糸洲の壕 (ウッカーガマ) 公演情報 風雷紡「糸洲の壕 (ウッカーガマ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     観るべし! 華5つ☆ 初日を拝見、約2時間15分、休憩なし。

    ネタバレBOX

     太平洋戦争時、沖縄は本土防衛の最前線となった。今作は、陸軍の医療部隊が最前線に設えられたガマ内の傷痍軍人に対して行った「医療行為」の実際を、その補助として携わったふじ学徒隊女学生たちの曾孫に敗戦後の1945年生まれの祖母が自らの産みの母の義務(戦争体験を後代に伝える義務は、朱里の本部が解体後その指揮系統は各部隊長が担えとの司令部指令により通達された経緯からこの医療部隊の隊長であった小池隊長が最後の命令として生き残っていた少女たちに命じたもの。即ち生きて親元に帰り自分達の体験した戦争の実態を伝えよとの指令であった)
     ファーストシーンでは、若い女学生の華やぐ声音の響く中、頭に包帯を巻いたり、脚を負傷してびっこを引いたりする負傷兵が舞台上を歩き回る。背景にはいつの間にか「海行かば」が歌われている。非常に上手い導入部である。また、これらに覆いかぶさるように裕仁の開戦時1941年12月8日に発された「宣戦の詔書」の宣言が流れる、{それは侵略している大日本帝国を正当化し侵略されたが故に立ち上がった中華民国が恰も悪であるかのような物言い、また中華民国を支援する英米とも戦禍を交えることになったこと(=太平洋戦争開始)、断じて勝つべきこと、虜囚の辱めを受けるより死すべきことなど、トンデモない奢りと下らない精神主義に凝り固まった非合理的発想そのもののプロパガンダ}であるが、物語冒頭にこのような発言を置き、最後に所謂「玉音放送」を流してサンドイッチにすることで裕仁の戦犯性と反省の全く無かったことを示して何気に挟み撃ちにしていると自分は解釈した。無論、何も対比はこればかりではなく至る処に散見している。演劇など、文化が人間に対し、平和時に為すべきことは、如何に昏い未来を防ぐか! への補助機能を果たすことでもあろうから、悪は悪とキチンと言うべきなのである。いつの時代の若者も、本来悪戯っ気に溢れキャピキャピしているのが在るべき姿であろう。未だシリアスな現実というもの・ことに出遭わずに済み、その実態が如何に苛酷でまともな精神に異常をきたさずにはおかないものか、に気付かないうちは。だが、部隊に参加した少女たちは殆ど1人の例外も無く苛酷な現実に出会い、どんなに悲惨な状況を見、出遭っても何も感じなくなってゆく。そうなって行く自分自身を怖いと思いながら。それが出来なかった余りに感受性に恵まれた少女たちは、目に見えぬほど、徐々に静かに、確実に狂ってゆく。他に道は無いかの如く・・・。
     かく言う自分も実際に最前線に行って戦争を体験した経験はない。それ故に静かに狂ってゆくことの恐怖を実体験せずに済んでいる。幸いなことである。支援している場所が場所だから、無論紛争地に入ったり難民キャンプに入ったり、軍事基地と向き合ったりということはあったが、戦争体験では無い。その為か、実際の戦争には入って行けない、と実感させるだけの舞台であったことに感心させられた。 
     最初と最後に裕仁の演説が流れるのも効果的である。何という極楽蜻蛉ぶりであることか! 大日本帝国憲法下では唯一の主権者で在りながら敗戦責任を取る行為は退位を含め一切せず、日本人だけで300万以上、アジアの人々を1千万以上も死なせておきながら、一切の責任を取らずに済ませたのみならず、敗戦時にはシベリア抑留者として残隆兵をソ連の苛酷な強制労働に従事させ、沖縄の人々をアメリカ軍制下に置いて土地収奪、米軍基地建設、婦女暴行、殺人、暴力行為等々好き放題をさせておきながら自分はしゃあしゃあと天皇制の上にふんぞり返っていた。三種の神器が大切だったと言ったことが伝えられている。こんな者を頂点に置き最前線兵士死者の殆どが病や食料不足、安全な飲み水不足や虜囚の辱めを受けずに死すべし、との訓示によって無駄死にさせられていった。ふざけちゃいけない! 
     ところで敗戦後、主権は我ら国民一人、一人が担うようになった。即ち現在奄美から沖縄島嶼部に及ぶ軍拡と日本国土の僅か0.6%を占めるに過ぎない沖縄だけで在日米軍基地の約70%を置き続けていることの責任は我々日本国民自身に在る。このことの意味する処を深刻に受け止め、行動せねばならぬ。伊勢崎 賢治氏の言われる通り、日米地位協定のとんでもない内容は、総て国際標準に改めねばならぬことは当然である。そうしなければ、日本全土が台湾有事の際には前線となり多くの原発が立地している日本海側の原発が安全に保たれることなど、それこそ「想定外」ということになろう。アメリカの最前線として機能させられる植民地の実態についても想いを馳せるべきなのである。戦争というものが勝敗によって決せられるのが基本である以上、そんな愚行を犯す前に為すべきことは、真剣に対処しておくべき最低限の最重要課題である。今作を含め敗戦後80年の今年、多くの戦争物が演劇でも上演されている。今作は、その中でも優れた作品ということができよう。観るべし!

    0

    2025/08/17 12:34

    2

    7

このページのQRコードです。

拡大