Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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ガラスの動物園

ガラスの動物園

東宝

シアタークリエ(東京都)

2021/12/12 (日) ~ 2021/12/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2年前文学座で見たときよりも発見が多かった。「追憶の劇」という冒頭の宣言のとおり、数年後のトムの回想であること、ローラがビジネス学校に通うふりを半年も続けていたこと、開戦で異国の冒険が(映画俳優だけでなく)自分たちもできるというトムのセリフ。遠くに憧れて家族を捨てて「異国へ行った」父の存在が意外に大きいこと。等々。

ローラと踊ったジムが、誤って ガラスのユニコーンの角を折って壊してしまう。ローラはあまり気にせず、というか清々したかのように「これでこの子も普通の馬になれて、良かったのよ」という。ローラ自身が、普通の幸せを手にできたかのように。その直後、ローラの夢は崩れ去る。天国から地獄へのこの落差は、やはりすごい芝居である。

一幕目は、これが名作戯曲なのだろうかと、不遜にも疑ったが、終幕すると、名作だと確信した。さらに今回は、麻実れいのデフォルメしたワガママで自分勝手で世間知らずの母親ぶりが、自然主義的リアリズムの退屈さを救った。倉科カナの美しさ、愛らしさは、目立たない人物というローラの役柄とは相反したように一幕では思った。しかし二幕の極端な引っ込み思案ぶりから恋の喜びへ、輝く幸せからどん底への、短時間でのジェットコースターなみの落差は見事だった。

ネタバレBOX

一番の発見は、ジムが実は婚約済みで、もう会えないとわかったあと、姉のローラがずーっとセリフも動きもないこと。倉科カナはその間、恍惚の表情を浮かべて虚空を見つめていた。現実を遮断して、夢の世界に逃避していたのか。そしてジムが去り、トムが家を出ていったあと、やっと悲しみを取り戻して母と抱き合って泣く。
母は「職場の同僚が来月結婚することを知らないなんて」とトムをなじる。トムは「職場は仕事するところだ」と開き直るが、このセリフは実はトムの胸に刺さっただろう。ローラを決定的に傷つけた、その引導を渡したのは自分だと。前回見たときより、この一夜の出来事がローラの精神を決定的に崩壊させ、トムを一生自責で苦しめた致命的意味を感じた。
それは、母(麻実れい)が、それ以前のデフォルメとコミカルから、切々たる悲しみに変貌したことからも受け止められる。
ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】

ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】

劇団四季

四季劇場[夏](東京都)

2017/07/16 (日) ~ 2021/06/30 (水)公演終了

満足度★★★★★

日本公演20年、上演回数1万1千回を越す、いまや日本史上最大となった舞台を初めて見た(「キャッツ」は日本公演35年だが、来月1万回になる)。一言で言って、よくできた舞台で、とても感心した。子供だましと思ってずっと見ていなかったわけだが、とんでもない。子供も楽しめる本格的な芝居であり、2時間半、別世界に心を解放する夢の国だった。

ネタバレBOX

王の弟が、兄王を殺し、息子が復讐する構造は「ハムレット」。遊び仲間と呆けていた王子が王の自覚に目覚めるところは「ヘンリー4世」。悪辣な従臣(弟王)の口車にだまされて、王を死なせてしまうところは「オセロー」と、シェイクスピアの芝居を感じさせるところが多い。「リア王」の道化役としてのサズーもいるし。シェイクスピアをうまくアレンジして取り入れている、芝居としての骨格の強さと、豊かさも人気の秘密であろう。
魔笛

魔笛

東京二期会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

序曲の目撃で、主人公の男が、自宅の子どもたちのやっていたゲームの世界に入ってしまう。魔笛の本編は、そのゲームの中の冒険になる。舞台は、斜めにおかれた大きな四角い箱のような形。背後の壁を手前と奥と二重にして、手前の壁を半開きにしたり全部閉じたりして奥行きに変化が出る。手前と奥にさまざまな映像を映し出して、視覚的にわかりやすく変化に富んだ部隊だっった。
歌手も良かった。夜の女王高橋維もコロラトゥーラが絶品。パミーナ盛田麻央が、愛を得られないと思って嘆くアリアが今回、特に胸にしみた。パパゲーノ役の近藤圭の緩急自在なコミカルさも良かった。
厳粛なザラストロの音楽から、「パパパの二重唱」まで音楽的にも非常に多彩で、聞かせどころがたっぷり。改めて名作だと再認識した

ネタバレBOX

最後は、タミーノ、パミーナの結婚が祝福されると、それが現代に戻るきっかけに。二人は家庭の夫と妻になり、子どもたちと高齢の父(弁者と同じ)に囲まれた平穏な家庭に戻る。一瞬で現代に戻る、短時間のラストだが気持ちいい結末だった。
ミュージカル『はだしのゲン』

ミュージカル『はだしのゲン』

Pカンパニー

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

あれだけ有名な漫画を舞台にしてどうなるのかと、全く期待しないでいったが、予想を裏切る素晴らしい舞台だった。父との麦踏みの場面、病弱な母に食べさせる鯉をつかまえる場面など、コロス(黒子)たちが麦(!)や鯉を演じる破格の見立てを使うが、これがこの舞台の、肝である被爆の場面で生きてくる。最低限の装置でシンボリックに描くことで、観客の「想像力」でリアルな被爆シーンを立ち上げるのである。
 その後も、随所でそうしたシンボリックでありながら、リアルさを感じさせる演出がさえている。

 しかも本当に無駄がなくてテンポがいい。休憩なし1時間55分で戦前の幸せな暮らしから、被爆シーン、戦後の焼け跡から、母の出産と悲しい分かれ、新しい出発までを、見せる。ほかにも、被爆して自暴自棄になったが学生を立ち直らせる場面や、朝鮮人差別(加害者としての日本人の側面)の問題まで描いている。飛ばしたなー、という感じは全然なく、それぞれのシーンがたっぷりとした見ごたえ、歌の聞きごたえがあるから、大したものである。

 ゲン役のいまむら小穂(民芸)が、気合の刈り上げヘアで、実年齢を20歳以上若返らせる子ども役を見事に演じていた。舞台の成功の柱は彼女の元気なゲンに追うところ大きい。またゲンの弟と、新しい弟の二人の女優もやはりよかった。同じ女優の一人二役かと最初思うくらい、実際似ていて、びっくりした。
父母を演じた俳優座の加藤頼と有馬理恵のコンビもはまり役で、新しい持ち役になるものと思う。

著名な辛口劇評家も、終演後「本当によかったよ」としみじみ言っていた。友人も「心洗われる舞台」と言っていた。

ネタバレBOX

ゲンの父を「戦争に反対している非国民」と隣近所の人が批判するが、こんな戦争末期に反戦運動などするわけないし、何をもって「戦争に反対」というのか、少し首をかしげた。竹やり訓練や、空襲消火訓練に出てこない、日本はまけると話しているというくらいである。「戦争に反対」と、当時みなしただろうか? 少し現代の視点から意味を盛り込み過ぎでは? 「敗戦主義者」とか「非協力的」というくらいではないだろうか。
恭しき娼婦2018

恭しき娼婦2018

新宿梁山泊

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2018/10/10 (水) ~ 2018/10/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

サヘル・ローズは娼婦役なんだけど、上品なイノセンスと、芯のある強さと、媚びない誇りがあって最高だった!サルトルの戯曲なのに、自警団に追われる朝鮮人をかくまう話になっていてびっくり。見事な翻案だった

獣の柱

獣の柱

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2019/05/14 (火) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

ありえない超常現象を、リアリティーをもって舞台に引き起こすという点で、前川知大のイキウメは抜群のセンスと力量を持つ。今回も、高知の片田舎の隕石拾いの話でしっかり足固めしたうえで、人々に幸福感を与える巨大な柱が空から次々降ってくるという超大風呂敷を現出させてしまう。あっぱれというしかない。その転調の頂点ともいえるのが、主人公の二階堂進が消える場面。そこでは観客の時間さえも恍惚感のなかで盗まれていた事が分かり、我々も舞台の異常現象の当事者になってしまうのだ。

柱は人が増え過ぎた都会を壊滅させ、人々は田舎に分散して暮らすようになる。作中でも言及されるバベルの塔の暗喩につながるものがある。2051年の世界では、新しい暮らしを始めた人々の間で、昔と同じように有力者の身勝手が始まり、それにへつらうおべっか使いが増え始める。決して前面に押し立てるわけではないが、現代文明批評の要素もあることはこの劇団の強みである。

世界は一人

世界は一人

パルコ・プロデュース

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2019/02/24 (日) ~ 2019/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

何といっても役者がいい。ちょっとした間や所作で、舞台が一気に活気づく。演劇はまず俳優を見るものだと再認識させられた。話としては幼なじみの三人の男女のの20余年ということになる。この縦糸に、いじめやひきこもりや、初恋と失恋や、親たちの不幸な死や、えげつない東京生活やが横糸としてからむ。この横糸のエピソード一つ一つが結構切なくていい。これら印象的な横糸が、経糸でしっかりつながっていることがこの舞台の骨格を強くしている。
音楽劇であることもよかった。セリフは少なめなのだが、パフォーマンスとして楽しめたし、メッセージとしても伝わるものがあった。「知らない人でいこう 出合いなおそう」なんてフレーズはぐっとくる。
多分台本を読んでも何もわからない芝居。俳優が演じ、歌い、ひとつの舞台になって初めて見えてくるものばかりだった。DVDかテレビ放送があればぜひまた見たい。

母と惑星について、および自転する女たちの記録

母と惑星について、および自転する女たちの記録

パルコ・プロデュース

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/03/05 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★★

素晴らしい舞台だった。再演だが、今年第一四半期のベスト。笑いあり、哀しみあり、愛あり、希望あり。初演では鈴木杏が読売演劇大賞最優秀女優賞をとったが、今回の再演では他の女優もそん色ない。母親役がキムラ緑子にかわり、どうしようもなくジコチューだが、素直で憎めない母親を好演していた。また三女役の芳根京子も大変良かった。初めて見たが、いっぺんでファンになった。
長女の田畑智子が、イスタンブールで詐欺にあい200万のじゅうたんを買わされる出だしも傑作。サイコー

修道女たち

修道女たち

キューブ

本多劇場(東京都)

2018/10/20 (土) ~ 2018/11/15 (木)公演終了

満足度★★★★★

良かった。宗教がテーマといっても、大したことないだろうと思っていたら、とんでもない。「献身と救済」という直球ど真ん中の芝居だった!途中は笑いも、劇的な見せ場もたっぷりあって、最後にテーマにドーンと迫る。3時間15分(休憩込み)と長い芝居なのに、休憩後の2幕目(1時間45分)は全く時間の長さを感じなかった。俳優陣もアンサンブル、緩急ともに見事。まれにみる欠点のない舞台だった。

ネタバレBOX

クライマックスで流れる音楽(チャイコフスキー「白鳥の湖」?)で笑いが起きたけど、このこてこての音楽で臆面もなく盛り上げる通俗性もはまっていた。最後の最後に舞台のおおじかけが明らかになる。ここでは唐十郎の紅テント芝居のラスト(背景の幕が取り払われて、広い外界(=異世界)へ旅立つ)という演出と共通するものを感じた。
鈴木浩介は「消えていくなら朝」(新国立劇場)でも、宗教に翻弄される役をやっていた。偶然だけれども、どちらもオロオロ・キャラが似合っていて、おかしかった。
熱帯樹

熱帯樹

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2019/02/17 (日) ~ 2019/03/08 (金)公演終了

満足度★★★★★

詩的なセリフの底にポッカリと死の淵が口を開けて待っている、耽美的な三島由紀夫ワールド。中嶋朋子、岡本玲、栗田桃子の女優陣が光っていた。矛盾した心境を語りながら、どっちが仮面でどちが素顔なのかもわからなくなる、虚々実々の心理的駆け引きが見事。男優陣ももちろんいいのだが、女性の力に翻弄される哀れな姿をよく演じていた。

一家の主人の鶴見辰吾は、妻の中嶋朋子を人形のように支配していることになっているのだが、実は妻の方が一枚上手。奴隷こそ主人の生殺与奪のカギを握る「主人」であり、主人は奴隷によって生かされている「奴隷」だという弁証法的関係を見事に示していた。息子の林遣都は文句なしにかっこいいが、芝居では最も受け身な存在だった。

昼の回だったが、観客は女性が9割以上。30代から50代の女性が中心で、明らかに林遣都目当て。シアターコクーンの「唐版風の又三郎」も、窪田正孝のファンの熱心さには驚いたが、今回も若いイケメンへの女性の熱心さには驚くばかり。

雨

こまつ座

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/09/18 (土) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

最後のどんでん返しが鮮やかな井上ひさしの代表作の一つ。主役の山西淳が素晴らしい。江戸のコジキから、山形の大旦那になりすまし、時には一人二役も声色でやってのける。笑いから悲劇まで、感情の微妙な振幅も自在に表現。さらに標準語から方言までを使いこなして、言葉の劇でもある本作をしっかり支えていた。

主なキャストで13人、加えて村人・女中などのアンサンブル12人、総勢25人という大きな規模に驚いた。パーカッションの生演奏もあり、大変贅沢な芝居。先ぶとで上部が少し曲がった(五寸釘を模した)柱を軸にした回り舞台が、シンプルだが、傾斜場や、段差ある座敷などを表裏に配して、全11場の多様な場面をよく表していた。紅屋の、紅花を大きく描いた背景は、ほかは全てくすんでいただけに、特に際立っていた。

冒頭の久保酎吉の、人形を使った背負われ役も絶品。最初は二人だとばかり思った。そのほか、名前は書かないが、芸達者揃いで、贅沢といえば、これが最大の贅沢だった。

鉄屑拾いのトクが大旦那にうまく成りすませるかどうか、という一本筋で観客をずっと引っ張っていく。そのスリリングは差し詰め「太陽がいっぱい」のよう。トクがで突っ張りであるように、全く副筋に遊んだりはしない。でも、旦那の女房のおたか(倉科カナ)との寝間の場面が、「えつものように」というおたかの催促ひとつで、右往左往するトクに笑いが起きる。天狗に詳しい儒者(土谷佑壱)の人間離れした演技も面白い。

底辺から這い上がる男の一代記としても、中央と地方の対立としても、欲(権勢)に目がくらんだ人間の愚かさとしても、権力と民衆の双方の非情さとしても、実に多くの問題を孕んでいる芝居だった。

ネタバレBOX

最後、舞台奥に広がる一面の黄色い紅花畑が鮮やかだった。そこに村人たちが立つ姿で、トクを殺したのが、ただ一部の藩の上層や商人だけではなく、民衆の支持があることを示していた。
ドライビング ミス デイジー

ドライビング ミス デイジー

ホリプロ

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/06/22 (土) ~ 2019/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

熟練の老名優によるしみじみと人生を感じさせる舞台。映画の名前を知っていたが、元は舞台とは知らなかった。85歳の草笛光子さんの凜とした上流老婦人のたたずまいが魅力的で、彼女が舞台に出ただけで見とれてしまう。最後の97歳の老け込み方にも生への執念というか、ただならぬ迫力があった。

市村さんの朴訥な黒人運転手役もはまっていた。シンプルな戯曲が余計なものをそぎ落としているので、名優の醸し出す雰囲気を楽しむ舞台。場面転換が大変多いのが意外だったが、それも回り舞台でスピーディーに処理していた。演出もよかった。

おかしな二人

おかしな二人

テアトル・エコー

恵比寿・エコー劇場(東京都)

2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/03 (月) 19:00

面白かった。ズボラと超几帳面のふたりの同居生活が、性格の違いて衝突する。その大真面目ぶりやあきれぶりも面白いし、セクシー姉妹との「合コン」の脱線ぶりもよかった。セシリーの胸の谷間!にドキドキしました。

ネタバレBOX

しかも最後はケンカ別れするとみせて、一転しゃれたハッピーエンド。笑わせて笑わせて少し身につまされる。すごい いい。
役者の自然なデフォルメの演技が非常に良かった。
マシュー・ボーンの「白鳥の湖~スワン・レイク~」

マシュー・ボーンの「白鳥の湖~スワン・レイク~」

ホリプロ/TBS/BS-TBS

Bunkamuraオーチャードホール(東京都)

2019/07/11 (木) ~ 2019/07/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

あの白鳥を、男たちが踊る伝説のバレエを初めてみました。男たちのバレエシーンはさすがに、見ごたえ、聞きごたえ(音楽・チャイコフスキー)たっぷり。バレエは、音楽と踊りと美術・衣装で物語を語る無言劇だなあと認識した。所作以外の、様々な視角要素を動員するところが、パントマイムとは違うし、メインは何といってもダンス。普通のダンスとはちがう、様式化されたダンスが見せ場というところは、日本でいえば歌舞伎とも通じる。

面白かった。主人公の王子の恋人になるアメリカ女性の格式張らない正直さがコミカルに演じられていたのが、非常によかった。舞台を活気づけるユーモアがあり、あれがないと退屈だろう。いまでいえば安倍首相の昭恵夫人のような、危うい天真爛漫さだった。

ネタバレBOX

もとになった「白鳥の湖」のストーリーを基本踏まえているのだが、どこがどう違うかを確認しておきたいと思う。音楽も最初は、アレンジしているのかと思ったが、良く知っている人に聞いたらチャイコフスキーそのままだった。ただし生演奏ではなく、録音。
その恋、覚え無し

その恋、覚え無し

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/12/04 (火) 14:00

とても素晴らしい舞台でした。4人の盲目の女性祈禱師たちを神目(カンメ)と呼んでいましたが、こうした独特の命名も含め、美術、衣装、所作、物語の全てから、現代とは違う、しきたりの厳しい前近代的山村の世界が現出します。
そこに起こる幼女の「神隠し」事件や、過去の因縁の糸が絡み合って、テレビでも映画でも見られない、演劇ならではの没入体験を味わいました。ラストの光景も素晴らしいですが、水車が突然回り出す不気味さも抜群でした。
この秋、一番の舞台です。

ネタバレBOX

小劇場ですが、水をふんだんに使ったり、スペクタクルな演出は蜷川幸雄を彷彿とさせます。俳優たちのキビキビと走り回り、ぶつかり合う姿は、野田秀樹の舞台を連想しました。そうしたらなんと野田秀樹が見に来てました! 「駒場でやっていた頃の昔を思い出すなあ。熱量がすごい」と言っているのが聞こえ、全く同感でした。
カンメの一人、板倉桃子さんの何物にも縛られない自由で自立した姿が、舞台を現代につなげていました。
マクベス

マクベス

劇団東演

シアタートラム(東京都)

2019/03/24 (日) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

斬新で現代的な演出が、マクベスの野心と転落のドラマを、緊張感と迫力ある舞台に実現した。キムラ緑子のマクベス夫人が邪心ない悪女を演じて、運命の皮肉を強く感じさせた。「母と惑星について」に続くすばらしい好演だった。音楽も兵士・騎馬たちの行軍にかかるアップビートな曲、暗い運命を示す不気味な低音の曲など、非常に効果的だった。一貫して闇が残る照明もいい。

演出したロシアのユーゴザーパド劇場のワレリー・ベリャコーヴィッチは2年半前に亡くなっている。この作品をロシアで再演した初日に心筋梗塞で倒れたそうだ。享年66歳。彼については思い出がある。2000年に同劇団が来日した時に、「朝日」の紹介記事に惹かれて「どん底」を見にいった。あのつまらない(失礼!)「どん底」を、こんなにかっこよく、面白くやるのかと、驚嘆したことを今でも覚えている。大胆なテキストレジー、ダンス、群舞、モブシーンなど演劇の身体性を前面に出しつつ、セリフの力をここぞというところで押し出すメリハリ、シンプルな舞台・衣装で俳優に集中し転換も早く、光と闇を効果的に配した照明など。そうした特徴は今回の舞台でも変わらなかったし、より一層進化していた。

十数年、観劇から離れていたので東演がベリャコーヴィッチの指導を受けて多くの成果を上げていたことを知らなかった。今回、彼の遺作をこうして見ることができたのは幸運だった。

パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数

シアター風姿花伝(東京都)

2019/03/19 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

いま大注目の野木萌葱作品7本連続公演の最終回。学生時代に書いた本を改訂したそうだが、そんな未熟さは感じられない。いつの間にか2時間たっていた。緊迫感がずっと途切れない、無駄のない芝居だった。

名前は出てこないが、フルトヴェングラーが、ナチスによるユダヤ人排斥と音楽の国家管理に闘う物語。
フルトヴェングラーというと、ナチス協力を指弾されたことしか知らなかったので、こんなことがあったのかと思うと、事実であった。1933年1月のナチス政権獲得から2ヶ月間ほどの出来事。ナチの将校が「あなたほど、矛盾した人物はいない」というように、その後、ナチ体制の中で生き延びていくフルヴェンの協力と抵抗の綱渡りはきわめて複雑である。

見ながら、昨年の私の個人的ベスト1「シング・ア・ソング」(古川健・作、日澤雄介・演出、戸田恵子主演)との共通点がいくつもあることを発見した。こちらは淡谷のり子をモチーフにした、軍の命令に精一杯の抵抗をする歌手の話である。対立軸が似ているのと、音楽好きの憲兵という、敵の中の隠れた味方が、物語の鍵になっているところなど。作劇の発想に共通するものがあるのだろう。

ネタバレBOX

些細なことですが、フルトヴェングラーは長身やせ型という覚えがあるものだから、すこし太り気味の俳優が演じているのは気になった。だから悪いというわけではありません。
ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】

ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】

シス・カンパニー

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/11/25 (金) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

大いに笑わせてもらった。とにかく登場人物たちのキャラが立っている。そのキャラによるボケやずれや勘違いやわがままがうむピンチと、素っ頓狂なその解決策が笑いを呼ぶ。そして、何度失敗したり、いさめられても、全然懲りず、何度も同じ失敗をするのもおかしい。いつもの三谷喜劇は後に何も残らないが、舞台監督進藤(鈴木京香)の切ない出来事でペーソスが漂う。
それぞれの俳優が主役級の有名俳優をそろえた豪華キャストで、大変ぜいたくな時間だった。

下手の舞台袖の出来事で、本来とは逆に上手の舞台袖に舞台がある設定。舞台の様子は見えないが、適宜音が聞こえてくるし、(役の俳優たちは)こちらから舞台の様子を見ることができる。舞台・映画の「ラヂオの時間」は、本番中のラジオドラマの舞台裏のてんやわんやが見どころだが、本作はその演劇版と言える。映画で主婦作家を演じた鈴木京香が、今回舞台監督を務めているのも楽しめる。

夏の砂の上

夏の砂の上

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/11/03 (木) ~ 2022/11/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

松田正隆は「静かな演劇」の代表者の一人とされる。去年見た「紙屋悦子の青春」は、大声やコミカルさもある意外と普通の会話劇だったが(もちろん傑作であることは前提)、本作はまさに「静かな」劇だった。初演は平田オリザが演出したというのもうなずける。今回は栗山民也の演出。平田演出は見ていないが、アフタ-トークによると、今回の方がかなりゆっくりと、間(ま)を大きくとって演じたらしい。確かに豊かな間があった。これほど間の引き立つ芝居は珍しい

主人公の治(田中圭)の科白が「ああ」「うん」とか「何や」と、ほとんど合いの手のようなものなのに、そこに非常に豊かなニュアンスがある。ほかの人もだが、特に治に目立つ。これにも大いに感心した。仕事を失い妻にも出て行かれた鬱屈を抱えて、感情を表に出さない、言葉数も少ない人物を好演していた。

チェーホフ劇は到着から始まり、出発に終わる、とだれか言っていた。本作も妹(松岡逸見依都美=好演)が高校中退の娘優子(山田杏奈)をつれてきて、治と同居が始まる。真面目そうに見える優子が、隠れてバイトの先輩を誘惑したりじらしたり、小悪魔的要素があって面白い。治が見てないようできちんと見ていて、先輩の大学生に「早よ帰れ」と繰り返すあたりも。

造船所がつぶれ寂れていく坂の町(長崎らしいが明らかではない)の、無駄に暑いさびれた空気感が漂う。クレーンの赤錆にも通じる。その町で暮らす男、出ていく女、それぞれ確かにそこに生きている手ごたえが感じられた。傑作舞台である。

鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】

鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2021/11/12 (金) ~ 2021/12/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

松尾貴史の鷗外がすごくハマっている。コミカルな雰囲気の松尾にこんなに鷗外が似合うとは意外だった。おかげで、出色の舞台になった。戯曲のいろんな細部や仕掛けも生きている。
嫁姑の争い、エリスを裏切った負い目、津和野で少年の時に見知ったキリシタン弾圧、鷗外の俗友にして引き立て者の賀古鶴所(池田成志)、紀州のドクター大石の助命をすがる女中(木下愛華)、遊び人だが根は真面目な永井荷風(味方良介)等々。「沈黙の塔」「食堂」の、大逆事件批判を込めた鷗外の作品の解釈もうまくハマっていて、非常に楽しめた。

作者は初演の7年前、特定秘密保護法と共謀罪に危機感を持ってこれを書いたそうだ。しかし当座の政治課題を超えて普遍的な意味を持つのが優れた文学の力だ。権力に首を垂れるメディア批判として今に重なる。朝日新聞連載の「危険なる洋書」とか。司法が政府の悪政を追認して、三権分立が果たされないのも今日的だ。

ネタバレBOX

最後、薙刀を振り回して鷗外を止める母(木野花)の迫力も凄まじかった。こちらもあっけにとられて、山縣有朋への直訴をあそこまで決意しながら、結局実行しない鷗外の行動に納得させられてしまう。

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