
流れる涙は嫌でも止めない
キムライヅミ企画
高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)
2024/12/21 (土) ~ 2024/12/21 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ヤバイ芝居presentsヤバイ芝居こと 『流れる涙は嫌でも止めない』高円寺K'sスタジオにて。
シアターゴーアーの猛者、遂にステージへ。インプットを武器にしたアウトプット。俳優への愛とリスペクト、演劇への思慕と憧憬、そして偏愛と疑いを詰めし40分。清水邦夫の『楽屋』をそういう形でオマージュ、そういう角度で照射するのか、という驚きもありました。俳優4名の瞳がそれぞればちばち、ぎんぎらにキマってかっこよかったです。

ファジー「yours」
TeXi’s
北千住BUoY(東京都)
2024/12/21 (土) ~ 2024/12/23 (月)公演終了
実演鑑賞
TeXi's『ファジー』最終作『yours』千秋楽を見届けました。
1年をかけて男女二元論が生み出してしまっている「加害性」について考える。
とんでもない精神力と胆力を要するこのプロジェクトを完遂したテヅカさん、そして参加した全ての俳優さんやスタッフさんにまずは敬意を。しんどかったと思います。やるせなかったこと、わからないこともあったと思います。劇評執筆をした私もしんどく、やるせなく、わからないこともありました。それでも舞台芸術界において、いや社会においてこのプロジェクトが存在したこと、観客も含め多くの人が参加したことはとても大きい。集大成を見届けて改めてそう思います。
『theirs』『ours』に続き『yours』も劇評をお寄せする予定です。
演劇に携わる一人の文筆家としてもこんな風にプロジェクトを通して作品を見つめ、筆を執ることはなかなか得られない機会でした。また男児と女児を育てる親としても多くの気づきをもたらしてくれました。終わりのない課題だとも思います。(※ゆえに満足度は空きとさせていただきます)

て
ハイバイ
本多劇場(東京都)
2024/12/19 (木) ~ 2024/12/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
この後どうなるか全部わかってるのにどうしてこんなにも心が震え、乱されるのか。
風景としては描かれてない時間、例えばお兄ちゃんが幼い頃おばあちゃんと過ごした時間とかそういう時が心身に傾れ込んでくる様で拭っても拭っても涙が止まらなかった。家族はなんて煩わしいのだろう。
大倉孝二さん演じる兄が背負う渇ききった諦観、だけどその端にひとさじのさびしさがあって、それがちょっとした仕草、何気ない言葉から溢れ落ちるようで目が離せなかった。瞬きひとつの瞬間に時をまたいでいく川上友里さん、その母性の滲む眼差しに涙腺が決壊。あと、なんといっても岡本昌也さん。どこ切り取っても居心地の悪さや戸惑いや焦りを繊細に表現されていて、身体や瞳、振る舞いの雄弁さを痛感。アウトサイダーとしてある家族の軋轢のど真ん中に立ち会わざるをえなくなった状況が伝播してくるようで、彼と同じ地平から家族を見つめていました。
ずっと忘れられない、さいごの『て』。

ケレン・ヘラー
くによし組
シアタートラム(東京都)
2024/12/19 (木) ~ 2024/12/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
観劇後すぐは、観客が登場人物たちを十分に理解し、愛するための要素が人物造形にも文脈にも足りていないように感じて、それだけに物語に没入しづらかったり、クライマックスシーンで描かれる痛みをその濃度で受け取れなかったように感じていた。しかし、本作が描きたかった本質はそこではなく、むしろ逆なのかもしれない。
売れる=愛されるということへの疑問や、大衆から浴びせられる愛の不確かさと脆さ、幸せである状態よりも不幸である状態の方が注目が集まるという皮肉…。そういったこともがこちらに問いかけられているのかもしれない、という気持ちになってからが本当の余韻の時間であったように思う。
そんな観劇後すぐには気づけなかった本作がもつ途轍もない問いかけとエクスキューズに後々くらった。
「笑い」という暴力、過激化する欲求、「面白さ」の成立と同時に失われるもの、その残酷。
(とくに前半は)一見そうはみえないようなポップな手触りとなっているけど、その実切実なまでの社会への批評性が通底する作品だった。その意図の有無は分からずとも、奇しくもこれが今こその改革を要するM-1直前の上演であったことも含めて。
「笑い」を巡る暴力性や歯止めのきかない承認欲求、頭ひとつ抜きん出るために過激化していくパフォーマンス、SNSをはじめとする匿名性を有したメディアを通じて顔の見えぬ者によって築かれる名声や評価、そうした中で見失われる本質、そして、されども貫かれる狂気と信念。振り返るたびに示唆に富んだ上演であったと痛感する。

ゲイ・モノローグ
y/n
STスポット(神奈川県)
2024/12/13 (金) ~ 2024/12/16 (月)公演終了
実演鑑賞
初日。ギリギリだったけど、観られてよかった。
おぐセンターでのワークインプログレスのような公演で「この言葉と風景を多くの人に」と感じていたあるシーンが、前後の文脈含めてより強固なものになっていた。
他者の気持ちを「想像すること」を忘れずにいたいと生きているつもりでも、「想像することさえ必要でなくなればいい」と思う人がいることまでは想像が及んでいなかった。
この題材においてはマジョリティに振り分けられる自分、そんな自分が知らずに手にしている特権性のようなものを痛感させられた。必要な機会だった。
私はこの公演を田舎の両親にも観てほしいと感じた。
y/nのレクチャーパフォーマンスは都市部のみならず地域にも持ち出される意義があると思う。なんなら教育現場でやってほしい。もちろん持ち出しではなく国のお金で。その意味があると思う。死と生/性と生が痛切に背中合わせとなったあの言葉を私は忘れない。忘れてはならないと思う。必要な時間だった。
(※この題材のパフォーマンスを受けて、「満足」してしまうことは作品が伝えようとしていたこと、それを受け取った自分の体感にも逆行する行為に感じるため、「満足度」は空きにします。ただ、観られてとてもよかった。)

おわるのをまっている
劇団 贅沢貧乏
シアタートラム(東京都)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
初日を観劇。三度に渡る拍手、劇場に満ちるその音がとても温かくて落涙。あの拍手には作品や作家や劇団への待望と敬愛が、それから、複雑な心身を抱えながら其々の今を生きる互いへの労いや祝福が込められている様に感じてならなかった。みんなで抱きしめ合うみたいな拍手だった。
ここ数日それこそ不調ゾーン入っちゃってたけれど、シアタートラム行ったらそこにはとても勇気がいったはずの、だけどその分やさしい言葉や景色があって、「わたしも同じことあるよ」って言ってくれる人がいて、好きな人に沢山会えて、私はこの人たちと一緒にあの温かい拍手してたんだな、と思ってまだ胸がいっぱいの帰路。
そういうことがすこやかな心を保つためにはとても必要なのだということを気づかせてくれる劇。
その後しばらくして、色々やらなきゃなのに何もする気が起きず後ろめたさにまたやられていたとき、とりあえず温か靴下はいてあのホテルのみんなを思い出していた。そうこうしてたら観てほしい人の顔が浮かんで連絡して、こちらがもらった言葉に励まされたりして。しんどい時こそ出会ってほしい演劇だなと痛感する。そういう演劇はとても少ないとも思う。

平和によるうしろめたさの為の
城山羊の会
小劇場B1(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/17 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
城山羊の会観ずして年は越せんぞ、ということで今年も無事観劇。背徳的快楽に身を任せる時とその前後。エッチで上質な会話劇にぼんやり浮かぶ寂寞と切実。共感してしまったよ。城山羊が初の友人を誘ったのですが観る前から絶対面白いという安心感の元おすすめでき、実際はそのさらに上をいく面白さ!

まよかげ/Mayokage
篠田千明
世田谷代田 仁慈保幼園 Piazza(東京都)
2024/12/05 (木) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
お迎えからその足で、篠田千明『まよかげ/Mayokage』初日に10歳、6歳の子どもらと。
一緒にいながら3人別々の光や影や音を追い、其々に心を動かすとてもいい時間だった。
私はワヤンを見つめる時とその影を追う時を交互に重ねながら、魂の在処や赦しや畏れについて考えるなど。
たかくらかずきさんの手がけるキャラクターたち、その愛嬌にもぐっと心を奪われる。子どもらは1つずつ好みのグッズも購入し早速絵を描いていた。とても面白かったと。思い切って連れてきてよかった。それぞれ好きな神様や怪物や生物を発表し合う帰路。畏怖についてのQに対して子どもたちが選んだAも含めて気づきの多い夜だった。

三月の5日間
7度
北千住BUoY(東京都)
2024/12/05 (木) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
※会場での通し稽古の見学ですが、とても興味深い公演で記録しておきたいので残します。ご了承ください。(ゆえに公演としての満足度については空きにさせていただきます)
チェルフィッチュ初演はおろかリクリエーションも観逃してる私にとっては初めての『三月の5日間』。前説から渋谷の街の風景のみならずそこに身を置いた時の体感をも握らせる導入がとても効いていて、不思議な没入感を堪能。一人芝居というよりは一人語りという感じで声が印象的な演劇でした。照明や音響、BUoYという独特な空間との共振あるいは違和が加わった時、また別の体感が生まれるのではないかと思います。

レットイットビーム
コメディアス
OFF・OFFシアター(東京都)
2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めてのコメディアスを『レットイットビーム』で。
文字通りレーザービームを駆使した科学と演劇の融合、インディージョーンズのアトラクションのような体感。
もうこれは変態的なまでの飽くなき偏愛と探究心を以て「光」という科学、文明、いや神秘に迫る大実験劇。発明レベルの圧倒的舞台装置、反射と屈折、そして、その光路の果てに現れる科学では証明不可能なヒューマニズムとユーモア。新たな"光"が眩しい演劇だった!

たずね先
ワワフラミンゴ
プーク人形劇場(東京都)
2024/11/28 (木) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
今日の”たずね先”は大好きなプーク人形劇場(劇場ぴったり)。
色んな人に「絶対好きだよ!」と言われつつ観逃してしまってたのですが、こんなにもやさしくかわいく、可笑しくて愛らしい演劇が今新宿に発生していること、私も忽ち1億人に言って回りたくなった。心がほぐれる時間。みんな愛おしい。
もう一つ大事なことは、ワワフラミンゴ初観劇の人対象の初フラミンゴ割使わせてもらったということ。これもまたとってもやさしい、うれしい計らい。私みたく観たくて観逃してきちゃった人や演劇にむずかしい印象をお持ちでなかなか劇場に足が向かない方も是非この機会にと思いました。心がふかふかになります。なりました。

赤砂
MEMELT
SPACE EDGE(東京都)
2024/11/30 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
MELT『赤砂』久々のEDGEで。ビジュアルやコピーにしろ映像や音楽にしろめっちゃかっこいいのに、しっかりくだらないの本当清々しい。凄まじいスケールの話とあまりにみみっちい話が往来した結果、これぞ人類?と核心に迫られた気になってしまったのも手腕か。配役も空間もバチ決まりのSF 悲喜劇でした。

間の時間
愛知県芸術劇場/Dance Base Yokohama
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/09 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama「パフォーミングアーツ・セレクション」Bを10歳娘と。
個性豊かな3つのパフォーマンスがそれぞれ自分の心身の別々の場所を訪れる。そのアクセスで初めて気づく感覚や感情、記憶もあり踊りの奥深さや身体が否応なく抱えるドラマを改めて思い知った。濃密な時間だった。
①柿崎麻莉子「Can't Sleeper」自分の身体との対話について考えさせられた。耳を澄ませたらその囁きがふとどこからか漏れ聞こえてくる様な柿崎さんと堀田さんの身体の動きや流れ。それらが重なり、解けてまた重なっていく中、なぜか遠い郷愁に触れた気がした。観客の言葉との交わりにも胸がぎゅっと。
②岡田利規×酒井はな『ジゼルのあらすじ』古典を網羅した人の身体から発せられる現代口語。ジゼルの物語と酒井さんの生き様が混ざり合って"あらすじ"に止まらぬ新たな全幕を見た心地。酒井さんのコメディエンヌっぷりに感嘆しつつ"悲劇のヒロインらしさ"に収められる女性へのクエスチョンも受け取った。
③島地保武×環ROY『あいのて』裏面や側面をもがぐっと開かれた舞台がそのまま心象風景へと繋がる様な時間。刻まれた記憶や意識/無意識に重なる履歴、身体に宿る様々なアーカイブその在処へと導かれるパフォーマンスだった。ラップの韻と身体の動と静の間がまさにあいのて如くハマった瞬間ドキッとした。
ダンスは全然詳しくなくて子が習うようになって興味を寄せるようになったのだけど、身体とはこんなにも自由で無限なのだと改めて感じてこの体感忘れたくないな、と綴った。B以外の作品観られなかったのが悔やまれるけどインタビュー読んで想像するなどもして踊りを知らぬ身体で踊りたくなる一日でした。
観劇中娘の爪先がトゥシューズを履く時みたく自然にのびゆくのが目に入り一緒にきてよかったと心から。あの爪先を久々にみた。(訳あってお休みしていたバレエを年明け再開するにあたり不安がないか気になってたけど今日「楽しみになってきた」と言っていた。バレエもヒップホップも楽しんでほしいな)

たしかめようのない
ブルーエゴナク
スタジオ「HIKARI」(神奈川県)
2024/11/26 (火) ~ 2024/11/28 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
舞台に並べられたパイプ椅子、夢へのエントランスに見立てたハンガーラック、
光を遮断するカーテン、そして、その奥の窓。スタジオの無機質さとその備品を活用し、
「夢と現実の間」という劇空間を鮮やかに創出した前作『波間』。
まさに波と波の間で夢と現実とが擦れ合って音を立てている。そんな演劇だった。
そして、それらは当然のように「現実と虚構の間」に居座り、
やがて窓の外へと帰っていく私にとっても決して他人事ではない。
ブルーエゴナクの演劇は時間をかけてその実感を私に伝えた。
スタジオHIKARIにもまた窓がある。
『たしかめようのない』という作品はあの大きな窓の外から何を持ち込み、
そして何を運び出すだろうか。私は、この身体でそれをたしかめたい。
上記のようにコメントを寄せた、ブルーエゴナク『たしかめようのない』。
"存在感"という言葉が多出するも存在も不在も何を以てしてそうかはその実たしかめようがなく、
いるのにいない寂寞を感じる事も、いないのにいる強烈を覚える事もある。
世界に輪郭を握らせぬ不条理と空間の余白にこそ"存在感"が宿る演劇だった。
そういった意味で、本作もまた空間の扱い方に技術と個性が光っていたように思います。
それゆえに、今後も、様々な劇場や劇場的空間、その場とのマッチングや共振、あるいは違和や反発を観てみたい団体の一つです。スタジオっぽくない劇場での見え方も気になります。

青春にはまだはやい
プテラノドン
「劇」小劇場(東京都)
2024/11/26 (火) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
プテラノドン『青春にはまだはやい』最前列で。
もはや中盤からなんとか堪えてた涙、がラストスパートにかけ大決壊。
登場人物の多い作品において全員を等しくかつバリエーション豊かに魅力的に描くというのはとても難しいと思うのですが、その点において笠浦静花さんの劇作はいつだってすばらしくて。私は笠浦作品のそこが本当に好きなのだと再確認しました。
それぞれリレーのように隣人/他者への取材や紹介を経て絆を深めたり、自身を成長させていく様には、人と出会い、人を知り、人との間で生きていくことの豊かさが詰まっていて、主題であるNコン・ナレーション・放送というものへの解像度と深度の高さ、作家としてのテクニックも感じました。
また、「その後」を描くパートでの伏線回収の一つ一つにも愛が宿り、それらをクライマックスで最高温度でぶつけていく、というドラマを紡ぐ上で、何を飾り、何を差し引くかという技術の高さも感じました。
笠原さんの戯曲は、人間が可笑しく愛らしいものなのだということを、それらが交わる時間は美しいということを技術と情感を以ていつも信じさせてくれる。そして、それは各々の技と個性で物語に血肉を、いわば人生を吹き込む俳優陣の力が揃ってこそ最大に輝く。
柿丸美智恵さんの演じる17歳なんて何が何でも見たいに決まってるし最高にイカしてました。不器用な温かさを一身に纏った大内彩加さんがすごくすてきだった。
太田知咲さんのハグは観客の祈りをも引き取ってくれたものだった。
水野小論さんのキュートさ!愛しさに満ち溢れた105分。私もがんばって生きる。

ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us- 2024 TOKYO Remix
waqu:iraz
スタジオ空洞(東京都)
2024/11/12 (火) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めてのwaqu:iraz。
『ジゼル、またはわたしたちについて-Giselle or about us-2024 TOKYO Remix』というタイトルの全てをまさに詰め混んだ意欲作。ロマンティック・バレエの代表作『ジゼル』を文字通り、"2024年の東京を生きるわたしたち"にリミックスした作品。社会や時代を貫く風刺のきいたラップもダンスも痛快で、それでいて変化に戸惑う人の声も置き去りにしないところに奥行きを感じた。

アリはフリスクを食べない 2024
やしゃご
劇場MOMO(東京都)
2024/11/14 (木) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
初日観劇。目の前で流れている涙に揺すぶられ、自分の目から流れてくる涙に抉られ、人と人の間で生きていく以上一つの答えなど出るはずがないと思い知った130分。自分の不足と過信を思い知った130分。
まっすぐ行けば着く道を何度も曲がって遠回りをして帰った。
全員のことを思うと、誰も何も悪くなくて間違っていない。でも、一人のことを想うと、みんなが少しずつ悪くて間違っているように思える。そういう果てしのないことに向き合う作品、向き合い続ける作家と俳優、そしてその奥でまさに今を生きている人々、その存在のことを考えた。答えは出なかった。
その人がもっているものではなくて、その人そのものだけで他者を見つめることができたならどれだけいいだろう。林先生の言葉に頷きながら、それでもその難しさに途方に暮れる。そして、その頷きや途方にすら不足と過信が否めない。足りぬ想像と過ぎる感傷の狭間で私はそう痛感する。観られてよかった。
戯曲も俳優も凄まじい作品だったけど、「満足度」という言葉とその余韻には乖離が生まれる。作品を見て満足するというのはどういうことか、ということについても考えさせられた作品でした。
そういう理由で、やはり今の段階で、”満足度”はつけないことにします。
観られてよかった気持ちとしては星5の気持ちです。

光の中のアリス
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
シアタートラム(東京都)
2024/11/01 (金) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
あまりに鮮烈な身体と言葉の端々を間に受けて、私は今どうにかもう一度本作を観劇できないものか考えあぐねている。凄まじく受け取るものが多かった。だからこそ、拙い私の一度きりの感度では正直追いつけないところがあった。
そのままにして余韻に任せることが観劇のスタンダードな在り方かもしれない。だけど、私はあの身体、言葉、あの瞬間にもう一度会わなくてはならない気がしている。焦燥に近い。そのままにはしておけない。
この作品のことをもっと分かりたい。あの身体を、言葉をもっと分かりたい。見つめたい。
"思い出"が一人で持ちきれないそのことと同じ様に、一度では持ち帰れないものがあった。
"思い出"が決してなぞれないのと同じ様に、二度観たところで最深部まで辿り着けるかなんてわからない。
だけど、それでも、まだ"思い出でない私"は今それを求めている。
光の眩しさが翻って残酷さになることをまざまざと握らせられながら、また、影の寂しさにやがて光のきらめきを思い知らされるように、生と死や動と静が、消えゆき生まれゆくあらゆるものが目の前で縁取られ、そして呆気なく溶けていった。その質量に、重量に私の心身は一度で耐えうることができなかった。
そういうことなのだろうか。わからない。わからないけど、本当はそれが全てなのかもしれない。
記憶する限り、辺りが真っ暗闇に包まれる暗転や、そこから分かりやすく晴れるような明転はこの舞台にはなかった。なのに、ここまで光が差し、翳り、失われていく瞬間が私には刻まれている。
そのことが私の中には何より深く残った。その残像がいつまでもくすぶって、あの光と闇の狭間から発せられた声が何度も私の中をリフレインする。そうだ、身体や言葉は元より、「声」が鮮烈な舞台であった。
一人の俳優から放たれる、温度も湿度も強度も違ういくつもの声、声、声。
ある時は身体をうんと伸ばしながら声をぎゅっとひそめ、またある時は身体を縮めながら声をひろげてゆく。
4名の俳優、そして2人の演出家の操る身体の所業の大きさに感嘆する他なかった。その波及をもっと見つめ、掬い上げられるだけの余裕が欲しかった。
人間のことも、世界のことも、まだ知った気ではいられない。
この作品はそんなことを私に強く伝えた。
私はこの作品をもう一度観ることができるだろうか。あの光の外から、その中の眩しいまでの残酷と切実に再び立ち向かうことができるだろうか。俳優も凄まじくエネルギーを要するが、観客もまたそれを要する。死に向かって生きるということは等しく凄まじい。そういうことをやり抜く作品なのだと思った。抜きん出た俳優の技と業に拍手をまだ送り足りない。
追記。
近親に耳が聞こえづらい人がいて、とくにこの1年一緒に過ごすことが多く色々なことを知った。音楽がとても好きな人だからもう少し先になりそうだけど、一緒に舞台を観る日もきっとくると思う。田中結夏さんの舞台手話通訳の回に観劇できてよかった。

おかえり未来の子
D地区
インディペンデントシアターOji(東京都)
2024/11/02 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
一言では言い尽くせない余韻に導く意欲作。
関西での上演が中心とのことで初の観劇でしたが、緻密で丁寧な会話劇とそれを縁取り、時に取り残すような音や光の使い方も含めた演出も冴え渡り、戯曲も演出も俳優のお芝居も素晴らしい作品でした。
主題は宗教二世とその家族。実家から逃げるように上京した兄と実家に残された妹を巡る物語。
環境や出自からの「逃れられなさ」を描くとともに、兄から妹に向けられる父性のような愛情や愛着を掬いあげることによって、より人物やその関係の解像度が上がり、そのことによってさりげないセリフに仕組まれた奥行きにも気づくことができるようになっていて、デザインとしても巧みな戯曲であると感じました。
「宗教二世めが僭越ながら申し上げます。あなた方は、それを、お分かりにならない」
キャッチコピーにもあるように、その実態を知った気でいる観客に、より深淵を覗き込ませるような作品でした。
最も素晴らしいと思ったのは、誰か一人を悪者にするわけではなく、かといって過度に情をひけらかすでもなく、短い上演時間の間にも一人一人にそれぞれ生きてきた背景が浮かび、それに裏打ちされた人物像を演じていたこと。そのことによって、どのシーンを切り取っても重層的なドラマを感じることができました。
自分の知らないとこですごい戯曲や演劇がこうして生まれているんだと痛感。
今後の作品も楽しみです。

いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した
チャミチャム
水性(東京都)
2024/10/29 (火) ~ 2024/11/02 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
瑞々しく、芯の強い3人の俳優の瞳の輝きと揺らぎに照らされ続けた1時間。校庭も部室も屋上も渡り廊下も全部が見えた。恋も失恋も友情も、放課後の賑わいも、一人になった時の静けさも全部があった。
劇中歌であるハイロウズの『青春』の歌詞に擬えるなら「時間が本当にもう本当に止まればいいのな」と、思わず願う程に見渡す限り全てが世界だった、それだけで目一杯だった"あの頃"があった。多分どこかに私もいた。
誰かのしたためた言葉や歌の中にふと自分を見つけるとき、それは救いであり、祈りであるように思う。町を映す透明のガラスの上をすべるクレヨンの文字を眺めながらつくづくそう思った。
水性はやはり、その瞬間にしか味わえない刹那的かつ詩的な反応を生む場所だし、それをしっかりと気づかせる演劇もまた素晴らしい。ロロの三浦さんの紡ぐセリフの豊かさに改めて気づく観劇でもあり、その魅力が最前世代を生きる俳優と演出家によって瑞々しく新たに彩られる意義も感じた観劇でもあった。
若手の俳優陣によるこういった企画はとても貴重。
作品が時間を越え、世代を越え、幾重にも拡がっていく可能性をも秘めた企画だと思います。次回にも期待!