雲間犬彦の観たい!クチコミ一覧

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蟹工船

蟹工船

劇団 東京芸術座

ももちパレス(福岡県)

2012/10/16 (火) ~ 2012/10/22 (月)公演終了

期待度♪♪♪

村山知義とマヴォ
 「元祖ワーキングプア」としてブームになってしまった小林多喜二の『蟹工船』であるが、果たしてプロレタリア運動による「革命」を本気で画策し、反政府運動家として虐殺された多喜二と、バブル崩壊後の自業自得的格差社会の中での低所得者層とを、簡単に重ね合わせていいものかとは疑問に思うのである。ブームというものは多分に宣伝が実態を過剰に修飾することで成り立っている。『蟹工船』を再評価することを否定したいわけではないが、現代との接点を具体的にどう見出すのか、それが提示されなければ、それは単に歴史的名作を観てみました、というだけの意味にしかならないだろう。

 『蟹工船』を舞台化し、最初に演出したのは村山知義である。彼の名前も若い人には忘れ去られているだろうが、映画ファンには山本薩夫監督の『忍びの者』シリーズの原作者として知られている。盗賊石川五右衛門を組織の中で使命に苦悩する個人の忍者として描き、この五右衛門像は『ルパン三世』の五右衛門に直接の影響を与えた。
 近年、再評価が進んでいるのは、芸術振興団体「マヴォ」の中心人物としての活動においてである。彼はもちろん左翼活動家であったが、小説、劇作だけに留まらず、建築、美術、デザインにおいてまで、多岐にわたるそのアヴァンギャルドな活躍には、左翼家という一括りで語るには計り知れない自由さがあった。村山知義は思想を超えたスタイリッシュな存在であった。
 その村山知義の演出を再現するのが、今回の『蟹工船』だというのである。プロレタリア文学の短絡的な舞台化なら、たいして興味はない。村山舞台演出としての『蟹工船』なら観てみたいのだ。

テトラポット

テトラポット

北九州芸術劇場

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2012/02/20 (月) ~ 2012/02/26 (日)公演終了

期待度♪♪♪

柴幸男演出の真髄を
 北九州芸術劇場プロデュース公演も、リーディングはそろそろ頭打ちのように思える。プロの演出家を招き、地元俳優を使っての本格的な舞台演出には大いに期待したい。
 『わが星』で見せてくれたような、地球と人と宇宙とを重ね合わせる大胆な演出は見られないかもしれないが、少しでもこれまでにない新しい演劇の萌芽というか、片鱗が観られるようなら僥倖である。

間取り図ナイトツアー

間取り図ナイトツアー

「間取り図大好き!」コミュニティー(mixi)

FUCA(福岡県)

2012/06/22 (金) ~ 2012/06/22 (金)公演終了

期待度♪♪♪

マドリマニア・マドリマギカ
 家も一つの舞台と考えれば、間取りは立派な舞台芸術(笑)。
 興味のない人には家の図面を観て何が面白いのかと訝しまれることだろうが、世の中には間取りマニアというヘンな人々が確実に存在しているのである。私ですけど。
 エンタテインメントとしての「間取り本」で、一番有名なのは、舞台美術家・妹尾河童の『河童が覗いた~』シリーズだろう(ほら、ちゃんと舞台美術と関係がある)。河童さんの精緻な筆致で描かれたヨーロッパやインドやニッポン家屋の俯瞰図は、ちょっとした調度まで詳細な解説が付けられており、まるでリカちゃんハウスを覗き見ているような楽しさに溢れていた。
 けれども河童さんの本はあくまでイラストレーションとして面白いのであって、「設計図としての間取り」の面白さを伝えるものではない。真の「間取り図」とは、何の調度も描かれていなくとも、ただ壁と柱の位置と、部屋の用途が書かれているのを観るだけで、なぜか面白いのである。単調だからこそ、その間取りの歪つさが目立つのである。
 そういう種類の間取り本も、いくつか発行されている。『ヘンな間取り』シリーズがそれだ。窓が全くない部屋、迷路のような部屋、廊下が異常に長い部屋、「ここにどうやって住めと?」の惹句にウソはない。でも実際に住んでる人がいるんだよね。人は住まいをよりよくしようとして、かえって環境を悪化させてしまうもののようだ。
 そんな楽しい間取りばかりを集めて観てやろうという人気のイベントが、ついに福岡に初上陸。楽しみで仕方がない。前売予約は即日完売で、もう当日券しか残ってはいない。なんだ、やっぱりマドリマニアはいるんだね。

Final Fantasy for XI.III.MMXI

Final Fantasy for XI.III.MMXI

福島県立いわき総合高等学校

福岡明治安田生命ホール(福岡県)

2012/03/03 (土) ~ 2012/03/03 (土)公演終了

期待度♪♪♪

高校演劇の枠を超えるか
 平田オリザも一枚噛んでるらしいがホントかな。
 東北のチャリティー公演で、高校演劇で、と聞くと、学芸会に毛が生えた程度かと侮ってしまいそうになる。
 しかし、高校演劇大会の東北代表に選ばれた実力は、東京から招聘したプロ演出家たちによって錬磨されたものだとか。
 これまで、前田司郎、柴幸男、多田淳之介、篠田千明、長谷基弘、わたなべなおこら錚々たるメンバーによって、高校生たちにワークショップが行われてきた。そんじょそこらのへなちょこ劇団よりもよっぽど濃い修練を積み重ねてきているのだ。
 震災を題材にした今回の舞台のプロデュースも、五反田団の前田司郎が買って出ている。
 先入観は捨てよう。高校生たちの「今」を観たい。

東儀秀樹 雅楽ワークショップ&ミニライブ

東儀秀樹 雅楽ワークショップ&ミニライブ

そぴあしんぐう

そぴあしんぐう(福岡県)

2012/02/04 (土) ~ 2012/02/04 (土)公演終了

期待度♪♪♪

雅楽の科学
 笙、篳篥、笛、鼓と、雅楽は充分にオーケストラでシステマチックな音楽だと思うのだが、一般的には古めかしいものとして、そうそう若い人の興味を惹くことはなかったろうと思われる。東儀秀樹が現れるまでは。
 大河ドラマ『篤姫』の孝明天皇役で広く知られるようになり、先日公開された映画『源氏物語 千年の謎』では一条天皇役であった。俳優としても高貴な役ならこの人、というイメージが定着していて引っ張りだこなのだろうが、本業はあくまで雅楽師である。現代音楽とのコラボなど、雅楽のイメージを一新する活動の数々は、一般観客のみならず、アーチストを自認する人たちにも驚異的かつ歓喜の声を伴って迎えられてきた。
 今回はただのライブではなくて、ワークショップだというのだから、その魅力の一端を「実体験」できるわけである。胸が躍るではないか。

 もう当日券しか残っていないようだから、ご興味のある方はそぴあしんぐうまでお問い合わせを。

Hobson's Choice -ホブソンの婿選び-

Hobson's Choice -ホブソンの婿選び-

無名塾

ももちパレス(福岡県)

2012/02/10 (金) ~ 2012/02/18 (土)公演終了

期待度♪♪♪

復活の仲代達矢
 いったんは『炎の人』で俳優引退を表明していた仲代達矢が、再び無名塾を率いて、久しぶりの喜劇に挑む。
 全盛期の勢いはないが、仲代達矢くらい、「枯れる」イメージからほど遠い役者もいない。これからは一舞台、一舞台が渾身の演技となるだろうと期待したい。

日韓演劇フェスティバル in Fukuoka

日韓演劇フェスティバル in Fukuoka

日本演出者協会 福岡ブロック

大博多ホール(福岡県)

2012/02/11 (土) ~ 2012/02/19 (日)公演終了

期待度♪♪♪

懐かしいあの村へ
 映画『トンマッコルへようこそ』は、ドラマとしてはかなり不満のある物語ではあったが、イノセントなヒロインの魅力と、何よりも「理想郷」としての村の鮮やかな緑の色彩が印象に残った。
 舞台が村に限定されているから、演劇にするには格好な題材ではあるが、自然が主役だったとも言えるあの映像美を、舞台上で再現することは困難だろう。「演劇的に」何を付与し、膨らませてくれるのか、正直不安もないわけではないのだが――。 
 ともすればつまらぬ政治上の諍いでギクシャクしがちな日韓の間で、映画や演劇の分野ではこうした交流が行われていることについて、純粋に喜ばしいことだと思うのである。 

 『恋愛』 は「無言劇」であるという、ただその一点に惹かれて観劇することにした。演技と演出によほどの自信がない限り、無言でドラマを作り出そうなんて無茶なことはしないだろう。それが羊頭狗肉でないことを祈りたい。

 今のところ、観劇予定なのはその2本だけ。あとはたいして魅力は感じないのだが、気が向いたらリーディングくらいは観に行くかも知れない。

幻蝶

幻蝶

東宝

キャナルシティ劇場(福岡県)

2012/04/22 (日) ~ 2012/04/22 (日)公演終了

期待度♪♪♪

喜劇か悲劇か
 「幻蝶」を巡る物語として真っ先に思い浮かぶのは、往年の特撮SF番組『ウルトラQ』の一編『変身』だ。幻の「モルフォ蝶」を発見した男の奇怪な運命を描いたエピソードだったが、「蝶に魅入られた男」の物語は、たいていはその蝶の神秘性に影響されてか「悲劇」となることが多い。映画『コレクター』もまた然り。
 現実でも、俳優の故・岸田森は有名な蝶マニアだったが、人間・岸田森自身が神秘のベールに包まれた存在だった。

 古沢良太は、これを「喜劇」として描くつもりなのだろうか。『ALWAYS』シリーズは決して彼の本領が発揮された作品だったとは言いがたい。原作のシバリが、彼が腕を振るうのをどこかでセーブさせていた。古沢脚本の代表作はもちろん『キサラギ』である。今回、初のオリジナル戯曲が、『キサラギ』を超えることができるのかどうか、それを確認したい。

柳家喬太郎 独演会

柳家喬太郎 独演会

福岡音楽文化協会

イムズホール(福岡県)

2012/03/18 (日) ~ 2012/03/18 (日)公演終了

期待度♪♪♪

悪い下宿人
 つい最近だが、喬太郎師匠のデビューは落語家としてではなく、往年のバラエティー番組『欽ドン! 良い子悪い子普通の子おまけの子』での「悪い下宿人」の役であったと知った。
 言われてみれば、記憶の彼方の悪い下宿人の顔と師匠の顔とが重なりあう。そんな昔から師匠のことを知っていたということになるが、これまでその事実に気付かなかったのだから、決して昔ながらのファンだなどと威張れるものではない。実際、生の高座を拝見するのは今回が初めてである。
 巧いと膝を叩くほどに感心したことはないのだが(失礼)、ハズレ籤を引いたと感じたことも一度もない。以前は「一人でやっている(客の反応を見ていない)」と感じることもあったが、白髪が増えてから(苦笑)、余裕というか、貫禄も感じられるようになってきた。新作落語にも意欲的だが、ちょっと「やり過ぎ」の感もないわけではない。しかし、落語家の世代交代の先頭を走っている一人であることは間違いない。
 独演会ということは三本は聴ける。古典二つ、新作一つくらいの配分になるだろうか。

春風亭小朝 独演会 2012

春風亭小朝 独演会 2012

シアターネットプロジェクト

エルガーラホール 大ホール(福岡県)

2012/03/10 (土) ~ 2012/03/10 (土)公演終了

期待度♪♪♪

年に一席は
 いつぞやのスキャンダルのせいで、「×髪×野郎」って蔑称がかなり浸透しちゃったが、もう「ほとぼり」が冷めた頃か。素直に落語を楽しみたい。
 小朝は巧い。それは真を打つ前から評判で、だから「36人抜き」の時には「ついに」とか「やはり」とかの形容が付いたのだった。
 けれども、巧いのにどこか物足りない。そつがなさすぎてつるんとしている。どんなに下品に演じても「若旦那」に見えてしまう。生来の暢気さのせいで、何歳になっても坊っちゃん坊っちゃんしたキャラ以外は「アクの無さ」が目立つ。
 だからしょっちゅう福岡に来ている割には、気が向いた時しか聴きに行かないのだが(先日のJR博多ホールこけら落としも観に行かなかった)、観なかったら観なかったで、残念な気持ちにさせられるのである。ともかく口跡ははっきりしてるし、間は絶妙に巧いんだから。
 1、2年に一回くらいのペースで観に行くかな。

prayer/s

prayer/s

RAWWORKS

あじびホール(福岡県)

2012/06/01 (金) ~ 2012/06/02 (土)公演終了

期待度♪♪♪

祈りか呪いか
 同タイトルのワーク・イン・プログレス公演を経て、これが本公演となるようだ。
 暗闇の中、半裸の俳優たちが、蠢きながら祈りとも呪いとも取れるような、呟き、呻き、叫びを繰り返す。その奇怪な動作は、一見、抽象的でありながら、さほど意味不明という印象は与えず、こちらの心臓に鋭い刃が突き立てられるような、恐怖と悦楽がない交ぜになった感覚を与えてくれた。
 演劇には完成形がない。前回の公演が制作過程の一形態であったとしても、それはそれで衝撃的であったし、今回もまた「進化」の過程を見せてくれるのだろう。
 あじびホールは小さな会場だが、洞窟の中の原始人たちの原初の姿を垣間見るようなあの舞台には相応しいように思える。

コルチャック先生と子どもたち

コルチャック先生と子どもたち

劇団ひまわり 福岡アクターズスクール

キャナルシティ劇場(福岡県)

2012/03/11 (日) ~ 2012/03/11 (日)公演終了

期待度♪♪♪

未来の子どもたちに
 ヤヌシュ・コルチャックの存在を知ったのは、多くの人がそうであったように、アンジェイ・ワイダ監督の映画『コルチャック先生』である。
 ナチスによるユダヤ人迫害の実態は、未だに全貌が解明されたとは言えない。ホロコーストはなかったと主張する反ユダヤ主義者も決して少なくはないのが現実だ。コルチャックの功績を語ることは、必ずしも簡単なことではない。
 劇団ひまわりは、1995年以来、定期的にコルチャックを題材にした舞台を上演し続けている。中にはワイダ監督を招聘して監修を依頼した公演もある。ひまわりがいかにこの公演に力を入れているか、差別と迫害から子どもたちを守ろうとしたコルチャックの人生を後世に伝えることに情熱を傾けているか、その歴史が語っている。

 脚本や演出、キャストは変わっても、加藤登紀子の音楽は変わらない。それも楽しみである。


ダンス・アジア in Fukuoka

ダンス・アジア in Fukuoka

NPO法人コデックス (Co.D.Ex.)

大博多ホール(福岡県)

2012/05/18 (金) ~ 2012/05/19 (土)公演終了

期待度♪♪♪

虚のダンス、実のダンス
 日韓共同の、と冠詞が付くと、どうしても文化や歴史や差別の壁を越えてってのがテーマになりがちで、いくら演劇が時代性と不可分だと言っても、肩肘張った押しつけがましい芝居ばかりを見せられ続けたら、正直な話、もういいよって気にさせられてしまうのである。
 そういうものが全くない日韓ドラマ、国境を越えたラブロマンスとか、そんなのも嘘くさいのだが、だからと言って観る映画、演劇が全て「『パッチギ!』モドキ」であっても、困るのである。差別を二項対立の単純な認識で描けば、かえって反発を抱く人間が現れるのも、致し方のない反作用なのだ。

 その点、ダンスの競演なら大丈夫だろう。両国とも何となく「アジア」を意識してはいるようだが、それならば日韓だけに視点を置くのではなく、アジア全体に眼を向けてほしい。アジアの多種多様な文化は、もっと感情豊かな世界を内包しているはずだから。
 “AMBIGUOUS”とは「曖昧な」という意味だが、惹句を読む限りでは、これも「虚実皮膜」をテーマにしているようである。嘘から出た真の世界を楽しもう。それぞれ40分という短さもいい。

アイドル、かくの如し

アイドル、かくの如し

森崎事務所M&Oplays

キャナルシティ劇場(福岡県)

2012/01/11 (水) ~ 2012/01/11 (水)公演終了

期待度♪♪♪

偶像とは
 岩松了によるアイドル論だそうな。いわゆるバックステージものの変形なのだろうが、『ドレッサー』に代表されるように、演劇の舞台裏を扱った作品には往々にして傑作が生まれる。アイドルを真正面から題材にしたものは、マンガやアニメには多いが、演劇には少ない。岩松了は日常の狂気を描くのが巧い作家だが、彼がどんなアイドル論をぶつのか、AKB48をどう考えているのか(笑)、そこに興味がある。
 アイドル役は福岡出身の上間美緒。『高校デビュー』などにちょろっと出ているが、沢尻エリカ似の、これから「出てくる」かもしれない女の子だ。出番が多いといいなあ。

32年生の8時間目

32年生の8時間目

空晴

大博多ホール(福岡県)

2012/04/20 (金) ~ 2012/04/21 (土)公演終了

期待度♪♪♪

空は晴れるか風吹くか
 劇団「空晴(からっぱれ)」、福岡での公演は三回目だそうだが、前2回は未見。前回は楠見薫さんがゲストだったので関心はあったが、日程が合わずに見損ねた。
 劇団自体の事前情報としては、大阪の劇団ではあるが、東京などの劇団とも交流しつつ、ほぼ毎回、客演を募って舞台を作っているらしい、ということくらいしか知らない。今回は同じ関西の南河内万歳一座の俳優が二人、ゲストで出演するようだ。こちらはもう北九州では常連、かなりSF志向の強い悲喜劇を得意としている。
 従って、今回の公演について、観劇の頼りになるのは「あらすじ」くらいのものである。ところがこれが、チラシにも劇団ホームページにも載っていない。かろうじてamcfの特設ページにストーリーが掲載されていたので、ようやく変わり映えがしないと思っていた日常に、奇妙かつホラーな出来事が連発する様子を泣き笑いで描く不条理人情喜劇(そんなジャンルがあるってわけじゃないが)なのだろうか、という予測は付けられたが(だから間違っているかもしれない)、ちょっと地方公演を打つにしては、宣伝が足りないと思うのである。
 小劇場系の役者さんたちの知名度は一般人には決して高くはないので、やはり「題材」で勝負してほしいと思うのである。

売春捜査官

売春捜査官

劇団上町クローズライン

西鉄ホール(福岡県)

2012/05/04 (金) ~ 2012/05/04 (金)公演終了

期待度♪♪♪

つかこうへいは更に進化するか
 旗揚げから6年という若い劇団「上町クローズライン」。
 今回が初見になるが、これまでの活動記録を見ると、オリジナル以外は全てつかこうへい作品を上演している。しかも『二等兵物語~怪盗ムーン~』『熱海殺人事件~モンテカルロイリュージョン』と、かなり癖のある作品を選択している。もっとはっきり言えば、在日コリアンやゲイなどのマイノリティ問題を思い切り前面に出してきた作品ばかりを、つまり、つかファンですら好き嫌いが極端に分かれる作品をあえて(としか思えない)選んでいるのだ。もちろん、今回の『売春捜査官』も同様である。
 その意図が奈辺にあるか、それは実際に舞台を観てみなければ分からない。気になるのは、本来、タイトルに付いていた『熱海殺人事件』が外されて、サブタイトルがメインになっていることだ。これもまた「あえて」であるなら、そこにきっと何かの意味があるのだろう。私の拙い読解力でそれが見抜けるかどうか、いささか心配ではあるが、この劇団のヴィヴィッドなチャレンジ精神が明確にうかがえることは、一観客としては非常に嬉しい。
 キャナルでの『NEXT』との見比べも楽しみだ。

子供のためのシェイクスピア「リチャード三世」

子供のためのシェイクスピア「リチャード三世」

華のん企画

J:COM北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)

2012/09/02 (日) ~ 2012/09/02 (日)公演終了

期待度♪♪♪

リチャード三世は傴僂男か
 シェイクスピアの原作では、主人公のリチャード三世は醜い傴僂男だということになっている。一昨年の舞台『国盗人』では野村萬斎が原作のイメージ通り、四肢に異常があるがゆえに心まで歪んだ人物として「悪三郎」を演じていた。
 華のん企画・子供のためのシェイクスピアカンパニーによる『リチャード三世』は6年ぶりの再演だが、初演を観ていない身なので、この「傴僂男問題」を演出の山崎清介がどう処理したかは知らない。原作のままというわけにはいかなかったのではないかと思うが、脚色の仕方によっては「甘い」芝居になりかねない。不安と期待が半ばするが、「子供向けだからと言って、決して手を抜かない」ことを一義として、18年の長きに渡って
続けられてきたこのシリーズである。三世の悪逆の背景にある悲哀を描くことは押さえているものと信じたい。
 それにしても、山崎清介さんが、『ひらけ!ポンキッキ』の「やまちゃん」だったとは、経歴を見るまで気がつかなかった。子供を舐めてかかっちゃいけないことは肌身で感じてきたことだろう。期待してよいと思う。

ある女

ある女

ハイバイ

西鉄ホール(福岡県)

2012/03/24 (土) ~ 2012/03/25 (日)公演終了

期待度♪♪♪

他人の不幸こそ蜜の味
 岩井秀人にしろ佐藤二郎にしろ、ヒッキーだった自分をネタにして芝居を作ると、自分では自己を客観視できたつもりでいても、やはりそこに自己弁護や自己陶酔の要素が入り込んで、あまり面白いものにはならないという傾向があった。
 しかし今度は「他人」がネタである。しかも題材は「不倫」。私も不倫した知り合いを何人も見てきているが、本人たちは真剣に悩んでいるつもりでいても、端から見ればかなり滑稽なのだ。自分を客観視できない滑稽さである。
 「自分語り」はつまらないが、「他人の噂話」は面白い、というのは鉄則である。面白くなりそうでなり損なってたこれまでの芝居に比べて、今度の岩井秀人にはちょっと期待ができそうだ。

No Enemy, No Life?

No Enemy, No Life?

village80%

西鉄ホール(福岡県)

2012/04/29 (日) ~ 2012/04/29 (日)公演終了

期待度♪♪

坑の中の村八分
 今年の福岡演劇フェスティバルで、地元福岡の劇団の中で、唯一ラインナップされたのがvilage80%。実は最多出場劇団でもある。
 その劇団としての特徴を、乱暴は承知の上で一言で言うなら、「演劇に何が出来るのかを常に問い掛け続けている劇団」と言えるだろう。その姿勢を持つ劇団自体が福岡では非常に数少ないし、たいていの劇団が、叩頭し追従する客に満悦して増長している中にあって、見え透いたお世辞に簡単に“乗せられない”姿勢が見受けられのも好感を抱かせるところである。
 ただここ数年の近作には、表現の手法として、既成作家たちの模倣から一歩も先に出ていない恨みが強く感じられる。villageの演出家全員が低迷中、といった印象である。
 だから「期待値」ということで言えば、私の中ではとても三つ星は与えられないのだが、今回の舞台は、既に数ヶ月前に「ひた演劇祭」で上演されたもののいきなりの再演である。少しは“こなれている”かどうか。作品紹介の文章の中に、キーワードとして何度も「世界の敵」が繰り返されるのは、どうも「あの作品」に似ているような気がして、これも不安の理由の一つになっているのだった。

異郷の涙

異郷の涙

劇団太陽族

J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)

2012/02/04 (土) ~ 2012/02/05 (日)公演終了

期待度♪♪

第2回日韓演劇フェスティバル
ホームページに、「韓国から俳優を招き、日本と韓国の間にある歴史認識の差異、領土問題、在日コリアンなどさまざまな問題やわだかまりへのベクトルを持ちながら、戦後生まれの我々の現在を普遍的な人間ドラマとして描きます」とある。日韓ドラマは、ともすればイデオロギーの偏りが目立つ作りになってしまうことが多いが、何らかの形でそれを昇華できるのか。反日になっても嫌韓になっても困る。期待半分、不安半分で観に行く。

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