きく 公演情報 エンニュイ「きく」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    主宰・長谷川優貴さんは当日パンフレットにこう書かれていました。
    「この作品は、只々話を聞くだけの内容です、ドラマチックな物語はありません」
    そして、その言葉通り、本作の俳優たちは只々話をする/聞くという行為を繰り返しました。しかしながら、観客の一人である私に残ったのは「只々話を聞いた」という体感のみではありませんでした。

    ネタバレBOX

    “きく”という行為をフラットに、どんな色もついていないまっさらな状態まで一度解体し、きく側の状況、精神的状態、姿勢や視線などの様々な反応によってあらゆる形に縫合し、それをまた解き、結び、と繰り返していく中で浮かび上がってくるもの、それと同じだけ溢れ、抜け落ちていくものがあるということ。“きく”という行為の難しさと果てしなさを存分に握らされることによって、従来自分が行ってきた“きく”という行為、さらにはそれを経て時に頷き、共感し、またある時は首をかしげ、否定する。そんな一連の行為まるごとに対して今一度疑いを持つことができたような気がしています。

    劇中の印象的なシーンの一つに、玉置浩二の『メロディー』という歌を世界各国の人々が一斉に聴いている様子を映像で流す、というものがありましたが、それを観客が「只々見ている」という状態こそが本作における試みを通して行いたかった「きく」の更地化だったのではないかと想像させられました。
    それの対となるシーンとしては、「人の話をどれだけきけるか」を競う架空の賞レースが実況される場面がありました。そのシニカルさに客席からはちらほら笑いが起きたのですが、レース参加者に扮した俳優陣がことごとく話を最後まできくことができない、という描写にはひやりとするものはあり、それを笑うという行為がそのままブーメランとなって自分に返ってくるような感触もありました。
    俳優陣の「きく」を試みるスタイルも多様性に富んでおり興味深かったのですが、とりわけ実況者を演じた高畑陸さんが印象に残りました。コロナ禍で演劇が映像として配信されることが増えましたが、まさに高畑さんはその配信映像を担うスタッフとして広く活躍をされています。上演を「みる/きく」という立場に立ち、それを粛々と記録・編集されてきた高畑さんが俳優としての身体でその場に座り、俳優として声を発し、「きく」様子を「みて」実況する立場にあったこともある種示唆的であり、試みの一つとしてもインパクトを感じました。抑揚溢れる実況風景からは俳優としての魅力も新たに知ることができました。

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    2023/06/05 14:27

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