DADA 公演情報 幻灯劇場「DADA」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    閉鎖されゆく地下鉄の駅を舞台に死者と生者の魂が時にすれ違い、時にその裾を触れ合わせ、各々の思いが交錯していくという構造は詩的でありながらも、「こういう場所がどこかにあるかも」とふと実感させるだけの世界観が確立していました。

    ネタバレBOX

    彼岸と此岸の狭間の曖昧さを彷彿させるようなシースルー素材を多用した衣装、一方で階層や隔たりを確かに想起させるような美術。そういった細部にわたる視覚的な追求や仕掛けもこの魔法の所以ではないかと思います。
    人間と幽霊の差を「目に見える」と「目には見えない」とした時に、その境目をできるだけで馴染ませたい、なるだけシームレスにしたいという思いを劇中の随所で個人的には感じたのですが、とりわけ歌唱シーンでその展望は顕著に表れていたように思います。
    物語の進行にパッチワークするように音楽を重ねる、そうして物語と歌が、セリフと歌詞が混じった一瞬にこそ見えるものがあるのでないか、というような。そんな細やかなチューニングが、本作が楽曲の数やバリエーションとして「ミュージカル」と銘打っても違和がないところをあえて「音楽劇」としたところではないかと感じました。
    周波数や電波の状態によってくぐもったり、はたまた鮮明に聞こえたりする「声」というものが次元と次元を往来する。物語において重要な意味を持つ「ラジオ」がそうであったように、「ここは言葉ではなく、音楽でなければならない」といったある種の必要性にも説得力がありました。歌唱クオリティも高く、俳優らの声にはそれぞれ役割があって、音楽を目的に足を運ぶ観客を満足させるものであったと感じます。上演後に公演の様子や楽曲の歌詞がweb上に公開されていることも有り難く、観客の余韻を手伝う役割としては元より、観られなかった人がどんな公演だったかを知ることもでき、とてもいいアウトプットだと感じました。

    一方で物語がやや駆け足になったり、展開が予定調和的に見えてしまう部分、言葉があとひと匙程足りない部分や一歩過ぎてしまった部分も見受けられました。あらすじや物語の源流に文学性が香り立っていただけに、この辺りにもう少し工夫が練られているとさらに満足感が得られたのではないかと思います。また、物語の主旋律がロッカーに遺棄された子どもとその母親にあるので、そういった社会問題をこの演劇がどう回収するのか、というところも一つの見どころになりえたと感じます。あくまで私感ですが、本作ではともすれば遺棄した母親がややヒロイックに見え、肯定的に映りかねない不安が残ってしまったので、もう一歩深く描かれてほしいという願いもありました。
    しかしながら、全ての答えを明確に出さないところに本カンパニーのカラーはあるのかも知れず、私自身が未だ咀嚼中でもあるため、今後の作品を観劇して理解を深められたらと思います。幻に灯る、幻が灯ると書いて幻灯劇場。そのカンパニー名に相応しい題材と物語であると思うので、代表作の一つとしてブラッシュアップされ、再演されることを期待しています。

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    2023/06/05 14:19

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