宇宙からの婚約者 公演情報 川口菊池の二人芝居「宇宙からの婚約者」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/22 (日) 16:00

    相容れぬ二人が選んだ最良の選択。
    二人の幸せを願わずにいられない大傑作。
    詳細はネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    何で拝見したのかは、もう忘れてしまったけれど、川口知夏さんと菊池泰生さんが自主企画で
    二人芝居をされるという事を知った。

    川口さん出演のお芝居は拝見したことがあったので、その企画を知った時点で行こうとは
    思っていたけれど、企画に至った経緯等を知るにつれて、これはかなり熱量の高いお芝居に
    なりそうだなと、かなり期待してお邪魔した。

    私はバリバリのウルトラマン世代(注:昭和ウルトラマン限定)なので、フライヤーのデザインと
    題字で思わずニンマリ。
    懐かしいなぁ、これ。

    劇場・・・というかギャラリーに入って着席。
    見渡すだけで、思わず嘆息。
    あぁ、何という生活感。東京電力の請求書まで置いてあったのには脱帽。

    このセットを作るにあたって、お二人の間では、色んな議論があったんだろうなぁ。
    そこかしこにお二人の情熱とこだわりが散りばめられているんだろうなと思うと、何とも感慨深い
    ものがありました。鯖缶とか。

    上演時間は1時間程度。
    企画の意図からすれば、分かりやすいコメディで、気楽に観られる感じかなと、ちょっと緩めに
    構えていた。

    ちょっと懸念したのは、舞台をコの字型に囲うような配席だったので、観客の姿が目に入ってしまい、
    お芝居に没入できるかな、という事。
    舞台も近いが、お客も近い。うーん、などと思っているところに、お二人登場。

    菊池さんの前説が始まる。
    お決まりの携帯電話云々が始まったので、もう数回チェックした電話を一応、確認。
    私、実はしばらくの間、本編に入ったことに気づかず、結構ノロノロと電話をチェックしておりました。
    最前列なのに恥ずかしい・・・

    もうほんと全然気づかなかった。
    指輪のくだりも、私はてっきり小道具の解説をしているのだと思っていて、
    「うわー、小道具に給料2.5ヵ月分かぁ。すげー気合いだな、おい」
    などと勘違いしていたのだけれど、この導入の仕方はちょっとずるい。
    巧みすぎ。気持ちいいくらいに手玉に取られました。ちくしょうめ。

    お話としては、予想通りのコメディで、途中から攻守が入れ替わり、ちょっと落語っぽいな、などと
    笑わせて頂いていたのだけれど、ペロトン星人であることが発覚したあたりから、ちょっと気楽な
    感じではなくなってくる。

    私の位置からは時計が見えたので、退屈だからとかそういうことではなく、時計をちらちら
    見ながら、
    「これもうあと10分しかないんだけど、ほんと、どうやって解決するんだろう」
    とかなりハラハラしながら観劇。

    いやー、しかし。

    この結末には心底驚いた。
    彼らの置かれた状況って、誰が悪いわけでもなく、だからこそ、どうにもこうにも解決できない。
    落としどころの探りようもないし、時間をかける事すら許されない。

    相容れない存在同士が恋に落ちるって言うのは、まぁ、ありがちと言えばありがちなのかも
    しれないけれど、ウルトラマンというものを持ち込んでくることで、こんな風に昇華してくるとは。

    圧倒的に悲劇の予感しかない中で、泰生の選択は私の頭の中には1ミリもないものだった。

    お互いの役割を全うしつつ、お互いの関係も大切にする。
    例えこの後すぐに殺し合う仲であったとしても、今この瞬間は恋人でいたい。

    あぁ、まいった。
    確かにその通り。
    この与えられた状況で、最善の手は、もうこれしかないんだ。

    なんかねー…

    頭を殴られたような衝撃というと、表現として全然面白くないけれど、衝撃だったのは確か。
    その時、その時を一生懸命生きていれば、おのずと結果はついてくるというのは、もう、
    古今東西言われていることで、それについて異議を唱える人も、あんまりいないと思うし、
    頭ではみんな分かっていることなんだと思う。

    でも、泰生の決断を見ていて、あぁ、結局、自分自身、そこまでは振り切れていなかったんだって
    思った。

    この瞬間が大事!と思っていても、その「瞬間」の中に未来の1秒、1分、1日、1年と、いつの間にか
    「瞬間」が膨れ上がってきてしまう。

    確率的なものを無視すれば、未来のことは1秒先のことだって、本当は分かりもしない。
    泰生も知夏も、あと数分後には対峙することになるであろうことは百も承知している。

    けれど、泰生は、それでもなお、まさに刹那の幸福を選択した。
    あるいは1秒先の奇跡に期待したのかもしれないけれど、それを期待したのは他ならぬ
    私であって、泰生は、自分も知夏も、堂々と胸を張って生きて、そして愛し合う「今」を
    選んだんだと思う。

    それを受け入れた知夏もまたとても素敵だと思う。
    「私も宇宙人なんだよね」
    っていうセリフ、ちょっとやっつけられました。

    ここから先の展開は、なんか、もう目から焼き付いて離れない。
    どこか頼りない泰生が「仕事」に向かう時の凛々しい表情。
    泰生を見送った後、指輪を見つめる知夏の幸せそうな表情。
    そして。
    変身するときの、ほんの少しだけ悲しみを滲ませた表情。

    圧巻の一言。
    本当に素晴らしかった。

    観劇前に感じていた懸念なんか、まさしく杞憂でしかなかった。

    これまでに役者さんと距離が近い演劇というのは、いくつか拝見してきたけれど、ここまでの
    距離感は初めてだった。大げさではなく、手を伸ばせば、間違いなく届く距離だった。
    没入感がね、もうすごかったですよ。

    没入感が大きかったもう一つの理由は、お二人の演技によるところが大きいと感じる。
    芝居臭さがないんですよね、お二人に。
    会話の内容も、立ち居振る舞いも、感情の抑揚にしても、ごく当たり前の、身近にいる
    人間のそれだった。

    これって結構大事な気がしていて、どんなに素晴らしいシナリオであっても、そこに
    感情が乗りすぎて、大袈裟になってしまうと、その途端に、熱を冷まされてしまうというか、
    悪く言えば白けてしまう。
    私は結構、その辺りが気になってしまうタチで自分でも厄介だなと思うんだけれど、
    その辺りのさじ加減というのか、案配というのか、絶妙だったような気がする。

    いや、私ね、知夏が一方的に別れを告げて部屋を出ていこうとするシーン、あそこ、ものすごく
    心削られたんですよね。
    私はああいう別れ方をしたことは無いけれど、いやー、これやられたきっついなーと思いながら
    ブルブル震えて観ておりました。知夏、こえー。

    いやー、まぁ、でも何でしょうね。
    このギャラリーで過ごした時間。
    楽しかった…って思わず川口さんには帰り際に言ってしまったんだけれど、そんな単純な
    ものではなかったな。
    ちょっと私の辞書には載っていない言葉かもしれない。もちろん、良い意味ですけど。

    脚本の方に目を移すと、今回のお話、あのアガリスクの冨坂友さんが書かれたのですね。
    私、実は冨坂さんが書かれたお話を観劇させて頂くのは、今回が初めてだったんですけど、
    あぁ、なるほど、ファンの方が多いのも納得だなと思いました。
    なんかねー、これも「楽しかった」で括っちゃうのは違うかな。
    適切な表現が浮かばないけれど、気持ち良いくらいに、良い意味で手玉に取られた感じです。
    余談ですけど、通信機の呼び出し音がウルトラシリーズのいかにもな感じで軽く感動しました(笑)。

    あとやっぱり、これは触れておかなきゃと思うんだけれども、とにかくね、何もかもが
    温かかったし、熱かったですよ。

    ちょっとこの辺について書き始めると、きりがないのでざっくりさせてしまうけれど、
    私が観たい演劇って「演劇をやりたい人が作ってる演劇」なんです。

    そういう意味では、今回の二人芝居って言うのは、私にとってはまさに観たい演劇そのもの。
    それはきっと、私だけではなくて、お客さんの中にも、そういう思いを抱いて来ていた方は
    多かった気がするんです。

    なかなか、あんなにほんわかした空気の劇場ってない気がする。
    少なくとも、私は初めて。
    すごく居心地が良かったし、そういう場を、作り手の皆さん、そして、お客さんたちと
    共有できたことは、すごく幸せなことだと思う。

    舞台のセットもそうだけれど、台本やパンフレットもかなり気合入れて作られたんだろうな
    と感じました。
    しかも台本は最新版をDL出来るQRコード付き。
    なにこれ親切すぎ。

    だいたいいつも感想を書くにあたって、台本を読み返してから書くんだけど、今回は
    脳内再生だけで書きました。
    自分でもびっくりなんですけど、かなり鮮明に覚えてるんですよね。
    やっぱり、あれだけ近いと没入感も高まって、そういうものなのかな。
    いずれにしても、後でゆっくりと読ませて頂きます。

    何はともあれ、素晴らしい時間を過ごさせて頂きました。

    川口さん、菊池さん、冨坂さん、そして制作に関わって下さった皆様。
    素敵な舞台を本当にありがとうございました!
    次回の企画も是非!是非!!是非!!!

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    2019/12/23 22:53

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