かさぶた式部考
劇団櫂人(解散しました)
上野ストアハウス(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
今作の式部は式部でも紫式部ではない。和泉式部である。原作の秋元 松代が想を得たのは当パンによれば柳田 国男の「女性と民間伝承」記載の文章からだという。
庶民の抱え込まざるを得ないどうにもならない門題を秋元 松代はキチンと脚本化している。彼女と一緒に仕事をしていたプロデューサーが、秋元のことを話してくれたことがある。決して大きな方ではなかった。寧ろ小柄な方だったというが、彼女の最もな主張に異を唱える者があると、「無礼者!」と叫ぶや否や態々数歩下がって腰を屈め頭を先頭にして頭突きを喰らわすような激しい闘志と矜りを秘めた女性であったという。作品を拝見してついこの話を思い出してしまった。富岡 多恵子さんや亡くなった「苦界浄土」の作家、石牟礼 道子さんのように真の優しさ(菩薩性)を持った女性なのだろう。今作の中にも菩薩についての説明は出てくるので興味のある方は是非、作品をご覧頂きたい。(1回目追記少しだけ5.31 17時23分 2回目追記6月1日2時46分 3度目の正直6.1 5.25 おまけ)
ネタバレBOX
どうにもならない庶民の抱え込まされる問題を、豊一を仲立ちとして、母・伊佐、妻・てるえ、そして彼らを嘲笑うかのようでありながら次元を異にする妖婦・智修尼。更に智修尼の二重性を、その俗での属性である肉欲によって表象させる装置としてのもう1人のタワケ・夢之助らが、和歌で表される韻文、生活者の描かれている散文、そして土俗を表す肥後方言によってキチンと描き分けられつつ脚本化されている秋元さんの筆力と社会観察の確かさを感じさせる作品だが、このような作品を選び、今上演する演出家・篠本 賢一氏の見識も高く買うべきだろう。
櫂人は2011年結成のシニア劇団だが、結成以来篠本氏が、指導している。演技は総じて良くなってきているが、今回上手い役者さんが一人、いらっしゃる。信者のまとめ役を演じている方である。だが、何と言っても今作でいぶし銀の様に光るのは矢張り秋元 松代さんの戯曲だろう。因みに今作は大部分が肥後弁(つまり熊本辺りの方言)で書かれている。1960年代前半と言えば、1956年に熊本大学医学部が因果関係を明らかにする為の最終実験を始めた結果水俣病の原因がチッソの垂れ流す廃液であることを明らかにしたものの企業城下町での人間関係やチッソが国策会社であったことなどからくる隠蔽工作などで被害が拡大、貧しい者からは特に大きな被害が出た時代であり、石炭から石油へのエネルギーシフトにより斜陽化しつつあった石炭産業では、労働条件の悪化や坑道の無理な拡張と保守の不備から三池炭鉱では63年、戦後最多の死者を出した炭鉱事故が起きた。命を失くさずに済んだ者もCo中毒によって後遺症を発症したし、事故時のトラウマから今作でも描かれているように患者の気付く所で火を焚いたりすれば、事故時のショックが再現され、パニック障害を起こしたことも事実であるのに、専門家と称された医師団報告では病は詐症とされるなど、病因もハッキリさせることが出来ないままに被害者を遺棄していった時代であり、このような陰惨な事実を隠蔽する為にこそ、64年の東京オリンピックという花火が華々しく打ち上げられた。それは恰も、その華やかさと憂さ晴らしによって、民の間に蔓延する生き地獄が実は単なる悪夢、否、マヤカシでもあるかのように意識の表面を上書きして皮下を見えなくしてでもいるかのようである。丁度、福島人災を矮小化し、実体を隠し、今回もまた、癌と放射性核種による被ばくとの間には因果関係が無いかの如き発表が“専門家”によって為されているように。
ところで水俣病やイタイイタイ病のみならず、その後のサリドマイド禍や、非加熱製剤によるエイズ禍などでも厚生省、専門家はキチンと彼らの失策の責任を取ることをしなかったのは衆知の事実である。今作に登場する豊一はこのような犠牲者の象徴であることは明らかだ。何となれば、今作が書かれた動機の一つが、このような弱者に対する理不尽であり、作家・秋元 松代の魂に火をつけた原因なのだから。実際、秋元は炭鉱に出掛けてキチンとした取材をしている。さて、今作で奇蹟を感じさせる豊一の一時の覚醒だが、実際のCo中毒患者にもこのような事例がみられた。そのことを秋元は取材の過程を通して知った上で、多くの宗教組織の持つ政治性を撃って見せる為に、この事実が奇蹟と見えるように仕組んでいる。これは、彼女の豊かな才能の為せる技である。
今作の前後にはオリンピック関係の映像が用いられ作品をサンドイッチしているが伊佐とてるえの描き方は殊に見事だ。2,3例を挙げておけば、先ず序盤の口論の場面、てるえの勝気で現代的な側面に対して伊佐は原則的にその自由を認めており、てるえが伊佐の自分への微妙な心使いと村人への用心を矛盾と捉え、そのことが彼女を姑への反発に導いていることがてるえの若さとして描かれている。何となれば、てるえにとって伊佐は煩わしいからである。つまり、互いに中々頭の良い女性同士の鍔迫り合いということだ。てるえの吐き気からつわりを悟り何くれとなく心遣いをする伊佐の様子も、またこの時点でてるえと庄三との関係を疑っていることも窺われるので、彼女の可也自由な発想は筋金入りと言って良かろう。終盤でのてるえに対する態度もこの一貫性の現れで矛盾は無い。一方、伊佐の変化は、最終部に如実に現れている。山に籠って番をするようになってからのシーンである。お巡りの者達が訪れ、奇蹟を記念して描かれた絵馬を前にして口々に勝手なことを言う。「お茶を運んで来い」だの、豊一を「いい男」だの「綺麗なお母さん」だの「良い所の奥さまだった」だの、と。かさぶたに覆われてでもいそうなお茶を運んできた老婆(この場面での伊佐は無論、子を失って行脚し癩を患ってかさぶただらけの姿になった和泉式部その人の写しである)こそ、この絵に描かれた母その人だとも知らず、絵に見とれ、手を合わせ、ご本人にゾンザイ極まる口をきく。また、別のお巡りさんは息子をカドミウムにやられ、その痛みの鋭さ、辛さに苦しむ有様、手足も満足に動かせず赤子同然の大黒柱に心痛める母として「子を産んだことの無いあなたには分からないだろうけれど」と前置きされた後、己の息子・豊一同様、働き盛りに事故や公害で体を蝕まれ、世間から嘲笑われ、余計者と看做され、陰口を叩かれ、身の置き所さえないばかりではなく、勤め先からも何の補償や保障も無いどころか、それらの政策を推し進めて来た国や自治体からも遺棄された絶望の先に、藁をも掴む意で縋った信心にさえ裏切られ、命の髄を干からびさせられる程、即ち絶望できるなどということが如何に甘いかを思い知らされた挙句、日々音も無く存在の根拠を舐め取られながら、以上を支えていたハズの底など初めから無かったことを悟り、刻々音も無く底もなく尚深まってゆく深淵に、為す術もなく落ちてゆく己の、底抜けに深まりゆく絶望を呻きに変えて、科白には表せない民衆の怨嗟を突き付けてくる、或いは真の自由を。これは、かつて田中正造が足尾鉱毒事件を直訴せざるを得なかったような、この国の惨たらしい在り様が何ら変わっておらず、為政者、支配層が一切変わっていないことの証左である。そして1964年の東京オリンピックを終えて半世紀以上の時が経った今も、その本質は一切変わらなかったことを露骨に表しても居よう。であるなら我らは民衆は今、 一度、田中 正造の言葉を思い出してみる必要があろう。その言葉とは「亡国を知らざれば、これ即ち亡国」。我ら民衆は今、こんなに当たり前のことを言う口さえ失くそうとしている! のではないか? そのような位置にたってこそ、同時に真の自由のトバ口に立っているのかも知れない。
おっと、大切なことを書き忘れていた。舞台美術は簡素化し得る限界迄簡素化されている。但し、それは何一つ肝心な要素を省いていない。深山幽谷を表す為の高低差や初代式部が籠り、身投げをした霊場迄描き出さねばならぬのだし、豊一一家の家も、お巡りさんらの宿泊所も、道行の工程も総てを表さねばならぬからである。無論、此処まで簡素化する以上、観客の想像力を最大限発揮して貰えるような仕組みも作っておく必要がある。これら総ての要素にちゃんと応える仕掛けとして用いられているのは、奥に行くほど高くなった厚めの平台、下手の階段、上手では、平台の高低差に応じた踊り場状橋掛かり、黒の緞帳、カーテンレール、幕などと小道具、そして出捌けなどのレイアウトとそのタイミング、観客席と観客に協力して貰った仕掛け(お巡りツアー席)、衣装等である。最も高い位置にある奥の霊場部分は大方閉じられているのだが、カーテン式に開閉出来る為、頗る大事なシーンでたったこれだけの仕掛けが、大変重要な役を果たすし、観客に協力して貰って座る最前列の10席では、お巡りさんの衣装を着用して貰う“お巡りツアー席”なるものが設けられており、当然のこと乍ら、客席にお巡りさんが同席するというメタ化が図られている。劇団としては協力して頂く訳だから、当日券より1000円安く観劇もでき、観客としても面白いと楽しむことができよう。無論、お巡りさんの衣装は貸してくれるが、席の指定はできない。座席は最前列の何処かに10席設けられるということだ。
ピッキー
ドリームミュージカル
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
『リトルマーメイド』大阪公演(2020年7/15より公演再開/2021年3月27日、28日公演中止/2021年4月28日~5月30日公演中止)
劇団四季
大阪四季劇場(大阪府)
2018/10/13 (土) ~ 2021/11/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
美しい歌声とダンス、水中にいるかの様な演技、どれも素晴らしい!
お家さん
よしもとクリエイティブ・エージェンシー
COOL JAPAN PARK OSAKA・TTホール(大阪府)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
財閥の成長と、神戸の成長が同時に感じる事ができました。竹下景子さんが素晴らしい!
カワウソ
犬猫会
獺 kawauso(神奈川県)
2019/05/29 (水) ~ 2019/05/30 (木)公演終了
20:15の回(雨)
20:19開演~21:02終演(雨上がる)。
1月の公演から4ケ月、早くもvol.2。
最近演劇からだいぶ離れているのですが、このおふたり(と同じ演劇仲間たちも)との出会いは7年前の代々木上原。懐かしさとともにその変わらない人柄、声に暖かさと思いやりの気持ちを感じる。
中央林間駅から数分、店内、テーブル、カウンター、酒瓶、皿、グラスでいっぱい。
紹介文では「ダイニングバー、日本酒・ワイン・焼酎と現代家庭料理 獺kawauso」
舞台と客席ではない独特の空間。
席はお任せ、ドリンク(ノンアルコール)を頼み当パンに目を通す。
今日は「世界カワウソの日」..とあり、ずっとそういう設定なんだなと思っていました。
wiki:日本や中国の伝承では、キツネやタヌキ同様に人を化かすとされていた。
山猫さんの一人芝居(+唄と舞)。お話と料理が対に(野菜、肉、魚、なんとも贅沢)。
お客さんに語りかけるその声に引き込まれ別の情景が見えてくる。
ちょっと怖いところも。
ネットで調べると「ハゲー」は万能感嘆詞とあった。
ドアを開け外に出るといつもの世界。
次回は、9月、青少年センター(桜木町)で。
食事を運んでくださった方、どこかで見たことがあるような…化かされた?
パリのアメリカ人【2020年京都公演一部、福岡公演中止】
劇団四季
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2019/03/19 (火) ~ 2019/08/11 (日)公演終了
満足度★★★
ヒロイン、リズ役近藤合歓(ねむ)さんのあちらこちら小鳥のように跳びまくる可憐さ。研ぎ澄まされた肉体芸術、バレエの魅力。ラスト20分間のショーは圧巻。大して汗もかかず息切れもせず、これをこなしているキャスト達に大拍手。
ネタバレBOX
話が退屈。膨らませ過ぎて焦点が合わなくなってしまったような。第二次大戦後、パリに居残ることを選んだ米兵マリガン。配給品のフランスパンを貰えなかった老婆に分けてやる心優しきリズに一目惚れ。ストーカーのように追っ掛け回す。バレリーナを目指すリズのことを愛する三人の男の友情物語。二幕に休憩20分で2時間50分は長い。楽曲もイマイチだが工夫の凝らされた振り付けと目眩く変化するセットが綺麗で退屈は感じない。男優陣の感情移入し辛いキャラ設定が話に乗れない理由か。バレエショーとしては秀逸でまた観てみたい。
シンキイッテン
最新旧型機クロックアップ・サイリックス
湾岸劇場博多扇貝(福岡県)
2019/05/17 (金) ~ 2019/05/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
面白かった!テーマも脚本も役者さんも、そしてセットもすごく目をひいた。
ちょっと不思議な現実離れしているようで現実に密着している感じ。
やっぱりクロサイはすごい。川原さんは天才。
手を振る
ヒカリノオト
ぽんプラザホール(福岡県)
2019/05/17 (金) ~ 2019/05/19 (日)公演終了
満足度★★★★
今回もとても感情移入できるお芝居だった。
家族はうっとうしいけど温かいものだと再認識した。
立体映画館『東京物語』
立体映画館
小劇場 楽園(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/01 (土)公演終了
満足度★★★
上演時間は、75分。
かなりばかばかしく笑える場面もあるが、驚くほど「東京物語」のエッセンスを詰め込んでいて、感心させられる。
本来の余韻こそないものの、まさに「東京物語」。
亡次男の妻の所にとまる件や、熱海に泊まる件など、かなりはしょられているが、それぞれの重要な場面は、サンプリング的に取り込まれており、けして不足感を感じさせない。
尾道訛りのセリフ回しも巧みだし、繊細な配慮がここかしこにみられる。
ただ、着替えなど、もう少し落ち着いてくれないかな。
笑いは笑いとして、スカートをズボンに押し込みながら登場するところとか、せっかくの場面設定が台無しになってしまう。
それと、三男の平山敬三こと大坂志郎の存在がなしにされたのは、ちょっと残念。
まあ、葬儀の場面のみの登場で、話として拾うのは難しいのだろうけれど。
「映画好きには」お薦め。
ざくろのような
JACROW
座・高円寺1(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
世界一のリチウムイオン電池開発に絡む買収合併と開発に関わったチームリーダーのヘッドハンティングに纏わる主筋を中心に展開する物語。例の実話を基にした作品ということができる。
ネタバレBOX
天才とそれを取り巻く凡人、秀才間のコンプレックス問題、妬み等の感情が渦巻くと共に独創的な発想や型破りな才能を潰すことしか考えない日本的体質と、実績のみで自由を守りぬく天才を知り、天才を活かす術を持ち、歴史的にも様々な基礎的発明や発想を為し、人類に貢献してきた民族との差も出ていて面白い。実際、自分の周りにも日本で賞を獲ったりして学会誌に名が載り海外から注目されてヘッドハンティングに応じ、二度と戻って来ない知人が何人も居る。そりゃそうだろ、日本に居たって面白いことなんぞ、一つも無いのは重々経験して来た訳だから。他にも語学が堪能で海外で友人を創れる日本人なら一人の例外も無く海外に住みたがる。それは当然のことである。
実際、海外のエージェントからオファーを受けるとその条件は頗る良い。給料は年俸で日本の最低倍、2.5倍程度のものが多いようである。これは少数の人の経験値だから一般化はできないが、まあ、この程度は当然だろう。その他の待遇(休日、様々な保障、居住等)も下らない縛りが無くビジネスライクに仕事が出来る点でも、居心地は良いようだ。欧米の外資系で働いたこともある人なら、コンプライアンスについても従業員に対して日本の企業のような誤魔化しをしないことは良く知っているハズである。(良い例が労災)そして、一番良いことは能力主義で評価されることだ。日本では、バカが上司でも馬鹿の命令に従わなければならないことが大半なのだが、こういうナンセンスが無い。
上に挙げたような事情を含め、語学が出来、キチンと国際社会の常識を弁えて外国人と友達づきあいが出来、合理的な思考をすることが出来、食べ物・飲み物の問題が無く、宗教的な問題も無く、且つ家族関係の調整が出来るなら、海外で働き生活することには頗る大きなメリットがある。
今作では、上に挙げたような状況の反映を日本の典型的会社社会VS国際社会として描く訳だが、勝負は最初からついている。合理性に勝る方が勝のは必然だからであり、それを支えるのが人間の自由に対する態度であることを考えれば答えは自ずから見えてこよう。
キチンとこの辺りを押さえた脚本の良さに舞台美術の合理性が優れているが、残念な点が一つ。箱が大きいので天井タッパも高く、面積も広いから役者の科白が場合によって届きにくい。この辺り、演出がもっとしっかり駄目出しをするか、どうしても声が届かないようならマイクを用いるということも考えて良いのではないか。折角の優れた戯曲が観客に一部でも届かないのは口惜しいではないか。
無論、外資系は能力が無いとなれば、容赦は無い。その辺りもビジネスライクだが、こういう厳しさは当然のこと。その為、余暇の時間の使い方が大切なのだ。日々勉強、その意味では休む暇など無いが、それが楽しければこれほど面白い人生はない。
ざくろのような
JACROW
座・高円寺1(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
2015年にサンモール・スタジオで上演されたものを改訂しての再演で、初演も観てるが、バージョンアップしている。松下による三洋の買収劇を題材に、起こりえたかもしれないことをフィクションとして上演する。会社の方針や技術者としてのプライドなどがぶつかり合う様を描いて、同劇団の転機となったと言うだけあって、クオリティの高い戯曲だが、慣れた役者陣と、広がりのある舞台を得て緊張感ある115分だった。初演になかった笑いの要素も加え、エンディングも見事。
Taking Sides~それぞれの旋律~
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2019/05/15 (水) ~ 2019/05/29 (水)公演終了
満足度★★★★
2度目となる加藤健一事務所。風姿花伝で今年観たパラドックス定数蔵出しシリーズ最終公演がやはりフルトヴェングラーを題材にした主宰若き頃の本で、指揮者+楽団サイドの目線でナチとの攻防を描いた作品だった。一方「Taking Sides」は、戦犯裁判の前段、この指揮者のナチスへの協力という疑惑を追及する取調べの過程を取調官目線で描く。
国内外の名作を長年にわたって紹介し続ける加藤健一事務所の味はよくも悪くも座長・加藤健一の存在感で芝居をまとめてしまう所だろうか。演じる取調官は戯曲としてはもっと違ったキャラを想定しているように感じたが、これはこれで成立しているようにも見え、「加藤健一一座」という一つのシステムが既に確立しているのか知らん、とも思う。みれば鵜山仁演出。またも「演技は役者任せ」説を実証したような。
ネタバレBOX
凄惨かつ祝祭的世界大戦を終え、戦後処理に奔走する連合国軍と介入を受ける敗戦国、ナチスのホロコーストを筆頭に全てが白日の下に暴かれ、全てが分かりやすい構図の下にあった。やがてレッドパージに及ぶ「明快さ」への傾きが、この取調官をも支配しているように見える。音楽の事を何も知らない俗物キャラを担うこの男と、音楽を解する秘書、若い部下、訪問者(ピアニストの妻)、指揮者本人、元楽団員の5人という対照的な二項を拮抗させるが、音楽への言及が作品に趣きを与えているのは上記パラドックス脚本とも共通するところ。本作ではとりわけ天才指揮者に心酔する人物の心からの告白が、芸術を圧政と戦争の闇の中に咲いた美の像として浮び上らせる。構図としては取調官が徐々に焦点化されて行き、男の言葉を引き出す形で脚本はうまく閉じられている。一人の天才音楽家の名誉という問題から、ホロコーストの事実へと観客を導いていく。
vol.22『野性の恋』/ vol.23『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』
悪い芝居
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2019/05/24 (金) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★
久々に観劇。注目株の悪い芝居さん。
ネタバレBOX
以前の作品も拝見してますが、ちょっとマンネリした作風の印象。
新作なのに焼き直し感が否めないのは、ちょっと作家さんの怠慢なのかなと。
いつも楽しみな舞台美術もとても普通だったし、2作品分とはいえちょっとお芝居に合っていない感じでした。
次回に期待します。
カケコミウッタエ
日本のラジオ
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2019/05/25 (土) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
28日ソワレ(105分)を拝見。
ネタバレBOX
開場時。舞台に配置された神社の屋根の両端にある千木(ちぎ)?に、天井から伸びている屋根?…金沢駅前の鼓門(つづみもん)、ひいては出雲大社を想起させるセットに、目を奪われる。
でっ、観終わっての「読後感」。
自分には、わかったような・わからないような、神経の触れて欲しくない部分を逆なでされるような、いつも通りの「日本のラジオさんの演劇」だった。独特なセリフの間や、LPレコードの針が跳んだようなエンディングも含めて、同じ会場でやった『カーテン』以来の癖になる舞台のそれだった。あと、今回は「闇から現れ・闇に消えていく出ハケ」も印象的だった。
それと、ユダの独白だった原作の「駈込み訴へ」から関係者一同の集団劇に再構築されたことで世界観を立体化した「功」、(個人的に好みだった)原作の良さである音読のリズム感が除去された「罪」…いずれも感じながらの105分間だった。
当初は茅場だと思っていたイエス様(私は転びバテレンwなので「様」をつけます)がモデルな人物は、実はナザレ→名瀬。彼が常に浮かべる微笑みも、イスカリオテのユダ→粕井の視点からは、おのが脆い精神・吹きあがりそうな感情を護り・抑え込むための「精神的バリヤー」とも映っていたのかな? 宝保里実さん演じる名瀬の「笑みの精神的バリヤー」に寒気さえ覚えた自分は、そう思えてならなかった。
演技陣。
田中渚さん・沈ゆうこさん・安東信助さん、そして今回のフジタタイセイさんは、こんな性格・雰囲気の人物を演じられるんだろうな、という役回りと言うか、観劇前からの期待通りの人物像を好演。
静かな狂気にも満ちた宝保里実さんの熱演は言うまでもなく、他の登場人物を演じる皆さんのどなたにもスキがない、結構、凄い座組だと感服させられた。
【配役】
名瀬(後の、富嶽の会・代表。本作における「イエス様」)…宝保里実(ほうぼ・さとみ)さん
粕井(本作における「ユダ」)…フジタタイセイさん(美味いカレーを作れる、肋骨蜜柑同好会の主宰)
三瓶(パッションのバランスが崩れたヒト)…辻響平さん(お初の方)
安藤(いつしか三瓶を見守るヒトへ)…横手慎太郎さん(何度も舞台を拝見する方)
田臥兄…岡野康弘さん(「サンジェルマン伯爵」の生まれ変わり?)
田臥妹…豊田可奈子さん(『みのほど』以来の方)
丸田(粕井の先輩)
…沈ゆうこさん(こんなにも早く、アガリスクエンターテイメントのイメージが消え、「日本のラジオ」のヒトになるとは思わなかった)
麻里弥(丸田の妹。恋愛対象が常に不倫)
…田中渚さん(『アダムの肋骨』以来、何度も舞台を拝見している方)
茅場(おひかりさま「健康道場」主宰者)
…安東信助さん(何度も出演舞台を観ていながら、いまだに初見の『HNG』での強烈なイメージが抜けきれないw)
手妻(地方政治家)
…坊薗初菜さん(ぼうぞの・はつな)さん(お初な方。4月にあった近隣の国立市議選に出ていてもおかしくない美声)
「ボードゲームと種の起源・拡張版」
The end of company ジエン社
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/09 (日)公演終了
ボードゲームカフェに集まる若者たちのドライな群像劇。約80分。時間と空間が瞬時に入れ替わり、共存もする構造が、パズルみたいに複雑で読解のスリルあり。人間社会の縮図をゲームに落とし込む巧みな構成で、“種の起源”というタイトルに納得。ルールを守る集団の幸福と、そこから逸脱するマイノリティーも描く社会派戯曲でもある。生身の俳優による上演が前提の戯曲であることに演劇の豊かさを感じる。脚本・演出:山本健介。
ネタバレBOX
東京はすでに人が住めない土地になっており、移り住んだ地方都市も燃えている。共同幻想を共有できる場はどうすれば存続できるのか。アナログなゲームを題材にとり、広い射程で問題提起する刺激的な舞台だった。残念ながら俳優の演技手法は私好みではなく、前半は少々退屈した。でも後半は引き込まれた。
かげつみのツミ
おぼんろ
BASEMENT MONSTAR王子(東京都)
2019/05/22 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
「つみき」チームに参加。これを見てから再度「かいじゅう」チームを見たらなお一層心に沁みました。
ハンダラさんの「どら焼きのような構成で餡の部分が3つの別の物語」という例えは言い得て妙と思います。三つの物語を全部見る意味がある作りになっていて良かったのですが、三つ見るためにチケットがもう少し安かったらいいのにと思ってしまいました。
あと、キャスト表もあるといいですね。
ネタバレBOX
友人を誘って行ったのですが、彼女は「キャガプシー」を見ていません。なので道中あらすじを語ってしまいましたが、知っておいて見て良かったと言ってもらえました。スピンオフの場合、期間中だけでもHPでDVD公開しても良かったのではと思いました。
最初はつけていなかったツミのスカーフはどこで彼女の襟元を飾ることになったのか、チョキの悲しみがどこから始まったのかなどわかって良かったです。
ひまわりの見た夢
雀組ホエールズ
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/09 (日)公演終了
満足度★★★★
ひまわりの見た夢「re:act」97分休憩なし。
初演の映像を、観劇三昧で観て好きになった作品。実際に起きたある殺人事件を下敷きに、加害者側と被害者側の断絶や、家族の絆の表現が秀逸。社会派と呼ばれる、雀組ホエールズらしい作品。登戸で発生した痛ましい事件を、時折、想起せずにはいられなかった。
10分間2019~タイムリープが止まらない~【ご来場ありがとうございました】
中野劇団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/05/24 (金) ~ 2019/05/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
私が観るのは2度目だと思いますけど面白かったです。最終的にはいい話にまとめるのも無理なくてよかったと思います。
キタナイ涙
コルバタ
新宿スターフィールド(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
とてもひきつけられる内容でした。
ネタバレBOX
ヒロ松谷のキタナイ涙のわけ、そしてその正体が、少しずつ明らかになっていくのは、痛快です。舞台の中央に、少し違和感のあるものがある設定ですが、うまく前後、左右の空間を使い、話の展開も軽快に感じるためか、とてもきひつけられるのです。途中でコミカルな部分でぐいぐいとひきつけられ、最終的にはシリアスな面でいっそうひきつけられました。とても中身の濃い、そしてほどよいスパイスに感じましたね。
ざくろのような
JACROW
座・高円寺1(東京都)
2019/05/29 (水) ~ 2019/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/05/29 (水) 19:30
座席1階
社会派演劇中村ノブアキが、会社のリストラ物語をベースに中国に食われる日本の技術など今日的な話題を盛り込んで仕上げた迫真の舞台。再演というが、自分は初めて見せてもらった。
女性の上司、親会社が買収された会社に送り込んできた人事担当が女性だったりという部分も世の中を映し出している。会社とは従業員にとってどういう存在なのか。社員それぞれの考え方や生き方、家庭の事情などで答えが変わるその問いを、サラリーマンが多いと思われる観客席に突きつける。
会社に必要とされる人材かどうか。一番決定的な部分だろう。そういうところを拠り所自分たちは頑張るのだと思うが、その会社という存在がきわめてあいまいなつかみどころのないものだということが、今更のように胸に響く。
何のためにこの会社にいるのか。あまり答えたくない質問をずっと舞台から突きつけられてきた2時間だった。
ネタバレBOX
会社に重宝されてきたトップエンジニアが中国の会社に移籍を決意し、こちらも国内で活躍するプログラマーの妻の人生をおもんぱかって離婚届を持ってくる場面は笑える。今やインターネットで仕事はいくらでもできるし、会議も連絡もオンラインだ。日本の技術を切り開いてきたエンジニアがそんなことに思いがいたらず妻の人生をリスペクトしたところがかわいい。