Taking Sides~それぞれの旋律~ 公演情報 加藤健一事務所「Taking Sides~それぞれの旋律~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    2度目となる加藤健一事務所。風姿花伝で今年観たパラドックス定数蔵出しシリーズ最終公演がやはりフルトヴェングラーを題材にした主宰若き頃の本で、指揮者+楽団サイドの目線でナチとの攻防を描いた作品だった。一方「Taking Sides」は、戦犯裁判の前段、この指揮者のナチスへの協力という疑惑を追及する取調べの過程を取調官目線で描く。
    国内外の名作を長年にわたって紹介し続ける加藤健一事務所の味はよくも悪くも座長・加藤健一の存在感で芝居をまとめてしまう所だろうか。演じる取調官は戯曲としてはもっと違ったキャラを想定しているように感じたが、これはこれで成立しているようにも見え、「加藤健一一座」という一つのシステムが既に確立しているのか知らん、とも思う。みれば鵜山仁演出。またも「演技は役者任せ」説を実証したような。

    ネタバレBOX

    凄惨かつ祝祭的世界大戦を終え、戦後処理に奔走する連合国軍と介入を受ける敗戦国、ナチスのホロコーストを筆頭に全てが白日の下に暴かれ、全てが分かりやすい構図の下にあった。やがてレッドパージに及ぶ「明快さ」への傾きが、この取調官をも支配しているように見える。音楽の事を何も知らない俗物キャラを担うこの男と、音楽を解する秘書、若い部下、訪問者(ピアニストの妻)、指揮者本人、元楽団員の5人という対照的な二項を拮抗させるが、音楽への言及が作品に趣きを与えているのは上記パラドックス脚本とも共通するところ。本作ではとりわけ天才指揮者に心酔する人物の心からの告白が、芸術を圧政と戦争の闇の中に咲いた美の像として浮び上らせる。構図としては取調官が徐々に焦点化されて行き、男の言葉を引き出す形で脚本はうまく閉じられている。一人の天才音楽家の名誉という問題から、ホロコーストの事実へと観客を導いていく。

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    2019/05/30 09:01

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