あげとーふ 公演情報 無名劇団「あげとーふ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 映像鑑賞

    満足度★★★★

    ※この度は一身上の都合により、審査員として現地にて鑑賞することができず、代理人を立てての審査とさせていただきました。推薦文を書かせていただいていながら大変申し訳ありません。上演ではなく映像の鑑賞なので、審査員としてではなく一観客としてのクチコミ投稿とさせていただきます。

    ネタバレBOX

    青春ロードムービー的手触りのある『あげとーふ』は、カンパニーの母体である高校演劇部の全国大会準優勝作の15年ぶりのリメイク。一つの転機となった作品が今だからこその形で新生することに上演前から期待が高まりました。
    また、大阪・西成区の鶴見橋商店街の空き店舗を改装した劇場空間兼アトリエで演劇活動を行うといった「演劇と地域の接続と共存」にも興味を惹かれました。
    そしてそんな地域密着型演劇の実態は映像からも具に感じ取ることができ、客席からの反応の高さや、さらには建物の扉の向こう、すなわち商店街から公演の様子を覗きにくる住人の方の姿も見受けられ、それを受けて制作の方が観客に向けて「暮らし」の一部としての演劇を語られるコミュニケーションの様子にも親しみやすさが滲んでいるように感じました。団体が地域を愛し、そして愛されていることがさりげなくも確かに伝わってきたことに胸を打たれました。そんな景色もカンパニーの日々の熱意や意欲、継続の賜物だと感じます。

    『あげとーふ』は、卒業旅行でアメリカを訪れた男子高校生が見知らぬ土地で「あげとーふ」=I get offと言ってしまったことからバスを降ろされ路頭に迷う、というアクシデントから物語が展開します。分かりやすくハイテンポに進行する物語と、非日常に戸惑い、不安を誤魔化すようにはしゃぐ高校生らを演じた俳優の身体性や台詞の応酬の瑞々しさがある種の親和性を築き、観客の没入感をしっかりと手伝っていたように感じます。モラトリアムの始まりに揺れる若き青年らの心の機微を余分な演出を削ぎ落とし、ストレートに伝える潔さがまた作品の魅力を高めていたように思います。
    直接訪れていないのでこれは想像の域を越えませんが、アトリエの異様に濃密な空間もまた、目の前で繰り広げられる青春の濃度とシンクロし、興奮や喜びや不安や焦燥などが入り乱れる心を寄せ合うようにして過ごす思春期の青年たちの姿により一層の一体感を生み出していたのではないでしょうか。

    特殊な環境で演劇活動を行う中では、時には「ここではそれはできない」といったあらゆる制約にぶつかることもあるのではないかと想像します。しかし、本作は「ここだからこれができる」ひいては「これはここでしかできない」という果敢な方向に舵を切り、この場で上演されるに相応しい作品を選び、その魅力を存分に発揮する形で全うされたのではないかと感じました。そして、やはりそんな商店街の空気やアトリエの温度を直に体感しながら観たかったと悔やまれました。少なくともそれだけのことが伝わる映像であったと思います。

    演劇の裾野を広げること、劇場の敷居を下げること。舞台芸術全般のアクセシビリティ向上は舞台芸術従事者のみでは決して成り立ちません。外からお客さんを誘うこと、理解を得ること。地域に根差し、影響し合って共生すること。社会の一部としての演劇を見据えるそんな無名劇団の取り組みが映像からも感じ取れる公演でした。一人の観客としても、演劇業界に携わるライターとしてもその姿勢に敬意を寄せるとともに、今後のさらなる発展を楽しみにしています。

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    2023/06/06 00:36

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