窓越し 公演情報 青色遊船まもなく出航「窓越し」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2020/02/02 (日) 12:00

    「幸せ」とは何なのか。
    それぞれの思いが織りなすほろ苦い群像劇。
    以下、ネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    いきなり私事で恐縮ながら、まもなく、節目の結婚記念日を迎える我が家。
    去年、同じく節目を迎えた知り合い夫婦が離婚。
    結婚って何だろう?と思うことが多い今日この頃、そういうタイミングで
    結婚と離婚を扱った本作を観劇するのも、巡り合わせというものか。

    本作は川を挟んで向かいに住む二組の夫婦を軸に物語は進む。
    テーマの柱としてあるものは「幸せとは何か」ということではあるのだけれど、
    そんなに単純な話でもない。

    まぁ、言ってしまえば、夫組の二人はクズですよ。そしてガキ。
    梅沢富美男あたりに一喝されちゃうやつ。
    ただなー…男として、夫として、人として、全く理解できないかと言われれば、
    そんなこともなく。
    さりとて、共感もできない。同情もできない。
    この二人に関しては、感情の持っていきどころが非常に難しかった。

    まぁ、学はね、わりと分かりやすいアウトだなって思う。
    昔の女が忘れられなくて、その女の方でも男の方が忘れられなくてってなったら、
    心がぐらつくのは、正直、分かる。
    でも、そのくせ、与一のことはよく思わないわけだからねぇ。
    あんた、自分勝手だよ、って思うけれど、そんな理屈だけで割り切って生きて
    いけないから、辛いんだよなという思いもある。
    ただ、共感も同情もしないけれどね。

    卓真の方は、パッと見、学以上にクズ感があるし、残念ながらその通りなん
    だけど、いや、ホントにこの人は…
    何というか、割り切れない人なんだろうなぁ。
    卓真が本当にやりたかったことは、目の前で消えかけている命、すなわち、
    初季のおなかにいる子を、守ることだったんだと思う。
    もちろん、家族を持ちたいのに持てない初季の悲しみを救いたい気持ちはあっ
    たろう。
    けれど、それ以上に、彼は小さく弱い命が目の前で失われることに耐えられな
    かったんだと思う。

    それを女性陣が指摘したように「病気」の一言で片づけることは、正直、どうか
    と思うが、言われても仕方のないことだとも思う。

    多分だけれど、卓真はまた同じことを繰り返すと思う。
    彼にとって、大切なのは「彼自身が小さな命を救った」ことであって、それを
    永続させることではない気がする。

    この物語が象徴するように、誰かにとっての幸せは、誰かにとっての不幸になりうる。
    世の中、すべてがWin-Winにはなりえない。zero-sumになることだって少なからずある。

    にもかかわらず、卓真は少なくとも、彼自身の目に留まった不幸は、全て自身の手で
    救おうとしているように思える。

    それ自体は、まぁ、悪いことではないかもしれない。
    如何なる事情であれ、目の前にある不幸を見過ごすことが良いことだとはもちろん思わない。

    ただ、彼が大変な勘違いをしているのは、彼が与える幸福はあまりにも刹那でありすぎること。
    苑子には結婚という幸せを与え、初季には家族という幸せを与えた。
    でも、それだけ。
    そこから後のことに目が向かない。
    幸せを持続させることよりも、不幸な人を幸せにしたい。
    それが結局は、大量の不幸を築いていることに気づいてない。
    初季の「醒める夢なら最初から見させないで」という主旨の言葉は、何とも象徴的である。

    結局、厳しい言い方をすれば、彼の優しさ、使命感は、彼のためのものであって、
    他者に対してのものじゃない。

    卓真の苑子に対する
    「君はひとりでも大丈夫」
    という言葉は、自分勝手の極みで、私は席上からロケットパンチを食らわせてやりたい衝動に
    駆られたが、彼が苑子に抱えていたコンプレックスを思うと、この部分に関してだけは同情的
    になった。

    書きながら、ちょっと背筋が寒くなったのは、三戸。
    彼はある意味、幸福追求の原理主義者。
    幸福は行動しないと手に入らないと信じ、グイグイと突き進む。
    彼は天真爛漫であるだけに、平気で紀香に対しても、そして苑子に対しても、幸せに
    なって欲しいといって憚らない。

    その心意気は良いんだけど…
    行く末は卓真以上のクズに進化しそうでちょっと怖い。
    卓真は、まだ自分のありように対しての疑問があるだけまだいいのかもしれない。
    三戸は…多分、そういうのないだろうから、ちょっとヤバいよねぇ。
    EDでベランダから桜を観ている時の表情はすごく良かったけど。
    あれはグッと来たな。

    まぁ、男ってのは、基本バカで、子供で、ロマンチストでナルシストだなって改めて思う。
    皆が皆そうだとは思ってないけれど、そう思ってしまうことは少なくない。

    ろくな男がいない中、江田と与一の存在が、この物語に光を与える。
    とはいえ、江田はめちゃくちゃいいやつだなと思う反面、柔軟性には欠けるきらいがあるし、
    煙草のタイミングをアラームで設定しているというのは、正直、ちょっと引いてしまったけれど、
    彼自身、その異常さに気が付いているところが救いだなと思う。
    作中では詳細に言及されてはいないけれど、彼は一度ストレスで身体を壊しているのかな。
    大好きな羽田さんが演じておられたという事は抜きにしても、男性陣の中では、一番好きな
    キャラだった。

    与一もまためちゃくちゃいいやつなんだけれど、紀香との距離感は、見誤っている感がある。
    まぁ、これも良くある話ではあるんだけどねぇ…
    与一はつらいなって思う。
    あれだけ献身的に紀香に尽くしているにもかかわらず、当の紀香からは男性としては見られて
    ないんだし。

    与一と紀香って言うのは、お似合いには見えるのかもしれないけれど、じゃあ、付き合ったら
    どうなんだと言われれば、きっと上手くいかないだろうなという気はしている。
    根拠はないんだけどね。何となく。

    人それぞれベストの距離って言うのがあると思う。
    紀香と与一は、性別を超えたところでの繋がりがベストだと思う。
    愛だの恋だの言う次元をはるかに超えたところで、人としての繋がりを持ってほしいなって、
    個人的には思っているけれど・・・与一はいつか、自分の気持ちを伝えてしまうような気がするなぁ。
    そして、それは、埋まらない溝を二人の間に作ってしまう気がする。

    江田と与一はともかく、ガキが揃う男性陣に対して、女性陣は総じて大人。
    苑子の女神っぷりは、もはや、涙なしでは観られないんだけれど、その女神っぷりが、ある意味では、
    卓真を不倫に走らせる要因になったのは、何とも皮肉ではある。
    とはいえ、これもよくある話ではあるんだよなぁ、悲しいことに。

    あまりにも幼い卓真に対して、苑子は大人であり過ぎたように思う。
    もちろん、それは苑子には責任のある話では全くないんだけど、まぁ、男を見る目がなかったとしか
    申し上げるほかない。

    それにしても幸奈の存在は大きい。
    悲惨と言っても良い苑子の境遇に、幸奈の存在がどれほど支えになったろうか。
    いくら友達のためとはいえ、なかなか、探偵までは雇えない。
    親友というには、あまりにも熱いつながりだなと思う。

    本作で一番好きなシーンが二人のやり取りのシーン。
    「あの時の私、今のあんたの顔してた」
    みたいなやり取りがあったところなんだけど、あのやり取りはすごく好きだったな。
    ちょっとウルっとしながら観てしまった。

    雇われた探偵の後藤は、実は全キャラの中で一番好き。
    ビジネスライク、無関心なようでいて、何だかんだ色々と気にはしているんだよね。
    ちょっとおいしい役だな、と思いながら観ていた。
    そして着ていたMARVELトレーナーがめちゃくちゃ似合ってた。あれ、私も欲しい。

    苑子は男運には恵まれないが、同性の知人には恵まれているなと思う。
    幸奈、後藤はもちろんだけど、涼子もそう。
    彼女はこれからも妹ではあり続けるんだけど、あらかた片が付いたところで、
    苑子を思いギャン泣きするところがあるんだけど、あそこも良かったな。
    メッチャいい子だなって思う。
    ただ、ちょっと分からなかったのは、
    「苑子さんはかわいそうじゃない。かわいそうなのはお兄ちゃん」
    っていうセリフ。
    あれが未だに呑み込みきれてない。
    あれはどういう意味だったんだろうなぁ・・・

    「結婚」というものを軸として「幸せ」を考えた時に、紀香、小町、亜矢が思う、
    それぞれの「幸せ」の形が面白い。

    結婚だけが幸せとは思わない小町。
    結婚に幸せを見出そうとする亜矢。
    そして。
    結婚は必ずしも幸せなことばかりではないが、さりとて、不幸なものでもないと
    思う紀香。

    小町と亜矢の思想は対極的だ。
    そのまさに中間、もっと言えば俯瞰する立場にある紀香からすると、二人の思いに
    それぞれ感じるところはあったのではないかと思う。

    多分、紀香は結婚するまでは亜矢と同じ考え方だったのではないか。
    けれど、結婚してから色々な現実を見たのだろう。
    彼女自身が言ったように、結婚相手というのは、家族には違いないが「他人」である。
    何もかもが重なるわけではない。

    象徴的なのがトイレのごみ箱と、与一の風呂掃除のエピソード。
    ひどく些細なことに見えるが、実際の結婚生活で火種になるのは、浮気、不倫の類よりも、
    こうしたごくごく日常における意見の相違である。

    紀香の中から、結婚に対して抱いていた夢や憧れは、日に日に色褪せていったと思う。
    けれど、彼女は、学が「他人」であることを意識したうえで、言うなれば「60点の結婚生活」
    に妥協したのではないかと思う。

    残りの40点にはトイレのごみ箱や、亜矢との浮気が入っているのだろう。
    けれど、それを差し引いても、幸せだと思える60点分が残っていると考えたのではないか。
    だから、彼女は自らを
    「幸せ」
    と言えるのだと思う。
    その40点がどれだけ辛いものであったとしても。学をマジで殴り倒したい。

    作中、ただ一人、幸せになったといっても良い初季。
    ずっと不幸な境遇のまま生きてきた彼女が、望んでいた殆どすべてを一日で手に入れてしまう。
    そのことに恐怖し、泣きじゃくる彼女の姿は、非常に印象的だった。
    これから先、彼女が幸せに生きてくれることを、個人的には願ってやまないけれど、相手が
    卓真だと思うと、彼女の行く末を案じずにはいられない。

    川向こうの家の明かりが、温かいものに見えても、その中にある空気が、必ずしも温かいとは限らない。
    言ってしまえば「隣の芝生は青い」だけであって、誰しもが、それぞれの思いを抱えて生きている。
    幸せの形も人それぞれ。結婚の形も人それぞれ。

    本作を観て、すっきりした気持ちで劇場を後にしたかと言われれば、正直、全くそんなことはない。
    観劇後、こうして感想を書いている今でも、飲み込み切れない部分は多々ある。

    私にとっての幸せ、妻にとっての幸せ、我々夫婦にとっての結婚って、一体、何なんだろうと
    考え続けているけれど、その答えもまだ見えてこない。

    けれど、そういうことを考えるきっかけが出来たことはとても大きい。
    結婚してしまうと、何となく、惰性で時は流れてしまう。
    一度立ち止まって、色々と考えてみたいなと思う。
    三戸の「行動しない人のところに幸せは訪れない」という言葉が、胸の中でざわついている
    理由も考えてみたい。

    何はともあれ、人生において観ておくべき演劇を、観ておくべきタイミングで観劇できたと思う。
    劇団の皆様、役者の皆様、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました。

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    2020/02/04 20:06

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