実演鑑賞
満足度★★★★★
入場時、スクリーンに2022年の岸田國士戯曲賞受賞シーンの映像が流れる。山本卓卓さんの長すぎる受賞挨拶に内心苦笑してしまう。
闇バイトによる強盗殺人など時事ネタを取り入れつつ川﨑麻里子さん代読による岸田賞受賞挨拶。タモリ方式で挨拶をする川崎さん、すごい!
そしていよいよタイトルの「ユキコ」、佐々木幸子さん本人の話に。あの佐々木幸子さんがついに戻ってきた!と喜び勇んでいたけど、事はそんな単純なことではないということが激しいラップを通じて明らかになってくる。ASDで3級の精神障害者手帳を持っていること、宅建士やフランス語の資格を持っているがASDの過集中のため資格を取るのは容易いこと。演劇をすると決まって対人トラブルを起こしてしまうので夫である金山さんに「演劇をしたい、と言い出したら止めてほしい」とお願いしていること。パチンコの景品交換所で働くのは自分に合ってると考えていること。将来のために高級マンションをローンで購入していること。(ザ・コート神宮外苑、調べてみたら販売価格1億6,500円だった。凄すぎる…!)
難しい状況はあるにせよ、一方で天賦の才といえる役者としての高い能力を持ち合わせた女優さんがパチンコの景品交換所で働いてるなんて本当にもったいなすぎる。ゆっくりとしたペースでいいからまた演劇の世界に戻ってきてほしいとファンのひとりとして切実に願う。劇場の座席に置かれたチラシの中によく「佐々木幸子(野鳩)」って名前を見つけた頃が懐かしい。
「いま東葛キテる感じで、私が出てた頃は暗黒時代みたく思われてる」って佐々木さんの台詞、そんなことないと声を大にして言いたいけど、音響だけをとらえれば3331の地下でやっていた頃など確かにひどい時はあった。しかし今回、高音と低音の迫力をキープしつつ中音域の台詞も聞き取り易くて、私が今まで観た東葛の中で音響が一番素晴らしかった。
リリックとトラックは東葛スポーツを観るうえで欠かせない要素で、音が濁ったり割れたりするとせっかく練りに練られた台本も台無しになってしまう。クリアなサウンドで聴けるというのはとても重要だし、音響を磨き上げることによって鋭いリリックを吐き出す女優さんたちを輝かせ、同時にリリックを粒立てることに見事に成功していたと思う。