糸洲の壕 (ウッカーガマ) 公演情報 風雷紡「糸洲の壕 (ウッカーガマ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    初日観劇。戦後80年、風雷紡が描く渾身の反戦劇。見応え十分。
    戦前・戦中そして戦後生まれでは、当たり前だが 戦争への思い(リアルさ)は全然違うであろう。戦争の記録は残るかもしれないが、薄れゆく人の記憶と伝える人が少なくなる現実。しかし、戦争という最悪の不条理を語り継ぎ、今ある平和で平穏な日々を守らなくてはならない。

    劇中の台詞にもあるが、「言葉は、声に出して伝えることが必要な時がある」、本作では その語り継ぎに或る工夫を凝らしている。それをどう捉えるか。公演は、脚本や演出の素晴しさ、それを役者陣の熱演が見事に支えている。
    (上演時間2時間10分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術、中央は階段状で 上手/下手にパイプ管で作った枠だけの立方体の組み合わせ。裸電球やロウソクの灯り。シンプルだが良くできた野戦病院 壕イメージ。舞台全体が糸洲の壕イメージ、枠立方体が いくつかある壕の外観。また客席通路を使用した演技は、場内を沖縄全島に見立てている。

    物語は「ふじ学徒隊」と呼ばれ、糸洲の陸軍野戦病院(壕)で看護活動に当たっていた少女たちを中心にした群像劇。それを1人の看護少女の子 百合子(昭和20年生まれ)と その孫 陸華が沖縄旅行の中で回想する形で紡がれる。ふじ学徒隊の1人 喜久子が終戦の年に生んだのが百合子。喜久子はけっして戦争のことは話さなかったが、遺された書簡等から その記憶は無かったことには出来ないし、思いは語り継ぎたいと…。史実(戦禍)に基づいた舞台化、その事実と舞台という虚構の世界を巧みに交えた公演。それは戦争の愚かさ 悲惨さを浮き彫りにする。そこに、公演のテーマであり訴えたいことが明確になっている。

    野戦病院(壕)への招集にあたり、小池隊長から家族との関わり等で従軍出来ない者は帰郷してよい との話があった。早い段階で 隊長の人柄を描いている。一方、仲間や教師からは、約束や奉仕といった同調圧力。負傷していても海軍兵は治療せず、また民間人は壕へ避難することも出来ない。戦時という究極な状況下において、セクト主義的行為は自滅への道に転げ落ちていく。軍紀による人間性の圧殺を見事に描き出す。軍司令官は、戦陣訓を説き 沖縄住民を巻き込んで「最後の1人まで戦え」と言い、一方 小池隊長は「死んではならない、君たちには務めがある。必ず親元へ帰れ」と言い聞かせる。そして25名中22名が生還した。

    群像劇であるが、ふじ学徒隊という集団描写だけではなく、1人ひとりの性格なり情況を丁寧に描き、その人物像をリアルに立ち上げる。この群像劇にして人間劇は、少女達だけではなく、野戦病院の人々すべてに当てはまる。野戦病院における生と死の間、そこに戦争の実態を生々しく活写するよう。衣裳や所作など当時を思わせる演技(緊張・緊迫感など)が見事。そして脚本の素晴しさは勿論だが、それを観せ聴かせる演出が秀逸。照明は青・赤・白銀といった単色だが印象的な色彩、音響は波や銃撃音といった効果音。そして少女たちの合唱や教頭先生の独唱、そして出演者全員による歌など 余韻付け。

    命の繋がりや地続きの時間、先人の苦しみ痛み それを後世の人々へ どう語り継ぐのか、そんな考えさせる秀作。戦争体験者が少なくなる中で、間接的ではあるが その思いをどう伝えるのかを 模索した公演。こういう作品こそ再演し続けてほしいものである。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/08/17 13:28

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