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カタロゴス-「青」についての短編集-

カタロゴス-「青」についての短編集-

劇団5454

赤坂RED/THEATER(東京都)

2019/12/13 (金) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/15 (日) 13:00

誰もが抱く「青」の物語。
全ての「青」が人々を優しく染める珠玉の短編集。
詳細はネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

そんなに大きな劇場ではないんだろうけど、私がこれまでにお邪魔した劇場の中では、一番きれい。
しかも、今回は指定席で、事前購入済みだったから、受付前から寒い中、並ぶ必要もないので、何となく
気分が楽。
とは言え、結局、開演前には劇場に着いてたんだけど。

開演前の劇場の空気感は、ちょっとざわついてにぎやかな感じ。
男女比、年齢層が適度にばらけてグループで来ている方も結構多かった。
女性比率が比較的高かったかもしれない。

だいたい、開演前の雰囲気がそういう感じの演目は、楽しく気持ちよく観られるものが多い気がするので、
今回もそういう感じで観られるかなと思っていたら、まさしく、その通りの演目だった。

基本的にはコメディなのだけど、ゆるいムード一辺倒では決してない。
「コールドベイビーズ」での亜青と朱井、あるいは紫亜とのやり取りに見られるようなシリアスさ、
「レストホーム」の緊張感のある情景、そして「ビギナー♀」の振り切った笑い…
その辺りがうまい具合に混じり合い、時間を感じさせない2時間を過ごさせて頂いた。

全体を通して照明を含めた演出がまた素晴らしい。
各短編のエンディングは、各主人公から見た「青」。すなわち羨望の対象が、ストップモーションで固定され、
それを主人公が見つめる…というスタイルなのだけれど、これが非常に味わい深いというか、何というか。

私のお気に入りは「レストホーム」のED。
これ、話としてはかなり怖かったんだけど、EDの演出が本当に凄かった。
家を追い出された亮太が照明の中に浮かび上がるのだけれど、亮太の表情が影で隠れるような位置からの光の
当て方は、ストーリーと相まって、何とも言えない哀愁を漂わせた。

「コールドベイビーズ」のEDの演出も素晴らしかった。
亜青にとっての青は、観客である我々。つまりは人間。
青い照明が、我々観客に向けて当てられ、それを見て亜青はつぶやく。
「良いなぁ」
と。

あの演出はしびれました。
あぁ、こんなやり方もあるのかと思うと同時に、我々観客と役者様たちが、本当の意味で同じ空間を共有している
という事が何だかすごく嬉しかった。
納得のダブルコール。

照明以外の演出では、ストップモーションやスローモーションなど、映画などではなじみのある手法を、演劇の場で
再現していたのが面白かった。
こうした試みは、時々、他の演劇でも拝見することが多いので、決して、目新しい試みではないのだけれど、
映画的な手法をただ取り込むのではなくて、演劇という場に最適化したうえで、取り込んでいるような印象は受けた。

印象的だったのは「ロンディ」でのヒョンジュの登場シーンと「ビギナー♀」の試合シーンで使われた、
最後のスローモーション。
あれは本当にすごかった。

確かに映画とかでこういうのよく観るなーと思いつつも、生身の人間が、目の前でそれを再現する凄まじさ。
映画的なシーンを見ながら、あぁ「演劇」ってやっぱりいいなと自然に感じていた事自体が、この作品の
もつパワーだったように感じる。

会場で販売されていたパンフレットでも触れられていた通り、多かれ少なかれ、他者への羨望というものは
存在するものだけれど、劇中、思わぬ人が思わぬ人を羨んでいたりしているのを見ていると、ちょっと考え
させられる部分はあった。

恋人と過ごす友人や妹を羨む一美。
家族を羨む賢人。
仲間を羨むはな。

そんな彼らもまた、劇中の人物たちから羨まれる存在である。

そういう意味で、私が一番印象的だったのが、はなと奈津子の関係。
はなにとって奈津子というのは何もかも分かって、悟ってすらいるように見える、尊敬と羨望、
そして嫉妬の対象であったように思う。

一方の奈津子はといえば、自身を平凡と評し、はなの自由奔放な部分を羨んでいる。

きっと、この二人は、お互いがお互いを羨んでいることを、なかなか納得できないだろうなと思う。

現実に目を向ければ、はなと奈津子、そしてその他の登場人物同士の関係というのは、いたるところに
ゴロゴロしている。
けれど、自身に向けられる羨望というものを意識している人はどれほどいるんだろうか。

少なくとも私にとって羨望は、コンプレックスの反映でもある。
コンプレックスが根底にある以上、私のことを羨んでいる人がいるなどということは、正直なところ、微塵も
思わない。
けれど、本作のように、そんな私のことも誰かが羨んでいるのかもしれないと思うと、羨望にコンプレックスを
重ねることの無意味さを考えさせられる。

誰もが、誰かを羨んでいる。
自分にないものを持っている人に憧れ、そして、自分もまたきっと誰かが持っていないものを持っている。
人はもっと、人を理解し、愛し、尊敬することができる。

EDの亜青の呟きは、我々一人一人が、そんな存在であることを教えてくれたような気がした。

ここからはそれぞれのお話をざっと振り返り。

「コールドベイビーズ」

切ないようなもどかしいようなそんな作品。
コールドベイビーを育てていく過程で、国は理想的な人間を作るべく、色々な教育方法を模索していたのだろうけれど、
亜青が最後に残った一人だったということは、感情を排し、理路整然と行動することができる彼を「究極の姿」と
みなしたということなんだろうか。
泣けなかったという亜青の告白に応じる朱井の姿に、私人としての思い、公人としての思いの狭間に揺れる苦悩を
感じてしまった。
亜青とは対照的な育て方をされたであろう紫亜の届かない思いというものも、切なかった。
EDでの亜青の我々に対しての呟きは、究極の生命体である彼の口から発せられたことに大きな意味があるように感じる。
国家の思惑はどうあれ、亜青にはいつか紫亜の思いに気が付いてほしいなと思ってしまった。

「ロンディ」

何というか非常に生々しいなぁと感じさせられたガールズトーク。
妹や千尋が言うように、一美はなかなかの性格で、正直「この人、ないなぁ」と思うんだけれど、なんかもう、ある意味
振り切ってしまっていて、もはや憎めない(笑)。
そんな彼女がヒョンジュというもはや聖人君子と見紛うほどの出来の良いイケメンにある意味、浄化されていく
物語なんだけれど、思いを伝えるか否かで揺れる一美と、それについて思うところを伝える千尋との会話が好きだった。
ここのやり取りで浮かび上がる一美の人間性というか、本質が見えるわけで、苦悩する一美の姿に、悩んでいる本人には
申し訳ないけれど、ほっこりしてしまった。
あれだけさんざんケチョンケチョンな扱いをされても、何だかんだで付き合いがある一美と千尋の関係性が、すごく
良いなと思った。
余談ながら健のプレゼントアドバイス、ちょっと参考になりました(笑)。
一美役の榊小並さんには終演後、入り口に上がる階段のところで、軽くだけど、ご挨拶させて頂けました。

「レストホーム」

これはちょっと怖かったなぁ。
賢人の真意というものは、結局のところ、私は最後まで見通せなかったんだけれど、本当に亮太を追い出してしまったの
だとしたら、うーん、何とも。
短い話ながら、すごく密度の濃い話で、終始コメディで終わるのかと思いきや、そんな単純なものではなかった。
亮太が終盤、翔子に向かって絶叫交じりに思いを吐露するシーンは、ちょっと胸が締め付けられた。
先にも書いたけれど、EDでの照明演出は本当に圧巻。
ただ、賢人が家族というものを羨むというのは、今はともかく、観劇当時は意外だったかな。
あぁ、こんなに大成した人でもそういうものか、と。
そういう意味でのEDの演出は印象的だった。
それにしても亮太役の村尾俊明さんは素晴らしかった。
亮太登場から数瞬で「あぁ、この役者さん素敵だ」って思ってしまった。
ちなみに村尾さんは終演後の物販の時に、カウンターに立っておられたんだけれど、対応するお姿を横目に見て、
あぁ、人間的にも素敵な人だなと感じました。
買い物を終えた私にもまぶしい笑顔を見せて頂きました。
イケメンすぎるぜ、村尾さん。

「ビギナー♀」

最終話にふさわしいというべきか、非常に爽やかで軽快な物語。私、これ大好きです。ほんとに好き。
何もかもが本当に楽しかったし、好きだった。私にとってはパーフェクトな物語。幸せ。
はな、ちょっと勝手すぎるだろと思わないでもなかったけど、でも、その思いを貫き通すある種の強さが
奈津子にとっては眩しく映るんだろうな、とも思ったし、他のメンバーにも多少なりとも伝わったのかな、と。
この話は、とにかく、登場人物のすべてがとても魅力的で眩しい。キャラがしっかり立っているというか。
みんなすごく個性的で、だれが欠けてもこの話は成り立たなかったと思う。
そりゃ、こんな素敵なメンバーに囲まれていたら、そこから離れたくなくなっちゃうよね。
試合の演出も先にふれたとおり、すごく良かったけれど、練習シーンもそれに負けず劣らずで素晴らしかった。
ステップもままならなかったのが、段々、動けるようになっていく様子は、正直、観ててちょっとうるっとして
しまった。
ちなみに芽衣は結局最後まであんまりうまくはならなかったけれど、全編通じて「忘れてました!」で非常に
素晴らしいアクセントになっている立ち位置だった(笑)。
試合当日、自宅でどてら着て寛いでたのは最高だった。大好き。
健がまたイケメンなんですよね。イケメンすぎる。
試合で審判に頭を下げて説得するシーンなんかはもう号泣寸前。
かっこいいぞ、ちくしょう。
そして奈津子役の森島さんが素晴らしい。
『体温』の時も思ったんだけれど、この方は、演技なのか素なのかが分からないくらい、とにかく自然。
だから私は奈津子が好きなのか、森島さんが好きなのかもう分らない。大混乱。
終演後、劇場を出ようとしたときに、ちょうど袖のところから出てきた森島さんと鉢合わせ。
ご挨拶したかったけれど、思いっきり通路だったので、すれ違いざまのご挨拶で我慢した。がー。

作・演出 春陽漁介さん

ランドリーさんの演劇を拝見したのは、今回が初めてだったのだけれど、すっかりファンになりました。
物販で購入させて頂いたパンフレットがとても読みごたえがありました。
演劇って、わりと作り手の真意が明かされないままのものが多い中で、余すところなく、色々と明かして
頂いていたので、頭の悪い私には非常にありがたかったです(笑)。
劇場に入った時から、劇団の皆さんの「ようこそ!」という空気が満ち満ちていて、終始、居心地が良かったです。

というわけで、とても素晴らしい時間を過ごさせていただきました。
役者の皆様、劇団の皆様、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!
宇宙からの婚約者

宇宙からの婚約者

川口菊池の二人芝居

イズモギャラリー(東京都)

2019/12/18 (水) ~ 2019/12/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/22 (日) 16:00

相容れぬ二人が選んだ最良の選択。
二人の幸せを願わずにいられない大傑作。
詳細はネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

何で拝見したのかは、もう忘れてしまったけれど、川口知夏さんと菊池泰生さんが自主企画で
二人芝居をされるという事を知った。

川口さん出演のお芝居は拝見したことがあったので、その企画を知った時点で行こうとは
思っていたけれど、企画に至った経緯等を知るにつれて、これはかなり熱量の高いお芝居に
なりそうだなと、かなり期待してお邪魔した。

私はバリバリのウルトラマン世代(注:昭和ウルトラマン限定)なので、フライヤーのデザインと
題字で思わずニンマリ。
懐かしいなぁ、これ。

劇場・・・というかギャラリーに入って着席。
見渡すだけで、思わず嘆息。
あぁ、何という生活感。東京電力の請求書まで置いてあったのには脱帽。

このセットを作るにあたって、お二人の間では、色んな議論があったんだろうなぁ。
そこかしこにお二人の情熱とこだわりが散りばめられているんだろうなと思うと、何とも感慨深い
ものがありました。鯖缶とか。

上演時間は1時間程度。
企画の意図からすれば、分かりやすいコメディで、気楽に観られる感じかなと、ちょっと緩めに
構えていた。

ちょっと懸念したのは、舞台をコの字型に囲うような配席だったので、観客の姿が目に入ってしまい、
お芝居に没入できるかな、という事。
舞台も近いが、お客も近い。うーん、などと思っているところに、お二人登場。

菊池さんの前説が始まる。
お決まりの携帯電話云々が始まったので、もう数回チェックした電話を一応、確認。
私、実はしばらくの間、本編に入ったことに気づかず、結構ノロノロと電話をチェックしておりました。
最前列なのに恥ずかしい・・・

もうほんと全然気づかなかった。
指輪のくだりも、私はてっきり小道具の解説をしているのだと思っていて、
「うわー、小道具に給料2.5ヵ月分かぁ。すげー気合いだな、おい」
などと勘違いしていたのだけれど、この導入の仕方はちょっとずるい。
巧みすぎ。気持ちいいくらいに手玉に取られました。ちくしょうめ。

お話としては、予想通りのコメディで、途中から攻守が入れ替わり、ちょっと落語っぽいな、などと
笑わせて頂いていたのだけれど、ペロトン星人であることが発覚したあたりから、ちょっと気楽な
感じではなくなってくる。

私の位置からは時計が見えたので、退屈だからとかそういうことではなく、時計をちらちら
見ながら、
「これもうあと10分しかないんだけど、ほんと、どうやって解決するんだろう」
とかなりハラハラしながら観劇。

いやー、しかし。

この結末には心底驚いた。
彼らの置かれた状況って、誰が悪いわけでもなく、だからこそ、どうにもこうにも解決できない。
落としどころの探りようもないし、時間をかける事すら許されない。

相容れない存在同士が恋に落ちるって言うのは、まぁ、ありがちと言えばありがちなのかも
しれないけれど、ウルトラマンというものを持ち込んでくることで、こんな風に昇華してくるとは。

圧倒的に悲劇の予感しかない中で、泰生の選択は私の頭の中には1ミリもないものだった。

お互いの役割を全うしつつ、お互いの関係も大切にする。
例えこの後すぐに殺し合う仲であったとしても、今この瞬間は恋人でいたい。

あぁ、まいった。
確かにその通り。
この与えられた状況で、最善の手は、もうこれしかないんだ。

なんかねー…

頭を殴られたような衝撃というと、表現として全然面白くないけれど、衝撃だったのは確か。
その時、その時を一生懸命生きていれば、おのずと結果はついてくるというのは、もう、
古今東西言われていることで、それについて異議を唱える人も、あんまりいないと思うし、
頭ではみんな分かっていることなんだと思う。

でも、泰生の決断を見ていて、あぁ、結局、自分自身、そこまでは振り切れていなかったんだって
思った。

この瞬間が大事!と思っていても、その「瞬間」の中に未来の1秒、1分、1日、1年と、いつの間にか
「瞬間」が膨れ上がってきてしまう。

確率的なものを無視すれば、未来のことは1秒先のことだって、本当は分かりもしない。
泰生も知夏も、あと数分後には対峙することになるであろうことは百も承知している。

けれど、泰生は、それでもなお、まさに刹那の幸福を選択した。
あるいは1秒先の奇跡に期待したのかもしれないけれど、それを期待したのは他ならぬ
私であって、泰生は、自分も知夏も、堂々と胸を張って生きて、そして愛し合う「今」を
選んだんだと思う。

それを受け入れた知夏もまたとても素敵だと思う。
「私も宇宙人なんだよね」
っていうセリフ、ちょっとやっつけられました。

ここから先の展開は、なんか、もう目から焼き付いて離れない。
どこか頼りない泰生が「仕事」に向かう時の凛々しい表情。
泰生を見送った後、指輪を見つめる知夏の幸せそうな表情。
そして。
変身するときの、ほんの少しだけ悲しみを滲ませた表情。

圧巻の一言。
本当に素晴らしかった。

観劇前に感じていた懸念なんか、まさしく杞憂でしかなかった。

これまでに役者さんと距離が近い演劇というのは、いくつか拝見してきたけれど、ここまでの
距離感は初めてだった。大げさではなく、手を伸ばせば、間違いなく届く距離だった。
没入感がね、もうすごかったですよ。

没入感が大きかったもう一つの理由は、お二人の演技によるところが大きいと感じる。
芝居臭さがないんですよね、お二人に。
会話の内容も、立ち居振る舞いも、感情の抑揚にしても、ごく当たり前の、身近にいる
人間のそれだった。

これって結構大事な気がしていて、どんなに素晴らしいシナリオであっても、そこに
感情が乗りすぎて、大袈裟になってしまうと、その途端に、熱を冷まされてしまうというか、
悪く言えば白けてしまう。
私は結構、その辺りが気になってしまうタチで自分でも厄介だなと思うんだけれど、
その辺りのさじ加減というのか、案配というのか、絶妙だったような気がする。

いや、私ね、知夏が一方的に別れを告げて部屋を出ていこうとするシーン、あそこ、ものすごく
心削られたんですよね。
私はああいう別れ方をしたことは無いけれど、いやー、これやられたきっついなーと思いながら
ブルブル震えて観ておりました。知夏、こえー。

いやー、まぁ、でも何でしょうね。
このギャラリーで過ごした時間。
楽しかった…って思わず川口さんには帰り際に言ってしまったんだけれど、そんな単純な
ものではなかったな。
ちょっと私の辞書には載っていない言葉かもしれない。もちろん、良い意味ですけど。

脚本の方に目を移すと、今回のお話、あのアガリスクの冨坂友さんが書かれたのですね。
私、実は冨坂さんが書かれたお話を観劇させて頂くのは、今回が初めてだったんですけど、
あぁ、なるほど、ファンの方が多いのも納得だなと思いました。
なんかねー、これも「楽しかった」で括っちゃうのは違うかな。
適切な表現が浮かばないけれど、気持ち良いくらいに、良い意味で手玉に取られた感じです。
余談ですけど、通信機の呼び出し音がウルトラシリーズのいかにもな感じで軽く感動しました(笑)。

あとやっぱり、これは触れておかなきゃと思うんだけれども、とにかくね、何もかもが
温かかったし、熱かったですよ。

ちょっとこの辺について書き始めると、きりがないのでざっくりさせてしまうけれど、
私が観たい演劇って「演劇をやりたい人が作ってる演劇」なんです。

そういう意味では、今回の二人芝居って言うのは、私にとってはまさに観たい演劇そのもの。
それはきっと、私だけではなくて、お客さんの中にも、そういう思いを抱いて来ていた方は
多かった気がするんです。

なかなか、あんなにほんわかした空気の劇場ってない気がする。
少なくとも、私は初めて。
すごく居心地が良かったし、そういう場を、作り手の皆さん、そして、お客さんたちと
共有できたことは、すごく幸せなことだと思う。

舞台のセットもそうだけれど、台本やパンフレットもかなり気合入れて作られたんだろうな
と感じました。
しかも台本は最新版をDL出来るQRコード付き。
なにこれ親切すぎ。

だいたいいつも感想を書くにあたって、台本を読み返してから書くんだけど、今回は
脳内再生だけで書きました。
自分でもびっくりなんですけど、かなり鮮明に覚えてるんですよね。
やっぱり、あれだけ近いと没入感も高まって、そういうものなのかな。
いずれにしても、後でゆっくりと読ませて頂きます。

何はともあれ、素晴らしい時間を過ごさせて頂きました。

川口さん、菊池さん、冨坂さん、そして制作に関わって下さった皆様。
素敵な舞台を本当にありがとうございました!
次回の企画も是非!是非!!是非!!!
THE ROLE OF

THE ROLE OF

埋れ木

Geki地下Liberty(東京都)

2019/12/18 (水) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/21 (土) 14:00

果たすべき役割、守りたい友情、そして、苛立ち。
優しい人々が織りなす、非日常的な日常の物語。
詳細はネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

まず劇場に入ってみて、バーカウンターにビックリ。
なかなかあそこまで気合いの入ったセットはお目にかかれない気が。
サーバーとかにもちゃんと中身入ってるし、酒の瓶も良くあそこまでそろえたな、と。
しかも、カウンターの足元に足置き?的なものまで置いてあったのには驚いた。
再現度がハンパない。
私の位置からだと冷蔵庫の中身まで見えたんだけど、ちゃんと色々入ってましたしねぇ。
大好きな埋れ木さんの演劇である事を抜きにしても、テンション上がりますわな。

持てる者ゆえの悩み、持たざる者ゆえの羨望と苛立ち、果たすべき責任、義務、自身に課すべき役割、
優先するべきもの、勢いで行くのか、慎重に事を進めるのか、部下、後輩への接し方などなど。
誰しもどこかで抱えている思いをヒーローという存在を軸にして、目の前に提示して頂いた様な気がした。

こういう問題って結局の所、正解がないから難しい。
それぞれの立場もあれば、思想、信条もあるわけで、そこに対しての熱量が大きければ大きいほど、
衝突が生じる確率も跳ね上がる。

本作でも登場人物それぞれに思いはあって、必ずしもそれは一致していないのだけれど、それが大きな
軋轢や衝突にまで至らないところが、個人的には埋れ木さんの優しさであって真骨頂でもあるような気がする。

埋れ木さんの演劇の感想を書かせて頂いているときに、必ず触れている気がするんだけど、登場人物がみんな
大人で優しいんですよね。
相手を否定するところからは入らない。
まずは理解して、受け入れたところで、意見が対立する相手に対して向き合っていく。

私が埋れ木さんの演劇を好きでたまらない理由の一つは、やっぱりそう言う優しさに満ちているからなのかなと思う。

登場人物の物分かりが良いだけに、劇中で議論が紛糾するような場面はほぼ無いと言っていい。
それは物語全体を平坦にしている感はあるけれど、それは決してマイナス要因ではなく、むしろ、
それが埋れ木さんの「味」であると感じる。

そうした「味」について言えば、各人物の会話シーンもそうだと思う。
本作もそうだけれど、埋れ木さんの演劇の会話シーンは、演劇的な大仰さがなくて私は大好き。

台本を読んでいて、改めて感じるけれど、彼らの会話は彼らの中でのみ成立するものであって、よそ者である
観客に聞かせることを前提としていない。

よくよく考えてみたら日常会話なんてそんなものである。
「このあいだのあれ、どうなった?」
みたいな会話は身内同士では普通に伝わるけれど、第三者にはちんぷんかんぷんである。

説明的なセリフを出来るだけ少なくして、会話の不自然さをどう消していくかは、色々な手法があるなと、
色んな演劇を拝見してきて感じるけれど、埋れ木さんの演劇は、その辺りがものすごく巧みな気がする。
セリフの中で説明はしないけれど、それでいて観客が置き去りになることもない。
でも、何もかもを開示してくれるわけでもなく、行間の思いを観客が想像する余地をしっかりと残して
おいてくれていて、何というか、そのかゆいところに手が届くような感じが私はたまらないのです。

会話の内容もそうだけれど、テンポがまた絶妙で私は大好き。
ツッコミのテンポや各キャラの口癖やジェスチャーもうまく盛り込んで、ものすごくリアルな
会話を再現されているような気がする。
埋れ木さんの演劇は、各キャラの会話を聞いているだけで、何となくニヤニヤしてしまう。

毎度のことながら、今回も登場人物は魅力たっぷり。
というわけで、ここからは、各人物と役者様を織り交ぜて振り返りなど。

真島誠(竹内蓮さん)

演劇の世界では愛され青年は数多くいるけれど、マコトはその中でも最大級の愛され男な気がする。
仕方のない事とは言え、色んな疑惑に塗れることになるマコト。
けれども親交の比較的薄いハルコを除いては、マコトに対して疑惑は持ちつつも信頼する姿勢は
崩さなかったのがすごく印象的。
実際、彼は非常に愛らしい。
真面目で不器用で素直。
彼の言葉には虚飾が一切ない。
ちょっとカッコ悪いことも、ダサいことも、照れながらも口にしてしまう。
決して熱血漢ではないし、熱量が高いタイプでもないんだけれど、作家としては結構プライドが
高いんですよね。
自分の作った作品に「ヒーローが作った」っていうレッテルを貼られたくないっていうあの言葉、
私、結構、グッときました。観劇中、思わずうんうんと激しく頷いてしまった。
最後、ヤスヒサと対峙するシーン、ヤスヒサのために自身の力をためらうことなく差し出すところは、
あぁ、だから、この男はこれだけ愛されるんだと再認識させられた。
自身の力を差し出してもなお、ヒーローたらんとするその姿勢、カッコよかった。
こりゃ、ヤスヒサも形無しですわな。
竹内さんの演技も素晴らしかった。
マコトはジェスチャーが特徴的だけれど、見事にマコトを作り上げておられたような気がする。
ドはまり役だったのでは。

安田泰久(新開知真さん)
安田由紀(星野花菜里さん)

持てる者、持たざる者。
それが姉弟という非常に近い距離にいるというのは何とも皮肉な話だなと思う。
姉思いなんでしょうね、ヤスヒサは。
その超能力をなぜ有効に使わないのかという苛立ちはあるにせよ、姉の苦悩もやはり、どこかでは
理解していて、その苦しみから解放したい気持ちがヒーロー狩りへと繋がったのかな、と。
もしも、ユキが超能力者ではなかったら、ヤスヒサは程よいところでヒーローをやっていたような気がする。
皮肉という意味では、彼が忌み嫌うタイツ男が、まさかのマコトだったこと。
あそこの絶叫、胸にずんと来ました。
最終的に、ヤスヒサも超能力者として目覚めるわけだけど、あのシーンは照明の演出も含めて怖かったな。
あそこの新開さんの演技が、ちょっとイッちゃった感じでね。観たことない新開さんだった。すごい。
埋れ木さんの演劇ではちょっと珍しいシーンだった気がする。
ヤスヒサの超能力はX-MENでいうところのローグのそれに近いような気がするんだけど、X-MEN知らなかったら、
あそこのくだりはちょっと分からなかったかもしれない。X-MEN万歳。私はマグニートー寄りですけど。
ヤスヒサが姉思いであると同時に、ユキもまた弟思いだなって思う。
配信を巡ってシノブと対峙するシーンが2回あるけれど、そのどちらも星野さんがすごくカッコよかった。
EDで出動するマコトとヤスヒサに向かって「ワンオペだからね!」と声をかけるシーン、何だかちょっと
ニンマリしてしまった。
あの終わり方大好き。
安田姉弟の非日常的な日常に幸あれ。

田畠タツキ(高村颯志さん)
末次しろ(たなべさん)

めちゃくちゃ良い友達なんですよね、この二人。いや、ほんとに。
こういう仲間は大事にしないといけない。lieber最高。
はっきりしないマコトに対して、モヤモヤしつつも見守る人が多い中、唯一、真っ向から
ぶつかるタツキ。
個人的には、彼の言い分は至極もっともで、マコトに対して、
「もういいじゃん、言っちゃえよ!」と私は心の中で何度思ったか。
でも、彼もマコトのことは大好きなんですよね。
衝突している時も「一緒にやりたい」とポツリと漏らす姿を少しウルウルしながら観ておりました。
まだ衝突する前だけど、彼がマコトに対して
「普通に友達じゃん」
というところ。大好きでした。いいやつ過ぎるぜ、タツキ。

しろもまた良いやつなんですよね。
めちゃめちゃ口軽そうなんだけど、マコトの秘密については頑なに口を閉ざすし、あの手この手で
どうにかこうにか、マコトの疑惑を晴らそうとする。まぁ、あんまり効き目はなかったけれど(笑)。
でも、それが、しろという女の子を象徴していたような気もする。
マコトと同じく、彼女もまたどちらかというと不器用なんだろうなぁという気が。
マコトにとって、唯一、秘密を共有しているしろの存在ってすごく大きかったんじゃないかな。
ある意味、ヒロイン級の存在。

私、高村さんもたなべさんも大好きで、お二人が、大好きな埋れ木さんの舞台に出演するって言う
だけで、嬉しかったのに、同級生っていう設定でもう悶絶寸前。
冒頭、打ち上げのシーンで、楽しそうにしているお二人を見て、私はもうニヤニヤが止まりませんでした。
あぁ、幸せ。二人だけの会話シーンも観てみたかった。
そして、何となく予想はしていたけど、高村さんはやはり歌声も美声でした。

白井サトル(尾形悟さん)
野田央(佐藤友美さん)
竹内剛士(大垣友さん)

実は本作で私が一番涙したのは、サトルのプロポーズのシーン。
いやー、これ・・・どう表現すればいいんでしょうね。
サトルが「結婚しようか」って言った途端、私の涙腺大崩壊。
語彙力がなくて本当に申し訳ないんだけれど、それ以前に、このシーンを言葉で評するのも
なんか野暮というか。
プロポーズとしては映画等含めても屈指の名シーンだと私は思います。
ここに至る直前、ヒーローに対する支援の話題があるんだけど、ここも良かったんですよね。
サトルはそんなに熱いキャラではないんだけれど、このシーンの尾形さんの演技、静かだけれど、
すごい熱量を感じて素敵だなと思いました。
サトル大好き。

とは言え、12年待たされたナカバも、まぁ、我慢したなという感じ。
私の周りには12年付き合ってるのに結婚できずに別れたカップルがゴロゴロいるので、ちょっと
他人事じゃない感じで観ておりました。
何とかなっておめでとうございます。
でも、ホント信じてないと、こんなには待てないですよね。
内心、忸怩たるものはあったろうと思うけれど、お互いを信用していればこその12年間だった気が。
ナカバにしてもサトルにしても、懐が深いんだろうな。ビッグカップル。
佐藤さん演じるナカバは、まさに懐深いナカバだった気がします。
さっぱりした感じが似合ってたなぁ。

マコトの人徳によるものだろうけど先輩にも恵まれてますよね。
ツヨシ先輩、最高すぎでしょ。
まぁ、だいたいバイト先の先輩なんて、面白半分で後輩の恋愛を焚きつけたりするものだけど、
彼の場合、全然、面白半分じゃないんですよね。
全力で応援してる。いいやつすぎる。
そんでまた優しいんですよね。
マコトの悩みを察してはいるけれど、それをlieberのメンバーのように、どストレートに切り込まない。
自信が抱える思いをマコトに明かすことで、話しやすい空気は作るけど、それ以上は促さない。
結局、マコトは彼に話すことは無かったけれど、その優しさはきっと伝わったんじゃないですかね。
すげー軽い感じがする人だけど、めちゃくちゃいい人。大好き。
「やってんなぁ」はちょっと真似したくなる(笑)。
大垣さんがまたはまり役でしたね。すごく良かった。
そして高村さんに劣らぬ美声。
生演奏まで聴かせて頂いてありがとうございます。
私もつられて思わず拍手しそうになりました。

古舘ハルコ(工藤夏姫さん)
矢吹悠(大瀬さゆりさん)

ハルコはユウと話している時が一番魅力的なんだけど、かなり印象に残っているのが、ユキが
持てる者、持たざる者について問いかけるシーン。
ハルコの「良い使い方を見つけてくれたら、うれしいですよね」と答えたのには、思わず心の中で
唸り声をあげてしまった。すげーな、ハルコ。パンチ力十分。
それにしてもハルコのユウへの友人としての愛情が半端ない。
でも、この二人の関係って、観ててすごく素敵だなぁって思った。
終盤、マコトにデレデレのユウにツッコミを入れるシーンが大好きでしたね。工藤さん大好き。
工藤さんは前回公演に続き、物販で応対していただきました。
前回、口約束割りでTシャツを購入させて頂いたので、私はちゃんと約束通りTシャツを着て
観劇しておりました。
余りにも寒すぎたので、インナーのインナーのインナーでしたけど。
お見せできなくて残念ですが、ちゃんと着ていきました。

ユウはヒロインという立ち位置(なんだと思う)。
マコトがあんなんなので、ユウはグイグイ行くタイプかと思いきや、そうでもないんですよね。
二人とも似たような感じなので、何というか、微笑ましくも、初々しくも、危なっかしく
拝見しておりました。
いやー、しかし、それにしてもオープン前のBARでのイチャつきは参りました。
なんか年甲斐もなく、恥ずかしくなっちゃいましたよ。
え?いいの?見ていいの??みたいな。
映画とかだとああいうシーン観ても、あー、へー、みたいな感じで終わるけど、舞台だと
また何ともアレですな。いやぁ、慣れない。
ユウ役の大瀬さんも私は大好きなんですけど、まさか、埋れ木さんの舞台で大瀬さんを
拝見できるとは!
ユウみたいなふんわりした役はやっぱりお似合いになりますね。

寺島武史(藤本康平さん)
久米田耕平(羽田敬之さん)
島袋忍(佐瀬ののみさん)

様々な命題が飛び交う中で、私には一番身近に感じられたものを提示してくれたお三方。

仕事人としての使命、責任と、私人としてのモラル。
揺れ動くテラジマとシノブの議論を、一歩離れたところから見守るクメダ。

シノブは結局、ヤスヒサの配信を諦めるし、観ていた私もそれで良いとは思った。
けれど、プロとしてどうあるべきか。配信者として一定のプライドを持つ彼女にとって、
その決断は非常に重かったであろう事を思うと、手放しで良かったね、とは言えないのかなと感じた。
書き手の意図は別にして、YouTuberとしてのシノブは炎上を以てよしとするようなタイプではなく、
むしろ、ジャーナリストに近いスタンスを貫いていたように思える。
最終的にヒーロー稼業を続けることになったマコトとヤスヒサを、何かしらの形で支えることに
なるんだろうなと思いながら観ておりました。

演じられた佐瀬さん、登場時に名刺を出すシーンがあるんだけど、これがカッコよかった。
思わず、声に出しそうになってしまいました。
そして着ていたジャンパーなのかストラップなのかちょっと分からなかったけど、襟元のPolaroidのロゴ!
あれは私物なんですかね。
わー、あれ良いなーと本筋と関係ないところで、少々テンションを上げておりました。

テラジマとクメダは良いコンビですよね。
私は仕事の有り様と言うことに関しては、頭ではクメダの見解を理解しているし、支持するものの、
身体の反応としては間違いなくテラジマのそれと一致する。
クメダが言う「責任とか、ゆっくりでいいと思うんですよね」って言う言葉は、刺さったなぁ。
心の中で唸り声を上げておりました。

登場時の藤本さん演じるテラジマ、スゴく好きでした。
あのダラっとしためんどくさそうな感じがたまらない。
ある意味、大物感があって、私は当初、テラジマとクメダの関係は逆なのかと思ってました。

さぁ、そして羽田さん。
『降っただけで雨』の大久保と同様、スーツでの登場だったけれど、何だか大久保の未来の姿のように感じて、
一人でニヤついておりました。
頑固で熱血漢だった大久保が、あれから修羅場をくぐり抜けると、クメダのようになるんじゃないのかなって。
妄想が止まりません。
羽田さんはTwitterを拝見していて、あぁ、人柄的にも素敵な方だなと感じてはいたけれど、実際に改めてお姿を
拝見していると、ホントに紳士であり真摯な方だなぁと終演時のコールの一礼を観て感じました。

作・演出 久保磨介さん

まずは2周年おめでとうございます。
私は『降っただけで雨』から観劇させていただいている新参者ですが、あれから色んな舞台を拝見して、埋れ木
さんが提唱する「変わったことはしない」と言う理念をここに来てようやく感じられるようになってきました。
これから先、5年、10年、100年と続くことを願います。
今回も素晴らしい時間を過ごさせて頂きました。

劇団の皆さま、役者の皆さま、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!
何も変わらない今日という日の始まりに

何も変わらない今日という日の始まりに

劇団皇帝ケチャップ

ザ・ポケット(東京都)

2019/12/18 (水) ~ 2019/12/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/22 (日) 12:00

その「罪」は一体だれのものなのか。
過酷な運命に翻弄される人々をどこか優しく描いた大傑作。
詳細はネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

海チームの千秋楽を観劇して参りました。

皇帝ケチャップさんには前作の『私の娘でいて欲しい』でも泣かされたけれど、今回もやっつけられました。

皇帝ケチャップさんの演目は多分、劇団名、脚本を書いた人を伏せられていたとしても、何となく分かるような気がする。

主宰であり脚本を書いておられる吉岡さんのセリフの言い回しは独特で、テンポも非常に速い。

吉岡節とも言えるそれを好きかと言われれば、実を言えばそこまで好きではない。
けれど、ダーッと一気にダッシュさせて、この流れまだまだ続くんだろうなというタイミングで急停止して、
胸元を抉るようなセリフを一発ぶち込んでくるその手法は、私には非常に効き目があるのは確かで、
時間の経過を全く感じさせない105分だった。

会話のテンポのつけ方も先述の通り巧みだけれど、ストーリー全体の起伏も同様。
これについては前作よりも本作の方が圧倒的に素晴らしかった。

前作でも感じたことだけれど、全編にコミカルなムードをプンプンさせながらも、そこで扱う内容はかなりシビア。

不老ではあるが、不死でもなければ、病気にならないわけでもない。
察するにどこか傷を抱えた人たちが、様々な思いと共に被験者として志願したのだろうと思う。
ある者は新たなる希望を抱き、そしてある者は絶望の果てに辿り着いた場所なのだろうと理解している。

主人公である瑛美の生涯は壮絶と言って良い。
友人である由美を自殺から救えなかった自身の「罪」を抱えながら全てを捨てて不老の被験者になるものの、その選択は結局、
無駄だったと思い知らされてしまう。

何十年という時間。
しかも不老を得ることで、自らが罪を犯したその時間の姿のままで過ごす時間。
同じく死んだ時のままの姿でつきまとう由美の亡霊。
彼女の無邪気さは、むしろ瑛美に取ってはむしろ、自身の罪を追認させられるようで、相応の苦悩があったのではなかったか。

ただそれは瑛美にとってはある種の罪滅ぼし、、、というか与えられるべき罰と捉えていたかもしれないし、そうであって欲しいと
望んでいたかもしれない。
罰を受けることで、背負うものが軽くなるのならば、いつかそれがなくなる日も来るのだから。

ところがである。
由美の死は、瑛美が背負うべき罪ではなかった。
何十年という時間を棒に振ってしまった自身の人生を振り返り、もう現れない由美に向かって「それはあなたの罪ではないのか」
と叫ぶ瑛美の姿から感じた思いは言葉にしがたい。

由美のノートの発覚から、瑛美が雪の降る中、窓を開けて旅立つシーンまでの一連の流れは、照明、舞い散る雪など、見所満載では
あるんだけど、あまりにも残酷すぎて、胸が締めつけられた。

彼女の旅立ちは衝撃的ではあったけれど、どこか納得ではあったし、それで良いとも思えた。
自分でも不思議だけれど、どこか安堵したような、爽やかな空気さえ感じてしまった。

主人公を始めとして、誰もが数奇な人生を送り、あるいは、その人生を終えた物語。

にも関わらずむしろ暖かな心で劇場を後に出来た理由は正直良く分からない。

けれど、悲劇を悲劇として終わらせない何かが、皇帝ケチャップさんの演劇にはある。

その何かが何なのかは全然分からないけれど、こうした気持ちで劇場を後に出来るのは、
少なくとも今のところは皇帝ケチャップさんの演劇だけである。

惜しむらくは台本が売り切れていたことと、私の席は3列目とは言え視界良好とは言い難く、結構、重要なシーンをいくつか
見損ねてしまったこと。
倒れこむ系のシーンはほぼ全滅で、浩と妙が最後、その手を重ねることが出来たのか、何と見ていないのです。
雰囲気的には、手が届かなかったように見えたけれど…やっぱ、届かなかったのかな。
あのシーンもやっつけられたなぁ。

今回出演された役者様は、私はみなさん初めましての方だったのだけれど、皆様が演じられたどのキャラも
非常に魅力的でした。
実は私はまさにたった今、当日パンフレットにようやく目を通し、登場人物の設定を知りました。
あらまー。せめて感想書く前に読めばよかった。

皆様の演技、素晴らしかったので、それを書くだけでこの3倍くらいは書けてしまうけれど、敢えてピックアップ
させて頂くのであれば、私が好きだったのは里見・・・というか正則と呼ぶべきか。正則と薫。
この二人のシーンはどれも好きだった。
二人の最後の抱擁…素晴らしかった。
演じられた佐々木仁さんと加々見千懐さんがまた素敵なんですよね。
私は、お二人の演技も声もとても好きで、魅入っておりました。

そして主演の今出舞さん。
演技も雰囲気も素晴らしかったけれど、何といっても、そのセリフの淀みのなさに驚き、感動しました。
あんなに流れるように、まさに淀みなく、きれいに言葉を紡ぐ方を拝見したことがない気がする。
本当に素晴らしかったです。

とにかく素晴らしい時間でした。

役者の皆様、劇団の皆様。
素敵な舞台を本当にありがとうございました!
キュート・イズ・ビューティフル

キュート・イズ・ビューティフル

ピンクの汗

小劇場てあとるらぽう(東京都)

2019/12/28 (土) ~ 2019/12/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/12/29 (日) 11:00

崩壊した家庭が行きついた先に見出した活路。
それぞれの思いが交錯する再生の物語。

ネタバレBOX

急遽休みになったこの日。
何か面白そうな演劇はないだろうかと探した中で、候補は4本あったのだけれど、散々迷った末に、
こちらを選ばせていただいた。

候補の演目はどれもこれも面白そうだったけれど、決め手になったのは、ピンクの汗さんにとっては
旗揚げ公演だったこと、そして社会人劇団だと言う事。

私は演劇を作る側に関わったことはないけれど、仕事をしながら、別の何かを運営することがどれだけ
ハードな事かは容易に想像できる。
それでもなお劇団を旗揚げしようというその志がまず素敵だなと思ったし、その熱量のこもった演劇を
感じたいという思いがあった。

年末のこの時期、旗揚げ公演、演目のタイトル、粗筋などなど。
引っくるめて想像するに、崩壊した家庭を面白おかしく描いたコメディかなと思っていたのだけれど、
そんなお気楽なものではなかった。

主宰である山本鹿さんが前説で語ったとおり、過激な描写もそれなりにあるし、崩壊の途上にある
家庭環境が描かれる過程で、胸元を抉られるような思いもあった。

荒れた家庭を象徴するかのように、家庭ごみが散らばったテーブル、そして部屋のあちこち。
照明の当て方が、また実に素晴らしい。寒色、暖色を状況毎にうまく使い分け、影のつけ方も
非常に効果的と感じた。

そして脚本。
パンフレットにもあるように本作は崩壊した家庭を描いた物語。
最後には結局「活路を見出す」ことになるのだけれど、それを最後まで描き切らなかったところが
私はとても良い終わり方だなと思った。

この家庭はもともとはとても仲が良く、幸せな家庭ではあったのだけれど、その崩壊に至った
きっかけ、崩壊から再生に至るまでの道筋は、各登場人物ごとに見解が異なっている。

親にとっての普通は、純粋な子供にとってはインパクトがありすぎ、逆に子供の浅慮は、親の
想像を超えてしまう。

親と子、大人と子供、そして、医者とソーシャルワーカー。
こうした対立の軸、見解の相違。

それらは、ごく当たり前だし、普通のことではあるのだけれど、溶け込みすぎてしまっている
普通を浮かび上がらせ、脚本に盛り込んだ巧みさが秀逸。

話の構成も実にお見事。
終盤、譲路が自我を取り戻したかのように見えるシーンに代表されるように「あぁ、このあとは
こうなるんだろうな」という観客の予想を一瞬、見せておきながら、するりと直後に躱しに入る
あのあたりの匙加減というか、案配が非常に巧み。

全体を通して見ると、その辺りの匙加減が、リアリティを増幅しているような気がする。
観ている側としては、譲路に自我を取り戻しては欲しいけれど、実際のところ、自我を失い、
強迫神経症にまでなってしまった人間が、そんなに簡単に自我を取り戻せるわけがないのである。
そういう現実を見せつつも、どこかに希望を感じさせる、その見せ方が、私はとても好きだった。

ここからは、各登場人物目線で、お話を振り返り。

壇譲路(市川一時間さん)

何といっても終盤で、伊田嶋に対して「ずっと前から守らなきゃ行けないと思っていた気がする」
と語るシーン。
ここですよね~。もう、涙なしでは観られなかった。
そして、市川さんは声が良い。
ガッキーと、譲路で声色を使い分けるけれど、譲路になった時の声がね、とても心地よく劇場に
響くわけです。
YouTubeでの事前配信も、とてもいい味を出しておられた。
楽しく拝見させて頂いておりました。

壇真理(愛美さん)

私は男だけれど、何だかすごく真理の思いが沁みました。
貧乏から来る金銭への執着、かつてナンバーワンキャバ嬢だった自分への執着。
過去にとらわれ過ぎて、変貌してしまった自己嫌悪から来る周囲への疑心暗鬼。
夢をかなえても幸せになれなかったと語る彼女の言葉は胸を抉りまくった。
過去は過去でしかないし、大切なのは今、そして、これから先のこと。
大事なことを教わったような気がしました。
演じられた愛美さん、最後に外部からの支援をついに受け入れることを決意した
時のあの穏やかな表情、とても素敵でした。

壇おとぎ(あさぎりみつはさん)

なかなかのグレっぷりで、あさぎりさんの演技も鬼気迫るものがあって、結構怖かった。
でも、これって間違いなく、家族に対する愛情の裏返しなんですよね。
愛と憎しみは背中合わせとは言うけれど、そんなことを思い出しました。
フライヤーに書かれている、
「逃げないでよ。最後までちゃんと戦って。」
という言葉はおとぎの言葉なんだけれど、美沢と伊田嶋にとってはちょっと心外だったろうな。
壇家のことを思えばこそ、中途半端な自分たちではなく、もっとしっかりしたプロを
連れてこようとしたんだろうけれど、おとぎの目には、面倒になったから逃げるように
しか見えなかったんだろうなぁ。
これ、双方の思いが分かるだけに、すごく良いシーンだと思った。
こういう見せ方が、山本さんは巧みだと思う。
劇場から帰るときに出口で躓いた私を気遣ってくださいました。その節はありがとうございます。
お恥ずかしいところを、お見せしてしまいました…
どうぞ良いお年をお過ごしください!

壇憧羽(山本鹿さん)

彼もまたおとぎ同様、家庭の再生に尽力するけれど、非常に短絡で浅慮な手段で、
それを実行する。
大人たちからすると、あきれてしまう部分もあるんだろうけれど、彼自身が言うように
「これしか思いつかなかった」のだろうと思う。
彼の家庭への思いも、並々ならぬものがあったのだと思うと胸を打たれる。
病室のベッドで彼は言う。
「病気になるなんてすごい。それだけ生きようとしてるってことなんだから」
台本がないので(そういえば売ってたんだろうか。今更だけど気づかなかった)、微妙に
違っているかもしれないけれど、あのセリフは刺さりましたねー。
あぁ、そういう見方もあるのか、と。
私にとっては本編中で一番好きなシーン。
作、演出、出演と、本業もありながら本当に大変だったと思います。
旗揚げの志、確かに拝見させて頂きました。
観劇出来て本当に良かったです。

美沢正平(太野太さん)

圧倒的存在感。
これほどの個性を持ったキャラもなかなかいないのでは。私、かなり好きなキャラでした。
飄々としつつ、彼自身の都合もありつつも、壇家の再生を心から願う一人。
最後のじゃんけん、おとぎの思いを知った上で、敢えてグーを出した美沢はかっこよかった。
おとぎには薄情に思えたかもしれないけれど、美沢にとっては、最大限の大人としての
優しさだったように思う。
しつこいけれど、こういう描写が本当に巧み。
演じられた太野さん、美沢を演じるために生まれてきたんじゃないかというほどのはまりっぷり
でした。

伊田嶋美心(木村美紅さん)

伊田嶋は何といっても美沢との絡みが圧倒的に面白く、そして、緊張感がありました。
医者とソーシャルワーカー。それぞれ問題解決に従事する立場ではあるけれど、そのアプローチは
対極的。
プロとしては伊田嶋に圧倒的に分があるけれど、美沢の老獪に丸め込まれて、むしろ
立場を対等にまで持ち込まれてしまっているところが面白い。
まぁ、でも、この人も美沢同様、壇家を思う人で、結局、登場人物の全てが壇家の再生を
望んでいるんですよね。本質的にとてもやさしい物語。
美沢と対峙するシーンは軒並み、なんとなく、演じておられる木村さんが生き生きしている
ような気がして、見ていて気持ちが良かったです。

そんなこんなの旗揚げ公演。
最初だけに役者の皆さんも、劇団の皆さんも、緊張しているように見受けられたけれど、開場から
終演まで、皆さんのおもてなしを感じました。

旗揚げ公演おめでとうございます。
そしてお疲れさまでした。
皆様の旗揚げの志を、共有出来て幸せです。
素晴らしい舞台を本当にありがとうございました。
次回も楽しみにさせて頂きます!
共演者

共演者

2223project

小劇場 楽園(東京都)

2020/01/09 (木) ~ 2020/01/15 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/01/13 (月) 14:00

「想像を超えた」大傑作会話劇。
ありのままの人間の醜くも温かい姿がここにある。
以下、ネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

観劇のきっかけはフライヤー。
めちゃくちゃカッコいいな、と思ってよくよく見たら、『なるべく叶える』展の
保坂萌さん撮影でした。納得。

楽屋での会話で進行していく物語。
メインである4人の女性の会話は赤裸々で生々しい。
この脚本は絶対に女性が書いたなと思ったんだけど、男性が書いていたので心底驚いた。
うーん、すごいな。

そんな生々しさに、役者さんの熱演が乗ってくるから、もう、とにかく圧力が凄まじい。
二列目という事もあったし、劇場の構造上、舞台が近いという要素はあったにせよ、
あの迫力は、私がこれまでにみた演劇の中では最大級の迫力だった。
シーンによっては、正直、ちょっと怖かったりもしたくらいだ。

この作品で、私がすごく良いなと思ったのは、女性の言葉遣い。
「~だわ」
「~かしら」
「~よね」
という、よく見かける「ザ・女性口調」とでも言うものが一切なかったこと。
私は40年以上生きているけれど、創作ではよく聞くこの口調を、リアルで話す人間を
片手で十分数えられるぐらいしか知らない。
だから、演劇でも何でも、女性がこういう口調で話すたびに、何となく違和感を
感じてしまうんだけど、本作ではそういう違和感が一切なかった。
少なくとも、私にとっては、没入感を高めてくれた大きな要素の一つである。
私の周りは、劇中のような口調で話す女性ばかりなので、非常に入り込みやすかった。
女子同士の会話って、実際あんな感じだもん。

本作を振り返ってみて感じるのは「ありのままの人間の姿」を見たなぁという事。
高校の同級生4人が旗揚げした劇団。
会話の内容からすると10年以上の付き合いになるんだろうけれど、じゃあ、4人は
仲が良いのかと言われれば、それはまたちょっと違う。
ショウはやっちゃんの演技力に、そしてやっちゃんはショウの女としての強かさに
それぞれ嫉妬の感情を持っている。

この微妙な距離感がものすごくリアル。
やっちゃんがやったことはもちろん許されることではないんだけれど、その気持ちというか
衝動というものは、分からないでもない。

一方でショウは女を武器に出来る強かさを持っているのは確かだけど、その実、一途
な面もあり、損な立ち位置だなという気も。
何だかんだで、この同期4人で芝居をしたいと一番強く思っているのは、ショウなのかな
という気もする。

自分の演技がやっちゃんに及ばないことは、ショウ自身がよく知っているのだと思う。
降板するときの、彼女の
「芝居うまかったらよかったかね」
というセリフはどうにも切ない。

追いつきたいのに追いつけない。
追いつくための努力を認めてもらえない、分かってもらえない。

力はあるのに、客を呼べない。
力はないのに、客を呼べてしまう女との共演。

お互いのストレスが膨れ上がって、ついには弾ける終盤の二人の対峙は、率直に言って
怖かったし、震えた。

ただ、この楽屋で4人がそれぞれの思いを、文字通りぶちまけて、ぶつかり合うこのシーンは
私にとっては、生涯、忘れられないくらいの名シーン。
ショウとやっちゃんの対決も見どころだけれど、そこに割って入るコングがすごく良かった。
暴力的ではあるけれど、彼女の言うことは間違いなく正論だし、説得力もある。

そして最終的にまとめ上げるまなみの姿はもう涙なしでは観られなかったし、さすがは主宰と
いうべきなのか、そのまとめ方も実にお見事。
コングの
「こいつ、すげぇな」
という言葉は、彼女のみならず、私を含めた観客も同じ思いではなかったか。

「想像を超えたい」
っていうまなみの言葉は、ちょっと、ハッとさせられたな。
彼女たちの魂の叫び、胸にしっかりと刻まれた。

・・・が。

この場面に限ったことではないんだけど、本作のすごいなと思うところは、そう簡単には
ハッピーエンドにさせないこと。

楽屋に二人きりになった時、ショウはやっちゃんに、自分の夫が、ピッピであることを告げる。
3年という時と、それ以上のものを奪われたショウの復讐。
そりゃ、そうだろう。ショウの気持ちを思えば、いくらコングやまなみの言葉や思いがあったとて、
そう簡単に納得できるものではない。
それをこういう形で、復讐の思いを遂げさせたことは、ある意味、書き手の優しさであるようにも
感じる。

もしも、このくだりがなく、次のシーンに移ったとしても、それはそれでキレイだし、成立もする。
「ショウは大人だね」と観客もまぁ、納得はできるだろう。
けれど、私としては、ショウがああいう形で復讐を遂げることで、むしろスッキリしたし、納得した。
そんなに人間、キレイなものでも、大人になりきれるものでもない。

やっちゃんにとっても、やられた!という思いはあれど、自身に対する負い目は軽くなったのでは
ないか。
すごく人間味がある、それでいて、スパイスを聞かせた脚本だなと思う。
この時のやっちゃんの、
「芝居だけは渡さない」
っていうセリフが、また良いんだなー。

そして最後のシーン。
ここの展開も実にお見事。素晴らしかった。
ピッピを共通の敵にすることで演出した、ショウとやっちゃんの一体感。
私、この場面で、すごく好きだったのが、まなみがPCを持ってトイレにこもった時の、二人の
静かなやり取り。
周りが脚本の完成を危ぶむ中、まなみの様子を見て、
「いけそう」
「いけそうね」
と脚本の完成を確信する。
これは痺れた。
水と油の二人だけれど、お互い、どこかで信頼し合っている部分がある。
そういう部分を垣間見せる、この演出、ホントに素敵だと思った。

まぁ、とにもかくにも。

これほどまでに「生きた人間」を描いた作品にはそうそうお目にかかれるものではない。
何よりもすごいなと思うのは「胸糞悪い」と言っても過言ではない、人間の醜悪な感情の渦を、
何ら飾りを加えることなく、心温まる物語にしてしまったその手腕。

そしてその素晴らしい脚本を、役者の皆様が完璧以上に舞台の上に展開させたと思う。
特に女性陣は、感情をむき出しにするシーンが多く、その辺りの表現の圧力は冒頭でも触れたように
本当に凄まじかった。
「熱演」というのはまさにこういうのを言うんだろうな。

対して男性陣は三者三様のスタイルで、女性陣ほど、激昂するシーンはないんだけれど、ぴっぴの
真っ直ぐなバカっぽさ(笑)、かーくんのどこまでも深い優しさ、都倉のビジネスマンらしいカリカリ
した感じが、目まぐるしいストーリー進行の中で、良いアクセント、あるいは休符になっていたように
感じる。

さて、私は劇団関係者ではないので、この物語が、どの程度、小劇場の舞台裏をリアルに再現した
ものなのかは、分からないけれど、演劇が出来るまでの過程を知るという上では、興味深い部分も
あったし、勉強になりました。

いやー、しかし、ホント素晴らしいものを見せて頂いてしまった。
映像化されたら絶対に買う。
色々な意味で「ザ・小劇場演劇」だった気がする。
正直、感じたことの半分も伝えられていないのがすごく悔しい。
でも、それだけ、言葉に出来ないくらいの魅力が詰まった作品でした。

役者の皆様、劇団関係者の皆様、最高の舞台を本当にありがとうございました!
マジで最高!大好きです!!
スノー・ドロップ

スノー・ドロップ

感情7号線

劇場HOPE(東京都)

2020/01/11 (土) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/01/11 (土) 14:00

例え「現在」が変わらなくても…
もう一つの並行世界に希望を託した苦しくも美しい物語。
以下、ネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

今年最初の観劇。

田中愛実さんからご招待を受けてお邪魔しました。
予約を入れてからは一切の情報を遮断していたので、どんな話なのかはフライヤー以上の
内容は分からないままに観劇。

まさかのタイムトラベルものだったのにはビックリ。
過去にメールを送るという設定は、奇しくも年始に暇を持て余していたときにやった
某有名アニメの原作ゲームでも登場するので、そう言う意味でも驚いてしまった。
巡り合わせってのはあるんですなぁ。

タイムトラベルものはそれこそ多くの作品が存在するので、話としてはどれも似たり
寄ったりになってしまうけど、本作は厳密に言えばタイム「トラベル」ではない。

出来るのはあくまでも「過去にメールを送る」事だけ。
作中でも真白が言うように「逆タイムカプセル」でしかない。

もう一つ面白いなと思ったのが、過去にメールを送ったところで、未来が変わるわけではなく、
新たに並行世界が出来ると言う事。

だから作中表現で言うところの世界Aはもう変えることが出来ない。
けれど、その世界の悲しみを埋めることは出来なくても、その悲しみのない世界Bを作ることは
出来る、、、かもしれない。

その可能性を信じて奔走する真白たちの姿が痛々しくも美しい。

我々観客は世界Bの2026年を知っている。
けれど世界Aに住まうものは、それを知ることは出来ない。

本当に桃花は救えたのだろうか?
確かめようのない事実に、色んな思いはあったと思う。
けれど世界Bが、彼らの望むものになっていると強く信じる彼らの姿は眩しかった。

とは言え、世界Bが本当の意味で、あるべき姿を取り戻すのは2026年。
桃花を助けるためとは言え、多くの仲間を巻き込み、そこに亀裂を入れざるを得なかった
真白たちの苦悩は想像を絶する。
6年だもんなぁ、、、真実が明かされるまで。
長いよね、、、

タイムトラベルものって、どうしても時系列が激しく動くから、演劇のように背景をイジれない
ジャンルでは過去や未来の表現が難しいと思うんだけれど、本作はそう言う意味では世界Aと
世界Bを並べる事で、分かりやすく表現されていた気がする。

ただ屈託のない笑顔が弾ける世界Aに対して、世界Bはどうしても澱んだ空気が立ちこめる。
この辺りのギャップの付け方が巧みだなと思いつつも、私は胸を締めつけられておりました。

世界Bの2026年は、はっきりとは説明されない。
6年という時間は長く重いけれど、願わくばかつての仲間は何らかの形で繋がっていて欲しいなと
思わずにはいられない。

私はネガティブで後悔しがちなタイプだけど、なぜか「あの時に戻りたい」とか「あの時こうすれば
良かった」と言うのがあまりない。
けれど、こういう仲良し大学生たちが登場する演目を観たときは、大学生活をやり直したいなって思う。
もっと勉強したいし、もっと楽しく遊びたかった。
そう言う意味でもこの作品は印象に残ったかな。

それにしてもこのお芝居、素人目に見ても、すごいなと思ったのは、役者の皆様の動き。
本編中、結構長い時間が逆再生に費やされるんだけど、あれってかなり難度が高い動きだと
思うんだけど、あまりにも、皆さん、あっさりとやってのけておられたので、そうでもないんだろうか。
私からすると、驚異的な動きで、結構見入ってしまった。

後ろ歩きで、背の高い純一は頭をドアにぶつけないだろうか、ぶつからずに泥棒とシロの間を縫って
戻ることが出来るんだろうかと、余計なお世話をしてしまうことも。
早着替えもすごかったしねぇ。ちょっと目を疑うくらいに早かった。

そういう意味ではホントにびっくりしたのが二ノ宮が壁に穴をあけるシーン。
いや、もう、あれイリュージョンですわ。
ほんと一瞬で額縁をどけて、さも、今、穴が開いたように見せるあの早業はすごかった。
しかも世界A、B、二回あったしね。
上演中だけど、拍手をしそうになってしまった。

令和二年の記念すべき観劇初めに拝見させて頂いた本作。
おかげさまで気持ちの良いスタートを切れました。
役者の皆様、劇団関係者の皆様、素敵な舞台をありがとうございました。
そして、田中愛実さん。
ご招待いただき、本当にありがとうございました!
すれ違いざまのご挨拶でごめんなさい!
窓越し

窓越し

青色遊船まもなく出航

劇場MOMO(東京都)

2020/01/30 (木) ~ 2020/02/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/02/02 (日) 12:00

「幸せ」とは何なのか。
それぞれの思いが織りなすほろ苦い群像劇。
以下、ネタバレBOXにて。

ネタバレBOX

いきなり私事で恐縮ながら、まもなく、節目の結婚記念日を迎える我が家。
去年、同じく節目を迎えた知り合い夫婦が離婚。
結婚って何だろう?と思うことが多い今日この頃、そういうタイミングで
結婚と離婚を扱った本作を観劇するのも、巡り合わせというものか。

本作は川を挟んで向かいに住む二組の夫婦を軸に物語は進む。
テーマの柱としてあるものは「幸せとは何か」ということではあるのだけれど、
そんなに単純な話でもない。

まぁ、言ってしまえば、夫組の二人はクズですよ。そしてガキ。
梅沢富美男あたりに一喝されちゃうやつ。
ただなー…男として、夫として、人として、全く理解できないかと言われれば、
そんなこともなく。
さりとて、共感もできない。同情もできない。
この二人に関しては、感情の持っていきどころが非常に難しかった。

まぁ、学はね、わりと分かりやすいアウトだなって思う。
昔の女が忘れられなくて、その女の方でも男の方が忘れられなくてってなったら、
心がぐらつくのは、正直、分かる。
でも、そのくせ、与一のことはよく思わないわけだからねぇ。
あんた、自分勝手だよ、って思うけれど、そんな理屈だけで割り切って生きて
いけないから、辛いんだよなという思いもある。
ただ、共感も同情もしないけれどね。

卓真の方は、パッと見、学以上にクズ感があるし、残念ながらその通りなん
だけど、いや、ホントにこの人は…
何というか、割り切れない人なんだろうなぁ。
卓真が本当にやりたかったことは、目の前で消えかけている命、すなわち、
初季のおなかにいる子を、守ることだったんだと思う。
もちろん、家族を持ちたいのに持てない初季の悲しみを救いたい気持ちはあっ
たろう。
けれど、それ以上に、彼は小さく弱い命が目の前で失われることに耐えられな
かったんだと思う。

それを女性陣が指摘したように「病気」の一言で片づけることは、正直、どうか
と思うが、言われても仕方のないことだとも思う。

多分だけれど、卓真はまた同じことを繰り返すと思う。
彼にとって、大切なのは「彼自身が小さな命を救った」ことであって、それを
永続させることではない気がする。

この物語が象徴するように、誰かにとっての幸せは、誰かにとっての不幸になりうる。
世の中、すべてがWin-Winにはなりえない。zero-sumになることだって少なからずある。

にもかかわらず、卓真は少なくとも、彼自身の目に留まった不幸は、全て自身の手で
救おうとしているように思える。

それ自体は、まぁ、悪いことではないかもしれない。
如何なる事情であれ、目の前にある不幸を見過ごすことが良いことだとはもちろん思わない。

ただ、彼が大変な勘違いをしているのは、彼が与える幸福はあまりにも刹那でありすぎること。
苑子には結婚という幸せを与え、初季には家族という幸せを与えた。
でも、それだけ。
そこから後のことに目が向かない。
幸せを持続させることよりも、不幸な人を幸せにしたい。
それが結局は、大量の不幸を築いていることに気づいてない。
初季の「醒める夢なら最初から見させないで」という主旨の言葉は、何とも象徴的である。

結局、厳しい言い方をすれば、彼の優しさ、使命感は、彼のためのものであって、
他者に対してのものじゃない。

卓真の苑子に対する
「君はひとりでも大丈夫」
という言葉は、自分勝手の極みで、私は席上からロケットパンチを食らわせてやりたい衝動に
駆られたが、彼が苑子に抱えていたコンプレックスを思うと、この部分に関してだけは同情的
になった。

書きながら、ちょっと背筋が寒くなったのは、三戸。
彼はある意味、幸福追求の原理主義者。
幸福は行動しないと手に入らないと信じ、グイグイと突き進む。
彼は天真爛漫であるだけに、平気で紀香に対しても、そして苑子に対しても、幸せに
なって欲しいといって憚らない。

その心意気は良いんだけど…
行く末は卓真以上のクズに進化しそうでちょっと怖い。
卓真は、まだ自分のありように対しての疑問があるだけまだいいのかもしれない。
三戸は…多分、そういうのないだろうから、ちょっとヤバいよねぇ。
EDでベランダから桜を観ている時の表情はすごく良かったけど。
あれはグッと来たな。

まぁ、男ってのは、基本バカで、子供で、ロマンチストでナルシストだなって改めて思う。
皆が皆そうだとは思ってないけれど、そう思ってしまうことは少なくない。

ろくな男がいない中、江田と与一の存在が、この物語に光を与える。
とはいえ、江田はめちゃくちゃいいやつだなと思う反面、柔軟性には欠けるきらいがあるし、
煙草のタイミングをアラームで設定しているというのは、正直、ちょっと引いてしまったけれど、
彼自身、その異常さに気が付いているところが救いだなと思う。
作中では詳細に言及されてはいないけれど、彼は一度ストレスで身体を壊しているのかな。
大好きな羽田さんが演じておられたという事は抜きにしても、男性陣の中では、一番好きな
キャラだった。

与一もまためちゃくちゃいいやつなんだけれど、紀香との距離感は、見誤っている感がある。
まぁ、これも良くある話ではあるんだけどねぇ…
与一はつらいなって思う。
あれだけ献身的に紀香に尽くしているにもかかわらず、当の紀香からは男性としては見られて
ないんだし。

与一と紀香って言うのは、お似合いには見えるのかもしれないけれど、じゃあ、付き合ったら
どうなんだと言われれば、きっと上手くいかないだろうなという気はしている。
根拠はないんだけどね。何となく。

人それぞれベストの距離って言うのがあると思う。
紀香と与一は、性別を超えたところでの繋がりがベストだと思う。
愛だの恋だの言う次元をはるかに超えたところで、人としての繋がりを持ってほしいなって、
個人的には思っているけれど・・・与一はいつか、自分の気持ちを伝えてしまうような気がするなぁ。
そして、それは、埋まらない溝を二人の間に作ってしまう気がする。

江田と与一はともかく、ガキが揃う男性陣に対して、女性陣は総じて大人。
苑子の女神っぷりは、もはや、涙なしでは観られないんだけれど、その女神っぷりが、ある意味では、
卓真を不倫に走らせる要因になったのは、何とも皮肉ではある。
とはいえ、これもよくある話ではあるんだよなぁ、悲しいことに。

あまりにも幼い卓真に対して、苑子は大人であり過ぎたように思う。
もちろん、それは苑子には責任のある話では全くないんだけど、まぁ、男を見る目がなかったとしか
申し上げるほかない。

それにしても幸奈の存在は大きい。
悲惨と言っても良い苑子の境遇に、幸奈の存在がどれほど支えになったろうか。
いくら友達のためとはいえ、なかなか、探偵までは雇えない。
親友というには、あまりにも熱いつながりだなと思う。

本作で一番好きなシーンが二人のやり取りのシーン。
「あの時の私、今のあんたの顔してた」
みたいなやり取りがあったところなんだけど、あのやり取りはすごく好きだったな。
ちょっとウルっとしながら観てしまった。

雇われた探偵の後藤は、実は全キャラの中で一番好き。
ビジネスライク、無関心なようでいて、何だかんだ色々と気にはしているんだよね。
ちょっとおいしい役だな、と思いながら観ていた。
そして着ていたMARVELトレーナーがめちゃくちゃ似合ってた。あれ、私も欲しい。

苑子は男運には恵まれないが、同性の知人には恵まれているなと思う。
幸奈、後藤はもちろんだけど、涼子もそう。
彼女はこれからも妹ではあり続けるんだけど、あらかた片が付いたところで、
苑子を思いギャン泣きするところがあるんだけど、あそこも良かったな。
メッチャいい子だなって思う。
ただ、ちょっと分からなかったのは、
「苑子さんはかわいそうじゃない。かわいそうなのはお兄ちゃん」
っていうセリフ。
あれが未だに呑み込みきれてない。
あれはどういう意味だったんだろうなぁ・・・

「結婚」というものを軸として「幸せ」を考えた時に、紀香、小町、亜矢が思う、
それぞれの「幸せ」の形が面白い。

結婚だけが幸せとは思わない小町。
結婚に幸せを見出そうとする亜矢。
そして。
結婚は必ずしも幸せなことばかりではないが、さりとて、不幸なものでもないと
思う紀香。

小町と亜矢の思想は対極的だ。
そのまさに中間、もっと言えば俯瞰する立場にある紀香からすると、二人の思いに
それぞれ感じるところはあったのではないかと思う。

多分、紀香は結婚するまでは亜矢と同じ考え方だったのではないか。
けれど、結婚してから色々な現実を見たのだろう。
彼女自身が言ったように、結婚相手というのは、家族には違いないが「他人」である。
何もかもが重なるわけではない。

象徴的なのがトイレのごみ箱と、与一の風呂掃除のエピソード。
ひどく些細なことに見えるが、実際の結婚生活で火種になるのは、浮気、不倫の類よりも、
こうしたごくごく日常における意見の相違である。

紀香の中から、結婚に対して抱いていた夢や憧れは、日に日に色褪せていったと思う。
けれど、彼女は、学が「他人」であることを意識したうえで、言うなれば「60点の結婚生活」
に妥協したのではないかと思う。

残りの40点にはトイレのごみ箱や、亜矢との浮気が入っているのだろう。
けれど、それを差し引いても、幸せだと思える60点分が残っていると考えたのではないか。
だから、彼女は自らを
「幸せ」
と言えるのだと思う。
その40点がどれだけ辛いものであったとしても。学をマジで殴り倒したい。

作中、ただ一人、幸せになったといっても良い初季。
ずっと不幸な境遇のまま生きてきた彼女が、望んでいた殆どすべてを一日で手に入れてしまう。
そのことに恐怖し、泣きじゃくる彼女の姿は、非常に印象的だった。
これから先、彼女が幸せに生きてくれることを、個人的には願ってやまないけれど、相手が
卓真だと思うと、彼女の行く末を案じずにはいられない。

川向こうの家の明かりが、温かいものに見えても、その中にある空気が、必ずしも温かいとは限らない。
言ってしまえば「隣の芝生は青い」だけであって、誰しもが、それぞれの思いを抱えて生きている。
幸せの形も人それぞれ。結婚の形も人それぞれ。

本作を観て、すっきりした気持ちで劇場を後にしたかと言われれば、正直、全くそんなことはない。
観劇後、こうして感想を書いている今でも、飲み込み切れない部分は多々ある。

私にとっての幸せ、妻にとっての幸せ、我々夫婦にとっての結婚って、一体、何なんだろうと
考え続けているけれど、その答えもまだ見えてこない。

けれど、そういうことを考えるきっかけが出来たことはとても大きい。
結婚してしまうと、何となく、惰性で時は流れてしまう。
一度立ち止まって、色々と考えてみたいなと思う。
三戸の「行動しない人のところに幸せは訪れない」という言葉が、胸の中でざわついている
理由も考えてみたい。

何はともあれ、人生において観ておくべき演劇を、観ておくべきタイミングで観劇できたと思う。
劇団の皆様、役者の皆様、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました。

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