yozの観てきた!クチコミ一覧

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失うものなどなにもない

失うものなどなにもない

good morning N°5

小劇場B1(東京都)

2023/12/14 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

一貫したハチャメチャ具合が面白く楽しませてもらった。中村中さんの歌に引き込まれた。オープニングの仕掛けに驚かされた。
開場時に「あの、舞台がないんですけど…」と話しかけた客に澤田育子さんが「なんでもかんでもすぐに答えを知ろうとするんじゃない。ちゃんと出し物やるから、黙って観とけ!」的な答えをマイクでしたの可笑しかった(客のほうはちょっと気の毒ではあった)
2席だけ設けられた2万円のVIP席、中央最前列を陣取りお酒飲み放題で開場から終演までずっと可愛い劇団員さんが接待してくれるの、興味深かった。ちょいちょい劇団員からイジリが入るのは人によっちゃダルく感じるかもしれないけど、チケット代+1万5千円だと考えれば、なかなか良いシステムだと関心した。

ネタバレBOX

「鼻くそで作った箸置き」のシーン、皆が鼻の穴に指をつっこみ鼻くそを小さな容器に入れる作業を繰り返す動きが汚くて、無いほうがよかった。劇場の壁が飛行機の内側の様にしつらえていて窓も開閉できるようになっていて非常に手が込んでいたが、その割に生かされていなかったのはもったいなかった。
ロマンス

ロマンス

劇団こふく劇場

三股町立文化会館(宮崎県)

2024/02/23 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

X(旧Twitter)では軒なみ評価が高く、気になっていたが残念ながら私には刺さらなかった。登場人物それぞれが水彩で描いた抽象画のように淡く儚く、逆に言えばあまり毒のない人として描かれており、そこに私の感情が没入できなくて、客席でひとり取り残されたような気分になってしまった。
抽象画に心揺さぶられる人がいれば、写実絵画のほうが心惹かれる人もいる、って感じだろうか。とはいえ役者さん達の修練や佇まいは素直にすごいと思った。
アフタートークで「らんまん」の脚本を務めた、てがみ座の長田育恵さんが登場。「らんまん」制作時のこぼれ話なども聴けてありがたかった。

瀬戸内の小さな蟲使い

瀬戸内の小さな蟲使い

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/28 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

あのシチュエーションで展開されるお芝居、よく思いついたなーと感心する。設定だけですでに面白い。あり得ない場所で言い争うカップルの口論。とはいえ男性と女性の言い分にはそれぞれの立場に即したリアリティと説得力があった。90分弱ほどの上演時間もちょうど良くて久しぶりにお芝居を心から楽しめた。
座席と座席の間を10センチ程度離してくれていたおかげで隣の人に身体が当たる事もなく最後まで集中して観ることができた。客数を多くするために隙間なく椅子を並べる劇場も散見するけど、それだと隣の人が腕を動かしたときに必ずと言っていいほど私の身体のどこかに当たってその都度集中力が削がれる。些細なことだけど私にとっては大変重要で、今回の座席配置はとてもありがたかった。

ネタバレBOX

遊園地は昔の神戸ポートピアランドか姫路セントラルパークがモチーフ?私は昔、兵庫県内の大学に通っていたのでなんだか懐かしかった。
「山兄妹の夢」では終盤、役者全員で「LEMON」を大合唱するシーンに大笑いしたけど、今回はあいみょんの曲に笑わされた。
タイトルに出てくる「蟲使い」はキーワードではあるものの、主となるテーマではなかった。最初は「蟲使い」が出てくるファンタジー要素のあるお芝居なのかな?と思っていたので、せっかくの内容が、このタイトルで必要のない誤解を招くところはあると思う。
とにかくとても楽しませてもらった。面白かった!!
15 Minutes Made in本多劇場

15 Minutes Made in本多劇場

Mrs.fictions

本多劇場(東京都)

2023/02/22 (水) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

6団体それぞれの個性と持ち味があり、幕の内弁当的に楽しませてもらった。15分という区切りも飽きが来ずちょうどよい。

ネタバレBOX

個人的評価(★5個で満点)
①ロロ「西瓜橋商店街綱引大会」★★★★
ファンタジーと日常の混ざり具合が秀逸。あのエイリアンの衣装、どこから調達してきたのだろう?とてもリアルだった。

②演劇集団キャラメルボックス「魔術」★★
活舌は素晴らしいけど台詞が一本調子であまり内容が入ってこなかった。ドラムもさほどうまく機能していなかったように思う。

③ZURULABO「ワルツ」★★☆
アルコ&ピースのネタ「受精」を思い出した。わざとオフビートにしたのかもしれないけど今ひとつテンポが悪く間延びしていた気がした。

④BleatheArts「真夜中の屋上で」★★★☆
声優による朗読劇ということであまり期待していなかったけど思いのほかよかった。大林監督の「異人たちの夏」や「ふたり」を彷彿させる死者との束の間の邂逅にグッときた。

⑤オイスターズ「またコント」★★★★
ともすれば関西の大学生がコンパで「そこボケるとこやろー」とか「今のボケやねんからツッコめやー」などと言うような薄ら寒い「お笑い芸人ごっこ」に終わりそうなところ、ギリギリで回避しきちんと笑いに持って行っていた。女優さんの間とテンポが上手。

⑥Mrs.fictions「上手も下手もないけれど」★★★☆
トリにふさわしい盤石の内容と演技。ただ何度も再演しているので新鮮味には欠けた。別のお芝居も観たかった。

それぞれに十分楽しませてもらったけど、均衡を突き破るような爆発的な面白みを感じるお芝居も観たかった、というのは求めすぎだろうか。
ユキコ

ユキコ

東葛スポーツ

シアター1010稽古場1(ミニシアター)(東京都)

2023/02/17 (金) ~ 2023/02/20 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

入場時、スクリーンに2022年の岸田國士戯曲賞受賞シーンの映像が流れる。山本卓卓さんの長すぎる受賞挨拶に内心苦笑してしまう。

闇バイトによる強盗殺人など時事ネタを取り入れつつ川﨑麻里子さん代読による岸田賞受賞挨拶。タモリ方式で挨拶をする川崎さん、すごい!

そしていよいよタイトルの「ユキコ」、佐々木幸子さん本人の話に。あの佐々木幸子さんがついに戻ってきた!と喜び勇んでいたけど、事はそんな単純なことではないということが激しいラップを通じて明らかになってくる。ASDで3級の精神障害者手帳を持っていること、宅建士やフランス語の資格を持っているがASDの過集中のため資格を取るのは容易いこと。演劇をすると決まって対人トラブルを起こしてしまうので夫である金山さんに「演劇をしたい、と言い出したら止めてほしい」とお願いしていること。パチンコの景品交換所で働くのは自分に合ってると考えていること。将来のために高級マンションをローンで購入していること。(ザ・コート神宮外苑、調べてみたら販売価格1億6,500円だった。凄すぎる…!)

難しい状況はあるにせよ、一方で天賦の才といえる役者としての高い能力を持ち合わせた女優さんがパチンコの景品交換所で働いてるなんて本当にもったいなすぎる。ゆっくりとしたペースでいいからまた演劇の世界に戻ってきてほしいとファンのひとりとして切実に願う。劇場の座席に置かれたチラシの中によく「佐々木幸子(野鳩)」って名前を見つけた頃が懐かしい。

「いま東葛キテる感じで、私が出てた頃は暗黒時代みたく思われてる」って佐々木さんの台詞、そんなことないと声を大にして言いたいけど、音響だけをとらえれば3331の地下でやっていた頃など確かにひどい時はあった。しかし今回、高音と低音の迫力をキープしつつ中音域の台詞も聞き取り易くて、私が今まで観た東葛の中で音響が一番素晴らしかった。

リリックとトラックは東葛スポーツを観るうえで欠かせない要素で、音が濁ったり割れたりするとせっかく練りに練られた台本も台無しになってしまう。クリアなサウンドで聴けるというのはとても重要だし、音響を磨き上げることによって鋭いリリックを吐き出す女優さんたちを輝かせ、同時にリリックを粒立てることに見事に成功していたと思う。

磁界

磁界

オフィスコットーネ

小劇場B1(東京都)

2023/02/09 (木) ~ 2023/02/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

夢と理想を持って警察官になったにも関わらず、警察組織内部の論理に絡めとられ、次第に押し潰され順応してしまう若い警察官の葛藤を描く。
劇団チョコレートケーキの西尾友樹さんをはじめ元KAKUTAの異儀田夏葉さん、文学座の大滝寛さんなど手練れの役者さんたちの演技の確かさ、濃密さ、熱量が見事。

ネタバレBOX

前半は笑いのスパイスを僅かに散りばめつつも、後半の重苦しい展開に息をのむ。特に終盤の西尾友樹さんと狩野和馬さんの緊迫した対決シーンには圧倒された。「スターウォーズ」の若きジェダイ騎士アナキン・スカイウォーカーが闇落ちしてダース・ベイダーになる瞬間を見るようだった。
本作は警察を描いていたけど、閉鎖的な組織で人間性が失われ組織の論理が最優先される世界はどこにでもある。とはいえあの若い警察官は洗脳されることで、ある意味救われたとも言えるし、ずっと葛藤を抱えたままなら自殺すら選択しかねない状況だったので、組織に染まることが一概に「悪」とも言い切れない。
そのあたりのややこしさや難しさをただ善悪の二項対立で描くのではなく、人の心が徐々に変わっていくグラデーションを丁寧に描いていたのがとてもよかった。
サブマリン

サブマリン

マチルダアパルトマン

北千住BUoY(東京都)

2022/12/08 (木) ~ 2022/12/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「青いサブマリン」を観劇。前回見た「ゴンドラ」では人物の描き方が自然でそれぞれの行動に至る動機や感情の流れがスムーズでとても惹きつけられたが、今回のお芝居では登場人物の感情や言動の描き方が不自然に感じられる箇所がいくつもあってモヤモヤした。

ネタバレBOX

例えば「自分が幼いころに失踪した父親の姿を覚えていない」という妹が、父親に似ている(らしい)ホームレスと出会った途端に抱き着くというシーン。獣のような臭いで周辺住人から苦情が出るような見ず知らずのホームレスに若い女性がいきなり抱きつくなんてことはあるだろうか?幼いころの捨て犬のエピソードが行動の源泉になっているとはいえ、流石に無理があると思った。
「5歳で父と別れた」と言っていたけど、5歳なら普通それなりに記憶は残っているはずでは?また、激臭が漂っているホームレスを一晩家に泊めることに何のためらいもみせない姉の態度にも違和感を感じた。

私は「アットホームチャンネル」というホームレスの人にインタビューをするYOUTUBEチャンネルを好んで観るのだけど、ホームレスの人は概ね饒舌でよく喋る。それに対し姉が連れてきたホームレスはまともに会話もできず感情も出すことができない。このような状態のホームレスが他人の招きで果たして家までついてくるものだろうか?そして、もはやホームレスというより「障害者」と呼ぶべき重度のコミュニケーション障害を抱えた人物を軽々に家まで連れてきて、その人の前で「ホームレスは犬じゃないよ」などと会話する無神経さにも違和感を覚えたし、そもそもホームレスを捨て犬になぞらえるセリフに作者のホームレスに対する無自覚な蔑視も感じた。

とりわけ姉が何を考えているのか釈然とせず「何の脈略もなく唐突にピザの話をする」「勝手に家にホームレスを連れてくる」「出ていった父とおぼしきホームレスを探そうともしない」「常にスウェット姿」「同棲相手の男性に対する愛情がほとんど見えない」など、まったく魅力的ではないのに、フランス映画の女優のように「別れようかな?別れないでおこうかな?」などわがままに振る舞う姿に苛立ちを覚えた。

それぞれの内側から突き動かされる行動原理が見えず、人物像がこちらに鮮明に迫ってこないのが残念だった。
捌く–Sabaku

捌く–Sabaku

akakilike

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/10/29 (土) ~ 2022/10/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

男性の女性に対する性的な加害が表現されていてリアルな意味で気分が悪くなる時があった。電車の中で一人で叫んでいるヤバい男を見ているような気持ちにもなった。また男が集団を形成した際の「オレの方がヤバいぜ」「オレのほうがバカなことできるぜ」といったリスキーシフトな態度に危うさと愚かさを感じた。
騒がしい男たちの中心で簡素な会議机の上にじっと横たわる生贄(且つ女神)のような女性の存在が、もしかしたらバカで欲深い男の起動スイッチの役割を果たしているのかも、とも思えた。ずっとあそこに居続けるの、地味に身体にダメージありそう。

観終わった後もゾワゾワとした感触が残り心に妙なダメージを負ったような気分。安易に「よかった」とは言えないけど、今の時代にこそ「見るべき」作品だと思った。

ランボルギーニに乗って

ランボルギーニに乗って

劇団鹿殺し

あうるすぽっと(東京都)

2022/07/08 (金) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主人公とその友人たちの日常の生活を描くパートと主人公が創作した空想の小説世界を描くパート、2つのストーリーラインが頻繁に入れ違い、互いを侵食し、影響を及ぼしながら物語が進む。

ネタバレBOX

こういう場合、日常パートはテンション抑えめで、空想パートになるとアッパーなテンションになることで緩急がつき、非現実的な空想が報われない日常の救いや逃げ場になっていれば分かり易い。

けれど本作は日常パートと空想パート、2つの世界が共に賑やかで騒がしいため緩急に乏しく、また日常パートに悲壮感や閉塞感もあまり感じられないため「なんだかずっと騒がしい」状態が続く。これは主人公テルオ(松島庄汰氏)の見せ場を多く作るための措置なのかな、などと穿った見方をしてしまった。

また、日常パート内に強迫性障害を擬人化した幻覚が現れるので、日常パートにも非日常的な事象が入ってくる形になる。そのマトリョーシカ的な構造が世界を豊潤にするより話の筋をややこしくする方向に機能してしまっているように感じた。

終盤になるにつれ、ようやく日常パートがシリアスに描かれ、一方で空想パートがより一層賑やかで華やかな演出となるため緩急のメリハリがついて引き込まれた。最初からそういう構成だったら良かったのに、とちょっと残念な気持ちになった。

20周年記念公演ということで役者陣からの気合はひしひし感じられたが、脚本自体の遠心力が弱いためせっかくの熱演が少々空回りしている印象を持った。
ゴンドラ

ゴンドラ

マチルダアパルトマン

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/06/15 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

[黄色いゴンドラ]を鑑賞。
学力や知能は高いけど社会性が低く理屈っぽい無職の兄と社交性があり天然だけど頭と要領が悪く物事に疎いヘルパーさん、言葉は強いけどバランス感覚があり優しさを内に秘める妹の3人の物語。

それぞれの人物造形が巧みで物語に破綻がなく引き込まれる。特に小悪魔的に兄の心を揺らす小久音さんが当て書きのようにマッチしていた。約80分という上演時間も過不足なく丁度良かったと思う。

ネタバレBOX

ジャンポケ斉藤氏が最近「いじめられている側は一生忘れない。僕は一生恨んでいます」と告白していたことを思い出した。私自身も中学生時代にいじめにあったことがあるので、兄の「いじめは過去の出来事ではない。現在進行形で自分の中にある」というセリフにとても共感した。

ヘルパーさんがカバンから手帳を取り出す度にレシートやら何やらがバラバラと床に落ちるシーン、これだけで彼女がどういう人物なのかが分かって小さいけど見事な演出だと思った(そして私も「ちゃんとしまえよ!」と内心イライラした)。
本谷有希子の『マイ・イベント』

本谷有希子の『マイ・イベント』

劇団、本谷有希子

サイスタジオコモネAスタジオ(東京都)

2022/06/17 (金) ~ 2022/06/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

公演2日前に上演を中止をして、代わりに急遽本谷さん本人が一人芝居を演じることに。
最初、映像をバックにした朗読から始まったので「なんだ、朗読形式でこのまま最後まで行くのかー」とがっかりして、でもまぁ急場しのぎだから仕方ないか…とあきらめていたら、さにあらず。五反田団のような手作り感溢れるセットを立体的に使ってきっちり仕上げてきた。臨場感あって引き込まれた。

どこまでが黒田大輔さん&安藤玉恵さん上演用にこしらえたもので、どこからがひとり芝居用の特別仕様なのか、分かる術は最早ないけど「ここは黒田さんだったら」「このシーンは安藤さんなら」などと、どうしても想像してしまった。とても面白い脚本なので、いつか黒田&安藤版を観てみたい。

今ここから、あなたのことが見える/見えない

今ここから、あなたのことが見える/見えない

一般社団法人ベンチ

新国際ビル2F(東京都)

2022/05/22 (日) ~ 2022/05/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

丸の内で働く人々の人生の断片をモノローグで紡ぐお芝居。オフィスビルの空きフロアで観覧。弁護士の秘書をやりつつ生け花を10年以上続けるOLさんのプツプツと切れる情感の篭った台詞回しや内側から絞り出したように訥々と話す毒親エピソードが昔のマームのようでエモかった。あとラルクの周年ライブと本公演が丸被りして苦渋の選択で出演を決めた女性の葛藤の吐露が面白かった。客席から自然と拍手が沸き上がった。

素人(この言い方、好きじゃないけど)が出演してるので、少々鼻につく出演者(40歳を過ぎても親からお小遣い貰ってる男性やダンスの上手な人事部男性)の自己開示は自慢話を聞かされているようでキツかった。皆それぞれしっかりとした会社できっちり仕事をしてる方々なので私生活もさほど破綻がないというか、悩みや趣味、嗜好も概ねこちらの想像の範疇内に留まっていた。「暗渠好き」「テニプリ好き」など、丸の内界隈では珍しくてもTwitter上ではさほど珍しくもない。もう少し飛躍(あるいは熱量)が欲しかったのは確か。

街を行き交う人がどこで働き、何が好きで、何に悩んでいるのか。そんなこと日ごろは考えたりしないけど、実際は一人一人に物語があってそれぞれ物語を抱えながら生きている。そのことが確かな強度を持って放たれ、観客の私に刺さった。通勤途中の電車の車窓から眺めるマンションの明かりの向こうにそれぞれの生活や暮らしがあることを知るような瞬間だった。

椅子席は概ね「関係者席」と表示された紙が置かれていて座ることを許されず、止むを得ず低いベンチ席を選ぶほかなかったが、中腰状態で70分以上いたので途中から腰が痛くなって集中力が途絶えた。こちらはちゃんと前売りを買っているのだから、普通に椅子席に座りたかった。せっかくお芝居の内容は良いのに、こういうところで地味にイラッとさせられたのは残念だった。

ホテル

ホテル

20歳の国

新宿眼科画廊(東京都)

2022/05/13 (金) ~ 2022/05/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

官能小説【B】を鑑賞。官能小説の発注を受けながら青春小説を書き上げた官能小説家と、その青春小説に官能シーンを捻じ込んで官能小説に仕立てたい編集者との攻防。

ネタバレBOX

「ホテルで缶詰めになった小説家と編集者」という一見ありがちなシチュエーションながら、「童貞の官能小説家」というねじれたキャラクターを付与することで、そこはかとない可笑しさがにじみ出す。また、小説家のエッチな体験談や高校時代の思い出を2人の役者が演じ分けることで物語に多層的な膨らみを感じさせた。リア充の男友達と一緒にオナニーするシーンは少々下品ながらもバディ感があって面白かった。
ただ、名文だと編集者が褒めた文章内に「彼女のパッションフルーツ~」云々といった陳腐な表現があったことや、女子高生の喘ぎ声を男の役者がやることで興ざめしたりと、ところどころにほつれも見受けられた。喘ぎ声は女性スタッフ、もしくは女声の録音を流してもよかったのでは?
「ホテル」は「マジック」「コーヒー」「官能小説」の3本の短編から成るが、45分の公演1本が3千円というのは「公演時間イコール料金」というわけではないにしろ、少々お高めの値段設定なのでは?できれば2本セットを1公演にして、2公演を観れば全貌が分かるような仕組みのほうがよいのではないかと思った。(オンラインで他の公演を観れる仕組みではあるけど、新宿眼科画廊という、舞台と客席が非常に近いところで感じるあの迫力はなかなか伝わらないと思う)。
グレーな十人の娘

グレーな十人の娘

劇団競泳水着

新宿シアタートップス(東京都)

2022/04/21 (木) ~ 2022/04/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「黒い十人の女」に着想を得たと思われる女系家族のミステリー。姉妹それぞれのキャラクターが立っていて女優陣も魅力的。唐突なおちゃらけや泣き叫ぶシーンなどといった過剰な演出はなく、落ち着いた内容で安心して観ていられた。ただ、登場人物の多さからか、心情を描き切れていないように感じる箇所もあり、少々物足りなさを感じたりもした。

ネタバレBOX

特にキーパーソンである次女が依頼した事件の内容と動機に納得感がなくて最後まで腑に落ちなかった。「自分が死んだことを隠すために姉妹を集めて飲み物に薬物を混入し一時昏睡状態にして財布を盗む」という行為はリアリティーに欠けたし、次女の家族への強い想いや若くして死を迎える悲痛さと覚悟などが感じられず、物語を推進させるためだけの「死」に軽さを感じてしまった。
なぜ次女と女刑事が仲良くなったのかもさらっとしか説明されないので、職務を失うようなことをしてまでやることなのかな?と疑問が残った。
登場人物を半数にして、盗癖があり家族ともうまくいかず社会から逸脱した存在である次女の生きざまや思考・感情をもっと丁寧に描いたほうが深みが出たのではないかと思った。
五女が好む「ピノキオ」は「嘘」の比喩なのではないかと。要するに五女は父親の失踪や次女の死去といった、自分につかれた嘘に対し、全ての事実を知っていた、という意味なのではないかと推測しました。
だからビリーは東京で

だからビリーは東京で

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/01/08 (土) ~ 2022/01/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

私が今まで観たモダンスイマーズの中では穏やかな部類で、パンフの蓬莱さんの言葉通り「優しい」作品だった。コロナが物語の大きな要因になっているのは確かだけど、「あれもこれもコロナのせい」と、ただ人に不幸をもたらす厄災扱いにはせず、コロナで人生が好転する人がいたり今後の人生の気付きを得る人もいて「それぞれの人生における転換期」として扱っているところに好感を持った。
私が観たのは「まん防」が発出される直前で、そんな情勢の中でこの作品が観れたのは感慨深かった。

Better Call Shoujo

Better Call Shoujo

シンクロ少女

シアター711(東京都)

2020/02/20 (木) ~ 2020/02/25 (火)公演終了

満足度★★★★

家族間や恋人感、友人間、それぞれの関係性の中で互いに空気を読み相手を慮るなか、不意に本音がむき出しになる瞬間がグロテスクで愛おしい。登場人物の個性も光っていて惹き込まれた。
昔、シンクロ少女のお芝居を観たときは「愛と憎しみとエロス」みたいな激しさを感じたけど、本作は個々の心情をより繊細に描いていていっそう進化した印象を持った。とてもよかったです。

ネタバレBOX

それだけに、母親が「児童が作った作り物のネズミを見せたら驚いて心臓発作で死亡」という滑稽かつ理解できない死に方で、「そんなことで死ぬわけないやん…」と冷めた目でみてしまった。

母の死が物語を推進する大きな要素になっているため、せっかく心理描写や心の移ろいなど他のパズルがうまくはまっているのに一つだけぜんぜんサイズの違うパズルを強引にはめ込んだような異物感を感じた。ネズミの存在が通奏低音のように流れているのはわかるけど、母の死まで無理に結び付ける必要はなかったのではないだろうか?「自分のせいで母親が死んだ」という納得のいくエピソードが挟み込まれていればもっとすんなり話が呑み込めたんじゃないだろうか。そこが非常にもったいなく感じた。

あと、客席のイスが隙間なくぴっちりと並べられていて、隣の人が腕を動かす度に私の服と擦れあって彼のナイロンジャケットから「シャッシャッ」という音が発生して気が散った。世間がコロナウイルスで大騒ぎなこともあり、せめてもう少し椅子の間を空けてくれたら助かるしお芝居に集中できたのに、と思った。
誕生の日

誕生の日

ONEOR8

d-倉庫(東京都)

2020/01/18 (土) ~ 2020/02/02 (日)公演終了

満足度★★★

d倉庫は座席の高低差があって、見やすくてよかった。

ネタバレBOX

空気を読まずに物事の本質を容赦なく突くアスペルガー症候群らしき客と、周りの人間に振り回されて自分の気持ちをはっきりと打ち出せないバーテンダーの対立は面白かったものの、アスペの強度に対してバーテンダーの姿勢が常に弱いのが物足りなかった。周囲の人々がその弱さを支えていたけど、どこかの時点でバーテンダー自身の内に秘めた熱が強烈に発火するようなシーンも見たかった。
「くも行き」

「くも行き」

ワワフラミンゴ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/12/18 (水) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★

意図的に感情を乗せない棒読みの台詞、途中でぶつ切りになる会話、ほとんど何も置かず素の状態のままの舞台など、既存の演劇に対するカウンターのようなお芝居。シュールなギャグ漫画を舞台化したかのよう。

ツイッター上では比較的高評価だったので、単に私に合わなかったのだとは思うが、過去に上演したLE DECOくらいの箱なら内緒話をしているような親密感や一体感を感じるけどシアターイーストのサイズでは寒々しさを感じた。

兎の姉妹

兎の姉妹

兎座

小劇場B1(東京都)

2019/12/17 (火) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★

主人公の昔の出来事を実家で映画撮影することで、過去を現在に再現させ追体験するという手法は斬新。オープニングで本当の少女が登場したのも説得力があってよかった。
ただ、私の中で若くして亡くなった姉の死因がずっと気になっていて、きっと劇中で判明するものとばかり思っていたのだけど、最後まで明らかにはならなかった。結局死因って何だったの?ラストのドラマチックなシーンで「えっ、死因言わずに終わるの?」と頭がグルグルして没入出来なかった。(私が見過ごしていたならどなたかご教示いただけると幸いです)

ネタバレBOX

【気になった箇所】
姉が長患いの病気だったとすれば主人公もさすがにお見舞いくらいは行くだろうから、事故や急病によって亡くなったのだろうと思うけど、それにしても姉のお葬式にすら出席しないってのは相当に冷淡な気も。東京に出るのを反対されたくらいで「お葬式にも出ない」ってくらい心の距離が開くかな?あと、自分の母親がそこそこ有名な女優だということを30歳を過ぎるまで知らず、父親も伝えていないというのもなんだか不自然なような気がした。

あと、自主制作ぽい映画(PFFに出すくらいの規模の映画かな?と想像しながら観てた)なのに、なんでわざわざマネジャー付きの面倒なアイドルを起用してるのか?とか沖縄弁訛りの役者は選考の段階で落としておかない?とか、ほつれや気になる箇所は多々あったけど、役者さんの熱量が高いせいもあって、全体的に見れば上質なホームドラマになっていたんじゃないかな、と思う。
inseparable 変半身(かわりみ)

inseparable 変半身(かわりみ)

有限会社quinada

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/11/29 (金) ~ 2019/12/11 (水)公演終了

満足度★★

終演後、私の席の後ろに座っていたマダムが連れに「何の話だったの?全然判らないんだけど」「イルカが主役ってこと?」と感想を述べていた。ぶっ飛び過ぎて観客を置いてけぼりにしてた感あり。マダムほどでは無いにしろ、私自身も余りに荒唐無稽なストーリーにポカンとして気持ちが入って行かなかった。

松井周氏の前作「ビビを見た!」が素晴らしい作品で期待が大きかっただけに残念というほかない。

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