グロテスク
国分寺大人倶楽部
王子小劇場(東京都)
2009/09/02 (水) ~ 2009/09/06 (日)公演終了
満足度★★★★
愛を感じる
人と人とが向き合うときの姿勢には、いろいろあるけど、
乗り出されても、引かれていても、結局は怖い。
互いの気持ちが非対称で、すれ違っているのは、確かにグロテスク。
ただ、事前予告と異なり、私も愛にあふれる作品だと思いました。
作・演出の河西さんは、きっと根本のところで人間を信じている人なんだな、と。
露悪的に悪意を描くより、意図せざる悪意のほうが、実際は怖い。
「変態」というカテゴリーに収められる人には、気持ちの悪さは感じても、怖さは感じない。
現代社会の「怖さ」とは何だろう、とも考えてしまいました。
カール・マルクス:資本論、第一巻◆フェスティバル/トーキョー09春
フェスティバル/トーキョー実行委員会
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2009/02/26 (木) ~ 2009/03/01 (日)公演終了
満足度★★★
舞台美術がかっこいい。 ここでなら、誰でも15分は有名人になれる?
日本人キャストの大学教授と院生(市民活動家)の対比が興味深く、
大学教授による資本論の朗読にはマルクスへの「愛」が感じられる一方で、
院生のそれは、シュプレヒコールのように聞こえてしまった。
ウォーホルの「誰でも15分は有名人になれる」よろしく、
舞台に立てば、誰でも役者になれる?
しかし私には、大学教授のような専門知識も、院生のような熱い思いもない。
舞台にいるのが役者でなかったとしても、「選ばれた人」には違いなく、
院生の主張をウザいと感じる一方で、その信念を羨ましく思う自分もいる。
リミニ・プロトコルは、キャスティングのリサーチに時間をかけるらしいが、
そのアンテナに、私が引っかかることは、まず無い。
フィクションと現実が混じった不思議な空間が、境界線の存在を感じさせる不思議。
アマチュアリズムが通用する小劇場界においても、
プロとアマを分かる「決定的な何か」はあるような気がする。
44マクベス 【トークゲスト決定!!】
中野成樹+フランケンズ
d-倉庫(東京都)
2009/02/18 (水) ~ 2009/02/23 (月)公演終了
満足度★★★
檜の話が面白かった
劇団初見。
「翻訳劇」が持つウソ臭さへの違和感を楽しむ芝居だとは知っていましたが、
一番面白かったのは、ラストに至る場面での俳優の見せ方と舞台装置の使い方。
原作をもっと崩してほしいと願う自分がいました。
原作との違いを面白がるのではなく、檜の話のようなウソそのものを面白がる。
「誤翻訳」とは関係ないところで楽しんだわけですが、
振り返ってみると、ストーリーは重要でなかったことに改めて気づき、
古典を古典たらしめているのは、ストーリーだけではないと、
当たり前のことを実感できたのは、「誤翻訳」の懐の深さでしょうか。
素人からすると、シェイクスピアって、話の筋立て自体は、意外と陳腐だったりするし。
悲劇を悲劇たらしめるのは、何なのか。
単に「悲しい話だから」と日本語で表現できるのとは違う、
別の文脈が「悲劇」の背景には存在するのでしょう。
涙を誘うセンチメンタルなお話は、必ずしも悲劇ではない。
「何が悲劇なのか」について文芸評論のように難しく説明されても、
それはそれで違和感あるわけですが。
汝、隣人に声をかけよ
コマツ企画
王子小劇場(東京都)
2009/02/06 (金) ~ 2009/02/15 (日)公演終了
満足度★★★
「隣人に話しかけられる」行動力の前に、理屈は無力
コミュニケーションの困難とは、隣人に話しかける勇気に由来するものではなく、
「出会い」よりは、その後の「持続」にこそ、対話の深みは表れるような気がします。
ナンパに代表される、「出会い」のコミュニケーションはスキルに還元できますが、
その後のグダグダな会話における、言葉じりの重みは再現性が低く、表現しづらいもの。
ポツドールは、エロや暴力の要素を抜きにして、単なる会話劇としても秀逸ですが、
「何気ない一言」に込められた思いの濃さを、拾い上げる才能に感心します。
でも、何だかんだ言ったところで、「隣人に話しかけられる」行動力の前に、理屈は無力です。
要は、当初の期待とは違っていても、個別のシチュエーション劇として、楽しんでました。
パイパー
NODA・MAP
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2009/01/04 (日) ~ 2009/02/28 (土)公演終了
満足度★★★★
「希望」の「安っぽさ」を引き受けることで、生まれる「希望」もある
野田さんの芝居って、ほとんどの観客が役者の表情を見ることができない大劇場でやっているわけで、
有名人を出す必要はないのでは、とも思ってしまうのですが、
肉声を響かせることで、テレビで見るのとは違った存在感を放つのも、芸能人の凄さ。
生き残る芸能人には、ビジュアルだけではない「何か」があると、改めて教えられます。
SFとの名目ながら、現実との地続き感が強いお話。
自分の国が「自滅に向かっている」と、多くの人が薄々感じている日本という国において、
「希望」を描くことの安っぽさは、野田さん自身がよく分かっていると思いますが、
その「安っぽさ」を引き受けることから、始まることもある。
あえてメッセージを読み取りやすいお芝居を作る、懐の深さに感服します。
ねずみ狩り
うずめ劇場
こまばアゴラ劇場(東京都)
2009/01/28 (水) ~ 2009/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
人間はクソ?
見たのは、ペーター・ゲスナーさん&後藤まなみさんの回。
たいした予備知識も無く見に行ったけど、
途中からエロを期待していました。自分が情けない。
行きずりの男女の恋愛を描いた芝居ですが、
なぜかサイバーパンクのようなSF感も残る。
モノへの信仰を捨て、自然に帰ることが人間性を回復させるという、
素朴な渡辺淳一的メロドラマを破壊し、「人間はクソ」という現実を叩きつける。
そういった意識からしか始まらない第一歩も、確かにあると思う。
四色の色鉛筆があれば
toi
シアタートラム(東京都)
2009/01/27 (火) ~ 2009/01/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
音楽的な芝居
「人生」をデフォルメするには、どうすればいいのか、の見本市。
感動というより、感心しました。そして、楽しめました。
柴さんの作品は、とても音楽的なような気がします。
反復が生み出すリズムと、そこから生まれる「ズレ」の妙味。
「日常=繰り返し」であることは、さんざん言われてきましたが、
人生を変えるのは、何かしらの「大きな転機」ではなく、
その「ズレ」の中に潜いんでいる「得体の知れないもの」。
小さな幸せも、「ズレ」が生み出すグルーヴの一つの表れのような。
音楽もPVなら1つのアイデアで素晴らしい作品に成りえる。
ただ、PVの有名監督が必ずしも優れた映画作家ではないように、
柴氏も物語を志向するなら、真価を問われるのはこれから。
伝記
サンプル
こまばアゴラ劇場(東京都)
2009/01/15 (木) ~ 2009/01/25 (日)公演終了
満足度★★★
理屈っぽいドタバタ喜劇?
要所はドタバタ喜劇ながら、見終わった後は難解な印象も残る。
このモヤモヤした感じは、作・演出の松井周さんが、
物語や歴史の「薄っぺらさ」に自覚的な理屈型の人で、
チグハグなハイブリッド感を持つストーリーの背後にも、
ロジックが存在するのを連想させてしまうことから、生まれるのでしょうか。
方法論というメタ的な要素が浮き出てしまうことを、
「わざとらしさ」と考えるか「意識の高さ」と捉えるか、
それで評価は分かれるかもしれません。
平田オリザさんの芝居は、確固たる方法論があっても、
それを意識することなく、見ることが出来ます。
ある意味、それは「平凡」な話に見えるということでもあります。
平田さんの芝居の深読みを可能にしているのは、
周辺環境が「どう見るか」の材料を数多く提供しているからでもあります。
「伝記」の感想から離れてしまいましたが、
見終わった後、そんなことを考えていました。
新年工場見学会09
五反田団
アトリエヘリコプター(東京都)
2009/01/02 (金) ~ 2009/01/04 (日)公演終了
満足度★★★
心が温まるくだらなさ
のほほんと温かい空気感が漂う出し物の数々。
観客の優しい目線も新年らしさ。
見終わった後、何となくめでたい気分になりました。
各演目に共通するのは、形式ばった表現を換骨奪胎する脱力感。
脱力感自体は、小劇場界におけるメジャーな価値観の一つながら、
これだけ持続して、しかも成り上がっているのは努力と才能の賜物でしょうか。
何かに対してアンチテーゼを訴えたほうがラクだしね。
「くだらない」という謎の感情を相手に、モチベーションを維持するのは難しい。
proof
コロブチカ
王子小劇場(東京都)
2008/12/25 (木) ~ 2008/12/29 (月)公演終了
満足度★★★★
いい話でした
オーソドックスで質の高いストーリー。
オーソドックスとは悪口でなく、古びない王道への賞賛。
「凄い」ではなく、「いい話だった」と素直に思えるようなお芝居。
ストレートにそう思えることは、素晴らしいと気づきました。
こんなホンが書けたとき、脚本家も「最高!」と思ったりするんでしょうか。
才能の証明になるしね。
友達
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2008/11/11 (火) ~ 2008/11/24 (月)公演終了
体調不良でした(私が)
自身の体調不良を、芝居を見ながら痛感させられた。
いつものごとく、集中力を要し、「読み解く」ことを求められる芝居。
自分の責任ですが、間が悪いことに疲れていたので、良いも悪いも評価できません。
素人は、こんな感想で済むから、ラクでいいです。
皮肉でなく、チェルフィッシュについて、あれこれ書ける人に感心します。
周囲の理論武装によって、岡田利規氏が「旗手」たりえている部分もあると思いますが、
新たな気付きを与えてくれるので、それはそれで為になります。(何度も書きますが、皮肉でなく)
幸せ最高ありがとうマジで!
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2008/10/21 (火) ~ 2008/11/09 (日)公演終了
満足度★★★★
遅刻したので開演前の風景を知りません
現代日本の上手なコラージュ。
テロや無差別殺人、格差社会にリストカットなど、散りばめられた各テーマが暗くても、
全体にまとめてみると、楽しいエンタテイメントになってしまう不思議。
これだけの要素を、物語にまとめられる才能は、やっぱり凄い。
本谷氏の自意識が独りよがりに陥らないのは、常に周囲とのバランスを、過剰に気にする自意識だからですかね。
ハローワーク
国分寺大人倶楽部
王子小劇場(東京都)
2008/10/30 (木) ~ 2008/11/03 (月)公演終了
満足度★★★★
共感はないけど愛おしい
工場を舞台にしながら、結果的には「労働」というテーマが前面に出ない群像劇。
「労働」とは、日々の繰り返しの中で、心と体を少しずつ擦り切れさせていく何物か。
職場に、若い女の子がたくさんいるだけで羨ましいと思ってしまう人もいる。
男だらけの群像劇にして、自慰行為にポジティブな意味を込めるぐらいのヘンな芝居も見てみたい。
ウケないでしょうけど。
何だかんだ言って、葉山と直美のラストシーンのようなファンタジーも好きなので、楽しめました。
桜の園
地点
吉祥寺シアター(東京都)
2008/10/18 (土) ~ 2008/10/22 (水)公演終了
満足度★★★
原作を知らない私です
「桜の園」といってもチェーホフの原作を知らず、
吉田秋生原作の映画化作品を思い浮かべる私ですが、
地点の「桜の園」は、小津映画のような趣でした。
ストーリーを重視せず、単に世界観を提示して、
あとは各自で解釈して下さいというスタイルの作品は、
昔から脈々とあるような気がしてきた。
そうしたことの延長線上にありながら「新しさ」に挑む試み。
困難なチャレンジに感服します。
ただ、観客は演劇に詳しい人ばかりでないし、
演出に込めた思いをもっと解説してくれたらいいのにと、
無粋なことを思ったりもします。
毎回、アフタートークをやるとか。
今さらですが、チェーホフの原作が読みたくなりました。
どんとゆけ
渡辺源四郎商店
こまばアゴラ劇場(東京都)
2008/10/16 (木) ~ 2008/10/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
どんとゆけ=Don't you kill ?
意外と笑える不思議な喜劇。見てよかった。
巨人の星のパロディを構想しながら、ここに行き着けることに感動。
もともと、お茶の間という場所には独特の「淀み」があって、
窒息させるような空気がある。田舎に行くと特に。
直接、どんとはゆかないけれど、安楽死の場所みたいな印象。
そこに潜在している「死の匂い」を、特異な設定で顕在化?
余韻が残り、いろいろ考えられる、いいお芝居。
恋人ができないが、もういい
箱庭円舞曲
OFF OFFシアター(東京都)
2008/07/12 (土) ~ 2008/07/21 (月)公演終了
合いませんでした
自分には合わなかったお芝居。
なんか昔のトレンディドラマを見たような気分。最後まで馴染めず。
でも最近、ロンバケをユーチューブで見つけて、面白くて全話見てしまった。
どうでもいいですね、こんな話。
審判員は来なかった
ペンギンプルペイルパイルズ
シアタートラム(東京都)
2008/07/10 (木) ~ 2008/07/20 (日)公演終了
満足度★★★★
舞台は回る、歴史も回る
回る舞台に合わせて、3役、4役を即座に演じ分けていく役者さんたちがすごいなぁと。
役者さんが舞台上で着替えて、シーンをまたいで登場するメタ的な演出も少々。
そういった意図的な破綻を前面に出さず、奥ゆかしく配置するのは大人のマナー?
でも、破綻の部分を期待し、面白がっている自分がいる。
歴史が一回りしていく中で、壊れていくものと、新たに生み出されるもの。
役者さんが舞台の設定に関係なく、縦横無尽に動き回る狂騒が、次の時代を作り出す。
国策として進められるエネルギー政策よりも、
国威発揚のスポーツナショナリズムからこぼれ落ちた、
民衆の力(=支配者にとっての破綻)が、未来への希望につながっていく寓話。
あゆみ
toi
こまばアゴラ劇場(東京都)
2008/06/18 (水) ~ 2008/06/24 (火)公演終了
満足度★★★★
不思議な余韻
歩くという行為に意識を向けさせる、余韻が残る芝居。
群集とすれ違うようなシーンで、
みんな歩いてるっていう当たり前のことが、かっこよく見える。
人生はパターン化されているかもしれないけど、
そこに詰め込まれるエピソードは千差万別。
同じ構図で、いくらでも物語がつくれて、
役者も代替可能な、才気溢れる舞台。
ジンジャーに乗って
快快
王子小劇場(東京都)
2008/05/15 (木) ~ 2008/05/25 (日)公演終了
満足度★★★
「楽しむ」ことの可能性
まずは自分たちが楽しんで、客を楽しませようとする姿勢に感服。
ただ、舞台上で行われるのは「楽しむとは何か」を見つめ直す試み。
小劇場というアマチュアリズムを許容する空間を超えて、
日常のエンタメとして成立させられる場所はどこにあるのか。
内気で許容度が低く、閉塞観あふれる日本は狭い?
とりあえず「楽しむ」ことで状況を打開する、
そんな意気込みにあふれてて、感心します。
フリータイム
チェルフィッチュ
SuperDeluxe(東京都)
2008/03/05 (水) ~ 2008/03/18 (火)公演終了
満足度★★★
違和感と満足と
方法論に焦点が集まる芝居について、テーマを云々するのも何ですが、
会社の始業前、ファミレスでの30分間のフリータイムに「自由」を求めるメンタリティに違和感。
終演後に流れたフィッシュマンズを聞いて、自分が昔、フィッシュマンズを好きだったことを思い出した。年ですな。
ただ、フィッシュマンズの歌うフリータイムは、世の中との軋轢もなく、妄想の産物ならではの開放感があるような。良くも悪くも。
観劇中の居心地の悪さが、日常にまで侵食してくる感触は、独特のもので不思議。さすがです。
チェルフィッシュについて、演劇の方法論と描かれるテーマを一緒くたにしないで、一度、分けて考えてみると、多少、見通しがつきやすいかもと思う。