
vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「廃墟」を観劇。Corichページを開き、改めてTRASH観劇歴を振り返ってみると・・題名で内容を思い出せる作品が少ないのでレビューなど眺めて「あーあの作品か」と合点。一作ずつ辿ったがほぼ観ている。初回が「狂おしき怠惰」これは「背水の孤島」が話題になったのでその次作を観たというヤツで。従ってTRASH歴13年になった。
以後観ていた中で一度、開演時間を一時間取り違えて駅前劇場を訪れ、しょんぼりと帰宅した事があったがそれが「そぞろの民」(レビューを書いていないので)。だがこの作品の記憶があったのは雑誌に戯曲が載ったのを読んだからだった(それを元に脳内で舞台イメージを作っていた訳である)。
と、今気付いたのでもう観劇には間に合わない。残念・・
というわけで「廃墟」の感想を。
新作ばかりを観てきた自分としては異例の公演に欣喜雀躍であったが、あの一晩中侃々諤々やる三好戯曲をTRASHがやると、TRASH的議論劇になるのかも・・?と一抹の不安ありであった(自分としては敗戦直後の物的に逼迫したリアリティをしっかり表現してほしい思いがあった)。だが結果は、中津留氏は基本リアリズムの演劇人であったのだな、という感想。以前文化座・東演の合同公演で観た衝撃の三好十郎世界の発見の体験に、十分拮抗した、また清新な切り口もある「廃墟」であった。
難点を先に書いておくと・・・リアリズムという点からするとキャラクターと配役の合致は望みたい。長男役の長谷川景は肺病を病んでなお「理想」に己の人生を賭けようとする造形としては、やや病弱イメージが薄い(台詞には「こんなに痩せちゃって」等とある。それでも会話は成立し、大過ありという訳ではない)。叔父役が少々リアリティに欠いた。お調子者の要素を強めに出していたが、南米に渡って一時は鳴らしていた事もある世慣れた人物像、それなりに一家言あるが殊更に(周囲の者のように)大声で主張しないだけ。熱くなりすぎず達観した所から物を言う。ある意味この劇を進める緩和剤的な位置であるが、今回の舞台では「おいおい」とツッコまれちゃう非常識側の色が強く出ていてそぐわなかった。また衣裳もセーターの色が合わず、わざとそうしたのかもだがもう少し別なチョイスがあったと思う。川崎初夏演じる居候(母代わり)「せい」は真心が表に出すぎ(役者として秀でているという事ではあるのだろうが)、女の弱さが不可抗力的に真面目な男(ここでは長男)を翻弄する「無意識の狡さ」があれば満点なのだが、という所。
浮浪者については、後半出て来て何をするでもない役だが、精神を病んだ「戦争の犠牲者」を想起させる役どころで、その描写は、本人は口がきけないだけに、彼をいじる側の演技次第という面がある。その点では次男を演じた倉貫氏の特攻帰りのアプレゲールの持つ狂気「押し出す」演技としては文句の付けようもない印象なのであるが、「見栄張り」と脆さをもう少し自然な演技の中に偲ばせる人物造形により、彼の「自然さ」を鏡として浮浪者の異常さを観客に認識させるのが、方法ではなかったか、と思う所。
顔に火傷を負った次女と、父役には満点を付けたい。
本作は「議論」としての凄みのある一方、物質的豊かさが「政治の季節(熱い季節)」を終焉させ「高度成長期」をもたらした事が象徴するように、劇中の彼らはひもじさをも「糧」として敗北からの未来を見通すための話をしている風景としても、見える。勿論、その前年まで「戦争」という激烈な状況を味わい、悲痛にあえいだ記憶が何より彼らを「その事をどう処するのか」の思考へと突き動かしているのだが、このような議論をした家族は無かっただろう。飢えをどうしのぐか、どう我慢して夜を明かすか・・そんな状態で普通議論はしない。ただしこの作品の彼らは仮にも歴史を教える大学教授の息子・娘らであり、そのような家風であった事は無理筋ではない、が、それでも行きがかり上あのような会話が生まれ、議論に発展し得るという事は奇跡に近いのであり、戦争を直に体験した三好十郎という一人の作家による架空も良い所のフィクションなのである。
にも関わらず、そこには真実があり、人間の感情があり切実な思いがある事は否めない。「戦争」というものをあの時点で三好は「憎んでもいない人たちの事を殺し」と人物に言わせ、「二千万人もの仲間を殺した」とする。このとき三好十郎は、新たに敷かれた国境(それまでは植民地・満州そして開戦後の占領地はニアリーイコール日本だった)の内と外を切り分けて人間を捉えず、「人間にとって」必要なこと目指すべきことについて考え、台詞に殴り書くように書いたのではないか。今考えるべき全てを洗い出し、ある生き方を全力で貫こうとする人物を通して議論させた。それをやらずに先へは進めなかった、のだろう。裏を返せば、恐らく「過去は忘れるべきもの」とばかり新時代を要領よく生きる人間たちが溢れていた故に、彼らを横目で見ながら、危惧を抱くと同時に彼らの分まで考え抜こうとした。
そして作者が戯曲に刻んだ言葉・・父の立場、長男の立場、次男そして次女それぞれの立場から吐かれる言葉は、彼らがその存在を賭して提示した思考をなおざりにし、遠い過去である事を良いことに都合の悪い事実を伏せて責任放棄を決め込んだ現在の日本及び日本人を、鋭く突く。意図せざる皮肉である。

寺山修司生誕90年記念認定事業「盲人書簡◉上海篇」
PSYCHOSIS
ザムザ阿佐谷(東京都)
2025/07/24 (木) ~ 2025/07/30 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
PSYCHOSISの前に観た舞台は高取氏の作品で独自の文体を演出を駆使して飲み込み易く舞台化してくれた印象があった。アングラ劇世界の現代的上演という特色で集客を得、精力的に活動を展開(頻度も高い)と思しいが、さて今作。寺山作「盲人書簡」は初めてであったが、数組ある「登場人物/場面」が、順繰りに暗転を挟んで現れるが、組が多くて相互の関連がいまいち分からなかった。関連自体があるのかも・・
その意味では、各場面の人物(ら)によって具現される存在(人物)群と、その象徴となる言葉と、それらの素材を通して寺山氏が透徹する人間というものの本質・姿を想起する劇・・・とはなっていた。少年愛の嗜癖に溺れる明智小五郎と、彼に利用されまた捨てられる盲目の小林少年、暗躍する黒集団、不在の母へのマザコン魂がある娼婦と出会いで妙な発展を遂げる少年、部屋にこもる少女・・特徴的な人物/場面が衣裳、歌、踊り、ギミックと飽きさせない趣向で繋いでいたものの、物語叙述の面では(恐らく題材によるのだろう)追えなさがあり、やはり観客は物語を追いたくなる。原作を知る人には、どう見えたか分からないが。
今回も深海洋燈が美術を担当、音楽もレベルが高く、PSYCHOSIS初期(つっても何年か前)に比して全体に力量が上がったと感じさせる(人が入れ替ったのか人が変ったのかは不明だが)。ただ作品世界の精神を伝える目的に技術が先行する勿れ。
次作を楽しみに待とう。

記憶の欠片達
株式会社GROW
シアター・アルファ東京(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

りすん 2025 edition
ナビロフト
AI・HALL(兵庫県)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/02 (土) 18:30
現実と意識の中の世界を行き来する演出とプロジェクトを使った光の幻影、会話の繰り返しは天野天街の世界、また夕沈のダンス、嬉しさと懐かしさを感じ、また原作のシリアスな物語が上手く噛み合いいい芝居でした。

水星とレトログラード
劇団道学先生
ザ・スズナリ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/11 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/02 (土) 14:00
とても面白い家族劇でした。
「水星」を聴いてから観劇したので、より楽しかった。
観劇後の心地よさが素敵。

しっくハックじゃーにー
NICO×frogs produce #関西の役者が踊ってみた
in→dependent theatre 2nd(大阪府)
2025/07/31 (木) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
今回も最高でした☆ずっと笑顔で見てられる楽しさ満載の舞台で演者の皆さんも本当に楽しそうで笑顔と元気のお裾分けを頂いた気分です\(^o^)/
アフターイベントも面白過ぎてずーっと笑ってました♪主催植松ゆきさんの人柄の素晴らしさが劇場の隅々まで行き届いてて会場全ての空間が幸せで満ち溢れてました☆

記憶の欠片達
株式会社GROW
シアター・アルファ東京(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
とてもいいお話でした。若年性認知症になってしまったお母さんを中心にした介護をテーマにした家族愛のお話ですが、娘の成長、想像と違ったお父さんなどの要素を入れながら、医療や介護スタッフの様々な心情なども加えて、とても良くできた内容でした。また、身近なテーマとして深く考えさえられました。演者の皆さんの気合の入ったお芝居、所々入る歌、最後のお祭りをイメージした楽しい踊り、映像を交えた演出、とてもよかったです。大林素子さんの小ネタも笑わせていただきました。登場人物のすべてが清々しく、感情移入ができてあっという間の2時間でした。

朗読劇『少年口伝隊一九四五』
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/07/31 (木) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
クラシック・ギタリスト宮下祥子(さちこ)さんによるフラメンコ奏法、実はこれが主役。背面のスクリーンに光や文字が投影され効果を上げる。
舞台中央前に挿絵をジオラマ化したような巨大な広島市の地図が置かれている。物語の舞台となる比治山は標高71.1mの小高い丘。爆心地から約1.8km南東にあり、爆風を遮った為、比治山の東側は比較的生き延びた人が多かった。時折、その地図の上に砂を振り掛ける役者達。雨を表現。サーッという音。
原爆投下による地獄絵図。蛆虫と蝿が地上の盟主。その中で必死に生き続ける者達。この生への執念にこそ人間の凄まじさがある。
広島文理科大学の哲学教授、通称哲学じいたん(﨑山新大〈しんた〉氏)。
「狂うてはいけん。正気でいなきゃいけん!」狂った世の中があったことを後の人に伝えなくちゃいけない。
どんな状況になっても生き物は飯を食い水を飲み排泄し怒り泣き笑う。眠り目を覚まし思い巡らせ考える。
本社が全焼した中國新聞社、輪転機も紙もなく、緊急の情報伝達手段としてメガホン片手に「声の新聞」、口伝隊(くでんたい)を編成。花江(向井里穂子さん)は旧知の仲だった国民小学校6年の三人に協力を依頼。焼跡を走り回り情報に飢えた被災者達に出来得る限り今の情報を伝え続ける。
一度は味わうべき作品。

記憶の欠片達
株式会社GROW
シアター・アルファ東京(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
チームスペードを観劇しました。とても良かったです!
家族が病気になってしまったら、本人の気持ちは?その家族はどうするか?
他人事ではないストーリーに、色々と考えさせられました。
実際の所は、もっと壮絶だろうと思いましたが、優しさにあふれた舞台で、心が温まりました。
ラストの元気の出る演出も良かったです。良い舞台でした!

水星とレトログラード
劇団道学先生
ザ・スズナリ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/11 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/02 (土) 14:00
座席1階
劇団道学先生が、保坂萌という気鋭の劇作家の作品を選んだ。主宰の青山勝の目は確かだ。きわめて緻密に組み立てられた戯曲であり、母親の介護問題や配偶者に先立たれた女性の生き方、そして微妙な親子・兄弟関係という社会性をまぶした秀逸な作品。ラップを出演者全員に歌わせるなどの演出、昭和の居間・台所を中心に据えて両サイドから階段で登る踊り場のようなスペースを設けた舞台美術もいい。そして何よりも、道学先生を支える俳優・かんのひとみの演技が実に素晴らしい。涙あり、笑いあり。今回の道学先生の舞台も見逃せない。見ないと損するかも。
タイトルのレトログラードとは、腕時計などで使われている針の反復運動を指す。主人公の祖母(かんのひとみ)の言動に、「ついに認知症になってしまった」と思い込む息子や娘たち。しかし、祖母が言うにはレトログラードのようにタイムリープをしている、つまり水曜日を起点として1週間を何度も繰り返しているという。舞台は、亡き夫の一周忌を控えた1週間の設定で、本当にタイムリープしているのか、直前のことを忘れてしまっている認知症ではないのか、という思いをひきずって最後に驚天動地の答え合わせがなされる。
祖母の息子は妻に食わせてもらっているぐうたらぶりで、一人娘にも愛想をつかされ離婚を突き付けられている。祖母の娘は共働きで、認知症の疑いが出た母の面倒を押し付けられるのではと予防線を張っている。そうした家族の問題から「跳躍」したような部分で祖母のタイムリープが続いている。なぜ、そうなっているのか。誰かが仕組んでいるのか。こうしたなぞ解きのなかで、秀逸だったのはこの家などに営業にきている「ヤクルトおばさん」の存在だ。笑いを誘うせりふとやり取りを満載した、舞台から目を離せない会話劇が進行する。
道学先生は家族の悲喜こもごもを描いたら右に出るものはいない(と思われる)中島淳彦作品をやるために結成された劇団だ。今回は中島作品ではないが、タイムリープという斬新な切り口で家族の群像劇を構成した力作だ。道学先生は中島作品だけではないぞ、とファンの一人として肝に銘じたい。

しっくハックじゃーにー
NICO×frogs produce #関西の役者が踊ってみた
in→dependent theatre 2nd(大阪府)
2025/07/31 (木) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
遅くなりましたが感想です。初日拝見しました。とても面白かったです。ダンスも楽しく、全編前向きで過去のことも今から取り返せる、そんな前向きなお話でしたね。悲しい出来事もありますが、臆病にならずに一歩踏み出すことの勇気、大切さを再認識です。楽しい時間ありがとうございました。良かったです❗

暗いのでブロッコリーなのかカリフラワーなのか分からない
ドアとドアノブとドアノブカヴァー
OFF OFFシアター(東京都)
2025/08/01 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

CAT-A-TAC 『不思議の国のアリス 〜ハートをなくした女王〜』
CAT-A-TAC
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

記憶の欠片達
株式会社GROW
シアター・アルファ東京(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

CAT-A-TAC 『不思議の国のアリス 〜ハートをなくした女王〜』
CAT-A-TAC
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
圧巻でした。正直、あそこまですごいステージだとは思っていませんでした。ダンスメインのミュージカルですが、ほんとすばらしかったです。演出も音響も完璧です。こくみん共済 coop ホールにははじめて入りましたが、まさかあそこまで音響がいいとは思っていませんでした。不思議の国のアリスをあらためて勉強し直して観劇したこともありますが、内容もよくわかり大満足です。アリスの涙でみんなが溺れるシーンで「ああ、そういう演出もあるか!」と思いました。小さな子どもたちもたくさんいましたがきっといい刺激になっているかと思います。最高の時間をありがとうございます。蛇足ですが、ドラマーの方のグルーヴ感も最高でした^^ スネアの音がめっちゃいい音していました。

CAT-A-TAC 『不思議の国のアリス 〜ハートをなくした女王〜』
CAT-A-TAC
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

CAT-A-TAC 『不思議の国のアリス 〜ハートをなくした女王〜』
CAT-A-TAC
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ストーリーテラーが入るが、基本は無声ダンス劇で、説明文に「ダンス × 身体表現 × 音楽 × ユーモア全開!」とあった通りの仕上がり。特に序盤の展開なんて素晴らしかった。

おーい、 救けてくれ!
鈴木製作所
雑遊(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
嘗ては女子大演劇のリーダーとしてならした鈴木裕美も小劇場劇団の自転車キンクリートで腕を上げ、いまや商業演劇の新橋演舞場、客の来る小劇場系公演も幅広くこなしている。芝居をまとめてどこか賑やか、どこか女学生らしい純情さ、一方で実は徹夜も辞さない大酒豪という噂も伝わってきて、女性の年齢を忖度するのは失礼だから止めるがそろそろ還暦だろう。その鈴木裕美が、若い俳優入り口の人を集めて一月ワークショップを開いてその結果を見せるというので見にいった。
テキストはサローヤンで、一頃、鈴木はアメリカ演劇のテレンス・ラティガンのような地味だが受けのいい作家の作品をしきりにやっていた。日本の同年代作家では、マキノノゾミとか。分る演劇を照れないでたやり続けたところがいい。
一方ではこういう新人育成のようなこともやっているんだと、見直すところもあった。ワークショップは徹底的に実践派で、型を教えているわけではないようで、解釈とそんれを体で相手を見ながらどう表現していくか、ということをやったようで現代演劇の基礎訓練だったようだ。嘗ての演出家先生の訳の分らぬ事w謹聴、拝聴するだけの訓練よりはよほど役に立ちそうだったが、新人の感性を引き出すには、演出の方も、よほどの経験と口先の旨さがなければ務まらずそろそろ還暦だろう。あつての蜷川のように、出来るまでやらせるというような演出はこれからは難しくなりそうだ。

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/01 (金) 19:00
『廃墟』を観た。これもまた、ひたすら重いが、戦後の混乱期の感触がしっかり伝わる。(3分押し)95分(10分休み)65分。
中津留の戯曲を上演して来た同劇団が初めて三好十郎の戯曲に取り組む。戦後1年頃に書かれた作品だそうだが、敗戦後の過程を舞台に、歴史学者の大学教授と「共産主義者」として投獄された長男・元特攻隊員の次男を軸に、家族や周辺の人々が激しく口論する。戦後の混乱期に、さまざまな立場の人間が戦争の責任を問う、というのは分かるのだが、浮浪者の役割がぼんやりとしか分からなかった。
2作に出ている役者は少なくないが、どちらでもほぼ前編に出ている川崎初夏が只者ではないと思った。

vol.41 「廃墟」、vol.42 「そぞろの民」
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2025/07/25 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/01 (金) 14:00
『そぞろの民』を観た。とにかく重い作品だが、しっかり観て良い物を観たと思う。(4分押し)119分。
2015年初演の戯曲を改訂しての上演で、初演も観ている。初演は傑作だと思ったが、本作もやはりとてもいい。政治学の元大学教授が、安保法制の成立を機に自殺し、その通夜の物語。長男(外交官)・次男(ジャーナリスト)・三男(失業中のAIエンジニア)と周辺の人々が、自殺の原因と責任を激しく語り合う。重いシーンの連続なので、3兄弟の再従兄弟が登場するシーンで少し笑いが起こるが、重さを味わう作品だと思う。初演では気づかなかったタイトルの意味が重い。初演は川崎初夏の代表作と思ったが、本作でも中盤からの川崎の活躍がいい。
負傷の寺中寿之に変わって作・演出の中津留が舞台に立ったが、同劇団を22年観てる私にして記憶にない出来事。