力やセクショナリズムを感じるところがあります。
    絶望的な戦況で負傷者の治療もままならならず、次第に追い詰められていく状況の中でやはり小池軍医の人としての優しさに救われました。生存者が比較的に多かったのも小池軍医の判断によるところが大きく、指導者で全然変わるものだと思いました。佐久市長のお話も良かったです。
    一点、疑問だったのが、おばぁちゃんは当事者ではなく、ひいおばあちゃんから聞いた話でひいおばぁちゃんは何も話してくれなかったのに、なぜ孫娘に当時の状況を鮮明に伝えられたのかな?と思いました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「ふじ学徒隊」の事は、文献やドキュメンタリーで名前は知っていましたが、実際に舞台で観ることで、当時の凄惨さや少女たちの苦悩がより鮮烈に伝わってきました。当時の皇国思想の中では、冷静な判断など到底できなかったのでしょう。それでも最後に小池隊長が「死んではならない」と告げ、生き延びた女生徒たち。その思いと命が、今日まで繋がっていることの尊さを強く感じました。
    そして、こうして舞台を観て自由に感想を語れるのも、戦後の今だからこそ。当たり前ではない平和の時間に、改めて感謝の気持ちが湧きました。
    ただ2時間を超える大作でしたが、登場人物が多いため、それぞれのエピソードがやや薄まってしまった印象もありました。
    それでも全体としては、忘れてはいけない歴史を心に刻む貴重な作品だったと思います。戦後80年の今、この舞台を観られたこと自体が大きな意味を持つのだと感じました。

    ネタバレBOX

    余談ですが、公演中に写真を撮っている方がいて、せっかくの舞台に集中できなかったのはとても残念でした。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    風雷紡at座高円寺というだけで特別感。これまで広くてd倉庫、通常は楽園での記憶しかなく、昭和の事件に肉薄する舞台には狭い空間こそ相応しい感じもある。沖縄、ガマと来ればやはり大戦での沖縄戦が題材だろうか・・と推察しながらも新劇系の反戦ドラマは想像できない風雷紡。興味津々で劇場へ訪れた。
    座高円寺1の満席状態というのを初めて見た(やや後方の見渡せる席からずらっとカボチャが並んで隙間がない)。ちょっと前の万有引力「奴婢訓」と、だいぶ前何かの公演で当日押しかけて満席と断られた事があったが、客席に座っての満席の光景は、壮観である。
    女子挺身隊に駆り出された地元の女学校生と、当地に配属された軍人たち。臨時野戦病院=ガマ(洞窟)での群像が描かれる。鉄の暴風の艦砲射撃を命からがら逃れた先で、軍司令部が戦闘放棄する時点までの沖縄地上戦の期間を、男女一対にそれぞれエピソードを設けながら丁寧に描いている。
    後日追記予定。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    最高でした。最後嗚咽しました。2時間を起こす長尺の舞台ですが長さを感じられないぐらいのめり込みました。いろんな人のいろんな思いがいろいろ交錯していてほんといろいろ考えさせられました。ほんと、80年前の沖縄では人の数だけいろんな思いがあったんだな…と思いました。知人にも「時間あればぜひ行って!」とさっそく紹介しておきました。最高の時間をありがとうございました。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    村田さんが出演されるとのことで、昼の回を観劇。
    村田さんの殺陣をしない役は初めて拝見しましたが、良いお声は変わらずでした。

    女学徒の悲惨な運命に涙したけれど、国民を巻き込んで戦争を継続し続けたことに対する怒りが湧き出て仕方がなかった。
    太平洋戦争関連の舞台や映画を見るたびに、過去に悲惨な戦争があったことを語り継ぐだけでなく、情報収集力・分析力、戦況・情勢を俯瞰してみる力、判断力といった能力を持たない軍部、政府のせいで国民が犠牲になった、という事実も併せて伝えないといけないな。

    一つ、気になった点。
    孫娘ちゃんのおばぁちゃんに言いたくても言えない事がちょっと想像を超えててびっくり。命と沖縄のことを「継なぐ」ということなんだろうけど、そうじゃないよ、と思いました。孫娘ちゃん、家族関係は結構良好そうだし、今時の子だと思うから、その事態で思い悩む感じではないのでは?と思ってしまいました。そもそも、飛行機、乗っちゃダメだし。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    登場人物は多いが、みなセリフがよく聞こえ、最初から最後まで圧倒された。各人それぞれの立場での葛藤もちゃんと描かれ、現在まで続く物語だという思いが込められた舞台。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/08/17 (日) 19:00

    重い題材が重く演じられるのだが、息を呑んで観ていられる。129分。
     戦争末期の沖縄・糸州の壕の野戦病院の物語。学徒動員で看護に派遣された「ふじ学徒隊」の女生徒たちが体験した物語を濃密に描くが、肯定的な展開だけでなく、葛藤も反発もしっかり描くあたりがいい。しかもそれを現代の祖母(下平久美子)と孫(吉水雪乃)の回想風にしたことで、ちょっとだけホッとできる作りになっている。25人の登場人物は多いが、そのそれぞれの物語を描く脚本も見事だが、広い舞台で演じる役者陣も見事。開演の5分前から登場人物達が舞台に現われ、ちょっとずつ演じていくあたりで、自然に物語に入るのも巧い。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    わかりやすい悲劇や美談としてではなく、色々な葛藤や矛盾を抱えた人々の話だったのは非常に好感が持てた。だからこそ、特定の壕をタイトルにしたのであれば、そもそも住民を追い出した場所であった事もきちんと描いてほしかったなぁ、とも思う。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    戦後80年。今日のお芝居からも真実が見つかるだろうと思って来ました。ウッカーガマとひめゆりの場所が近いことに驚きました。解散のタイミングが約1週間違ったことで生死を分けた。戦争ですね。

    脚本、演出、演技とも素晴らしいものでした。舞台のうえですが沖縄戦を経験した役者の皆さんが、これからもその経験を舞台の上で継承して頂いたらいいなと。舞台は歴史の証人であり、継承する力があるのではないかとおもいます~

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/08/17 (日) 14:00

    座席1階

    先の戦争でも凄惨極まる沖縄戦を描いた。舞台は糸満市のウッカーガマ。陸軍の野戦病院となり、ここで看護師として働いた「ふじ学徒隊」の女学校生徒たちの群像劇だ。

    野戦病院を率いた小池軍医が、米軍上陸舞台が迫り病院を放棄した際、「君たちには生き延びてここであったことを伝えてほしい」と自決を強いなかったことで働いた女学生の大半が生き残ったことで知られている。日本軍は国民を守らないどころか盾にもしたという沖縄戦の中で、こうした異例と言える上官の振る舞いが舞台のメーンとなっているのは当然だろう。だが、ウッカーガマは元々、付近の住民が先に避難していた場所で、軍は彼らを追い出して野戦病院にしたということなどを忘れてはなるまい。そうした点で、命を賭して軍に協力するのは当然と学徒隊への志願を迫る教師の存在など、国民への同調圧力もしっかり描かれていたのはよかった。
    なぜ、長野県佐久市が後援になっているか不思議だったが、小池軍医は同市の出身なのだそうだ。彼の故郷の話も描かれていたのだが、舞台の一貫性からみると浮いている感じがした。小池軍医の振る舞いが立派なのは、佐久市とは特に関係がないと思うからだ。仮に後援を取り付けるためにこうした構成にしたならば、そこは蛇足だったかなと思う。

    客席は満員で、小学生など多くの子どもたちがいた。学校で沖縄戦を習う前からこのような舞台を見て日本が約80年前に経験した戦争を考えるのは、大変意義がある。アフタートークは客席も参加して行われたようで、こうした劇団の取り組みには敬意を表したい。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    初日観劇。戦後80年、風雷紡が描く渾身の反戦劇。見応え十分。
    戦前・戦中そして戦後生まれでは、当たり前だが 戦争への思い(リアルさ)は全然違うであろう。戦争の記録は残るかもしれないが、薄れゆく人の記憶と伝える人が少なくなる現実。しかし、戦争という最悪の不条理を語り継ぎ、今ある平和で平穏な日々を守らなくてはならない。

    劇中の台詞にもあるが、「言葉は、声に出して伝えることが必要な時がある」、本作では その語り継ぎに或る工夫を凝らしている。それをどう捉えるか。公演は、脚本や演出の素晴しさ、それを役者陣の熱演が見事に支えている。
    (上演時間2時間10分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術、中央は階段状で 上手/下手にパイプ管で作った枠だけの立方体の組み合わせ。裸電球やロウソクの灯り。シンプルだが良くできた野戦病院 壕イメージ。舞台全体が糸洲の壕イメージ、枠立方体が いくつかある壕の外観。また客席通路を使用した演技は、場内を沖縄全島に見立てている。

    物語は「ふじ学徒隊」と呼ばれ、糸洲の陸軍野戦病院(壕)で看護活動に当たっていた少女たちを中心にした群像劇。それを1人の看護少女の子 百合子(昭和20年生まれ)と その孫 陸華が沖縄旅行の中で回想する形で紡がれる。ふじ学徒隊の1人 喜久子が終戦の年に生んだのが百合子。喜久子はけっして戦争のことは話さなかったが、遺された書簡等から その記憶は無かったことには出来ないし、思いは語り継ぎたいと…。史実(戦禍)に基づいた舞台化、その事実と舞台という虚構の世界を巧みに交えた公演。それは戦争の愚かさ 悲惨さを浮き彫りにする。そこに、公演のテーマであり訴えたいことが明確になっている。

    野戦病院(壕)への招集にあたり、小池隊長から家族との関わり等で従軍出来ない者は帰郷してよい との話があった。早い段階で 隊長の人柄を描いている。一方、仲間や教師からは、約束や奉仕といった同調圧力。負傷していても海軍兵は治療せず、また民間人は壕へ避難することも出来ない。戦時という究極な状況下において、セクト主義的行為は自滅への道に転げ落ちていく。軍紀による人間性の圧殺を見事に描き出す。軍司令官は、戦陣訓を説き 沖縄住民を巻き込んで「最後の1人まで戦え」と言い、一方 小池隊長は「死んではならない、君たちには務めがある。必ず親元へ帰れ」と言い聞かせる。そして25名中22名が生還した。

    群像劇であるが、ふじ学徒隊という集団描写だけではなく、1人ひとりの性格なり情況を丁寧に描き、その人物像をリアルに立ち上げる。この群像劇にして人間劇は、少女達だけではなく、野戦病院の人々すべてに当てはまる。野戦病院における生と死の間、そこに戦争の実態を生々しく活写するよう。衣裳や所作など当時を思わせる演技(緊張・緊迫感など)が見事。そして脚本の素晴しさは勿論だが、それを観せ聴かせる演出が秀逸。照明は青・赤・白銀といった単色だが印象的な色彩、音響は波や銃撃音といった効果音。そして少女たちの合唱や教頭先生の独唱、そして出演者全員による歌など 余韻付け。

    命の繋がりや地続きの時間、先人の苦しみ痛み それを後世の人々へ どう語り継ぐのか、そんな考えさせる秀作。戦争体験者が少なくなる中で、間接的ではあるが その思いをどう伝えるのかを 模索した公演。こういう作品こそ再演し続けてほしいものである。
    次回公演も楽しみにしております。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     観るべし! 華5つ☆ 初日を拝見、約2時間15分、休憩なし。

    ネタバレBOX

     太平洋戦争時、沖縄は本土防衛の最前線となった。今作は、陸軍の医療部隊が最前線に設えられたガマ内の傷痍軍人に対して行った「医療行為」の実際を、その補助として携わったふじ学徒隊女学生たちの曾孫に敗戦後の1945年生まれの祖母が自らの産みの母の義務(戦争体験を後代に伝える義務は、朱里の本部が解体後その指揮系統は各部隊長が担えとの司令部指令により通達された経緯からこの医療部隊の隊長であった小池隊長が最後の命令として生き残っていた少女たちに命じたもの。即ち生きて親元に帰り自分達の体験した戦争の実態を伝えよとの指令であった)
     ファーストシーンでは、若い女学生の華やぐ声音の響く中、頭に包帯を巻いたり、脚を負傷してびっこを引いたりする負傷兵が舞台上を歩き回る。背景にはいつの間にか「海行かば」が歌われている。非常に上手い導入部である。また、これらに覆いかぶさるように裕仁の開戦時1941年12月8日に発された「宣戦の詔書」の宣言が流れる、{それは侵略している大日本帝国を正当化し侵略されたが故に立ち上がった中華民国が恰も悪であるかのような物言い、また中華民国を支援する英米とも戦禍を交えることになったこと(=太平洋戦争開始)、断じて勝つべきこと、虜囚の辱めを受けるより死すべきことなど、トンデモない奢りと下らない精神主義に凝り固まった非合理的発想そのもののプロパガンダ}であるが、物語冒頭にこのような発言を置き、最後に所謂「玉音放送」を流してサンドイッチにすることで裕仁の戦犯性と反省の全く無かったことを示して何気に挟み撃ちにしていると自分は解釈した。無論、何も対比はこればかりではなく至る処に散見している。演劇など、文化が人間に対し、平和時に為すべきことは、如何に昏い未来を防ぐか! への補助機能を果たすことでもあろうから、悪は悪とキチンと言うべきなのである。いつの時代の若者も、本来悪戯っ気に溢れキャピキャピしているのが在るべき姿であろう。未だシリアスな現実というもの・ことに出遭わずに済み、その実態が如何に苛酷でまともな精神に異常をきたさずにはおかないものか、に気付かないうちは。だが、部隊に参加した少女たちは殆ど1人の例外も無く苛酷な現実に出会い、どんなに悲惨な状況を見、出遭っても何も感じなくなってゆく。そうなって行く自分自身を怖いと思いながら。それが出来なかった余りに感受性に恵まれた少女たちは、目に見えぬほど、徐々に静かに、確実に狂ってゆく。他に道は無いかの如く・・・。
     かく言う自分も実際に最前線に行って戦争を体験した経験はない。それ故に静かに狂ってゆくことの恐怖を実体験せずに済んでいる。幸いなことである。支援している場所が場所だから、無論紛争地に入ったり難民キャンプに入ったり、軍事基地と向き合ったりということはあったが、戦争体験では無い。その為か、実際の戦争には入って行けない、と実感させるだけの舞台であったことに感心させられた。 
     最初と最後に裕仁の演説が流れるのも効果的である。何という極楽蜻蛉ぶりであることか! 大日本帝国憲法下では唯一の主権者で在りながら敗戦責任を取る行為は退位を含め一切せず、日本人だけで300万以上、アジアの人々を1千万以上も死なせておきながら、一切の責任を取らずに済ませたのみならず、敗戦時にはシベリア抑留者として残隆兵をソ連の苛酷な強制労働に従事させ、沖縄の人々をアメリカ軍制下に置いて土地収奪、米軍基地建設、婦女暴行、殺人、暴力行為等々好き放題をさせておきながら自分はしゃあしゃあと天皇制の上にふんぞり返っていた。三種の神器が大切だったと言ったことが伝えられている。こんな者を頂点に置き最前線兵士死者の殆どが病や食料不足、安全な飲み水不足や虜囚の辱めを受けずに死すべし、との訓示によって無駄死にさせられていった。ふざけちゃいけない! 
     ところで敗戦後、主権は我ら国民一人、一人が担うようになった。即ち現在奄美から沖縄島嶼部に及ぶ軍拡と日本国土の僅か0.6%を占めるに過ぎない沖縄だけで在日米軍基地の約70%を置き続けていることの責任は我々日本国民自身に在る。このことの意味する処を深刻に受け止め、行動せねばならぬ。伊勢崎 賢治氏の言われる通り、日米地位協定のとんでもない内容は、総て国際標準に改めねばならぬことは当然である。そうしなければ、日本全土が台湾有事の際には前線となり多くの原発が立地している日本海側の原発が安全に保たれることなど、それこそ「想定外」ということになろう。アメリカの最前線として機能させられる植民地の実態についても想いを馳せるべきなのである。戦争というものが勝敗によって決せられるのが基本である以上、そんな愚行を犯す前に為すべきことは、真剣に対処しておくべき最低限の最重要課題である。今作を含め敗戦後80年の今年、多くの戦争物が演劇でも上演されている。今作は、その中でも優れた作品ということができよう。観るべし!
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    自分はね、戦争ものの芝居って苦手意識があるんですよね。ただ、これは、良かった。
    良し悪しじゃなくて……。
    こういう時代、歴史があった。
    そこに生きてる人たちがいた。
    それは、今の我々にも地続きであるって、感じられる芝居。
    医者、医療の話でもあって、トリアージについても考えさせられたり。
    強く描かれたのは、生きるってことだと自分は感じた。

    悪役として描かれる人がいないのが、本当に良かった。

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