THE ROLE OF 公演情報 埋れ木「THE ROLE OF」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/21 (土) 14:00

    果たすべき役割、守りたい友情、そして、苛立ち。
    優しい人々が織りなす、非日常的な日常の物語。
    詳細はネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    まず劇場に入ってみて、バーカウンターにビックリ。
    なかなかあそこまで気合いの入ったセットはお目にかかれない気が。
    サーバーとかにもちゃんと中身入ってるし、酒の瓶も良くあそこまでそろえたな、と。
    しかも、カウンターの足元に足置き?的なものまで置いてあったのには驚いた。
    再現度がハンパない。
    私の位置からだと冷蔵庫の中身まで見えたんだけど、ちゃんと色々入ってましたしねぇ。
    大好きな埋れ木さんの演劇である事を抜きにしても、テンション上がりますわな。

    持てる者ゆえの悩み、持たざる者ゆえの羨望と苛立ち、果たすべき責任、義務、自身に課すべき役割、
    優先するべきもの、勢いで行くのか、慎重に事を進めるのか、部下、後輩への接し方などなど。
    誰しもどこかで抱えている思いをヒーローという存在を軸にして、目の前に提示して頂いた様な気がした。

    こういう問題って結局の所、正解がないから難しい。
    それぞれの立場もあれば、思想、信条もあるわけで、そこに対しての熱量が大きければ大きいほど、
    衝突が生じる確率も跳ね上がる。

    本作でも登場人物それぞれに思いはあって、必ずしもそれは一致していないのだけれど、それが大きな
    軋轢や衝突にまで至らないところが、個人的には埋れ木さんの優しさであって真骨頂でもあるような気がする。

    埋れ木さんの演劇の感想を書かせて頂いているときに、必ず触れている気がするんだけど、登場人物がみんな
    大人で優しいんですよね。
    相手を否定するところからは入らない。
    まずは理解して、受け入れたところで、意見が対立する相手に対して向き合っていく。

    私が埋れ木さんの演劇を好きでたまらない理由の一つは、やっぱりそう言う優しさに満ちているからなのかなと思う。

    登場人物の物分かりが良いだけに、劇中で議論が紛糾するような場面はほぼ無いと言っていい。
    それは物語全体を平坦にしている感はあるけれど、それは決してマイナス要因ではなく、むしろ、
    それが埋れ木さんの「味」であると感じる。

    そうした「味」について言えば、各人物の会話シーンもそうだと思う。
    本作もそうだけれど、埋れ木さんの演劇の会話シーンは、演劇的な大仰さがなくて私は大好き。

    台本を読んでいて、改めて感じるけれど、彼らの会話は彼らの中でのみ成立するものであって、よそ者である
    観客に聞かせることを前提としていない。

    よくよく考えてみたら日常会話なんてそんなものである。
    「このあいだのあれ、どうなった?」
    みたいな会話は身内同士では普通に伝わるけれど、第三者にはちんぷんかんぷんである。

    説明的なセリフを出来るだけ少なくして、会話の不自然さをどう消していくかは、色々な手法があるなと、
    色んな演劇を拝見してきて感じるけれど、埋れ木さんの演劇は、その辺りがものすごく巧みな気がする。
    セリフの中で説明はしないけれど、それでいて観客が置き去りになることもない。
    でも、何もかもを開示してくれるわけでもなく、行間の思いを観客が想像する余地をしっかりと残して
    おいてくれていて、何というか、そのかゆいところに手が届くような感じが私はたまらないのです。

    会話の内容もそうだけれど、テンポがまた絶妙で私は大好き。
    ツッコミのテンポや各キャラの口癖やジェスチャーもうまく盛り込んで、ものすごくリアルな
    会話を再現されているような気がする。
    埋れ木さんの演劇は、各キャラの会話を聞いているだけで、何となくニヤニヤしてしまう。

    毎度のことながら、今回も登場人物は魅力たっぷり。
    というわけで、ここからは、各人物と役者様を織り交ぜて振り返りなど。

    真島誠(竹内蓮さん)

    演劇の世界では愛され青年は数多くいるけれど、マコトはその中でも最大級の愛され男な気がする。
    仕方のない事とは言え、色んな疑惑に塗れることになるマコト。
    けれども親交の比較的薄いハルコを除いては、マコトに対して疑惑は持ちつつも信頼する姿勢は
    崩さなかったのがすごく印象的。
    実際、彼は非常に愛らしい。
    真面目で不器用で素直。
    彼の言葉には虚飾が一切ない。
    ちょっとカッコ悪いことも、ダサいことも、照れながらも口にしてしまう。
    決して熱血漢ではないし、熱量が高いタイプでもないんだけれど、作家としては結構プライドが
    高いんですよね。
    自分の作った作品に「ヒーローが作った」っていうレッテルを貼られたくないっていうあの言葉、
    私、結構、グッときました。観劇中、思わずうんうんと激しく頷いてしまった。
    最後、ヤスヒサと対峙するシーン、ヤスヒサのために自身の力をためらうことなく差し出すところは、
    あぁ、だから、この男はこれだけ愛されるんだと再認識させられた。
    自身の力を差し出してもなお、ヒーローたらんとするその姿勢、カッコよかった。
    こりゃ、ヤスヒサも形無しですわな。
    竹内さんの演技も素晴らしかった。
    マコトはジェスチャーが特徴的だけれど、見事にマコトを作り上げておられたような気がする。
    ドはまり役だったのでは。

    安田泰久(新開知真さん)
    安田由紀(星野花菜里さん)

    持てる者、持たざる者。
    それが姉弟という非常に近い距離にいるというのは何とも皮肉な話だなと思う。
    姉思いなんでしょうね、ヤスヒサは。
    その超能力をなぜ有効に使わないのかという苛立ちはあるにせよ、姉の苦悩もやはり、どこかでは
    理解していて、その苦しみから解放したい気持ちがヒーロー狩りへと繋がったのかな、と。
    もしも、ユキが超能力者ではなかったら、ヤスヒサは程よいところでヒーローをやっていたような気がする。
    皮肉という意味では、彼が忌み嫌うタイツ男が、まさかのマコトだったこと。
    あそこの絶叫、胸にずんと来ました。
    最終的に、ヤスヒサも超能力者として目覚めるわけだけど、あのシーンは照明の演出も含めて怖かったな。
    あそこの新開さんの演技が、ちょっとイッちゃった感じでね。観たことない新開さんだった。すごい。
    埋れ木さんの演劇ではちょっと珍しいシーンだった気がする。
    ヤスヒサの超能力はX-MENでいうところのローグのそれに近いような気がするんだけど、X-MEN知らなかったら、
    あそこのくだりはちょっと分からなかったかもしれない。X-MEN万歳。私はマグニートー寄りですけど。
    ヤスヒサが姉思いであると同時に、ユキもまた弟思いだなって思う。
    配信を巡ってシノブと対峙するシーンが2回あるけれど、そのどちらも星野さんがすごくカッコよかった。
    EDで出動するマコトとヤスヒサに向かって「ワンオペだからね!」と声をかけるシーン、何だかちょっと
    ニンマリしてしまった。
    あの終わり方大好き。
    安田姉弟の非日常的な日常に幸あれ。

    田畠タツキ(高村颯志さん)
    末次しろ(たなべさん)

    めちゃくちゃ良い友達なんですよね、この二人。いや、ほんとに。
    こういう仲間は大事にしないといけない。lieber最高。
    はっきりしないマコトに対して、モヤモヤしつつも見守る人が多い中、唯一、真っ向から
    ぶつかるタツキ。
    個人的には、彼の言い分は至極もっともで、マコトに対して、
    「もういいじゃん、言っちゃえよ!」と私は心の中で何度思ったか。
    でも、彼もマコトのことは大好きなんですよね。
    衝突している時も「一緒にやりたい」とポツリと漏らす姿を少しウルウルしながら観ておりました。
    まだ衝突する前だけど、彼がマコトに対して
    「普通に友達じゃん」
    というところ。大好きでした。いいやつ過ぎるぜ、タツキ。

    しろもまた良いやつなんですよね。
    めちゃめちゃ口軽そうなんだけど、マコトの秘密については頑なに口を閉ざすし、あの手この手で
    どうにかこうにか、マコトの疑惑を晴らそうとする。まぁ、あんまり効き目はなかったけれど(笑)。
    でも、それが、しろという女の子を象徴していたような気もする。
    マコトと同じく、彼女もまたどちらかというと不器用なんだろうなぁという気が。
    マコトにとって、唯一、秘密を共有しているしろの存在ってすごく大きかったんじゃないかな。
    ある意味、ヒロイン級の存在。

    私、高村さんもたなべさんも大好きで、お二人が、大好きな埋れ木さんの舞台に出演するって言う
    だけで、嬉しかったのに、同級生っていう設定でもう悶絶寸前。
    冒頭、打ち上げのシーンで、楽しそうにしているお二人を見て、私はもうニヤニヤが止まりませんでした。
    あぁ、幸せ。二人だけの会話シーンも観てみたかった。
    そして、何となく予想はしていたけど、高村さんはやはり歌声も美声でした。

    白井サトル(尾形悟さん)
    野田央(佐藤友美さん)
    竹内剛士(大垣友さん)

    実は本作で私が一番涙したのは、サトルのプロポーズのシーン。
    いやー、これ・・・どう表現すればいいんでしょうね。
    サトルが「結婚しようか」って言った途端、私の涙腺大崩壊。
    語彙力がなくて本当に申し訳ないんだけれど、それ以前に、このシーンを言葉で評するのも
    なんか野暮というか。
    プロポーズとしては映画等含めても屈指の名シーンだと私は思います。
    ここに至る直前、ヒーローに対する支援の話題があるんだけど、ここも良かったんですよね。
    サトルはそんなに熱いキャラではないんだけれど、このシーンの尾形さんの演技、静かだけれど、
    すごい熱量を感じて素敵だなと思いました。
    サトル大好き。

    とは言え、12年待たされたナカバも、まぁ、我慢したなという感じ。
    私の周りには12年付き合ってるのに結婚できずに別れたカップルがゴロゴロいるので、ちょっと
    他人事じゃない感じで観ておりました。
    何とかなっておめでとうございます。
    でも、ホント信じてないと、こんなには待てないですよね。
    内心、忸怩たるものはあったろうと思うけれど、お互いを信用していればこその12年間だった気が。
    ナカバにしてもサトルにしても、懐が深いんだろうな。ビッグカップル。
    佐藤さん演じるナカバは、まさに懐深いナカバだった気がします。
    さっぱりした感じが似合ってたなぁ。

    マコトの人徳によるものだろうけど先輩にも恵まれてますよね。
    ツヨシ先輩、最高すぎでしょ。
    まぁ、だいたいバイト先の先輩なんて、面白半分で後輩の恋愛を焚きつけたりするものだけど、
    彼の場合、全然、面白半分じゃないんですよね。
    全力で応援してる。いいやつすぎる。
    そんでまた優しいんですよね。
    マコトの悩みを察してはいるけれど、それをlieberのメンバーのように、どストレートに切り込まない。
    自信が抱える思いをマコトに明かすことで、話しやすい空気は作るけど、それ以上は促さない。
    結局、マコトは彼に話すことは無かったけれど、その優しさはきっと伝わったんじゃないですかね。
    すげー軽い感じがする人だけど、めちゃくちゃいい人。大好き。
    「やってんなぁ」はちょっと真似したくなる(笑)。
    大垣さんがまたはまり役でしたね。すごく良かった。
    そして高村さんに劣らぬ美声。
    生演奏まで聴かせて頂いてありがとうございます。
    私もつられて思わず拍手しそうになりました。

    古舘ハルコ(工藤夏姫さん)
    矢吹悠(大瀬さゆりさん)

    ハルコはユウと話している時が一番魅力的なんだけど、かなり印象に残っているのが、ユキが
    持てる者、持たざる者について問いかけるシーン。
    ハルコの「良い使い方を見つけてくれたら、うれしいですよね」と答えたのには、思わず心の中で
    唸り声をあげてしまった。すげーな、ハルコ。パンチ力十分。
    それにしてもハルコのユウへの友人としての愛情が半端ない。
    でも、この二人の関係って、観ててすごく素敵だなぁって思った。
    終盤、マコトにデレデレのユウにツッコミを入れるシーンが大好きでしたね。工藤さん大好き。
    工藤さんは前回公演に続き、物販で応対していただきました。
    前回、口約束割りでTシャツを購入させて頂いたので、私はちゃんと約束通りTシャツを着て
    観劇しておりました。
    余りにも寒すぎたので、インナーのインナーのインナーでしたけど。
    お見せできなくて残念ですが、ちゃんと着ていきました。

    ユウはヒロインという立ち位置(なんだと思う)。
    マコトがあんなんなので、ユウはグイグイ行くタイプかと思いきや、そうでもないんですよね。
    二人とも似たような感じなので、何というか、微笑ましくも、初々しくも、危なっかしく
    拝見しておりました。
    いやー、しかし、それにしてもオープン前のBARでのイチャつきは参りました。
    なんか年甲斐もなく、恥ずかしくなっちゃいましたよ。
    え?いいの?見ていいの??みたいな。
    映画とかだとああいうシーン観ても、あー、へー、みたいな感じで終わるけど、舞台だと
    また何ともアレですな。いやぁ、慣れない。
    ユウ役の大瀬さんも私は大好きなんですけど、まさか、埋れ木さんの舞台で大瀬さんを
    拝見できるとは!
    ユウみたいなふんわりした役はやっぱりお似合いになりますね。

    寺島武史(藤本康平さん)
    久米田耕平(羽田敬之さん)
    島袋忍(佐瀬ののみさん)

    様々な命題が飛び交う中で、私には一番身近に感じられたものを提示してくれたお三方。

    仕事人としての使命、責任と、私人としてのモラル。
    揺れ動くテラジマとシノブの議論を、一歩離れたところから見守るクメダ。

    シノブは結局、ヤスヒサの配信を諦めるし、観ていた私もそれで良いとは思った。
    けれど、プロとしてどうあるべきか。配信者として一定のプライドを持つ彼女にとって、
    その決断は非常に重かったであろう事を思うと、手放しで良かったね、とは言えないのかなと感じた。
    書き手の意図は別にして、YouTuberとしてのシノブは炎上を以てよしとするようなタイプではなく、
    むしろ、ジャーナリストに近いスタンスを貫いていたように思える。
    最終的にヒーロー稼業を続けることになったマコトとヤスヒサを、何かしらの形で支えることに
    なるんだろうなと思いながら観ておりました。

    演じられた佐瀬さん、登場時に名刺を出すシーンがあるんだけど、これがカッコよかった。
    思わず、声に出しそうになってしまいました。
    そして着ていたジャンパーなのかストラップなのかちょっと分からなかったけど、襟元のPolaroidのロゴ!
    あれは私物なんですかね。
    わー、あれ良いなーと本筋と関係ないところで、少々テンションを上げておりました。

    テラジマとクメダは良いコンビですよね。
    私は仕事の有り様と言うことに関しては、頭ではクメダの見解を理解しているし、支持するものの、
    身体の反応としては間違いなくテラジマのそれと一致する。
    クメダが言う「責任とか、ゆっくりでいいと思うんですよね」って言う言葉は、刺さったなぁ。
    心の中で唸り声を上げておりました。

    登場時の藤本さん演じるテラジマ、スゴく好きでした。
    あのダラっとしためんどくさそうな感じがたまらない。
    ある意味、大物感があって、私は当初、テラジマとクメダの関係は逆なのかと思ってました。

    さぁ、そして羽田さん。
    『降っただけで雨』の大久保と同様、スーツでの登場だったけれど、何だか大久保の未来の姿のように感じて、
    一人でニヤついておりました。
    頑固で熱血漢だった大久保が、あれから修羅場をくぐり抜けると、クメダのようになるんじゃないのかなって。
    妄想が止まりません。
    羽田さんはTwitterを拝見していて、あぁ、人柄的にも素敵な方だなと感じてはいたけれど、実際に改めてお姿を
    拝見していると、ホントに紳士であり真摯な方だなぁと終演時のコールの一礼を観て感じました。

    作・演出 久保磨介さん

    まずは2周年おめでとうございます。
    私は『降っただけで雨』から観劇させていただいている新参者ですが、あれから色んな舞台を拝見して、埋れ木
    さんが提唱する「変わったことはしない」と言う理念をここに来てようやく感じられるようになってきました。
    これから先、5年、10年、100年と続くことを願います。
    今回も素晴らしい時間を過ごさせて頂きました。

    劇団の皆さま、役者の皆さま、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!

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    2019/12/23 20:04

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