カタロゴス-「青」についての短編集- 公演情報 劇団5454「カタロゴス-「青」についての短編集-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/15 (日) 13:00

    誰もが抱く「青」の物語。
    全ての「青」が人々を優しく染める珠玉の短編集。
    詳細はネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    そんなに大きな劇場ではないんだろうけど、私がこれまでにお邪魔した劇場の中では、一番きれい。
    しかも、今回は指定席で、事前購入済みだったから、受付前から寒い中、並ぶ必要もないので、何となく
    気分が楽。
    とは言え、結局、開演前には劇場に着いてたんだけど。

    開演前の劇場の空気感は、ちょっとざわついてにぎやかな感じ。
    男女比、年齢層が適度にばらけてグループで来ている方も結構多かった。
    女性比率が比較的高かったかもしれない。

    だいたい、開演前の雰囲気がそういう感じの演目は、楽しく気持ちよく観られるものが多い気がするので、
    今回もそういう感じで観られるかなと思っていたら、まさしく、その通りの演目だった。

    基本的にはコメディなのだけど、ゆるいムード一辺倒では決してない。
    「コールドベイビーズ」での亜青と朱井、あるいは紫亜とのやり取りに見られるようなシリアスさ、
    「レストホーム」の緊張感のある情景、そして「ビギナー♀」の振り切った笑い…
    その辺りがうまい具合に混じり合い、時間を感じさせない2時間を過ごさせて頂いた。

    全体を通して照明を含めた演出がまた素晴らしい。
    各短編のエンディングは、各主人公から見た「青」。すなわち羨望の対象が、ストップモーションで固定され、
    それを主人公が見つめる…というスタイルなのだけれど、これが非常に味わい深いというか、何というか。

    私のお気に入りは「レストホーム」のED。
    これ、話としてはかなり怖かったんだけど、EDの演出が本当に凄かった。
    家を追い出された亮太が照明の中に浮かび上がるのだけれど、亮太の表情が影で隠れるような位置からの光の
    当て方は、ストーリーと相まって、何とも言えない哀愁を漂わせた。

    「コールドベイビーズ」のEDの演出も素晴らしかった。
    亜青にとっての青は、観客である我々。つまりは人間。
    青い照明が、我々観客に向けて当てられ、それを見て亜青はつぶやく。
    「良いなぁ」
    と。

    あの演出はしびれました。
    あぁ、こんなやり方もあるのかと思うと同時に、我々観客と役者様たちが、本当の意味で同じ空間を共有している
    という事が何だかすごく嬉しかった。
    納得のダブルコール。

    照明以外の演出では、ストップモーションやスローモーションなど、映画などではなじみのある手法を、演劇の場で
    再現していたのが面白かった。
    こうした試みは、時々、他の演劇でも拝見することが多いので、決して、目新しい試みではないのだけれど、
    映画的な手法をただ取り込むのではなくて、演劇という場に最適化したうえで、取り込んでいるような印象は受けた。

    印象的だったのは「ロンディ」でのヒョンジュの登場シーンと「ビギナー♀」の試合シーンで使われた、
    最後のスローモーション。
    あれは本当にすごかった。

    確かに映画とかでこういうのよく観るなーと思いつつも、生身の人間が、目の前でそれを再現する凄まじさ。
    映画的なシーンを見ながら、あぁ「演劇」ってやっぱりいいなと自然に感じていた事自体が、この作品の
    もつパワーだったように感じる。

    会場で販売されていたパンフレットでも触れられていた通り、多かれ少なかれ、他者への羨望というものは
    存在するものだけれど、劇中、思わぬ人が思わぬ人を羨んでいたりしているのを見ていると、ちょっと考え
    させられる部分はあった。

    恋人と過ごす友人や妹を羨む一美。
    家族を羨む賢人。
    仲間を羨むはな。

    そんな彼らもまた、劇中の人物たちから羨まれる存在である。

    そういう意味で、私が一番印象的だったのが、はなと奈津子の関係。
    はなにとって奈津子というのは何もかも分かって、悟ってすらいるように見える、尊敬と羨望、
    そして嫉妬の対象であったように思う。

    一方の奈津子はといえば、自身を平凡と評し、はなの自由奔放な部分を羨んでいる。

    きっと、この二人は、お互いがお互いを羨んでいることを、なかなか納得できないだろうなと思う。

    現実に目を向ければ、はなと奈津子、そしてその他の登場人物同士の関係というのは、いたるところに
    ゴロゴロしている。
    けれど、自身に向けられる羨望というものを意識している人はどれほどいるんだろうか。

    少なくとも私にとって羨望は、コンプレックスの反映でもある。
    コンプレックスが根底にある以上、私のことを羨んでいる人がいるなどということは、正直なところ、微塵も
    思わない。
    けれど、本作のように、そんな私のことも誰かが羨んでいるのかもしれないと思うと、羨望にコンプレックスを
    重ねることの無意味さを考えさせられる。

    誰もが、誰かを羨んでいる。
    自分にないものを持っている人に憧れ、そして、自分もまたきっと誰かが持っていないものを持っている。
    人はもっと、人を理解し、愛し、尊敬することができる。

    EDの亜青の呟きは、我々一人一人が、そんな存在であることを教えてくれたような気がした。

    ここからはそれぞれのお話をざっと振り返り。

    「コールドベイビーズ」

    切ないようなもどかしいようなそんな作品。
    コールドベイビーを育てていく過程で、国は理想的な人間を作るべく、色々な教育方法を模索していたのだろうけれど、
    亜青が最後に残った一人だったということは、感情を排し、理路整然と行動することができる彼を「究極の姿」と
    みなしたということなんだろうか。
    泣けなかったという亜青の告白に応じる朱井の姿に、私人としての思い、公人としての思いの狭間に揺れる苦悩を
    感じてしまった。
    亜青とは対照的な育て方をされたであろう紫亜の届かない思いというものも、切なかった。
    EDでの亜青の我々に対しての呟きは、究極の生命体である彼の口から発せられたことに大きな意味があるように感じる。
    国家の思惑はどうあれ、亜青にはいつか紫亜の思いに気が付いてほしいなと思ってしまった。

    「ロンディ」

    何というか非常に生々しいなぁと感じさせられたガールズトーク。
    妹や千尋が言うように、一美はなかなかの性格で、正直「この人、ないなぁ」と思うんだけれど、なんかもう、ある意味
    振り切ってしまっていて、もはや憎めない(笑)。
    そんな彼女がヒョンジュというもはや聖人君子と見紛うほどの出来の良いイケメンにある意味、浄化されていく
    物語なんだけれど、思いを伝えるか否かで揺れる一美と、それについて思うところを伝える千尋との会話が好きだった。
    ここのやり取りで浮かび上がる一美の人間性というか、本質が見えるわけで、苦悩する一美の姿に、悩んでいる本人には
    申し訳ないけれど、ほっこりしてしまった。
    あれだけさんざんケチョンケチョンな扱いをされても、何だかんだで付き合いがある一美と千尋の関係性が、すごく
    良いなと思った。
    余談ながら健のプレゼントアドバイス、ちょっと参考になりました(笑)。
    一美役の榊小並さんには終演後、入り口に上がる階段のところで、軽くだけど、ご挨拶させて頂けました。

    「レストホーム」

    これはちょっと怖かったなぁ。
    賢人の真意というものは、結局のところ、私は最後まで見通せなかったんだけれど、本当に亮太を追い出してしまったの
    だとしたら、うーん、何とも。
    短い話ながら、すごく密度の濃い話で、終始コメディで終わるのかと思いきや、そんな単純なものではなかった。
    亮太が終盤、翔子に向かって絶叫交じりに思いを吐露するシーンは、ちょっと胸が締め付けられた。
    先にも書いたけれど、EDでの照明演出は本当に圧巻。
    ただ、賢人が家族というものを羨むというのは、今はともかく、観劇当時は意外だったかな。
    あぁ、こんなに大成した人でもそういうものか、と。
    そういう意味でのEDの演出は印象的だった。
    それにしても亮太役の村尾俊明さんは素晴らしかった。
    亮太登場から数瞬で「あぁ、この役者さん素敵だ」って思ってしまった。
    ちなみに村尾さんは終演後の物販の時に、カウンターに立っておられたんだけれど、対応するお姿を横目に見て、
    あぁ、人間的にも素敵な人だなと感じました。
    買い物を終えた私にもまぶしい笑顔を見せて頂きました。
    イケメンすぎるぜ、村尾さん。

    「ビギナー♀」

    最終話にふさわしいというべきか、非常に爽やかで軽快な物語。私、これ大好きです。ほんとに好き。
    何もかもが本当に楽しかったし、好きだった。私にとってはパーフェクトな物語。幸せ。
    はな、ちょっと勝手すぎるだろと思わないでもなかったけど、でも、その思いを貫き通すある種の強さが
    奈津子にとっては眩しく映るんだろうな、とも思ったし、他のメンバーにも多少なりとも伝わったのかな、と。
    この話は、とにかく、登場人物のすべてがとても魅力的で眩しい。キャラがしっかり立っているというか。
    みんなすごく個性的で、だれが欠けてもこの話は成り立たなかったと思う。
    そりゃ、こんな素敵なメンバーに囲まれていたら、そこから離れたくなくなっちゃうよね。
    試合の演出も先にふれたとおり、すごく良かったけれど、練習シーンもそれに負けず劣らずで素晴らしかった。
    ステップもままならなかったのが、段々、動けるようになっていく様子は、正直、観ててちょっとうるっとして
    しまった。
    ちなみに芽衣は結局最後まであんまりうまくはならなかったけれど、全編通じて「忘れてました!」で非常に
    素晴らしいアクセントになっている立ち位置だった(笑)。
    試合当日、自宅でどてら着て寛いでたのは最高だった。大好き。
    健がまたイケメンなんですよね。イケメンすぎる。
    試合で審判に頭を下げて説得するシーンなんかはもう号泣寸前。
    かっこいいぞ、ちくしょう。
    そして奈津子役の森島さんが素晴らしい。
    『体温』の時も思ったんだけれど、この方は、演技なのか素なのかが分からないくらい、とにかく自然。
    だから私は奈津子が好きなのか、森島さんが好きなのかもう分らない。大混乱。
    終演後、劇場を出ようとしたときに、ちょうど袖のところから出てきた森島さんと鉢合わせ。
    ご挨拶したかったけれど、思いっきり通路だったので、すれ違いざまのご挨拶で我慢した。がー。

    作・演出 春陽漁介さん

    ランドリーさんの演劇を拝見したのは、今回が初めてだったのだけれど、すっかりファンになりました。
    物販で購入させて頂いたパンフレットがとても読みごたえがありました。
    演劇って、わりと作り手の真意が明かされないままのものが多い中で、余すところなく、色々と明かして
    頂いていたので、頭の悪い私には非常にありがたかったです(笑)。
    劇場に入った時から、劇団の皆さんの「ようこそ!」という空気が満ち満ちていて、終始、居心地が良かったです。

    というわけで、とても素晴らしい時間を過ごさせていただきました。
    役者の皆様、劇団の皆様、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!

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    2019/12/22 19:47

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